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マジックフェスト・千葉2019
教えて!レイ先生!! ―目指せコンバットの達人!―
我々はマジックというゲームについて、どこまで知っているだろうか?
スタンダードに存在するデッキの相性や、各アーキタイプが採用している一般的なカード、マッチのキーとなる具体的な切り札……そういった点については、よく知悉しているかもしれない。
だが、それらは環境が変われば知識としてはほとんどその有用性を失ってしまうものばかりだ。
他方で、実のところ。あらゆる環境に通底する、マジックの基本となる概念については、まだまだ認識不足の点が多いように思われるのだ。
たとえば、コンバット(戦闘) というものについて。
「リバウンドを制する者は試合を制す」……ではないが、「コンバットを制する者はマジックを制す」と言っても過言ではないほど重要な概念であることは、疑う余地がないだろう。
しかし、コンバットの技術というものが仮に存在するとして。その技術は、一体どうしたら上達するのだろうか?
ところでこのシリーズではこれまで、八十岡 翔太には「サイドボード」についての話を、行弘 賢には「デッキ構築」についての話を、それぞれ伺ってきた。
で、あるならば。
佐藤 レイ。グランプリ・香港2017での優勝、グランプリ・北京2018でのトップ8入賞など、主にリミテッドにおいて傑出した成績を残している上に、先週末開催された2019ミシックチャンピオンシップⅣ (バルセロナ)では日本人最上位の成績を残した、コンバットの達人と呼んでも差し支えないであろうもう1人の日本人MPLプレイヤー。
今回のグランプリでは生放送の解説を担当している彼に、どうやったらコンバットが上達するのかについて、休憩の合間にインタビューさせてもらった。
キルターンを意識する
――ということで、佐藤さんにはコンバットについての話をお伺いできればと思うのですが……
佐藤「コンバットはマジックの基本であり華だよね。特にリミテッドにおいては。でも、コンバットについてどういうことを聞きたいわけ? コンバットが上手くなる方法、みたいな?」
――そうですね。では普遍的な技術として、どうやったらコンバットが上手くなるんでしょうか?
佐藤「それならやっぱり、キルターン (ゲームに勝てるターン) を確認しながらプレイすることじゃないかな。いま何点クロック (打点) があって、何ターン後に勝てるのかを意識することがまずは必要だね」
――相手のライフを自分のクリーチャーの合計打点で割ると概算できるキルターン。それを常に意識することが必要だと。
佐藤「そうだね。たとえばこのターン攻撃が全部通ったらリーサル (致死) になるのか、あるいは2ターンかければ削りきれるのか、もしくは3ターンなのか。そういうことを意識して攻撃クリーチャーを指定したり攻撃するようにすると、切り合いとかになったときに選択肢を外さないよね」
カードを知って予測をして、場を把握する
――コンバットで間違えないために必要なこととしては、他に何があるでしょうか?
佐藤「あとはなんていうかカード把握の問題だから、環境のカードを知ってないとうまく対応できないよね。構築でもリミテッドでもいいんだけど、たとえば構築なら相手にどれくらい除去があって、速攻クリーチャーがどれくらいいるのかとか。インスタントタイミングでクリーチャーが出るならそもそも事情が違ってくるし」
――確かに、キルターンで自分が勝ってると思ったらインスタント除去でずらされて負け、とかありがちですね。
佐藤「それはすれ違いのダメージレースみたいな場合だけど、たとえば相打ちにも良い相打ちか悪い相打ちかがあって。攻める側の視点では常にこちらにとって最悪のブロック、最悪の選択肢をとられるから、基本は『相打ちになりそう』とかは予測できるよね。それを踏まえてアタックするのがいいんじゃない?」
――ブロックの選択肢は相手にあるけど、起こりうるブロックは予測できるだろうと。
佐藤「《灰色熊》2体と《翻弄する魔道士》1体をコントロールしていたとして、相手に《灰色熊》が1体のとき、《翻弄する魔道士》が殴るのか殴らないのかっていうのは、要するに『+2点にどれだけの価値があるかどうか』によって変わるよね」
佐藤「その意味で、コンバットには全般的な力が求められるよね。ハンドリーディング (手札読み) とかもあるし。たとえばお互いハンドゼロで相手のライフが8とかなら、基本的には3体殴った方が良いわけじゃん。でも相手のライフが16点でハンド4枚とかあったらさすがに殴らない方が良いよね」
佐藤「あとその《翻弄する魔道士》が今後どれくらい役立つのか?ってのもわかってなくちゃいけない。場を把握する能力が必要だよね。特に自分のクリーチャーがどれだけ相手に影響を与えているのか。あと数ターンそのクリーチャーが生きたとして、どれくらいゲームが変わるのか」
佐藤「まあでも、それくらいだけどね。カードを知って予測をして、場を把握できれば、すごく難しいコンバットじゃない限り間違えないと思う」
デッキ構築と違って、コンバットには正解が必ずある
――微妙なシチュエーションで割り切って行ったら裏目を引いたりすることもありますが、そもそもコンバットの判断には正誤があるんでしょうか?
