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チャンピオンズカップファイナル サイクル1
デッキテク:行弘 賢の「セレズニア・オーラ」 ~虫の目、鳥の目、魚の目~
オーラの付いたクリーチャーを除去されるだけで、相手はカード1枚しか使っていないのに対し、こちらはカード2枚を失う。マジックの黎明の頃より存在する「オーラ」というメカニズムは、その構造上アドバンテージを失いやすく、決して扱いやすいとは言い難いメカニズムである。
しかしながら、あらかじめ除去耐性を持ったクリーチャーにオーラを付けたり、あるいはオーラを使用するという潜在的なデメリットに匹敵するだけの、いわば「通れば勝ち」のようなリターンさえあれば、その弱点は大きく軽減されるだろう。
モダンフォーマットに存在する「呪禁オーラ」というデッキはまさにそうしたコンセプトのデッキで、その名の通り呪禁を持ったクリーチャーにオーラを付けることでそんな弱点を払拭している。シンプルながらも対策の困難なこの戦略は、ハマれば対戦相手に何もさせずに勝つことができる非常に爆発力の高い戦略だ。
さて、そんな呪禁オーラと同様のコンセプトのデッキを持ち込んだプレイヤーたちがいる。その1人が名デッキビルダーとして知られるプロプレイヤー、行弘 賢である。
行弘 賢 |
行弘は以前にもプレイヤーズツアー・名古屋2020でオリジナルの白黒オーラデッキを作成して持ち込み、見事ファイナリストの座に輝いている。本人曰くオーラデッキばかり使っている(?)のはたまたまとのことだが、しかしこのパイオニア環境でオーラを使ったデッキについて語るにあたって、行弘ほど適任な存在がいないことも事実だろう。
果たして行弘はどのような考えでセレズニア・オーラというデッキを持ち込んだのか? さっそくデッキテクインタビューをお願いした。
デッキ制作の経緯
――このデッキを作成された経緯を教えてください
行弘「先週末、アトランタで開催されていた地域チャンピオンシップでセレズニア・オーラがプレイオフに残っていたんです。試しに回してみると感触もよかったので、市川 ユウキくんや原根 健太くん、森山 真秀くん、川崎 慧太さんたちと一緒に調整することにしました。この中の何人かは僕と同じセレズニア・オーラで参加しています」
――結構大人数で調整されていたんですね。このデッキの強みはなんでしょうか?
行弘「まず呪禁クリーチャーにオーラを付けるというコンセプト自体が優秀で、対戦相手に一方的にゲームプランを押し付けることができます。また、緑信心のような除去のないデッキや、イゼットフェニックスのように除去を単体除去しか取っていないデッキに有利がつきます。現在のパイオニアで人気のあるこれら2デッキに強いという点が、このデッキを選んだ理由です」
――たしかに呪禁オーラは昔からモダンなどでも人気のあるデッキですね。しかし、パイオニアではラクドス・ミッドレンジやアゾリウス・コントロールのような布告系除去や全体除去を擁するデッキも人気があります。これらのデッキにはどのように対抗していくのでしょうか?
行弘「たしかにラクドス・ミッドレンジの《ヴェールのリリアナ》やアゾリウス・コントロールの《一時的封鎖》は脅威で、これらのデッキには決して有利とは言いにくいです。クリティカルなカードを引かれないよう祈るしかないですね(笑) しかし、逆に言えばこれらのカードさえ引かれなければ相手がこちらに対処できる手段がほとんどありません」
――なるほど。有利不利はハッキリしつつも、不利な相手に対しても対応を迫れるのはこうした尖ったデッキを選ぶメリットといえますね
デッキの調整について
――「続いてデッキの調整内容についてお伺いしたいのですが、このデッキのベースであるアトランタのデッキリストと比べるといくつか変更点がありますね」
4 《枝重なる小道》 4 《低木林地》 4 《寺院の庭》 3 《マナの合流点》 1 《耐え抜くもの、母聖樹》 1 《皇国の地、永岩城》 1 《森》 1 《平地》 -土地(19)- 4 《林間隠れの斥候》 2 《気前のいい訪問者》 4 《皇の声、軽脚》 4 《楽園のドルイド》 3 《上級建設官、スラム》 -クリーチャー(17)- |
4 《無鉄砲》 4 《天上の鎧》 3 《結束のカルトーシュ》 3 《歩哨の目》 2 《グリフの加護》 1 《槌手》 1 《ケイヤ式幽体化》 3 《きらきらするすべて》 1 《最上位権限》 1 《持続のルーン》 1 《戦茨の恩恵》 -呪文(24)- |
1 《耐え抜くもの、母聖樹》 3 《ポータブル・ホール》 2 《自然のままに》 2 《アダントの先兵》 2 《安らかなる眠り》 1 《持続のルーン》 1 《戦茨の恩恵》 2 《救出専門家》 1 《湧き出る源、ジェガンサ》 -サイドボード(15)- |
――特にオーラデッキのコンセプトとも合致する《上級建設官、スラム》と《気前のいい訪問者》が抜けているのは意外な調整です。この意図を教えてください
