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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

こぼれ話:『ドミナリア』 その2

Mark Rosewater
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2018年5月28日

 

 数週前、『ドミナリア』に関する諸君からの質問に答え始めた。しかし、質問が非常に多かったため、1回の記事では収まりきらなかった。そのため、さらなる質問に答えるために再び記事を立てるとしよう。


Q: 現時点で将来を考えたとき、『ドミナリア』はラバイア値でどれいぐらいに位置づけられますか?

 

 私のTumblrブログ(Blogatog)を読んでいない諸君のために説明すると、ラバイア値とは、ストーム値がスタンダードで使えるセットでメカニズムが再録される可能性についての私の見解を示すのと同じように、スタンダードで使えるセットで特定の次元を再訪する可能性があると私が考えているかを示す尺度である。(ラバイアとは、『アラビアンナイト』の舞台である。そして、他の架空世界の単純なコピーでありテーマを我々なりに描いたものではないので、おそらく再訪することはないと思われる。)(参考:英語記事)1はまず間違いなく再訪するだろうという意味で、10はまず再訪しないだろうとは思うがありえないわけではない、という意味だということを思い出してくれたまえ。

 『ドミナリア』の発売前に聞かれていれば、私は、ドミナリアに現代的感覚を与えるという試みが大失敗に終わり大炎上して二度と挑戦しないことにする、という可能性はほんの僅かだと考えていたので、ドミナリア次元は2cだと言っていただろう。(2を与えるというのは、仮に今回大失敗したとしても二度と再訪しないということはないだろうと考えていたということである。)今は、このセットは大成功を収めているので、間違いなく1である。いつか再訪することになるだろうし、おそらくは何度も何度も再訪することになるだろう。


Q: なぜバイバックがないんですか? 大好きなメカニズムなんですが。

 

 知らない諸君のために説明すると、バイバックとはリチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldが作ったメカニズムで、1997年『テンペスト』で初登場したものだ。インスタントとソーサリーが持つことができて、追加のコストを支払うことでそのカードを墓地に送るのではなく自分の手札に戻すことができるというものである。

 我々は『ニクスへの旅』でバイバックを再録することを実験したが、ユーザーを満足させるような強さにデベロップすることはできないということがわかった。そこで、再録する『ドミナリア』のメカニズムを探したとき、バイバックをリストから削ったのだ。


Q: ドミナリアへの再訪と、デザインへのリチャード・ガーフィールドの招聘のどちらが先に決まったんですか?

 

 マジックの25周年としてドミナリアを再訪するという計画ができたのは、リチャードをデザイン・チームに招くより何年も前だった。すぐに招聘が決まってもおかしくはなかったが、リチャードがデザイン・チームに参加することに興味を持っているということに私が気がついていなかったのだ。彼が興味があるということに私が気がついた翌日、私は彼に電話をした。そのときに、それ以上にふさわしいものはないと考えて提案したセットが『ドミナリア』だった。


Q: 伝説のソーサリーは緑以外はプレインズウォーカーを表していますが、なぜですか? フレイアリーズを使ったほうがフレイバー的だったと思うのですが。

 

 伝説のソーサリーのサイクルの元になった発想は、それぞれが有名な呪文が唱えられるところを表すというものだった。それぞれの呪文を唱えているのが、ユーザーが知っているような人物であることも重要だった。そして、それぞれの呪文を別々のストーリーから採用するようにするとクールだろうと考えたのだ。

 この条件から、展望デザインとセット・デザインのチームでのクリエイティブ担当だったケリー・ディグス/Kelly Diggesが、各色の最も象徴的な呪文だと考えたものを揃えたのだ。彼はプレインズウォーカーかどうかという観点ではなく、有名な人物であることだけを考えていた。カマールは『オデッセイ』『オンスロート』の物語の主人公であり、他の条件すべてを満たしていたので、まさにふさわしいと考えられたのだ。

 このサイクルの中でカマールだけがプレインズウォーカーでない、という話だったが、それは正確ではない。まず、ヨーグモスは次元を渡ることができる科学技術を持っているが、プレインズウォーカーであったことはない。次に、ウルザもカーンも、この伝説の呪文を唱えた時点ではプレインズウォーカーではなかった。ウルザの灯がともるのは、この呪文の結果として起こしてしまった破壊を見たことによるものである。ヤヤはプレインズウォーカーで、その灯がともった瞬間を表したのがこの呪文である。つまり、この質問は正しくは、「このサイクルのキャラクターでヤヤだけがプレインズウォーカーなのはなぜですか?」であるべきだったのだ。


Q: 近年、《密航者、スライムフット》のようなカードでクリーチャーが死亡したときに起こるのはダメージでなくライフを失うことでした。ダメージになっているのは「プレインズウォーカーの移し替えルール」の更新によるものですか、フレイバーによるものですか、それとも他の理由ですか?

