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エルドレインの世界構築
2019年9月11日
むかしむかしあるところで、一連の会議が行われたそうな。
マジックのクリエイティブ・チームは世界構築をこんな風に始めます。参加者が意味不明な記述や図で埋まったホワイトボードに注目して、その半径30メートル以内で唯一有効なイレーサーを持ったクリエイティブ・リードに向かって情熱的にアイデアを叫びます。物事をスケッチする人もいますし、ラップトップを激しくクリックして記録を取る人もいます。
世界構築会議はカオスであり、私はそのすべての時間が大好きです。
『エルドレインの王権』は最初、単に騎士と伝説のクリーチャーが統治する「アーサー王伝説の世界」として生まれました。その後『ドミナリア』が生まれ、皆はその太陽に近く飛びすぎることを恐れてこのアイデアを廃棄しようとしました。マーク・ローズウォーター/Mark Rosewaterが、中世ヨーロッパ風世界が舞台になることで良さそうに思われるようになった古いアイデアであるおとぎ話のセットのアイデアを持ち出したことで、このアイデアはゴミ箱から引っ張り出されました。これは最終的にこのセットの中心的特徴を与えるひねりになりました。
この話はデザインとクリエイティブの2つのチームが何度も意見の相違を認めてまとまりませんでした。デザインと世界構築の初期にはあらゆることについて論争が起こりました。アーサー王伝説とおとぎ話、2つのテーマどちらをメインにするべきか? 『ドミナリア』の繰り返しではない別の「ハイ・ファンタジー」のセットとはどのようなものか? 子供向け童話と本当は怖いグリム童話の対比の許容できるレベルはどれぐらいか? 余談ですが、初期に言い争っていた2つのチームは世界構築で騎士の宮廷と予測不可能な野生の間の対立を作る上で本当に刺激になりました。
なので多分、私のチームの世界構築における最大の目標は、目を惹くようなおとぎ話の個別デザインを受け入れられるアーサー王伝説時代のヨーロッパを大まかなモデルとした、ビジュアル的材料を作り出すことでした。これは完成しましたが、気楽さまでの広大な範囲の雰囲気を受け入れる余裕を備えていました。
今日は『エルドレインの王権』の明るいおとぎ話側のトップダウンの例であるプレビュー・カードをご紹介します。
このように大きな雰囲気の変化があった理由の1つは、『灯争大戦』の勇敢な戦闘シーンから一息つくためです。元々の世界構築共同リードだったケリー・ディグス/Kelly Diggesと私はインスピレーションを得るためにエドモンド・ブレア・レイトン/Edmund Blair Leighton、ウォーターハウス/Waterhouse、オースティ・アビー/Austin Abbeyの絵をたくさん見ました。シェイクスピアやギリシャ神話、アーサー王伝説はこれら19世紀後半のアーティストの間でのトップテーマです(そしてこれらが私自身に最も影響を与えたのはあまり秘密というわけでもありません)。彼らのヴィクトリア朝風アーサー王伝説は、ハワード・リオン/Howard Lyonのカードにも影響を与えました――《敬愛される王女》です。
《敬愛される王女》 アート:Howard Lyon |
背景:エルドレイン
色:白のクリーチャー
場所:僻境の危ないどこか
行動:美しいガウンを着た若いお姫様が周りの危険に気づかずに僻境を散歩している。彼女は古い丸太で激しい流れの川を渡っているのに気づかずに鳥や蝶に夢中なのかもしれないし、彼女の後ろの木の陰に潜む危険なエルフのハンターのシルエットが見えるかもしれない。
焦点:お姫様
雰囲気:無邪気で純粋で……のんき。
私はハワードに、これは本質的にティーンエイジャーが混雑している道を通る時に車に注意せずに携帯をいじっている行為だとメモをつけ足しました。この部分の危険は全て補助的な記述であり、アーティストは普段よりも自由にエルドレインのキャラクターや風景を作れたので、その多くはハワード・リオンの想像力から来ています。
私のアート・ディレクションの副目標は、エルドレインのワールドガイドをよりスリムにして、定型的なやり方によって繰り返される例ではなくモチーフと題材にもっと焦点を当てることでした。私たちは最近、2017年から定期的に一緒に仕事をしている100人以上のアーティストに調査をして、彼らがより満足するものを直接聞きました。そして得られた最大の事例の答えの1つは、「もっと自由にアートの描写をしたい!」でした。なので『モダンホライゾン』と『エルドレインの王権』の間にドナート・ジャンコラ/Donato Giancolaの《真実の愛の口づけ》に見られるように、アートの説明に「を元ネタに」「かもしれない」「おまかせします」という言葉が大きく増えました。
