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Making Magic -マジック開発秘話-
『イニストラード』デザイン提出文書
2021年8月23日
(編注:この記事はPCでの表示に最適化されています。)
時折、私は諸君に、セットでの私の仕事が終わった時に作成する展望デザイン提出文書を公開している。これらの文書は、セットデザイン・チームにセットの展望を解説し、展望デザイン・チームが作成したさまざまなメカニズムやテーマを紹介するためにデザインされている。
これまでに公開した文書は以下の通り。
- 『エルドレインの王権』(その1、その2)
- 『イコリア』
- 『ゼンディカーの夜明け』
- 『ストリクスヘイヴン』(その1、その2)
- 今年の前半には、過去のデザイン提出文書(展望デザインに改組される前のものである)を『未来予知』のために公開した。
(編訳注:初代『ゼンディカー』の記事(その1、その2)も公開しております。)
これから2セットに渡って(『イニストラード:真夜中の狩り』、『イニストラード:真紅の契り』)イニストラードを再訪するので、ここで一番最初に戻り、初代『イニストラード』のために私が作成したすべてのデザイン提出文書を公開するのは面白いだろうと考えた。
『未来予知』の記事と同様、始める前にいくつか説明しておかねばならないことがある。
- これらの文書のまとめられ方は時代とともに変わってきているので、これは私が掲載してきた展望デザインのものとは少し異なっている。(例えば、カードを例示していない。)この文書が提出されたのは、確か、2009年秋季のはずである。
- この当時、開発部はデザインとデベロップというモデルを採用していたので、私は、今展望デザインにかけている時間よりも長い時間を掛けてセットに関わっていた。(現在の4か月に対し、当時はほぼ1年掛けていた。)
- 左側にあるのが実際に提出された当時の文書である。右側にあるのは私からの追記で、大きな文脈が掴みやすくなるように解説している。
『Shake』デザイン文書
『イニストラード』ブロックは、『Shake』『Rattle』『Roll』というコードネームを使っていた。
現在、諸君のほとんどはリチャードをマジックの作者だと認識している。ジェンナ・ヘランは15年に渡り、クリエイティブ・チームでさまざまな物語や世界構築を監督していた。これは彼女が初めてクリエイティブ・リードを務めたセットである。グレアム・ホプキンスは第1回グレート・デザイナー・サーチで3位になり、「マジック・ザ・ギャザリング アリーナ」のプログラマーとして働いている。トム・ラピルは長年開発部のデベロップ・チーム(現在はセットデザインとプレイデザインがしていることの両方をしていたチーム)で働いている。
私が自分の提出文書でよくすることの1つが、デザインを把握できる小さなサイズに切り分けることである。これによって、誰でも理解し、記憶しやすくなるのだ。
『Shake』のデザイン・チームは単純な目標を設定した。ホラーというジャンルをマジックに持ち込むことである。チームは、すでにマジックに存在している要素のほとんどのように多くを創作する必要はなかった。我々の目標は、それらの要素といくつかの新しい要素を選び、組み合わせてファンタジー・ホラーを体現する豊かなトップダウン世界を作ることだった。私が集めたチームには、私、リチャード・ガーフィールド/Richard Garfield、ジェンナ・ヘラン/Jenna Helland、グレアム・ホプキンス/Graeme Hopkins、トム・ラピル/Tom LaPilleがいた。
多くの議論の末、我々は、このセットを完成させるには4つの要素を重視する必要があると判断した。「怪物」の部族要素、墓地要素、「死亡関連」要素、変身要素である。これら4つの要素が、このデザインの背骨になるだろう。
「怪物」の部族
