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木曜マジック・バラエティ
三田村和弥の「マジックスーパースター列伝」第6回:ドラゴンマスター! キブラー
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木曜マジック・バラエティ
2011.06.23
三田村和弥の「マジックスーパースター列伝」第6回:ドラゴンマスター! キブラー
By 三田村 和弥
アメリカンスーパースター。そう形容するのが正にふさわしいあの男が競技マジックの世界で最高の舞台であるプロツアーに帰ってきたのは、2009年、場所は常夏の島ハワイ・ホノルルでのことでした。
それ以前の競技マジックの世界でも非凡な才能を見せ付けていた彼は、このプロツアーに参加するために彼の実績から言ったらまるでふさわしくない戦場であるプロツアー予選を勝ち上がり、そしてそのプロツアー復帰戦、真っ白なシャツに真っ白なジャケットというハワイの気候・文化にはふさわしくない正装で初日を戦ったのは、スーパースターたる自分にふさわしい振る舞いを、という彼なりのプライドがそうさせたからなのでしょう。
対戦前に彼がいつも欠かさない、お気に入りのノリノリな曲で気分を高揚させるという儀式も、陽気でさわやかなアメリカンという彼の個性を表現する一つのエピソードです。
今回のスーパースター列伝で紹介するのはブライアン・キブラー/Brian Kibler。この連載でもお馴染みの、またプロツアー・名古屋のカバレージでも特集されたChannel Fireball勢の躍進が著しいアメリカではありますが、ブライアンはそういった若手アメリカ人プレイヤー達とは異なり、昨年末の世界選手権の場で殿堂表彰を受けたようにプロツアーでのキャリアが10年以上ある大ベテランです。
プロツアーの黎明期と呼ぶべき時代からプレーを始め、カイ・ブッディ/Kai Budde、ジョン・フィンケル/Jon Finkelの時代にもしのぎを削り、そして今なお最前線に立ちつつけるブライアン。そんな彼の偉大な足跡を振り返っていきましょう。
ブライアン・キブラー/Brian Kibler
主な戦績:
-
プロツアー・アムステルダム2010 ベスト4
- プロツアー・オースティン2009 優勝
- プロツアー・ホノルル2009 ベスト8
- プロツアー・シカゴ2000 ベスト4
-
グランプリ・仙台2010 優勝
- グランプリ・ボストン2003優勝
- グランプリ・トロント1997優勝
- 他グランプリ・トップ8、アメリカ選手権トップ8多数
ブライアンがプロツアーでのプレイを始めたのはそのプロツアーが産声を上げたのと同時、1996年2月にニューヨークで開催された記念すべき第一回目のプロツアーでのことです。
今でこそSF風のイラストやアメコミチックなプレインズウォーカーといった登場人物達でだいぶ取っ付きやすくなった印象のマジックですが、今から15年も前、1996年当時のインターネットもそれほど普及していなかった時代の日本で、このなんとなく怪しげな雰囲気を醸す米国産のカードゲームを知っているのは本当にごく一部のディープなゲーマー達だけでした。
筆者がマジックを始めたのも、当然それより後の第5版が発売されるかという頃で、当時のプロツアーの情報などをリアルタイムで入手していたわけではありませんから、この頃のブライアンについては他で紹介されているものを拝借する形でお届けすることにしましょう。
拝借してきた先はWizards社公式サイトのプロツアー殿堂特設ページ。そこに記載されているブライアンのプロフィールによると(編注:以上リンク先はともに英語)、初めて参加したプロツアー・ニューヨーク1996はジュニア部門の出場であったようです。
現在ではトーナメントの構造が整備され、プロツアーに出場するためには予選を突破するかグランプリでトップ16に入賞する、またはレーティングもしくはプロポイントの上位者といった条件を満たさなければならないというのは、トーナメントプレイヤーにとっては常識かもしれません。しかしさすがは最初のプロツアー、出場選手の選定方法がどうだったのか詳細を調べることはできませんでした。
