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コラム

木曜マジック・バラエティ

浅原晃の「デッキタイムトラベル!」 Part7 ?5色デッキ

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木曜マジック・バラエティ

2011.07.07

浅原晃の「デッキタイムトラベル!」 Part7 -5色デッキ

By 浅原 晃


 マジックというゲームは5つの色によって成立しており、それぞれの色には特徴があり、性質など、その色が出来うることの範囲は大きく異なる。

  • 白ならライフ回復や全体除去
  • 青なら打ち消しやドロー
  • 黒なら手札破壊や単体除去
  • 赤なら火力による直接ダメージ
  • 緑ならマナ加速や巨大化呪文

 それぞれが、得意とするものや苦手とするものがあり、それらを選択し組み合わせることによって、マジックの戦略というのは様々な形を取り、それが深いものとなっている。
 単色としてその色の特徴を追求するのか、多くの色を取り入れてより対応力の高いデッキを作るのか、デッキの歴史が語るのは色というマジックが提示した問題に対するプレイヤーの解答と言えるかもしれない。

 今回取り上げるのはビートダウンやコントロールの5色デッキ。これらは、もっとも挑戦的に色の概念を飛び越えることの魅力を鮮烈に教えてくれるデッキ達だ。


■1997年 5色の楽園


 5色デッキを象徴するもの。それが絶対に必要なものを挙げるならば、それはマナベースだろう。
 マジックの色を支配しているものの根幹はマナである。当たり前の話ではあるが、基本土地からは特定の1色のマナしか出ない。そして、マジックは土地を引かなければ、そして適正な色マナを出せなければ、カードを使うことができない。多色でデッキを組むというのは、それだけ合った色マナが出ないという事故が起こってしまうことも示している。それは2色のデッキでさえ頻繁に起こりうるため、それが5色ともなれば、さらに繊細なものになってしまう。

 それ故、5色デッキが生まれるときは、決まって優秀な多色をサポートする土地や呪文、クリーチャーが存在している。

 マジック黎明期において、5色をサポートする土地というのはほとんど存在しなかったが、クリーチャーによって、可能性は示されていた。それが、緑の《極楽鳥》だ。

 1マナで召喚できるクリーチャーによるマナ加速でありながら、好きなマナを生み出せるため、5色デッキの可能性を持っていたのだ。

 ただ、もちろん、除去されやすいクリーチャー、サイズも0/1、除去されてしまえば終わりと大きく頼れるほどの基盤とは言えない。5色という戦略に光が当たるのは《真鍮の都》、そして、ダメージをデメリットとして持たない《知られざる楽園》が加わったときだろう。特に《知られざる楽園》はこの当時の5色デッキを支えていた1枚だ。

 そんな中、これらのマナ基盤から生まれたのが、『5CG(5色緑)』だ。

『5CG』 キャシー・ニコロフ
1997年全米選手権フロリダ地区大会 優勝 / スタンダード[MO] [ARENA]
9 《
3 《真鍮の都
4 《知られざる楽園

-土地(16)-

4 《極楽鳥
4 《クウィリーオン・レインジャー
4 《農芸師ギルドの魔道士
4 《リバー・ボア
1 《カルー・ミーアキャット
4 《疾風のデルヴィッシュ
2 《ジョルレイルのケンタウルス
3 《マロー

-クリーチャー(26)-
2 《茨の鎧
3 《冬の宝珠
4 《火葬
2 《恐怖
4 《Arcane Denial
2 《解呪
1 《ハルマゲドン

-呪文(18)-
4 《紅蓮破
4 《水流破
1 《解呪
2 《恐怖
2 《サイムーン
2 《憂鬱

-サイドボード(15)-

 このデッキでの土地バランスは《》と5色のマナが出る土地だけを取り入れ、緑マナを確実に出しながら各色の呪文をサポートしている。

 赤の《火葬》、黒の《恐怖》、青の《Arcane Denial》、白の《解呪》とそれぞれの色が得意とする分野のカードを取り入れることで、このデッキの汎用性は緑だけで組まれるよりも遥かに高いものになっている。

 明確なコンセプトとしては、緑のマナクリーチャー+《冬の宝珠》という基本戦術に各種多色呪文を加えた形だが、特筆すべきはサイドボードにとりうる色対策カードの選択肢も全てのカードから選べるということだろう。
 《紅蓮破》に《水流破》、そして、《憂鬱》は特定のデッキに対して、劇的な効果を発揮する。マジックは常にサイドボード戦の方が多く戦うため、全ての色に対する対抗カードを選べることはアドバンテージを発揮できるポイントとも言えるだろう。

