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The Finals 2019

観戦記事

決勝:佐藤 直輝 (神奈川) vs. 平山 怜 (東京) ~仲間とともに掴む勝利と苦杯の味わいとは~

村上 裕一

 長かった1日も、そして長かった1年もいよいよ終わる。

 その集大成となる決勝戦に駒を進めたのは、名だたるプロプレイヤーではなく、これからの未来を担う新星たちだった。とはいえ平山も佐藤も、サイドイベントや草の根大会では強豪たちを破っての入賞経験がある隠れた実力者である。従って、この終わりは単なる終わりではない。新しい1年の到来を告げる、号砲のようなものである。

 蓋を開けてみれば、王者のデッキとして多くのプレイヤーに認識されていた「シミック・フラッシュ」は決勝の場に来ることが叶わず。また、数々のマッチで鮮烈な印象を残し、トップ8に2人を送り込むことに成功した「ラクドス・騎士」も姿を消した。

 最後に残ったのは、かたやミシックチャンピオンシップⅦを制した「ジャンド・サクリファイス」であり、そしてもう一方は「シミック・ランプ」であった。それはカバレージを読んでいる方ならご存知の通り、初戦で山本賢太郎が用いていたデッキでもある。

 相性差では「シミック・ランプ」の方が優勢ともされるが、いずれにせよ、デッキのポテンシャルを限界まで引き出さねば、最後の舞台に到達した相手を屠ることはできないだろう。

 さながら1年の戦いを労る忘年会と、クリスマスを祝うパーティを兼ねたような、最強を決めるお祭りなのに、集った戦士たちのどこか楽しげな雰囲気が場に満ちあふれた秋葉原UDXの会場。そんなお祭りの雰囲気も今や鳴りを潜め、響き渡るのはデッキをシャッフルする際の、かすかだが鋭敏な擦過音のみ。

 さあ、今年の最強を決めよう。

佐藤 直輝 (写真左) vs. 平山 怜 (写真右)
ゲーム1

 先手でゲームを進めるのは「シミック・ランプ」を駆る平山である。2ターン目に《枝葉族のドルイド》を揃え、マナ加速の準備は十分といった構え。一方の佐藤、序盤から少し悩んで《孵化 // 不和》を打つと、手札に《フェイに呪われた王、コルヴォルド》を加えていく。

 そもそも「サクリファイス」というデッキタイプは、《王冠泥棒、オーコ》が禁止になる前にすでに成立していたものである。それが《フェイに呪われた王、コルヴォルド》の大量投入というアイディアによってより強化されたのが、今の「ジャンド・サクリファイス」だが、出来上がってみるとまるで最初からこの形であったかのような自然さだ。環境の成熟とはいかなるものかが、しみじみと感じさせられる。

生け贄と言えばまず、俺

 

 《フェイに呪われた王、コルヴォルド》が出てくるのをおめおめと待っていられない平山、3ターン目には《発現する浅瀬》を繰り出す。自身も含めて12枚のエレメンタルを擁する「シミック・ランプ」。上手く重なるとあっという間に物凄い量の土地を戦場に呼び込んでしまう。

佐藤「強ぇんだ、浅瀬が強ぇーんだ……」

 と、ぼやく佐藤だが、ちゃっかりと自分も《パンくずの道標》《波乱の悪魔》をプレイしていく。相手からしたらこの陣容も十分に強い。

 そこに平山が唱えていくのがX=2の《破滅の終焉》。カードのポテンシャルの高さに、平山自身も「最強でしょ、オリカだよ」と呟いてしまう。

12マナ支払うと勝つと書いてある

 

 《枝葉族のドルイド》を呼び出すと、《発現する浅瀬》の誘発でライブラリーの一番上をめくり、しっかり《》を発見していくと、さらに通常セットランド。気づけば4ターン目にして7マナが出せる状態となった。

 食物を生け贄に捧げつつ、《パンくずの道標》の効果で追加の土地を引き込み、《波乱の悪魔》の誘発で《発現する浅瀬》を処理する佐藤。かなり強い動きをしているはずなのに、眼前の平山の動きに対してどこか物足りない。

