READING

開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

初代『ゼンディカー』デザイン提出文書 その2

Mark Rosewater
authorpic_markrosewater.jpg

2020年10月19日

 

 先週、私は『ゼンディカー』のデザインからの提出文書を紹介し始めた。半分ほどしか進まなかったので、今週はその後半となる。

マナ要素

 土地メカニズムを手掛けた後、我々は最終的に余った余剰のマナを消費するさらなる方法が必要だということに気がついた。

 ほとんどのセットで、メカニズムを意図的に再録しようとする発想はこの時期から始まったものである。

 同時に、我々は再録する過去のメカニズムを探していた。(最近のデザイン理念として、我々は既存のメカニズムを再利用することがうまくならなければならない、と確信しており、ブロックに1つ再録メカニズムを入れることを目指している。)キッカーは当然の選択であった。

 

 キッカーを進化させる前にキッカーを使うべきだと感じたので、多重キッカーは最終的に『ワールドウェイク』送りになった。多重キッカーという名前はそのままだった。

 キッカーを追加することを決めたら、次はそれに新しいひねりを加える必要がある。デザイン・チームの解決策は、多重キッカーだった。我々が採用した発想は、持っている限りのマナを使うことができることからマナというテーマとうまく噛み合うというものであった。また、これは当然の拡張だと感じられるものである。デザイン・チームは、このキーワードが無関係のメカニズムではなく、キッカーの拡張として用語化され(つまり「キッカー」が名前の一部に含まれ)るべきだと非常に強く確信している。

 

 以下に、これら2つの能力が各レアリティでどう働くかを示す。

コモン(20、キッカー10、多重キッカー10)

 このサイクルはそのまま残ったが、赤と緑は余剰のマナが最もたやすく得られる色なので、それぞれクリーチャーが追加されている。

「入場効果」を持つキッカー・クリーチャーのサイクル ― これらのクリーチャーは、キッカーを支払っていた場合にのみ入場能力を持つ。現在、キッカーと効果は小さなものだが、これはデザインの後期に空いていた枠に収めるためという部分が大きい。多重キッカー・クリーチャーと区別するため、重いキッカー・コスト(と大きな本体)を持つように変更すべきだというヘンリー/Henryの意見に私も同意する。

 

 このサイクルはボツになった。

キャントリップ・キッカーのサイクル ― これは、キッカー・コストを支払ったならカード1枚を引くことができるインスタントのサイクルである。(ここで、ソーサリーの効果にすることもできたが、我々は結果的に5種類のインスタントを選んだのだと指摘しておこう。)これらのキッカー・コストはNWOを満たすために(簡単に言うと、我々は特にコモンにおいて、同じようなものはもっと同じように働くようにしようとしている)統一されている。ヘンリーと私は、このキッカー・コストを重くする変更について話し合った。私が提案するのは、3マナのキッカーでキャントリップを持つ、1マナで有用な効果にすることである。

 

 多重キッカーは『ワールドウェイク』に送られたのでここでは当然ボツになっている。

多重キッカー・クリーチャーのサイクル ― これらのクリーチャーはすべてが2マナで+1/+1カウンターを得る多重キッカーを持つ。キッカー・コストを揃えることはNWOに準拠している。

 

 このサイクルは採用されたが、すべてインスタントになった。多くは効果が影響する先を広げるキッカー効果だけを持っていたが、青と黒には(その呪文が強化されたのだと感じさせるのに充分なシナジーがあると思われる)2つ目の能力が追加されている。

多重キッカー呪文 ― これらは追加でキッカー・コストを支払うことで効果を拡張できる、インスタントやソーサリーである。多重キッカーでは、効果やクリーチャーが拡大されるべきであり、追加の効果が得られるべきではない。ここから、キッカーと多重キッカーを分ける必要性という重要な問題が見えてくる。キッカーには多重キッカーでできないことをさせるように我々は尽力した。また、このサイクルについてはゴットリーブ/Gottliebと相談する必要がある。多重キッカー・クリーチャーのテンプレート化は簡単だが、呪文は問題を引き起こす可能性がある。

 

アンコモン(6)

 代替コストのキッカー・カードはこのセットからすべて取り除かれた。

代替コストのキッカー・カード ― これはサイクルではないが複数枚あるクリーチャーで、マナ以外のキッカー・コストを支払うことで強化できる。どれも、その色の土地との関わり方のテーマを扱うものである。これらのカードは、〈古参のハングライダー〉〈忍び寄る泳者〉〈大地の怪物〉である。

 