 そして、ウェザーライトで《宝石鉱山》という、ビートダウン向きな5色地形が加わると《極楽鳥》に頼ることなく5色のマナベースを構築できるようになった。そして、黒をベースにした5色デッキ『5CB(5色黒)』がその年の世界選手権を制することになる。

『5CB』 Jakub Slemr
世界選手権1997・優勝 / スタンダード[MO] [ARENA]
10 《
3 《知られざる楽園
3 《宝石鉱山
3 《真鍮の都
2 《硫黄泉
1 《地底の大河

-土地(22)-

2 《祭影師ギルドの魔道士
4 《墜ちたるアスカーリ
4 《黒騎士
4 《ストロームガルドの騎士
4 《大クラゲ
2 《ウークタビー・オランウータン
1 《ネクロエイトグ
4 《ネクラタル

-クリーチャー(25)-
4 《火葬
4 《押し寄せる砂
4 《Contagion
2 《地震

-呪文(14)-
2 《黒檀の魔除け
2 《水流破
3 《紅蓮破
2 《解呪
1 《名誉の道行き
1 《流刑
2 《絶望の荒野
2 《Dystopia

-サイドボード(15)-

 当時、世界最高峰のプレイヤーの一人であるヤコブ・スレマーが使用したこのデッキは、デッキの構造としては、コストパフォーマンスに優れたクリーチャーと呪文の詰め合わせとなっているが、『5CG』の大きな違いは基盤となるクリーチャーのサイズだろう。序盤の基盤となるクリーチャーにタフネス1の多い『5CG』は《祭影師ギルドの魔道士》や《Contagion》といったカードがキラーカードになっており、マナクリーチャーを止められると動きが一気に鈍くなる。逆に『5CB』は単体でコストパフォーマンスの良いカードを盛り込むグッドスタッフに寄せた形のため、安定した動きを見せることができた。

 デッキパワーという点では『5CG』の方が高いというのは一般的な認識だが、それに対して『5CB』というデッキを持ち込めたのはメタゲームというものを臨機応変に消化できる5色デッキの利点と言えるだろう。


 こうした背景から世界的にはポピュラーなデッキであった『5CG』を日本で有名にしたのは、The Finals97を優勝した『ジャパニーズレジェンド』塚本俊樹だ。

『5CG』 塚本 俊樹
The Finals97 / 優勝[MO] [ARENA]
8 《
4 《真鍮の都
4 《知られざる楽園
1 《反射池

-土地(17)-

4 《極楽鳥
4 《農芸師ギルドの魔道士
3 《クウィリーオン・レインジャー
3 《根の壁
3 《リバー・ボア
3 《大クラゲ
2 《ウークタビー・オランウータン
3 《マロー
3 《貿易風ライダー

-クリーチャー(28)-
2 《冬の宝珠
4 《火葬
4 《焚きつけ
1 《恐怖
1 《解呪
1 《ハルマゲドン
2 《魔力消沈

-呪文(15)-
1 《霧の騎士
1 《スクラーグノス
3 《紅蓮破
1 《水流破
1 《臨機応変
2 《冬の宝珠
1 《解呪
1 《名誉の道行き
1 《恐怖
1 《ゴブリンの砲撃
2 《サイムーン

-サイドボード(15)-

 テンペストブロックで《貿易風ライダー》が加わったことで、従来の《冬の宝珠》による、マナを縛るシステムが強化され、さらにロックするスタイルに進化したのがこの『5CG』だ。The Finals97の決勝で、『悪魔のように囁いた、マロー』は有名なエピソードとして語られることが多いので、知っている人も多いかもしれない。

 単純な《貿易風ライダー》のカードパワーもさることながら、マナクリーチャーを多く使用することで展開力を得るが同時に引きムラも発生させてしまうのが『5CG』の欠点であったところを、《貿易風ライダー》によってマナクリーチャーそのものを有効に使えるため、そのデメリットがシナジーによって軽減されている形だ。

 ミラージュブロックは5CW(5色白)や5CR(5色赤)といったデッキも生み出した。それは、《知られざる楽園》や《宝石鉱山》といった土地によって、生み出されたものと言っていいだろう。


