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Making Magic -マジック開発秘話-
デザイン演説2024
2024年8月19日
2003年に私はマジックの主席デザイナーに就任し、毎年「マジックの1年」について私が感じたこと記事に書くということを決めた。そのコラムは、アメリカの大統領が毎年行なう一般教書演説にならうことにした。最初にその記事を書いたのは2005年、私が初めて首席デザイナーとして監督したセットが世に出た年である。
過去の19本の記事は以下の通り。
- 2005
- 2006
- 2007
- 2008
- 2009
- 2010年
- 2011年
- 2012年
- 2013年
- 2014年
- 2015年
- 2016年
- 2017年
- 2018年
- 2019年
- 2020年
- 2021年
- 2022年
- 2023年
この記事ではまず、その1年全体を振り返り、その年の良かったところと教訓について語る。その後、各ブースター製品を順に検証し、そのセットの良かったところと教訓について語っていく。ブースター以外にも目をみはるような製品は多くあったが、残念ながら私が書ける文字数には限りがある。なお今回も、カード個別のデザインよりも大局的なデザインを語っていくことになる。今回は『指輪物語:中つ国の伝承』から『モダンホライゾン3』までを語っていく。
いつもの通り、今回も同じ質問から始める。「昨年のマジックのデザインはどうだったか」だ。
この1年は、数多くの「上の上」に「下の下」が交じるという、玉石混交の1年であった。史上最高の売り上げを記録したセットもあれば、久しぶりにまったく振るわないセットを含む大きな過ちもあった。我々は正しいことを数多く為したが、誤ったこともあったのだ。
マジックのデザイン全体
良かったところ
マジックの境界をさらに押し広げた
30年を経た今でも、我々は守りに入っていないと自信を持って言える。すべてのセットがうまくいったとは言えないが、進化に向かい続けるというマジックのデザインの核心に注目する姿勢を保とうとしたことは、私は高く評価している。我々はセット全体についても個々のメカニズムやカード・デザインについても、目標を大胆に設定することができた。
共鳴を起こすことに集中した
私の記事の読者諸君は、私が共鳴にどれだけの価値を見出しているか知っているだろう。我々の仕事は顧客全員を満足させることであり、諸君の心が躍るものを作れるよう取り組みたいと思っている。この1年は、マジック・プレイヤー全員が心に触れるものを見つけられるよう、実にさまざまな方向で挑戦を続けてきた。諸君それぞれが、自分のためのセットだと感じられるものと1つでも出会えたなら幸いである。
個別のカード・デザインについては、クールなものをたくさん作れた
マジックのデザイン全体では議論の余地が多数あるものの、個別のカード・デザインの成功もやはり重要である。クールで、感情を呼び起こし、プレイして楽しいカードを我々はデザインできただろうか? この点については、革新的なメカニズム・デザインを求めるメルやフレイバーに富んだトップダウン・デザインを求めるヴォーソスにとって、非常に良い仕事をしたと私は考えている。
教訓
素材に寄りすぎた
共鳴を起こすことは良いのだが、多ければ良いというものでもない。この1年は、少々そちらの方向へ行き過ぎた。特定の素材に関するカードの枚数が多すぎるセットばかりで、ときに元素材のメタ的な要素を含みすぎることもあった。我々は今後も人々の心が躍る素材をもとにしたカードを作り続けるが、その実装手段については見直す必要があるだろう。
一部のメカニズムが複雑すぎた
マジックの境界を押し広げて新たなデザイン領域を探す挑戦の中で、我々は必要以上に複雑なデザインへたどり着くことがあった。「必要十分」と「やり過ぎ」の間には葛藤があり、テキスト量や複雑さ、管理の煩雑さをメカニズムへ加えることについては、慎重に取り組むべきであると私は考えている。
これまでよりも賛否両論なメカニズムが増えた
