EVENT COVERAGE

2020プレイヤーズツアーファイナル

トピック

2020プレイヤーズツアーファイナル 最終日の注目の出来事

Corbin Hosler

2020年8月1日

 

(編訳注:埋め込み動画は英語版のものです。)

 「2020プレイヤーズツアーファイナル」は二つとない大会となった。「《荒野の再生》 vs. 世界のプレイヤー」の様相を呈したメタゲームを始め、スイスラウンドからトップ8プレイオフまでに1週間の休戦期間があったことと言い、本大会はすべてのプレイヤーの記憶に残るであろう唯一無二のものとなった。

 そして、クリストフ・プリンツ/Kristof Prinzにとっては、彼の人生を一変させる大会であっただろう。1日目を無敗で抜け、2日目も安定感抜群に戦い抜き、そして最終日にもその姿を見せたプリンツは現スタンダード環境最高のデッキを並外れた巧さで操った。グランドファイナルへと一早く駒を進めた彼は、そのままターンを返してしまえば負けてしまう重大な場面でそれを覆す1枚を引き寄せたのだ。

 ランプ・デッキの弱点を突くべく構築された「黒単アグロ」で、同じく決勝の舞台まで駒を進めた熊谷 陸の攻勢を阻止するため、プリンツはありとあらゆる要素を味方につけねばならなかった。最終ゲームまでもつれ込んだグランドファイナル、彼はほぼ完璧なプレイをもって熊谷を打ち破り、見事「プレイヤーズツアーファイナル」王者に輝いたのだ。

 

決勝までの道のり

 プリンツと熊谷が決勝にたどり着くまでの道のりを紹介しよう。以下が、金曜日に発表となったトップ8の対戦組み合わせだ。

00-Players-Tour-Finals-2020-Top_8-Bracket.jpg

 「プレイヤーズツアーファイナル」以前のスタンダード環境は、《荒野の再生》を軸にしたデッキがトップメタとして君臨しており、それは出場者であれば誰もが認知していることであった。彼らはそこで選択を迫られたのだ。最強のデッキである「再生デッキ」を手に取りトーナメントに臨むべきか? それとも、他のマッチアップを犠牲にしてでも「再生デッキ」を狩ることに特化したデッキを選ぶべきなのか?こうして、「再生デッキ」vs.「他のデッキを選択したプレイヤー」の構図が出来上がった。

 そして、その構図はトップ8にも色濃く反映されたのだった。8名中4名が「再生」デッキを、そして残り4名がそれ以外のデッキを選択し勝ち抜いたプレイヤーであった。しかしながら、準々決勝での組み合わせでこれら2勢力が綺麗に分かれることはなかった。パトリック・フェルナンデス/Patrick Fernandezとプリンツ、互いに「再生デッキ」を選択したプレイヤー同士が顔を合わせる形となった。プリンツは対「ティムール再生」を意識して仕立てられた「4色再生」で見事2ゲームを連取すると、次のステージへと駒を進めた。1週間という休戦期間をもってしても、プリンツの勢いは全く衰えを見せていなかったのだ。

 一方そのころ、いずれも「再生デッキ」ではない組み合わせも行わていた。熊谷とラファエル・レヴィ/Raphaël Lévyだ。2人とも全く異なるアプローチをとってトップ8まで駒を進めたプレイヤーだ。熊谷は本大会で唯一「黒単アグロ」を持ち込んだプレイヤーであり、殿堂顕彰者のレヴィの「アゾリウス・コントロール」は同郷の盟友であり、MPL選手であるガブリエル・ナシフ/Gabriel Nassifからデッキリストを授かったものだ。

 古典的なアグロvs.コントロールの組み合わせでとなったこの対戦は、熊谷が《強迫》や《苦悶の悔恨》といった手札破壊一式でレヴィを抑え込んで攻め切る、同マッチアップの宿命とも呼べる展開を見せ熊谷が勝利を収めた。

 

 また別の場所には、「再生デッキ」に照準を合わせるプレイヤーたちの姿があった。「ジャンド・サクリファイス」を操るクリストファー・ラーセン/Christoffer Larsenは、「4色再生」を使うベン・ウェイツ/Ben Weitzと対峙していた。ラーセンにとっては好ましいマッチアップではなかったものの、下馬評も解説陣の予想さえも覆して見事勝利を収めた。

 

 「再生デッキ」勢も負けてばかりではない。視聴者から高い人気を博した「マルドゥ・ウィノータ」を使うマイケル・ジェイコブ/Michael Jacobとの対戦となったアレン・ウー/Allen Wuは「ティムール再生」をもってジェイコブを打ち破った。ジェイコブは競技シーンでの経験も豊富でありながら、古くから活動をしている配信者だ。まず「白単アグロ」を手に取った彼は、ゆっくりと調整を重ねていくうちに今回持ち込んだ「マルドゥ・ウィノータ」にたどり着いたと言う。そして自身の決断を絶対に疑うことはしないと心に決め、完成したデッキを提出したのだ。この判断はトップ8という形で実を結ぶ。

