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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

『ゼンディカーの夜明け』展望デザイン提出文書

Mark Rosewater
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2020年9月28日

 

 展望デザインが完了すると、リード・展望デザイナーは、セットデザイン・チームに展望を説明してそこまでの成果について解説するための提出文章を作る。これらは、セットデザイン・チームがセットを作るために用いる青写真のようなものだ。『エルドレインの王権』(その1その2)と『イコリア:巨獣の棲処』の展望デザイン提出文書を扱った記事が好評だったので、『ゼンディカーの夜明け』の提出文書にも興味があることだろうと考えたのだ。

 本題に入る前に、いくつか伝えておきたいことがある。1つ目、右側にコラムとして注記を入れている。このコラム部分以外は実際の提出文書のものである。2つ目、セットデザイン中に多くのことが変更されることがあるが、逸脱している場合にはセットデザイン中になぜどのように変更されたのかを説明する。3つ目、これは内部文書であり、このセットが将来のセットにどのような影響を与えるかという部分があるが、そこはまだ公開情報にはなっていないので黒塗りにしている。(ご理解あれ。)諸君がこの、真に舞台裏の文書を楽しんでくれれば幸いである。

『Diving』デザイン提出文書

展望デザイン・チーム
  • マーク・ローズウォーター/Mark Rosewater(リード)
  • アンドリュー・ヴィーン/Andrew Veen
  • エリック・ラウアー/Erik Lauer
  • ジョージ・ファン/George Fan
  • トム・ロス/Tom Ross

 『Diving』はゼンディカーへの再訪である。以下は、作業の前提とすべく選んだ特徴である。

 私は、展望デザイン提出文書の最初に、今手掛けているものの全体像を説明することにしている。セットデザイン・チームがセットを作っていく途中で変更を加えることになるが、全員が同じ目標を目指すようにするためにこれは重要なのだ。初代『ゼンディカー』の本質を再現することが、常にこのデザインの原動力だったのである。

  1. 初代『ゼンディカー』や『ワールドウェイク』を連想させる「冒険世界」ゼンディカーを再訪する。
  2. エルドラージはいないが、エルドラージがいたことによる影響は存在する。
  3. このセットは「冒険世界」の素材に大きく寄せていく。

 

 このセットの展望の鍵となる目標は、エルドラージが開放されてこの次元の焦点を変えてしまう前の、ユーザーをゼンディカーに惚れ込ませたものを再現することである。そのために重要なのは、「冒険世界」の豊かなトップダウン素材の中に舞い戻ることである。

 

冒険の世界

 展望デザイン・チームがまとめたメカニズムは以下の通り。

パーティー

 新しいメカニズムを紹介する場合、私は必ず実際のカード・デザインを添えるようにしている。それが、そのメカニズムが何なのか、どのように実装されるのかを誰でも把握できるようにするための最も簡単な手段だからである。ここでは、パーティーを扱うクリーチャーと呪文の療法を示すことで、このメカニズムの使い方の多様性を即座に示しているのだ。

〈コーの刃使い〉
{1}{W}
クリーチャー ― コー・同盟者・戦士
先制攻撃
コーの刃使いが攻撃するたび、ターン終了時まで、これはあなたのパーティーにいるクリーチャー1体ごとに+1/+1の修整を受ける。(あなたのパーティーはウィザード、クレリック、戦士、ならず者それぞれ最大1体からなる。)
1/1

〈わずかな戦利品〉
{2}{U}
インスタント
あなたのパーティーにいるクリーチャー1体ごとに1枚のカードを引く。(あなたのパーティーはウィザード、クレリック、戦士、ならず者それぞれ最大1体からなる。)

 

 私は、同盟者が『ゼンディカーの夜明け』に入ると考えていた。市場調査からもプレイヤーの感触からも、同盟者には熱烈なファンがいることがわかっていた。問題は、パーティーが同盟者と同じフレイバー空間を占めるということだった。(つまり、同盟者は冒険の仲間という扱いたい素材を扱っているのだ。)そして、どちらもクリーチャー・タイプとして扱う必要があった。すべてをタイプ行に詰め込み、このセットに過去のゼンディカーのセットとの後方互換性を持たせるために追加の文章を添えたいというのが私の望みだったのだ。残念ながら、伝説のクリーチャーではタイプ行に入り切らず、伝説でないクリーチャーだけを同盟者にするのは非常に奇妙に感じられた。「このクリーチャーは同盟者である。」と書くことも検討したが、このセットの文脈以外では(あと《タズリ将軍》と)何の意味も持たない文章だったので、残念ながら、同盟者というクリーチャー・タイプをこのセットから取り除くことにしたのだった。

