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チャンピオンズカップファイナル サイクル1

観戦記事

決勝:京極 匡将(大阪) vs. 平山 怜(東京)

富澤 洋平

 参加者196名により2日間続いたチャンピオンズカップファイナル サイクル1も最後の一戦を残すのみとなった。

 これより対峙するのは2人の傑物だ。

京極 匡将

 人は自分の理解の範疇を越えた存在に、「天才」とルビをふる。その意味では京極 匡将は間違いなく天才に該当する。

 昨年の11月に開催された「The Last Sun 2020」において「イゼット・フェニックス」はパイオニアの絶対王者として君臨しており、メタゲームブレイクダウンによると30%ものプレイヤーがこのデッキを選択していた。《表現の反復》《弧光のフェニックス》《宝船の巡航》は誰もが使いたくなる魅力にあふれていた。

 しかし、京極は流行の「イゼット・フェニックス」には目もくれず、「アゾリウス・エンソウル」を相棒に選ぶと勝ち星を積み重ねていき、ついには頂点まで上り詰めた。絶対的な一強環境ゆえにアーティファクトは対策されない。論理的かつ大胆なこの推理は的を射ており、トップ8に残ったデッキを見渡しても、サイドボードにせいぜい1枚あるかないか程度のものだった。

 京極はメタゲームを読むことに長けており、それは今回のチャンピオンズカップファイナル サイクル1の決勝戦まで上がってきたことでも証明されている。京極はメタゲームの分析に関しては天才と呼ぶに相応しい。今大会では「ラクドス・ミッドレンジ」が最多勢力になることを見越して、ミラーマッチで真価を発揮する《栄光をもたらすもの》を採用している。

平山 怜

 対するは平山 怜。「プレイヤーズツアー・オンライン3」準優勝や「Finals2019」準優勝など輝かしい経歴を持つ強豪であり、トップレベルの大会も何度も経験している。環境に合わせた尖ったデッキを選択せず、常にデッキパワーが高く太いデッキを優先し、卓越したプレイスキルで勝利を重ねていく。平山はゲーム展開の読みとプレイにおいて、突出した才を持ち合わせている。

 だからこそ平山を知る者へどんなプレイヤーかと聞けば、天才や王者、強豪といった言葉で飾られることが多い。タイトルを持っていないのが不思議なほど、と。

 アベレージが高く安定しているその一方で、決勝の舞台では勝ち切れない印象も同居しているのが平山である。それこそかつてのプロツアー予選、今回のプレミアム予選やエリア予選では幾度となく権利を逃し、SNS上で「世界一不幸」と嘆く姿を目にしてきた。

 平山が今大会へと持ち込んだのも「ラクドス・ミッドレンジ」。定着の難しい《ヴェールのリリアナ》を排除し、消耗戦を見据えて《死の飢えのタイタン、クロクサ》と《真っ白》を増量している。

京極 匡将 vs. 平山 怜

 2人が顔を突き合わせている舞台はチャンピオンズカップファイナル サイクル1の決勝戦。プロツアー、そして世界選手権への参加権利を手にした彼らにとって、残るは優勝という名誉のみ。

 ゲーム開始の合図が告げられ、7枚のカードを手に取る。

 試合の幕が開く。

ゲーム1

 両者ともにオープニングハンドをマリガンし、6枚でスタート。ゆっくりとした立ち合いから京極は《思考囲い》で平山のゲームプランを白日の下にさらす。

 から《砕骨の巨人》を抜く。

 返すターンに平山は京極の手札から《致命的な一押し》の匂いを感じつつも、《鏡割りの寓話》をプレイ。生成されたゴブリン・トークンこそ京極のターンの《砕骨の巨人》の出来事《踏みつけ》で失ってしまうが、後手に回っている感を否めない。

 平山はドロー後に考える。英雄譚を読み進めて《死の飢えのタイタン、クロクサ》を墓地へ送り込むと、力強く《黙示録、シェオルドレッド》を戦場へ。これは《ヴェールのリリアナ》で即応されてしまい、更地の場にプレインズウォーカーのみが残ってしまった。

