MAGIC STORY

神河:輝ける世界

EPISODE 14

メインストーリー第3話:予期せぬ協調

Akemi Dawn Bowman
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2022年1月25日

 

 沼の水面に木漏れ日が揺れていた。魁渡(かいと)は道から外れて進みはしなかった。最も無害に見える花ですら、沼では死をもたらすこともある。

 鼠人(ねずみびと)が訪問者を嫌うのは秘密でも何でもない。有毒な風景は相手を怖気づかせる最高の抑止力だ。そして通常であれば、魁渡も鼠人の領域のここまで奥深くに張り込むような危険は決して冒さない。

 けれどテゼレットを見つけ出す鍵は、鼠人が持っているのだ。

アート:Bryan Sola

 タメシの死の後、魁渡はテゼレットを見つけ出すために数週間をかけてあらゆる情報を探し回った。大田原(おおたわら)の図書館へ赴き、あらゆる記録を漁り、神河で最も尊敬される歴演衆(れきえんしゅう)に話を聞いた。

 テゼレットはどのデータの中にも存在していなかった。

 だが、記憶の中に存在していた。

 都和市(とわし)でも最古の劇場のひとつで興行する歴演衆が、鼠人の克浪組(かつろうぐみ)が住んでいた村について語ってくれた。それは五年前、決して責任を負わせるべきではない勢力によって焼き尽くされたのだと。

 生存者のひとりは那至(なし)という子供で、襲撃が始まった時に両親によって逃がされた。彼がかろうじて村の外れにたどり着いた時には、母は生きながら燃やされ、そこかしこで家が炎を上げていたという。

 鼠人の村は夜通し燃え、やがて鎮火して生存者たちが焼け跡近くに集まると、那至は大人たちが囁くのを聞いた。その襲撃を命じた人物の名を。

 テゼレットというのがその名だった――そして手下に裏切られて脳死状態にされ、鼠人が見つけられるように焼け跡に放置された。彼らはテゼレットに手をつけず、やがて一体のドラゴンが現れてその身体を受け取っていった。

 鼠人はテゼレットの組織からの報復を恐れた。生存者がいると知られたなら、組織の者が戻ってきて改めて任務を完了するかもしれない。そのため鼠人は唯一できることをした――その子供を死んだものとした。そして自分たちもまた、死んだものとした。

 大人たちは身を隠して生きていける、けれど那至は孤児になってしまった。テゼレットの組織が彼を見つけてやり直すことのないよう、沼からできるだけ遠くへ送り出すのが那至のためにもいいだろう。

 だが近くの村の鼠人は魁渡と言葉を交わそうとはしなかった。那至についてだけでなく、全く何も。彼らは罵声を浴びせて扉を閉ざし、立ち去らなければ毒を浴びせると脅す者すらいた。道沿いの有毒植物の数から判断して、それが本気であることは疑いなかった。

 沼に知己はなく、だがここには手がかりがある。それを見つけずして引き返す気はなかった。

 狸の仮面を直して彼は壊れかけた道路を、沼地の上を走る半透明のエネルギーの帯の上を進んだ。濡れるのは避けられたが、黄色に輝くひび割れを魁渡は不安とともに見つめた。もし道が落ちてしまったら、掴まるものは何もない。

 毒ウナギに生きたまま食われるというのは魁渡の思い描く最期ではない。ウナギが嫌いというわけではないが――むしろ胡麻油で焼いておにぎりにしたものは大好きだった。

 魁渡は次の岸へと急いだ。もつれ絡んだ糸のように巨大な根が地面に突き出て、先に輝く道を塞いでいた。細い歩道だけが残っており、それは砂利や踏み潰された藁に覆われていた。

 その道をたどり、魁渡はやがてひとつの村へ着いた。他よりも小規模で、茅葺き屋根と障子戸で作られていた。強風ひとつで吹き飛んでしまいそうな家々。

 あるいは、小さな火事でも。苦々しく魁渡はそう付け加えた。

 那至の一家に起こったことは酷いものだった。執念深い行いと言ってもいいだろう。

 それは何故なのか――そしてタメシと、波止場で見たあの怪物とどう繋がっているのだろうか。

 陛下と、どう繋がっているのだろうか。

 幅広の未舗装路が村の中央を貫いていた。その先には屑鉄や時代遅れの機械部品が山と積まれていた。

 沼地の鼠人は規制違反の技術を試している、そんな噂は以前からあった。彼らはそうして作ったものを、しばしば大牙勢団(おおきばせいだん)に売りつけている――鼠人だけで構成される暴走族だ――そして見返りに、ほぼ絶えず盗品を流してもらっている。

 だが魁渡は未来派であり、その信念はよりよい物事のために技術の限界を押し広げることにある。

 鼠人の行動に口を挟む権利があるだろうか?