 パーティーは、協力する冒険の仲間を表すメカニズムである。部族メカニズムだが、同じクリーチャー・タイプを大量に揃えるのではなく、4つの職業クリーチャー・タイプ(ウィザード、クレリック、戦士、ならず者)をそれぞれ1体ずつ揃えることが望まれるものである。パーティーは、同盟者と組み合わさるメカニズムである。すべての同盟者はこの4つの職業タイプのうち1つを持ち、この職業タイプの1つを持つすべてのクリーチャーは同盟者である。(カード上で見つけやすいように、重要な職業を同盟者の後、行の最後に書くということを試している。)

 

 展望デザイン中に大体の開封比を割り付けて、メカニズムが使うべき空間の大きさを把握できるようにすることはよくある手法である。ただし、ただの想定に過ぎない。セットデザインがセットを組み上げるに際して厳密な必要量を決定する。パーティーを作り上げるという件においては、展望デザインの想定はあまりにも小さかった。実際は、1種色のクリーチャーはコモンに4枚、アンコモンに3枚(赤は4枚)存在している。

 (扱いが異なる緑を除く)各色それぞれが、各クリーチャー・タイプにおいて1種色、2種色、3種色、不存在の4種類のどれかに割り当てられている。現在、1種色であれば、コモンが3枚、アンコモンが2枚存在し、レアの枚数はさまざまである。2種色であれば、コモンが2枚、アンコモンが2枚、レアの枚数はさまざま。3種色であれば、コモンが最低1枚、アンコモンが1枚となる。不存在の色には、その職業のカードは存在しない。緑はどの職業でも1種色ではないが、すべての職業が存在している。

 

 展望デザインは、メカニズムを構造的に扱う方法も掘り下げる。パーティーの場合、4つのものを5つの色にどう割り振るか。最終的に、4色を同様に扱い、1色を例外とするというシステムを使った。このモデルは変更されることなく、セットが印刷されるまでこのままだった。

 概要は以下の通り。

  • 1種色:クレリック
  • 2種色:戦士
  • 3種色:ウィザード
  • 不存在:ならず者

  • 1種色:ウィザード
  • 2種色:ならず者
  • 3種色:クレリック
  • 不存在:戦士

  • 1種色:ならず者
  • 2種色:クレリック
  • 3種色:戦士
  • 不存在:ウィザード

  • 1種色:戦士
  • 2種色:ウィザード
  • 3種色:ならず者
  • 不存在:クレリック

  • 1種色:なし
  • 2種色:なし
  • 3種色:すべて
  • 不存在:なし

 

 このセットに存在する6種類の2色土地のうち4枚が、この4つの色の組み合わせになっていることがおわかりだろう。

 つまり、各職業は、緑以外の2色の組み合わせに集中している。

  • クレリック(白黒)
  • ならず者(青黒)
  • 戦士(赤白)
  • ウィザード(青赤)

 

 これは、我々が望むもの(パーティーのそれぞれが独自のメカニズム的雰囲気を持つようにすること)の本質の説明の好例である。最終的には少しばかり規範的すぎたが、セットデザイン・チームはこれを「職業に合ったフレイバー的感覚を持たせる」という制限に引き下げている。この雰囲気は、パーティーのそれぞれに寄せたドラフト・アーキタイプの作成によって支えられている。また、通常の使い方(陣営の区別)でないことから、透かしを採用しないことにした。

 各職業それぞれに関連した雰囲気を持つメカニズムを割り当てることも検討した。現在のファイルでは、ウィザードは対戦相手を傷つける呪文を扱うことが多く、クレリックは自分に良い影響を与える呪文を扱うことが多く、戦士は戦闘に勝てるために自軍の能力を高める助けとなり、ならず者は対戦相手を傷つける類の、多くは戦闘ダメージを与えることに関連した卑怯なことをすることが多くなっている。

 

 パーティーは新しい大型メカニズムなので、展望デザイン・チームはそれを実装するさまざまな方法を掘り下げるのにかなりの時間を費やした。セットデザイン・チームがセットを作れるようにするため、このメカニズムの実装の仕方を提示することが目的である。通常、そのすべての実装が使われるわけではないことは理解の上なのだ。