我々が選んだ怪物を表すために使った可愛らしい言い方が、「朝食のシリアル的怪物を選んだ」だった。1971年初頭にさかのぼる糖分たっぷりのシリアルは、世間の考えるよくある怪物を描写する上でいい仕事をした。もちろん、我々はいつか作るエジプトをテーマにしたセットのためにミイラを温存した。とはいえ、ミイラは基本的にゾンビである。)
提出文書を作成する上で、デザイン・チームが提出するものに優先順位をつけることが鍵である。物事は変わるものなので、何が最も重要なのか理解させる必要があるのだ。クリーチャー・タイプの順番は、何がこのセットで独特なのか、つまりこのセットを他のセットと区別する新奇なものなのかを表す上で重要なのである。
ホラーのセットでプレイヤーが何を期待するかについて話し合ったとき、最初に出てきたのが怪物だった。さまざまな怪物について議論したが、結論として選ばれたのは吸血鬼、狼男、ゾンビ、幽霊(スピリット)だった。その議論の上で、もう1つ、ホラーの物語では人間も重要だということが明らかになった。怪物は誰かを脅かさなければならない。加えて、英雄は怪物に立ち向かう伝統的な人間だ。セットには、殺害者と、怪物狩りが必要なのだ。
この5つの部族を考えて、我々は空間を分割した。最終的に、こうなった。(クリーチャー・タイプは、デザインを大局的に見て世界観的にも販売上も重要だと思われる順番に列記している。)
狼男
これの本質は検討を経ても変わらなかったが、いくつか変わったことがある。1つ目に、すでに示したとおり、誘発するのが次のターンの開始時になった。これは呪文を唱えることでこの誘発に対応できるような隙間をなくすためである。
2つ目、そして最大の変更として、狼男から人間への誘発は、誰か1人が2つの呪文を唱えたかどうかだけを見るようになった。この文書のバージョンでは、プレイヤーが合わせて2つの呪文を唱えることを見ていたが、これは奇妙なプレイを招き、また楽しくなかったのだ。
3つ目に、後に太陽と月のシンボルを加えて、視覚的に昼か夜かがわかりやすいようにした。
狼男をクリーチャー・タイプにしたのは、実際、開発部内で大激論を呼んだ。私率いる一方は、狼男を導入したかった。ブレイディ・ドマーマス/Brady Dommermuth(当時のクリエイティブ・ディレクター)率いる他方は、人間・狼にしたいと考えていた。ブレイディの選択は、当時のシステムの働きによく合っていて、狼・カードとも自然に組み合わせられるものだった。しかし私は、狼男はマジックに導入する価値のある重要な単語だと人々を納得させたのだ。その結果、すべての狼男部族カードは「狼男や狼」を参照するようにすることが必要になった。
もう1つ言っておくべきことは、狼男を赤に入れることには少しの抵抗があったが、サポートするクリーチャー・タイプをそれぞれ2色に入れることは重要だと感じていて(これは今日にも続いている)、赤は黒の次に妥当だと思われた、ということである。すべての怪物に黒は妥当だ。)最終的に、友好色の組み合わせは、吸血鬼、狼男、ゾンビに見られる。
狼男は、緑と赤である。すべての狼男は、小さい人間の面と大きい狼男の面を持つ両面カードである。すべての赤や緑の両面カードは、狼男である。 すべての狼男は共通で、人間から狼男になる誘発型能力と、狼男から人間になる誘発型能力を持っている。
人間から狼男になる誘発型能力は、ターン終了ステップの開始時に、そのターンにどのプレイヤーも呪文をプレイしていなかったときに誘発する。この誘発型能力は、「このターンに呪文がプレイされていない」の後でこっそり呪文を使うことができないようにしなければならない。この誘発型能力を、次のターンの開始時にすることも検討すべきだろう。
狼男から人間になる誘発型能力は、ターン終了ステップの開始時に、そのターンにプレイヤーが合わせて2つの呪文をプレイしていたときに誘発する。これらの2つの誘発型能力は、両プレイヤーがクリーチャーの変身に影響を与えられるようにするために選ばれている。これらの誘発型能力は、時間の流れをあらわすため、曖昧になっている。プレイテストの結果、プレイヤーはこのメカニズムで明示はしていない「月が出た」という雰囲気を感じているようである。