このコラムのために書き留めておいたメモをまとめていたときに、私はあることに気づいた。良かったところと教訓の両方があるメカニズムの頻度の高さである。我々はたとえ誰かに嫌われても誰かに好かれるものを作りたいと強い信念を持っているが、賛否両論の評価を受けることが我々の目指すべきところではないと考えている。
次元がより大局的な世界観に組み込まれている感覚が必要だ
今年は世界構築に関するフィードバックを数多く受け取った。人々のメッセージの中心となっていたのは、「マジック世界のセットはよりマジックらしさを感じられるものにしてほしい」というものだった。素材に寄っていくということは、以前のマジックの舞台よりも設定が薄く感じられるということを意味する。そのことの一側面として、人々はより大きな物語が世界構築に織り込まれることを望むようになっている。例えばファイレクシアンによる侵攻の影響は物語上各セットで描かなければならないが、カードでの物語の描かれ方を見るに、プレイヤーが望むほど目に見える形で描かれてはいなかった。
『指輪物語:中つ国の伝承』
良かったところ
原作小説のフレイバーをメカニズムで捉える仕事を完璧に成し遂げた
初めて全製品がラインアップされる「ユニバースビヨンド」セットに「指輪物語」を選んだのには、理由がある。「指輪物語」はファンタジーのジャンルの基礎を築き上げた作品であり、マジックとの相性が最高に良いと感じられたからだ。この作品のフレイバーを正確に捉えることの重要性を我々は認識していたため、いつも以上に時間をかけて取り組んだ。特に優れていたのはデザインの分野だと私は思う。キャラクターから物語の場面、重要なアイテムまで、このセットはマジックのレンズを通して原作小説を捉える仕事を驚くべき精度で成し遂げた。このセットのトップダウン・デザインの選択やメカニズムへの落とし込みには、多くの賛辞が寄せられたのだった。
クリエイティブ面の要素が優れていた
プレイヤーたちは、「指輪物語」の世界や物語が表現されたアートを大いに評価した。「指輪物語」のファンがこれまでにない形で作品の世界を味わえたことを気に入った。また、さまざまなカードの構成要素が原作小説の要素を感じられるよううまく使われたことも好評価だった。
メカニズムの実装が良いゲームプレイにつながった
このセットでは、マジックの既存技術を用いて中つ国を活き活きと表現しただけでなく、楽しいプレイ・パターンも創出できた。特に称賛を受けたのは「動員」だったが、プレイヤーたちは食物・トークンを扱ったり占術したり、ハーフリングのタイプ的テーマやナズグル、コモンの土地サイクリングを気に入った。また賛否両論ではあったものの、「指輪があなたを誘惑する」の挙動にも大いに賛辞が送られた。
教訓
「指輪があなたを誘惑する」は多くの批判を受けた
特にリミテッドにおける回避能力の役割としてこのメカニズムの挙動を楽しんだ人もいたが、大きな不満の声も寄せられた。このメカニズムにはデメリットが組み込まれておらず、「指輪」の感覚を捉えていないと多くの人が考えた。メカニズムの名前が違っていればと思う人がいれば、機能面のオーバーホールを求める人もいた。どこまでの恩恵を得られるのかが覚えにくく、その複雑さを嫌う人もいた。後知恵になるが、能力は4つではなく3つが良かったと思う。
リミテッドにおいて色のバランスが悪い部分があった
黒と赤は、特にその2色を組み合わせると他の色より明らかに秀でていた。これはリミテッドを歪め、プレイヤーがもっと使いたいと思った多くのテーマ(特に緑青エルフなど)の芽を摘んでしまっていた。
2枚のカードが強すぎた
このセットに寄せられた不満の中でも特に大きかったのが、《一つの指輪》と《オークの弓使い》のパワーレベルについてだった。それらは使用可能なフォーマットの環境を歪めていると多くの人が感じ、禁止を望む声が上がった。また、それらを再録できるのか懸念する声もあった。それについては間違いなく可能であり、マジック世界で同等のものを作成することもできるだろう。世界に1枚だけのバージョンの《一つの指輪》は多くの人に楽しんでもらえたものの、一部の人の気分を害した。
『エルドレインの森』
良かったところ
エンチャントのボーナスシート「おとぎ話」カードは、大ヒットだった