 木の柵の向こうに、年老いた灰毛の鼠人が立っていた。口回りの毛皮は銀色の斑で、爪で造園器具の柄を握りしめていた。そのぎざぎざの刃は甲殻類の鋏に似て、エネルギーがうなる金属の箱が取りつけられていた。

「あんたを歓迎はできないよ」 その鼠人は吠えた。

 鋸のような刃を一瞥し、魁渡は躊躇した。たやすく武器にもなりそうな道具。

 その鼠人は暗い桃色の瞳で睨みつけた。「これは茸の収穫に使うんだよ。胞子が飛ばないように軸を正しく切ってやってね」 その鼻先がぴくりと動いた。「許可を確認しに来たってなら――」

「違います」 魁渡は慌てて言い、敵ではないと示すため両手を身体の前にかざして見せた。今のところは敵ではない、だろうか。

 自分の敵は怪物であって、齧歯類ではない。

 鼠人はふん、と鼻を鳴らした。「利益もなしに人間がこんな所へ来やしないよ」そして黄色い歯がひらめいた。「わざわざ苦労して何のために」

「盗品や違法な副業には興味はありません。情報を求めて来ました」 その言葉に沈黙が続き、魁渡は待った。図々しく声をかけるのは危険だが、これまでに鼠人とは都和市で何度もやり合っていた。彼らは甘言よりも、粗野な率直さを重んじる。

 だいたいにおいては。

 長い尾を引きずって、暗灰色の鼠人が近くの玄関に現れた。そして隣人を睨みつけ、荒々しく息を鳴らした。「泥の尾よ、余所者に構うんじゃねえ」

 年長の鼠人は顎を鳴らして返答した。「中に入って仕事してな、でないとあんたの家に茸が通ってくよ」

 暗灰色の鼠人はわずかに唸って首周りの毛を逆立てたが、従うように一歩引き下がった。

「那至という子を探しているんです」 魁渡はふたりに視線をやった。「小さい頃、ここから少し離れた所に住んでいたそうですが」

 その名に、玄関の下から数体の神が顔をのぞかせた。その周囲に浮遊する毒茸や毒花から察するに、沼地の神に違いない。一体が蛙に似た六つの目で魁渡を見上げた。四つの泡がその神を取り囲み、中ではオタマジャクシが不安そうに悶えていた。

 鼠人は嘘に長けているかもしれない、だが神は正直だ。

 玄関の下で、彼らは囁き合いはじめた。泥の尾が鋭く睨みつけると、神は影の中へと退散した。

 彼女は魁渡へと肩をすくめた。「聞いたこともないね」

 魁渡は屋根を一瞥した。萱は古く、その先端はすり切れていた。「長いことここに住んでいらっしゃるようですね。その火事を覚えていませんか」

 彼女は尾を上げ、注意を惹くように振った。「人間は助けてくれなかった。助けてやる理由がどこにある?」

「俺が格好良くて魅力的だからというのは?」 鼠人の反応がないのを見て、魁渡は肩を張って言った。「その子と話をしたいだけなんです」

 泥の尾は収穫道具を門に立てかけ、家へと踵を返した。「誰かに言われて来たんだろ」 そして扉の前まで来たところで付け加えた。「その質問を持ったまま帰りな。ここにいて欲しくはないんだ」

 それはこの日で最も礼儀正しい退去の通告だった。

 泥の尾が家の中へ姿を消すと、まだ玄関に居残る鼠人を魁渡は一瞥した。その両目は暗い色をしていた――真紅を越えて黒色を帯びるほどに。

「皆さんが那至を隠しているのはわかります。彼を守ろうとしているのも」 魁渡はせわしなく両手指を動かした。「けれど彼が知っていることは……神河の全てを救うかもしれないんです」

「俺は人間に噛みついたことはない。お前たち人間が思うよりも文明的だと見せるために、俺たちは牙を攻撃に使うのを止めた。変化させるために、示してやるために――お前たちとは平等なんだ、獣じゃないんだと」 彼は冷笑をひらめかせた。警告。「けどな、本当の自分たちじゃない何かのふりをするのに飽きた奴らもいる」

 背中の刀を抜くには一秒もかからない。指をひねらせるだけで、近くの毒茸をこの鼠に浴びせてやれるのは言うまでもない。

 そうすれば、この一週間で最も楽しい経験になるかもしれない。だがそれでは情報は手に入らない。そのため、今は悪さをしない必要があった。

 少なくとも、そのふりをする必要が。

 彼は一歩後ずさった。「お時間をとらせてすみませんでした」 そして踵を返し、背中に沢山の鼠人たちの視線を感じながら村を離れた。

 輝く道が前方に現れ、魁渡は仮面に手を伸ばすとそれを小さな狸の姿に変えた。そのドローン、灯元(ひもと)が手から飛び立って近くの木々の間へ、そして村の方角へ消えた。だが彼は足を止めなかった。

