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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

二倍がけで

Mark Rosewater
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2018年5月21日

 

 諸君、『バトルボンド』特集にようこそ。通常、プレビュー週に私は、デザイン・チームを紹介し、そのセットのデザインについて語り、そしてプレビュー・カードを紹介している。しかし、私は『バトルボンド』に関わっていないし、このセットのリード・デザイナーを務めたガヴィン/Gavinがデザイン・チームを紹介してデザインについて語りたいと考えている。そこで、私は『バトルボンド』の記事で、違う方向に舵を切り、セットの中の1枚のカードについて語ることにしようと思う。

 私が1枚のカードに関する記事を書いたことは、これまでに2度しかない。お気に入りのカード特集のときに書いた(私にちなんで名付けられた)《マロー》というカードについての記事と、アクローマ特集(私がTwitterでやるようになるよりも前の、第1回直接対決投票を勝ち抜いた伝説のクリーチャー専用の週)だけだ。(ともにリンク先は英語記事)

 私は『バトルボンド』に関わっていないので、このカードはもちろん再録である。最近、開発部内で、各個人が最も関連付けられたいカード・デザインというものについて話し合っている。そのカードは象徴的なものでなければならず、デザイナーとしてのその人物を表すものでなければならない。

 今日のカードは、私が自分のカードとして選んだカードである。現時点で、私は長年に渡り大量のカードをデザインしてきており、その中に非常に象徴的と言えるカードは多数あるが、私はこの答えを選ぶにあたって考える必要はなかった。(私が個人的に一番愛着を持っているカードは、私に関連付けられている《マロー》だが、今回問われたのはそれとは少しばかり違うものなのだ。)このカードも『バトルボンド』に再録されることになったのて、このカードの最新の形を公開するとともに、それに到る経緯を深く掘り下げていこう。

 このカードが何なのかを決める手がかりは大量にあるが、知らない諸君、あるいは単にクールな『バトルボンド』の新アートを見たいだけという諸君に、まずご紹介しよう。

 そう、私が選んだのは、私のお気に入りのデザインである《倍増の季節》である。しかし、このカードは一体どのようにしてできたのだろうか。今日は、そこに踏み込み、そしてそれについてお伝えしていこう。

二回利用

 この話は、『アルファ版』まで遡る。私が初めてマジックをプレイし、購入したのは、ロサンゼルスのゲーム・コンベンションのときだった。私がゲーム1つに費やすのは20ドルと決めていたので、私はスターターデッキ1つとブースターパック3つを買ったのだ。マジックが出来たばかりのとき、商品には2種類あった。15枚入りのブースターパックと、60枚入りのスターターデッキという商品だ。レア2枚(《停滞》と《Darkpact》だった)と、プレイするのに充分な枚数の土地が入っていた。5色すべてを入れていたので、最高のプレイ体験と呼べるものではなかった。なんにせよ、私が初めて購入したマジックのカードは、105枚と、そのコンベンションで手に入れることができたいくらかの基本土地だったのだ。

 そのころ、構築デッキは40枚だった。構築デッキの最小枚数が60枚になったのは、1994年にDCIが設立されてからである。私は自分のカードを見直し、そして単色デッキを作ることに決めた。そして、このカードを持っていたことから、緑を選んだのだ。

 『アルファ版』では、コモンでパワーの大きいクリーチャーはほとんどいなかった。《大喰らいのワーム》は私が手に入れた中で唯一パワーが3より大きいクリーチャーだったので、明らかに私が手に入れた中でもっともぶっ壊れたカードだったのである。それほど多くのカードを持っていたわけではないので、私の持っていた緑のカードすべてをデッキに入れることになった。その中に、《狂暴化》というちょっとしたカードがあったのだ。

 『アルファ版』の文章を、マジックに初めて触れるプレイヤーだった私が読み取ったらこうなった。

 「Until end of turn/ターン終了時まで」……この効果はそんなに長く残るものじゃない。それがいいことだといいな。

 「target creature's current power doubles/それの現在のパワーは倍になる」……『倍になる』? 『倍になる』だって? 『倍になる』んだよな。6を倍にしたらどうなる? 12になる。20点ダメージを与えれば勝てるんだよな? すげえ!すげえ!すげえ!