ただ、当時15歳のブライアン少年がプロツアーに出場するためには保護者の承諾が必要だったようで、母親にWizards社へ電話してもらわなければならなかったという出来事について、ブライアンは彼のプロマジックキャリアの第一歩としてはかなり手強い関門であったと振り返っています。
最初の数回はジュニア部門が用意されていたプロツアーですが、それも廃止され、ブライアンが「本当の」プロツアーに始めて参加したのはプロツアー・シカゴ1997。そのひと月ほど前に開催されたミラージュ・ブロック構築のグランプリ・トロント1997で優勝したことで出場権を手に入れました。
17 《島》 4 《流砂》 2 《七曲がりの峡谷》 -土地(23)- 4 《大クラゲ》 4 《知恵の蛇》 4 《ギザギザ・バイスケリオン》 4 《ヴォーデイリアの幻術師》 4 《竜巻のジン》 -クリーチャー(20)- |
4 《衝動》 2 《記憶の欠落》 4 《雲散霧消》 3 《誘拐》 1 《命令の光》 3 《魔力消沈》 -呪文(17)- |
2 《霧の騎士》 2 《水門》 2 《撹乱》 2 《ブーメラン》 1 《夢の潮流》 1 《海嘯》 2 《再帰》 2 《命令の光》 1 《魔力消沈》 -サイドボード(15)- |
トロントで使用したデッキは《ギザギザ・バイスケリオン》と《ヴォーデイリアの幻術師》の2枚コンボをフィーチャーした青単カウンターデッキで、2011年の現在から見ると「悠長にも程がある。大丈夫か?」というデッキですが、この当時の「他人と同じデッキなんか使ってられるか。」という若さからくるものなのでしょうか、ブライアンの刺々しい意気込みを感じさせられるデッキではあります。
フィンケルとブッディ |
グランプリでは優勝という結果で成功を収めたブライアンですが、最初のプロツアー出場以降、プロツアーには時々参加するが、良くてもトップ64と、黎明期での成績ははっきり言ってイマイチなものでした。
同じジュニア部門からスタートし、プロツアーでのトップ8入賞を連発しまくるジョン・フィンケル/Jon Finkelと、ヨーロッパのグランプリ三連覇から世界チャンピオン戴冠という離れ業を成し遂げるカイ・ブッディ/Kai Budde、という歴史上のNo.1・2がいた時代に彼らを押しのけ、自身の存在感を表現するのは簡単なことではありません。
しかし、ブライアンはその時代にもスタープレイヤーの一人と世間に認識させることに成功したのです。そのような評価を得るきっかけとなったのは始めてトップ8に入賞し、デッキビルダーとしての才能を世に知らしめたプロツアー・シカゴ2000のことでした(リンク先は英語)。
マスクスブロックにインベイジョンが加わった当時のスタンダードは、「レベル」「ファイアーズ」「青白コントロール」という3種のデッキが支配的で、その環境の中、ファイアーズの亜種ではありますが《煽動するものリース》に《アルマジロの外套》を張るという「子供かよ。」というデッキで、後の殿堂入りプレイヤー達と渡り合い3位入賞を果たしたことは十分にインパクトのあった物語でした。
8 《森》 4 《低木林地》 4 《カープルーザンの森》 4 《真鍮の都》 4 《リシャーダの港》 -土地(24)- 4 《極楽鳥》 4 《ラノワールのエルフ》 4 《リバー・ボア》 4 《ブラストダーム》 3 《翡翠のヒル》 4 《古代のハイドラ》 2 《煽動するものリース》 -クリーチャー(25)- |
3 《増進 // 衰退》 4 《キマイラ像》 4 《ハルマゲドン》 -呪文(11)- |
3 《カヴーのカメレオン》 2 《サイムーン》 4 《アルマジロの外套》 2 《野火》 3 《サーボの命令》 1 《抹消》 -サイドボード(15)- |
このデッキを駆って準々決勝のズヴィ・モーショヴィッツ/Zvi Mowshowitz戦で見せた「リース+アルマジロ」の雄姿は、彼の二つ名がこの時から「ドラゴンマスター」になってしまっても仕方が無いというものでしょう。
「ドラゴンマスター」というのは本人も気に入っているようで、トップ8プロフィールの過去の実績欄に自ら「リースにアルマジロを付けた事」を書き込んでしまうほどです。