行弘「僕のデッキリストでは《照光の巨匠》になっている枠ですね。たしかにどちらもデッキには合っているのですが、《上級建設官、スラム》はカードを引くだけで勝てないこと、《気前のいい訪問者》はフィニッシャーとしての性能が今一つなことから、《照光の巨匠》を採用しています。《上級建設官、スラム》にせよ《気前のいい訪問者》にせよ、生き残ってターンが帰ってきてもイコール勝ちとはならない。ですが、《照光の巨匠》が生き残った場合にはほとんどの場合ゲームに勝てます」
行弘「パイオニアはブン回りのトップスピードにこそ多少の差はあれど、デッキごとのゲームスピードにそれほど大きな差がなく、ダメージレースになりやすい環境です。なので、よりダメージレースを有利に進めやすいカードの方がメタに合っていると考えたんです」
――なるほど、他のデッキのゲームスピードやゲームプランとの兼ね合いなど、環境全体を俯瞰してのカードチョイスというわけですね
不採用のカードとその理由
――たしかに《照光の巨匠》の二段攻撃はオーラ戦略と組み合わせると凶悪です。ただ、それであれば生き残りさえすればゲームに勝てる《皇の声、軽脚》や《照光の巨匠》を守れるカード、たとえば《タミヨウの保管》や《顕在的防御》のような守備的インスタントをもっと厚く採ってもよいのではないかと思います。しかし、このデッキリストではほとんど採用されていません。なぜでしょうか?
行弘「たしかに除去をかわせるカードは強力ですが、《林間隠れの斥候》や《楽園のドルイド》は最初から呪禁を持っているのでこれらのインスタントを必要としない場合も多いです(《楽園のドルイド》は《歩哨の目》などで警戒を付与することで実質的に呪禁クリーチャーとして運用できる)。ただし、今大会はデッキリストを事前公開制なので、防御系の呪文をまったく採用していないと相手は単体除去を撃ち放題になってしまいます。なので、相手に警戒させる意味でも2枚だけ採用しています」
――ありがとうございます。他にもこのデッキを調整する中で試したカードはありますか?
行弘「《命の恵みのアルセイド》や《無私の救助犬》などですね。やはり先ほど言ったとおり、防御系のカードの必要性があまり高くないと感じたので抜けました」
――最後にサイドボーディングについてもお伺いしたいです
行弘「4枚積みのカードが多いので見たまんまなのですが、サイドボード後には相手が除去を増やしてくるので、こちらも《バサーラ塔の弓兵》をサイドインして対抗します。また、《ポータブル・ホール》や《耐え抜くもの、母聖樹》は汎用性の高いカードで、効きそうな相手であればわりといろんなデッキ相手に入ります。ラクドス・ミッドレンジのような遅いデッキにはアドバンテージエンジンである《成長の季節》を入れ、イゼット・フェニックスには《安らかなる眠り》が非常によく刺さります(実際の対戦カバレージ)」
――お話いただきありがとうございました!
「虫の目、鳥の目、魚の目」という言葉がある。しばしばビジネスの分野で使われる言葉だが、虫のように細かい視点、鳥のように広い視点、魚のように流れを見る視点の3つを合わせて自他の立ち位置や現況を把握せよという教訓のような言葉だ。
今回の行弘の話を聞いていると、行弘はまさにこうした多角的視点をデッキデザインに落とし込んでいるように感じた。メタゲームに合わせてデッキを選択し、細かなカード選択でデッキの強みを最大化し、パイオニア環境全体を分析することで、これらのデッキ選択とカード選択に一貫性を持たせている。
誰しもが何らかの理由を持ってデッキを手に取り、カードを選んでいるはずだ。しかし、そんな誰もが当たり前に行っているようなことこそ、より深く思考を進めていくことで、デッキリストはさらに磨かれていくのであろう。私も行弘のようにはいかずとも、思考をすることを諦めず、デッキリストと真摯に向き合っていきたいと感じた。
4 《枝重なる小道》 4 《低木林地》 4 《寺院の庭》 3 《マナの合流点》 1 《耐え抜くもの、母聖樹》 1 《秘密の中庭》 1 《皇国の地、永岩城》 1 《森》 -土地(19)- 4 《林間隠れの斥候》 4 《照光の巨匠》 4 《皇の声、軽脚》 2 《楽園のドルイド》 -クリーチャー(14)- |
4 《無鉄砲》 4 《天上の鎧》 4 《歩哨の目》 2 《結束のカルトーシュ》 2 《グリフの加護》 2 《タミヨウの保管》 1 《まばゆい神盾》 1 《ケイヤ式幽体化》 4 《きらきらするすべて》 1 《最上位権限》 1 《持続のルーン》 1 《戦茨の恩恵》 -呪文(27)- |
1 《耐え抜くもの、母聖樹》 4 《ポータブル・ホール》 4 《バサーラ塔の弓兵》 4 《成長の季節》 2 《安らかなる眠り》 -サイドボード(15)- |
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