 「and it gains trample ability./そしてそれはトランプル能力を得る。」……トランプル?何だそれ?聞いたこともない。でもなんかクールだ。

 「If it attacks,/これが攻撃したなら」……クリーチャーのパワーを倍にしたところだ。攻撃しないわけないじゃないか!

 「target creature is destroyed at end of turn./ターン終了時にそのクリーチャーを破壊する。」……これは俺の《大喰らいのワーム》を破壊するってこと?なんでそんなことを? このカードはクソだ!

 「This spell cannot be cast after current turn's attack is completed./このカードは現在のターンの攻撃終了後には唱えられない。」……何を言ってるのかわからない。

 このカードは難しくて、私の《大喰らいのワーム》を殺してしまう。だからデッキには入れたくなかったが、緑単色のデッキにするためには緑のカードを入れなければならなかったので入れることになった。最初の数回はこれを引いても唱えなかったと思うが、やがて、自分のクリーチャーのパワーを倍にしてトランプルを与えた結果ゲームに勝った日がやってきた。(《ウォー・マンモス》も持っていたので、私はトランプルが何をするのかを理解するためにルールブックを何度も読んだのだ。)そして好きになった。それでゲームに勝てるときにしか唱えなかったが、それでも私がこのカードに関する意見を変え始めるには充分だった。しかも、これでゲームを終わらせられるわけではないときにも唱えるようになっていったのだ。

 そして、1994年夏に話を進めよう。『レジェンド』が発売され、私はマジックを定期的にプレイしていた。当時、フォーマットという概念はまだ存在していなかった。リミテッドもまだ成立してはおらず、構築フォーマットは今の呼び名で言うヴィンテージ(つまりすべてのカードが使える)1つだけだった。DCIが設立され、禁止制限リストが作られ、そこで《狂暴化》は制限カードになっていたのだ。

 『レジェンド』の《The Abyss》のようなカードのおかげで、社会通念的にクリーチャーは使われなくなっていた。(ただし、《ミシュラの工廠》のような一時的にクリーチャーになるものは大流行していた。)ジョニーにしてひねくれ者の私は、社会通念に逆らうのが大好きだったので、私はクリーチャーで20点与えて勝つという競技的クリーチャー・デッキを作ることにした。

 思いついた発想は、軽い小型クリーチャーをプレイし、その後でそれを積極的に強化して勝つというデッキだった。緑1マナで10点を超えるダメージを与えることができることがよくある《狂暴化》はそのデッキの鍵となるカードだった。入っていたクリーチャーのほとんどが1マナだったことから、私はそれを「マークのちょっとしたデッキ」と呼んでいた。(《ミシュラの工廠》対策に、《アルゴスのピクシー》を2枚メインデッキに入れていた。)

マークのちょっとしたデッキ[MO] [ARENA]
6 《
4 《
4 《Tropical Island
1 《ペンデルヘイヴン
4 《ミシュラの工廠
-土地(19)-

4 《極楽鳥
4 《空飛ぶ男
4 《ラノワールのエルフ
4 《スクリブ・スプライト
2 《アルゴスのピクシー
2 《エルフの射手
-クリーチャー(20)-
1 《Black Lotus
1 《Mox Emerald
1 《Mox Sapphire
4 《調和の中心
4 《巨大化
4 《不安定性突然変異
1 《Ancestral Recall
1 《狂暴化
1 《太陽の指輪
1 《新たな芽吹き
1 《Time Walk
1 《回想
-呪文(21)-

 この先に進める前に、ちょっとしたクイズを出そう。そちらが先攻で、7枚引いた。(プレイ/ドロー・ルールは当時まだ存在しなかったが、7枚のカードでこのパズルを解くことはできる。)対戦相手が何も妨害できないとして(これは『アライアンス』や《意志の力》よりも前の話である)、対戦相手の最初のターンに入る前に勝利できるような初期手札を組み上げることはできるだろうか。

 答えはこちら。

 

 私のちょっとしたデッキはよく動いてくれて、いくつもの大会で優勝することができた。(第1回世界選手権では勝てなかった。詳しくはこちらを:リンク先は英語記事)結果、私は《狂暴化》の大ファンになったのだ。

二倍の仕事

 私が手にした『アルファ版』のカードの中で《狂暴化》が最初一番影響の強かったカードではあるが、この話に出てくる『アルファ版』のカードはそれだけではない。次の部分では、『アルファ版』のカードの中から私が何か月もの間欲しいと思っていた2枚のカードの話をしよう。私は、それらのカードをたまたま見かけた。(当時はまだインターネットが全盛ではなく、ほとんどの人々は画像を手にする手段がなかったので、新カードについての情報は他の人がプレイしているのを直接目にすることが多かったのだ。)