■1998~1999年 点と線

 《真鍮の都》や《知られざる楽園》、《宝石鉱山》は決してコントロール向きの土地ではないというのはその能力から明らかだが、テンペストで加わった《反射池》は逆にコントロールでこそ使いやすい土地だった。

 そして、その可能性に目をつけて生まれたのが、5色コントロールデッキ『D5C』だ。

『D5C』 Michel Long
1998 Mid-Atlantic Regional Championships[MO] [ARENA]
4 《
4 《真鍮の都
4 《反射池
1 《宝石鉱山
1 《知られざる楽園
2 《アダーカー荒原
2 《カープルーザンの森
1 《サラカスの低地
4 《流砂

-土地(23)-

4 《花の壁

-クリーチャー(4)-
3 《ミューズの囁き
4 《衝動
4 《対抗呪文
2 《マナ漏出
2 《ガイアの祝福
2 《火葬
3 《解呪
2 《直観
3 《雲散霧消
3 《ジェラードの知恵
3 《神の怒り
1 《地震
1 《火の玉

-呪文(33)-
3 《紅蓮破
3 《水流破
3 《エレファント・グラス
2 《エメラルドの魔除け
1 《赤の防御円
1 《解呪
2 《ロボトミー

-サイドボード(15)-

 『D5C』は今まで紹介した5色デッキのように、全ての色からいろいろなカードを採用しているが、そのどれもが、コンロトロール向きのカードである。
 5色のコントロールというのは、マナベースや5色地形の特性の問題から、スタンダード環境では組むことが難しいと考えられていたが、《反射池》という土地が生まれたことで現実的な構成となったのだ。

 このデッキでは、土地以外の破壊されて困るようなパーマネントを置かないことで相手に無駄カードを増やし潜在的なアドバンテージを得ることを主眼に置いている。加えて、全ての色を使うことで、コントロールとしての対応力を最大限得るということを利点にしている。

 この『D5C』、そして『5CB』や『5CG』は、ビートダウンとコントロールという形は違えど、5色にすることによって「汎用性を持たせる」デッキと言えるだろう。


 ただ、そのシナジーを最大に強化するために必然的に5色になってしまうという形も存在する。強い点を集めて5色のデッキにするのではなく、シナジーの線を繋いでいったら5色になる、そういったデッキが生まれたのはテンペストブロックの一つの種族スリヴァーだ。

 テンペストブロック生まれのスリヴァーは、全ての能力を共有するという特徴を持ったクリーチャータイプだ。そして、その色は5色にバラバラに存在したため、その能力を最大に生かすには5色のデッキを組む必要があった。
 幸いにして、ミラージュブロックの5色地形は健在であり、《反射池》もあったため、クリーチャーをスリヴァーで統一し、呪文のサポートを各色から選んで持っていくというスタイルは十分に現実的であったといえるだろう。

 もっとも有名なスリヴァーデッキは、青の打ち消し呪文と組み合わせた『カウンタースリヴァー』だろう。『カウンタースリヴァー』はクロックパーミッションと言われる、クリーチャーによるダメージクロックを守るデッキの代表的なデッキでもある。
 クロックパーミッションとは、例えば、《灰色熊》を戦場に出せば、それが攻撃できる状態を守り続ければ、2点のクロックで相手を10ターンで倒すことができる。そのダメージ源を守って戦う戦略のことを指す。

 『カウンタースリヴァー』は当時のスタンダードシーンでも活躍したが、もっとも有名な『カウンタースリヴァー』は少し先のエクステンデッドで活躍した『DDスリヴァー』だ。

『DDスリヴァー』 Christian Luhrs
プロツアー・シカゴ99 / トップ8 (エクステンデッド)[MO] [ARENA]
4 《真鍮の都
2 《宝石鉱山
2 《知られざる楽園
4 《Underground Sea
3 《Tundra
2 《Scrubland
1 《Tropical Island
1 《Volcanic Island
4 《氾濫原

-土地(23)-

4 《筋肉スリヴァー
4 《有翼スリヴァー
4 《水晶スリヴァー
4 《冬眠スリヴァー
4 《酸性スリヴァー

-クリーチャー(20)-
3 《Demonic Consultation
2 《剣を鍬に
4 《対抗呪文
2 《解呪
4 《Force of Will
2 《誤った指図

