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開発秘話

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あなたに役立つ小さな変更

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あなたに役立つ小さな変更

Sam Stoddard / Tr. Takuya Masuyama / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru

2016年7月15日


 「エムラクールがイニストラードにやって来る」という見出しはエキサイティングで刺激的ですが、実際にそれを表すのは我々の想定よりも難しいということが判明しました。

 もし我々が以前に両面カードをやったことがなかったなら、物事の変化を表す完璧な方法になっていたでしょう。しかしそれを以前やってしまっただけでなく、我々は『イニストラード』ブロックの全部で3つのセットでそれを使っているのです――なので単に無色の怪奇なものに変化するクリーチャーでは不十分なのです。

 それは助けになるものでしたが、我々はもっと多くを必要としました。同じように、合体は変身の素晴らしい進化でしたが、我々が2枚の両面カードのスロットを使う方向に行かなければ、このセットで我々がやったことを上回るものはできませんでした――ネガティブな経験をした後で、私はそれをとても警戒していました。

 デザイン・チームがエルドラージの雰囲気を出すための『異界月』のメカニズムのいくつかのバリエーションを引き渡してきましたが、単体のカードとしては機能したものはいくつかあった一方で、メカニズム全体として機能するものはありませんでした。

 デザイン後期に出されたメカニズムの中でもっとも興味深かったものは、そのキーワードを持つクリーチャーを対象とする呪文や能力の効果はターン終了時に途切れないというものでした。そのメカニズムは現在のルールの機能では実際に機能しないという不運な問題を抱えていました。たとえば、《希望と栄光》をそのキーワード能力をもったクリーチャーと持っていないクリーチャーに唱えたとします。それらは両方とも永久に+1/+1されるのでしょうか? クリーチャーに影響を及ぼす継続的効果は、これらにどう機能するのでしょうか? +X/+Xする効果だけに機能するようにしてもそれはまだ楽しいものになるでしょうか?

 たとえこれらの質問に全て答えられたとしても、我々にはデジタル・バージョンのマジックの種類別処理を大幅に書き換える必要があり――無色マナを機能させるためにマナのシステムを書き換えてまだ1年も経っていません――それは誰にとってもいいことではありません。結局、ルールとデジタルの両方で多くの手間がかかると予想された(ええ、実際かかったのです)合体がこのセットに使われ、そして私はこのセットでエルドラージを象徴する新しいメカニズムを探しにかかりました。

 クリエイティブのケリー・ディグズ/Kelly Diggesとジェイムズ・ワイアット/James Wyattと話して、彼らはこのブロックに欠色がないことを好むと、とてもはっきりと表明しました――そして幸運にも私も彼らと同意見でした。しかしながら、私はエルドラージにある種の色の傾向が欲しいことも分かっていたので、それらの全部でなくその一部で焦点を当てられるようにしました。つまり理想的なメカニズムは、これらのカードのどこかで色マナを使って唱えられ、しかしそのカードは無色であるということでした。

 このような問題に取り組むとき、私は人と話をつけることが重要だと発見しました。私はこの問題を開発部内の何人かに伝え、彼らの考えを得て我々が過去に行ったことから目標を達成しようとしました。ただ古いメカニズムを使うだけでなく、このメカニズムが存在できるような空間を探すことは――少なくとも良い出発点を得ることになります。変異のようなものは機能しましたが、我々はそれをやったばかりです。エリック・ラウアー/Erik Lauerは両面カードでは表すのに適していない変化を表現する方法として忍術を提案しました。そこで私はそれをやることにしました。

現出の星々

 最初期のバージョンの現出は、単に忍術の名前をつけ直しただけのものでした。忍術が「いつか名前を変えて再録したいリスト」のとても上位にあるといっても恐らく驚きには値しないでしょう――我々が神河に戻らないかぎりは忍術を使えないからです。私は色マナで忍術できる無色のエルドラージ・クリーチャーを少数作ることにしました。

 これは楽しく(なぜなら忍者は楽しいので)、そして人々がターンごとに複数回誘発させることを心配することなく戦場に出たときの誘発型能力を持たせられる「普通の」忍者と比べて十分に高いマナ・コストを持っていました。もしくは可能なのであれば――コストが10マナという事実はそれを安全にするのに十分でした。

 このメカニズムは忍術を思い出させて楽しいのですが、実際のクリーチャーは満足感に欠けました。忍術を持っているクリーチャーはそのほとんどどが小さく、つまりそれらが忍術で出てきただけでは負けません。我々がこれをエルドラージで試したとき、その戦場に出たときの誘発型能力は面白いのですが、問題はほとんどどのクリーチャーが密かに単なる《溶岩の斧》か《焼けつく肉体》だったことでした。面白い効果は面白そうかもしれませんが、対戦相手は面白いことが実際に起こる前に死んでしまいます。

 我々がこれをテストしていたとき、クリエイティブ・チームはこれにある不安を抱いていました――特に問題はないが、クリーチャーが手札に戻るのは全く筋が通っていないということです。これはエルドラージがこの世界で行なっていることとは全く違います。そうするのではなく、そのクリーチャーが死ななければならないようにすればよりフレーバー的に筋が通ります。私はこれが現出クリーチャーをさらに強くすることができ、人々が戦場に出したときに常に2対1以上の交換を取られることを心配する場合よりも強力な誘発型能力を与えられるので問題ないと思いました。