このデザインの、繊細だが非常に重要だと思われる部分は、狼男というクリーチャー・タイプを追加することである。(既存の3枚の狼男のうち2枚は狼憑き(Lycanthrope)であり、1枚はミニオン・狼であった。この3枚は今は人間・狼であり、うち1枚は人間・狼・ミニオンである。)重要性の面で狼男を最初に書いたのは、今回扱うすべての怪物の中で、マジックがうまく扱っていなかったのは狼男であり、このセットの最大の「新しい」ものになると考えられるからである。また、すべての狼男は、販売の鍵となると思われる両面カードである。
狼男を大きな特徴として売り込むなら、単語はセットの特徴を表す重要な部分なので、その単語を使うようにすべきである。変更する必要がある古いカード数枚があり、それらはカード名に人狼(Werewolf)を含んでおり、うち2枚にはカードにそうは書かれていない。
狼男デッキは、人間の軍団がずっと恐ろしい狼男の軍団に変身するという未知の部分があるので、本質的に多くのサスペンスを含んでいる。狼男デッキは(狼男に変身させたり、狼男から戻らないようにしたりするため)呪文をプレイしないことを含むので、赤や緑にはマナを使ってすることが必要となる。
人間
人間にあった4つのメカニズム的テーマのほとんどは印刷に到った。「白でない」要素は「人間でない」要素に、あるいは「吸血鬼、狼男、ゾンビ」と書き下されたりした。
これが、部族的な意味で人間を扱う初めてのセットになったのには裏話がある。種族/職業モデルが初めて提案されたとき、開発部の多数が要求したことの1つが、人間部族カードを作らないことだった。私がこのセットを作ったとき、5つの部族はデザインの重要な部分を占めており、人間部族カードを作ることが助けになるとわかっていたので、私は開発担当副社長のビル・ローズ/Bill Roseの元を訪ねた。
私は彼に、「種族/職業にすると決めた問、人間部族カードは作らないと約束したのを覚えているか?」と聞いた。
「もちろんだ。」とビル。
「ついに、人間部族カードがどうしても必要なセットが来た。もし作ったとして、どれほど問題があるだろうか?」
ビルは答えて、「その決定をしたときから今まで開発部に残っているのは、お前と俺だけだ。俺は気にしない。もしお前が作りたいなら、作れ。」
そして、作った。
人間は白が中心だが、5色全てに存在しており、2種色は緑である。物語上の対立があるなら、それは人間対怪物である。怪物同士が協力するわけではないので、『ミラディンの傷跡』ブロックのような戦争ではなく、人間が生き残るために全方面に対して戦うという厳しい環境である。
人間を定義づけるのは、協力できることである。これば、自軍すべてや人間すべてを助ける人間・カードが大量に存在することで表現される。もう1つ人間の特徴は、怪物よりも上手に武器を使えることである。装備品がついているカードを強化する(近年数回やっている)よりも、人間に合う装備品・カードを作った。
もう1つ、人間に組み込まれているテーマは白だけに存在している。人間が怪物に立ち向かうという雰囲気を出すため、白には白以外のカードに影響するカードや特定の種類の怪物に対処するために特にデザインされたカードが存在している。
人間が2番目に書かれているのは、マジックの歴史上ずっと人間は大量に存在しているが、人間を特に部族として扱ったカードは『Shake』までなかったからである。『Roll』では人間の数が増えるべきなので、この「人間関連」テーマはこのブロックの後半でも重要になる。
ゾンビ
これのほとんどは印刷されたが、2つ変更点があった。1つ目に、「カードを墓地から無作為に戻す」テーマはセットに残ったが、減らされ、ほとんど緑になった。黒のゾンビで印刷された中には1枚だけのはずである。
2つ目に、クリーチャー・カードを追放することが必要なカードは自分の墓地だけを使うように変更した。最終的に、楽しいゲームプレイに繋がらない、奇妙な動機を生み出すことになった。私は、マジックが何度もしてきたものを取り上げ、それに今までしたことのないプレイパターンを持たせたことを非常に誇りに思っている。