 私はこの2枚のカードをトレードで手に入れようとしたが、非常に人気が高かったので誰も手放そうとしなかった。手に入れるための方法は、ブースターパックで引き当てることだけだった。その2枚のカードとは、これである。

 ほんとにこの2枚なのか? そこにはいくつかの理由がある。

 1つ目に、上述の通り、インターネットはまだ産まれたばかりで、情報が今のように溢れていたわけではないということ。情報は全世界的なものではなく局所的なもので、マジック・プレイヤーの小グループごとにそれぞれの意見が形作られていたのだ。

 2つ目に、最初は誰もが初心者だったということ。経験豊富なプレイヤーはおらず、マジックについての初心者向けの記事すらなかった。つまり、初期のマジックでは、多くのプレイヤーが強いと感じたものに基づく奇妙な需要が大量に生み出されていたのだ。

 《蜂の巣》を例にしてみよう。《蜂の巣》は、クリーチャー・トークンを作るはじめてのカードであり、毎ターン1体作ることができる。クリーチャー・トークンは非常にクールで、そして、初期にはトークンを作れるカードは1枚だけ、しかもレアしかなかったのだ。そう、現代の標準で見れば、これは非常に弱いクリーチャー・トークン製造器だが、当時は、これはマジック最強のトークン製造機だったのだ。

 《機械仕掛けの獣》は、+1/+0カウンターを得て、使うたびに少しずつ弱っていくクリーチャーだった。《機械仕掛けの獣》は『アルファ版』に4枚しかなかったカウンターを使うカードのうち1枚で、クリーチャーは全部で2枚しかなかったのだ。他のカードは《Cyclopean Tomb》《魂の秘宝》《Rock Hydra》だった。《機械仕掛けの獣》と《蜂の巣》は流行していて、私はそれらをブースターパックから引いた日のことを覚えている。《蜂の巣》を引いたときに小躍りしたのは間違いない。

 この話をしているのは、私が一番最初からカウンターやトークンに思い入れを持っていたからである。私の初期のお気に入りの多く(例えば『アラビアンナイト』の《Khabal Ghoul》や《不安定性突然変異》、『アンティキティー』の《トリスケリオン》や《テトラバス》)はカウンターやトークンを使っていた。

 1994年前半まで、私は自作のマジック・カードをデザインしていて、私自身が何度もカウンターやトークンに引き寄せられていることに気がついたのだ。

二倍面倒

 『レジェンド』を手に入れて、私は最初の競技的デッキを作ることになったが、ここでもう1つ重要なのがこのカードである。正確に言えば、この2枚のカードである。そのカードというのは、これだ。

 《地獄の蠍》と《毒蛇製造器》は、マジックにまったく新しい勝利手段をもたらしたものであり、またそれは対戦相手に新しい種類のカウンターである毒カウンターを与えることによるものだった。私はすぐに惚れ込んだ。私は奇妙なことをして勝つのが大好きなジョニーだったので、新しい勝利条件は私にぴったりだったのだ。

 私がウィザーズで働き始めたとき、私は毒をマジックの大きな要素にしようと躍起になっていた。それには時間がかかったが、最終的には成功したのだ。(これについて詳しくはこちらの記事を参照のこと:リンク先は英語記事)

 毒にはもう1つ重要なインパクトがあった。カウンターについての考え方を拡張したことで、デザインにおける使い方も新しい発想が開けたのだ。

二倍増

 それから時は流れて1994年11月、『フォールン・エンパイア』の発売になる。この時点で、私はフリーランスとしてウィザーズの仕事をしており、初めてレントンのオフィスに招かれたのだった。デュエリスト誌(ウィザーズが発効していたマジック専門誌)の編集長のキャスリン・ハインズ/Kathryn Hainesが次の号に載せる予定の『フォールン・エンパイア』用のカウンターやトークンのシートを見せてくれたことを覚えている。そのシートを見て最初に思ったのは、私がカウンターやトークンを愛していることからの純粋な興奮だった。

