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Red Bull Untapped 2021 日本大会

観戦記事

準決勝:宇都宮 巧 vs. 河野 融 ~激突! レッドブル対マタドール~

伊藤 敦

 

 

 トーナメントを勝ち上がってきた勝者には、自然と物語が付いてくるものだ。

 この大会の大本命だった「イゼット・フェニックス」を駆る宇都宮は、地脈によって「レッドブル」こと《アゴナスの雄牛》の加護を受け、ここまで勝ち上がってきた。

 だが、トップ8に残った他の「イゼット・フェニックス」2人が準々決勝で散ったことを考えると、実際にはここまでの道のりを支えたのは、世界王者・高橋 優太のリストの完全コピーであること……すなわち、くすぶる卵》の存在が大きかったであろうことは想像に難くない。

 準々決勝ではプロツアー王者の瀧村を相手に《墓地の侵入者》に《邪悪な熱気》を打ち込んで「護法」で手札を捨てた挙句、「昂揚」が未達成で除去できないというお茶目なプレイミスを披露したりもしていたが、それでも瀧村の超フラッドで勝利して「さっきの試合でいきなり手札を2枚捨てて、逆に緊張がほぐれました。あれよりひどいミスはもう起こらないと思うので」と気にしていない様子。

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 対する河野は「セレズニア・人間」。MTGアリーナで開催されたセットチャンピオンシップ予選を同じアーキタイプで突破しており、習熟度は申し分ない。準々決勝でも江原の「イゼット・フェニックス」を《アゴナスの雄牛》の上から殴り倒している。

 暴れる牛を抑え込む「人間」がいるとすれば、それはマタドールに他ならない。この大会のために東京・中野の会場までわざわざ福島から来ており、「決勝まで行ったら終電がなくなる」という不退転の覚悟のもとで対戦に臨む河野は、まさしく命のやりとりにも匹敵する緊張感をもってこの場に座っていることだろう。

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 もはやレッドブルの化身と化した宇都宮を、河野ははたして闘牛場 (アリーナ) の地に沈めることができるか。

 

ゲーム1

 宇都宮がマリガンスタートで2ターン目に《くすぶる卵》を送りだすと、河野も《光輝王の野心家》でこれに応える。

 しかし、《信仰無き物あさり》を唱えた宇都宮に3枚目の土地がない。そしてターンを返された河野の側も3枚目の土地がなく、《光輝王の野心家》2体目を召喚して1体目を4/4にして4点クロックを作りにいく。

 このまま手をこまねいていてはターン経過ごとにサイズアップする《光輝王の野心家》に押しつぶされてしまう宇都宮は、しかし何をするにしてもまずは土地とばかりに《表現の反復》を唱え、3枚目と4枚目の土地をしっかりと確保することに成功。余ったマナで《ドラゴンの怒りの媒介者》を送りだして反撃の準備を整える。

 だが、3枚目の土地として《ハイドラの巣》を引き込んだ河野がなおも送り出したのは3体目の《光輝王の野心家》!8点アタックで早くも宇都宮のライフは8まで詰められてしまう。

 それでも宇都宮が《考慮》《信仰無き物あさり》《邪悪な熱気》と重ねて《光輝王の野心家》3連星のうち4/4まで育った1体を処理しつつ《弧光のフェニックス》をブロッカーに立たせると、《くすぶる卵》のカウンターも6個まで溜まり、河野の側もいよいよ猶予がない。

回転

 しかし、ここで4枚目の土地をスムーズに引き込めた河野はまずは4/4の《光輝王の野心家》のみでアタックすると、これが《弧光のフェニックス》でチャンプブロックされた後で第2メイン・フェイズに《スレイベンの検査官》を召喚。3マナを構えてターンエンドすることで、エンド前の《選択》が唱えられたタイミングで変身した《灰口のドラゴン》 を、《巨人落とし》の「出来事」である「切り落とし」で即座に除去し、一度も2点ダメージを飛ばさせずに対処することに成功する。

 他方、こうなると戦線を再構築しなければならない宇都宮は、2体目の《ドラゴンの怒りの媒介者》《選択》と唱えてからアゴナスの雄牛》を「脱出」することで、戦線を厚く保ちながら手札を補充することに成功する。

 ただ、それでもイニシアチブはまだ河野の側にある。《粗暴な聖戦士》で《アゴナスの雄牛》を追放すると、4/4《光輝王の野心家》+4/4《光輝王の野心家》+2/3《スレイベンの検査官》の3体アタックは「昂揚」を達成した《ドラゴンの怒りの媒介者》すらチャンプブロックに回らざるを得ず、さらに6点が通り宇都宮のライフは残り2点。しかも《巨人落とし》も召喚され、土地には《ハイドラの巣》もありと、このターン仕留めきれないまでも宇都宮をあと一歩のところまで追い詰める。

 しかし、宇都宮も手札と墓地に3枚の《弧光のフェニックス》が見えており、「昂揚」した《ドラゴンの怒りの媒介者》で河野のライフを14点まで追い詰めているため、4枚目の《弧光のフェニックス》が見えれば即勝利という状況。

 そんな状況で宇都宮が唱えた《表現の反復》からめくれたのは……《邪悪な熱気》《選択》、そして約束の終焉》!

