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プロツアー『サンダー・ジャンクション』

観戦記事

プロツアー『サンダー・ジャンクション』2日目の注目の出来事

Corbin Hosler

2024年4月27日

 

(編訳注:埋め込み動画は英語実況のものです。)

 マジックナンバー「12」。

 それは、「プロツアー『サンダー・ジャンクション』」でトップ8入賞が確定する勝利数だ。日曜日の席を確保する確実な(そして最終ラウンドのストレスを受けずに済む)方法は12勝することだけであり、それさえ達成すれば最終ラウンドでチームメイトの応援もできる、

 最終ラウンドを迎える前にトップ8入賞が確定するのは競技マジックにおいて稀なことだが、井川 良彦はそれを成し遂げただけでなく、あまりに早く到達した。井川は初日の8回戦を全勝し先頭に立つと、2日目も勢いそのままに、ハビエル・ドミンゲス/Javier Dominguezに1度負けたのみで勝利を重ね続け、スイスラウンド最終戦を迎える前に12勝到達を果たしたのだった。

 地域チャンピオンシップを制した日本の井川にとって、これが自身3度目のプロツアー・トップ8入賞となった。今大会におけるほぼ完璧な12勝は、圧倒的な活躍という点でプロツアーの歴史におけるごくひと握りの精鋭の領域に彼を押し上げた。そして今大会のトップ8には、彼を含め3人の日本人プレイヤーがいるのだ。

 今大会は最近のプロツアーでは珍しく少ない人数となり、2日目を迎えるまでにもあらゆることが起こった。スタンダードでは最も人気を集めたデッキが苦戦を強いられ、『サンダー・ジャンクションの無法者』プレイ・ブースターから出現する可能性にあふれたカードの数々は、限りない可能性を持つリミテッド環境を生み出し、好意的に受け止められた。そして井川の後ろにはトップレベルのプレイヤーがひしめき合い、多種多様なアーキタイプがしのぎを削っている。

 第15回戦で、「4色レジェンズ」のチャン・レイ/Rei Zhangと「ボロス召集」の松浦 拓海が12勝目を挙げ、トップ8入賞を決めた。そしてスイスラウンド最終戦で、残る席が争われた。

 トップ8の様相は以下のようになった。

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  • 井川 良彦(ドメイン・ランプ)
  • チャン・レイ(4色レジェンズ)
  • 松浦 拓海(ボロス召集)
  • アルネ・ハッシェンビス/Arne Huschenbeth(エスパー・ミッドレンジ)
  • ルーカス・ドゥーコフ/Lucas Duchow
  • ジェイソン・イェ/Jason Ye(4色レジェンズ)
  • 高橋 優太(アゾリウス・コントロール)
  • ショーン・ゴダード/Sean Goddard(ティムール世界魂)

 今大会のトップ8には、大きく異なる戦略を持つ6種類のデッキが現れた。つまり心躍る日曜日を迎えられるということだ。

成し遂げるまでドラフトせよ

 プロツアーのドラフトに備える上で、経験に勝るものはない。どのチームもプレイヤーも、オンラインやチームでの練習を駆使してプロツアーに備える。最高レベルの舞台でのドラフトで成功する方法を解明する行為は、科学であり芸術だ。

 無論、科学の役割は大きい。トップレベルのチームは何百ものゲームをプレイして大量の情報を得る。ピック率や勝率などのデータをスプレッドシートにまとめて取り組む。だがひとたびプロツアーの舞台に注がれる輝く光の下に座れば、それらはピックの絶対的指針にはならない。とりわけ『サンダー・ジャンクションの無法者』は、どれだけドラフトを練習してもすべての可能性に備えることはできない。座った卓で《書庫の罠》が2枚流れてきたらどうするだろうか? ジェイソン・イェはそれらを取って振り返らず、ドラフト全勝への道をひた走ったのだ。

#PTThunderドラフト・ラウンド全勝者は3名でした。@Huschenmtg選手、@SystemMagicGreg選手、ホセ・ネベス選手、おめでとうございます!
素晴らしい偉業を達成した3選手のドラフト・デッキは、続くポストをご覧ください!

 イェが大胆な戦略で初日を完勝したのと同じく、2日目はアルネ・ハッシェンビスが同じ道をたどった。重要なドラフトの開幕から緑白のカードを4連続で取った後に、このチーム「CFB-Ultimate Guard」の新メンバーはその色がもう流れてこないことを悟った。最悪の瞬間だ。

「黒の脇を固めるカードがいくつか流れてきた後に《眼識の収集》が来て、『なるほど、こっちに行かなきゃ』と思い大きく方針を転換したんです」とハッシェンビスは言う。「並のデッキに仕上がりましたが、卓内に緑に行く人が5、6人いて、みんなデッキをまとめるのに苦労していましたね」

 2日目ドラフトでこれだけ大胆な転回ができる者がどれだけいるだろうか? プロツアーにおいてはこの余裕こそが重要であり、またもや勇敢なプレイヤーがサンダー・ジャンクションで大勝を成すことが示された。ドラフト・ラウンド全勝はハッシェンビスが自身3度目のトップ8を果たす後押しとなった。今大会のドラフトを2回とも全勝したのは、ハッシェンビスとグレゴリー・マイケル/Gregory Michel、ホセ・ネベス/José Nevesの3人のみだった。

#PTOTJ 9-2。リミテッド6-0できたのは夢のようだ。構築で3-2すればトップ8だ。 #TeamCFBUltimateGuard

素晴らしき走りぶり

 プロツアーの終盤にはもちろん、日曜日の舞台で最高の賞金を懸けて競い合う8人が誰になるのかに注目が集まった。見事最終日まで残った8人の物語を切り取ったのがトップ8だが、究極的にはプロツアー参加者数百人のうちの8人でしかない。

