EVENT COVERAGE

エターナル・ウィークエンド・アジア2019

観戦記事

レガシー第1回戦:渡邊 雄太(東京) vs. 髙橋 勝貴(群馬)~ディフェンディングチャンピオン、出陣!~

森安 元希

 「エターナル・ウィークエンド・アジア2019」。

 今年もエターナル・フォーマットの一大フェスティバルがはじまった。1日目に開催されるレガシー大会(スイス予選ラウンド)の参加者は総勢665人、ラウンド数は10回戦だ。前年度の626人よりも参加者は着実に増えていて、今大会はプレイヤーたちへの「認知度」とともにレガシーというフォーマットそのものにおける「重要度」も増していっているようだ。

 今大会緒戦となる第1回戦の観戦記事では、栄えある「ディフェンディング・チャンピオン」が登場する。

 髙橋 勝貴。

l_r1_takahashi.jpg

 「エターナル・ウィークエンド・アジア2018」、優勝。地力の高い競技プレイヤーとして知られる斉田 逸寛との決勝戦の様子は観戦記事にも記録されている

 2008年に『アラーラの断片』にて《むかつき》が登場して以来、それをキーカードとするコンボ・デッキ「ANT」を愛用し続けているという髙橋。前大会同様、今大会も「相棒」への厚い信頼とともに対戦の席についていた。「ANT」に対する深く鋭い理解を武器に、二連覇へと狙いを定めていた。

 髙橋と向かい合う形で卓についた男も、普段からレガシーに親しみ馴染むプレイヤーだ。

 渡邊 雄太。

l_r1_watanabe.jpg

 髙橋は渡邊がレガシーの大会に参加する姿を度々見かけたことがあると話していた。その渡邊が今回持ち込んだのは「青白石鍛冶」だ。試合後の髙橋との感想戦では「ミラクル(青白奇跡)」を含め「青白」系のデッキは普段から手にする機会が多いと話している。

 ただモダンやスタンダードではいわゆる「赤単アグロ」や「紛争Zoo」などのビートダウン・デッキでも戦績を残しており、マジックを多角的に理解しているプレイヤーの1人だ。

 卓につき試合開始の合図がかかるまでの間、渡邊と髙橋はしばしの談笑を楽しんでいた。

渡邊「前回優勝したことで『Eternal Weekend North America 2018』にも招待されたんですよね」

 目の前の相手が前大会優勝の髙橋であることは、顔を見てすぐに気づいたという渡邊だが、緊張に沈黙するような様子はなく、むしろ積極的に声をかけていた。

髙橋「参加しました。7勝4敗でした。バブル(マッチ)で、相手にトップデッキされて(負けてしまった)」

 「Eternal Weekend North America 2018」は「エターナル・ウィークエンド・アジア2018」と同じく600人規模の大会であったようだ。髙橋が昨年北米でやりのこした「ETERNAL WEEKEND」連覇という偉業への道筋は、今この瞬間「エターナル・ウィークエンド・アジア」連覇への道という形で彼の目の前に再び現れていた。

髙橋「去年と同じならトップ8進出も、8勝1敗1分けから落ちる人がいる」

 髙橋にとって、すでに一度優勝した大会とはいえ、マジックの競技シーンにおいて「2度目の勝利」が遠いのはもはや定説だ。トップ8進出自体への道のりも非常に険しく、第1回戦開始直前であらためて気を引き締めているようだ。

 話もひと段落し、2人はゲームの準備を進めていく。先手後手を決める2つのダイスを先に振ったのは渡邊。「3」と「2」、合計「5」の出目に「くーっ」と不服の吐息をもらした。

髙橋「優勝したいな」

 最後にぽつりとつぶやいて、髙橋がダイスに手をかけた。出目の合計は「4」。渡邊の先手でゲーム1がはじまった。

 
渡邊 雄太 vs. 髙橋 勝貴
ゲーム1

 お互いに7枚をキープ。

渡邊「《溢れかえる岸辺》から《》、《思案》」

 まず渡邊から「青白」系必須のドロー呪文が示された。

髙橋「はい、通ります」

 渡邊は髙橋の宣言に頷いたあとライブラリーの上から3枚を確認し、《否定の力》を選んで引いた。相手によって強さが変わるカードだが、髙橋のことを知る渡邊は、相手のデッキが「ANT」であることに目星はつけている。