 

 開発部が常に検討し続けなければならないことの1つが、可能な限りルールを単純にすること(マジックのゲームは全体として非常に複雑である)と、それぞれの色が異なった特徴を持つようにすること、の二者択一である。

 黒と赤を分ける助けとして、我々は常に黒にはライフを失わせる効果を持たせ、赤は直接ダメージを与える効果を持たせてきた。(これには例外もあり、例えば黒の生命吸収系効果ではダメージを用いている。)『ドミナリア』で、我々は黒でライフを失わせるのではなくダメージを与える効果を用いて、2つの少しだけ異なる効果をまったく同じ処理にするという実験をしている。ライフを失うことを直接ダメージにすることやその逆は簡単にできるので、試しているのだ。この実験が成功するかどうかにについての審判はまだ下されていない。


Q: なぜヤヤを再登場させたのにチャンドラのプレインズウォーカー・デッキを同じセットで作ったんですか?

 

 プレインズウォーカーデッキの第1のユーザーは新規プレイヤーである。これは、他のプレイヤーはプレインズウォーカーデッキを楽しめないということではないが、何か決定する場合には我々はまず第1のユーザーの需要を優先する傾向にあるということである。(ほとんどの商品には第2のユーザー、第3のユーザーが存在する。)

 プレインズウォーカーデッキは、マジックへの導入を意図している。従って、我々はメカニズムとともにフレイバーも意識している。プレインズウォーカーデッキでは、可能ならば主な登場人物を紹介できるようにするという決まりがある。そのため、セットにヤヤをプレインズウォーカーとして登場させることでもっとのめり込んでいるプレイヤーにアピールするとともに、プレインズウォーカーデッキにチャンドラを登場させることで新規プレイヤーに赤の主なプレインズウォーカーに触れる機会を与えることにしたのだ。


Q: 伝説のクリーチャーをすべてのパックに入れることで、「テーマがコモンに存在しなければ、それはテーマではない」という決まりを回避することができていますか?

 

 私の「テーマがコモンに存在しなければ、それはテーマではない」は決まりではなく、そのセットのやっていることをユーザーが理解できるようにするための格言である。実際、それは「テーマが充分な開封比で存在しなければ、それはテーマではない」と言うべきだが、それはキャッチーではないし、開発部語がわからなければ理解できないものになってしまう。私が初めてそれを口にしたとき、レアリティ以外にテーマが確実にプレイヤーの目に触れるようにするために使える道具はあまりなかったのだ。

 テーマを各ブースターパックに並べ入れることができる新しい技術のおかげで、デザイナーがテーマを簡単に目に触れ、気づかれるようなものにする選択肢が大きく増えたのである。


Q: マジックのこれまでに存在した物語の中で、英雄譚にしたかったけれどもできなかったものは何がありますか?

 

 おそらくは、《トレイリアのアカデミー》で起こった時間事故だろう。ロバート・キング/Robert Kingの書いた「Time Streams」は、私のお気に入りのマジック小説の1つである。英雄譚にすることを議論した中で一番馬鹿げた物語は、リチャード・ガーフィールドが『アルファ版』のルールブック(参考:英語記事)の中で書いたウォーゼル/Worzelとトミル/Thomilの対戦である。


Q: どうしてもカード化したかったのに枠がなかった伝説のクリーチャーはいますか?

 

 『ドミナリア』に関して最初にやったことの1つが、いくつものリストを作ることだった。

 1つ目が、ドミナリアの過去の人物で今でも生きていてドミナリアにいるものたち、カーン、ヤヤ、テフェリー、ジョイラなど。2つ目が、ドミナリアの過去の人物ですでに死んでいるが、血筋、役目を継いでいる、特別な品物で繋がっているなど、関連のある新しいキャラクターが作れるものたち。3つ目が、新しい人物だ、特定の地域出身、既知の部族や組織に関連している、特定の独特な種族であるなど、がドミナリアのある一面を表しているもの。

 1つ目のリストは最も短いが、それでも流れた時間のことを考えれば驚くほど長いものだったのだ。2つ目と3つ目は、とにかく長かった。伝説のクリーチャーの枠は44枚分、プレインズウォーカーの枠は3枚分しかなかったので、多くはボツになった。しかし、それは逆に言えば次にドミナリアを再訪したときに使うべき可能性が多く広がっているということなのだ。

 特にこの質問に関して答えるなら、私が特に再録したいと考えていた人物(カーン、スクイー、ムルタニ)はすべてセットに採用されている。ウェザーライトの乗組員に関して質問されることもあるが、ターンガースやアーテイのようにいたら面白いと思う存在もいる。


Q: 他のセットで再訪された多くの場所のようにドミナリアを温存しなかったのはなぜですか?