 アンコモンのキッカー・クリーチャーは雑多なものだ。白と青には1種ずつ、黒と赤には2種ずつ存在する。緑にはアンコモンは存在しない。

雑多なキッカー・クリーチャー ― アンコモンにはその他のいろいろなキッカー・クリーチャーが少数存在する。アンコモンには現時点で多重キッカー・カードは存在しないことに注意。重い多重キッカー・コストを持ち振れ幅の大きいクリーチャーのサイクルが存在したが、アンコモンの枠を開けるためにそれらは『Long』に押し出された。

 

レア/神話レア(4)

 レアには最終的に7枚の雑多なキッカー・カードが入ったが、多重キッカーは1枚も存在しない。

雑多な多重キッカー・クリーチャー/呪文 ― 大きな多重キッカー効果を持つさまざまなクリーチャーが存在する。現在、レアにはキッカー・カードは存在していない。

 

 多重キッカーが押し出されたもう1つの理由は、このセットに少しばかり詰め込みすぎていて、十分吟味されたものを先送りにすることは初のデザイン・リードを務めるケン・ネーグル/Ken Nagleへの手助けになるだろうと感じたことである。

 デザイン・プレイテスト中に得た反響からは、このセット内のどの1枚を見ても、特に多重キッカー・クリーチャーは、多重キッカーについて肯定的な反響は得られなかった。キッカーと多重キッカーを差別化するのであれば(そしてそうするべき理由はある)、キッカーのすることを調整することを推奨する。

 

フレイバー要素

 超冒険世界という発想を確立させた後、我々はその世界を反映して必要な雰囲気をセットに与えるようなメカニズムの作成に着手した。その結果がこれである。

 世界が危険だという感覚を伝えるため、我々が思いついたのが罠である。ちなみに、そのサブタイプ「罠」を作ることも考えている。罠はさまざまなデザインのバージョンを重ねたが、最終的に決めたものはタップ能力付きの瞬速全体エンチャントとなった。

 デザイン版の罠は、予想されるほど最終版のものから遠くはない。瞬速を持つエンチャントで、対戦相手が特定の行動をとったならコストが低減される。大きな違いは、単一の効果ではなく、戦場に残って対戦相手やその軍勢に不利益をもたらす全体エンチャントだということである。

 また、デベロップは地図について我々の意見を聞いた。なお、『Lights』は『ミラディンの傷跡』のコードネームである。

 ここで、いくつかの問題について語ろう。1つ目に、なぜエンチャントなのか。デザイン・チームは、罠をフレイバーに富んだものにするためにそれが重要だと感じたのだ。そのために、それらは罠らしいものでなければならない。インスタントは、奇襲にはなるが、罠らしさを表すことはできない。加えて、パーマネントにすることで、それを破壊するなどのそれと相互作用するフレイバーに富んだカードを作ることができる。アーティファクトでなくエンチャントにしたのは、前年に濃いアーティファクトのサブテーマがあり、『Lights』(2009年の大型セット)はアーティファクト・テーマを持つからである。そのため、アーティファクトに注目を集めすぎないようにしたいのだ。地図は現在アーティファクトであり、最もフレイバーに基づくメカニズム2種の両方をアーティファクトにしたくはなかった。最後に、罠をエンチャントにすることで、色に合った能力を扱う、ずっとフレイバーに富んだ罠を作ることができるのだ。デベロップ・チームが罠をアーティファクトにする必要があると考えたなら(そして私はそれが正しい選択だと考え始めている)、地図をエンチャントに(そして名前も探索か何かに)変更することを検討してもらいたい。

 

 維持してもらいたい重要だと思われる罠の性質は以下の通り。

 提出文書で、私は、提出する先のチームが新しいカードをデザインしたいとなったときに、我々がどのように作ったかの因子を理解できるように、どのように作用するかということを説明することが多い。

 罠は最終的にエンチャントからインスタントに変更された。デベロップは、インスタントが発生する罠の振る舞いを表現することの感じとフレイバーとの断絶をあまり意識しなかったのだ。

罠は「突然発生する」べきである ― つまり、対戦相手の行動が罠を発動させるべきだということである。

罠は対戦相手を傷つけるものである ― その罠を発動させた対戦相手の行為と関連していることが望ましい。自分が利益を得るような効果を生成する罠も試したが、奇妙なものだった。

罠は驚きの要素を持てるものであるべきである ― 罠の面白さは、対戦相手を捕らえるところになり、そのためには自分はわかっているが相手にはわからないということが必要である。

対戦相手は罠に対応できるべきである ― 対戦相手がこちらの動きを「読んだ」なら、罠が発生しないように対処できるようであるべきである。これはつまり、対戦相手がしなければならないことで発動するべきではない。例えば、対戦相手が土地をプレイすることで発動する、は成立しない。