 見られていないと確信できるまで、魁渡は歩き続けた。

 彼は柳の木の背後に屈みこむと、馴染みのないあらゆる植物から距離を取りつつこめかみを指で押した。ドローンのカメラ映像を通して、彼は沼を飛び越えて側面から村へと入った。ドローンは萎れた植物の中に隠れ、視界を湿地の神へと定めた。それは切迫した様子で泡を浮遊させながら、別の小屋へとぎこちなく向かっていた。

 ドローンは注意深く隠れながらそれを追い、屋根の上からとある火の消えた煙突へ向かうと、暖炉へと飛び込んだ。

 その神が居間へ駆けこみ、魁渡にはしわがれ声が届いた。だが中の相手に伝える内容はほとんど聞き取れなかった。

「わかっている」 かすれた声が言い返した。「あの人間が訪れたのはこの村が最初じゃない――名前が口にされればされるほど、那至に危険が迫る」

 神は再び声をあげた。この時、魁渡はひとつの地名を聞き取った。

 大田原。

「ああ、警告を送る。だが夜が来る前にドローンを放つのはよくない。昼間のうちは、あの人間にたやすく追いかけられてしまう」 押し殺した声だった。「今は、あの人間に対してはひたすら黙り続けろ。それでいい」

 狸のドローンは煙突を引き返し、石の背後に着地して待った。

 魁渡が沼地を抜ける頃には、日が暮れていた。灯元のカメラとはまだ繋がっており、彼は鼠人のドローンが兎の形に組み上がって暗闇の中へ消えるのを見つめた。

 狸は追いかけ、魁渡は大田原の方角を目指した。


 夜明け近く、魁渡はようやく空中都市にたどり着いた。鼠人のドローンは喧騒の中に姿を消していたが、問題はなかった。自分の足で探せばいい。

 狸の仮面と再会した後、彼は公園を横断し、遠くの家々を眺めた。そしてある狭い苔庭に入った時、自分以外の誰かがそこにいると気づいた。

 ひとつの影が草の上に伸びた。瞬時に魁渡は刀の柄を握り、前方へ振るいながら旋回し、近づいてくる人影に対峙した。

 その紫色の瞳に感情をわずかに閃かせ、ムーンフォークの女性が目の前に浮遊していた。その片手には広げられた巻物が、そして腰の鞄にはもう数本が差さっていた。

 魁渡は刀をひねった。一瞬、刃に棘が現れたかと思うとそれは次々と分離して幾つもの手裏剣となり、彼の念動力で宙に留まった。

 その女性は彼の武器をちらりと見つめた。「貴方を傷つけるのは本意ではありません」

「待ってくれよ」 平静な声で魁渡は言った。「俺が何者かも知らないだろ」

 その空民は静かな微風のように左へと滑空した。「調査を終えてもらわねばなりません。どうか何事もなく帰り、あの子の名を再び口にしないで下さい」

「悪いけど、その子と話をするまでどこにも行く気はないんだ」

 彼女はわずかに顎を上げた。「会話にそのような多くの刃は必要ありません」

「それは相手が会話をどれだけ望んでいるかによる、違うか?」

 その女性は口元を強張らせた。痛い所を突かれたのは明らかだった。

 鼠の子に危害を加えるつもりはなく、だが部外者に説明する気分でもなかった――その命令を受け入れる気分でもなかった。

「情報を欲しているのであれば、ここではない場所できっと見つかります」 その声は落ち着いていた。「ですが私の家族に手出しはさせません」

「何処かに危ないことが潜んでるみたいな口ぶりだな」 彼はそう言い返し、拳を強く握りしめた。彼女が持つような巻物を見るのは初めてで、だが魔法だとすれば勝ち目は薄そうだ。

 その女性は苔の少し上に浮遊していた。「暴力で解決するつもりはありません」

 魁渡は敵意を告げる笑みを浮かべた。「背後に忍び寄って、巻物を浮かべながら最後通牒を告げておいてか? あんたを信じられなくても恨まれる筋合いはないな」 彼は刀の柄をひねり、するとその女性が広げた巻物をめがけて手裏剣が飛んだ。

 素早く優雅に彼女は旋回し、身体の脇で掌を広げた。鞄に差された巻物が浮かび上がった。

 手裏剣は空に弧を描き、陽光を閃かせながら魁渡へと戻ってきた。低くうなり、彼は痩せたムーンフォークへと突撃した。白兵戦ならこちらの方が長けているかもしれない。だが宙を踊るように相手は後ずさり、翼のように両腕を広げながら魁渡から離れた。

 前へ進み続けながら魁渡は全力で刀を振るったが、その女性は素早かった。身を屈めたかと思うと脇へ旋回し、演技の一部であるかのように両手を掲げた。

 魁渡は浮遊する巻物に狙いを定めた。心で指示を送ると手裏剣が放たれ、だがその女性も自らの念動力で押しやると金属の星は円を描いて飛んだ。魁渡は脚で仕掛けたが、空へと逃げられた。彼は素早く体勢を立て直し、今も庭園を回る手裏剣を呼び、刀の姿に戻した。女性の視線が巻物へと走ったのがわかった。