 ここでの個別の選択以上に重要なのは、プレイヤーがカードを単独で見た時、そのフレイバーがその職業を思い起こさせるようにすることである。職業を表すすかしの使用も見当すべきかもしれない。

 

 パーティー・メカニズムの強みの1つが、すべてのクリーチャーが必ずクリーチャー・タイプを持っているので、望むならほとんどのクリーチャーがパーティーに関わるようにすることが簡単だということである。唯一の制限は、それがカードのコンセプトに組み込まれるため、アートの発注前にどのカードを関わるようにするか決めなければならないということである。

 パーティー・カードにはいくつかの種類がある。

パーティー補充員 ― パーティー職業4つのうちどれか1つであるクリーチャー『Diving』では、これらのクリーチャーは必ず同盟者でもある。これらのカードはパーティーのことに言及しておらず、単にパーティーの一員であるだけである。

 

 これはパーティー・メカニズムの最重要な基礎である。大量に使われている。必ず1の分の効果はあるという事実が、これほどうまく働いた理由だった。

パーティー拡大員 ― 4つの職業の1つであり、そして自分のパーティーの人数によって拡大する効果を持っているクリーチャーである。

 これらの効果は誘発型能力(最も多いのは「戦場に出た」ときの誘発や攻撃誘発)か起動型能力である。この効果を持つのはその職業のクリーチャーなので、これは少なくとも「1の分」となる。

 

 セットデザイン・チームはこれも使い、コモンにもいくらか入れたが、その使い方は控えめだった。

パーティー拡大呪文 ― これらはクリーチャーと同様だが、呪文である。つまり、「0の分」であることもあり得るので、戦場に該当する職業が存在しなければ効果がない場合もありうる。これらはアンコモン以上である。

 

 この実装は結局採用されなかった。セットデザインは、しきい値を使うのは(後述の)パーティー全員だけにしたのだ。

パーティーしきい値呪文 ― 戦場にパーティー・メンバーが2人以上いたら効果が強化される呪文。これらは主にアンコモンに存在する。

 

 この実装はセットに採用されたが、上述の通りサイクルにはならなかった。

パーティー術 ― パーティーの1人ごとに1マナ軽くなるインスタントやソーサリーのコモンのサイクル。すべて4マナと1色で、パーティー全員が揃っていたら1マナで唱えることができる。

 

 このセットにはこれらも存在し、レアだけにとどまっていた。

パーティー全員 ― 拡大型効果を持っているが、パーティー全員が揃っていたら(4種類の該当するクリーチャー・タイプが揃っていれば)強化された効果が発生する。これはレアにしか存在しない。

 

 パーティー・メカニズムは将来のメカニズムのプレイテストの中で上位2つに入ったメカニズムの1つであった。(もう1つはこの次に触れる、複数の面を持つ土地である。)

モードを持つ両面カード(MDFC)

 展望デザインは新しいデザイン空間を掘り下げること、関連するテーマを扱うこと、トップダウンの雰囲気を再現する方法を見つけることに非常に長けている。パワーレベルは……さあ。我々は、カードの選択が可能なときに裏面がどれほど強くあるべきかを非常に過小評価していた。何回かのプレイテストには《取り消し》のMDFCが存在していた、と言うことを指摘しておきたい。

〈湿った野原〉
土地
{T}:{W}を加える。
/////
〈日当たりの良い池〉
土地
{T}:{U}を加える。

〈停止呪文〉
{1}{U}{U}
インスタント
呪文1つを対象とする。それを打ち消す。
/////
〈礁湖〉
土地
[カード名]はタップ状態で戦場に出る。
{T}:{U}を加える。

 

 このモードを持つ両面カードの使い方は、セットデザインの間を通してかなりそのままだった。(ただしコモンからは取り除かれた。これについてはこの後で。)開発部は、2色土地を完全上位互換にどれだけ近づけられるかの実験をしていると指摘しておきたい。特定の基本土地タイプに恩恵を与えることが多く、基本土地タイプへの対策はずっと少なくなっているので、基本土地タイプがないということはメカニズム的に意味があると判断したのだ。これが将来の2色土地のデザイン空間に影響するかどうか。確信はない。それが、私がこれを実験だと言っている理由である。

