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開発秘話

Latest Developments -デベロップ最先端-

『カラデシュ』スタンダード総括

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『カラデシュ』スタンダード総括

Sam Stoddard / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru

2016年12月16日


 こんにちは、そして「Latest Developments -デベロップ最先端-」にようこそ。ほぼ恒例になりましたが、今回は私がスタンダードをどう進んでいると思っているかを話し、さらには我々が開発部でこのフォーマットをどのように見ているかについての洞察を述べたいと思います。

 さて、これらの視点のほとんどは私自身のものですが、開発部内の他の人たちの多くと調整をおこなったものです。我々はスタンダードについて多くの議論をしていますが、それは意見一致が図られているということではありません。

 私がウィザーズで働く以前にこの連載記事を読んで本当に楽しんでいたことのひとつが、「Latest Developments」(と「Making Magic -マジック開発秘話-」)の透明性です。これらの記事は欠点を隠したり、我々の本意と違うことを喧伝するために存在しているのではありません。これらはあなたにカーテンの後ろ側を見せて、我々の成功と失敗について正直にあるために存在しています。私はこのスタンダード・フォーマットには成功も失敗も含まれていると思います。

 この総括は、このスタンダードが私の想定よりも少し奇妙なものだったために普段より少し遅くなりました。どの週を見てみても、1週単位で見るとスタンダードはバランスが取れていないと言ってしまいがちです。デッキが1個か2個のメタゲームです。我々は特定の1つのデッキ――赤白もしくはマルドゥの機体、白青フラッシュ、黒緑昂揚、《霊気池の驚異》――に完全に支配された週をたくさん見てきました。しかしその支配的なデッキは毎週変わっていきました。

 それだけでなく、我々はデッキ内部の多くの進化も見てきました。白青フラッシュはある時はミッドレンジで、またある時はより撹乱アグロ寄りでした。昂揚はアグレッシブであったりミッドレンジであったりしました。プロツアーで見かけられた《霊気池の驚異》デッキとここ数週の昂揚の群れを叩き潰すために現れた《霊気池の驚異》デッキにはかなりの違いがあります。このデッキは変わらず「4ターン目エムラクール、対象はあなた」のコンボを持っていますが、より長いゲームをプレイし《霊気池の驚異》が1回(以上)空振りしても生き残れるように調整されています。

 私がTwitterで人々に彼らのこのフォーマットに関する見解を尋ねたとき、多くの人々が高い評価を与え、デッキの多様性とこのフォーマットの進化が高い点を挙げました。彼らは基本的にただ彼ら自身で楽しんでいました。同時に、私はこのフォーマットに関する批判も多く読み、その多くはそれらを好まない人々による公正な評価だと思いました。

 そして私はそれが正しいと思います。このメタゲームは戦略の面では非常に多様性があります。我々がメタゲームの設定に取り組むとき、我々は現れてほしい5種類のバケツを用意します:純粋なアグロはミッドレンジに負け、ミッドレンジはコンボ/ランプに負け、コンボ/ランプはコントロールに負け、コントロールは撹乱アグロに負け、撹乱アグロは純粋なアグロに負けます。

 過去のスタンダードの多くでは、我々はこれらのバケツを全て満たすことができていませんでした。『タルキール覇王譚』や他のいくつかのスタンダードではミッドレンジが強すぎ、撹乱アグロはまれにしか見かけられませんでした。

 さて、これらは我々が狙って行ったものであり、バケツに中身があったりなかったりすることがそのフォーマットの良し悪しを意味するのではありません。バケツが1つ以上欠落していても良いフォーマットはたくさんあります。

 現在、それぞれのバケツの中には確かに良いデッキが入っています。評価してみましょう。

純粋なアグロ
  • 黒赤アグロ
  • マルドゥ/赤白機体
ミッドレンジ
コンボ/ランプ
コントロール
  • ジェスカイ・コントロール
  • 電招の塔》コントロール
テンポ/撹乱アグロ
  • 白青フラッシュ