佐藤「結局裏目とかはあるかもしれないけど、正解は必ずあるはず。だから『上手いコンバット』『下手なコンバット』っていうのは実はないと思うね。コンバットには合ってるか間違ってるかしかない。ハンドリーディングとかトップデッキの確率とかあるけど、デッキ構築とかと違って究極的にはコンピューターがやった方が強い分野だよね。だから超賢いコンピューターがコンバットをやったとしたら、一番『上手い』だろうね」
――形勢判断が正しくできればリスク判断ができて、正しい攻撃ができるだろうと。ある意味で、将棋とかに近いかもしれませんね。
佐藤「実際コンバットは詰め将棋みたいなものだよ。20点のライフをどんどん『寄せ』ていってるわけだし。お互いハンド0枚でデッキの内容も全部わかってるとしたら、シミュレーションで解答は出るよね。なので、基本的に唯一無二の解答があるものだ、という認識が大事だと思う。もちろん難しい判断をこなせるってのは上手いってことでもあるかもしれないけど、まあでもやっぱりデッキ構築とかと違って自由ではないね」
――逆にデッキ構築には正解がないんでしょうか?
佐藤「カードプールが有限な以上、実際はたぶんあるんだろうけど、難しさが違うというか。メタゲームみたいなのもあるし。ゲーム理論的な最強はあるかもね。『相手が最強、自分も最強』なら。でも現実には相手は最強じゃないし、それだからこそ付け込めるアプローチとかもある」
――他方で、コンバットは相手も最強になりうると。
佐藤「そうだね。デッキ構築は相手が弱いデッキを使ってくることを想定した方がいい場合もあるけど、コンバットは基本そういうことないからね。相手が弱かろうが強かろうが変わらない」
場数を増やした方がいい
――概念としてはいろいろとわかったのですが、具体的な方法としては何をすればいいんでしょうか?
佐藤「リミテッドの回数を増やしたり、構築でクリーチャーの接触回数が増えるようなデッキを使うってのが一番の上達方法だと思うけどね。とにかく場数を増やした方がいい。コンバットが勝敗を決める要素が多いゲームをプレイすることが、重要なんじゃないかなと」
佐藤「特に他のカードゲームから来た人とか、普段コントロールデッキばかり使う人とかは、コンバットがなかなかうまくできないかもしれない。けどそれは単純に慣れの問題、場数の問題で、たとえばトリプルブロックや全ブロックを想定してなかったりとかね。あまり構築では見ない状況だけど、シチュエーションによってはありうるし」
――ちなみに、「こいつコンバット上手いな」みたいなプロプレイヤーはいますか?
佐藤「別にみんな上手いけどな。行弘もヤソも、そりゃあ上手いよ。プロって言われる人たちは上手いんじゃないかな。プロはリミテッドで勝つ必要があるからね。それで言うとAさん (松本 友樹) は上手いと思うよ。あれだけ勝率高いわけだし。Aさん、もともとマジックめっちゃ上手いと思ってるよオレは。ただ構築デッキの趣味が悪いというか、おもちゃが好きすぎるだけで。プレイは日本で片手の指に入ると思う」
自分が有利か不利か、決めつけすぎない
――コンバットが難しい理由として、「状況が毎ターン変わる」というのがあると思います。1ターンを切り出したときの判断自体も微妙なのに、それが時間経過で要素が加わってズレていく。キルターンとかもクリーチャーを出していったら毎ターン変わりますし。場を一度把握したとしても、自分や相手の行動を受けて情報を正確に更新した上で新たな判断を下さなければならないという部分に、間違える要因がある気がします。
佐藤「その意味で、一貫性よりも柔軟性が問われるよね。選択するそのときどきはいろいろ考えてやるけど、結局それも流動的だからね。相手のハンド、相手のトップデッキ、自分のトップデッキによっても変わってくるよ」
――そうした状況の変化に対応するためには、やはり情報の更新に慣れるしかないんでしょうか?
佐藤「慣れがほとんどすべてじゃないかな。まあでも言えることがあるとすれば、自分が有利か不利か決めつけすぎない方がいいね。あくまでも俯瞰して見るみたいな。じゃないと、攻めることや守ることに一辺倒になりすぎちゃう」
コンバットが上手くなりたければ、リミテッドをやろう!
――自分がプレイヤーでありながらも俯瞰の視点を忘れないためにはどうすればいいんでしょうか?佐藤さんの場合、それができるようになったきっかけなどがありましたか?
佐藤「うーん……いろいろなシチュエーションの経験だと思うけどね。たとえばオレは麻雀もやるんだけど、他人の代走とかすると、俯瞰で見えるようになるね。自分の選択が結果に影響しないなら、客観的に見れるよね」
――それで言うと、他の人のゲームを見るのが効果的なんでしょうか?」
佐藤「いいんじゃない? 他人のプレイを見て『自分だったらどうするかな』って考えるときは俯瞰だから、自分でやるときも同じようにできれば、いいかもしれないね」
佐藤「ただ、ゲームプランを立てる、ハンドリーディングをする、場をちゃんと把握、とそこまでできた上で、ゲームプランのイメージができて、自分のトップデッキの抽選とかもしっかり考えられてて、最後に正しいプランを選べるか……で、それも毎ターン変わるってことだから、まあそもそも難しいことっちゃ難しいことだよね」
佐藤「とはいえ結局、そこまで独自性を出せるものではないからね。今までやってきたかやってきてないか、という場数がすべて。コンバットが上手くなりたければ、リミテッドをやろう!という一言に尽きるね」
――ありがとうございました。
まとめると、「コンバットとは認識と予測に基づく判断。ゆえに認識の訓練、予測の訓練、判断の訓練によってそれぞれの精度を高めることが必要で、その訓練方法としては、普段からリミテッドを研鑽すべし」……ということになるだろうか。
コンバットが苦手という方は、参考にしてみてほしい。
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