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Red Bull Untapped 2021 日本大会

観戦記事

決勝:手塚 陽 vs. 宇都宮 巧 ~レッドブル、翼をさずける~

伊藤 敦

 

 

 決勝とは、すべての物語が結実する場所である。

 233名の参加者は、ついにたった2人にまで絞られた。

 手塚 陽。「シミック・マーフォーク」を駆り、64人通過の初日を5勝3敗の60位でギリギリ通過。だが、その後はゲーム1全後手確定の5戦を勝利し、ここまで勝ち上がった剛の者だ。

 インタビューのたびに「レッドブル飲んで頑張ります」と答える徹底したレッドブル推しぶりで、準々決勝や準決勝でもレッドブルを飲みながら戦っていた。すでに翼どころか宇宙の真理までさずけられていてもおかしくはない。

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 宇都宮 巧。一番人気の「イゼット・フェニックス」でありながらも世界王者・高橋 優太作成の《くすぶる卵》入りのリストで他の同じデッキ使いたちに差を付け、さらに絶え間なくドローやディスカードなどの選択を強いる繊細なデッキ構造に関しても、3度のグランプリトップ8入賞経験で実証済みの確かなプレイングスキルでもって見事に使いこなしてみせた。

 何より、青赤コントロール然とした動きからの《アゴナスの雄牛》によるリソース補充で逆転というゲーム展開を幾度も繰り返している点で、この大会との必然のシナジーを感じざるをえない。まさしく「レッドブル」によって「翼をさずけ」られ、準々決勝、準決勝と1ゲームも落とさずここまで来たのだ、と。

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 そう、2人は奇しくもレッドブルによって導かれた者同士。

 そしてこの戦いの勝者、すなわち優勝者は賞金1万ドルを獲得するとともに、12月9~12日開催のポルトガル大会FINALイベントへの招待と、日本選手権2021 FINALへの参加権利も得る。そう、つまりはまさしくポルトガルへの「翼」を手にするのだ。

 もはやこの戦いは、ただ強い方が勝つのではない。レッドブルを愛し、レッドブルにより愛された方が勝つのだと。

 そう感じさせるほどに運命めいた何かによって導かれた2人。物語の最後のページに綴られるのは、はたして手塚か宇都宮か。

 

ゲーム1

 先攻の宇都宮が《尖塔断の運河》を出してターンエンド。手札には《蒸気孔》もあったが、《真珠三叉矛の達人》の「島渡り」をなるべく機能させないよう、将来のライフ2点支払いの可能性を加味した上で下した判断。こうした細やかな期待値計算を刻一刻と変化するシチュエーションに合わせてできるのが、宇都宮がこのデッキで勝ち上がれた大きな要因であると早くも感じさせる立ち上がり。

 対し、手塚は《海辺の斥候》で手札の《繁殖池》を《Tropical Island》に変換する初動。このヒストリックでしか使えないマーフォーク最強の1マナ域の存在も、今回のマーフォークの躍進の一因であることは間違いない。

 2ターン目は宇都宮が早くも《くすぶる卵》を着地させたのに対して、手塚は《マーフォークの霧縛り》を送りだす。

 そして早くも3ターン目にビッグターンが訪れる。すなわち、《信仰無き物あさり》連打から《邪悪な熱気》で《マーフォークの霧縛り》を除去しつつ《弧光のフェニックス》を戦場に戻した宇都宮が、ダメージレースで先行したのだ。

回転

 ただこのビッグターンは、手塚にとっても2つの点でプラスに働いたターンにもなった。すなわち1点目は、{R}{R}{R}を用意するために宇都宮が《蒸気孔》をセットせざるを得なかったため、返す手塚の《真珠三叉矛の達人》+《霧の呼び手》という展開で「島渡り」が機能しはじめ、《くすぶる卵》がブロッカーとしての機能を半ば果たさなくなったこと。

 そして2点目は、宇都宮が《信仰無き物あさり》で残すべき2枚の手札について判断ミスを犯していたことだ。

 それを証するかのように、返すターンに《考慮》《選択》と残していた手札に《くすぶる卵》を引き込んだ宇都宮は《信仰無き物あさり》を「フラッシュバック」するのだが、4枚目の土地を引きこめず、《くすぶる卵》を「変身」を1ターン遅らせる結果となってしまう

 3ターン目に連打した2回目の《信仰無き物あさり》の時点で、4枚目の土地である《》は実は宇都宮の手札にあった。ただこの「イゼット・フェニックス」は《弧光のフェニックス》を戦場に戻すことが戦略であるデッキということで、セオリーとして「1マナドロー呪文は可能な限り手札に残すべき」というものがある。あるいは、ドロー呪文さえ残しておけば、後からいくらでも巻き返しがきくという対応力の高さが招いてしまった裏目とも言えるかもしれない。

 ただ、セオリーより優先すべき「利確」のパターンも時には存在する。《》さえ残していれば、このターン7点を入れられてほぼほぼ宇都宮の勝勢だった。いずれにせよ宇都宮は、順調すぎる展開に甘えるあまり、1ターン先のプレイまで「考慮」し「選択」するという基本を怠ってしまったのだ。

