EVENT COVERAGE

2020プレイヤーズツアーファイナル

インタビュー

王者の選択

Adam Styborski

2020年8月5日

 

(編訳注:埋め込み動画は英語版のものです。)

「彼がこのプレイヤーズツアーファイナルのチャンピオンです!」

 

 クリストフ・プリンツ/Kristof Prinzが彼のパズルの最後となるピースを見つけ出したとき、マーシャル・サトクリフ/Marshall Sutcliffeの実況は最高潮に達し、プリンツは彼の人生において最大となるマジックの決戦の勝利をものにした。

 最も困難なデッキとの対面、しかも数多のマッチを戦い抜いての勝負で、トロフィーを勝ち取るための条件はありえないようなトップデッキをすること――そしてその欲しいカードを引き当てること――それはトーナメントに参加している競技プレイヤーが夢見るものだ。これはそれらの出来事が競技イベントという地図にプリンツの名をしっかりと刻むために結集した瞬間だった。

 そして彼はそれをすべて午前3時に体験し、自室でひとり静かにガッツポーズを取った。

 プリンツは物静かで謙虚、英語で穏やかに話すが、彼の母国はドイツで、英語は第二言語だ。「多くのグランプリでプレイし、マジックのコンテンツを英語で取り入れることで、高水準の会話が行えるようになります」と彼は説明してくれた。

 彼の人生は、その若々しい計画を反映し、彼の研究とマジックの両方に捧げられている。「私はあまり目立つようなことはしていないんです」と彼は言う。「修士号を取得するためにフルタイムで学んでいて、両親と一緒に住んでいます。私が通っているライプニッツ・ハノーファー大学は、歩いて5分のところにあるのです」

yWzftQIXZ7.jpg

 このゲームの偉大な先人たちと同様、彼もまた友情と教育が絡み合ってマジックの最新のチャンピオンという結果を引き寄せた――研究第一でありながらだ。「学校で他の生徒に教えることもあります。多いのは得意な数学についてです」とプリンツは言う。「教師になるのがいいんじゃないかと思いました――他に良さそうなものは思いつかなかったので。最初は数学と化学を学んで教師を目指そうとしましたが、研究室での実務は苦手でした。初めてプロツアーへの参加権を得たころ、第二科目を哲学へと変更しました。それはおそらく私の人生の中で『最悪の中で最善』の決断でしたが、哲学は私にとって他よりずっと楽しいものです」

 この哲学への転換は結果として、世界中の哲学のルーツ――アリストテレスやプラトンだけでなく、もっと広く宗教や道徳全般――から気候変動や量子力学といった現代の興味深い検討事項まで、多様なトピックを修めることになったようだ。

「私は、自由意志と物理的決定論の概念を並べるイマヌエル・カントのアプローチが好みなのかもしれません」とプリンツは述べる。自身の未来を追究し主張するその自由は、彼の人生と一致している。プリンツが自身の今後を選択するとき、それがたとえ最初の計画通りでないとしても、彼の地平線で何があったのかを解釈して、反響を起こすのだ。

「私は学士号を取得しましたが、教師になるには修士号が必要になります」と彼は説明した。「教師になるには修士号を獲得する必要がありますし、その後に教室で教師になるための学習が1年半必要です。それらすべてを終えるには6年かかります。修士号の課程は今年で修了となる予定ですが、問題なく終えられるかどうかはまだ分かりません。10月か11月になるかもしれません」

 しかしながら、ゲームとマジックは彼の数年にわたる研究と並走し続けた。ポケモンカードや遊戯王など他のトレーディングカードゲームから始まり、10代半ばのころにマジックを勧められたそうだ。それから統率者戦やキューブ・ドラフト――加えて時にはレガシーのイベントに参加することでマジックを学んでいった。プリンツは呪文中心のコンボデッキが好みというわけではないようだが、複雑な戦況から正しいプレイを導くというパズルは彼好みの謎解きだ。「私が好きなフォーマットは双頭巨人シールドです。戦場がそういった状況になりやすく、何より友人と一緒に遊べますからね」

 彼が大学に進学してすぐ、より大きな競技イベントのための最初の機会が訪れた。彼の友人が最初にプロツアー予選に参加してみないか、と尋ねたのだ。「なのでやってみることにしました」

oda8fXnYOZ.jpg

 統率者戦で経験を積んだ彼は、地元では《溶岩の斧》のコレクターとしても知られており、それをTwitterのハンドルネームにも反映させている。「フレイバーテキストに『そらよっ!』と書かれている限り、それは良いものです」だそうだ――プリンツはマジックの最大級のイベントにおける一般的なチャンピオン像というものには当てはまらない。最高のプレイヤーとは競技一辺倒で、常に次の勝利を追い求め、新たな挑戦の兆しに興奮するものだ、と想像するのは簡単だ。プリンツにとって、マジックは彼が競技者となる唯一の場所だ。

「何か1つ競技欲を満たせる場所があることは、とても良いことだと思います」と彼は話した。「競技者であることはとても面白いです。多かれ少なかれ、他者を打ち負かすという挑戦に夢中になりました」

