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ワールド・マジック・カップ2014

観戦記事

第1回戦:フランス代表 vs. ロシア連邦代表

矢吹 哲也
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Adam Styborski / Tr. Tetsuya Yabuki

2014年12月5日


 プレイヤー・オブ・ザ・イヤー。開催国。ワールド・マジック・カップ優勝チーム。フランス代表にとって、今年のワールド・マジック・カップは凱旋の地であり、同時に再び凱歌を揚げる用意ができていることを証明する場でもある。チームのキャプテンでありプロツアー『テーロス』優勝者、そして現在世界ランキング2位のジェレミー・デザーニ/Jeremy Dezaniを擁するこのチームの目標は、ただひとつ。殿堂顕彰者ラファエル・レヴィ/Raphael Levyと彼の仲間たちが昨年勝ち取った成功を、再び手にすることだけだ。

 ワールド・マジック・カップが開催されるたびに、その注目度の増し方を感じ、マジックというゲームがいかに世界的なものであるのかに気付かされる。ひとつの国を代表するということは、世界中を相手に戦うということなのだ。

 一方のロシア連邦代表にとっても、その肩に――自国を代表する彼らに――かかるものは多い。ここ2年間はグランプリも開催し、ワールド・マジック・カップ予選も3回開かれた。またドミトリー・ブタコフ/Dmitriy Butakovが、「Magic Online Championship」で優勝するという活躍を見せている。今大会のようなイベントで勝利できれば、マジックが萌芽したばかりの国でこのゲームの注目が高まるはずだ。

 ベローヴァ(ゾーヤ・ベローヴァ/ Zoya Belova)が、この週末で戦うことの意味がどれほどのものなのか簡潔に教えてくれた。「ロシアのマジック・プレイヤーたちにとっては、今大会が一番大切なものだと私は思います。最もエキサイティングで、期待もひとしおです。みんなが応援してくれていますよ」

「プロ・レベルのゲームに興味がない初心者たちも声援を送ってくれているんだ」アレクセイ・イスポフ/ Alexey Isupovが付け加える。

 ブタコフは他のスポーツと比較して語った。「他国のみんなには、サッカーや他のスポーツがある」と、ブタコフ。「ロシアはそれらで有名じゃないから、マジックで有名になってやるのさ」彼らは満面の笑みを浮かべ、笑い合った。

「ベストを尽くします」ベローヴァが言い、チームメイトの顔を見回す。

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ドミトリー・ブタコフをキャプテンに据えたロシア代表が、今大会最初の試合に臨む。

 ブタコフは繰り返す。「国の期待を裏切るわけにはいかないね」

それぞれのデッキ

 チーム・シールドを無事やり遂げるというのは、いつだって厄介な問題だ。とりわけ『タルキール覇王譚』にはどの色にも強力な多色カードやシナジーが含まれており、豊富な基本でない土地があらゆることを可能にするため、その問題はさらに深い。

 フランス代表はそれぞれのデッキ全体にまたがって、色を広く見る方針をとった。ケヴィン・ソーヴァジョン/Kevin Sauvageonは、青に回避能力持ちを含めつつ、ゲームを終わらせるファッティやそれらでアドバンテージを得られるコンバット・トリック――《凶暴な殴打》、《熊の覚醒》、《龍鱗の加護》――を豊富に持つ強固な緑青デッキにまとめた。キャプテンのジェレミー・デザーニはアグレッシブな赤白デッキに絞り、そこへ《子馬乗り部隊》や除去、コンバット・トリックのために黒をタッチした。これで彼はクリーチャーの展開力を維持しつつ最後の数点のライフを奪える力を得たというわけだ。

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ジェレミー・デザーニをキャプテンに据えたフランス代表は、他のどの国よりも安定性を求めた。

 フランス代表最後のデッキは、ヨハン・ドゥドニョン/Yohan Dudognonの4色デッキだ。黒を基盤にして8枚もの基本でない土地を搭載し、《完全なる終わり》や《悪逆な富》、《アブザンの魔除け》そして《死滅都市の悪鬼》がひとつのデッキから飛び出してくる、というプランをとっている。挑戦的な形ではあるが、強力なのは明らかだ。

