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Making Magic -マジック開発秘話-
『イクサラン:失われし洞窟』展望デザイン提出文書 その1
2023年11月6日
展望デザインの最後に、展望デザイン・チームのリーダーは、そのセットの大きな目標、テーマ、メカニズム、構造について語る、展望デザイン提出文書と呼ばれる文書を書いている。数年前から、私はその文書の公開を始めており、非常に好評なので公開を続けることにしている。これまでに公開したものは以下の通り。
- 『エルドレインの王権』(その1、その2)
- 『イコリア:巨獣の棲処』
- 『ゼンディカーの夜明け』
- 初代『ゼンディカー』(その1、その2)
- 『ストリクスヘイヴン:魔法学院』(その1、その2)
- 『未来予知』
- 初代『イニストラード』
- 『神河:輝ける世界』(その1、その2)
- 『ファイレクシア:完全なる統一』(その1、その2)
- 『機械兵団の進軍』(その1、その2)
- 『エルドレインの森』(その1、その2)
私の展望デザイン提出文書の記事同様、公開しているもののほとんどは実際の文書である。解説や文脈を添える私の注釈は、文章の下の枠の中に記している。この文書も非常に長いので、記事は2本に分けることにした。
Offroading』展望デザイン提出文書
先行デザインおよび展望デザイン・チーム
展望デザイン・チームは、少しばかり変動があったので、通常よりも少し大きかった。どの時点でもメンバーは5人以下だったと思うが、他のプロジェクトが彼らの尽力を必要としていたため、多くの人がチームを出たり入ったりしていたのだ。
- マーク・ローズウォーター/Mark Rosewater(先行デザイン、展望デザイン リード)
- アリ・ニー/Ari Neah(先行デザイン、展望デザイン)
- キャメロン・ウィリアムス/Cameron Williams(展望デザイン)
- クリス・ムーニー/Chris Mooney(展望デザイン)
- ダン・ムッサー/Dan Musser(展望デザイン)
- ダグ・ベイヤー/Doug Beyer(先行デザイン、展望デザイン)
- エリック・ラウアー/Erik Lauer(展望デザイン)
- マイク・ミアーズ/Mike Mearls(先行デザイン、展望デザイン 次席者)
- サム・ジアン/Sam Jiang(先行デザイン)
クリエイティブ・世界構築とストーリー
- ダグ・ベイヤー/Doug Beyer(世界構築)
- エミリー・メイ/Emily Mei(世界構築)
- リー・ミラー/Leah Miller(世界構築)
- ミゲル・ロペス/Miguel Lopez(ストーリー)
- オヴィディオ・アルタゲナ(リード・アート・ディレクター)
- ロイ・グラハム/Roy Graham(ストーリー)
ほとんどの場合、展望デザインを始める時には我々がデザインする世界がどのようなものかはわかっている。馴染みのある次元に再訪することもあれば、新しい次元を舞台とすることもある。あるもののためにデザインしたものが、別のものとして印刷されることはあまりない。さらに奇妙なことに、私たちが変更を選択する場合にも、それはほとんどの場合、先行デザインや展望デザインの間に行われてきた。新しい次元を中心にセットを計画し、展望デザインがセットを引き渡した後にイクサランに切り替えたというのは、通常の工程に対する非常に大きな例外であり、この文書から印刷物になるまでセットが大きく変わったことの大きな要因となった。
『Offroading』は、完全に地底を舞台としたエキスパンションである。この提出文書の時点で、この地底は私たちがこれまで訪れたことのない次元にある。このテーマは何年も前から話し合ってきたもので、ようやく実現するチャンスが巡ってきたことに興奮している。先行デザイン・チームと展望デザイン・チームは、クリエイティブ・チームとともに、この生態系を最もよく表現するものは何か、どのような素材空間が最も採掘しやすいかなどについて考えるために、多くの時間を費やしてきた。このセットの主な目的は以下の通りである。
1.地底の本質を捉える。
私が芳醇さについてよく話すのは、それがプレイヤーの感情に語りかけるカードをデザインする上で重要な部分だからである。私があまり話さないのは、視覚的な参考資料の必要性だ。次元を一から作り上げるのは難しい。世界構築チームが使う重要なツールは、視覚的に出発点となるような写真を世界中から探すことだ。私はいつも、新しい基準点から展望デザインを始めるのがどれほど望ましいかについて話している。世界構築チームも同じだが、彼らはより見た目に重点を置いているので、インスピレーションとなる写真が重要だ。地底という舞台の大きな利点は、視覚的に美しく非常に独特な外観と雰囲気を持った、無限の写真に恵まれていることである。