 広大なカードプールを誇るレガシーにおいても数少ない1ターンキル・ルートを持つコンボデッキ相手に、握っておきたいカードだ。

髙橋「《Underground Sea》から、《強迫》」

 対する髙橋も、「黒」系のコンボデッキには必須のハンデス呪文で応じていく。渡邊は溜息をつきながらも「通りました」とハンドを公開した。

髙橋「《否定の力》でお願いします」

 メインデッキではクリーチャーを採用していない髙橋にとって《意志の力》と《否定の力》は大差ないようにも見えるが、「追放する」の部分が墓地利用の性質ももつ「ANT」にとってはより阻害要素が大きい。

渡邊「《平地》置いて、ターン渡します」

 ひとまずの攻防が終わってからは少しの平穏だ。

 髙橋は《定業》、渡邊は《瞬唱の魔道士》で《思案》をフラッシュバックで唱え、「決戦」となるターンまでの戦力をハンドに蓄えていく。

 しかし髙橋の2枚目の《強迫》が渡邊の手札唯一の打ち消し呪文である《意志の力》を叩き落とすと、渡邊は早急に手札を再構築する必要に迫られた。

 メイン・フェイズで《渦まく知識》を唱え、現地点で不要牌である《殴打頭蓋》と《剣を鍬に》をライブラリーに戻しつつ《呪文貫き》を獲得する。その上で《梅澤の十手》をプレイして、(このターンは装備コストは支払えないが)ライフ・リソースの獲得も見計らっていく。

 髙橋もコンボ・スタートの発射台が完全な姿勢とは言えない様子だ。ゲーム開始からすでに5ターンを経過するが、依然としてセットされた土地は《Underground Sea》1枚のみであり、動きに制限がある。《思考囲い》で再び渡邊の手札を覗きにかかるが渡邊はこれを《呪文貫き》で弾く。

渡邊「《呪文貫き》。2マナ要求です」

髙橋「2マナ要求……ハンド3枚ですか? 2枚?」

渡邊「2枚」

髙橋「はじかれました……ターン、どうぞ」

 マナ・ソースもハンド・リソースも非常に重要なマッチであることを承知している両者は、十分すぎるほど十分なコミュニケーションでもってゲームを進行していく。

 渡邊は《梅澤の十手》を装備させた《瞬唱の魔道士》でアタックを仕掛け、《梅澤の十手》にカウンターを置きつつ、セットランドから《真の名の宿敵》をプレイした。先ほど手札を確認されたことをふまえて「ハンド、1!」と宣言してターンを終える。

 タップアウト、手札1枚で髙橋の動きにゲームの行方を委ねた渡邊。

 (もしあったとして)《意志の力》も《否定の力》も機能しない。「勝ち目があるとしたら、ここでの展開しかない」と割り切ったプレイだ。

髙橋「ライフ、17ですよね」

 この展開に対し、落ち着いてリソースを数えはじめる髙橋。そして順番にカードを示し、プレイしていく。

 《水蓮の花びら》。《暗黒の儀式》。《冥府の教示者》。順に解決して《陰謀団の儀式》を公開し、探す。

 そのまま《陰謀団の儀式》をプレイ。すでにスレッショルドは達成していて黒マナが5つ。

 2枚目の《陰謀団の儀式》もプレイ。黒マナ8つから《冥府の教示者》2枚目をプレイ。再び《陰謀団の儀式》を公開して探す。《陰謀団の儀式》を2枚続けてプレイ。

 これで髙橋は黒マナ12を得て、ストーム・カウントが8。《苦悶の触手》をプレイして、コピー含めて9回すべて渡邊を対象にとり、18点ドレイン。

 このままでは致死ダメージの渡邊は対応して《梅澤の十手》を1回起動してライフを2点回復して19にするものの、渡邊に残ったライフは1。

 その後、ライフ34を記録した髙橋が最後の手札をプレイした。《冥府の教示者》、3枚目。

渡邊「はい。大体負けた(笑)」

 サーチは、《むかつき》。

 ライフ初期値を大きく超える「猶予」から、約束された髙橋の超・大量カード獲得が始まる。髙橋は「パストかセイガン、パストかセイガン」と口にしながらライブラリーをスピーディにめくっていく。