 せめて一瞬あれば、その巻物を奪える。

 魁渡はその女性や巻物ではなく、腰に取りつけられた綱を狙って手裏剣を飛ばした。当たったのはひとつだけだったが、十分だった。綱が切れ、鞄が外れかけた。

 腕を振り回してその女性は綱を掴もうとしたが、それが隙となった。彼女の注意が最初の巻物から逸れた瞬間、魁渡は手を伸ばした。巻物は宙を駆けて彼の拳へと飛び込んだ。

 女性ははっとした。二本目の巻物が宙へと浮かび上がり、目の前に広げられた。

 そこに書かれた言葉に彼女が目を通した瞬間、魁渡は身体全体が硬直するのを感じた。刀が手から離れ、手裏剣へと分離し、壊れた玩具のように苔の上に落ちた。巻物は宙を上昇し、やがてその女性が地面に足をつけると、巻物は他の全てと共に鞄に収まった。

 魁渡は動けなかった。骨は鉄のように重く感じ、断固として言うことをきかなかった。その魔法に抵抗しながら、彼はかろうじて声に出した。「その子を……傷つけるために……来たんじゃない」

 女性は興味を持ったように首をかしげ、そして続いた言葉は希薄に、魁渡の心だけに響いた。『それが本当であることはわかりました。その点に関してだけは感謝します。ですが息子を見つけさせはしません。何者であろうとも』

「息子――って?」 その女性が隣にやってくると、魁渡はそちらを向こうとした、だが身体は石のようだった。彼は視線だけで空民を追った。

 彼女はそっけなく頷くと、巻物を一本取り出して広げた。

「何をする気だ!」 魁渡の頬が熱くなった。この状況を打開するため、彼は必死に考えを巡らせた。

「心配いりません、単純な記憶の呪文です」 そして心で彼女は付け加えた。『異なる道を行くのです。それが貴方と、私の家族のためです。心配はいりません――ここで起こったことは全て忘れます』

 魁渡は愕然とした。ここまで来たというのに……陛下を見つけ出して、故郷に連れ戻すために……

 それを無に帰すことはできない。この女性は自分の記憶を奪おうとしている。

 無謀な怒りが魁渡の言葉を焚きつけた。「陛下を救いたいんです。その手がかりになるのが、貴女の息子さんだけかもしれないんです!」

 その女性が彼の目の前に浮遊し、顔をしかめた。「それは間違いです。ナシは陛下について何も知りません」

「けど、テゼレットのことは知っている」 麻痺の呪文と戦いながら、魁渡は答えた。

 その名を聞いた瞬間、元々白い彼女の顔が、更に血の気を失ったように見えた。両目が魁渡を観察し――嘘の気配を探し――だがそれは見つからなかった。

 彼女は理解とともにしばしその場に留まり、やがて優しく巻物を閉じた。すぐに魁渡の身体に動きが戻り、彼は膝をついた。

 うめきながら彼は剣を掴んで立ち上がった。筋肉が痛んだ。庭から手裏剣を全て呼び戻すと、それらを刀の姿に戻して背の鞘におさめ、彼はそのムーンフォークへと向き直った。

「それじゃあ」 まだ少し息をつきながら、魁渡は尋ねた。「どうしてテゼレットを知っているのか教えてくれますか、それとも戦いの続きをしますか?」

「その傲慢さが敗北した原因のひとつですよ」 彼女はしなやかな手を振った。「集中の妨げになります」

 彼は首筋をかいた。「ああ。俺は魁渡っていいます。集中してないとはよく言われます」 英子(えいこ)軽脚(けいぎゃ)先生は間違いなく同意するだろう。

 女性の表情にかすかな可笑しさが浮かんだ。「タミヨウといいます」 その声は鋼のように確固としていた。「おそらく、貴方と私は味方同士になれるでしょう」


 魁渡は部屋の中をまじまじと見つめた。水彩画が壁に幾つも飾られていた。神河の人々にとっては、空想的に見えるかもしれない風景。

 だが魁渡にはわかった。それらは実在する場所なのだ。他の次元に。

 タミヨウへと振り返ると、彼女は緑茶をふたつの椀に満たし、陶器の急須をそっと卓に置いた。

 魁渡は瞬きをした。「プレインズウォーカーなんですか」 それは問いかけではなかった。

 タミヨウは向かい側の椅子に座し、椀を口元に運ぶとそっと吹いた。「素人の絵を数枚見ただけでそれがわかるのは、同じプレインズウォーカーだけですね」

 多元宇宙には他にもプレインズウォーカーがいる。けれど神河にもいるとは知らなかった。魁渡はそこかしこに置かれた革綴じの書物や巻物の束に視線を移した。

 理解が彼の内に浮かび上がった。「何かを調べているんですね。どうしてですか?」

 タミヨウは茶を一口すすった。「多元宇宙の真実を守ることこそ、私の義務であると信じています」 そして魁渡を見つめ、付け加えた。「知識は成長を助けてくれます――個人の成長も、社会の成長も。それは賜物であり、ありがたいものだということを忘れてはいけません」