 これらのカードは、両面カードと分割カードの中間に位置している。これらは2つのオモテ面を持つカードであり、(一方の面でだけプレイして第2面には変身するという伝統的な両面カードとは異なり)そのそれぞれでプレイできる。来年の、基本セット以外のスタンダードで使用できるセット3つすべて(『Diving』『Equestrian』『Fencing』)にはMDFCが存在する。『Diving』の実装の特徴として、MDFCの一方の面は必ず土地である。

 それらの土地は必ず、タップして1色の1マナを出す土地だが、(基本土地の完全上位互換になることを防ぐため)基本土地タイプは持たない。コモンとアンコモンのMDFCはタップ状態で戦場に出る土地であり、レアにはタップ状態で戦場に出るものもアンタップ状態で戦場に出るものもある。

 

 これらのサイクルはどちらも存在するが、コモンではない。アンコモンに変更されている。セットデザインは、コモンの複雑さと開封比の両方の理由から、MDFCをコモンには入れないことにした。

 このセットに現在存在しているサイクルは以下の通り。

コモン

  • 土地(ETBT(タップ状態で戦場に出る))/インスタントやソーサリー(デッキにならないことが多いような状況的呪文)
  • 土地(ETBT)/クリーチャー(中盤~長期戦向けのクリーチャー)

 

 前者のサイクルは存在しているが、後者のサイクルはボツになった。セットデザインは、第1面がクリーチャーであるアンコモンのMDFCは1種だけであるべきだと判断したのだ。

アンコモン

  • 土地(ETBT)/インスタントやソーサリー(突飛なデザイン)
  • 土地(ETBT)/クリーチャー(「色への呪禁」を持つ色対策クリーチャー)

 

 2色土地は残ったが、そのうち4枚は最終的に『カルドハイム』に移された。後者のサイクルも残っている。加えて、セットデザイン・チームは3点のライフを支払ってアンタップ状態で出せる土地の神話レアのサイクルを追加した。セットデザインは最終的に、サイクルの数を展望デザインが提案したのと同じにしたが、レアリティは変わっており、その中身も変わっているものがある。

レア

  • 土地/土地(2色土地で、現時点では10種すべての2色の組み合わせが存在している)
  • 土地(ETBT)/呪文(構築枠で非主流の構築カード)

 現時点の計画では、コモンとアンコモンを1枚の両面カード・シートに、レアと神話レアをもう1枚の両面カード・シートに入れることにしている。MDFCが必ず1枚入っているようにすることを提案する。

 

 セットデザインが懸念しなければならないことの1つが、セットが物理的にどう印刷されるのかである。展望デザイン中に問題がわかった(両面カードでは必ずそうなる)場合、それを指し示し、我々の考えをセットデザインに伝えるのだ。

 MDFC全てがその枠に入るのか、コモンとアンコモンだけなのかは未定である。

 最後に、まだ解決していないルール上の問題が存在している。これらのカードは、どちらの面でも唱えられてスタックや戦場にその面で存在することになる。現在のルール問題は、他の領域にあるときにそれらのカードがどうなるのかに関わるものである。

 

 MDFCは、分割カードと両面カードの中間に位置している。私は、分割カードのように扱うことが望ましいと考えていた。つまり、スタックや戦場にある時を除いては両方の面の性質を持つということである。展望デザインは、我々がもっとも好むバージョンに集中し、その方向で進めていくための障害を知らせ、うまく行かなかったときのための次善の策を提示するべきである。ここで起こったのは、そういうことである。分割カード版のMDFCのルールは非常に複雑で、実際上の制限をプログラムするのはほぼ不可能だったので、我々はすでにできていてプログラムされている両面カードのルールに立ち戻ったのだ。黒塗り部分では、将来のことを語っている。MDFCが『ゼンディカーの夜明け』、『カルドハイム』、『ストリクスヘイヴン』に存在するので、MDFCの実際の作用を固めるときにはあらゆるバージョンのMDFCを考慮しなければならなかったのだ。

 私は両方のカードであるという分割カードのような働き方に寄せているが、このバージョンにはいくつかのルール的な問題の可能性がある。イーライと私はMTGO、MTGAのデジタル・チームと協力して分割カードのバージョンが可能かどうか判断した。次善の策は、他の領域にあるときに優先される面を持つという両面カードのバージョンである。この手法を選ぶ場合、優先される面は編注:ここの文章は削除してあります。見てはいけません。これはまだ公開されていません。すぐに知ることになりますが、それは今ではないのです。

