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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

今週のCool Deck:ゾンビで完封、懐かしのロックデッキ(過去のフォーマット)

岩SHOW
 

 『マジック:ザ・ギャザリング——FINAL FANTASY』!マジックと他コンテンツのコラボ、ユニバースビヨンドのシリーズはこれまでもクールなカードを世に送り出してきたが、今回は世界的なビデオゲームシリーズとのコラボいということで、特に発祥の地である日本は湧いている。クールなカードを求めて多くのプレイヤーがパックを剥き、リリース前から増産が決定という盛り上がりだ。

 FF世界のフレイバーをふんだんに含んだ新カードが、今後一体どんなクールな活躍を見せるのか?マジックというコンテンツのクールさを堪能し尽くすため、新旧デッキリストを解析する「今週のCool Deck」。今回はFFのある1枚から。《古代魔法「アルテマ」》!FFシリーズを代表する呪文は?と問われればアルテマをあげる人は多いだろう。アルテマはその名の通り究極の攻撃魔法だ。光の球が爆発を起こし、時には宇宙空間から地表に向かってビームを照射するなど、ド派手な演出と大ダメージが印象に残る、クールな呪文だ。何よりも名前が良いよね、誰が聴いても「この呪文が最強格なのだろう」とわかるような響きがクールでたまらない。

 マジックではすべてのクリーチャーとアーティファクトを破壊する、効果範囲の広いソーサリーだ。しかしながら強力ゆえの反動として、これを解決するとその場でターンが終わってしまうというデメリットも。破壊してから何かする、という動きを同一ターンでは行えないが、インスタントのタイミングで動けるデッキならばそれほど問題はないだろう。盤面を流してターンを終え、打ち消しやドローを構えて相手のターンを迎える……コントロール向けの1枚だ。

 

 マジックではデメリットをメリットに変換するのはそう難しいことではない。ターンが終了する?だったら対戦相手のターンに唱えて見れば良いじゃないか!ということで、ソーサリーを対戦相手のターンなどインスタント・タイミングで唱えられるようにするカードを使えば……盤面をリセットした上に再展開も許さず強制的にターンエンドだ。ターンを終了するという処理を行うと、スタック上の未解決の呪文や能力もすべて何も起こさずにそのターンは終わる。《時を解す者、テフェリー》や《急かし》を経由することで、アルテマは《時間停止》的なカードとしても機能するというわけだ。これはクールだ、思わず狙いたくなるね。《一日のやり直し》でターンを終わらせるコンボもあるし、ターン強制終了デッキが組めそうだ。

 

 このように対戦相手のターンに何もさせないということ。それを愚直なまでに実行し続けるアーキタイプがかつて存在した。ロックデッキやプリズン(牢獄)というやつである。存在した、と過去形で表現したのは、現在はその戦い方があまり有効ではなくなっているからだ。

 対戦相手のターンに何もさせないというのは、即ち土地やクリーチャーなどのアンタップを防ぐことである(あった)。昔は今ほどクリーチャーが強くなく、それを戦場に出すためにはある程度のマナを要求された。土地をタップ状態のままにさせておけば、それらが戦場に出てくることは困難になる。《停滞》はアンタップステップを飛ばすというとんでもないルール捻じ曲げエンチャントで、これを維持できれば対戦相手の土地が起きないので呪文が唱えられず、クリーチャーも1回攻撃すればそのまま寝っぱなし。かつては警戒持ちクリーチャーもほとんどいなかったので、この《停滞》を意地さえできれば相手を完封できたのである。そんな「ターボ・ステイシス」についてはこちらを。

 ロックデッキは最近目にする機会がほとんどなくなってしまったが、クールなアーキタイプで僕なんかは憧れを抱いていたものである。今日はそんなロックデッキの系譜より、個人的に最高にクールに感じた逸品を紹介させていただこう。

荒堀和明 - 「ゾンビ・プリズン」
グランプリ仙台2002 優勝 / エクステンデッド(現在廃止) (2002年1月4日)[MO] [ARENA]
12 《
4 《
4 《Underground Sea
1 《知られざる楽園
-土地(21)-

4 《影魔道士の浸透者
3 《ゴブリンの太守スクイー
2 《マスティコア
1 《Krovikan Horror
-クリーチャー(10)-
4 《対抗呪文
4 《意志の力
2 《目くらまし
4 《蓄積した知識
3 《直観
3 《噴出
4 《ゾンビの横行
2 《対立
3 《冬の宝珠
-呪文(29)-
4 《強迫
3 《基本に帰れ
3 《冬眠
3 《ファイレクシアの抹殺者
2 《マスティコア
-サイドボード(15)-

 

 