プレイヤーは一般的に、ボーナスシートを楽しんでいる。特に好まれている点は、魅力的なカードが再録されることと、ボーナスシートはテーマ性が強く、どのカードが収録されているのか把握しやすいことだ。『エルドレインの森』のボーナスシートもそれらの要点をしっかり押さえ、セットのテーマであるエンチャントに合わせて人気のエンチャントに注目した。プレイヤーは収録カードの選択やアートを喜んだが、一方でボーナスシート収録のカードがリミテッドでうまく使えないという不満もあった。
おとぎ話をテーマに組まれたドラフト・アーキタイプは好評だった
2色のドラフト・アーキタイプはそれぞれ、メカニズム的にもクリエイティブ的にも1つのおとぎ話と結びついていた。つまりドラフトをする際に、プレイヤーそれぞれのデッキがおとぎ話をテーマにしたものになっていくのだ。プレイヤーはこれを楽しみ、ドラフトの魅力が高まったと感じた。個別のおとぎ話については議論が交わされ、賛否両論のものもあった(特に名前を挙げられたのは食物の怪物についてだった)。
メカニズムはおおむね好評だった
プレイヤーは出来事や食物・トークンの再録を喜んだ。新規メカニズム「協約」にも好意的なフィードバックが多数寄せられた。メカニズム的に最も大きな追加要素となった「役割」は、心から愛する人がいれば問題を感じる人もいた。
教訓
「役割」は複雑で、管理上の問題も抱えていた
多くのプレイヤーはエンチャント・テーマを気に入ったが、「役割」を好まない人もいた。覚えるのは難しく、リミテッドで適切なトークンを確保するのも難しいことが多かった。種類が多すぎるという不満もあれば、一方でもっと役割ごとに異なるものにしてほしかったという意見もあった。そして役割にはメカニズム的にもっと構築フォーマットへ影響を与えてほしかったという声もあった。
宮廷の存在感がもっとほしかったというプレイヤーがいた
『エルドレインの王権』ではエルドレイン次元の5つの宮廷にもっと注目しており、おとぎ話の要素は少なかった。再訪では市場調査で最も人気を集めたおとぎ話の要素に焦点を当て、宮廷の存在感はいくらか抑えた。宮廷にもっと大きな役割を演じてほしかったというプレイヤーがおり、その多くは『エルドレインの王権』において宮廷と結びついていた単色のテーマが見受けられなくなったことを悲しんだ。
おとぎ話をテーマにしたトップダウン・デザインに寄せすぎないでほしかったというプレイヤーもいた
『エルドレインの森』では、おとぎ話を題材にしたカードの割合が非常に高かった。これにより特定のおとぎ話をテーマにしたトップダウン・デザインを数多く実現できたのだが、これらの素材を派生させすぎており、十分なひねりを加えておらずマジックらしさが感じられない、と感じたプレイヤーもいたのだった。
『イクサラン:失われし洞窟』
良かったところ
プレイヤーは素晴らしい世界構築とフレイバーを気に入った
このセットに寄せられた最大の賛辞は、素晴らしい世界構築についてであった。このセットでアート・ディレクターを務めたオヴィディオ・カルタヘナ/Ovidio Cartagenaは、グアテマラの出身だった。彼はこのセットの物語リードを務めたミゲル・ロペス/Miguel Lopezとともに、現実世界における文化的物差しへこのセットの世界構築を染み込ませるべく力を尽くした。その努力はプレイヤーの強い共鳴を呼び、このセットは他にない見た目と雰囲気を味わえるものになったのだった。
プレイヤーはイクサランの進化を気に入った
『イクサラン:失われし洞窟』は、『灯争大戦』以来となる2つ目の背景セットだった。初代『イクサラン』は次元としては人気を集めたものの、メカニズムの実装には少々難があった。『イクサラン:失われし洞窟』では、核となる部分はイクサランを感じられるものでありながら、まったく新しいひねりを加える仕事がうまくいった。もう少しタイプ的テーマに寄せてほしかったという意見はあったものの、イクサラン次元の広がりは大部分が肯定的に受け止められ、特に今回追加された神々は大いに人気を博した。
プレイヤーはこのセットのアーティファクト・テーマと墓地テーマを楽しんだ