 「プロツアー『サンダー・ジャンクション』」は物語にあふれた大会であった。ここ2年間におけるプロツアー王者の多くを輩出してきたチーム「CFB-Ultimate Guard」とチーム「Handshake-Ultimate Guard」の活躍と、良きライバル関係。井川 良彦、松浦 拓海、高橋 優太の3名をトップ8へ送り込んだチーム「Moriyama Japan(森山ジャパン)」の成功。そして1週間でモダンを学び地域チャンピオンシップに出場し、プロツアー初出場を果たしたニコル・ティップル/Nicole Tippleの素晴らしい走りぶり。ニコルは記憶に残る快進撃を見せ、あと1勝でトップ8入賞のところまで走りきったのだった。

4枚目の《大スライム、スローグルク》には本当に心臓をひと突きにされた――それにしても最高の週末だったな♡♡cftsocと@JasonILTGのサポートに回ります! #PTThunder

 続いて昨シーズンのプレイヤー・オブ・ザ・イヤー、サイモン(・ニールセン/Simon Nielsen)の物語をご紹介しよう。サイモンは、直近4大会連続でトップ8入賞という記録的な成功を引っさげてシアトルへやってきた(2か月前の「プロツアー『カルロフ邸殺人事件』」では、自転車で会場へ向かう途中道を間違えてあやうく第1ドラフトに間に合わないという珍事が発生しながらも記録を伸ばした)。だが今大会では初日4勝4敗と快調なスタートを切ることはできず、ついに連続記録も途絶えると思われた。

 しかし困難な状況に立ち向かえる精神力がなければ、プレイヤー・オブ・ザ・イヤー獲得やプロツアー・トップ8入賞、ましてや4連続など果たせないだろう。そう、ニールセンはそれらを成し遂げているのだ。彼は2日目のドラフトで全勝し、さらに続くスタンダード・ラウンドでも3連勝。成績を10勝4敗に伸ばし、再びのトップ8入賞を狙える位置についた。

 王者の心は砕けない。逆転の望みはチームメイト(にして元世界王者)のハビエル・ドミンゲス/Javier Dominguezによって絶たれたものの、ニールセンのスリリングな2日目には誰もが注目したのだった。

なんか怒ってるみたいになっちゃったから絵文字でもつけとけばよかった。いたって冷静で、明日もドラフトできるのを楽しみにしてるよ

 シアトルへ至るまでの数か月の間にスタンダード環境では様々な戦略が試され、プレイヤーたちは「青単大釜」や《事件現場の分析者》を使うデッキなど、定番でないアーキタイプの探求を始めた。そして最新セット『サンダー・ジャンクションの無法者』が導入されると、多くのプレイヤーは安全策をとり「エスパー・ミッドレンジ」を選択した。だが頼りになるエスパーも、今回はそこまでの強さを見せられなかった。主要アーキタイプで最も低いパフォーマンスに留まったのだ。

 人気を集めたアーキタイプで特に好成績を残したのは、「アゾリウス・コントロール」だった。そこへチーム「Sanctum of All」とデッキビルダーとして名を高めるチャン謹製の「4色レジェンズ」が迫る結果になった。このデッキはチャンをトップ8へ送り出した他に、エチエン・エグンシュワイラー/Etienne Eggenschwilerの9位、ニコル・ティップルの11位という成績を支えた。エスパーが苦戦する中で、使用者が1人か2人のデッキも数多く成功を収めた。「オルゾフ荒馬」を使うケヴィン・アンクティル/Kevin Anctilは、18位まで上がっていったのだった。

シアトルより

 美しきシアトルの中心部で開催された今大会には、見どころが盛り沢山にあった。伝説的なマジック・プレイヤーが見せたショー(今大会には殿堂顕彰者が10人参加している)からティップルのようなプレイヤーの初参加まで、記憶に残る出来事がたくさん起こった。

 刺激的なリミテッドのデッキに、スタンダードでの驚き(「エスパー・ミッドレンジ」のような一番人気のデッキがここまで失速するのは極めて稀なことだ)、そして多数のプレイヤーやスタッフ、取材クルーが織りなす物語には、マジック生誕の地へプロツアーが帰ってきたことを特別な出来事にする素晴らしいものがあった。

@Vendilionが見ている中で《フェアリーの黒幕》が@Nathansteuer1へ攻撃しているシーンが撮れた。自分の顔が描かれたマジックのカードがあるというのは、最高の名誉だね! #PTThunder

「プロツアー『サンダー・ジャンクション』」でプロツアーでのジャッジ・デビューを果たしたウォード・ウォーレン/Ward Warren、アマンダ・クーツ/Amanda Coots、ベン・ファーラー/Ben Ferrer、メグ・バウム/Meg Baum、ウェラ・ラデラ/Wella Ladera、クラウス・ラサカー/Klaus Lassacher、トラヴィス・ラウロ/Travis Lauro、トビアス・ヴィセリ/Tobias Vyseri。

いまソファーの上で泣いてる #PTThunder

ダイス足りんかったわ #PTThunder

日曜日の舞台は整った

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 トップ8に入賞した選手たちは、ここで終わりではない。再び日曜日の朝に舞台へ上がり、賞金総額500,000ドルと優勝トロフィー、そして「プロツアー『サンダー・ジャンクション』王者」のタイトルを懸けてスタンダードの決戦に挑むのだ!

 ぜひTwitch.tv/Magic(日本語では日本公式YouTubeチャンネル)で最後まで見届けてほしい!

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