-呪文(17)-
3 《水流破
2 《剣を鍬に
2 《解呪
2 《名誉の道行き
3 《非業の死
3 《死者への敬意

-サイドボード(15)-

 この当時のエクステンデッドではデュアルランドを使用することができたために、《氾濫原》と組み合わせて、より、色マナが揃い易くなっている。スリヴァーのシナジーを最大限生かすことができ、多色のスリヴァーは《Force of Will》のコストとしても優秀だ。

 また、このタイプのデッキは『DDスリヴァー』と呼ばれる。その理由は《Demonic Consultation》の頭文字と《誤った指図》の英語表記のMisdirectionのDから取ったと言われており、状況に応じて、役割の合ったスリヴァーをサーチしたり、特定の呪文を手に入れるために使う《Demonic Consultation》が隠れたキーカードになっている。

 デッキを全て使って勝つわけではなく、また、中核となるカードが4枚入っている以上、デッキがなくならないならば削れることはほとんどデメリットではないという『デモコン理論』を説明するにも良く使われるデッキだ。


 そして、テンペストブロックを加えることでさらに進化していくデッキも存在する。

 5色デッキ、特に『5CG』のような形のデッキは、入れるカードに関してはまさに「何でも入る」デッキである。完成された形というのは基本的に存在せず、セットが追加されれば大きく形を変えることがある。

 そして、『5CG』もテンペストブロックを加えていくことでその形を大きく変えていった。

『NWO』 塚本 俊樹
日本選手権98 / 優勝[MO] [ARENA]
6 《
4 《宝石鉱山
3 《反射池
2 《真鍮の都
2 《知られざる楽園
1 《松のやせ地
1 《不毛の大地
1 《ヴォルラスの要塞

-土地(20)-

4 《極楽鳥
4 《花の壁
3 《大クラゲ
2 《ウークタビー・オランウータン
4 《スパイクの飼育係
2 《貿易風ライダー
2 《ネクラタル
1 《ルアゴイフ
1 《スリヴァーの女王
1 《新緑の魔力

-クリーチャー(24)-
2 《炎の嵐
2 《根囲い
2 《森の知恵
2 《ゴブリンの砲撃
2 《ハルマゲドン
3 《自然の秩序
3 《生ける屍

-呪文(16)-
1 《ウークタビー・オランウータン
1 《ファイレクシアの炉
1 《水流破
3 《紅蓮破
1 《炎の嵐
1 《エメラルドの魔除け
2 《解呪
1 《恐怖
1 《夜の戦慄
1 《魔力流出
1 《道化の帽子
1 《ロボトミー

-サイドボード(15)-

 『NWO(New World Order)』の名前で知られるこのデッキは、従来の『5CG』をベースに《自然の秩序》と《生ける屍》を組み合わせ、《新緑の魔力》や《スリヴァーの女王》と言った大型クリーチャーを強襲させたり、盤面を一気にひっくり返すことが可能だった。

 これに、エクソダスで《適者生存》と《繰り返す悪夢》が加わると、より柔軟性の高い形へと進化していく。

『サバイバル・ナイトメア』 Brian Selden
世界選手権98 / 優勝[MO] [ARENA]
8 《
1 《
3 《真鍮の都
2 《知られざる楽園
2 《反射池
1 《宝石鉱山
2 《地底の大河
2 《カープルーザンの森
1 《ヴォルラスの要塞

-土地(22)-

4 《極楽鳥
2 《根の壁
4 《花の壁
2 《ウークタビー・オランウータン
1 《大クラゲ
2 《スパイクの飼育係
1 《雲を追う鷲
1 《貿易風ライダー
1 《スラルの外科医
1 《スパイクの織り手
2 《ネクラタル
1 《オークの移住者
1 《新緑の魔力
1 《夜のスピリット

-クリーチャー(24)-
2 《炎の嵐
4 《適者生存
2 《巻物棚
4 《繰り返す悪夢
2 《ロボトミー

-呪文(14)-
1 《堅牢な防衛隊
2 《ファイレクシアの炉
3 《エメラルドの魔除け
2 《紅蓮破
2 《夜の戦慄
1 《宝石の広間
4 《沸騰

-サイドボード(15)-

 《適者生存》はシルバーバレット戦略に適したエンチャントだ。1枚挿しのクリーチャーを多く入れそれをサーチすることよって、状況に合わせて持ってくることができる。多くのクリーチャーは戦場に出たときの効果を持っており、呪文のように使えるため、それを《繰り返す悪夢》で使いまわすこともでき、単純に《適者生存》で落とした巨大なクリーチャーを釣り上げることもできた。