ゾンビは黒と青である。黒のゾンビは、屍術や闇の魔法で蘇らされた死体である。これは映画のゾンビその他ゾンビ系設定で見受けられるようなものである。青のゾンビは死体の部分を使って魔術師が作った肉のゴーレムである。(フランケンシュタイン参照)
黒のゾンビは、墓地にあるゾンビ・カードを戻す(予測可能性を減らすため無作為になっている)か、少しずつ増強される不死の軍団を作るためにトークンを生成するかである。このゾンビ・デッキはのろのろしたゾンビらしく感じられる、ゾンビでゆっくりと対戦相手を押しつぶすことによって勝利するものであるべきである。
青のゾンビはどれも少なくとも1体の死体が必要(墓地にあるクリーチャー・カードを追放することが必要)である。青のゾンビでどの墓地からでも追放できるようにしているのは、そのほうがプレイ感がよく、フレイバー的にも「どんな死体でも使える」からである。
マジック的には、ゾンビは部族としても新しいものではないが、『Shake』では、ゾンビデッキで古典的なフォラーの物語でのゾンビの描かれ方を再現させている。デッキ全体の雰囲気は、新しいものである。
吸血鬼
吸血鬼に関して面白いところは、私がここで書いたことのほとんどは青のままだが、成立させるためにエリック・ラウアー/Erik Lauer率いるデベロップ・チームは尽力した。黒と赤は、最高のクリーチャー除去呪文があるので、リミテッド・フォーマットではアグロよりもコントロール寄りになる傾向にある。エリックは「戦闘ダメージで+1/+1カウンターを増やす」テーマを赤の吸血鬼に与え、呪文やスタッツを大量に調整して吸血鬼をアグロ寄りの部族にした。
振り返ってみると、このセットでどこかに手を入れるなら、スピリットだ。他のすべての部族には濃いメカニズム的繋がりがあったが、スピリットには「白や青が通常すること」ばかりだった。スピリットらしさがないということではないが、もっと一体性のある計画があればよかったと思う。次のイニストラード・セットのスピリットがもっとメカニズム的特徴を持っていることを、嬉しく思う。
吸血鬼は、黒と赤である。吸血鬼を赤に入れたので、さらに衝動的にするべきなので、吸血鬼部族をアグロ寄りにした。他の怪物は比較的攻撃の頻度が低いので、吸血鬼デッキがその枠に入ることになる。この雰囲気は、吸血鬼に攻撃誘発と攻撃的になるスタッツを持たせることで与えられている。
吸血鬼について新しいことは、赤になったことである。このため、新しい黒赤吸血鬼デッキを作るために最高の吸血鬼の前段カードを赤のアンコモンに入れた。
幽霊(スピリット)
幽霊はすべての色に存在しているが、もっとも多いのは白と青である。幽霊は5つの部族の中でもっとも防御的である。また、もっとも飛行が多い。幽霊は地上を抑えて飛行クリーチャーで対戦相手を削り勝つことが多い。
墓地
部族の次にホラーが扱う場所といえば、墓地である。墓地はホラーと長い関わりがあり、マジック的には相互作用しがいがある興味深い一面だと思われる。その上で、私は自分のチームに、墓地メカニズムを探してほしいと伝えた。我々は(『未来予知』の探査など)さまざまな墓地メカニズムを試し、最終的に、フラッシュバックをこのセットに入れることにした。
ビルは、各ブロックで1つ過去のメカニズムを再録するという声明を出していたので、我々は必ず再録させるものに目を向けている。フラッシュバックはいつも調査で評価が高く、今回にまさにふさわしいものである。
フラッシュバックはすべての色に存在している。フラッシュバックのトークン作成呪文はゾンビと相性がいいので、(緑ではなく)黒にほとんどのフラッシュバックのトークン作成呪文が入っている。
もう1つ墓地の大きなテーマが、無作為の《新たな芽吹き》効果である。カードが墓地にあるカードを戻す場合、プレイが同じことの繰り返しになることを防ぐため、それらの効果の多くは無作為なものになっている。