 その頃に私が組んでいたデッキが、緑単色の苗木/ファンガスデッキで、『フォールン・エンパイア』のサリッドを何種類も使ったものだった。ファンガス・クリーチャーはカウンターを使い、しかもトークンを生成するものだったのだ。胞子カウンターを重ね、3ターンに1回効果を生み出すことができる。効果の多くは、緑の1/1の苗木・クリーチャー・トックンを生成するというものだった。

二度見

 1年後、私はウィザーズでフルタイムに働いていた。そのさらに1年後、私は上層部を説得して自分のエキスパンションのリード・デザイナーを任せてもらうことになった。このセットはもちろん『テンペスト』だ。

 私は、カウンターやトークンを本当に自由に使った。『テンペスト』では、+1/+1カウンター、-1/-1カウンター、賞金カウンター、悲鳴カウンター、遅延カウンター、霊薬カウンター、宝物カウンター、磁力カウンター、苦痛カウンターを使っていた。私は、+1/+1マウンターを軸にしたメカニズムまでデザインしたのだ。(「スパイク」メカニズムで、ほとんどは『ストロングホールド』まで延期されることになった。)また、デザインにおいて、濃い毒テーマも存在していたが、これはデベロップ中にボツになった。

 トークンに関して言うと、『テンペスト』では飛行を持つ白の1/1のスピリット・トークン、ペガサス・トークン、緑の1/1の猟犬・トークン、緑の1/1の苗木・トークン、黒の2/2のゾンビ・トークン、白の2/2の反射・トークン、赤の3/1のビースト・トークンがあった。デザインではそれ以外にもあったが、デベロップがいくらか減らしたのだ。

 『テンペスト』では、私の好評のテーマをもう1つ再訪している。それが倍にするということである。魅力的な赤いレアのエンチャントを作ろうとしていて、私は明瞭で単純なことを思いついた。すべてのダメージを倍にするというものだ。

 ついに自分のセットを作る機会を手に入れたので、私は私が楽しんだあらゆるテーマを詰め込んだのだ。これは他の私のデザインにも一貫しているパターンである。私はカウンターやトークンや倍にすることが好きなデザイナーだという評判を受けるようになっていた。

二連射

 ここで話は2003年、初代『ラヴニカ』の時期に飛ぶことになる。このブロックの元になった考えは、伝統的な多色ブロックで、「(直前の伝統的多色ブロックだった)『インベイジョン』ブロックとは違う感じのものにする」というのが主な目的だった。『インベイジョン』は可能な限り多くの色をプレイするような環境だったので、『ラヴニカ』は可能な限り使う色を減らすようにすることに決めた。多色ブロックなので、2色でプレイするということになる。また、2色の組み合わせ10種類をすべて均等に扱うということも決めた。当たり前のことに聞こえるかもしれないが、当時は、友好色のほうがうまく協力するべきだという発想から、友好色と敵対色を区別して扱っていたのだ。

 この発想から、ブレイディ・ドマーマス/Brady Dommermuthは都市世界でのギルドという概念を思いつくことになる。私はギルドのことがすぐに気に入り、このブロックをそれを基柱として作ることに決め、そして各セットに一部のギルドだけが存在するという4/3/3計画を思いついたのだった。大型セットの『ラヴニカ』は、ボロス(赤白)、ディミーア(青黒)、セレズニア(緑白)、ゴルガリ(黒緑)の4陣営。ギルドごとの特徴をつけるため、2つのギルドで重なっている色はそれぞれで色の特徴を持つようにした。

 緑はセレズニアとゴルガリの2つのギルドに含まれている。セレズニアでは、緑は大量のクリーチャー・トークンを作ることから横並べ戦略を扱うことにした。(現代は小型クリーチャー・トークンを作る最高の色は白になっていて、緑は大きなクリーチャー・トークンが作れるようになっているが、2003年当時はクリーチャー・トークンを作る色といえばまず緑だったのだ。)ゴルガリでは、時とともに強くなっていく、縦伸ばし戦略を扱うことにして、緑は自軍のクリーチャーに大量の+1/+1カウンターを置く色になった。

 ここでもう1つ重要なのは、私が『ラヴニカ』で単色カードをデザインする場合、それが対応する2つのギルドのどちらかで働くようにしたということである。可能なら、カードを両方のギルドで使えるようなものにした。これは、ドラフトで複数の役割を果たしてもらいたい低レアリティのカードでさらに重要だったが、この理念はレアに到るまで同じだった。(当時はまだ神話レアは存在していないことに注意。)