 その後、強力すぎたということで《繰り返す悪夢》は禁止されることになるが、ミラージュブロックの代わりにウルザブロックが加わってからは《なだれ乗り》などを加え、《生ける屍》を中心としてより攻撃的な形が使われることになる。

『サバイバル・デス』 森雅也
アジア太平洋選手権99 / 優勝[MO] [ARENA]
6 《
2 《
1 《
3 《真鍮の都
2 《スランの採石場
2 《反射池
2 《カープルーザンの森
1 《カープルーザンの森
1 《硫黄泉
1 《ファイレクシアの塔
1 《ヴォルラスの要塞

-土地(22)-

4 《極楽鳥
4 《花の壁
3 《なだれ乗り
2 《スパイクの飼育係
1 《腐肉クワガタ
1 《棺の女王
1 《骨砕き
1 《ウークタビー・オランウータン
1 《ヤヴィマヤの農夫
1 《ギトゥの投石戦士
1 《アカデミーの学長
1 《スパイクの織り手
1 《陶片のフェニックス
1 《無政府主義者
1 《ファイレクシアの疫病王

-クリーチャー(24)-
1 《吸血の教示者
4 《適者生存
1 《グールの誓い
2 《犠牲
2 《解呪
1 《崇拝
3 《生ける屍

-呪文(14)-
1 《ウークタビー・オランウータン
1 《スパイクの織り手
1 《夜の戦慄
4 《急速な衰微
2 《解呪
1 《グールの誓い
1 《聖なる場
1 《汚染
2 《日中の光
1 《崇拝

-サイドボード(15)-

 このアジア太平洋選手権99を制したデッキでは4色に絞られているが、その原因は青が必要ではないということではなく、土地基盤、《知られざる楽園》と《宝石鉱山》を失ったことが大きい。

 新しい5色土地である《スランの採石場》はそのデメリットが大きく、多くの枚数を入れることができない土地であり、そうなると《硫黄泉》といったダメージランドを使う関係上、ライフや安定したマナベースのために《真鍮の都》や《反射池》の枚数にも制限が掛かってしまう。

 ミラージュブロックは優秀な5色土地を持っていたが、ウルザブロックはどちらかと言えば単色推奨の傾向が強く、土地の多くも単色やアーティファクトをサポートするものが多かった。それは、5色デッキにとって逆風になっていたといえるだろう。


■2001~2007年 基本土地が見る5色

 インベイジョンブロックは多色カードが多く登場するセットだ。インベイジョンブロックの多色のアプローチは2つ、3色土地による友好3色による組み合わせの推奨と、そして、基本土地で多色のマナを揃えることだ。

 特に基本土地の種類の数に応じて効果が増大するカードが存在し、それを主軸に組まれた5色のコントロールデッキは『ドメイン』と呼ばれ、主にインベイジョンブロック構築で活躍した。

『ドメイン』 Kai Budde
グランプリ・ロンドン01 / 優勝 (インベイジョン・ブロック構築)[MO] [ARENA]
7 《
5 《
3 《
2 《
1 《平地
2 《ラノワールの荒原
1 《ヤヴィマヤの沿岸

-土地(21)-


-クリーチャー(0)-
4 《彩色の宝球
4 《地勢
4 《回避行動
4 《俗世の相談
4 《砕土
2 《破滅的な行為
1 《ゴブリンの塹壕
2 《破壊的な流動
1 《草茂る屋敷
4 《集団監禁
4 《連合戦略
2 《虚空
1 《ヨーグモスの行動計画
1 《秩序ある渡り
1 《レガシーの兵器

-呪文(39)-
3 《暗影のボブキャット
3 《魂売り
3 《頭の混乱
2 《破滅的な行為
1 《破壊的な流動
1 《草茂る屋敷
1 《虚空
1 《レガシーの兵器

-サイドボード(15)-

 ドメインは全ての基本土地が入っているという珍しいデッキでもあるが、入っているカードの殆どが、その効果を基本土地の種類に依存しているため、全ての基本土地を揃えることがまず重要になるデッキだ。当然、このデッキのマナベースには、基本的には2色~5色土地を入れることはできない、ただ、《地勢》や《砕土》、また、《俗世の相談》と言ったドロー補助によって、緑青ベースで安定してマナを供給することができるようになっている。