 プロツアー予備予選という仕組みが生まれたことにより、プリンツは毎週末イベントに参加する機会を得た。「Cardmarket Series」でトップ8に入賞したり、(あまり結果を残せなかったものの)グランプリに参加することで、プリンツはスキルアップのための機会を多く得られることとなった。プロツアー地域予選でプロツアー『カラデシュ』への参加資格を初めて獲得しただけでなく、そこからさらに地域予選を抜け続けて3回連続でプロツアーへ参加することになったのだ。新規参加者であるにもかかわらず、彼はこの3つの大イベントすべてで2日目に残ったが、その中でもプリンツのお気に入りはプロツアー『破滅の刻』だそうだ。

「京都で開催されたプロツアー『破滅の刻』は本当に良かったですね。8名ものドイツ人が借家を使っていましたから」とプリンツは語った。彼はアルネ・ ハッシェンビス/Arne Huschenbeth、ダニエル・グラーフェンシュタイナー/Daniel Gräfensteiner、そしてトビアス・マウラー/Tobias Maurerといったドイツの傑物たちとともに過ごしたという。京都で行われた競技イベントの旅路で素晴らしかったところは、調整相手に恵まれたというだけではなく、「観光がとても楽しめたからですね」とのことだ。

 予選に参加し続けるのは大変なことで、プリンツが次に参加した大型イベントは2019ミシックチャンピオンシップⅣとしばらく間が空いていた。彼はこのバルセロナの地で《甦る死滅都市、ホガーク》をプレイしないという選択をしたにもかかわらず、「イゼット・フェニックス」で構築戦を9勝1敗という好成績で終えたのだ。最終的に17位となった彼の全体的な戦績は、2019ミシックチャンピオンシップⅥと2020プレイヤーズツアー・イベントへの招待を受けるに十分なものだった。

Grand-Prix-Phoenix-2017-Day-One.jpg

「私はプレイヤーズツアー・ブリュッセルで《真実を覆すもの》デッキを使用し、構築戦を10勝0敗で終えましたが、ドラフトでは《キオーラ、海神を打ち倒す》を2枚入れたデッキで1勝2敗という結果になりました。ミスを犯したマッチがあったと思います」と自ら認めた。

 12勝3敗という最終成績は、プレイヤーズツアー・イベントの次の開催と、プレイヤーズツアーファイナル両方への参加資格に繋がった。しかしここで、世界中のプレイヤーが同じく影響を受けた、世界の変化に伴うマジックの変化が起こる。「私は飛行機を予約済みで、ヒューストンのプレイヤーズツアーからコペンハーゲンのプレイヤーズツアーへと直接向かうつもりでした――その後コロナ(新型コロナウィルス感染症)が発生し、すべてキャンセルとなったのです」

 しかしプリンツはそこでくじけることなく、その優れたプレイングをオンラインの構築戦へと切り替えて成功した。彼は「ジャンド・サクリファイス」を用いてRed Bull Untappedドイツ予選のトップ8(リンク先は英語/ドイツ語)へと入賞したのちに、「ティムール再生」であふれかえっていたプレイヤーズツアー・オンラインという初舞台に向かっていた。それは貴重な学習体験だった。

「私はこのプレイヤーズツアーで《荒野の再生》を過小評価していました」と彼は説明する。「再生にズタボロにされましたよ。2勝5敗でドロップです。そして今週末が来ました。私は最高のデッキを身につけると決めたんです」

 もちろん、「今週末」はプリンツにとってとても良いものだった。しかしこのプレイヤーズツアーファイナルでの勝利は、彼が次に何をすべきかを分かりにくくしたようだ。教鞭か、競技か?

mYs3bdBb5w.jpg

 彼は教師になるための修士課程を終えるという機会と方針を希望する一方で、教室での追加実習が1年半かかると決められている以上、マジックに専念することはできそうにない。

「競技プレイヤーとしてやっていくのは難しくなると思います」と彼は心情を語る前に前置きした。「マジックがうまくやれているなら、若いうちに競技の舞台でプレイするほうがいいのかもしれませんけれど」

 さて、長期的な将来について決断する時期だが、プリンツは次にどうするのだろうか?

「これまで通りにやります。マジックのイベントが開催されれば参加して、修士論文も進めます」と彼は言う。「それと、これから数週間は、トップ8での試合やその内容などについて少し配信するつもりです――見てくれる人がいるなら、ですが」

 しかしマジックにおける年間最大級のイベントで優勝した以上、これまで通りとはいかないようだ。「私たちは木曜に3~4人ぐらいでゲーム・ナイトを開催しています。でも次は多分食事をおごることになるでしょうね」

 2020シーズン・グランドファイナルは、他31名の強豪プレイヤーとともに彼の姿を見ることができる、次の機会だ。当分の間、プレイヤーズツアーファイナルのチャンピオンであるクリストフ・プリンツは、次のゲームで何をすべきかについても考えるのだろう。

20200801-Players-Tour-Finals-Kristof-Prinz-Header.jpg
プレイヤーズツアーファイナル王者、クリストフ・プリンツ
 

(Tr. Yuusuke "kuin" Miwa / TSV Yusuke Yoshikawa)

  • この記事をシェアする

RESULTS

対戦結果 順位
最終
14 14
13 13
12 12
11 11
10 10
9 9
8 8
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

RANKING

NEWEST

サイト内検索