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Red Bull Untapped 2021 日本大会
準決勝:小原 壮一郎 vs. 手塚 陽 ~合理の1ランドキープ~
トップ4にまで勝ち残ったのはちょうど4種類の、色もバラバラに散ったアーキタイプたちだった。
準々決勝ではグランプリ・京都2015での準優勝経験もある村上を倒して準決勝に進出した小原は、「ラクドス・アルカニスト」でここまで幾多の対戦相手たちのリソースを刈り取り尽くしてきた。
準々決勝での様子や対戦前のインタビューからはかなりの緊張度合が窺えたが、テーブルトップと違って目の前には画面だけで対戦相手がいないので自分との戦いに集中できると思われるのがせめてもの救いか。緊張を乗り越え、ぜひ実力を出し尽くして欲しいところだ。
一方、対する手塚は、独特なチューンが光る西の「ゴルガリ・ストンピィ」との熾烈な殴り合いを制した「シミック・マーフォーク」を駆る。MTGアリーナ上で開催されているアリーナ・オープンで2,000米ドルをゲットしたデッキでもあるということで、使い慣れた相棒を手に「このレッドブルの舞台での主役は赤い牛ではない、青い魚だ」と言わんばかりの快進撃をここまで果たしている。
ちなみに手塚は試合のたびに対戦前のインタビューで「レッドブル飲んで頑張ります」と答えており、今日のプレイもまさしく「水を得た魚」のごとく冴えわたっているが、それも「翼をさずけ」られた結果かもしれない。
ともあれ、どちらもヒストリック・フォーマットにおいてはTier2以下と思われていたアーキタイプ同士だが、それは使い手の技量に依存する部分が大きいという意味でもある。そしてここまで勝ち上がれているという時点で、小原と手塚が一流の「ラクドス・アルカニスト」と「シミック・マーフォーク」使いであることは疑いようがない。
一流と一流のぶつかり合い。デッキに対する理解度の高さで上を行くのは小原か、はたまた手塚か。
ゲーム1
スイスラウンドの順位で先手となった小原が《憑依された峰》と《バグベアの居住地》という土地構成で1ターン目に《思考囲い》が唱えられないという微妙に噛み合いの悪い7枚をそれでもキープしたのに対し、後手の手塚が一見意外なキープ判断を見せる。
すなわち、《繁殖池》《クメーナの語り部》《クメーナの語り部》《マーフォークの霧縛り》《マーフォークの霧縛り》《真珠三叉矛の達人》《消えゆく希望》という、1ランドの手札をキープしたのだ。
大舞台において、1マナのドロー呪文などもなしで土地が1枚の手札をキープしたという例は、実は意外と存在する。それどころか、プロツアー『戦乱のゼンディカー』の決勝戦では、スタンダードの対戦で玉田 遼一がまさにあと1ゲームでプロツアーチャンピオンというゲームにおいて、当時は現在とマリガンルールの違いがあったとはいえ、後手ノーランドでキープしたという例もあるくらいだ。
そして、もちろん手塚も何の勝算もなしにその判断を下したわけではない。《海辺の斥候》《玻璃池のミミック》まで含めて土地換算できる残りの24枚を、53枚のライブラリーから2回のドローで引ける確率は、およそ70%とそこまで低くはない。
さらに、そもそも先手側のマウントゲーになりやすい「ラクドス・アルカニスト」相手の後手番ということで、ある程度テンポ面で逆転が見える手札をキープする必要がある。ならば高めなければならないのは「事故らない確率」ではなく、あくまでも「ゲームに勝つ確率」であるべきだ。
その点、ゲームに勝つための焦点が「先手2ターン目の《戦慄衆の秘儀術師》に触れるかどうか」という点に比重が置かれることになるこの1ゲーム目において、2枚の《クメーナの語り部》と《消えゆく希望》という組み合わせで後手番のテンポを返しつつ、3枚のロードのバックアップを持つこの7枚は、マリガン後の平均的なハンドよりも「勝てる7枚」である……と、おそらく手塚は判断したのだろう。
はたして、開始したゲームは手塚の想定通りに推移した。すなわち、後手1ターン目の《クメーナの語り部》に対して送りだされたのは《戦慄衆の秘儀術師》。ただし、手塚の第1ドローは土地でも《海辺の斥候》でもなかった。つまり、この後手2ターン目のドローに全てがかかっている。
そのドローは……見事に《島》!