 このリストは2001年に開催されたグランプリ仙台の優勝デッキ、「ゾンビ・プリズン」や「Zombie-Go」と呼ばれたものだ。当時は言うまでもなく、今ほど情報に溢れた社会ではなかった。マジックも例外ではなかったが、僅かでもインターネット上にて最新のデッキを確認する術はあった。そんな時代、国内外の最新の情報をかき集めてそれを元にあるチームが練り上げた、努力の結晶である。フォーマットはエクステンデッド、今でいうモダンのようなスタンダードをローテーション落ちしたカードが使える、刺激的で楽しいクールな環境だった。そんなフォーマットにて優勝を勝ち取ったこのリストは、青い打ち消しとドローなどの手札を増やす呪文がデッキの大半を占めている。そしてそこには《冬の宝珠》と《対立》、ロック系カードの中でも指折りの名カードの姿が。

 《冬の宝珠》は毎ターンの土地のアンタップが1枚だけに制限されるという、強烈な足止めアーティファクト。今でもたまにレガシーで使われ、土地からのマナを必要とするデッキを大きく減速させている。これをただ置くだけでも厄介なものではあるが、相手の土地をこちらから無理やりタップさせられればその威力は大いに増す。その役目を《対立》が担っている。《対立》はクリーチャーをタップすることでパーマネントを1枚タップさせる、シンプルながら非常に強力なエンチャント。これでクリーチャーを複数寝かせて相手の土地を氷漬けにする。そして《冬の宝珠》は昔のアーティファクトに見られる、タップ状態になると能力が機能しなくなるという特性を持っている。対戦相手のターン終了時に《対立》で宝珠を寝かせれば、自分のターンのアンタップで土地と宝珠が同時に起きる。一方的なマナロック状態に陥らせ、クリーチャーによる攻撃も《対立》で無効化。なんとか1枚起こした土地もアップキープにタップ!メインで手札から出した土地を即使って呪文を唱えるのは止められないが……1マナで何をしようというのか?と氷のような態度で封じ込める、えげつなくもクールなプリズンだ。

 

 このデッキリストはクリーチャーの総数が10枚、たったそれだけで《対立》ロックは機能するのか?ご心配なく、クリーチャーは無尽蔵に発生し続ける。《ゾンビの横行》によって……これは手札2枚を捨てることで2/2のゾンビを生成する。起動にマナが不要で手札がある限り複数回起動できる、イラストも相まって最高にクールな1枚。これによりゾンビを展開し、それで戦闘を行いつつ最終的にはロック状態に持ち込んで相手を棺桶に封じる、というのがこのデッキの辿るストーリーだ。

 手札の消費が痛い?そのための青のドローだ。《噴出》で手札を一気に膨らませてゾンビに変換、そして《蓄積した知識》!こいつがクールだ。墓地にある同名カード1枚につき1ドロー、最終的には2マナで4ドローとぶっ壊れ性能に。またそれだけにとどまらず、今日ではなかなか目にすることのない、対戦相手の墓地の同名カードもカウントするというクールな性質を持っている。《直観》でこれを3枚持ってきて2枚が墓地に落ち、手札に加えた1枚で3枚ドローするという動きを伝説的なプロプレイヤーが披露したことで、このムーブはちょっとしたブームとなっていた。その情報を見越して、このデッキでは相手の知識も利用して5枚以上のドローを見込み、このエンジンでゾンビを増殖するというアプローチを採用している。

 

 このデッキは「ベンツォ」というデッキの情報をキャッチし、そこから《ゾンビの横行》を用いるという着想を得て組まれたものになる。そのデッキから受け継いだ横行エンジン、これを回転させるのは単純なドローだけでなく、使い減りしない半永久的な手札だ。アップキープの開始時、墓地から手札に戻る《ゴブリンの太守スクイー》!彼ほど戦場に出ることなく活躍したクリーチャーもそうそういない。スクイーを横行のコストにすることで手札の損失を抑えて横行を起動する。

 もちろんスクイーが複数枚あれば良し、または《Krovikan Horror》との組み合わせもシブい。このホラーはターン終了時、これが墓地にあり勝つそのすぐ上のカードがクリーチャーだった場合、手札に戻せるというマジック黎明期ならではの謎の挙動を披露する。スクイーとこれを捨てそれぞれの能力が誘発して手札に戻ることで、手札を減らさずにフリーゾンビを生成できる。当時この横行エンジンは我々の心をアツくしたものだが、それをこのリストはロックに応用するという一歩先の真価を見せつけてさらに我々の度肝を抜いてきた。触れる機会の少なかったインターネットでこのリストを初めて目の当たりにした時のことは、忘れられないクールな思い出だ。

 アルテマでテンションが上がってしまい、そこから派生的に思い浮かんだロックデッキについてノンストップで語ってしまったが……何が言いたいかって言うと、マジックはいつの時代も最高にクールだってこと。FFとのコラボで新たなクールの扉も開かれることに期待しつつ、今週はここまで。Stay cool! Let’s lock!!

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