地底世界は、掘り下げられる芳醇さに富んだ世界で、多くの実世界のイメージに繋がっていて、ポップカルチャーでも重要であるので、社内外で非常に人気のある提案となっている。早い段階で、私たちは決断しなければならない分岐点があることに気がついた。その分岐点の選択によって、選択しなければならない第2の分岐点につながることになる。
適切な調査を行うことは常に重要だ。先行デザインの一部は、自分が何をしたいのかを理解するのに役立つように、やりうることをすべて書き出すことである。ホラーは人気のあるジャンルであり、マジックが時折利用すべきものではあるが、賛否両論の多いジャンルの1つなので、利用する頻度には注意しなければならない。我々はアクション/冒険というジャンルを十分に活用していないと思われるため、我々の進むべき道は早い段階から明らかだった。
最初の分岐点はジャンルだった。地底にはアクション/冒険とホラーという2つの異なるジャンルがある。アクション/冒険では、主人公たちは地底を旅し、新たな不思議を発見し、新たな脅威に打ち勝つ。彼らは自分たちが放り込まれた世界について学ぶためにやってきて、たいていはそこが素晴らしい場所であることに気づく。ホラーでは、主人公たちはたいてい何か欲望を求めてやってくるが(あるいは別の脅威から逃げている場合もある)、地底が暗くて危険な場所であることを知り、そこから逃げ出すことになる。それぞれがクールなマジックのセットにつながる可能性はあったが、どちらか一つの道を選ばなければならなかった。『イニストラード:真夜中の狩り』、『イニストラード:真紅の契り』、『ファイレクシア:完全なる統一』、『Haunted House』の間なので、我々は『Offroading』周辺に十分なホラーがあると判断し、アクション/冒険の道を選ぶことにした。
ここでは、展望デザイン提出文書ではあまり見かけないものを紹介している。私がプレイヤー層について話しているのだ。市場調査を評価する専門のチームがあり、その一部として、潜在的な新しい観客がどこから来るのかを理解しようとしている。マジックは新しい血を必要としているのだから、新しいプレイヤーの最大の可能性がどこにあるのかを知るのは有益なことだ。
この提出文書の時点で最近判明したことのひとつに、新規プレイヤーの可能性が最も大きいグループはZ世代(すなわち1997年から2012年生まれの人々)である、というものがある。この年齢層は、他のどの年齢層(少なくともそれよりも上の年齢層)よりも高い割合でゲームをプレイしており、統計的に言ってマジックを楽しむ可能性を高められる性質を備えている。つまり、新しいセットを作るときは、Z世代的な観衆に響くような芳醇さを見つける機会に気を配らなければならないということだ。地底世界もそのような機会のひとつであり(たとえばダイヤモンドのつるはしは私よりも息子にとって芳醇である)、この分岐点でどのような道を選ぶかに影響を与えたことは間違いない。
次の分岐点は世代的なものである。年配のプレイヤーが、地底といえば隠された世界を探検する冒険パーティーを連想するのに対し、若いプレイヤーは、地底といえば資源の獲得やアイテムの建設や強化などを連想する。最近、『フォーゴトン・レルム探訪』では前者を行っていたし、部門としても若い世代のプレイヤーに手を広げる機会を見つけようとしていたので、資源獲得の道を選んだのだ。
2.資源を集め、アイテムを作り、強化することを中心にセットを作る。
展望デザインの課題のひとつは、世界構築に関してクリエイティブ・チームと確実に手を取り合うことだ。私たちは、次元や世界のテーマの大局観に通じるメカニズムを見つけることを望んでいる。理想的には、ストーリーの中でキャラクターがやりたがることと、ゲームの中でプレイヤーがやりたがることが一致するようにしたい。資源を見つけ、強化するというアイデアは、この願望に合致していた。そのことが、私たちが探求しているジャンルやテーマの素材空間にも合致するのであれば、より良いことだ。
これが2つ目の目標につながった。このセットに、採掘できる資源と、その資源を使ってオブジェクトを作ったり改良したりする手段を持たせたいと考えたのだ。また、我々が表現しようとしている素材空間の重要な要素である、作るという中にある種のレシピが含まれていることも重要だった。そして、キャラクターが欲しがるものがあることで、対立へと導くことができ、地底世界に物語的な目的を与えることができる。
3.色が重要なセットにする。