 魁渡は椀を両手で持ち、その温かさに浸った。「テゼレットについて教えてください。何者で、何をしようとしているのか」

 タミヨウは口を開きかけ、だがその時その物腰が不意に変化した。彼女の両目が魁渡の背後に向けられ、表情には柔らかな笑みが広がった。「私の息子、ナシです」

アート:Valera Lutfullina

 魁渡が振り返ると、鼠の少年が戸口に立っていた。まばゆい白に灰色の斑点のある毛皮、鋭く切られた黒い革のジャケットをまとい、片耳の端には銀の輪が幾つも並んでいた。

 那至――ナシは魁渡を一瞥し、そして表情を輝かせた。「かっこいい仮面! ドローン?」 そして画素がひらめく機器の部品を取り出した。「僕もリサイクル部品で作ろうとしてるんです。ほらこれ――古いのを再利用して新しいものを作ったりそういうの。自分で作ったんですか? カメラと繋げるチップは何使ってます? 極小インプラントか、それとも――」 ナシは一瞬固まり、そして恥ずかしそうに笑みを浮かべた。「ごめんなさい。たくさん質問しすぎました」

 魁渡は仮面を外し、折り紙の狸へとその姿を変えさせた。

「うわあ」 ナシは顔いっぱいに驚きを浮かべた、「すごい」

 タミヨウは顎を上げ、そのやり取りに穏やかな笑みを浮かべた。「ナシ、何か必要なものがあるの?」

 彼はその金属部品を掲げた。「古いデータチップが。壊れたハードウェアを繋げようとしたんだけど、焼き切れちゃって。中古屋へ行ってもいい?」

「ルミヨウとヒロクを連れて行って。それと夕食前に蒸し団子やココナッツのパンを食べないようにね」 タミヨウは息子へと微笑み、だがその思考は魁渡の脳内へとまっすぐに向けられていた。『テゼレットについて、あの子には尋ねないで下さい。私が知っている内容をナシには話していません、あの子の心を守るために。とても辛い記憶を思い出させたくはありません』

 魁渡は小さく頷き、ナシへと笑ってみせた。「いいのが見つかるといいな」

 ナシは歯を見せて笑い、急ぎ去っていった。

 その足音が消えて十分に離れたことがわかると、魁渡は椀を置いてタミヨウを見つめた。「教えてください、全部」

 彼女はその願いに応えた。

 テゼレットはただのプレインズウォーカーではない――金属の腕を持つプレインズウォーカー。何年も前、あの時、香醍(きょうだい)の広間で見た男。

 皇の失踪に何かしら関わっている男。

 苦々しさに、目が熱くなった。胸に痛みを感じた――あれはごく一瞬の出来事、けれどとてつもなく悲しく、はっきりとした記憶。それでも彼は耳を傾けた。その内容に、次元そのものが揺れているのではと感じようとも。

 タミヨウは説明した。テゼレットはナシの村の近くの沼から、魔法の遺物を手に入れるために神河へやって来たのだった。だが鼠人たちがその土地を売るのを拒むと、テゼレットは報復に出た。事態はすぐさま悪化し、結果として村ひとつが焼き尽くされた。

 遠くから思考を取り戻すかのように、魁渡は瞬きをした。「ですがテゼレットは香醍に何をしたんですか? 一体何を求めているんですか?」

「神を研究していたのでしょう。その真の意図はわかりませんが、見つけ出してみせます」 タミヨウの声が鋭さを帯びた。「他の次元の物事に干渉するのは私の望みではありません。ですがテゼレットは神河に、私の故郷にその実験を持ち込んでいるのです。私にとっては家族が全てであり、中立の立場でいたいという願いよりも遥かに重要なものです」

 魁渡は身体を強張らせた。「テゼレットを追う気ですか? 止めるために?」

「あの者の研究について、私が知るべきことを把握するまでは」

「神を傷つけて皇を誘拐したんですよ?」 魁渡はかぶりを振った。感情が昂り、頬が熱くなった。「そいつを理解なんてしなくていい――俺は友達が何処にさらわれたかを知りたいんです」

 一瞬、タミヨウは視線をそらした。魁渡はその両目に不安を見た。

 切望に、魁渡は声をかすれさせた。「何かご存知なんですね?」

 震える視線を彼女は戻した。「ラヴニカで、放浪者と呼ばれるプレインズウォーカーに会いました。その方はテゼレットと、彼が試作していた武器について話してくれました」

 魁渡は眉をひそめた。「武器?」

「現実チップという名で、神河だけでなく多くの次元にとって危険かもしれないものです。陛下が失踪した夜、テゼレットは皇宮へ忍び込み、そのチップの試作品を用いて香醍を支配しようとしたのです」 タミヨウは重々しく一瞬をおいた。「それは成功しませんでした、テゼレットが意図したようには。代わりに、そのチップは放浪者の灯を点火させたのです」