これはほとんど事実だ。エリックはデベロップで色違いのフラッシュバック・コストを追加した。先述の通り、無作為に墓地からカードを戻すテーマは残ったが縮小され、(黒1枚、赤1枚、緑3枚の)5枚だけになった。「リソースとしての墓地」は赤からほとんど取り除かれ、青と黒のゾンビ・テーマのものになった。「自分の墓地からカードを戻す」テーマは最終的に黒と緑になった。
他にも、墓地を扱うテーマはいくつか存在する。青には切削のサブテーマがあり、プレイヤーのライブラリーから墓地にカードを送ることができる。このセットでは、自分のライブラリーを削ることが多い。緑には、墓地にあるクリーチャー・カードを扱うというサブテーマがある。その効果やパーマネントは、自分の墓地にクリーチャー・カードが多ければ強くなるのだ。赤には、墓地にあるカードをリソースとして使うサブテーマがある。墓地のカードが完全になくなってしまわないよう、チームはこのテーマを小さく抑えた。黒には墓地から手札や戦場などにカードを戻すサブテーマがある。
「死亡関連」
墓地を掘り下げていてもう1つ気づいたことが、ホラーにおける死亡の重要性である。何かが死ぬことに意味を持たせたいので、2つ目のメカニズムは死亡に関するものにすることにした。「死番/deathwatch」という能力語は、何かが死亡したかどうかを参照するものである。
死番はもちろん後の陰鬱である。デベロップはこの2つ目をかなり減らし、1つ目を多くした。
死番には2つのバージョンがある。1つ目のバージョンは、そのターンに何かが死亡していたら強化される、呪文(クリーチャーも含む)である。2つ目のバージョンは、そのターンに何かが死亡してた時にのみ使える起動型能力を持つパーマネントである。1つ目が多すぎれば、プレイヤーはブロックしなくなって環境が歪んでしまうので、その種の死番カードは減らし、開封比を下げて、一部のレアリティを上げている。
我々は、これを使う色ごとに違うフレイバーを与えようと試みた。
陰鬱は最終的に主に黒と緑になり、赤のカードは1枚になった。色ごとに効果を区別することも行われなかった。
- 白:人間対怪物という雰囲気を出すため、この色には死番は存在しない。
- 青:この色には、何かが死亡していなければ唱えられない死番呪文がある。
- 黒:この色には、何かが死亡していたなら「入場効果」を持つ死番パーマネントがある。
- 赤:この色には、何かが死亡していたら強化される死番を持つインスタントやソーサリーがある。
- 緑:この色には、何かが死亡していたなら+1/+1カウンターが置かれた状態で戦場に出る死番:クリーチャーがある。
このセットには多くの死亡誘発があり、白も含む全ての色に存在していた。
死番を持つ4色すべてに、死番の起動型能力を持つパーマネントもある。
死番に加えて、「虐殺/carnage」(クリーチャーが死亡することで誘発する効果。能力やキーワードではない)を持つパーマネントも存在する。死番同様、「虐殺」も白以外のカードに限られている。
変身
通常のマジックのカードにもsideは2つあるので、この用語は後にdouble-sidedからdouble-facedに変更されている。
もう1つホラーの鍵となると思われるのが、変身である。ホラーでは、一見無害なものが恐ろしいものに変身することがあふれている。ホラーのこの要素を再現するため、我々は両面カードを作った。これらは、「デュエル・マスターズ」のためにデザインされて成功を収めたカードを元にしている。
我々は『イニストラード』で狼男のプレインズウォーカーを初登場させるつもりだったが、その枠は、ガラクが《鎖のヴェール》に呪われたことを示すためにうことになった。
振り返って過去の文書を読むことの面白さの1つは、忘れていることを思い出せることである。私は、我々がこのセットを提出した時点で、両面カードを変身する両面カード(TDFC)だけでなくモードを持つ両面カード(MDFC)としても働くようにしていたということを覚えていなかった。これについてはまた後ほど。