 

 あまりにも多くのことの舞台になったドミナリアを単一の設定にまとめて『ドミナリア』というセットにするのがどれほど難しかったかという話を何度もしてきている。提案の1つが、ドミナリアの中の特定の場所だけを再訪するようにするというものだった。「ジャムーラ」という名前になるかもしれないそのセットは、『ミラージュ』で初登場した大陸1つだけを舞台にすることになるだろう。

 我々がそうしなかった理由は、ドミナリアの一面だけに注目するのではなく、ドミナリアの歴史全体を表したかったからである。『ドミナリア』は、ドミナリアを舞台としたセットどれで遊んだことがあるユーザーも楽しめるものなのに、「ジャムーラ」は『ミラージュ』のファンだけを対象にするものになってしまう。また、ドミナリアをそのように扱うとすると、その裏では6つほどの次元が特別なものとして描くことができなくなってしまうことになるのだ。


Q: 『ドミナリア』をデザインした中で、お気に入りの部分はどこですか?

 

 懐かしさのセットが楽しいのは、私の中にいるマジックファンの少年に触れることができるからである。例えば、英雄譚でできることについて語ることで、遠い昔からのお気に入りの物語すべてを共有することができた。同じことが人物やクリーチャー、アーティファクト、土地についても言える。あらゆる決定は、おもちゃ箱の中からお気に入りのものを取り出すようなものだった。私はドミナリアを舞台にした物語に深く関わってきたので(正確には、ドミナリアで始まった物語に関わってきた、というべきか)、自分が作り上げた多くのものを再訪することになる私にとっては特にそうだったのだ。


Q: ソルカナーはいったいどこ?

 

 ここでは「○○(お気に入りの人物)はいったいどこ?」という質問にお答えしよう。

 確か、合計で33個のマジックのセットがドミナリア(あるいは後にドミナリアと一体化したラース)を舞台にしている。マジックにおけるおよそ10年分にあたる。登場人物も多い。我々は、可能な限り多くに言及しようとした。我々はさまざまな物語すべてに接するようにしよたのだ。しかし、我々がどうしようと、大型セット1つで収まる量には限界があり、すべては収まらなかったのだ。我々がドミナリアを「歴史の世界」にすることにした理由の1つがそれである。多くの物語が存在し、『ドミナリア』はその中のごく一部にしか触れていないのだ。

 我々は何度も再訪し、そして前回の訪問で触れていなかった一面に触れることができる。その中で、いずれソルカナーに言及することは間違いない。なぜなら、史上最も有名な沼の王のリストを作ったなら、必ずそこにソルカナーの名があるからである。


Q: 『ドミナリア』で《対抗呪文》を再録することは議論の俎上に登りましたか?

 

 それについて話し合ったことはある。『ドミナリア』にはオクタン価の高い再録を入れたいと考えており、再録することが可能でありうる目立つカードすべてについて議論したのだ。最終的に、我々はスタンダードに《対抗呪文》を戻すべきではないと判断し、ボツにしたのだが、しかし賛否を測る誠実な議論が行われたのは事実である。


Q: 薄い騎士テーマが小型セットから来たと言っていました。他にも、もともとはその小型セットのために作られたものでこのセットに入っているものはありますか?

 

 大きいものが1つある。イーサン・フライシャー/Ethan Fleischerは、『Salad』のクールなものとしてブースターに1枚伝説のクリーチャーが入っているという概念を考えた。そして、『Salad』が『基本セット2019』になったとき、彼はその発想を『ドミナリア』のセットデザインのリードであったデイブ・ハンフリー/Dave Humpherysに提供したのである。(エリック・ラウアー/Erik Lauerがセットデザインを始め、途中でデイブ・ハンフリーに引き継いだのだ。)


Q: アンコモン枠の伝説のクリーチャーが増えると思っていいんですか、それともこれは『ドミナリア』だけの変更なんですか? ブロールのためにもっと伝説のクリーチャーを増やす必要がある気がします。

 

 『ドミナリア』におけるアンコモンの伝説のクリーチャーは、このセット固有の調整として作られたものである。上述の通り、開封比(無作為のブースターから特定のものが出てくる割合)がある程度なければテーマは成立せず、伝説のクリーチャーは「歴史的」というテーマの大きい部分を占めているのだ。

 とはいえ、このアンコモンの伝説のクリーチャーが好評を収めれば、もちろん開発部内での議論を呼ぶことになる。その議論はまだ進行中なので結論はわからないが(そして、我々はずっと先のことを手がけているので変更がすぐに目に見えることはないが)、『ドミナリア』への反響をもとに、アンコモンにおける伝説のクリーチャーの扱いを変更する可能性はありうる。


Q: 『ドミナリア』が25周年の年に発売されたのは偶然ですか、それともこの年に再訪が起こるように計画したんですか?