 平山の手には《砕骨の巨人》や《戦慄掘り》といった《ヴェールのリリアナ》を直接対処できるカードはない。《墓地の侵入者》をクロックとして送り込むと、この時点で平山の配下は《キキジキの鏡像》と合わせて2体のクリーチャーのみ。手札にはブロッカーを対処するための《パワー・ワード・キル》があるが、それも次のターンにはプレインズウォーカーの起動で手よりこぼれ落ちることが確定している。

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 京極は5枚目の土地として力強く《血の墓所》を「ショックイン」し、《ハグラの噛み殺し》で《キキジキの鏡像》を除去し、《税血の収穫者》をプレイして《ヴェールのリリアナ》を守る構えをとる。ライフはいまだ14と安全圏内におり、ターンが返っても平山は戦力を追加できず《墓地の大食い》へと変身させるのみ。

 だが、京極の《反逆のるつぼ、霜剣山》を挟んでゲームが動く。平山が《ロークスワイン城》で掘り進めた先に待っていたのは値千金の《黙示録、シェオルドレッド》。忠誠度3の《ヴェールのリリアナ》の避雷針役には《墓地の大食い》が用意されており、京極に《戦慄掘り》でもトップデッキされないかぎり、戦場では平山が一歩リードした形だ。

 一転して不利な状況となった京極は《ヴェールのリリアナ》を起動してクリーチャーを生け贄に捧げることを迫るが、予定調和に《墓地の大食い》が墓地へと置かれる。《税血の収穫者》、《砕骨の巨人》と並べクリーチャーの頭数は増えるも《黙示録、シェオルドレッド》を突破するには至らない。ライフレースは徐々に平山有利へと傾いていく。

 そして、平山はわずかな優位を勝利へと傾けるべく《死の飢えのタイタン、クロクサ》を「脱出」させてライフを詰めにいく。戦闘を挟まずにお互いが1ターンずつ経過した時点で京極は5点のライフを失い、続くターンに死を恐れぬ《死の飢えのタイタン、クロクサ》が攻撃へ向かうと、相打ちにはなるものの手札のなかった京極の残ライフは3まで落ち込む。

 戦闘後、平山がプレイしたのは《墓地の侵入者》。横にいる《黙示録、シェオルドレッド》を指さすと、ゲーム1に終止符が打たれた。伝説のクリーチャー2体を前に生き残れるプレイヤーは早々いない。

京極 0-1 平山

 

ゲーム2

 平山が素早くマリガンを宣言し、キープした手札を京極の《思考囲い》が襲う。《致命的な一押し》と《砕骨の巨人》が残され、《戦慄掘り》が墓地へと置かれた。

 《戦慄掘り》を?

 その疑問は3ターン目に解決する。京極は更地の戦場へと《ヴェールのリリアナ》を着地させる。平山は京極の終了フェイズに《踏みつけ》をプレイし忠誠度を減らすが、それでも次に出すクリーチャーは彼女の手で処理されてしまう可能性が高い。ならば、こちらもプレインズウォーカーと同等のカードパワーを持つパーマネントを送り込むしかあるまい。

回転

 平山がプレイしたのはプレインズウォーカーと呼んでも遜色ない《鏡割りの寓話》。「ラクドス・ミッドレンジ」をひとつ上のステージへと押し上げた立役者は1枚でマナ加速、リソース交換、フィニッシャーなど複数の役割を併せ持つ。

 京極はゴブリン・トークンと《ヴェールのリリアナ》を交換すると、今度は自身が使うための《鏡割りの寓話》を用意する。ゴブリン・トークンがある分、やや京極有利か。

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 ターンが返り、英雄譚をⅡ章まで読み進めるも、ここで平山は3枚の手札を前に考慮に沈む。手札を入れ替えないことを選択すると、《思考囲い》で《ヴェールのリリアナ》を奪い、土地をセットせずにターンを終える。京極に《鏡割りの寓話》の2枚目をプレイされた返し、力強くドローした先にその答えはあった。

 4枚目の土地が置かれ、再び京極を襲う《黙示録、シェオルドレッド》の悪夢。京極の手札に有効牌はなく解答を求めてドローするが、それは同時に自身を蝕みライフは14。都合3枚目となる《ヴェールのリリアナ》が着地を果たすが、《黙示録、シェオルドレッド》の横には《キキジキの鏡像》がいるため、手札を削っていく。