 ただ、このデッキは良いデッキではあったが、スタンダードでも大いに活躍したかというと、そうではない。

 何故なら、スタンダード環境には《リシャーダの港》という、攻撃的なデッキを後押しする土地が存在し、一つの色マナを縛られることが致命的になる多色のデッキはそれだけでリスキーと考えられていたからだ。


 また、その後のブロックにおいても5色デッキの活躍というのはあまり期待できる環境になかった。

 基本的に5色デッキはそれを可能にするだけの特殊な土地が存在するか、また、『スリヴァー』や『ドメイン』といったシステムとして5色にするほどの理由がなければ本来成立しえない。

 加えて、インベジョンブロック後のオデッセイや、オンスロートブロックは、セットのテーマが単色志向であり、十分なシナジーがその色(あるいは部族)に用意されていたため、これらの環境では5色にするリスクも高く、そうするメリットも薄かった。

 また、5色土地が《色あせた城塞》といった、非常にデメリットがきついものであったことを考えると、ミラージュブロックの時代とは色を取り巻く環境が違っていたといえるだろう。


 その流れは時代がラヴニカブロックまで進み、ギルドランドと呼ばれるサイクルが加わってまで続くことになる。

 これらの土地はデュアルランドの改定版であり、2色の色を出しながら、その色の基本土地の性質も持つというものだった。
 この影響を大きく受けたのが、オンスロートのフェッチランドが存在したエクステンデッドであり、それは時のらせんが加わり、《部族の炎》が加わってから顕著になる。

『アグロドメイン』 Raphael Levy
グランプリ・シンガポール07 / 優勝 (エクステンデッド)[MO] [ARENA]
1 《
2 《踏み鳴らされる地
1 《聖なる鋳造所
1 《蒸気孔
1 《寺院の庭
1 《繁殖池
1 《神無き祭殿
4 《樹木茂る山麓
4 《吹きさらしの荒野
2 《溢れかえる岸辺
2 《血染めのぬかるみ

-土地(20)-

4 《渋面の溶岩使い
4 《密林の猿人
3 《今田家の猟犬、勇丸
1 《サバンナ・ライオン
4 《番狼
2 《ヨツンの兵卒
2 《野生の雑種犬
4 《ボロスの速太刀

-クリーチャー(24)-
4 《ガイアの力
1 《粗暴な力
1 《炎の稲妻
4 《部族の炎
3 《突然のショック
1 《稲妻のらせん
1 《アルマジロの外套
1 《梅澤の十手

-呪文(16)-
3 《戦争の報い、禍汰奇
1 《ヨツンの兵卒
3 《翻弄する魔道士
1 《ロクソドンの教主
3 《仕組まれた疫病
1 《アルマジロの外套
2 《クローサの掌握
1 《梅澤の十手

-サイドボード(15)-

 もう一つのドメイン。このデッキはオンスロートのフェッチランドの特性を利用してギルドランドをサーチし、多色マナをほぼ好きなようにサーチできるようにしている。ライフを多く要求されるが、攻撃的なデッキならば、そのデメリットも無視できることが多い。どれだけライフが減っても先に相手のライフを0にすれば良いというスーサイドに近い発想かもしれない。

 アグロなドメインという名称は、基本土地の種類をフィールドに揃えて《部族の炎》や《ガイアの力》の効果を最大限利用するビートダウンであるからだ。ギルドランドならば3枚の土地が並べば、5枚分の基本土地の働きをすることも可能だ。

 フェッチランドのサーチによる、強固なマナベースによって、一見無理に見えるものも簡単に道理が通ってしまうのもマジックの面白いところかもしれない。


■2008年~2010年 鮮烈な復活

 5色土地の復活。久しく出ていなかった、デメリットが少ない5色土地、「鮮烈」土地がローウィン・シャドウムーアブロックで加わったことは5色デッキの復活をスタンダードでも十分予感させるものだった。また、優秀なマナ変換土地(フィルターランド)に加え、《反射池》が再び収録されていたことも多色デッキにとっては朗報といっていいだろう。

 これらの土地はどちらかと言えばコントロール向けの土地であるが、ダメージを食らわずに、多色を淀みなく生み出す。そういった点においては、かつてのミラージュブロックの多色土地よりも遥かに優れている環境になっていた。