平山 怜

 顔色ひとつ変えずにプレイした《茨の騎兵》によりさらに土地が増えた平山。手札にはなんと追加の《破滅の終焉》が2枚あり、まさにチェックメイト寸前の状態。

 そんな相手のコンディションを察知してか、佐藤の表情がころころと変わり――そう、沈着冷静な平山に対して、佐藤は表情豊かでかなり饒舌だ――手札をシャッフルしながら脳内をこぼし始める。

佐藤「俺はいつ死んでしまうんだ?」

平山「12マナあると死にます」

 とはいえやれることをやるしかない佐藤。序盤に引き込んだ《フェイに呪われた王、コルヴォルド》をプレイしていくと、平山はターンエンドに《成長のらせん》。さらに土地を増やしていく。

 そして平山、まずはX=7で《破滅の終焉》を唱えていく。X=10ではないのでまだ生きているが、出されたのは《裏切りの工作員》。さっそく《フェイに呪われた王、コルヴォルド》を奪っていく。

 《フェイに呪われた王、コルヴォルド》を奪われたままではたまらない佐藤、仕方なく《残忍な騎士》の出来事《迅速な終わり》でそれを処理するが、続くターンで平山が《破滅の終焉》をX=8で唱えると、何かが出てくるよりも早く投了を選択した。

登場する予定だったカード

 

佐藤 0-1 平山

佐藤「強くない?」

平山「ぶん回ってるw」

佐藤「今日のランプ使いナンバーワンですよね……負けちゃうのか……」

 ぼやきが止まらない佐藤。だが、彼の反撃はここから始まる。

ゲーム2

佐藤「あまりサイドインしそうなものないですよね。メインから有利だから。でも僕もそんなに入れるものないんだよな。きのう、サイドボードガイドを書いたんですけど、まったく覚えてないんですよ。俺、何を書いたっけかなあ……」

 シャッフル音だけが残響するような静謐な空間に佐藤のユーモラスな呟きが介入すると、平山もつられて笑ってしまう。

佐藤 直輝

佐藤「こんなことを書いたと思うんですけどね……」

 といってサイドボーディングを終えた佐藤、交換してデッキシャッフルをしてさあゲーム開始、かと思いきや、あまりの饒舌にしゃべりながらシャッフルするものだから、混乱してデッキのカードが上下さかさまに混じったのではないかと疑われてしまい、ジャッジにデッキチェックされる羽目になる。特に問題なかったのでそのまま返されたが、いよいよ現場も独特の空気になってきた。

 さて、佐藤が先手を選択して始まるゲーム2。両者、初手をキープ。注目の佐藤の行動は、《草むした墓》アンタップインからの《金のガチョウ》。最高の立ち上がりである。

 平山もゲーム1同様の行動をたどるのだが、今回は佐藤のデッキの回り方が違う。佐藤が2ターン目に《波乱の悪魔》をプレイすると、3ターン目には「うひょひょー、いいの引いたぜ」と思わず口走ってしまう勢い。そう。

 揃ってしまったのである。

 佐藤、《パンくずの道標》を出して食物を追加し、余った土地1枚から《大釜の使い魔》を出すと、今度は《金のガチョウ》経由で食物を生け贄に捧げてマナを出し、《魔女のかまど》をプレイ。猫を生け贄に捧げながら、平山が展開していた《枝葉族のドルイド》を《波乱の悪魔》の誘発で仕留めて、ライフは18対16でマナも自分の方があるという状態を作り出す。

平山「強すぎわろたー」

佐藤「世界最高のぶん(回り)」

 平山、さすがに相手の展開力に顔が引きつっており、サイドから投入した《爆発域》を置くくらいの行動しか取れない。一方の佐藤、殴って生け贄を繰り返すだけで平山を窮地に追い込んでいく。

平山「手札は何枚ですか?」

佐藤「ゼロです。やるだけやったぜ」

 とはいえ、手札がゼロでも、盤面の《金のガチョウ》と《パンくずの道標》が無限にリソースを生み出してしまうのがこの「サクリファイス」というデッキでもある。その横で猫がかまどにくべられるだけでなぜか平山のライフは減っていき、かつ、それを横で見ているだけの《波乱の悪魔》がいちいちの生け贄のたびに平山を殴っていくのだ。