 良いニュースは、あなたが好きな戦略の中から、あなたのプレイスタイルに合ったものを見つけられるということです。そしてそれはトップメタの中で全部あるのです。フライデー・ナイト・マジックのレベルのプレイにまで下がれば、選択の幅はより多様性に富んだものになります。突然《金属製の巨像》や《逆説的な結果》デッキがよく見かけられるようになります。

 個人的に大きな欠点だと思うところは、スタンダードの多様性とは戦略だけのものではないということです。多くの異なる戦略が存在する一方で、我々が望むほど多くのデッキはこのリストに存在せず、そしてトップ3のデッキ(白青フラッシュ、黒緑昂揚、《霊気池の驚異》)は理想値よりもはるかに多くの割合を占めています。

 「何も問題ない」と言って進むのは簡単ですが、我々はこのフォーマットの中の異なるデッキ間のバランスを超えたところにある問題を人々が抱えていることを認識しています。私はあなたにこれら全てのデッキがなぜお互いに異なる方法で対戦しているのか、そしてそれがどれほどクールであるかを伝えることができます――しかし同じカードを何度も何度も相手にすると、これらは意図どおりとは言えないので、物事が意図したとおりに機能していることをあなたに納得してもらうことは難しくなります。

 我々は記事やソーシャルメディアを読み、そしてこのフォーマットに関するさまざまな意見を見てきました。はっきり言うと、完璧な環境というものは存在しません――そして個人的には《集合した中隊》環境よりもこのフォーマットに満足していますが、そのハードルは高くはありません。私はこのスタンダードがどうなるか分かっていたなら『異界月』で個人的にいくつか異なることをしていただろうと考えられ、そして同じ方法で『カラデシュ』でもいくつか違うことをしていたのは間違いないと思います。

 しかしそれはいつだってそうです。私が失敗だと言うかもしれないカードは、単にそのカードの強さだけでなく、対策が欠如していることがよくあります。そのために人々があるカードをプレイしたい場合、強力な回答が存在しないということです。《血編み髪のエルフ》に対する強力な回答はそれを自分で使う以外にはありません。《密輸人の回転翼機》や《墓後家蜘蛛、イシュカナ》をプレイしてくる対戦相手に対して適切に咎めることのできるデッキは実際に存在しません。

 そして私が特定のカードを失敗と呼ぶかもしれないかどうかに関わらず、そのカードを本当に好きな人々はいるのです。我々は6ばかりでなく0から10のカードで満たされているゲームを求めています(私が0から10でカードを参照する場合、人々が特定のカードを開けた場合にどれほど興奮するかを格付けするために使います)。我々がスタンダードの「失敗」を全て修整できたとしても、モダンが素晴らしいフォーマットになるかどうかはわかりません。

 内部で大きな議論になったことのひとつは、回答の強さ対脅威の強さについてと、我々が脅威の強さのほうに振れすぎたかどうかについてです。たとえばエムラクールは昂揚にとってかなり大きな見返りであり、そしてプロテクション(インスタント)と対戦相手のターンを奪うその能力によって、ほとんど対処不能になっています。ギデオンは軽くて簡単に自身を守ります。機体もその問題の一部です――ソーサリーと全体除去に耐性があります。このことは次の見出しへと続きます。


約束された終末、エムラクール》 アート:Jaime Jones

エムラクール(と回転翼機)についての問題

 《密輸人の回転翼機》がすごく強いのは明白です。我々はこれが強いことは分かっていました――『カラデシュ』最強のカードの1枚です――が、これは我々が望んだよりも高い割合で使われています。我々はこれを最強の機体として固定し、機体の中で唯一スタンダードで活躍するであろうと完全に自信を持っていました。

 また我々は《領事の旗艦、スカイソブリン》と《高速警備車》はまあまあいけるのではないかと思っていましたが、芳しくありませんでした。もし我々が正確に強すぎにならないぐらいでカードやメカニズムが活躍するのに必要な強さを分かっていたなら、マジックは規範的すぎるものになっていたでしょう。