その後、ブライアンは2004年までにグランプリ・ボストン2003の優勝を含む複数のグランプリトップ8やアメリカ選手権トップ8入賞を繰り返し、プロツアーでのトップ8入賞こそ無いものの「ドラゴンマスター」として得たトッププロとしての評価を不動のものとしていきました。
この頃のブライアンは本当に怒涛の勢いで、出るグランプリのほとんどで結果を残していました。ちょうど現在の渡辺 雄也やオーウェン・ターテンワルド/Owen Turtenwaldのような勝ちっぷりだったのでしょう。渡辺を見ながら自分にもそういう時期があったと筆者に語ってくれたこともありました。
ここまでがブライアンのキャリアの第一章になります。
ブライアンは2004年のシーズンを最後にプロツアーの第一線から退いてしまったのです。
就職や家族のこと、さまざまな事情がありプロマジックを続けられなくなってしまうこともあるでしょう。しかし、マジックは逃げたり無くなったりはしません。また再開できる環境に身を置くことができれば、マジックはプレイヤーの帰還を歓迎してくれます。
キャリアの第二章のスタートはプロツアー・ホノルル2009であったのは冒頭でも紹介した通り。初日全勝からの連敗、その後は持ち直して第一章の全盛期でも一度しかなかったトップ8入賞をいきなり達成してしまうという、ド派手なパフォーマンスで復帰を飾ったのです。
一度はプロツアーから引退したブライアンにそのキャリアを再開させることを決心させる原動力となったのは、この2年前からブライアン自身がノミネートされていた殿堂への興味であったと本人は語っています。
プロツアーの業界は、規模こそ違いはしますが、他のプロスポーツと同じように新しい選手が次々と台頭してくる業界です。ブライアンのように以前にスタープレイヤーであったとしても、しばらくその名前を聞かなければ忘れられてしまうのも仕方ありません。
2007年、2008年とノミネートされながら落選していた殿堂投票で票数を集めるための復帰。復帰後に、しかも5年のブランクがある中で結果を残すことができなければ過去の自分の栄光に傷をつけてしまうかもしれないという恐れもあったはずです。
そんな恐怖とも戦っていたはずの復帰戦を見事に乗り越え、その次の舞台プロツアー・オースティン2009ではなんとプロツアー・ホノルルの再現かのような初日全勝からの三連敗、そこからの立て直しでスイスラウンドを切り抜け、そのまま優勝を果たしてしまったのです。
このように復帰してすぐに簡単にプロツアーで勝たれてしまうと、直近のプロツアーであるプロツアー・名古屋2011でも藤田 剛史さんがトップ8に入賞するなど、ブッディ、フィンケルの時代にしのぎを削った世代のプレイヤー達の凄さは底が知れないと感じさせられますね。
しかもオースティンで使ったデッキはその時代のプレイヤー、ベン・ルービン/Ben Rubin作のPunishing Zooであったことも特筆すべきことでしょうか。
1 《森》 1 《山》 1 《平地》 2 《樹上の村》 4 《燃え柳の木立ち》 2 《踏み鳴らされる地》 1 《聖なる鋳造所》 1 《寺院の庭》 4 《乾燥台地》 4 《霧深い雨林》 2 《湿地の干潟》 1 《幽霊街》 -土地(24)- 3 《貴族の教主》 4 《野生のナカティル》 4 《タルモゴイフ》 3 《クァーサルの群れ魔道士》 4 《聖遺の騎士》 3 《悪斬の天使》 -クリーチャー(21)- |
4 《稲妻》 4 《流刑への道》 2 《稲妻のらせん》 4 《罰する火》 1 《遍歴の騎士、エルズペス》 -呪文(15)- |
4 《翻弄する魔道士》 1 《戦争の報い、禍汰奇》 3 《古えの遺恨》 3 《血染めの月》 3 《幽霊街》 1 《神聖なる泉》 -サイドボード(15)- |
このオースティンでの活躍は投票期間の関係上で間に合わず、2009年の殿堂で表彰されることは叶いませんでしたが、2010年に殿堂入りすることはほぼ確実と見られていました。
しかし、ブライアンはそれで満足する男ではありませんでした。2010年には日本のファンの皆さんの記憶にも新しいでしょう。グランプリ・仙台2010で(オリジナルはパット・チャピン/Pat Chapin作ではありますが)彼の名を冠したキブラーバントを使い優勝し、殿堂投票の有権者達に最後の駄目押しをします。