 また「鮮烈」土地は5色全てに存在していたのも大きい。枚数の面において、この土地を10枚採用することもできたからだ。この「鮮烈」土地を使い、多色のデッキとして、ここから多くの派生を生み出すことになるのが、『クイッケントースト』だ。

『クイッケントースト』 Guillaume Wafo-Tapa
グランプリ・コペンハーゲン08 / Top8[MO] [ARENA]
4 《鮮烈な小川
4 《鮮烈な草地
4 《反射池
4 《秘教の門
3 《ヤヴィマヤの沿岸
2 《戦慄艦の浅瀬
1 《菌類の到達地
1 《トレイリア西部
1 《ウルザの工廠

-土地(24)-

4 《根の壁
3 《熟考漂い
2 《ザルファーの魔道士、テフェリー
1 《雲打ち
1 《妖精の女王、ウーナ
1 《白金の天使

-クリーチャー(12)-
1 《連合の秘宝
2 《否定の契約
2 《殺戮の契約
2 《糾弾
4 《ルーンのほつれ
2 《紅蓮地獄
2 《炎渦竜巻
3 《入念な考慮
4 《謎めいた命令
2 《神秘の指導

-呪文(24)-
2 《正義の執政官
2 《隆盛なる勇士クロウヴァクス
1 《否定の契約
2 《根絶
1 《紅蓮地獄
3 《ルーンの光輪
1 《消えない賛歌
1 《突風線
1 《インプの悪戯
1 《思考の粉砕

-サイドボード(15)-

 時のらせんブロックとローウィン・シャドウムーアブロックで組まれたこのデッキは、古き良きコントロールの動きをするデッキだ。マナベースが優れているゆえによって、いかようにも変えることができるその構成は、このデッキの強さはこの大会での結果として証明されたが、その潜在能力というのはまだまだ未知数だった。

 デッキとして、それがさらに開花したのは、アラーラの断片ブロックが加わってからだろう。アラーラブロックは多色をフューチャーしたセットであり、ローウィン・シャドウムーアブロックのこれらの土地とは非常に相性が良かったからだ。

 特に《残酷な根本原理》は非常にタイトなマナシンボルを要求されるものの、その受け皿としての土地は既に揃っていた。土地があれば打てないことは殆どないと言ってもいいくらいだ。

『クイッケントースト+残酷な根本原理』 Gabriel Nassif
プロツアー・京都09 / 優勝[MO] [ARENA]
3 《
4 《鮮烈な小川
3 《鮮烈な湿地
2 《鮮烈な岩山
2 《鮮烈な草地
4 《反射池
4 《沈んだ廃墟
2 《滝の断崖
2 《風変わりな果樹園
1 《秘教の門

-土地(27)-

3 《羽毛覆い
3 《崇敬の壁
4 《熟考漂い
3 《若き群れのドラゴン

-クリーチャー(13)-
1 《真髄の針
1 《天界の粛清
1 《恐怖
4 《エスパーの魔除け
4 《火山の流弾
4 《謎めいた命令
2 《残酷な根本原理
4 《砕けた野望

-呪文(21)-
1 《薄れ馬
2 《噛み付く突風、ウィドウェン
1 《天界の粛清
1 《霊魂放逐
2 《否認
2 《蔓延
4 《遁走の王笏
2 《神の怒り

-サイドボード(15)-

 『クイッケントースト』のアッパーバージョンとも言えるデッキになっているこのデッキ。その中でも《残酷な根本原理》という決め技を得たことは、戦略的に大きな進歩といっていいだろう。


■2011年~ 環境の変遷

 ローウィン・シャドウムーアブロック、そして、アラーラの断片ブロックがスタンダードから落ち、また、5色のデッキというのは作りつらい状態かもしれない。

 ただ、個人的なことをここで言わせてもらえば、マジックの可能性が全て詰まっているかのような、5色のデッキというは非常に楽しく、好きなデッキだ。

Solemn Simulacrum

 基本セット2012では《真面目な身代わり》が収録されている。もちろん、これだけでは多色のデッキが組めるとは到底言えないが、これから先、土地や5色の組み合わせを利用するシステムが現れたときには、頭を切り替えた方がいいかもしれない。5色デッキの可能性は歴史が証明しているからだ。


 この可能性をイニストラードに期待しつつ、今回はここまで。それではまた次回。


基本セット2012

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