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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

岩SHOWの「デイリー・デッキ」:ターボ・フォグ(Pauper)

岩SHOWの「デイリー・デッキ」:ターボ・フォグ(Pauper)

by 岩SHOW

 小柄で、自分からは攻撃しないが危害を加えられるとそれをいなして相手を打ちのめす、そんなキャラクターをさまざまな作品で見ることができる。パワータイプのキャラクターと戦わせて、柔よく剛を制するのか、剛力こそがカタルシスなのか、という構図で観る者を楽しませてくれる。

 マジックにおいても、時折こういうマッチアップが起こるものだ。ショーとしての側面も持つマジックのトーナメント、配信していてこういうマッチアップに遭遇すると、独特の盛り上がりを見せて実況冥利に尽きるものなのだが......やってる方はたまったもんじゃなかったりする。マジックにおけるパワーごり押し系はオールインするビートダウンの類が容易にイメージできる。では、合気道的なミステリアスパワーで相手を翻弄するデッキは? コントロール......と一口に言っても、除去の嵐で捌くタイプなんかだとそれも剛のひとつの形という印象を受ける。

 柔のデッキというのは......自らは攻撃しない。相手の攻撃は受け流す。マジックでそんなことが可能なの?

 できるんですよこれが。昔から、「ターボ・フォグ」なるデッキがある。フォグとは《濃霧》およびそれと同等の効果を持った呪文を指す。青とフォグ系呪文を担う緑or白を用いて作られるデッキの総称だ。

 青が主体となっているのは、打ち消しが使えるのはもちろんのこと、ドロー呪文を用いることができるからだ。とにかくライブラリーからカードを引いて引いて引きまくって、フォグ系呪文をかき集めて全力で受け流す。そうこうしている間に、《ジェイス・ベレレン》のようなプレインズウォーカーの能力で対戦相手のライブラリーを吹き飛ばし、ドローができない状況に追い込んで勝ちを狙う。まさしく達人のデッキだ。『アラーラの断片』『コンフラックス』なんかのころのスタンダードではそこそこ見るデッキだったなぁ。

 今日はコモン限定構築Pauperにて現代を生き続ける「ターボ・フォグ」デッキを紹介しよう。フォグ系呪文は軒並みコモンだから、コモン縛りになっても簡単にデッキが作れるのだ。コモンにも十分なドロー呪文はあるしね。かつては《宝船の巡航》もあったくらいだし......。問題はフィニッシャー、もちろんコモンのプレインズウォーカーなんかいないので、別の勝ち手段が必要になってくる。その辺は、実際にリストを見て確認してもらうとしよう。

Linsanga - 「ターボ・フォグ」
Magic Online Pauper Constructed League 5勝0敗 / Pauper (2016年11月27日)[MO] [ARENA]
5 《
3 《
4 《教議会の座席
2 《伝承の樹
4 《進化する未開地
2 《広漠なる変幻地

-土地(20)-


-クリーチャー(0)-
4 《渦まく知識
4 《定業
4 《蓄積した知識
4 《金言
4 《濃霧
4 《一瞬の平和
4 《もつれ
4 《秘儀の否定
3 《交錯の混乱
4 《ジェイスの消去
1 《物静かな破損

-呪文(40)-
4 《散弾の射手
4 《払拭
2 《水流破
2 《ロフェロスの贈り物
3 《物静かな破損

-サイドボード(15)-

(編注:《もつれ》はMagic Online専用セット『Vintage Masters』にてコモンで収録されています。)


 土地20枚・クリーチャーでない呪文40枚のリストがなんとも眩い。そして御覧の通り、フィニッシャーは《ジェイスの消去》だ。

 たった2マナのエンチャントが、勝利するには十分な武器なのじゃ。カッカしながら肩に力入れてクリーチャーを出す必要なんかないんじゃよ。思わず達人口調になってしまったが、このデッキを使っていると力むことの虚しさみたいなものを体験できて軽く達観してしまうのだ。

 このデッキの目指すところは、《ジェイスの消去》を設置してからのドロー呪文の連打。《ジェイスの消去》の能力を誘発させまくって、対戦相手のライブラリーを墓地に落とし続け、ライブラリー切れにさせて勝利しようというもの。こうやって文字に起こすと、そんな気の遠くなるようなプランがまかり通るのか?と思ってしまうが......これが案外どうにかなる。実際に使用してみると、驚きの体感速度を味わうことができる(実際問題ターンは結構かかってるけどね)。