予定調和の《消えゆく希望》+《クメーナの語り部》という動きで、手塚は1ランドキープの博打に勝った報酬として先手後手を実質的に逆転させることに成功する。
対し、手札破壊も除去も打てていない上に逆に土地が2枚で詰まってしまった小原はやむなく《ドラゴンの怒りの媒介者》からの《思考囲い》で「諜報」を誘発させつつ手塚の続く脅威を排除しようとするのだが、前述のとおり手塚の残る手札はマーフォーク全体を強化するいわゆる「ロード」祭りでどれを抜いても結果は変わらず、実質的にライフを無駄に2点失っただけの結果に終わってしまう。
返すターン、手塚はもちろんロードである《マーフォークの霧縛り》を戦線に追加して6点アタック。小原の残りライフを10点まで追い詰める。
他方、こうなると「諜報」で3枚目の土地をライブラリートップに積んでいた小原には手塚の展開を止める手立てがなく、《ドラゴンの怒りの媒介者》+《戦慄衆の秘儀術師》と横に並べてターンを返すしかない。
だが、やがて3枚目の土地を引いた手塚が2体目の《マーフォークの霧縛り》を展開してからのフルアタックで小原のライフを2点まで落とすと、なおも《霧の呼び手》まで追加されてしまったのを見た小原にできることは、もはや投了の証としてアイコンを爆発させることくらいなのだった。
小原 0-1 手塚
この手塚の1ランドキープを見た放送解説のMRLプレイヤー・原根 健太は、「むしろ合理的だと思いました。どうせ《思考囲い》とかで散らかされるのが目に見えているので、マナカーブどおりの手札よりも同質カードの多い手札でロードを重ねて押しきるプランが見えている方が良い」と語った。
プロの目線でも肯定されうる1ランドキープをこの大舞台で、しかも瞬時の判断で行えるという時点で、手塚の「シミック・マーフォーク」への理解度はすでにマスタークラスにまで達していることが証明されたと言っていいだろう。
ゲーム2
開幕から小原の《思考囲い》が、土地3枚に《海辺の斥候》《マーフォークの霧縛り》《霊気の疾風》《集合した中隊》という手塚の手札内容から《霊気の疾風》を叩き落とすと、さらに《海辺の斥候》の返しで《戦慄衆の秘儀術師》と畳みかける立ち上がり。
選択肢が奪われた手塚はこれを受けて仕方なく《マーフォークの霧縛り》を出して3点を刻むしかないが、なおも小原は《若き紅蓮術士》を召喚すると、余った1マナから《致命的な一押し》で即座に除去しつつ、《戦慄衆の秘儀術師》の攻撃で《思考囲い》を再利用! 《マーフォークの霧縛り》《海と空のシヴィエルン》《集合した中隊》から《集合した中隊》を落とし、手塚を的確に追い詰めていく。
一方、手塚も動き出しさえすればリソースを取り返せる《海と空のシヴィエルン》を召喚して切り返しを狙うのだが、《思考囲い》で落とされなかったということは、解答札が用意されているということ。
すなわち、《邪悪な熱気》を打ち込んでから攻撃時に《戦慄衆の秘儀術師》で再利用することでこれもきっちり除去し、さらに小原は相棒の《夢の巣のルールス》をも回収する。
「ラクドス・アルカニスト」が理想とする完璧な盤面処理でリソースを刈られ尽くした手塚を小原が速やかに介錯し、決着は3本目に持ち越されたのだった。
小原 1-1 手塚
「ラクドス・アルカニスト」は常に対戦相手のデッキとの対話が要求されるデッキである。
リソースを刈るためには、「どのカードをどのカードで」「どのタイミングで交換すべきか」を的確に判断しなければならない。毎回《戦慄衆の秘儀術師》が生き残れば話は簡単だがそうとも限らず、相手のデッキや動きに合わせた捌きが求められる。
その意味で、このデッキでここまで勝ち上がった小原もデッキの理解度は極めて高いレベルに達していることは言うまでもない。
ただ、そんな小原でも如何ともしがたい事象が存在した。それは後手番だ。
ゲーム3
先手の手塚がほぼパーフェクトな手札をキープしたのに対し、小原は後手ながらも手札破壊や除去がなく干渉できない手札をキープしてしまう。《海辺の斥候》から《真珠三叉矛の達人》とトップスピードで畳みかける手塚に対し、《ドラゴンの怒りの媒介者》《戦慄衆の秘儀術師》とこちらも並べる小原。だが、手塚はなおも《海と空のシヴィエルン》!
小原も《邪悪な熱気》を《真珠三叉矛の達人》に打ち込むが、「護法{1}」でテンポを阻害されて《若き紅蓮術士》を出せていない。「諜報」で《魔女の復讐》をライブラリーの一番上に置くが、そもそも《海と空のシヴィエルン》への解答がない状況。
対して手塚は《海と空のシヴィエルン》の攻撃で悠々と手札を補充すると、さらに《銀エラの達人》を出しつつ小原のターンの戦闘フェイズ開始時に《戦慄衆の秘儀術師》へと《霊気の疾風》を打ち込む。そして小原がやむなく代わりに《若き紅蓮術士》を送りだしたところで、返すターンでここにも《霊気の疾風》!
ことここに至っては、互いのサイドカードの機能具合の差が明暗を分けた。手塚の《霊気の疾風》は優位な盤面をどんどんと固定化させていくのに対し、小原の《魔女の復讐》は《海と空のシヴィエルン》を前にほぼ機能不全に陥ってしまっていたからだ。
それでも《魔女の復讐》を唱える小原だったが、十分なリソースを確保できている手塚は止まらない。そのまま《マーフォークのペテン師》と《霊気の疾風》で小原のブロッカーを排除すると、手札に《集合した中隊》を温存したまま見事に殴りきったのだった。
小原 1-2 手塚
小原「3本目はヌルい手札キープしちゃったな……けど拾うなら1本目だったなぁ……」
原根「1本目はマリガンで良かったし、キープしたなら2ターン目は《戦慄衆の秘儀術師》じゃなくて《ドラゴンの怒りの媒介者》+《思考囲い》だったかもね」
決勝ラウンドは中野のRed Bull Gaming Sphere Tokyoで開催されているため、対戦後、小原がその場にいた原根や対戦を終えた他のプレイヤーたちと反省点について議論を交わしていたのが印象的だった。
小原もMTGアリーナからマジックを始めたデジタル新世代とのこと。緊張もキャリアの少なさからくるものと考えると、10年選手である手塚の方が場慣れしていた影響が大きかったのかもしれない。
ただ今回は惜しくも敗れたとはいえ貪欲に敗北から学ぶ姿勢を見せた小原は、これからまだまだ強くなる。再び大舞台で活躍する日も、きっとそう遠くないはずだ。
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