 慎重にプランを練った宇都宮は、まずは《邪悪な熱気》で《光輝王の野心家》を除去、続けて《約束の終焉》で《邪悪な熱気》を再利用して《粗暴な聖戦士》を除去して《アゴナスの雄牛》をブロッカーとして復帰させつつ《信仰無き物あさり》をも再利用。《弧光のフェニックス》3体を戦場へと戻し、一気に盤面を逆転する!

 河野もブロッカーとして《精鋭呪文縛り》を立てつつ《巨人落とし》の能力用のマナを構えて再逆転の道を模索するのだが、なおも宇都宮は《表現の反復》で《邪悪な熱気》にたどり着くと、《巨人落とし》も即座に除去。

 返しの飛行の打点だけでライフを削りきられることが確定している河野は、宇都宮が何も持っていないことを祈って《輝かしい聖戦士、エーデリン》を出しつつ《ハイドラの巣》まで起動してフルアタックを敢行しようとするのだが、《大魔導師の魔除け》で《スレイベンの検査官》のコントロールを奪われると、宇都宮のたった2点残ったライフを削りきることはどうやってもかなわないのだった。

宇都宮 1-0 河野

 

 ギリギリの勝負で中盤の手札を支えたのはやはりというべきか、「脱出」と《粗暴な聖戦士》からの復帰で2度も手札をリフレッシュしつつも戦線に睨みを利かせたアゴナスの雄牛だった。宇都宮という男、どこまでも「レッドブル」に愛されている。

 他方、序盤の土地ストップのラグが響いてわずか2点を詰め切れなかった河野は、先手の2ゲーム目で巻き返しを図る。

 

ゲーム2

 ワンマリガンの河野はそれでも《エスパーの歩哨》から《サリアの副官》と上々の立ち上がり。さらに続くターンには《スレイベンの検査官》と攻め立てる。

 対し、《寓話の小道》2枚で動きづらい宇都宮は《サリアの副官》こそ後手2ターン目に《エスパーの歩哨》にカードを引かれながらも《邪悪な熱気》するものの、3枚目の土地がまたも詰まってしまう。それでも再び引かれつつも唱えた《選択》で《尖塔断の運河》を引き込むと、《エスパーの歩哨》も《邪悪な熱気》してクロックを1点まで引き下げる。

 マリガン分の手札をお釣り含めて取り返した河野はイーオスのレインジャー長から《不屈の護衛》と展開。一方宇都宮はエンド前《考慮》からたどり着いたサイドカード・歴戦の紅蓮術士で盤面を固める。

 宇都宮の態勢が整う前に畳みかけたい河野は《スカイクレイブの亡霊》で《歴戦の紅蓮術士》を排除。宇都宮のサイドカードである《神々の憤怒》の直撃を受けないように注意しつつクロックを継続する。

 返す宇都宮は《神々の憤怒》でいったん盤面をリセットすると、《ドラゴンの怒りの媒介者》を召喚。一方マナフラッドに陥ってしまった河野は、それでも全体除去を使わせたことを信頼して《粗暴な聖戦士》で《スカイクレイブの亡霊》から生まれたイリュージョン・トークンを自ら除去し、宇都宮のライフを9点まで追い詰めつつ《エスパーの歩哨》を展開する。

 だが、2/2や3/3サイズの戦闘が続くこの局面で宇都宮が送り出したのは値千金の0/4サイズであるくすぶる卵》! 河野にとっては立て続けに2体のクリーチャー除去カードを吐いたタイミングでの着地となり、解答が用意できない。

 しかもここで河野のドローは無情にも8枚目の土地。さらにフルアタックに対しては《邪悪な熱気》が飛び、「昂揚」を達成した《ドラゴンの怒りの媒介者》もブロックに加わって河野の戦線は大打撃を受けてしまう。

 そしてさらに宇都宮がプレイしたのはアゴナスの雄牛》!

 その後は宇都宮が不要なカードを《信仰無き物あさり》で有効なものに変換して2・3体目の《ドラゴンの怒りの媒介者》まで並べて攻勢に回るのに対し、ここぞというところで《集合した中隊》にたどり着けなかった河野は、宇都宮のライフを削りきることができず逆に地に沈められてしまったのだった。

宇都宮 2-0 河野

 

河野「セットチャンピオンシップ予選を抜けた形だったら、サイドに《石の宣告》2枚と《スカイクレイブの亡霊》1枚が増えていて戦えたんだけど……1ゲーム目、手掛かり起動くらいしか選択肢なかったかな……」

 1ゲーム目はわずかにマナスクリュー、2ゲーム目は完全にマナフラッドという、河野にとってはともすれば実力を出しきれず不完全燃焼な思いを抱えても仕方ない決着だったと思われるが、それも「よくあること」と受け入れてあくまでも自身がコントロールしえた選択の中で反省点を探すその口調からは、逆に試行回数の多さという十分な努力に裏打ちされているからこその「やりきった」感が感じ取れた。

 実際、セットチャンピオンシップ予選突破と合わせての今回のトップ4という成果は、もちろんあと2勝届かなかったという悔しさもあれど、それでも十分に立派なものと言えるだろう。

 河野には、また次なる戦いが待っている。セットチャンピオンシップや今後の大会での、河野のさらなる活躍に期待したい。

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