《真実の愛の口づけ》 アート:Donato Giancola |
背景:エルドレイン
色:白の呪文
場所:おまかせします
行動:アーデンベイルのお姫様が石像に変えられた王子様にかがみ込んで貞淑なキスをしているところ。純白の魔法がキスしたところから広がっていき、石化した王子様を元に戻していく。
焦点:キス
雰囲気:愛の力で呪いが解ける。
開発中に、私はこれが「愛」と言う単語がカード名に印刷された初めてのマジックのカードになると伝えられました。このセットには《恋煩いの野獣》もいて、どっちが先にあったのかはっきりしませんが、私はデザイン・チームを信頼しています。
他にももっと直球で有名なおとぎ話を説明しているものがあります。有名なお話を混ぜることができるのは『エルドレインの王権』のプレイテスト時の魅力の1つでした。クリエイティブを通してプレイヤー向けにキャラクターとシナリオを混ぜるのではなく、ゲームプレイ自体がそれを行う手段だったのです。
アーティファクトは最も直球で混ざっていない単体のお話を表しているもので、これら有名なカードの相互作用でも同じです。ここでは木製の男の子としてのピノキオの引用と、眠り姫から糸車(とはいえ、これが編んでいるのは魔法の蝶です)を見ることができます。
とても直球です。
そして、こいつがいます……
《ジンジャーブルート》 アート:Vincent Proce |
私が今までに依頼した3,000以上のイラストの中でも、これは今でも私が関わったセットの中で最も意見の分かれる絵です。《ジンジャーブルート》のカードは極めて初期にデザインされ、そして私たちは「長靴をはいた猫:は子供向けおとぎ話の領域に踏み込みすぎているが、これは私たちが進んでやろうとする子供向けの線そのものだと判断しました。私はビンス・プロース/Vince Proceに、彼が物事を魅力的であると同時に怖いものにする特別な手段を持っている(褒め言葉です)ことから、これを発注しました。
ダグ・ベイヤーのこの粉物のお化けへのアート・ディレクションはさらなるフレーバーをもたらしました。
背景:エルドレイン
色:アーティファクト・クリーチャー
場所:小屋、薪をくべるオーブンの近くに台所があるかもしれない。
行動:何らかの方法によってジンジャーブレッドで作られた、残忍で素早く小さなゴーレム。 誰が幸せで小さなクッキーを焼こうとしたのかはわからないが、焼き上がったのは獰猛で、身長60センチ、半分二足歩行の糖蜜パンでできたモンスターで、ぐにゃりと曲がっている。ジンジャーブレッドが重なった鱗とリコリスでできたビーズのように小さな目があるかもしれない。台所を走り抜けているか、小屋から離れて走る時にカタカタ音を立てている。背景にはこのお化けクッキーに命を吹き込んでしまって途方に暮れるお菓子職人がいるかもしれない。
焦点:ゴーレム
雰囲気:ジンジャーブレッドの脅威
私はこれの異常に桁外れのおかしさが本当に大好きです。他の人は違いました。お腹の空いてない人もいたんだと思います。
まあとにかく、今回は7枚プレビュー・カードがあるので、最後を締めくくるのに最もふさわしいと私が思ったものをどうぞ。
《七人の小人》 アート:Jason Rainville |
背景:エルドレイン
色:赤のクリーチャー
場所:ドワーフの鉱山の中
行動:ひげづらの男性ドワーフがつるはしを持って鉱山の中をぶっきらぼうに進んでいる。その背景の全体にさらに6人のドワーフ(男女混合でお願いします)がいて、採掘していたり、山を登っていたり、鉱山の穴から姿を見せていたりなどしてるかもしれない。全部で7人のドワーフがいる。
焦点:メインで焦点が当たっているドワーフがいるべき
雰囲気:勤勉で厳しい
《七人の小人》はこのセットだからこそ存在できるトップダウンのおとぎ話のカードの最も良い例の1つです。『イニストラードを覆う影』の《十三恐怖症》を覚えている人はこのギャグが分かると思いますが、この絵には7人のドワーフが描かれているだけでなく、7つの……さまざまなものが存在します。それは本来のアートの描写には存在しませんでしたが、アーティストのジェイソン・レインビル/Jason Rainvilleはアート作成時に私たちと一緒に取り組んで。この作品は絵本風の数を数えるゲームになりました。
7つのものを数え終わったら、さらなる『エルドレインの王権』のプレビューに注目してください!
(Tr. Takuya MASUYAMA / TSV YONEMURA "Pao" Kaoru)
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