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戦略記事

八十岡 翔太のスタンダード解説 ~ミッドレンジの正体~

Hiroshi Okubo

 チャンピオンズカップファイナル サイクル1プロツアー・ファイレクシアはパイオニアで開催されたこともあり、スタンダードのプレミアムイベントは久しぶりの開催となった。

 メタゲーム・ブレイクダウンでは今大会のメタゲームもお伝えしたが、今大会はトップメタであるグリクシス・ミッドレンジを筆頭に、ジャンド・ミッドレンジや白単ミッドレンジなどが上位に並ぶミッドレンジ中心の環境となっている。

 はたしてなぜミッドレンジが流行っているのか、そしてミッドレンジにはどういった強みがあるのか。こうした疑問に、公式の生放送でも解説を務める八十岡 翔太が答えてくれた。


八十岡 翔太
ミッドレンジ環境はどのように発生するのか

──「まず、現在のスタンダード環境を一言で表すならどのような言葉になりますか?」

八十岡「みんな感じていると思うけど、『ミッドレンジ環境』だね。どのデッキも3~4マナ域に強いカードが集中していて、逆に1マナのカードが弱い。『ファイレクシア:完全なる統一』で《離反ダニ、スクレルヴ》が出てきて白系のデッキが息を吹き返してきたかなって感じ」

──「ミッドレンジ環境について掘り下げたいのですが、どういったカードプールのときミッドレンジ環境になりやすい、といった傾向などはありますか?」

八十岡「おおまかな傾向としてはだいたいこんな感じかな」

  • 重くて強いフィニッシャーカードやコンボデッキの不在
  • クロックパーミッションのようなデッキがいない
  • 部族など強力なコンセプトを持ったデッキがいない

八十岡「これが全部ではないけど、こうした要素が組み合わさるとミッドレンジが強い環境になりやすいかな。一つずつ例を挙げると、たとえば『ゼンディカーの夜明け』~『「イニストラード:真夜中の狩り』環境のイゼット天啓や『ラヴニカのギルド』~『イコリア:巨獣の棲処』環境のスゥルタイ根本原理のように、一瞬でゲームが終わってしまうフィニッシャーがある環境だとミッドレンジデッキは成立しにくい。同じような理由で、コンボデッキが強い環境のときもミッドレンジは立ち位置が悪いね」

──「たしかに、他にもランプデッキのような大味なデッキはミッドレンジ系のデッキに強いイメージがありますね」

八十岡「クロックパーミッションのような、より軽くて妨害手段も豊富なデッキが存在する環境ではミッドレンジよりもクロックパーミッションのほうが選ばれやすい傾向にある。そもそもの定義の話になるけど、ミッドレンジ=殴れて妨害も強いデッキだから、クロックパーミッションはミッドレンジのコンセプトをより先鋭化させたデッキとも言えるね」

──「言われてみれば『ゼンディカーの夜明け』環境に見られたディミーア・ローグのように、クロックパーミッションが強い環境ではミッドレンジデッキはほとんど見られませんでした」

八十岡「次に、より強力なコンセプトを持ったデッキがいないこと。だいぶ昔の話になるけど、『ローウィン』期のスタンダードなんかは分かりやすい例かもしれない。キスキンとかエルフとかフェアリーはいたけど、ミッドレンジみたいなデッキはほとんどいなかった。そもそもミッドレンジって明確なコンセプトが存在しないデッキだから、強いコンセプトがある環境ならみんなコンセプトデッキを組むよね」

ミッドレンジデッキの強みとはなにか

──「ここまでミッドレンジが流行る環境の土壌についてお話しいただきました。逆説的にミッドレンジの弱点の解説にもなりましたが、逆にミッドレンジの強みは何でしょうか?」

八十岡対戦相手のゲームスピードを操作できることと、相手にしたとき対応が難しいことの二つだね。除去や打ち消しで対戦相手の展開を遅れさせたり、クリーチャーを出して殴って早めに決着つけたり、異なる2つのゲームスピードをどちらもできるところが強い。サイド後はクリーチャーを増やしてアグロにしたり重いカードを増やしてコントロールにしたりとデッキの戦略そのものをスイッチできて、相手にしたときの対応の難しさにもつながっている」

