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開発秘話

Latest Developments -デベロップ最先端-

スタンダード

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スタンダード

Sam Stoddard / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru

2017年1月13日


 こんにちは、そして「Latest Developments -デベロップ最先端-」にようこそ。ご存知のように、今回は少しお話しすることがあります。今月は5年以上ぶりにスタンダードで禁止が行われました。それについて少しお話をしなければいけません。

 去年、私は『カラデシュ』スタンダードについてお話をしました。その記事の中で、私はTwitterのフォロワーに向けて尋ねた質問について議論しました――彼らがスタンダードをどう思っているか? についてです。

 その結果はそのままでした。一部の人々は満足し、ほとんどの人々はそうではありませんでした。10点中3点というのは何度かあったかもしれません。私の記事の中で、私は今回の件よりも楽観的な反応をしましたが、その裏では我々がどうするべきか多くの議論が行われていました。

 スタンダードの状態に対する不満の噴出は最終決定に影響を与える可能性がありますが、それが全てではありません。我々は禁止決定のときにデータに大きく基づいて動き、そしてメタゲームはゲーム理論で予測された結果に従ってプレイされる傾向にあるということを、データを見た後に何度も繰り返し発見してきました。不利な組み合わせがないデッキが存在する場合、みんながそれをプレイするか、何もプレイしないかという傾向にあります。

 今年になって我々が最初にしたことのひとつは、スタンダードで何をするべきかについて話し合うために集まることであり、それは我々がデータを分析し、このフォーマットのバランスを取り、全体的な不満に対処する方法するためのプランを仕上げたときでした。スタンダードで何かを禁止するほうがそれを放置するよりも良いと決定したら、それを告知する時期を決める必要があります。この告知が前倒しされた理由の一部は、それがスタンダードに与える影響の大きさによるものです。

 我々はみんなが家でデッキを練り上げ、「Magic Online」でプレイし、プロツアー『霊気紛争』に参加するためのデッキに取り組む時間が十分にあるようにしたいと考えました。スタンダードのほぼすべてのデッキが《約束された終末、エムラクール》か《密輸人の回転翼機》のどちらかを使っていました。既存のデッキは進化するためにある程度時間が必要であり、そして人々にはこのシーズンの最初のスタンダードのイベントの前のデッキをアップデートする時間は重要です。

 プロツアー『ゲートウォッチの誓い』のための前回の禁止は通常の告知日でしたが、モダンは大きく異なった雰囲気でした。《欠片の双子》と《花盛りの夏》の禁止は2つのトップメタのデッキをそのフォーマット(もしくは少なくともトップメタ)から取り除きましたが、無傷のトップメタのデッキが大量に存在しました。事実、ほとんどがそうでした。

なぜ今なのか?

 我々が「Magic Online」のCompetitive Leaguesからメタゲームのデータを見たとき、白青フラッシュがスタンダード最強のデッキであることは明白でした。不利なマッチはトップメタではないデッキに1つだけ(黒赤吸血鬼)で、それも1%下回っているだけでした。これはよろしくありません。人々が白青フラッシュを倒すためにプレイしたと言っていた昂揚のようなデッキでさえ、我々の想定や人々が信じているほど実際に安定してそれを倒してはいませんでした。いいところにあるとはいえません。さて、白青フラッシュは全てを支配しているわけではありませんが、不利な組み合わせもありませんでした。これは数か月前に我々がプロツアー『異界月』の前に《集合した中隊》デッキで見たデータとよく似ていました。

 少し時間を取って、我々が前回スタンダードで禁止を出したときの話をしましょう。カウ・ブレードの時代、《精神を刻む者、ジェイス》と《石鍛冶の神秘家》が禁止されたときのことです。


精神を刻む者、ジェイス》 アート:Jason Chan

 現在のスタンダードはグランプリ・ダラス/フォートワース2011のトップ8デッキに32枚の《精神を刻む者、ジェイス》が入っていたカウ・ブレード時代よりははるかにバランスが取れています。はるかに多くのデッキが存在し、その普遍さに近いカードはありません(ええ、《密輸人の回転翼機》はそうかもしれません)。それでも、あの環境はカードを禁止するハードルであるべきではありません――あの環境は恐らくスタンダードの親和の日々以降で、最もバランスの崩壊したスタンダードでした。

 《精神を刻む者、ジェイス》や親和、《トレイリアのアカデミー》をスタンダードで禁止を出すハードルにするべきではないという妥当な主張が存在します。我々はカードを禁止するのが本当に好きではありませんが、私はスタンダードで禁止を出すべき時のハードルが過去において高すぎたと考えています。