 しかし、マジック25周年記念プロツアーでの優勝を経験しているウーはこの大舞台に慣れていた。いずれのゲームも《自然の怒りのタイタン、ウーロ》で勝利を手繰り寄せ、ウーは次なる戦いへと駒を進めた。

 

グランドファイナルを懸けた戦い

 勝者側ブラケット準決勝第1試合ではローグ・デッキを見事打ち破ったウーが、再び「再生デッキ」以外と対峙することとなる。熊谷の「黒単アグロ」だ。しかし、今回はローグ・デッキ側に軍配が上がり、熊谷は勝者側ブラケットの決勝戦へと駒を進めた。ラーセンも再び「再生デッキ」を撃ち落とし、決勝戦進出をあと目論む。しかしながら、最終ゲームで《ボーラスの城塞》を無事に着地させたものの、勝利にはわずかに届かず、勝者側ブラケット決勝戦最後の1席はプリンツの手中に収まった。

 

 一度敗北を期したプレイヤーもまだこのトーナメントから姿を消したわけではない。次の1敗がトーナメント敗退を意味する敗者側ブラケットでは、グランドファイナル進出を懸けた熾烈な戦いが繰り広げられていた。

 勝者側ブラケット決勝戦の組み合わせが決まった頃、生き残りを懸けたプレイヤーたちによる戦いは数々の名勝負を生み出した。ジェイコブのウィノータがレヴィに対して火を噴いたこの対戦もその中の1つだ。

 

 まさに、「本大会で最も意外なデッキ」の強さを見せつけた完璧なショーケースとなった。

 

 ジェイコブが「マルドゥ・ウィノータ」で快進撃を見せる一方で、フェルナンデスもベン・ウェイツ/Ben Weitzとの「再生デッキ」ミラー対決を制していた。しかし、その先待ち受けていたのは更なるミラーマッチ、ウーとの対戦であった。3ゲームにわたる一進一退の攻防が繰り広げられた後、生き残りを懸けた死闘を制したのはプロツアー・チャンピオンであった。

 

 ウーが次なる対戦者を待つ一方で、ラーセンとジェイコブによる対戦の火蓋が切って落とされた。「ジャンド・サクリファイス」も「マルドゥ・ウィノータ」も、お互いを意識して作られたデッキではない。そのため、この対戦はプレイオフの中でも特に興味深いマッチアップとなった。

 1ゲーム目では、まずジェイコブの攻勢がラーセンを圧倒した。しかし、《忘れられた神々の僧侶》、《波乱の悪魔》、そして《大釜の使い魔》と《魔女のかまど》の組み合わせは非常に強力だ。一筋縄では行かない。ラーセンがジェイコブの攻勢を抑えながら細かいダメージを撃ち続け、決着はライフレースに委ねられた。しかし、《敬慕されるロクソドン》によって自軍を強化したジェイコブの前にはわずかにダメージが足りず、惜しくも勝利を逃した。

 これも2ゲーム目に起こることの予告にすぎなかった。ジェイコブは4ターン目に24点ものダメージを与えることができるクリーチャー軍を展開したのだ。これは文字通りこの日最大の見せ場の1つとなった。

 

 これをもって、トーナメントの行方は4人のプレイヤーに託された。敗者側ブラケットではまずウーとジェイコブ、2人のベテランが決勝戦を懸けた戦いに挑む。

 やはりこの時も、ジェイコブは「再生デッキ」を迎え撃つ準備ができていた。《無私の救助犬》や《バスリの副官》などのカードでウーの回答となるカードを絞り、終始ペースを崩すことに成功した。最終ゲームでは《敬慕されるロクソドン》によって加速したクロックを前に、《荒野の再生》をもってしても太刀打ちすることは叶わなかった。

 

 これにより、ジェイコブの敗者側ブラケット決勝進出が決まった。次の対戦でプリンツ vs. 熊谷のうちのいずれか一方、勝者側ブラケット決勝戦で敗れたプレイヤーと対峙することとなる。

 熊谷のアグロデッキはプリンツから1ゲーム奪うことはできたものの、「再生デッキ」を真に止めることができるものなどないのではないかと思わせる展開となった。3ゲーム目までもつれ込んだ対戦をプリンツが勝利で収め、王者のタイトル獲得まであと1勝とした。一方で熊谷は、予想外のマッチアップであろうジェイコブが待ち受ける敗者側ブラケット決勝へと送り込まれた。