 

 この計画は、空間の問題で少し変更された。最終的に、カード・タイプかクリーチャー・タイプとマナ・コストだけを示すようになった。土地に関しては、それが生み出すマナの色を示している。新しいカード枠についてすることを増やしていくと、展望デザインは昨日上必要な限りどう見えるかを理解する事前の作業に踏み込むことになるのだ。

 カードの各面にもう一方の面についてどれだけの情報が存在するのかを決めるため、私は編集者や製品設計者と協力した。カード名とマナ・コストを表示し、クリーチャーであればカード・タイプとパワー/タフネスを表示する、というのが現在主流である。

 

上陸

 結局、セットデザインは、エンチャント的な上陸効果を採用しなかった。次の訪問に期待しよう。それ以外では、上陸は我々が定めた展望にかなり近いままだった。

 上陸はゼンディカーそのものなので、再録するのが妥当だと考えられる。新しいひねりを少々実験したが、プレイヤーが知るままの現状を保つことになった。ターン終了時まで残るエンチャント的な効果を生成するカードが数枚存在する。しかし、これがプレイヤーに新しいものだと捉えられるかどうかは確信できていない。パワーレベルを『戦乱のゼンディカー』ではなく初代『ゼンディカー』に近いものだと感じられるようなカードを作ることが可能かどうかについて、エリックと議論した。エリックは、フェッチランドがない環境でなら可能だと考えている。

 

巨躯

 これはセットデザインのかなり初期にキッカーに差し替えられたと思う。(通常、取り除く機会があると思うものについては、取り除きやすいようにするために絡みを少なくしている。)我々が手本にした初代『ゼンディカー』にはキッカーがあり、そしてキッカーは単純にセットデザイン・チームが使えるデザインにさらなる柔軟性を与えるのだ。私が残念なのは、エルドラージを目に見える形で思い出させたかった巨躯がボツになったことだけである。セットにエルドラージは入れないことにしていたが、私は、その存在によってゼンディカーは永遠に変わってしまったのだということを示したかったのだ。

〈力の残影〉
{1}{U}
インスタント
巨躯{8}(あなたはマナ・コストを払うのではなくこの呪文を巨躯コストで唱えてもよい。)
土地でないパーマネント1つを対象とする。それをオーナーの手札に戻す。この呪文の巨躯コストが支払われていた場合、加えてカード2枚を引く。

 土地をもとにしたセットの性質上、土地をプレイして戦場に出す数は多くなる傾向にあるので、過剰なマナを支払うことができるようにするメカニズムが必要となる。(MDFCデザインの多くはその役も果たしている。)巨躯は代替コストであり、7マナ以上の不特定マナである。これは呪文を「キッカーした」バージョンで唱えることができるようにする。これは、エルドラージをこの次元のどこにも存在させないままでほのかに連想させることができるメカニズムである。このメカニズムはこのセットの構造との絡みが少なく、過剰なマナを消費できる他のメカニズムと入れ替えることが可能である。

 

怪物化

 展望デザイン中に、このセットのリード・セットデザイナーであったエリック・ラウアーが、このセットに怪物化を入れる可能性に興味を示した。私は展望デザイン・チームに怪物化で新しいことができるかやってさせ、その結果我々が気に入ったこととしては2つの怪物化コストを持たせてどちらの進化をするかを選べるようにするというものと、怪物的であるものを参照する呪文だった。(例となるカードを添えるべきだった。)これは、巨躯が該当しない7マナ未満のマナ処理方法の穴を埋める助けになっていた。巨躯がキッカーに差し替えられて、怪物化はボツになった。怪物化が残るとは思っていなかったが、これが価値を加えるかどうか判断できるようにこれの最高の姿をセットデザイン・チームに見せたかったのだ。

〈洞窟のライオン〉
{W}
クリーチャー ― 猫
{2}{W}:怪物化2
{5}{W}:怪物化4
[カード名]が怪物的になったとき、アーティファクト1つかエンチャント1つを対象とする。あなたはそれを破壊してもよい。
2/2

 怪物化はエリックとジェンナがトップダウンの「冒険世界」にフレイバー的にふさわしいと感じたことによるエリックからのリクエストで再録されている。アンドリューと私は怪物化のメカニズム的革新についてブレインストーミングを行なった。怪物化を持つクリーチャーのサイクルと、怪物的であることに言及した呪文のサイクルを作った。サイクル内の各カードは、セットデザイン・チームにできることの例を示すために新しいことを試している。