 

 現在、このセット内の配置は以下の通り。

 『ゼンディカー』は最終的に、コモンには青に2枚の罠が存在した。

コモン(0)

 

アンコモン(10)

 アンコモンの罠は10枚から8枚に減り、誘発条件は関係しなくなった。

 アンコモンには罠のサイクルが2つある。その1つは、対戦相手のクリーチャーが4点の戦闘ダメージをプレイヤーに与えたことで発動する。

 

レア(5)

 レアと神話レアには最終的に4枚の罠が存在した。

 レアには罠のゆるいサイクルが存在する。これらは狭くデザインされており、構築の基柱となるかサイドボードに入るようなものである。

地図

 エンチャントに変わって、探索と呼ばれるようになったが、罠はアーティファクトにはならなかった。

 地図は、冒険への推進力だというフレイバーを持つ。それらが報奨を与え、それを達成するために何を見つける必要があるかを示すのだ。地図は、現時点で、実際の実現よりも地図の働きを示すことを目的としてデザインされている。デベロップは鍵がどのようなものかを理解したらクリエイティブと協力する必要がある。クリーチャー・タイプなどを確定できるように、この工程は初期にしなければならない。地図は現在、カード名に「地図」を入れるためにアーティファクトであるが、罠がアーティファクトになるなら、地図は新しい名前(例えば探索など)としてエンチャントにすることを推奨する。

 

 維持してもらいたい重要だと思われる性質は以下の通り。

 最初の地図は、『エルドレインの王権』や『ゼンディカーの夜明け』で試した探索メカニズムと似たものであった。達成するために必要な3つの物品や任務が存在しており、それを達成したら、そのカードを生け贄に捧げて大きな呪文効果が得られるのだ。

  • 達成しなければならないものが複数存在する
  • 地図は土地や場所らしいものに言及する
  • プレイヤーが地図を使いたいと思うような、かなりの見返り(良い財宝)がある
  • 必要なものと得られる報奨には何らかの関わりがある

 

 現在、このセット内の配置は以下の通り。

コモン(3)

 コモンには、誰でも使えるように、単純な地図が3枚ある。

アンコモン(5)

 これはサイクルである。それぞれが3つのものを参照していて、該当する基本土地が1つと、他の2つである。(現時点では、それぞれその1つはクリーチャー・タイプである。)

 探索は最終的にアンコモンのサイクル1つだけになった。

レア(3)

 これらは狭く、基柱にすることを意図したものである。

 

チームワーク

 これは同盟者メカニズムのもとになったものである。チームワークは、各同盟者を強化型の《筋肉スリヴァー》にするものであり、問題があった。マット・プレイス/Matt Placeと私は最終的に、これの代わりになるものを探すミニチームを作った。我々は、それ自身か他の同盟者が戦場に出るたびに効果を発生させるカードを作ることにした。興味深いことに、我々は3種類を作っていて、その1つの拡大効果を生み出すものはウィザード、その1つの各同盟者に能力を与えるものはクレリック、そして(+1/+1カウンターで)大きくなるものは戦士と呼んでいた。当時でさえ、D&Dの冒険者のパーティーが素材空間として意識されていたことがわかる。

 フレイバーに基づく最後のメカニズムは、このセットにクリーチャー基本のメカニズムが必要だと考えたことから作られた、コモンの主軸的メカニズムにするのに充分単純なものである。チームワークは、この需要を満たすために作られたメカニズムである。チームワークを持つクリーチャーが戦場に出るたび、チームワークを持つ自軍のクリーチャーそれぞれに+1/+1カウンター1個を置く。

 内訳は以下の通り。

コモン(5)

 現時点では、コモンはどれもチームワークだけを持つバニラ・クリーチャーである。(厳密に言えばフレンチバニラである。)もともと、これらは現在のアンコモンのようなものだったが、さらにコモンを単純化するため、追加の能力を取り除いた。はっきり言うと、これらはうまく働いたが文章が多すぎたのだ。

アンコモン(5)

 このサイクルには、チームワークを持つ他のクリーチャーが戦場にいるときにキーワードを得るというクリーチャーがいる。以前のアンコモンで、他に2体のチームワーク・クリーチャーがいたときにキーワード能力2つを得るというものは、『Long』に送られた。

レア(0)

 チームワークを持つクリーチャーは現時点でレアには存在しない。これは意図的なものではない。良いレアのデザインがあれば、それが存在してはならない理由はない。自軍のクリーチャーすべてにチームワークを与える白のエンチャントが存在する。