5 《森》 2 《島》 1 《平地》 4 《海辺の城塞》 4 《天界の列柱》 1 《活発な野生林》 3 《陽花弁の木立ち》 4 《霧深い雨林》 -土地(24)- 4 《貴族の教主》 2 《極楽鳥》 1 《硬鎧の群れ》 4 《前兆の壁》 4 《海門の神官》 1 《国境地帯のレインジャー》 4 《復讐蔦》 2 《イーオスのレインジャー》 2 《失われた真実のスフィンクス》 -クリーチャー(24)- |
2 《流刑への道》 1 《バントの魔除け》 2 《忘却の輪》 3 《遍歴の騎士、エルズペス》 3 《精神を刻む者、ジェイス》 1 《ギデオン・ジュラ》 -呪文(12)- |
1 《カビのシャンブラー》 1 《ジュワー島のスフィンクス》 1 《バントの魔除け》 2 《失脚》 3 《天界の粛清》 2 《剥奪》 2 《否認》 1 《忘却の輪》 1 《軍部政変》 1 《ギデオン・ジュラ》 -サイドボード(15)- |
さらにはその投票結果が発表されたプロツアー・アムステルダムでもブッディと共に殿堂の力を存分に披露してトップ8に入賞を果たしたのです。
この時使用していたデッキはブラッド・ネルソン/Brad Nelsonらを初めとしたChannel Fireball製の《包囲の搭、ドラン》デッキであり、新旧の力を織り交ぜた柔軟な対応は初めてプロツアーに参加してから15年の時が経過して身に付けた年の功とも言えるのではないでしょうか。
今シーズンのブライアンは掲載時点で11点のプロポイントと若干不調気味で、「今日は俺の日じゃないな。」とぼやきながらトーナメントを戦っていることが多いこの頃ですが、ブライアンほどの実力者なら今後の巻き返しが必ずあるはずです。
復帰後2年連続でプロレベル7を獲得しているブライアンは今シーズンも最低でもレベル7、あわよくばプロマジック界最高のステータスであるレベル8を狙っているはずです。彼の活躍をこれからも期待しましょう。
それではここからは恒例のスーパースターの裏側紹介のコーナーです。プロツアー・名古屋後に行ったカラオケでそこにいた日本人女性をお持ち帰りしそうになったさわやかイケメンのブライアンがマジックを中断していた時に何をしていたのかという話について。
アメリカ人のスポーツ選手やタレントを見た時のような感じで、ブライアンはインタビューに対しての受け答えが非常に丁寧で慣れているという印象を受けます。
プロツアー・名古屋の会場でもブライアンに対してインタビューの録画をしているところに立ち会ったのですが、とても流暢に話しマジックの広告塔としての自分の役割を自覚していて、正にプロとしての振る舞いを見たという感じでした。
逆にマーティン・ジュザ/Martin Juzaはもう少しがんばりましょうというところでしたよ。まあ、アメリカ人でもないしまだ若いので酷といえば酷ですが。そもそも筆者が言えたものではありませんでしたね。
それは置いておいて、ブライアンのしゃべりのうまさは彼がアメプロのレスラーを目指していた頃に身に付けた話術だということを聞いたことがあります。
WWEの放送を見たことがある人ならお分かりでしょうが、アメプロはレスリング半分、しゃべり半分の世界。ブライアンの現在のじゃべりのうまさは、「プロツアーに出ていなかった時期にレスラー養成所に通っていたのではないか」という噂の証拠になるものなのかと考えたのですが、本人に直接確認をとったときにはぼやかされたのであくまで噂ということで。筆者も新日本のレスラーかと間違われることがありますが、どれは完全に嘘情報なので、悪しからず。
マジックには殿堂というシステムが存在し、ブライアンのようにそれに向けて頑張っているプレイヤーも多くいます。日本で言えば中村修平がそうで、彼は今シーズンからノミネートされます。実績から言ったら当確間違い無しの彼に続けるように、筆者もプロツアーでのキャリアを重ねて行きたいものです。それではまた。
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