ほとんどのセットが独立セットである中で首席デザイナーを務めることの最大の難関のひとつは、我々がメカニズム的なテーマを昔よりずっと早く咀嚼しきってしまうことだ。スタンダードが3年ローテーションに移行したこともあって、しばらくやっていなかったメカニズム的なテーマを見つけたいという願望がある。「色関連」はそのようなテーマのひとつだった。マジックには5つの色が組み込まれているが、我々はゲームの常磐木空間において色にメカニズム的な意味を持たせることから遠ざかっているので、他のテーマ(例えば墓地やタイプ的など)ほど自然に出てくるテーマではない。私はそのための空間を探していて、光と闇をテーマにした地底の世界がチャンスに思えたのだ。
ブロック・モデルから常にセットが変化する世界に移行する際の課題のひとつが、過去数年以内に別のセットに登場していないテーマを見つけるのが難しくなるということだった。マジックにおいて、少なくともマジックの中核に固有なものなど、基柱にするメカニズム的なフックの数が限られており、常に同じことを繰り返しているような感覚を避けるのが難しくなることがある。長い間(『シャドウムーア』ブロック以来)基柱にしていないテーマのひとつが色で、私はそれを使う場所をずっと探していた。地底の世界では光が資源であるというテーマがよくあり、我々はそれを、色を重要視するメカニズムにつなげられないかと考え、このデザインに取りかかった。
先行デザインを始めたとき、私はこれまでのように「色関連」というテーマをもっと打ち出していこうと考えていた。カードは、カードが特定の色であることに影響を与えたり、参照したりする(『シャドウムーア』ブロックでやったように)。作製メカニズムを理解するにつれ、戦場で影響を与えることよりも、レシピを満たすためにカードが特定の色であることの方が重要であることに気がついたのだ。
このセットの構造を作る上で重要だったのは、すべての目標が統一されたメカニズム的なテーマにつながるような、シナジー的な目標を達成する方法を見つけることだった。そのテーマは結局「色」だったのだが、これまで伝統的に行われてきた「色関連」のやり方ではなかった。このセットでは、追加のマナ源を散らさず、追加の色を散らそうとしている。例えば、赤を散らすデッキには、赤マナ源を使わずに赤のカードをデッキに入れる方法がある。これにより、様々な色のカードが特定の領域(主に戦場と墓地、これについては後述する)にあることを参照することができるようになる。
具体的にどうすればいいのか。我々はまず、以下に使用頻度の高い順に挙げているいくつかの便利な道具を見つけることから始めた。
単色混成マナ
〈洞窟ドレイク〉
{2}{2/U}
クリーチャー ― ドレイク
2/2
飛行
〈壌土のノーム〉
{1}{2/G}
アーティファクト・クリーチャー ― ノーム
1/2
壌土のノームが戦場に出たとき、カード3枚を切削する。あなたの墓地にある土地・カード1枚をあなたの手札に加えてもよい。
〈骸骨の装具〉
{2/B}
アーティファクト ― 装備品
装備しているクリーチャーは+1/+0の修整を受ける。
装備しているクリーチャーが死亡したとき、諜報1を行う。
装備{2/B}
〈洞窟掘り〉
{2/R}{2/R}
クリーチャー ― ドワーフ・鉱夫
2/1
{T}:パワーが2以下であるクリーチャー1体を対象とする。このターン、それはブロックされない。
〈茸の饗宴〉
{2/G}{2/W}
インスタント
クリーチャー1体を対象とする。それの上に+1/+1カウンター2個を置く。
単色混成マナは、使うことについて何度も話してきたリソースだ。それは、おそらく3つか4つの初期のデザインに含まれていたが、工程の後半で外され続けてきたのだ。今回は、これまでの試みよりも、デザインに焼きついていた。単色混成マナは、唱えられない色のカードを唱えられるという点で興味深い。これは構築よりもリミテッドで顕著だが、1マナのマナ・コストの差は大きいのだ。通常、構築ではその色をプレイしていなければならないが、これは適切なマナを引けなかったときに唱えることができる。ところで、この文書で私が間違っていたということを述べておくべきだろう。単色混成は『シャドウムーア』以外でも、《団結の標、タズリ》などで使われている。
単色混成マナは『シャドウムーア』の6枚のカードで初登場した。この6枚のカードにしか登場したことがないので、熱心なユーザーには馴染みのあるものだが、我々がほとんど触れてこなかったデザイン空間の鉱脈だ。我々は、これがゲームに戻ることは心躍ることになると信じている。単色混成マナは、特定の色のマナ1点を支払う代わりに不特定マナ2点を使うことができる。しかし、色に関しては、そのカードはマナ・シンボルの色である。
単色混成マナを使うカードには、単色と多色の2種類がある。単色では単色混成マナを1色しか使わず、多色では2色使う。3色、4色、5色の単色混成マナを使ったカードをデザインすることは可能だが(《刈り取りの王》が挨拶している)、このセットでは多色の単色混成カードはすべて2色になる。