 一方、ターンが返ってきた手塚は4マナ構えての3体アタックを敢行し、唯一「島渡り」を持たない《真珠三叉矛の達人》が《くすぶる卵》にブロックされたところで《集合した中隊》をプレイ。もしここでマーフォークを全体強化する「ロード」が2体いれば即座にゲームセットだったが、めくれたのは「ロード」換算できる《玻璃池のミミック》と《銀エラの達人》で、どうにか宇都宮は九死に一生を得る。

 しかし、残りライフ8点まで追い込まれて次がラストターンであることに変わりはない。

 今度こそ慎重にプランを立てた宇都宮は、まずは《考慮》で《くすぶる卵》を《灰口のドラゴン》へと変身させる。するとこの際に幸運にも《弧光のフェニックス》が墓地に落とせたことで、あと呪文を2枚唱えることができれば、2点+2点+10点で手塚のライフ14点をぴったり削りきれる算段がつく。

 それでも問題は、3枚の土地に《溶岩滑りの小道》が含まれていたせいで手札の《考慮》《選択》を唱えきれない点にあった。

 やむなく《表現の反復》を唱える宇都宮。これならアンタップインの青マナ源さえ引ければ手札の《考慮》が3枚目の呪文となる。

 だがあろうことか、このタイミングでめくれた3枚の中に土地はなかったのだ!

 しかもトップは《邪悪な熱気》だったので、実は《表現の反復》ではなく《考慮》か《選択》なら勝っていた。もちろんこれは先ほどとは違って期待値に従ったプレイであり、厳密にはミスとは呼べない結果論だが、それでもミスがこの結果を呼んだのではないと誰が断言できるだろうか。

 いずれにせよ紙一重の差でラストターンにも手塚にトドメを刺し損ねた宇都宮は、マーフォークの大軍勢に骨までかじり尽くされてしまった。

手塚 1-0 宇都宮

 

 人は誰しも完全ではない。その点、デッキパワーやカードパワーの高さは、その不完全性を覆い隠す帳尻合わせの役割も果たす。「デッキが強ければ多少ミスっても勝てる」からだ。

 ただ、ハイレベルな対戦においてはそのミスの有無はやはり致命傷となる。「イゼット・フェニックス」というデッキが完璧にプレイするのがいかに難しいかを、宇都宮は皮肉にも自ら実証する形となってしまった。

 

ゲーム2

 宇都宮がワンマリガン。手塚が後手2ターン目《銀エラの達人》スタートなのに対し、宇都宮は3ターン目に《くすぶる卵》を出しつつ1マナ構えがファーストアクション。

 ここで手塚は《クメーナの語り部》を出して2マナを構え、宇都宮のアップキープに《マーフォークのペテン師》をプレイという変則ムーブ。構えられていた1マナを警戒しての動きと思われたが、ここには見事に《神秘の論争》が当たり、宇都宮のテンポを阻害した形となる。

 さらに返す手塚は《霊気の疾風》で《くすぶる卵》を排除。4点アタックにはたまらず《邪悪な熱気》が飛ぶが、なおも《銀エラの達人》をプレイして着実にアドバンテージ差を広げていく。

 一方、《信仰無き物あさり》が引けていない宇都宮は手札に来てしまった《弧光のフェニックス》をブロッカーに立て、《銀エラの達人》と相打ちにとってまで墓地に送り込む。そして続けて出された《海と空のシヴィエルン》に対しては、《ドラゴンの怒りの媒介者》からの《溶岩コイル》でどうにか食らいついていく。

 だが、土地が4枚でピッタリ止まり、潤沢な手札を抱えた手塚がその土地をすべて使わずにターンを返すと、《集合した中隊》からの大幅打点増強が見えている。ここで宇都宮は前のターンに「諜報」でトップに積んでいた《表現の反復》から《信仰無き物あさり》、さらに《考慮》とつなげ、《弧光のフェニックス》2体を戦場に戻して先に殴りきろうとする……だが、誘発に対応してプレイされた《集合した中隊》でめくれたのは、《マーフォークの霧縛り》と霧の呼び手》!!!

 フェニックスは急に止まれない。虚空へと無為に消えていく不死鳥を前に、宇都宮の表情が歪む。

 なおも手塚は《海と空のシヴィエルン》を送りだすと、宇都宮が《考慮》からフルタップで唱えた《神々の憤怒》を《霊気の疾風》!

 盤面の打点は9点。そして宇都宮のライフもまた、ちょうど9点しか残されていないのだった。

手塚 2-0 宇都宮

 

宇都宮「1本目、《》を捨てなければ……」

 マジックはやはりマジックであり、 何を食べたり飲んだりしようがプレイに影響するはずがない……というのは、それはそれで一面では真実だ。

 しかし、わずかな差でこんなにも簡単に勝利を手放せてしまうこのマジックというゲームを、それゆえに愛し、のめり込む者たちがいるというのもまた事実である。

 そして、この大会に参加することを決めた最初の手塚の決断があったからこそこの決勝戦が生まれた以上、その決断を支えた日々の何気ない生活のさまざまな一要素それぞれが、蝶の羽ばたきのように結果に寄与したはずなのだ。

 だから、ほんのわずかな分岐点から日常を変える意志を持つ者、一歩を踏み出した者の背中を押す……「翼をさずける」とは、きっとそうした些細なきっかけを与えることを指すのだろう。

 レッドブルを飲み、決断から変革を掴みとった手塚こそ、翼をさずかるに相応しい。

 Red Bull Untapped 2021 日本大会、優勝は手塚 陽! おめでとう!!

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