 ロシア連邦代表は、色と土地をシェアすることに決めた。全員が3色の氏族を中心にしたデッキにまとめる。ブタコフは《凶暴な拳刃》や《龍爪のスーラク》、複数の《雪角の乗り手》、それから《なだれの大牙獣》、《熊の仲間》といったカードを集めたティムール。多色カードと単色カードの配分がおよそ半々になっている。ベローヴァもまた、多色カードをふんだんに用いたアブザン・デッキを組み上げた。《軍備部隊》や《象牙牙の城塞》、そして白と黒のクリーチャーが先駆けとなる。

 イスポフは多色カードの割合が一番少なく、黒を主色にして安定感のあるスゥルタイ・デッキになった。《死滅都市の悪鬼》、《増え続ける成長》、《族樹の発動》、《死の激情》、そして3枚の《グドゥルの嫌悪者》が除去の支援を受け、強力なプランを有するに至った。これは、このチームの豊富な基本でない土地の配分によるところが大きい。

ゲーム展開

 キャプテンのブタコフが隣で試合をする中、フィーチャー・テーブル真ん中のB席でフランス代表のキャプテンであるデザーニと当たったのは、ロシア連邦代表のゾーヤ・ベローヴァだった。

「良いデッキは組めました?」とベローヴァが尋ねる。デザーニは肩をすくめ、後ろからこの試合を見守るカバレージ班のために手札を広げて見せてるからわからないな、と答えた。

 ベローヴァは疑うような視線を投げかけ、「あなたがキャプテンよね?」

 デザーニは頷き、笑顔で応える。

「グッドラック!」ベローヴァが宣言し、ゲームは始まった。

 デザーニは素早く門を開け放った。《僧院の速槍》、《雪花石の麒麟》、《マルドゥの心臓貫き》、そして《矢の嵐》が、ベローヴァ側の《軍備部隊》や「変異」状態の《アブザンの先達》を押しのけていく。

 デザーニは持ち得るものを使い、《マルドゥの心臓貫き》に「変異」状態の《アブザンの先達》を確実に除去させた。続けてベローヴァの側に《軍備部隊》が繰り出され、《鱗の隊長》と共に堅い守りを見せる。

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対戦相手のアグレッシブなスタートに対して、解決策を探すゾーヤ・ベローヴァ。

 《抵抗の妙技》と《道の探求者》の「果敢」で、デザーニはクリーチャーを失わないままライフを25点とし、ベローヴァのライフを残り7点まで追い詰めた。

 彼女は続くターンに攻撃し返し、土地を5つタップする。するとデザーニは《対立の終結》を読んでクリーチャーをすくい上げていた。

「いえ、違うわ! こっちよ」ベローヴァはそう声に出し、《象牙牙の城塞》を戦場に加えた。これで《鱗の隊長》がアンタップし、彼女はデザーニの6体のクリーチャーに対して3体のブロッカーを用意した。だがすべてブロックしても彼女のライフは残り1点になり、続くターンでブロックしきれない4体目のクリーチャーに打ち倒されるのだった。

 デザーニがチームの様子を見ると、3人とも勝利することが明らかになっていた。ドゥドニョンは(デッキ登録用紙提出の遅れにより)ゲーム・ロスを受けてからの開始となったが、これで先へ進む道の半分は開けた。

 ベローヴァとデザーニがデッキのシャッフルをしている間、ブタコフとソーヴァジョンの試合が進行していた。ブタコフは強力な《氷羽のエイヴン》から《マルドゥの心臓貫き》と《道極め》を続かせ、ソーヴァジョンの「変異」クリーチャーたちを除去していく。ソーヴァジョンのライフが6点まで落ち込んだところで《凶暴な拳刃》を戦場に加え、さらにタイミング良く《弧状の稲妻》が突き刺さると、ベローヴァとデザーニの次のゲームが始まる前にブタコフが同点に追いついたのだった。