平山「生きる道は……無いな。死んだか」

 相手のパーマネントを達観したような表情で見つめる平山は、最後の反撃とばかりに《爆発域》を起動して1マナのパーマネントをまとめて処理するのだが、追加の《大釜の使い魔》が舞うと、敗北を宣言するのであった。

佐藤 1-1 平山

ゲーム3

 まさに決勝戦にふさわしい、デッキのポテンシャルを最大限に引き出したぶつかり合い。急遽解説に参加した市川ユウキも「お互いのデッキが勝ちたがっている」と評するほど。それは当のプレイヤーたちにとっても同様だった。

 だがその対決も次で終わり。

 まだ何か思い出せないサイドプランがあるのか、視線を中空にやって物憂げにシャッフルをする佐藤と、最初から変わらない集中した表情でシャッフルをする平山。次のゲームで今年の最強が決まるのだ。

平山「じゃ、先手で」

佐藤「さっきのが人生最高の瞬間だった」

 そのセリフに、思わず笑ってしまう平山だが、初手を確認して仰け反ってしまう。土地の数に不安を残した手札であった。とはいえ土地を1枚引き込めれば圧倒的な回りを期待することもできる。少し悩んだ後に、平山は「キープで」と宣言した。

 一方の佐藤も悩んだ表情だが、実際には《魔女のかまど》を除けばほぼコンボパーツが揃っている理想的なハンド。「やります」と即座に宣言した。

 先手ながら2ターン目にマナクリーチャーを展開できない平山、《霊気の疾風》や《成長のらせん》という目があるとはいえ、前ゲームまでとは動きの鈍さが感じられる。一方の佐藤、《金のガチョウ》からマナ加速を果たすが、うっかり《ゴルガリの女王、ヴラスカ》を引いてしまったばかりに、増えた選択肢に頭を悩ます羽目に。

 《波乱の悪魔》を出すという選択肢もあったのだが、次のヴラスカの登場を見据えたか、はたまた《霊気の疾風》をケアしてか、佐藤は土地を置いてターンエンドを選択する。もっとも彼は《金のガチョウ》から食物を生み出すことができるという、盤石に近い体制なのだが。

 相手のターン終了時に、平山は《成長のらせん》を唱える。重要な局面だ。だが、土地を引けない。これでドロ―・ステップまで土地が止まってしまうとなると、もう勝ち目は見えないくらいのところだが、そこは決勝。しっかり《》を引き込むと、そこから《発現する浅瀬》をプレイ、ライブラリーからさらなる土地を戦場に呼び込む!

平山「危ねー、死ぬところだった」

 クールな平山にすらそう呟かせてしまう局面。だが、まだ死んでいなかっただけとも言える。1ターン行動を待った佐藤、先ほどから手札に待機していた《波乱の悪魔》をプレイすると、食物を生け贄に捧げて《金のガチョウ》からマナを出すついでに《発現する浅瀬》を処理し、《大釜の使い魔》を召喚する。

 帰ってきたターン。平山、痛恨の土地ストップ――。

 もしも《発現する浅瀬》が生き残っていれば、手札には追加の《発現する浅瀬》があり、重ね張りで大きな効果を見込めたのだが……。とはいえ、できたかもしれないという展開をうらやましがっていても仕方ない。青マナ源を探しに行くべく、平山、決死の《成長のらせん》を打つ。

 が、土地を引くことはできず。

 もし土地があったのなら、それをプレイしてからの《発現する浅瀬》で佐藤に追いつくことができたかもしれない。だが、それはかなわなかった。

 次のターン、攻撃と生け贄の動きに加えて佐藤が繰り出してきたのは、勝負を決める《フェイに呪われた王、コルヴォルド》。

 平山も負けじとようやくの土地を引き込み、《茨の騎兵》をプレイ。その誘発からさらなる土地を手に入れるのだが――。

佐藤「ターンもらいます」

 平山の残りライフが13の局面。

 《金のガチョウ》が食物を生み出し、それを生け贄に捧げて《大釜の使い魔》が戻ってくる。その誘発でライフ1点減少。また《波乱の悪魔》も誘発して1点ダメージ。《フェイに呪われた王、コルヴォルド》に追加のカウンターが置かれて現在6/6。佐藤は手札の《害悪な掌握》を使って《茨の騎兵》を退ける。全員で殴ると9点ダメージだが、《フェイに呪われた王、コルヴォルド》の攻撃時誘発で《大釜の使い魔》を生け贄に捧げると、《波乱の悪魔》が追加で1点を飛ばし、さらにもう1個の+1/+1カウンターが《フェイに呪われた王、コルヴォルド》に置かれる――。