 私は、セレズニアかゴルガリで、理想的にはその両方で働く、魅力的な緑単色のレアを探していた。魅力的なデザインをするときによくやるように、私は自問した。何か倍にできるものはないだろうか。そこで、トークンを倍にするのはクールかもしれないと閃いたのだ。私は、『トーメント』でデザインしたカード《平行進化》を思い出していた。

 《平行進化》は自分のクリーチャー・トークンすべてをコピーする。これはクールなカードだった。他の方法で、クリーチャー・トークンを倍にすることはできないだろうか。そのとき思い出したのが、私がデザインした別のカード、『プロフェシー』の《二重の造物》だった。

 《二重の造物》では、自軍でトークンでないクリーチャーが戦場に出るたびにそれをコピーするという他の方法を試していた。《二重の造物》と同じ技術を、トークン・クリーチャーに適用させたらどうなるだろうか。問題は、クリーチャーが戦場に出たときに誘発するようにすると、作ったクリーチャー・トークンによっても誘発してしまい、無限のクリーチャー・トークンができてしまうことだった。《二重の造物》がトークンでないクリーチャーだけに影響するのは、まさにこの問題を回避するためのものである。

 それなら、クリーチャー・トークンが戦場に出ることに誘発するのではなく、トークンを生成する効果で誘発するようにするとどうだろうか。置換効果にしたらどうなるだろうか。ルール・マネージャーに確認し、できるということがわかった。すべてのクリーチャー・トークンを倍にするエンチャントだ。セレズニアは気に入ってくれることだろう。

 ゴルガリにも気に入ってもらえるようにする方法はないだろうか。ゴルガリは生け贄に捧げることが多いので、クリーチャー・トークンが増えるのは意味がある。しかし、もしカウンターもコピーするようにしたら、もっと有意義になることだろう。たしか最初はゴルガリにとって最も重要な+1/+1カウンターだけを参照していたが、しかしすぐにすべてのカウンターを倍にするほうがクールだということに気がついた。

 私はこのデザインに本当に興奮したのだ。そして、このカードに《倍増の季節》という名前をつけた。このエンチャントは私がリードを務めたどのセットとも組み合わせられる、なんて冗談も言っていた。私は、デザイナーがあらゆるプレイヤー向けにデザインするやり方についていろいろと話してきた。マジックのセットをデザインする上で最高のことの1つが、自分が本当に欲しいカードを時々作ることができることである。そして、《倍増の季節》はローズウォーター・カードだったのだ。

 デザインがデベロップに提出したとき、私はこのセットのリード・デベロッパーだったブライアン・シュナイダー/Brian Schneiderのところに行って説明した。《倍増の季節》は私のお気に入りのデザインなので、どうかセットに残して欲しいと伝えたのだ。デベロップ中に多くのカードが変化するものなので、私は印刷に進めて欲しいカード1枚を擁護することがよくある。デベロップ・チームの中には私ほどのこのカードのファンはいなかったが、このカードがシナジー的であり、私が非常に望んでいるということは伝わっていたので、《倍増の季節》はデベロップの期間を生き抜いたのだ。クリエイティブ・チームも、その名前をそのまま残してくれた。

 やがて『ラヴニカ』が世に出ると、《倍増の季節》はすぐに人気になった。単に強力だっただけでなく、私のカウンターやトークンや倍化に対する愛が、多くのプレイヤーに伝わったのだ。私は『ゼンディカー』で《倍増の季節》を再録しようとしたが、このカードが初めて作られた当時は存在していなかったプレインズウォーカーと組み合わせるとデベロップ的に問題だということがわかった。つまり、今後の再録はスタンダード外のセットになるということである。……そう、『バトルボンド』のように。

二つ折り

 これが、『バトルボンド』のある1枚のカードの来歴である。1枚のカードのデザインの掘り下げを楽しんでもらえたなら、そして私がマジック・プレイヤーとして、またデザイナーとして、もっとも影響を受けたものについていくらか理解してもらえたなら幸いである。いつもの通り、今日の記事について、《倍増の季節》について、あるいは1枚のデザインに記事全部を費やすことについて、諸君からの反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、『ドミナリア』に関する諸君からの質問の続きに答える日にお会いしよう。

 その日まで、マジックで倍にする楽しみがあなたとともにありますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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