このセットのリミテッドには、多くの称賛が寄せられた。このセットのアーティファクト・テーマと墓地テーマは、探索しがいのある複雑さだった。プレイヤーは「発見」や「落魄」、「作製」、「地図・トークン」を気に入った。
教訓
このセットは地底世界を十分に感じられなかった
地底世界を舞台にするセットということでデザインが始まったセットにしては、多くのプレイヤーがそのテーマを十分に感じられなかった。その大きな原因の1つが、多くのカードのアートに青い空が描かれていた事実である。このセットはイクサランへの再訪を感じられるものではあったが、この次元の地底世界の部分を正確に捉え損ねていた、という意見が多数寄せられたのだった。
メカニズムが扱いにくすぎた
この点においては、「落魄」に最も多くの否定的なフィードバックが寄せられた。「落魄N」と「あなたが落魄していた場合」、そして「底なしの落魄」が同じセットに同居していたのは、混乱を呼んだ。プレイヤーは、どれか1つにして今後このメカニズムが再録される際にひねりを加えるべきだったと感じた。他にも必要な手順が多いとして「作製」が槍玉に上がり、苦労に見合わないことも多いと評された。
「ジュラシック・ワールド」とのコラボが気に入らなかったプレイヤーもいた
主な問題は個別のカードのデザインではない。トップダウン・デザインの多くは良かったと、ほとんどのプレイヤーが認めている。問題だったのは、それらがセットに混ぜ込まれたのが不評だったことだ。恐竜のタイプ的テーマに触れてはいたものの、他のものとの有機的なつながりが感じられず、ブースターから出現したときに違和感を覚えるものだった。最も多く寄せられたのは、ユニバースビヨンドのセットとマジック世界のセットを混ぜないでほしいという意見だった。次に多かったのは、「ジュラシック・ワールド」カードの出現率が低く、楽しみにしていたプレイヤーが出会えなかったという指摘だった。
『カルロフ邸殺人事件』
良かったところ
プレイヤーは殺人ミステリーのテーマをそこそこ気に入った
ストーリーを読んだプレイヤーのほとんどは、楽しかったと感想を述べた。見慣れたキャラクターたちが殺人ミステリーに巻き込まれるという展開はクールだという声が上がった。このセットで行われた謎解きも、ほとんどのプレイヤーが謎解きに挑戦していないと認めたものの好評ではあった。個別のトップダウン・デザインについても、肯定的な反応が多かった。
プレイヤーは殺人ミステリーをテーマにしたメカニズムの多くを楽しんだ
「調査」の再録は大ヒットだった。「証拠収集」も「事件」も「諜報ランド」も、「個人的にこのセットで一番のお気に入りだ」という声が多く上がった。プレイの中で殺人ミステリーの登場人物になった感覚を味わえて楽しかったという声も聞こえた。
「変装」を楽しんだプレイヤーもいた
「変異」は根強い人気を持つメカニズムであり、多くのプレイヤーはその亜種である「変装」も楽しんだ。変装では裏向きのカードが表向きになる機会が多く、その点が特に気に入ったようだ。とはいえ、このメカニズムについてはプレイヤーの意見が分かれた。「予示」の亜種である「偽装」については、もっとセットに欲しかったという声が聞こえた。
教訓
「変異」の方が好きだというプレイヤーもいた
「変装」を「変異」の代わりとして楽しめなかったプレイヤーもいた。中には必要性を感じなかったという人もいた。また、最近のセットの護法に飽きがきていて、メカニズム全体がフラストレーションの溜まるものだったという人もいた。そういう層は「偽装」を持つカードが4枚しかないことについても、煩わしさに見合うものではなく取り除かれるべきだったと感じた。
背景セットとしての実装がうまくいかなかった
イクサランにもたらされた新たなテーマはおおむね楽しんでもらえたが、その肯定感が『カルロフ邸殺人事件』には欠けていた。ラヴニカらしさが足りないと感じた人がいれば、殺人ミステリーは別の次元でやるべきだったと感じた人もいた(最も多かった意見はニューカペナだ)。さらに、このセットでは殺人ミステリーのテーマにスペースを割きすぎた。探偵ものの素材が加わったことでラヴニカが安っぽくなったと感じる人も多かった。殺人ミステリーの部分はもっと少なくし、空いたスペースをラヴニカらしい要素で埋めるべきだったというのが、大方の意見であった。