 ターンが返り、平山の《キキジキの鏡像》がアクティブになり、コピー先として追放領域から《砕骨の巨人》がプレイされる。ブラフとして手札を持つ意味はないため、セットランドしてターンを終了する。

 京極のドローは無情にも土地。それでも2枚目の《鏡割りの寓話》が《キキジキの鏡像》へと変身したことで、マナの続く限りお互いをコピーし合う準備は整った。《ヴェールのリリアナ》を守り、奥義を目指して忠誠度を5まで増やす。

 しかし、2日間に渡る長丁場な戦い、強豪との連戦の疲労が重なり、京極はわずかにミスをしてしまう。平山のアップキープに《キキジキの鏡像》の能力をもう一方の《キキジキの鏡像》を対象に起動し、2体分のコピーを生成するのを忘れてしまったのだ。《ヴェールのリリアナ》によりお互いに手札がないため、このタイミングで安全にコピーを生成しておくべきだった。

 こうすることで仮に《キキジキの鏡像》能力起動に対応して本体の片割れを除去されたとしてもすでに生成済のコピー先が残る。また、先に2体分のコピーを生成しておくことで、本体を絡ませずにコピー同士で能力を起動し合うことが可能になる。コピーされたトークンは終了フェイズに生け贄に捧げなければならないが、その効果がスタックに置かれた段階で再度お互いをコピーし合うことで半永続的に生きながらえる。

 平山は自身のターンに《砕骨の巨人》のコピーを作り、本体と京極の終了フェイズに生成していた分と合わせて3体の《砕骨の巨人》を《ヴェールのリリアナ》へと向かわせる。京極は受け入れ、平山は静かにジェスチャーでターンの終わりを宣言する。

 終了フェイズに入り、京極は《キキジキの鏡像》でもう一方の《キキジキの鏡像》を対象に取る。平山は素早く、トップデッキしていたカードを公開する。

 《キキジキの鏡像》同士による魂の饗宴は不発に終わり、京極は《削剥》で平山の《キキジキの鏡像》を対処するにとどまる。

 京極のライフが10であることを確認すると、平山は《バグベアの居住地》へ活を入れ《黙示録、シェオルドレッド》、《砕骨の巨人》とともに攻撃へと向かう。《キキジキの鏡像》でコピーを生成したとしてもゴブリン・トークンと合わせて京極のブロッカーは2体分しかおらず、5点のライフを削ることに成功する。

 ドローしてライフ3まで落ち込むも京極から特にアクションはなく、手札を抱えたままターンを終える。

 平山は有利な場でも手を緩めず、《強迫》で最後の前方確認。残る手札が土地であることを確認すると、勝利を手繰り寄せるよう力強く、クリーチャーをタップする。

 長きに渡る対戦に終止符が打たれ、平山が196名の頂点に立った瞬間だった。

京極 0-2 平山

試合後

 終わってみれば2-0と完勝だったが、第12回戦で河野 融と辻川 大河も語っている通り、「ラクドス・ミッドレンジ」のミラーマッチは噛み合わせや対応できないパターンを作ることが重要なマッチアップである。この試合もドローするカードが1枚ズレたり、プレイする順番、《思考囲い》で捨てさせる選択によっては、まったく違った結果となっただろう。

 瞬間的に柔軟な対応力が求められる「ラクドス・ミッドレンジ」は、卓越したプレイスキルと読みを持ち合わせる平山がまさに得意とするアーキタイプだった。「ラクドス・ミッドレンジ」のミラーマッチには絶対的な指針がないというが、決勝ラウンドにおいて八十岡 翔太を含めた三度ミラーマッチを制した平山は流石の一言に尽きる。

 しかし、それでいて機械的な雰囲気や畏怖を感じないのは、良い意味で彼の人間くささからくるものだろう。

 対戦中に冷静なプレイも、小気味よくドローする仕草も、

 理不尽な敗着を「世界一不幸」として次へと切り替える姿も、

 そして、勝利に歓喜する姿も。

 憧れと同時に、どこか親しみを覚える。それが平山 怜というプレイヤーなのだ。

 平山というプレイヤーを形容するにはいくら言葉を紡いでも、まだ足りていない。だから今日から。

 平山 怜に「チャンピオン」とルビをふる。

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 チャンピオンズカップファイナル サイクル1 優勝は平山 怜! おめでとう!!

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