展望デザイン文書では、何をするのか、どのようにするのかを明確にすることが重要だ。テーマをどのように構成するかを考える上で、実行方法は非常に重要である。そのため、展望デザイン提出文書には、可能な限り、私たちがどのように何かをする予定なのかを明記している。セットデザインはその実行方法を変えるかもしれない(あるいは今回のようにまったく使わないかもしれない)が、実行方法に対する展望デザインの見解を見ることは重要なのだ。
単色混成マナをどのように扱うか、我々が定めたルールは以下の通りだ:
- カードが単色混成マナ・シンボルを持つ場合、起動コストや誘発コストを含め、そのカードに描かれているすべての色マナ・シンボルは単色混成マナになる。これは、その色をプレイしていない人がカードを完全に利用できるようにするためである。
- 単色混成マナ・コストはシンボル2つまでに制限し、単色カードではほとんどの場合1つだけにする。これは、カードの不特定マナ版と有色版の差を相殺するためである。
- カラー・パイ的には、カードはあたかもその色であるかのようにデザインする。例えば、白単色の混成カードは白単色のカードとしてデザインし、青黒多色の混成カードは青黒の伝統的な混成カードであるかのようにデザインする。
- 現在の計画では、このセットに含まれるすべてのアーティファクトは単色混成になり、その大部分はおそらく単色の単色混成になるだろう。
- 単色混成マナを使った多色のカードは、そのカードをプレイするために少なくとも2色のうち1色をプレイしていることを期待するようなデザインにし、一方、単色混成マナを使った単色のカードは、その色を採用していないデッキでもプレイできるようなデザインにする。
有色クリーチャー・トークン
〈ソングバットの売り手〉
{2}{W}
クリーチャー ― 人間・ドルイド
1/2
ソングバットの売り手が戦場に出たとき、飛行を持つ黒の1/1のコウモリ・クリーチャー・トークン1体を生成する。
カテゴリーAに分類されるカードがあり、カテゴリーBに分類される他のカードがカテゴリーAのカードやパーマネントを参照する、我々がA/Bメカニズムやテーマと呼んでいるものを探求するときは、それを機能させるためにカテゴリーAのカードを十分に生産していることを確認する必要がある。この項はその一例である。もっと色違いのパーマネントが必要だった。トークンを生成するカードはよくあるが、通常は生成したカードの色になる。トークンを2色目にシフトすることで、Aテーマ(この場合、色違いパーマネントを持つこと)を支援する別の方法を見つけることができるのだ。
通常、ゲーム内のカードがクリーチャー・トークンを生成する場合、それはそれを生成した色のものである。『Offroading』では、そのカード以外の色のクリーチャー・トークンを生成するカードをもっと使いたい。生成されたクリーチャー・トークンは、カラー・パイ的にはそれを生成したカードの色のままだが、追加の色によってより多くの色を戦場に出すことができるようになる。
色変え
〈トンネルの雑種犬〉
{2}{G}
クリーチャー — 犬
2/2
トンネルの雑種犬が攻撃するたび、ターン終了時まで、これはあなたが選んだ色1色になり+1/+1の修整を受ける。
〈色素の錬金術師〉
{2}{U}
クリーチャー ― マーフォーク・ウィザード
2/3
{T}:これでないクリーチャー1体を対象とする。ターン終了時まで、それはあなたの選んだ色になる。
代替色のクリーチャー・トークンのような色の変更も、A/Bテーマを機能させる道具の1つだ。色関連は我々が頻繁に扱うテーマではないので、色変更は我々が頻繁に使う道具ではない。
このセットには、一時的に自分の色を変えたり、他のパーマネントの色を変えたりするカードもある。現在の計画では、我々が避けようとしている余分な管理が必要になるので、恒久的な色の変更は行わない予定だ。
より深く
本日はここまで。『イクサラン:失われし洞窟』の展望デザイン提出文書の瞥見を楽しんでもらえたなら幸いである。いつもの通り、この記事や『エルドレインの森』に関する意見を、メール、各ソーシャルメディア(X(旧Twitter)、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、その2でお会いしよう。
その日まで、『イクサラン:失われし洞窟』があなたに多くの驚きをもたらしてくれますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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