探偵テーマのメカニズムをやり過ぎた
「調査」や「証拠収集」、「事件」は人気を集めたが、「探偵」のタイプと「容疑」はそれらに比べて不評、「変装」については賛否両論だった。このセットのメカニズムに関する問題は、フレイバーに関する問題が反映されていた。1つのカードセットをまるごとサポートするには狭いテーマに力を入れすぎたのだ。また探偵テーマのメカニズムは構築フォーマット向けのカードを作るのに適しておらず、セット全体のパワーレベルが低くなる要因になった。
リミテッドがアグロに寄りすぎていた
このセットにはクールなメカニズム的要素が多数織り込まれていたが、その多くはリミテッド環境が速すぎるために評価されなかった。「変装」メカニズムに感じるフラストレーションの多くは、リミテッドにおける影響に起因すると私は考えている。今回のリミテッド環境では、護法が通常よりもフラストレーションの溜まるものだったのだろう。
『サンダー・ジャンクションの無法者』
良かったところ
プレイヤーは各種メカニズムを楽しんだ
このセットついて寄せられた最も肯定的なフィードバックは、どのメカニズムもとても楽しいというものだった。中でも多く名前が挙がったのは「計画」だったが、「放題」や「悪事を働く」、「騎乗」、「無法者」の包括にも多数の賛辞が送られた。それらは楽しいだけでなく、新たな領域を押し広げ、後方互換性を持ち、新たなデッキ・テーマも実現させたのだった。
リミテッドが素晴らしかった
プレイヤーから寄せられたもう1つの大きな意見は、リミテッド環境の楽しさだった。ドラフト中の選択肢が多く、探検しがいのある側面もたくさんあった。2つのボーナス・シートについては、ドラフトに楽しい要素を加えるという称賛の声と、強力なカードが多すぎるという不満の声が両方寄せられた。
多くのプレイヤーが西部劇のフレイバーを楽しんだ
マジックで西部劇テーマのセットを作るという議論は何年も行われてきた。ついにそれが実現したことに、多くのプレイヤーが心を躍らせた。また近年では特に、プレリリースやオンライン・コンテンツで仮装をするプレイヤーが多かった。
教訓
次元が紙のように薄く感じられた
メカニズムが最大の称賛点であるなら、世界構築が最大の不満点であった。プレイヤーは、マジックが送る西部劇テーマを心から楽しみにしていたが、このセットはそれを果たせていないと思う者が大半だった。表現されたのはあまりに表面的な部分だけで、このジャンル特有のものが感じられなかったというのだ。世界構築チームはプレイヤーの知らない舞台裏で力を尽くしていたのだが、「プレインズウォーカーのためのサンダー・ジャンクション案内」がなかったことがさらに事態を悪化させた。プレイヤーはこの次元出身のクリーチャーがいないことなどを知ったが、一方でサボテンのクリーチャーが登場しており、この一見矛盾した事実がどのように共存しているのか理解できなかった。
理由付けがされていない伝説のクリーチャーがいた
この感覚に拍車がかかったのは、このセットに多元宇宙じゅうから大量の伝説のクリーチャーが集められたためである。彼らはなぜサンダー・ジャンクションへやって来たのか? オーコ一味を除いてその理由が説明されることはなく、伝説テーマが空虚なものに感じられたのだった。既存のキャラクターに西部劇の意匠を加えるセットである、という感覚を生み出す貢献はした。
雰囲気が冗談っぽくなりすぎた
収録カードの多くが軽薄な雰囲気だったことで、この次元の役割についての説明不足感が強調された。マジックでは通常、舞台となる次元はかなりシリアスに描かれる。もちろんユーモアはつきものだが、その次元を感じられるものとは対照的なものとして表現される。その一般的な感覚が欠けていたため、ジョークがセット全体の雰囲気を牽引し、我々が舞台となる次元を大事にしていないと感じられるものになってしまった。そしてその結果、プレイヤーもこの次元を軽んじることになったのだった。
『モダンホライゾン3』
良かったところ
多くのプレイヤーが、元ネタからの引用や懐かしさを大いに気に入った