 心臓が肋骨を強打するようだった。魁渡は口を開いたが、耳鳴りに圧倒されて自分の声がほとんど聞き取れなかった。「どういうことですか?」

 タミヨウは息を吐いた。「その放浪者と陛下は同一人物なのです」

 陛下。今も生きているのだ。ずっと信じていた通りに。

 その真実を聞いて、胸が震えるほどの安堵が彼に満ちた。

「プレインズウォーカーだったんだ。ずっと」 喉のつかえが取れたようだった。「そうであれば、どうして帰ってこないんです?」

「できないのです。現実チップが陛下の灯を不安定なものにしています。放浪者は貴方や私と同じ才能を自ら制御できないのです」

 魁渡は拳を握り締めた。「その現実チップの試作品が陛下を連れ去ったなら、逆のこともできるかもしれません。テゼレットを見つけてそのチップを盗んで、陛下を取り戻します」

「試す価値があるというのは同意します、ですがこの件については力を合わせて動かねばなりません。テゼレットは私たちを知りません――裏をかけるのは一度だけでしょう」 タミヨウは言葉を切った。「その実験室では、私たちのどちらも知らない何かが行われています。テゼレットが何かに関わっているとすれば、それは放浪者だけではない、もっと大きなものでしょう。これは神河の統治だけの問題ではありません――彼は何らかの目的があって神を支配したがっています。私はそれを見つけ出したいのです。準備もなしに現実チップを求めて彼を追うのではなく」

「陛下は俺たちを必要としています」 魁渡は反論した。彼女を失望させるつもりはない。二度と。

「忍耐強く動かねばなりません」

 魁渡は我慢できないというように立ち上がった。心臓が早鐘を打っていた。「俺は十年間待ったんです」

「神河の全てが陛下の帰還を待っているのですよ」

「そんなんじゃない。陛下は――」 それに続く言葉を、魁渡は見つけられなかった。

 だがタミヨウにはわかっていた。『友達、ですね』 その言葉が心届いた。『貴方が感じている喪失はわかります。それを埋めたいという必死の願いも。ですが私たちはこの戦いに備えていません。今はまだ』

 魁渡は歯を食いしばり、仮面で顔を覆い、扉へと向かった。「お茶、ごちそうさまでした」 肩越しに彼は言った。「けれど、他に行く所がありますので」

 もしその現実チップが友を取り戻せるなら、それを探しに行かなければ。

 そしてタミヨウの許可を待つ気はなかった。


 魁渡はタメシの実験室の外に立ち、堅固な扉と壁に輝く操作盤を見つめた。彼の手にはタメシのカードキーがあった――あの倉庫が炎に包まれる寸前、友のポケットから取り出したもの。

 タメシには決して死んで欲しくなどなかった。けれど彼の死が、皇を取り戻すことに繋がるなら……

 魁渡は耐えるように口元を歪めた。交換条件、そんなふうに考えたくはなかった。タメシが自分に打ち明けてくれていたなら、別の道があったかもしれない。力を合わせる、別の進み方が。

 タメシのことは、知り合ってからずっと信頼していた。けれどタメシの信頼は秘密とともにあった。彼を殺すことになった秘密。

 この心に残された痛みは、永遠に続くのだろう。

 彼は操作盤にカードキーを走らせ、すると緑色の光がひらめいた。扉は滑らかに開き、魁渡は中へ踏み入ると、二度と会えない友への感謝の言葉を呟いた。

 少なくとも、タメシに与えられるせめてもの赦しと言えるだろうか。

 監視カメラは既に対処していたが、彼は足音を潜めて影の中を、影そのものであるかのように進んだ。何本もの巨大なシリンダーの中、桃色の液体が泡立っていた。内容物の正体はわからなかったが、そこには見覚えのある箱もまた置かれていた。

 様子を確認しようと、魁渡は前方のガラス窓へと忍び寄り、中を覗き込んだ。あの波止場で見た実験器具と同じものが幾つもの机の上に並べられていたが、数はあの時よりもずっと多かった。ただの夜通しの実験ではない――前々から進められていた何かの計画。

 だが魁渡が目を離せなかったのは、ネオンの輝きを放つ液体でも、卓に広げられた金属製の器材でもなかった。

 身体。神の身体。

 何十体という神が――生きている、けれどまるで精髄を吸い取られたかのように、萎びて弱っていた。心が裂けるような思いだった。あの波止場で聞いた悲鳴、けれどそれを止めるために何もできなかった。神はあの中にいて、荷物のように奪われて、タメシの実験室に連れて来られて実験体にされたのだ。

 神については自分の目的には関係ない。けれど今それらを見る魁渡の内には、恐ろしいほどの罪悪感がうねっていた。

 英子がここにいたなら――あの悲鳴を聞いて自分が何もしなかったと知ったなら――どう思うだろうか?