 髙橋が口にする単語が意味するカードは2枚。《炎の中の過去》か《闇の誓願》。

 渡邊の残りライフは実質3。これを削りきるためには、メインデッキには1枚しか採用されていない《苦悶の触手》を再び打つしかない。

 そのためには《炎の中の過去》で墓地の《苦悶の触手》にフラッシュバックをつける必要があり、《炎の中の過去》か《炎の中の過去》を直接探せる《闇の誓願》がピンポイントで必要であった。

髙橋「セイガン! きました」

 「予定通り」に大量に公開されたカード群が髙橋の目の前に広がっている。髙橋がライブラリーをめくる手とライフを減らすペンを止めたころには、すでに獲得したカードは20枚を超え、ライフは12を数えていた。

髙橋「《闇の誓願》で《炎の中の過去》を持ってきて(最終的には墓地の《苦悶の触手》を唱える)という形でいいですか」

渡邊「(ライブラリーに)《炎の中の過去》がはいってれば、いいです」

 髙橋は渡邊の言葉にうなずき、《強迫》で渡邊の手札が不要牌であることを確認した後、《闇の誓願》をスタックに置いた状態で《ライオンの瞳のダイアモンド》2枚を起動して手札を空にしつつマナを捻出し、《炎の中の過去》を探して公開する。

渡邊「まあもちろん《炎の中の過去》入ってないってことはない(のは分かってるんです)」

髙橋「いえいえ。ミスるかもしれないですし」

渡邊 0-1 髙橋

 
ゲーム2

 互いにある程度、不要牌が分かりやすいマッチアップだ。渡邊はボードコントロールの要素が強い除去を大量にサイドアウトする。髙橋も先の『基本セット2020』にて《夏の帳》のような対コントロールカードを得ていて、お互いにイン・アウトの枚数は多めだ。

渡邊「キープします」

 渡邊は《意志の力》がある初手をキープした。

髙橋「マリガンします」

 1回目、と1の目のダイスをテーブルに置く髙橋。

 初期手札の組み合わせでキル・ターンが著しく前後するコンボ・デッキにおいて、いわゆる「ロンドン・マリガン」形式のマリガン・ルールが正式採用された影響は大きそうだ。

 2ターン目までは互いに土地を置き合って動かない流れであったが、渡邊は4ターン目にして3枚目の土地を引けずにいた。8枚の手札から1枚捨てるくらいなら、と《仕組まれた爆薬》をX=1でプレイする。《ザンティッドの大群》のような対コントロール・キラーのカードを先に制する役割を持つが、《突然の衰微》のような対処カードが存在することから、基本的には「後出し」の方が強いアクションであることも承知していての、苦渋の決断だ。