 カードから色マナのコストを取り除く時は常にこのようなことが起こるリスクが付きまといます。アーティファクトのセットは、そのカード・タイプを推したいけれども、色のバランスを揃えるという課題を抱えるという深刻なジレンマを抱えることになりえます。これが我々が常にはアーティファクトのセットを行わない理由です。事実、大部分のデッキが同じカードをプレイしたいと思うなら、我々は素晴らしいところにいるとは言えないでしょう。

 《密輸人の回転翼機》はそのコントローラーがそれを殺されてもいいと思わない限りソーサリー速度の除去が効かないので、このフォーマットの除去を本当に歪めています。人々がプレインズウォーカーに対処するのが難しすぎると不満を漏らすのは素晴らしいフォーマットではありませんが、《破滅の道》と《焼夷流》は機体のせいで十分に良い選択肢になっていません。

 とは言え、『霊気紛争』はいくつかの強力なカードがあり、それだけでなくこのセットを確定させるときに近づくころまでには我々は《密輸人の回転翼機》に対する回答が必要であることが分かったので、それらは回転翼機に対して強力です。私は《密輸人の回転翼機》がメタゲームから脱落するなどとは言いませんが、うまくいけば、人々にそれと戦うときの選択肢やそれをプレイしないデッキの選択肢がもう少し増えるでしょう。

 エムラクールも同じような立ち位置にあります。彼女は非常に派手な神話レアとして作られ、スタンダードで強力なものになりつつオリジナルのカードに沿ったもの(オリジナルがやりすぎていたのでこれはとても困難でした)にするという大きなプレッシャーがかかっていました。我々は彼女をたくさんプレイし、スタンダード最高のフィニッシャーとして愛用してきましたが、我々は現実世界ほど熱心に加速して素早く彼女を出そうとはしませんでした。

 同時に、我々は現実世界よりも多くの種類のデッキで少ない回数のゲームしかプレイしていません。平均的な開発部員がエムラクールを相手にプレイした回数はとてもわずかなものです。エムラクールはときどき唱えるのであればとても楽しいカードですが、多くの対戦で基本的なエンド・カードになってしまうと楽しさは大きく損なわれます。

 確かに、我々は後のセットのフューチャー・フューチャー・リーグでエムラクールに対する回答を作るだけでなく、「エムラクール禁」のカードをいくつか作って、《反射魔道士》がエムラクールが解決されたときに手札にあった場合誰かを無茶苦茶にできないようにしておく必要があることは理解していました。

 テストや現実世界のデータを通して我々が何度も発見したことは、理論上や少ない回数だと楽しいことでも、それがやるべき「物事」になってしまうと楽しくなくなるということです――そして《精神隷属器》効果はこの分類だと私は確信しています。

展望

 我々は『カラデシュ』スタンダードのトーナメントを相当数完了したところに来ています。エネルギーや機体が多数使われ、よりアクセスしやすいデッキが実行できるようになる、というこのフォーマットでの我々の目標の多くは達成されました。私はこれが完璧なスタンダード環境だとは言いませんが、堅実なものだと思います。

 しかしながら、我々の目標を達成したというだけでは全てが正しいということにはなりません。現在このスタンダードが将来のスタンダードのバランス調整にどのような影響を与えるのかについて議論が行われています。

 いつものように、我々は今現在どれだけの人がスタンダードを楽しんでいるか、そして『霊気紛争』が出ることに際して彼らがどれぐらい興奮してスタンダードをプレイしているのかについての意見を求めています。またフォーマットをただ健全なだけではなく多様性があって楽しい(一番大事なことです)方向へ進めるために他に必要なものについて多くの質問が我々に寄せられています。そして私は『霊気紛争』でスタンダードが楽しくなると大きく期待しています。

 なので、プレイし続けて意見を送り続けてください。我々は聞き入れて、実際に行います。そして我々は将来のスタンダードを改善し続けるためにその意見を用います。

 それではまた次回お会いしましょう。

サムより (@samstod)

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