両面カードとは、それぞれがクリーチャーである2つの面を持つカードのことである。(『Rattle』ではクリーチャー以外の両面カードも扱う。『Shake』にも、神話レアには狼男の両面プレインズウォーカーがいる。)両面にマナ・コストがあるので、どちらでも唱えることができる。その後、唱えた側で戦場に出る。
『Shake』の両面カードには、B面に変身できるA面(大抵の場合小さい方)がある。すべての狼男などの一部は、A面に変身することもできる。狼男以外では、B面からA面に戻れるコモンのカードはない。「変身」は、カードをもう一方の面に裏返すことを意味するキーワード処理である。
デザインのかなりの期間、DFCは単なるTDFCだった。しかし、新しいものに感じさせるため、そして色の定義の問題を解決するために、TDFCとMDFCを組み合わせたものにしていた。
記憶をさかのぼってみると、この変更は提出の直前で、デベロップに入った直後にまた戻されていたと思う。おそらく、これらのカードはそもそも充分複雑だったので、『神河物語』ブロックの反転カードとは全く違うと感じられ、そして「第2面は何色か」問題を解決するために色指標を思いついたのだろう。この時点で私はMDFCを棚上げにして、いつか使えるときを待つことにしたのだ。
デザインの初期、プレイヤーは、両面カードを持ってきて戦場に出す片面カードをデッキに入れることになっていた。技術的に、2枚のカードをパックに組み合わせて入れることができなかったので、現在のバージョンに変更したのだ。
この提出文書の中で、TDFCは飛び抜けて多くの論争を呼んだ部分であった。開発部の中には、TDFCを製品に入れるべきではないと強く信じている一派があった。幸いにも、私の上司のアーロン・フォーサイス/Aaron Forsytheはこの製品におけるその価値を理解し、セットに入れることを支持してくれたのだ。この歴史を知らない人々にとって、TDFCはこのセットの大人気の部分になったのである。
B面には長い間マナ・コストがなかったが、大きく2つの理由から、マナ・コストを持たせることにした。1つ目が、マナ・コストがなければ、それらのカードはメカニズム的にほぼ『神河物語』ブロックの反転カードと同じになってしまう。(ただし反転カードよりも多くの文章を書くことができるし、二面性を表す上でずっと有効な異なる雰囲気を持っていると確信している。)2つ目が、B面にマナ・コストがないことで、すべてのカードでテキストを使って色を定義しなければならなくなっていた。
両面カードについての現在の提案としては、プレイヤーが不透明のスリーブを使っているのであればそのままデッキに入れてプレイできるというものである。不透明のスリーブを使いたくないプレイヤーには、戦場以外のあらゆる領域で両面カードの置き換えとして使えるチェックリスト・カードを供給する。
両面カードはこのセットの売りになると私は確信している。デザイン・チームは相当の時間をかけて、変身を可能な限り芳醇なものにした。認識できる名前を持つ元ネタがある場合、私はその名前を使っている(ジキル博士とハイド氏、など)が、これはその名前そのままであるべきだからではなく、意図した元ネタが誰にでもわかるようにするためである。
その他
エリックは白以外の全色に呪いがあることが私にとって重要だということがわかっていなかったので、デベロップ中に緑の呪いをボツにしたときに代替を入れなかった。これは、強調して明示しなければ見落とされるという好例である。実際、私はここでそうしたということは書いているが、特定の目的を持ってしたということは書いていない。
デビルは残ったが、わずか3枚になった。ピッチフォークの冗談が何だったのかは覚えていない。
このセットには他にも、上の分類に入らないいくつかの特徴がある。
- 呪い ― エンチャント(プレイヤー)を持つエンチャントで、エンチャントしたプレイヤーに悪影響を及ぼす。呪いは白以外のすべての色に存在し、黒と青に一番多い。
- デビル ― 赤で、ゴブリンの代わりにデビルが入っている。ピッチフォークの冗談を除いて(ブレイディいわく、消すべき)、デビルというクリーチャー・タイプに部族要素は存在しない。デビルは有害で、破壊的で、赤の小型のクリーチャーである。