 対する髙橋はゲーム1と打って変わり土地を置き続けて、動かない。4ターン目の初アクションが《思案》だ。互いに動かず、動けず。

 そんなゲーム2が5ターン目にして大きく動き出す。

 若干力ない様子も見えた渡邊のドローは、その絵柄が渡邊の目にふれた瞬間、力がこもった様子が分かった。

 《溢れかえる岸辺》をドローし、そのままプレイ!渡邊は力強く「おわります!」と宣言する。

髙橋「エンドに《渦まく知識》。アップキープ、(フェッチ)切れますか?」

髙橋「メインフェイズはいります。《思考囲い》、(対象は)あなた」

 ここに勝負の気配を察した髙橋も、動きだす。

渡邊「対応はいります、《溢れかえる岸辺》起動、《Tundra》。ヴェンディ(《ヴェンディリオン三人衆》)プレイします」

 この《ヴェンディリオン三人衆》に対して合わせた髙橋の《渦まく知識》は《意志の力》され、着地する。

 《ヴェンディリオン三人衆》によって公開された髙橋の手札は《突然の衰微》《思考囲い》《冥府の教示者》《暗黒の儀式》《暗黒の儀式》《むかつき》。

「まあ、《むかつき》か……」とこぼしながらメモをとる渡邊。

 渡邊が考える間、髙橋は一直線に渡邊に視線を送り続ける。

渡邊「《むかつき》を下にお願いします」

髙橋「はい。で、《ヴェンディリオン三人衆》のドロー、はいりました。《思考囲い》通りますか?」

渡邊「通りました」

 今度は渡邊が手札を公開する。《意志の力》《否定の力》《殴打頭蓋》《呪文嵌め》。

髙橋「《否定の力》、お願いします。(《思考囲い》を解決して)ライフ17です」

 間で《ザンティッドの大群》と《仕組まれた爆薬》が相打ちをとりつつ、ここで着地した《ヴェンディリオン三人衆》がしばらくアタックを続け、通る形となった。

 髙橋のライフの減少は速やかだ。14、11、8。このターンエンドにようやく緑マナを捻出できる髙橋は《突然の衰微》を《ヴェンディリオン三人衆》に合わせて撃墜するものの、自らのターンエンドには2体目の《ヴェンディリオン三人衆》が登場してしまった。

髙橋「まだ、あるんですね」

 《思考囲い》がライブラリーの底に追いやられつつ、《ヴェンディリオン三人衆》が残りわずかな髙橋のライフを奪い去るためにアタックを仕掛けてきたところで、髙橋は《突然の衰微》をプレイした。これは《ヴェンディリオン三人衆》がもたらしたライブラリー・トップのカードであった。

 噛み合いによって窮地を脱したかに見えた髙橋であったが、渡邊は今度は《瞬唱の魔道士》をアタッカーに用意する。2ターン連続で《瞬唱の魔道士》を唱え、髙橋のライフをいよいよ2にまで追い詰めた。

 動かなければ負けの、ラスト・ターン。髙橋は《暗黒の儀式》から動くと、渡邊は充分な枚数の手札から《意志の力》(コスト:《思案》)。2枚目の《暗黒の儀式》にも《意志の力》(コスト:《呪文貫き》)。

 動き出しが2連続で蹴られた髙橋だが、土地は充分で「詰み」という様子はない。ここで《強迫》をプレイする。これで最後に残った打ち消し呪文であった《呪文嵌め》が落とされると、渡邊は「いかれた」とつぶやいた。

 このターンの安全を確保できた髙橋はゲーム1同様、手札のカードを順番にプレイした。おそらくこれまでに何回も何回も繰り返してきたプレイだ。

 《水蓮の花びら》、《陰謀団の儀式》、《ライオンの瞳のダイアモンド》。

 《冥府の教示者》プレイ、対応で《ライオンの瞳のダイアモンド》を起動。探したのは、《苦悶の触手》。

渡邊「ストームは、十分ありますね。」

 渡邊が自ら2回プレイした《意志の力》を含め、ライフを奪い去るには十分なストーム・カウントがあった。

渡邊「負けました」

渡邊 0-2 髙橋

 
試合後

渡邊「最後の前のターン、2体目の《瞬唱の魔道士》プレイは1ターン、遅らせた方が良かったですね。スネア(《呪文嵌め》。ひいてはカウンター全体)を構えるためのブルー・カウントが足りなくなってしまった」

髙橋「ライフを攻められるのキツいのでプレイは合ってたと思いましたが、たしかに違いそうですね。ちなみに、デッキバレしてました?(笑)」

渡邊「はい(笑)。着席の前に名前は見てなかったんですが、顔みたら、分かりました」

髙橋「(渡邊が)ミラクルとか石鍛冶使ってるのをよく見ました。こちらも、顔を見て、そうかな。と」

渡邊「レガシーずっとやってる人は、キャライメージついちゃいますね」

 結果を見れば髙橋の2-0で「完勝」のようにも思えるが、特にゲーム2は勝敗の天秤が最後までゆらゆらと動いていて、髙橋がわずかな隙間を縫って決めた形だ。

 「大会第1回戦のゲーム1から互いにデッキが判明している状況」というのは、かなり珍しい状況だっただろう。渡邊の言うように、レガシーは「同じデッキを愛用し続けているプレイヤーが多い」印象の強いフォーマットだ。

 そして同じデッキを使い続けているということは、そのデッキを修練し続けているということでもある。

 「エターナル・ウィークエンド・アジア2019」第1回戦、「ANT」マスター・髙橋 勝貴がその巧みな技術をいかんなく発揮し、連覇に向けて1勝を刻んだ。

  • この記事をシェアする

RANKING

NEWEST

サイト内検索