 しかしながら、日本のプロプレイヤーは明確なプランを持っていた。ジェイコブのデッキには凄まじいパワーを持った戦略がある一方で、熊谷はトップ8に名を連ねるプレイヤーの中でも最も多く、相手の動きを妨害する呪文を使用デッキに積んでいた。手札破壊や除去呪文を次々に繰り出しながらも、ウィノータの着地にインスタント・タイミングで対処するためのマナも構え、「ウィノータ・コンボ」を巧みに阻止した熊谷が1ゲーム目を制した。続く2ゲーム目ではジェイコブがドローに恵まれず、グランドファイナルはプリンツと熊谷による再戦となった。

 
 

すべてが決まるグランドファイナル

 プリンツと熊谷が三度対峙することとなった。プリンツは直前の対戦で熊谷を破り、グランドファイナル進出を決めている。しかし、先の2戦の結果はここでは関係のないことだ。このグランドファイナルで2マッチ先取したプレイヤーが本大会を王者として去ることができる。

 最初に仕掛けたのは熊谷だ。序盤に着地させた《漆黒軍の騎士》を完璧に操り、プリンツの手札にあるであろう除去呪文を読み切って的確にこれらをかわした。《裁きの一撃》、《轟音のクラリオン》、《サメ台風》などのカードが採用されているため、どのターンも熊谷にとっては罠となり得る。しかしながら、強靭なクリーチャーや除去、手札破壊で盤面を掌握し、1マッチ目は見事に熊谷が勝利を掴み取った。

 

 この大会中初めて、プリンツは苦境に立たされる。王者の称号を得るためには、熊谷から2マッチ連取する必要があるのだ。

 彼は1つ1つそれをやってのけた。彼の背後で時計が午前2時を告げる中、プリンツはこの困難に立ち向かう準備ができていた。複数の《荒野の再生》を早い段階で展開すると、しっかりと勝利と重ね、あっという間にマッチカウントをイーブンにした。これにより、決着は最終マッチへと委ねられる。

 スイスラウンド14回戦、そしてトップ8プレイオフ、2週間をかけて行われた「2020プレイヤーズツアーファイナル」。最終マッチですべてが決まる。

 そしてプリンツは、その瞬間を迎える準備ができていた。

 1ゲーム目、プリンツは驚異的なまでに連続して有効なカードを引き続けて苦境を脱し、最終ターンには《発展 // 発破》を引き込んで熊谷に致命的なダメージを与えた。

 

 これにより、2ゲーム目は熊谷が先行となる。彼の「黒単アグロ」が持つ速さは、展開が遅く4色をマナ基盤としたプリンツにとって脅威である。持ち味を活かした熊谷が2ゲーム目で勝利を挙げ、残すは最終ゲームのみとなった。

 熊谷が好発進を切り序盤から盤面を固めると、プリンツは数少ない除去呪文でそれをいなし、時間を稼ぐことに成功した。しかし、稼いだ時間で引き込むカードは土地ばかり。一方で熊谷はプリンツが《自然の怒りのタイタン、ウーロ》を脱出させたとしても、致命的なダメージを与え得る盤面を整えていた。そして迎える最終ターン、プリンツは窮地を脱する1枚を引き込まなければならなかった。

 そしてそれは見つかった。

 

 プリンツが見事な逆転劇を見せ、その数秒後には「プレイヤーズツアーファイナル」王者に輝いていた。

 

「最高ですよ」対戦を終えた後、意気揚々としたその顔に疲れを見せながらもプリンツはこう語った。「トップ8プレイオフで戦えるというだけでも幸せだったんですが、対戦組み合わせが私にとって考え得る最高のものでしたね。アグロ・デッキが2つとも自分とは逆側にいましたから。この大会に向けて調整に協力してくれたリード・デューク/Reid Duke、サイモン・ゴーツェン/Simon Görtzen、Tangrams、INickStradに感謝したいですね。」

 「プレイヤーズツアーファイナル」の王者となった今、プリンツが次に取るステップは何だろうか? その疑問に彼はこう答える。今回の勝利をきっかけにし、フルタイムでマジックのプロとなることに挑戦したいとのことだ。

「でもまずは、哲学の修士論文を終わらせることからですね。これもちゃんと記録にしないと」と笑いながら付け加えた。

20200801-Players-Tour-Finals-Kristof-Prinz-Header.jpg

 「2020プレイヤーズツアーファイナル」優勝はクリストフ・プリンツ! おめでとう!

  • この記事をシェアする

RESULTS

対戦結果 順位
最終
14 14
13 13
12 12
11 11
10 10
9 9
8 8
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

RANKING

NEWEST

サイト内検索