 例えば去年を振り返ってみると、私はどこかで《集合した中隊》を禁止しなかったのは間違いだったと信じています。しかしながらその時がいつだったのかは私にはよくわかりません。プロツアー『戦乱のゼンディカー』にはトップ8に《集合した中隊》がなく、プロツアー『ゲートウォッチの誓い』はスタンダードではなく、プロツアー『イニストラードを覆う影』では8枚しかトップ8のデッキに含まれていませんでした。

 しかしそうは言っても、このデッキがこのフォーマット最強のデッキのひとつであることは明らかでした。人々はこのカードに関して多くの不満を漏らし、そしてそれはもっともなことでした。このデッキが不利な組み合わせがない優秀さを最終的に得たのはプロツアー『異界月』のしばらく後になってからでした。

 我々の過去の禁止カードのハードルでは、このカードを禁止するのに妥当なタイミングがありませんでした。我々はスタンダードが相当ひどく落ち込んでいた親和とカウ・ブレードの時代にしか行動を起こしませんでした――そして当時を振り返ってみてもっと早く禁止をしていたほうがそのフォーマットの健全性のため、マジックのため、お店のため、そしてプレイヤーのために良いことなのは明らかでした。

 しかし今回の禁止に戻ってみましょう。我々の狙いはできるだけ多くのプレイヤーがスタンダードをプレイして満足すること、そして修正を行うのにこのフォーマットがどん底に落ちるまで待たないことでした。カードを禁止することとバランスの崩壊したフォーマットを放置することは、どちらにも深刻な損失があります。しかしながら、私がこのフォーマットにとって最も駄目にしていると考えることは、このフォーマットをどん底に叩き落としているのものが、人々が不満を持っているものではないということでした。

 人々は《霊気池の驚異》に不満を漏らしているのはほとんどがエムラクールのせいでした。私はどれぐらいの人々がスタンダードを楽しんでいるかという質問にとても多くの意見を受け取りましたが、その中で白青フラッシュが問題であると実際に言っていた人はほとんどいませんでした。人々は実際エムラクールをプレイされるのが嫌なだけでした。これはほぼ共通しています。われわれはテストプレイで基本的にエムラクールを楽しんでいましたが、我々が開発部を通してある程度現れるものよりも、現実世界で競技スタンダードのプレイヤーがプレイするゲームの数がどれぐらい多いかについては言うべきことがあります。エムラクールは最初の1~2回はとてもクールですが、3~4回目になると驚異的に腹立たしくなります。

 エムラクールだけを禁止することが検討されましたが、それは2番目に人気があって、2番目に強いデッキからカードを禁止して、最強のデッキを無傷で残すという、とてもひどいアイデアでした。《密輸人の回転翼機》の禁止は確かに白青フラッシュに被害を与えますが、同時に他の多くのデッキにも被害を与えます。最終的に白青フラッシュ独自のカードを最低1枚は禁止する必要が生まれ、多くの議論を経て《反射魔道士》にたどり着きました。

 このような禁止の目的のひとつは、メタゲームから何らかのデッキを完全に抹殺してしまうことではありません。我々はデッキに入れるカードを全て集めるのに多くの時間がかかること、そしてあなたが集めたカードを全て無効化してしまう禁止がをとてつもなく腹立たしいことであると理解しています。可能ならば、禁止するにしても常にあなたのデッキのカードが多くの有用性を保ったままになるような方法で禁止をしたいと考えています。あなたがマルドゥ機体を持っているなら、黒赤アーティファクト・アグロやアグレッシブな赤白デッキは恐らく依然として競技レベルのままです。マルドゥ機体はプレイできなくなるかもしれませんが、あなたのデッキの向かう場所はあるはずです。

 特にモダンにおいて、我々は特定のデッキをメタゲームから完全に取り除くのではなく、弱体化させようと試みることがよくあります。《欠片の双子》は他に良い選択肢がありませんでしたが、《ウギンの目》、《死儀礼のシャーマン》、《血編み髪のエルフ》、《雲上の座》のようなカードの禁止は、それらの入ったデッキを競技レベルのままにし、しかし以前ほどの強さをないようにするかなり良い仕事をしました。

 今回の場合、我々は似たようなことをスタンダードと《反射魔道士》で行いました。私は白青デッキが少し弱体化したとしても依然として競技レベルにあり、《密輸人の回転翼機》の退場をこの環境のアグレッシブなデッキの多くが埋め合わせることができると信じています。同時に、《霊気池の驚異》デッキが(うまくいけば)何らかの形で存在し続け、しかしそれほどこのフォーマットを支配しないようになるでしょう。エムラクールがいなくなったことでこのデッキはプロツアー『カラデシュ』の時のようなより脆さのあるデッキになるはずです。特に4ターン目に《霊気池の驚異》を使えたならこのデッキは強力になりえますが、しかしエムラクールがないので少し弱くなっています。