──「器用なデッキですよね。それゆえに実力者が好むデッキという印象もあります」

八十岡「ミッドレンジが流行っている環境って、ミッドレンジミラーもよく起こるからね。ミラーマッチが好きというか、ミラーマッチでも差をつけられる自信がある、つまり構築理解度が高かったりプレイがうまかったりする人がよく選ぶデッキではあると思う」

──「グリクシス・ミッドレンジを使っている人も、よくミラーマッチが楽しいって言ってますね」

八十岡「そうだね。ただ、ミッドレンジのミラーマッチって実力勝負であることは大前提として、サイド後とかは相手より重いカードをサイドインしてリソース勝負で優位に立とう、みたいなゲームになりやすい。そうしてリソース勝負になって長いゲームをしていると、結局どちらがより有効札を多く引いたかっていう運の要素のブレも出てくる」

──「安定志向のアーキタイプ同士だからこそ、押し引きも安定していて、かえって運の要素で差がつくということですか」

八十岡「そう。ただ、ミッドレンジの中でももう少しアグロ寄りの、もう少し攻め気のあるデッキだと相手のミスを誘発させやすい。もちろん自分もミスする可能性があるけどね。今のグリクシス・ミッドレンジはどちらかというとリソース勝負をするタイプのデッキだから、もしも自分がこの大会に出るとしたら、できれば他のデッキを選んで、デッキ選択で差をつけたいって思うかもしれない。エスパー・レジェンズなんかはいいかも?」

ミッドレンジ環境へのアプローチ

──「今、デッキ選択で差をつけるというお話が出ました。少し掘り下げたいのですが、まずデッキ選択の要点は何でしょうか」

八十岡「まずデッキ選択の大原則として、特定の一つのデッキのシェアが30%を超えるような一強環境であればトップメタを使うかトップメタに強いデッキを探す。これはミッドレンジ環境に限った話ではないし、二強環境だとまた少し話は変わってくるけどね。こういうときに一番よくないのは『トップメタ以外のデッキには強いです!』みたいなデッキを使うことだね。トップメタから逃げちゃいけない」

──「なるほど。その上で、ミッドレンジのような明確な弱点の少ないデッキが環境のトップにいる場合は、どのようなアプローチで立ち向かえばよいでしょうか?」

八十岡「難しいところだけど、一つ言えるのはリソースで勝とうとするデッキにはテンポで勝つということ。今、環境で比較的グリクシス・ミッドレンジに強いと言われているデッキのほとんどが、青単テンポやエスパー・レジェンズのような軽くて殴れるデッキが多い。まぁ、グリクシス側がどれだけそれらのデッキを意識しているかでこの相性も変わってくるんだけどね」

──「おおまかな傾向として、ですね」

八十岡「ただし、最初にも言ったとおり、現行環境に限った話をするならやはり軽量クリーチャーが全体的に弱くてテンポ戦略というアプローチ自体が取りにくいというのはあるね。多色化も容易で、2色くらいのデッキを組むなら3色にしちゃってもリスクが少ない。思い切って単色デッキにするとカードパワーが犠牲になってしまって、デッキ自体の強さが一段回劣る。こういうところが現行環境の特徴といえるかな」

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 八十岡によれば、ミッドレンジが流行するにはいくつかの条件があり、現行環境はその条件にぴったりと当てはまる。とすれば、グリクシス・ミッドレンジやジャンド・ミッドレンジのようなフェアデッキによるリソース勝負の環境になるのはある種の必然だったのかもしれない。

 しかしながら、グリクシス・ミッドレンジもまた完全無欠なデッキというわけでもない。赤単アグロや青単テンポなど、グリクシス・ミッドレンジを倒すためのアプローチはいくつかあり、実際今大会ではそれらのデッキを持ち込んでいるプレイヤーも少なくない。グリクシス・ミッドレンジ側も対策できるデッキの数には限りがあり、これらのデッキがそうした対策の間隙を縫うことができるかどうかが今大会の焦点となってくるだろう。

 ミッドレンジを中心に回るチャンピオンズカップファイナル サイクル2、この後の大会の模様からも目が離せなくなりそうだ。

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