 

余剰のもの

 展望デザインの仕事の中には、可能なデザイン空間を掘り下げるということが含まれている。我々はよく、セットに入りきる以上のものを作っている。以下に挙げているのは、我々が作ったが提出文書ではセットに入っていない、必要であれば追加できるクールなものである。上述の道具箱の例えを用いるなら、私は、いくつか役に立ちそうな追加の道具を展望デザインが手渡したら役に立つと思っているのだ。

 セットデザイン・チームに追加の材料を提供するため、現時点ではファイルに入っていないが必要なら追加できるような余剰のものをデザインしてある。我々がデザインしたものは以下の通り。

 

新しい罠

 私や他の数人は、この新しい形の罠を本当に気に入っていた。以前の罠よりも少し複雑だが、フレイバーは非常にいい。ただし、エリックは嫌っていたので、ファイルに残る可能性は高くなかった。ここで提示しているのは、セットデザイン・チームの中にこれを気に入ってエリックを説得して翻意させてくれるかもしれなかったからである。もちろん、そんなことは起こらなかった。時を経て振り返ってみると、これらは少しばかり不格好なものだった。

〈霊気の罠〉
{2}
アーティファクト ― 罠
あなたのアップキープの開始時に、[カード名]を生け贄に捧げ、カード1枚を引く。
このターン中に対戦相手1人が2つ目の呪文を唱えるたび、あなたは「これを戦場に出し、カード1枚を引く。」を選んでもよい。
{4}または{U}, {T}, [カード名]を生け贄に捧げる:呪文1つを対象とする。それを打ち消す。

 これは罠の新しい形である。初代『ゼンディカー』で、罠は特定の条件が満たされたなら軽くプレイすることができるようになる呪文のサブタイプだった。今回の新しい罠はアーティファクトであり(これによってさらに罠らしくなった)、特定の条件(対戦相手が何かをするというもの)が満たされた場合にコストの支払いなく戦場に出し、カードを1枚引けるというものである。その後、罠は生け贄に捧げてカードを引くよりも前に使うことができる。これによって罠のコントローラーは突然罠を対戦相手に向けて解き放つことができ(重くて不特定なものと軽くて色つきのものの2種類のコストを持っており、誰でも罠をプレイできるが色が合っているデッキでで最適化される)、使う必要がない場合にはあとでカードと引き換えたりすることができる。生け贄にすることで、プレイヤーが通常のコストを支払って唱え、戦場に印章のようなアーティファクトを置き続けることも防いでいる。エリックが大ファンではなかったので、罠は追加のものに分類されている。

 

新しい探索

 初代『ゼンディカー』で最初の探索を作ったとき、利益を得るために3つ別々の任務を果たさなければならないという実装を思いついていた。そのバージョンは、フレイバーに富んではいたが、文章量が多く新しいカード枠が必要であり、当時はしたいことではなかった。『エルドレインの王権』では探索の新しい試みがなされたが、そのセットにとってより良いメカニズムであった当事者カードに近すぎた。『ゼンディカーの夜明け』展望デザインでは(探索はゼンディカーにふさわしいので)その課題に挑み、新しいひねりを加えた。しかし上述の理由から、入れることを真剣に検討されなかったのだった。

〈禁断の力の探索〉
{3}{B}
エンチャント
あなたが以下の任務のいずれか1つを完了するたび、[カード名]の上に探索カウンター1個を置く。あなたがその任務を完了するのが初めてであるなら、すべてのプレイヤーはカード1枚を捨てる。

  • 土地1つがあなたのコントロール下で戦場に出る
  • クリーチャー1体が死亡する
  • 1ターンに対戦相手1人が5点以上のライフを失う

[カード名]の上から探索カウンター3個を取り除き、これを生け贄に捧げる:ターン終了時まで、あなたはあなたの墓地からカードをプレイしてよい。このターン、カード1枚がどこかからあなたの墓地に置かれるなら、代わりにそのカードを追放する。