 そうして、このどれも成立しなかった。

 最後に、デザイン・チームから、このセットに大量の+1/+1カウンターが存在すると認める。多重キッカーとチームワークはどちらもそれを大量に使っている。その結果、それを必要とする2つの場所に集約させるため、デザインは+1/+1カウンターを使うカードの多くをこのセットから取り除いた。カウンターを大量に使うということは、このセットには+1/+1カウンターと相互作用するカードは少数しか扱えないということである。現在、そのようなカードはレアに少数だけ存在する。

 

それ以外

さまざまなレア/神話レア

 他にもいくつかのサイクルやカードがこのセットには存在している。

 このサイクルは採用されなかった。このセットのレアのクリーチャーにはこのサイクルから選ばれ、それに要素が追加されたものも存在するはずである。

すごいクリーチャー ― これはレアのフレンチバニラのクリーチャーからなるサイクルである。それぞれは1つか2つだけのキーワードを持つ。『基本セット2010』がこの中の数枚を奪うかもしれない(あるいは奪った)ことに注意してもらいたい。

伝説の冒険者 ― クリエイティブは5人の伝説の冒険者のリストを提供してきた。それらは世界から宝物を得ようとしている英雄たちである。レアと神話レアに存在する。

 

 最終的に、神話レアの伝説のクリーチャーは4枚になった。当時、伝説のクリーチャーを作る数は少なく、そのほとんどを神話レアにしようとしていた。

伝説の怪物 ― クリエイティブは5人の怪物のリストを提供してきた。それらは大地の宝物を奪おうとする冒険者の障害として存在する。レアと神話レアに存在する。

 

 このエルフの女性とはニッサである。彼女は「Duels of the Planeswalkers」のゲームでエルフ・デッキの主役として存在していた。彼女に充分な人気が出たので、我々は彼女をカード化することにした。ゴブリンは、物語上必要となったチャンドラに調整された。白の人間は、黒単色のソリンに調整された。

プレインズウォーカー ― このセットには3人のプレインズウォーカーが存在している。エルフの女性、ゴブリンの男性、人間の男性がそれぞれ緑、赤、白に存在している。

 

新世界秩序

 NWO(新世界秩序)に従うため、コモンに入れられたものがいくつも存在している。

 これらのサイクルは両方とも残った。

バニラ・クリーチャー ― (クリーチャーの数が最も少ない)青以外の全ての色にはバニラ・クリーチャーが存在している。これは、コモンの複雑さを引き下げる試みの一部である。

フレンチバニラ・クリーチャー ― コモンにフレンチバニラ・クリーチャーを増やす試みをしている。

 

 このとき私は、今日に到るまで開発部で使われている「実質バニラ」という語を導入した。

実質(フレンチ)バニラ・クリーチャー ― NWOでの大きな変化の1つが、実質バニラという考え方である。実質バニラ・クリーチャーは、最初のターン以降はバニラ・クリーチャーとして存在するクリーチャーのことである。実質フレンチバニラ・クリーチャーは、それが戦場にだたターン以降はフレンチバニラ・クリーチャーになるクリーチャーのことである。「入場効果」クリーチャー、キッカー・クリーチャー、多重キッカー・クリーチャーはどれもこの分類にあてはまる。この術語が重要なのは、NWOの大部分は複雑さを戦場から取り除く方法を探すことだからである。実質バニラ・クリーチャーは、そのカードがプレイされたときには複雑さが発生し、その後単純な盤面に落ち着くということを可能にする。NWOによって、コモンでは多くの実質バニラ・クリーチャーを使うことになるだろう。

 

まとめ

 この要約が『Live』のデザインの内部作業について理解する助けになることを望んでいる。

 素晴らしいデザイン・チームで、私は我々がデザインしたものを非常に誇らしく思っている。また、デベロップが我々が作ったものを取り上げ、さらに良いものにしてくれたことにも満足している。

 これは私がともに働いてもっとも嬉しく感じた最高のデザイン・チームの1つであり、私は我々が達成できたことを非常に誇らしく思っている。何か質問があれば気軽に問い合わせてくれたまえ。

――マーク・ローズウォーター

 

文書の終わり

 これが、私が初代『ゼンディカー』を提出した形である。楽しく読んでもらえたなら幸いである。これ以外の、これまでの提出文書も読みたいだろうか? 読みたい(あるいは読みたくない)のであれば、メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrInstagramTikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。今週と先週の記事や、マジックに関するどんな話題でも、私の耳に入れたいことを送ってくれても構わない。

 それではまた次回、『統率者レジェンズ』のプレビューが始まる日にお会いしよう。

 その日まで、あなた自身のゼンディカーを見つけられありますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

  • この記事をシェアする

RANKING

NEWEST

CATEGORY

BACK NUMBER

サイト内検索