 彼はその窓から離れて次の部屋を見に向かったが、そこでも意識を失った神の姿があるだけだった。紙製の灯篭のような身体は金属の手術台に固定され、四本の小さな蝋燭がその周囲に散らばっていた。その顔色は不気味なほど灰色にくすみ、蝋燭の炎は熱ではなく冷たさが伝わってくるようだった。

 だが魁渡の注意をひいたのは、神の背後にある物体だった。

 巨大な機械の隣に、薄い四角形の金属片が座していた。魁渡の掌よりも小さく、端からは何本ものワイヤーがクラゲの足のように下がっていた。

 魁渡には見覚えがあった。タメシの事務室を捜索した時に見つけた、暗号化されたデータドライブにあった設計図。だがあの時は、それが何なのか、何をするものなのかはわからなかった。

 けれど今それが周囲に光を脈打たせる様子を見つめ、神の身体に繋がれたワイヤーを辿り、魁渡はそれが何なのかを正確に把握した。

 現実チップ。

 魁渡は扉から滑り込み、チップを見つめたまま、昏睡状態の神の横を通り過ぎた。機械は無防備だった。詮索の指を防ぐような覆いもなかった。

 ただそこにあって、待っていた。

 だからこそ魁渡は手を伸ばし、台の上の現実チップを掴み、ポケットに押し込んだ。

 見ましたか、タミヨウさん? 魁渡は得意げに思った。忍耐ってのは過大評価されてるものですよ。

 彼は部屋を出て扉を閉じ、出口へと急いだ。しかし最後の角を曲がった所で、不気味な影に彼は急停止せざるを得なかった。道を塞ぐ怪物の姿を認めるまでもなく、魁渡は刀を抜いた。

 タメシを殺したあの怪物。

アート:Chase Stone

 魁渡は歯を食いしばり、瞳には怒りが燃え上がった。

「ソノ肉ノ目ハ私ヲ覚エテイルト告ゲテイル、ダガ以前ニ会ッタ記憶ハナイ。コノ次元ニ第二ノジン=ギタクシアスガ存在スル可能性ハ非常ニ低ク、従ッテオ前ノ認識ハ真デアルト認メネバナラナイ」 怪物は首をかしげ、人工的な光がその金属の背骨にぎらついた。「現段階デ概要ハ重要デハナイ。ダガ窃盗ニ対シテハ速ヤカナ報復ガ必要トサレル」

 ポケットの中にある現実チップの重みは無視し、魁渡は怪物だけに集中した。「ふうん、そうかよ。あんたらがタメシに何をしたかを考えてみるんだな、その報復だ」

 ジン=ギタクシアスは低く響く金属音を発した。「復讐ヲ求メテノ行動トイウワケカ。ダガオ前ノ仮定ハ誤リダ。肉体持ツオ前ノ友ハ望ンデ関与シテイタ、死ノ直前マデ。ダガアレハ知リタイトイウ欲求ガ強スギタ。研究ハ秘セラレネバナラヌ」

 怪物の脇から、数人の武装した忍者が現れた。下層街の傭兵は、金さえ貰えるならばどのような汚れ仕事も引き受けることで悪名高い。

 魁渡は刀を構えた。「運が良かったな、俺は世間話に浸る方じゃなくてね」

 最初の忍者が迫り、魁渡は覆面の相手の武器へと自らの刀を全力で叩きつけた。その様子を見るに、敵は覚悟が十分でなく、刃の重みの下で身を震わせた。魁渡は強く押して相手を床に倒し、その瞬間次の手下が襲いかかってきた。

 時間を無駄にはしない――彼は迫る相手へと刀を振るったが、それは刺股に似た二本の忍刀に受け止められた。

 背後へと飛びすさり、魁渡は身構えると刀の柄をひねった。刃が手裏剣へと分離し、敵が驚いて前のめりになった瞬間、彼は右へと転がった。

 手裏剣に鎧を切り裂かれ、敵は悲鳴をあげて力なく倒れた。そして再び立ち上がってはこなかった。

 残る手下たちが迫り、魁渡は空気が一変するのを感じた。彼らは怒り狂っていた――だがそれは魁渡も同じだった。

 手裏剣を柄に呼び戻すと、それらは長く伸びた刃のように宙に一列に並んだ。忍者がふたり迫り、魁渡は刀を振り下ろした。鞭のように手裏剣が次々と宙を切り、ひとりの顔面に命中した。

 もうひとりが短剣を振るってきた。魁渡は避け、両脚に力を込めたまま手裏剣を刀へと呼び戻した。そして彼は上へ振るって短剣を受け止め、その時下層街の忍者が更にふたり現れた。金属が激しく激突し、魁渡は繰り返し攻撃を防いだ。