 とにかく《ジェイスの消去》が初手に欲しい。2ターン目にこれを設置してからゲームを始められるとものすごく楽だ。なので、割と積極的にマリガンしても良いだろう。土地2枚と《ジェイスの消去》があるならば、それ以上の贅沢は言わずにそれで始めるべし! もし《ジェイスの消去》がなくても、手札に十分な量のドロー呪文があるというのであれば、それらで掘り進んで探すという決断をしても良いが、どうせすぐに手札はリカバリーできるのだから、ワンマリガンくらいは積極的に行っていきたいね。

 フォグ系呪文は序盤においては役に立たないので、キープ基準にはならないということを覚えておこう。《交錯の混乱》は相手のデッキがゆったりしているのが分かっている状況下では、変成で《ジェイスの消去》に繋げられるカードとしてキープ基準になることもある。

 《ジェイスの消去》を設置したら、とにかくドロー呪文を連打。インスタントの呪文は相手のターンに唱えることで隙を無くすことができるが、土地を探したり以降のプランを定めたりすることも考えて自分のターンに唱えることも多い。

 《渦まく知識》はレガシーでも定番の、「不要なカードを2枚トップに戻してフェッチランド起動でシャッフル」というテクニックをここでも披露することができる。《進化する未開地》《広漠なる変幻地》はむやみやたらに使ってしまわないように注意!

 《金言》は他のフォーマットではまず見ない、敵に塩を送る類のカードだが、このデッキであれば相手にカードを引かせることもさして苦痛ではなく、むしろダメージを与えていると側面もある。《ジェイスの消去》下では相手のライブラリーを3枚削ってこっちの手札が2枚増える、と考えると実にお得なカードだ。

 相手にカードを引かせる繋がりで《秘儀の否定》もここで紹介しておこう。呪文を打ち消し、次のアップキープの開始時にカードを1枚引く。ついでに対戦相手もカードを2枚まで引いてもOK。普通に使えばデメリットが大きすぎるカードで、かつてはコンボを通すためだけのカードとして用いられたりしたのだが、《ジェイスの消去》があればバンバン普通の打ち消しとして使っていける。ライブラリーの残り枚数が30を切ったあたりから、対戦相手が「ここでカードを引いても良いものか...」と逡巡するのが楽しくてしょうがない。自分の不要な呪文に対して撃って、3枚ドローに変換するという技もあることを覚えておこう(あんまりしないけど)。

 これらのドロー連打で対戦相手のライブラリーを削りつつ、フォグ系呪文を回収していく。対戦相手はいち早くあなたのライフを0にしようと全力で攻撃してくるだろう。そこでフォグ!......というのは早計だ。このデッキを使っていて学べるのは、ギリギリまで引きつける忍耐力。例えばあなたのライフが12点。対戦相手の攻撃で、盤面を見るに7点は喰らうという状況。さらに手札から何か飛んでくることも考慮しつつ......さあ、ここで《濃霧》《一瞬の平和》《もつれ》を唱えるか否か?

 これらの呪文は1ターン稼ぐ呪文であり、大変貴重な限られた資源である。対戦相手の攻撃でこちらのライフが0にならないのであれば、すなわち唱え損という状況に確実に遭遇する。じっくりと対戦相手のデッキから想定される手札を考慮して、「まだ死なない」と判断したのであれば、極限まで引きつけてみよう。もし相手が手札から《巨大化》系の呪文を唱えてきたら、その時に改めてフォグを使用すれば良いのだ。まあ、「ここまでは喰らってOK」と思ってたら喰らっちゃいけないダメージだったりすることもあるんだけどね。そこは経験を積むしかない。慣れれば宙を舞う落ち葉のように、相手の攻撃をのらりくらり躱しつつ、その息の根を止めることができるだろう。

 とにかく、他のデッキにはできないマジックが楽しめるので、ビートダウンに行き詰まった時などには一度試してみてほしい。悟りの境地に達することができるかもしれない。《物静かな破損》を自分のアーティファクト土地に貼って、そこから得られるライフの総量と手札のフォグの枚数、対戦相手のライブラリーと自分がドローできる枚数から瞬時に決着ターンが読めた時、君の護身は完成している!......たまに絶対死んでるやん、という未来しか見えないこともあるけどね......。

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