昔のメカニズムを用いて本流のセットではできないカードを作り、懐かしさと複雑さを織り込む『モダンホライゾン』ならではの手法は、勝利の方程式である。プレイヤーはさまざまなメカニズムの組み合わせを楽しみ、ディープな引用を楽しみ、気の利いたカード個別のデザインを楽しんだ。
取り挙げられたテーマが楽しかった
もう「滅殺」はこりごりだという声は大きかったものの、このセットで取り挙げられたエネルギーやエルドラージ、改善はどれも、エキサイティングで納得のテーマだという声が上がった。より大きなカード・プールのフォーマット向けにもっと多くのカードを必要としていたテーマに我々が触れたことや、それにより他では味わえない雰囲気のリミテッドを楽しめたことを、多くのプレイヤーが歓迎した。
リミテッドが大盛りあがりだった
『モダンホライゾン3』に許された高い複雑さのおかげで、我々は他ではなかなか味わえないリミテッド環境を作り上げることができた。『モダンホライゾン』セットについて、その奥深さと強いシナジーが最高のリミテッド環境を生み出すと評価する熱心なプレイヤーは多い。また、今回はMTGアリーナでもドラフトを楽しめたことを喜ぶ声も多かった。
両面カードが大ヒットだった
『モダンホライゾン3』では『モダンホライゾン』セットに初めて両面カードが導入され、大ヒットとなった。プレイヤーは以前から両面プレインズウォーカーのサイクルを求めており、このセットでそれが実現したことを大いに喜んだ。モードを持つ両面土地も人気だったが、プレイヤーはもっと多くの両面カードを望んだ。両面カードではさまざまなデザインが可能だが、『モダンホライゾン3』ではそのうち2種類しか使われなかったことを悲しむ人もいた。一点もののデザインがもっと欲しいと望んだのだ。
教訓
多くのプレイヤーが、古いフォーマット、特にモダンへの影響を好まなかった
初代『モダンホライゾン』が登場する前は、柱となるセットのほとんどがスタンダードを向いていた。スタンダードのセットはパワーレベルが低いため、モダンやその他古いフォーマットへ入る新しいカードの量は少なかった。これにより古いフォーマットの発展はゆっくり進み、プレイヤーはお気に入りのデッキで何年も戦うことができた。『モダンホライゾン』は古いフォーマットへ入る新しいカードの量を大きく増やし、モダンの発展速度をそれまでより一気に上げた。この影響力を多くのプレイヤーが歓迎しておらず、『モダンホライゾン3』でもその傾向は続いた。
プレイ・バランス上の問題を抱えたカードが2枚あった
『モダンホライゾン3』について語る上で、触れずにはいられないカードが2枚ある。《有翼の叡智、ナドゥ》は構築フォーマットを支配しており、《のたうつ蛹》は数多くのリミテッドのゲームをひっくり返している。多くのプレイヤーは、これらのようなカードが印刷されないことを望んでいる。
取り挙げたテーマに寄りすぎ、一点ものの奇抜なデザインが十分でなかった
プレイヤーはこのセットの主要テーマを楽しんだものの、我々がテーマに寄りすぎて関連カードに熱を入れすぎたと感じる人もいた。『モダンホライゾン』セットの魅力の1つは多彩なデザインにあり、『モダンホライゾン3』では主要テーマのデザインに時間を割きすぎたゆえにその魅力が少なかったのだと、多くの人が感じたのだった。
もう1年
この1年のデザインの話は、これで以上だ。私の見解が、各セットに多くの人が感じていることを反映できていたなら幸いである。ゲームの未来を改善するためには批判的に振り返ることが欠かせないと私は強く思う。ソーシャルメディアを通して考えを送るために時間をかけてくれた諸君に感謝したい。
いつもの通り、本日の記事や、過去1年のセットに対する私の見解についての意見を教えてほしい。メール、各ソーシャルメディア(X(旧Twitter)、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、「色の協議会」を再訪する日にお会いしよう。
その日まで、あなたがいつでも気軽に最新セットについての考えを私へ共有してくれますように。
(Tr. Tetsuya Yabuki)
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