 魁渡は前方のジン=ギタクシアスを一瞬だけ確認した。その怪物は戦いがまもなく終わると確信し、平静に歩みを進めていた。勝利を確信して。

 けれど向こうは知らないのだ。これは復讐などではない――十年前に交わした約束を果たすためのもの。

 今夜、失敗はしない。

 魁渡は金属と精密さの旋風と化し、類稀な集中ですべての攻撃を防いだ――軽脚先生も鼻が高いだろう、そう思えるほどの。だが相手の数は圧倒的に多く、魁渡のエネルギーも永遠には続かない。そのため彼は抵抗し、敵を押し返し、そしてどんぐりに似た形状の小さな装置をベルトから取り出した。彼はそれを力いっぱい床に叩きつけた。

 黒煙が爆発し、魁渡が急いでその外に出た瞬間、黒雲の中で電気が弾ける音が響いた。手下たちは困惑の声を上げた――そして苦痛の悲鳴を。

 魁渡は振り返ることなく、入り口へと急いだ。

 彼は研究所から飛び出し、逃げた。冷たい空気が喉に刺さるようだった。どこに逃げるべきかはわからず、ただ可能な限り急いで離れなければというだけだった。輝く道路には街灯が並び、だが魁渡は低い壁を飛び越えて建物の間の小道を駆けた。自分が現実チップを持って逃げたことを、ジン=ギタクシアスは間違いなく把握しているだろう。今は追って来ないにしても、すぐに。

アート:Mila Pesic

 コンクリートに足音を高く鳴らし、魁渡は柵に囲まれた昇降台の近くで急ぎ止まった。暗かったが、その先は眼下の雲へと途切れているのが見えた。

 魁渡は振り返って隠れ場所を探し、だが歩道沿いの屋根の上、雇いの手下たちが近づいてくるのが見えた。彼らの頭上に一機の巨大なメカが現れ、金属が展開して龍の姿をとった。それは近くの建物を飛び越え、魁渡のすぐ先に着地すると、力強い咆哮を上げた。

 その核に魔力が満たされ、内で青い輝きを発した。これから放たれる攻撃を避けるのはほぼ不可能だろう。

 魁渡はプレインズウォークを考えた。安全に逃げられる、このメカとジン=ギタクシアスの手下から。

 けれど現実チップが今もポケットの中にあった。

 これを持ってプレインズウォークしたら何が起こる? 自分も皇のようになってしまうのだろうか?

 その後、神河に戻ってきて、始めたことを終わらせられるのだろうか?

 今すぐここを離れるのは危険すぎた。

 彼は足を踏みしめ、拳を握り締め、とにかくこの窮地を脱するために身構えた。

 メカが近づき、大きく口を開いて荒々しいエネルギーの球を露わにした。その時、ポケットの中で現実チップが動いているのを魁渡は感じた。額に皺をよせ、魁渡はそれをポケットから取り出すと恐怖とともに見つめた。夜の大気にワイヤーが悶え、生きているように震えていた。

 そしてその時、龍が吠えた。

 魁渡が再び見上げると、メカの口の中の光は消え、装甲に覆われた喉には橙色の光が一直線に輝いていた。一瞬、そのメカは静止した――そして両断された身体が続けざまに地面に崩れ落ちた。もはや、何の危険もなかった。

 壊れた機械の背後に、ひとりの女性が立っていた。純白の髪、その手には一振りの剣。顔を上げると、その容貌が大きな帽子の下から現れた。その茶色の瞳を、魁渡はすぐさま認識した。

 最後に見た神河の皇は、まだ少女だった。だが年月は彼女を変えた。その瞳に深く宿した知啓は、百もの人生を経てきたかのようだった。ただ歳を経たのではなく、戦士として成長していた。プレインズウォーカーとして成長していた。

 放浪者。

アート:William Arnold

 感情を抑えられないかのように、魁渡は胸に手をあてた。安堵に。

 友が、ついに故郷に帰ってきたのだ。

 屋根の上の人影には目もくれず、皇は魁渡へと向かってきた。彼女は魁渡だけを見つめていた。

 近くで別の動きを察し、魁渡は視線を離した。口元に柔らかな非難を宿し、夜空にタミヨウが浮遊していた。

「協力を提案しましたが、このような形ではありませんでしたよ」 タミヨウは手の中の巻物を広げ、簡素な頷きで皇の姿を認めた。

 タミヨウの両目が巻物を走り、すると屋根の上の人影は動きを止めた。ジン=ギタクシアスの手下たちはもはや駆けていなかった。彼らは探す目標を見失っていた。

「ここに留まらない方が良いでしょう」 タミヨウは低い声で言った。「再会を喜ぶにはもっと相応しい場所があります。そして不可視の呪文も永遠には続きません」

 タミヨウの魔法に隠れ、プレインズウォーカー三人は無言で大田原から離れていった。

(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)

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