 探索は、利益を受け取るために一連の任務をすることを求めるエンチャントである。このデザインは、セットデザイン中に取り除かれた『Archery』での探索のデザインをもとにしている。新しい探索ではいくつかのことが変更されている。1つ目に、それぞれの任務を達成しなければならないのではなく、3回まで好きな組み合わせで任務をすることが求められる。これはつまり、各任務を1回ずつすることも、任務1つを2回と別の任務1つを1回することも、任務1つを3回することもできるということである。新しい任務を達成するたびに効果を得られるので、任務3つすべてをすることが推奨されている。すべての探索で、1つ目の課題は実質的に上陸である。つまり、すべての探索が時間をかければやがて完了できるということである。探索が最終的に余剰のものに置かれたのは、a) 文章量が多く、b) 新カード枠がおそらく必要で、新カード枠はすでにMDFCで使われてしまっている からである。

 

Lv系

 これらのカードはファイルに入っていたが、怪物化が追加されたときに取り除かれた。ここに挙げたのは、怪物化がボツになる可能性があるとわかっていたからである。怪物化がボツになったときにこれらが追加されなかったのは、すでにこのセットには充分なものがあり、これを追加する必要がなかったからだと思われる。

〈Lv系ならず者〉
{1}{B}
クリーチャー ― 人間・同盟者・ならず者
{1}{B}:[カード名]の上に+1/+1カウンター1個を置く。[カード名]の上に+1/+1カウンター3個が置かれているとき、これはこの能力を失い威迫を得る。
3/1

 Lv系は、『エルドラージ覚醒』のLv系クリーチャーの新しい形である。その目的は、マナを使って強化できるが、『エルドラージ覚醒』のLv系クリーチャーのような複雑さやカード枠が必要ないクリーチャーを作ることであった。これらの新型Lv系クリーチャーは、自身の上に+1/+1カウンターを置く起動型能力を持っている。その後、+1/+1カウンターが3個になると、その能力はなくなりクリーチャー・キーワードを得る。このアンコモンのサイクルが余剰のものに含まれているのは、エリックがこれと同じメカニズム空間を占める怪物化を採用したがっていたからである。

 

怪物土地

 初代『ゼンディカー』に関して思い出深いものの1つが、クリーチャー土地(起動して自身をクリーチャーに変えることができる土地)だった。展望デザイン・チームはそのための新しい方法を掘り下げた。最終的に、MDFCが土地空間をほとんど使い切ってしまった。

〈赤の怪物土地〉
土地
[カード名]はタップ状態で戦場に出る。
あなたがコントロールしているクリーチャー1体以上がプレイヤー1人に戦闘ダメージを与えるたび、[カード名]の上に+1/+1カウンター1個を置く。
[カード名]の上に+1/+1カウンター5個以上がある限り、これは速攻と威迫を持つ0/0のエレメンタル・クリーチャーである。
{T}:{R}を加える。
{3}, {T}:[カード名]の上に+1/+1カウンター1個を置く。

 これはレアの土地のサイクルである。これらは戦場にタップ状態で出て、その後、特定の条件を満たしたときに+1/+1カウンターを得る。その後、その土地の上に+1/+1カウンター5個以上が置かれていたら、速攻(攻撃できないという誤解を防ぐため)とその色のクリーチャー・キーワードを持つ0/0のクリーチャーになる。これらのカードが余剰のものに入っているのは、少しばかり強すぎ、クリーチャーと土地のMDFCと特徴が少し似てしまっているからである。セットデザイン・チームには、クリーチャー土地の新しい手法を掘り下げてほしい。

 

結論

 展望デザイン提出文書を扱うたびに言っている通り、これは展望デザインとセットデザインの意思疎通のほんの一形態に過ぎない。通常、私は展望デザイン・チームとこのセットについて話し、質問に答えている。また、展望の継続性を助けるため、展望デザイン・チームのメンバーの1人がセットデザイン・チームに所属するようにしている。

 これが『Diving』について伝えるべきすべてとなる。展望デザイン・チームは作ったものに非常に満足しており、セットデザイン・チームがこれを素晴らしいセットにしてくれることを期待している。質問があれば、ぜひ私に連絡してくれたまえ。

 ご清聴に感謝する。

 マーク・ローズウォーター

 


 これが、『ゼンディカーの夜明け』の展望デザイン提出文書である。これについて非常に肯定的な反響があったので、今後も提示していくつもりである。これについて何か見解、私が注釈したことについて言いたいことや提案があれば、メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『ゼンディカーの夜明け』に関する質問にお答えする日にお会いしよう。

 その日まで、カーテンの裏を覗く楽しみがあなたにありますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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