 デザーニは2ゲーム目、5枚の手札で始めることになった。《道の探求者》がデザーニのライフを回復していく構えを見せたものの、ベローヴァのクリーチャー展開は止まらず、タイミング良く《抵抗の妙技》を用いることで序盤からライフ・レースを有利に進めていった。複数の飛行持ち――《雪花石の麒麟》や《スゥルタイのゴミあさり》――で、彼女はフランス代表のキャプテン相手にプレッシャーをかけ続ける。《反逆の行動》が、べローヴァの《機を見た軍族朋》と《鱗の隊長》を相討ちにさせたが、彼女はその策略を越えてデザーニのライフを削り続けた。デザーニはベローヴァの反撃でライフを残せるよう、《軍族童の突発》にその身を預けた。

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厳しいスタートとなった第2ゲームで、復帰を図るデザーニ。

 《アブザンの先達》の「変異」が解け、ついにベローヴァはデザーニを追い詰めるほどクリーチャーを倒した。ゲームは終わりを迎え、デザーニの《道の探求者》は解決策を見出だせなかった。

 このとき、C席で最初の試合が終結した。イスポフは3ターン目に《族樹の発動》で4/4のエレメンタルを生み出すという強力なスタートを切り、序盤から強烈な攻撃を始めた。さらに2枚の《縁切られた先祖》が強力な支えとして後ろに控え、《グドゥルの嫌悪者》が《完全なる終わり》を受けるまで仕事を果たした。それでもドゥドニョンは安定した動きを見せ、やがて《スゥルタイのゴミあさり》とこちらも《グドゥルの嫌悪者》を繰り出し、イスポフ側の2体の《縁切られた先祖》と相対した。イスポフは《縁切られた先祖》の「長久」を起動しライフ・レースができるくらいにサイズを上げたが、それは遅すぎた。これでフランスが1勝目をあげたのだった。

 一方、ブタコフとソーヴァジョンも相手を押しのけるべく3ゲーム目を繰り広げていた。ブタコフの戦場には《高山の灰色熊》と「変異」クリーチャー2体がいたが、ソーヴァジョンは《旋風の達人》と《煙の語り部》、そして「変異」クリーチャーで攻撃に入った。《高山の灰色熊》と《旋風の達人》が相討ちになり、その後ブタコフは、彼の行く道の重みを込めて《凶暴な拳刃》を戦場に送り出した。

 イスポフとドゥドニョンの試合が終わり、フランス側の席には3人のプレイヤーが集まった。

 《氷河の忍び寄り》と《龍鱗の加護》を慎重に相手取りながらも、ソーヴァジョンは比較的持ち直したようだった。一方その頃、ベローヴァとデザーニの試合で再び除去の応酬が始まった。ベローヴァの《アブザンの先達》は除去の一斉射撃を免れ、「変異」を解除した彼女はライフ・レースを楽に進めることができた。デザーニはすべてのクリーチャーで相討ちを取りに行かざるを得なかった。《抵抗の妙技》が《アイノクの盟族》を守ったが、《子馬乗り部隊》が落とされる。

 ベローヴァも《抵抗の妙技》を用いて反撃。戦士・トークンから《スゥルタイのゴミあさり》まで、軍勢を強化し続けた。デザーニはその波を留めるクリーチャーと除去が足りず、強大なロシア軍に敗れるのだった。ロシア側の3人は、カードを片付けているキャプテンに目を向ける。

「勝った?」ためらいつつも、彼らは尋ねる。

 ブタコフはただ頷いた。《凶暴な拳刃》を除去し持ち直したように見えたソーヴァジョンだが、その後土地を引き過ぎ、ブタコフに押し切る時間を与えてしまったのだ。勝利を確認すると、ロシア・チームの面々は拳を合わせた。

「いいスタートが切れたぞ」イスポフが声をあげた。

ロシア連邦代表が、フランス代表を2勝1敗で下す。
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RESULTS

対戦結果 順位
S2-3 S2-3
S2-2 S2-2
S2-1 S2-1
S1-3 S1-3
S1-2 S1-2
S1-1 S1-1
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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