未来

 禁止できるタイミングが増加する変更が行われても、将来に不必要なリスクを背負う頻繁な禁止を行う計画がないことを実現するのは重要です。

 マジックはとても長期的に考えられていて、それはとても繊細なバランス取りになることがあります。もし我々がスタンダードとのセットで既成概念の殻を破るカードを印刷しないなら、十分に強力で面白いカードは作られなかったでしょう。フォーマットのバランスを完璧に取るためには、まず最初にそれを解明しなければなりません。我々がFFL(編訳注:フューチャー・フューチャー・リーグ=開発部内部のプレイテストリーグ)でプレイする数人と与えられた時間の中でそのフォーマットを解明できるなら、そのフォーマットはデッキ構築を掘り下げたい人にとってとても退屈なものでしょう。


結束への呼びかけ》 アート:John Severin Brassell

 また我々は対策カードや強力な回答に関するとても真剣な議論をたくさん行いました。《致命的な一押し》で分かるように、我々はスタンダードにとても強力な回答を全く印刷しなかったわけではないのですが、その数を増やす必要がありました。脅威と回答の振り子は脅威のほうに振れすぎていて、それがメタゲームに問題を起こしていました。

 十分な数の回答を印刷しないという我々の決定もまた、深刻な問題と見られています。そのいくらかは物語のカードや新しいカード・タイプを推すなどの目的で意識的に行なったもので、そして他のいくらかは2ブロック制の世界に移行し伝統的にこれらの類のカードに対する回答を収録していた基本セットがなくなった結果です。我々はここ最近の3ブロックで、2ブロック制の世界はどう機能するべきかをたくさん学び、それらのアイデアを将来のセットに組み込んでいます。加えて、これらのすべての変更がすぐに見られるわけではありませんが、我々はすぐにあなたがプレイすることになるセットにこれらの学んだ内容を組み込んでいます。

 月曜の告知と共に発表されたシーズン中の禁止告知日は、大部分が今発展しているスタンダードのメタゲームに対する反応です。我々がこの数年で見てきたことの1つは、プロツアーのメタゲームがほとんど常に驚異的な多様性を持ち、トップ8に5つ以上の異なる独特なデッキがあるということです。

 しかしながらその多様性は常に最後まで保ちません。これが最も顕著だったのはプロツアー『異界月』の後で、そのプロツアーのトップ8はとても多様性があったのですが、その後メタゲームは急速に《集合した中隊》デッキ一強へと移っていきました。もしプロツアー『異界月』後に禁止告知をするタイミングがあったなら、プロツアー後の数週間でメタゲームがどのようになったかを見てみると、私の考えでは我々が《集合した中隊》を禁止していたことは間違いありません。

 いつものように、我々はこのスタンダードでの禁止の決定が良かったのか悪かったのか、見ることのできる全てのデータに目を通しそして皆さんの全ての意見に耳を傾けています。我々はそのデータを将来の情報に基づいたよりよい決定を行うために用います。

プロツアー『霊気紛争』に目を向ける

 『霊気紛争』は私が個人的に興奮しているセットです。我々は明確にたくさんのコンボ・カードを注入して『カラデシュ』の設定である「発明家」の約束を果たすフォーマットにしようとしています。いくつかの危険性もありますが、たくさんの可能性も存在します。コンボデッキが流行るなら、それらを狩るのに良い仕事をするカードやデッキがあるはずです。何かが手を付けられなくなるとは断言できませんが、私はそうなってもこのフォーマットを修正できると思います。

 中でも特に、我々はこのプロツアーでの《サヒーリ・ライ》《守護フェリダー》デッキを見て、その後数週間でそれがどのように現れ進化していくかを見ていきます。『タルキール覇王譚』が出たときに《ジェスカイの隆盛》コンボがこのフォーマットで最強のデッキになるのではないかと心配されていましたが、初期のある程度の成功にも関わらず、そのデッキはかなり端っこのほうに残されたままだったことを私は覚えています。このフォーマットには《サヒーリ・ライ》《守護フェリダー》デッキに対して有効なカードがたくさん存在し、我々は先にそのデッキのカードを禁止するのが適切な行動であるとは感じませんでした。

 今週はここまでです。来週は『霊気紛争』のデベロップについてさらにお話をします。

 それではまた来週お会いしましょう。

サムより (@samstod)

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