第2のテーマ
リミテッドに深みを持たせてセットを仕上げるため、各色に第2のテーマが存在する。
大枠としては残ったが、白以外から人間以外、あるいは怪物部族の列記に変更された。
- 白 ― 怪物と戦う ― 白のサブテーマは、白がそれ以外のすべてと戦うことに関するものである。この中には、白でないものを対象とする呪文や効果が含まれる。白にはまた、それぞれの怪物部族の戦略それぞれに対抗するためにデザインされたカードも存在している。
このテーマは残った。エリックは切削の量を増やしたと思う。
- 青 ― 切削 ― 青の切削は、このセットでは、主に自分のライブラリーを削って、墓地にあるカードを扱うもの(フラッシュバックや青のゾンビなど)が有利を得るようにするものである。
このテーマはやや縮小されたが残った。
- 黒 ― 墓地再利用 ― 黒は墓地からリソースを戻す第1の色である。(緑が2番目である。)これは、「死亡関連」テーマと相性がいい。
このテーマはほとんどが青と黒のゾンビ・カードに移り、赤には1枚だけになった。
- 赤 ― リソースとしての墓地 ― 赤には墓地にあるカードを追放して使う呪文がある。これも「死亡関連」と相性がいい。
このテーマは残った。
* 緑 ― 墓地にあるクリーチャー・カード ― 緑には、自分の墓地にあるクリーチャー・カードの枚数に応じて強化されるさまざまなカードがある。これによって緑は、時間とともに強くなることができ、「死亡関連」テーマとも相性がいい。
2色の組み合わせ
プレイヤーが色の組み合わせ10種それぞれをリミテッドでプレイする理由は次の通り。
友好色部族アーキタイプは基本的に調整されて残ったが、敵対色アーキタイプはほとんど変更された。エリック率いるチームは、クールで刺激的な敵対色アーキタイプを作るのに尽力した。
私がデザインしたすべてのセットの中で、『イニストラード』は最高のものだという声がある。そこで、この提出文書を振り返り、実際に提出したものを思い出すのは楽しいものだった。それ以降のトップダウン・セットのあり方に、多大な影響を与えたのは間違いない。展望デザイン提出文書の中で変更が少なかったもう1つの理由は、展望デザインにかけられる時間が4か月なのに対して『イニストラード』のデザインには1年かけていたからだということを強調しておくべきだろう。私のデザイン・チーム、エリック率いるデベロップ・チーム、その他この本当に印象的なマジックのセットを作るために尽力してくれたウィザーズの各位に多大なる感謝を贈りたい。
- 白青 ― 防御的スピリット・デッキ
- 青黒 ― のろのろしたゾンビ・デッキ
- 黒赤 ― アグロな吸血鬼デッキ
- 赤緑 ― ミッドレンジの狼男デッキ
- 緑白 ― 素早く並べる人間デッキ
- 白黒 ― 人間とそれを喰らう怪物たち
- 青赤 ― 切削+リソースとしての墓地
- 黒緑 ― 墓地再利用
- 赤白 ― もう1つのアグロの選択肢
- 緑青 ― 切削+墓地参照
私はチームの各位の努力に非常に満足しており、これまでのどの大型上級セットに比べても最もトップダウンで芳醇なセットを作ったと感じている。
初代『イニストラード』の振り返りを楽しんでもらえたなら幸いである。私が今日話題にしたものについての諸君の感想を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(Twitter、Tumblr、Instagram、TikTok)で(英語で)聞かせてくれたまえ。
それではまた次回、『イニストラード:真夜中の狩り』のプレビューが始まり、マジックのゴシックホラー世界の最新の姿をお見せする日にお会いしよう。
その日まで、あなた自身の過去を振り返る喜びがあなたとともにありますように。
(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)
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