 ちょうど、13点。

 自分の敗北を確認した平山はそっと手を差し出し、佐藤は憂いのない笑顔でその手を握った。

佐藤 2-1 平山

final_shakehands.jpg

 勝利した佐藤は「長かったですねえ」と述べた。しかし、それは今日1日のことを指してのことではない。それは、彼が目指して焦がれていたプレイヤーズツアーへの参加権を手に入れるまでの、これまでの戦いを指してのコメントだった。

 彼は『基本セット2014』からマジックを始めたという。そして、始めた当初からプロシーンで戦うことを夢見ていた。なぜなら、マジックの魅力とは、その高みのより高き、言うなれば奥深さにあるからだ。実際、先のミシックチャンピオンシップⅦでも見られたように、MPLを中心に、頂点を争う選手たちの凌ぎ合いは、もはやマジック史上空前の高さにまで至ったのではないか。

 そんな彼がオンライン上で活動している際のハンドルネームは「1-3 drop!」という。それは彼が始めて参加したグランプリでの成績であり、そこからどこまで到達できるかを祈念してつけた名前だという。

佐藤「ようやく、来ましたね」

 その歩みは5年の道程だった。当然ながら、簡単なものではない。

 そもそも改めて確認すると、彼の「ジャンド・サクリファイス」はKanisterことピオトル・グロゴウスキ/Piotr Głogowskiが戴冠したデッキのコピーとは言いがたい。むしろ、その後の「シミック・フラッシュ」の増加というメタゲームの推移を踏まえて、キーカードである《戦争の犠牲》を抜くなどの独自チューンが施された、彼独自のデッキと言えるものである。

 その選択が今回の結果に結びついたことは言うまでもないが、そのような個別の努力に加えて彼が語るのが「仲間への感謝」だ。

佐藤「このゲーム、負けると心が折れちゃうじゃないですか。そういうときに周りのプレイヤーに助けてもらったんです。ひとりだと、絶対ここまでこれなかったって思いますね」

 ともに切磋琢磨し、時には支え合う仲間の存在が、彼のプレイヤーズツアーという栄光の地への歩みを支えたのだ。

 ――仲間と言えば。

 惜しくも決勝で敗北した平山を応援すべく、選手がいなくなったはずのフィーチャーテーブルを、何名かの人々が取り囲んでいた。それは実は平山の仲間たちだった。彼らは思い思いの言葉をかける。「ほら、飲み会行くぞ!」「優勝しなかったから、いいかなあ」「みんなが来いって言ってるよ! おごってやるから!!」「俺がおごるはずだったんだが……」

 仲間の絆を感じさせるやり取りの中に「いやあ、悔しいよなあ」とコメントする声があり。それを聞き止めると、平山は急に大きな声を出した。

平山「岡井! お前岡井じゃないか! しかもお前も土地が止まって負けていた岡井じゃないか!」

 同じく昨年決勝で敗北し、苦杯を舐めた岡井が、平山を労いに来ていたのだった。勝者にしか分からない喜びもあれば、決勝を争ったものにしか分からない悔しさもある。

 「飲み会行くぞ、せっかくだから行こう」――繰り返し誘いをかける声にとうとうほだされ、コートをまとった平山は一団に混じり、仲間と酒を酌み交わしに行くのだった。

 優勝者の栄光の素晴らしさを称えるとき、同時に輝くのはそれを実現せしめたその人の努力であり、仲間たちの尊さなのだと言えるかもしれない。

 今日は佐藤が勝った。しかし、また次も平山が屈服するとは限らない。

 令和元年の年の瀬に輝きを放った若者たちを、次なる栄光の場で見る日も、そう遠くないことだろう。

 最後に、今日の勝者を讃えよう――。

final_sato_trophy.jpg

 The Finals 2019、優勝は佐藤 直輝! おめでとう!


 
 

平山「あースプリットしといてよかった。危うく25万失うところだった」

仲間「おまえええええええええええええええええええええ!!!!!!」

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