 デイブ・ハンフリー/Dave Humpherysとの話の中で、彼はクリーチャーで攻撃するのが間違いで、普通にそのクリーチャーが唱えられるときにソーサリー・タイミングで起きるならそのほうが方がいいと強く感じていました。彼はある種の払い戻し――点数で見たマナ・コストかそのクリーチャーのパワーのどちらか――を提案しました。またこれは彼の中では物語にも合っていました。クリエイティブ・チームとの話し合いの中で、彼らはデベロップ・チームの他のメンバーと同じくこの変更に大変満足しました。

 これに関して私が興奮したのは、特にパワーよりも点数で見たマナ・コストで、プレイヤーが強力な戦場に出たときの誘発型能力を持っていてパワーとタフネスが低いクリーチャーを生け贄に捧げることを可能にすることで、このメカニズムを簡単にとても「ジョニー的」にできることでした。『イニストラードを覆う影』では《ドルナウの死体あさり》のようなものです。それでも、そのようなことができるクリーチャーがもっと必要なことが分かっており、そしてそのような戦略を助けるために《悟った狂人》、《歓喜する信者》、《原初のドルイド》をコモンに作りました。


悟った狂人》 アート:Jaime Jones

現出クリーチャーを作る

 現出の最終バージョンにたどり着いたなら、今度は実際にそれを使ったカードを作る時間です。最初の「青と緑だけ」というアイデアは、現出の表現方法に関する本当に素晴らしいクリエイティブのアイデアがあると感じましたが、それだけでなくメカニズムを2色ではなく3色に配置することはリミテッドでより多くのプレイを作り出すので、最終的に黒にも侵食しました。

 我々は4ターン目にマナ・カーブに沿ってプレイすることが可能な、少なくとも7マナから始まる「軽い」現出クリーチャーを求めました。少なくともリミテッドのカードにおいての基本的な決まりは、これらがゲームを自分の有利な方に傾ける助けになる強力なクリーチャーにし、しかしそれをすることを何より優先するようなものにはしないというものでした。我々は現出クリーチャーのマナ・コストの小さな変更の外でも多くのゲームプレイをしていたので、例えば8マナ域では全く綺麗なマナ・カーブになっていませんでした。5ターン目にこれを唱えることもできますが、それをするためにマナを残すこともできます。一方で、もし5枚目の土地を置けなくても、ゲームから取り残されないようにする強力なプレイをすることができます。

 全ての現出カードに関する重要な制限は2つあり、実際に生け贄のコストに値するものであることと、唱えたときに基本的にゲームが終わってしまうほど大きすぎる効果ではないことです。結局のところ、1マナ重くしても、それによって現出クリーチャーは戦場に出られるターンは半ターンしか遅くならないのでバランス調整は困難です。長さと優雅さの問題で「エルドラージでないクリーチャー1体を生け贄に捧げる」という文章を付けたくないので、我々は1ターンに複数の現出クリーチャーが連鎖する心配もしなければいけません。確かに、《絡み草の闇潜み》が複数のターンに連続で無抵抗の対戦相手の土地をバウンスしているときがありました。

 我々は少なくとも2枚コモンに現出クリーチャーが欲しいと思いました――これはつまり、それらを手堅い序盤のピックとして十分大きな影響を持たせて、しかしそのドラフトで誰もがその色とカードを追いかけるようにはしないということです。4ターン目に堅実な飛行クリーチャーを出すことは強力ですが、大きくテンポを失っているので《不憫なグリフ》でカードを1枚引けるのは素晴らしいことです。《忌まわしい群れの存在》は現出デッキの別の方向性を可能にします――テンポと引き換えに、圧倒されることを防ぐ多くの戦力を地上に作り出します。

 高いレアリティでは、我々は瞬速があるようにしたいと思い、このようなとても楽しい能力を現出の青い2枚のカードに付けました。現出クリーチャーに《古術師》能力を持たせることに関しての最高のパーツの1つは、対戦相手がまた対処しなければならない除去やドロー呪文を戻してくることによって大きなアドバンテージを得るだけではなく、そのクリーチャーが次のターンに実際ブロックできる十分な大きさを持っていることです。

 《老いたる深海鬼》は覇権と現出に多くの類似点があり、そこがレアの現出クリーチャーの居場所としてよい場所だったので、《霧縛りの徒党》の再来として作られました。《州民を滅ぼすもの》は《孔蹄のビヒモス》の素敵な再来であり、《膨らんだ意識曲げ》は《変位エルドラージ》で明滅されてゲームがロックされてしまう心配をすることなく驚異的な強さの手札破壊を可能にしました。

 これらのクリーチャーは「適正に」することが難しく、これらのうち何枚かが必要とされるより少し強いことが分かってもおかしくありません。少し強すぎるエルドラージの性質により、それらの大きさは我々が通常始めるクリーチャーの開始点よりも大きめのところから始まっていて、我々は基本的にそれらを小さくするかそれで構わないかを見るためにプレイテストをしていました。

 全体的には、私は現出カードの出来栄えにとても満足しています。このメカニズムにはデザインとバランス調整の両面で難しいことがたくさんありましたが、(私の中では)ほとんどの問題はフレーバー的かつ楽しい方法で解決できたと思います。私はみなさんが現出の動きをリミテッドと構築フォーマットの両方で楽しんでくださることを期待しています。

 今週はここまでです。来週はMファイル『異界月』が始まります。

 それではまた来週お会いしましょう。

サムより (@samstod)

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