 

 何が起こったか、ひとつ演じてみよう。いつもの通り、少しばかりドラマチックになるようにしている。

アーロン:今日はこれから数年の計画を立てるために集まってもらった。ありうる世界のリストがあって、それぞれにはメカニズム的なテーマの素案がつけてある。たたき台として、クリエイティブ・チームと相談してストーリーをもっとも上手く伝えられる順番に世界を並べてあるが、このリストをあらゆる角度から検討して、必要であれば入れ替えてもいい。

ジェイニー(ジェイニーという人物はいないが、誰が言ったかを忘れたので実在の人物のせいにしないために仮名を充てている):ちょっと待って! 「ドミナリアへの再訪」を1年早めれば、マジックの25周年の記念の年になるわ。

アーロン:「ドミナリアへの再訪」を2018年春にするとして、その周囲の計画はどうすべきだろうか?

 

Q: 好評だったら、英雄譚が落葉樹メカニズムになる可能性はありますか?

 

 常時使うメカニズムは、常盤木メカニズムと呼ばれる。落葉樹メカニズムとは、常時使うわけではないが必要に応じてデザイナーが使うことができるメカニズムのことである。混成マナ、両面カード、プロテクションなどが落葉樹である。

 落葉樹になる可能性を理解するために、メカニズム、フレイバー、外見的デザインの各観点から見てみよう。

 メカニズム ― 英雄譚はエンチャントのサブタイプであり、我々はどのセットでもエンチャントを使っている。また、ゲームプレイの自由度は非常に高く、ほとんどのセットで成立するだろう。つまり、可能である。

 フレイバー ― 英雄譚はストーリーを表現している。どの世界にもストーリーは存在し、その世界の過去を埋めるためのクールな方法だろう。しかし、『ドミナリア』と違い、ユーザーがすでに知っているストーリーがある世界はほとんどない。つまり、クリエイティブ・チームの作業は多少増えることになるが、やはり可能である。

 外見的デザイン ― 英雄譚は非常に独特の外見をしており、この外見を機能的な理由やユーザーの期待という理由で調整することなく採用することはできないと思う。各セットにはそれぞれの外見的デザインの必要性があり、すべての世界がそれぞれに必要なものに加えて英雄譚を求めているとは言い切れない。つまり、英雄譚を落葉樹にするにあたって最大の問題になるのはこの部分である。落葉樹にすることができないということではないが、落葉樹になるとしてもどのセットにも自動的に英雄譚が入るということではないのだ。

 一言で答えるなら、「もしかしたら」というところだろう。


Q: 『神河物語』の売れ行きの悪さを踏まえて、なぜ「伝説関連」のブロックをもう1度作ろうと思ったのですか? 新しい統率者戦フォーマット、ブロールの影響はどれぐらいありましたか?

 

 統率者戦の人気によって「伝説関連」テーマの価値がかなり変わり、もう1度挑戦する価値があると感じるようになった。

 『ドミナリア』は『神河物語』ブロックの教訓を踏まえており、いくつかの変更を加えている。その中でも大きな2つが、より広い「歴史的」テーマを使ったことと、全体の開封比を高めるための新しい包括技術を使ったことである。

 ブロールというフォーマットは『ドミナリア』のセットデザインがほぼ終了するころまで社内で検討されていなかったので、『ドミナリア』に影響を与えたと言うよりも、『ドミナリア』が影響を与えたと言うべきだろう。

まとめ

 本日はここまで。質問を送ってくれた諸君に感謝したい。いつもの通り、今日の記事や回答、そして『ドミナリア』そのものについての反響を楽しみにしている。メール、各ソーシャルメディア(TwitterTumblrGoogle+Instagram)で(英語で)聞かせてくれたまえ。

 それではまた次回、ゲームとは一体何なのかについて語る日にお会いしよう。

 その日まで、あなた自身の英雄譚が『ドミナリア』で紡がれますように。

(Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru)

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