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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

あの世界への回帰 その2

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Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2012年9月10日

 

 ラヴニカへの回帰・プレビュー第2週にようこそ。先週はラヴニカへの回帰のデザインに入る前にあったことについて語ったが、今週こそはデザイン中に行なったことについて語ることになる。今日は5つのギルドのキーワードと、それがどうできていったかについて見ていくつもりだ。そして、楽しいプレビュー・カードも準備しているので、さっそく話を始めよう。

 
アート:Chippy

「計画がまとまったとき、好きになる」

 ラヴニカへの回帰はデザインの面でかなり特殊だった。通常、大型セットのデザインの最初に定めることはそのブロックがどんなものであるかである。たとえばゼンディカーの最初の数ヶ月を、土地メカニズムを試すのに費やした。冒険世界という発想は、デザインが充分うまく行くまで出てこなかったのだ。一方、ラヴニカへの回帰では、世界は初日からわかっていた。

 ミラディンの傷跡はどうだったか? あれも過去に使った世界への再訪ではなかったか? そう、あれもそうだったが、ミラディンの傷跡・ブロックのデザインは戦争をメインテーマにしていた。背景はなじみのあるもので、その懐かしさをデザインの中で活かしたのは事実だが、ミラディンの傷跡はミラディンとはまったく違う。そう、見ている部分もあるし、ミラディン人の使うメカニズムは以前のミラディンのものと似ているようにしたが、ブロックそのものはファイレクシア人の存在が中心で、それはミラディン世界に加えられた完全に新しい要素である。

 一方のラヴニカへの回帰は、あらゆる面において回帰そのものだ。ラヴニカのあり方を変更していない。このブロックは、ラヴニカに起こった大変化を描いているものではない。かつての話のそのままの続きなのだ。我々はあの世界に回帰し、そして当時のあの世界が時を経てどう進化したのかを見たいのだ。

 つまり、あらゆる要素を有効にするための鍵は、以前のラヴニカで使った同じもの、すなわちギルドをかすがいにするということだった。前回、ラヴニカのギルドパクトという契約においてディセンション――不和が起こったという話だった。当時から今までに何が起こったかについてはストーリー担当に譲るとして、ここではギルドがデザインの推進力になったと言うことを理解してもらいたい。

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 つまり、デザインの最初の部分は各ギルドがなるべき新しいものを決めることだった。最初に、各ギルドは新しいキーワードを持つことに決めた。新キーワードと旧キーワードを混ぜることについても話し合ったが、問題はあまりに多くのものを狭すぎるスペースに詰め込むこと、そして新世界秩序の問題から、各ギルドはキーワードを1つずつしか持てないと判断された。そして、一部のギルドが新キーワード、一部のギルドが旧キーワードを使うというのは不公平であろう。

 また、今年のデザイン演説で話したとおり、最大の挑戦の1つが、郷愁と斬新さを組み合わせる方法を見付ける、ということである。新キーワードを使うことで、ギルドの雰囲気を維持したままで新しいことをさせることができる。次に、ギルドに関係しないキーワードを戻すことについて話した(たとえば蘇生は非常にゴルガリっぽい)が、私は各ギルドには完全に新しい何かが必要だと確信していた。未来予知のミライシフト部分のメカニズム(探査とか)を検討したが、どれもギルドにふさわしいものはなかったので「未来からプレビューされたカードはあるか」という質問に答える必要はまったくなかったのだった。

 次にやることは、各ギルドのキーワードを決めることだった。決定していった順番に並べてみよう(確かこういう順番だったと思う。記憶というものは完全ではない)。

イゼット
 
アート:Chris Rahn

 青は知性を愛する。赤は感情を愛する。青は考えることを望む。赤は感じることを望む。この2つが組み合わさったとき、何が起こるか? 非常に情熱的な思索者が現れるのだ。イゼットは知性と感情を対立するものだとは捉えていない。彼らはその2つを組み合わせることでより秀でた――創造性! を得ることが出来ると感じている。イゼットは創造者である。彼らは未だ知られていない発想を探求するために存在する。あらゆる道の発想を探しているのだ。

 メカニズム的には、青と赤は呪文に関与することに秀でた2色である(クリーチャーに比べて呪文の比率が最も高い)。どうせ問われるだろうから、ここでクリーチャーの比率が多い順に並べてみよう。

(軍勢の色だけに一番比率が高い)

(「クリーチャーの色」は伊達じゃない。ただし今は大きさこそ緑だが数は白に譲っている)

 ギルドパクトでは、この創造性への愛情を表すため、イゼットに呪文を唱えまくらせた(インスタントやソーサリーの数が最大だった)。このフレイバーを表すため、イゼットが手に入れたメカニズムは複製だった。

 ラヴニカへの回帰でも、ラヴニカは呪文中心のギルドであるということは判っていた。つまり、呪文に関するメカニズム、インスタントやソーサリーに関わるメカニズムを見付けなければならない。幸いにも、ケンは秘密のポケットにその答えを持ち合わせていた。5年前、第1回グレート・デザイナー・サーチの決勝で、彼が提出したものだった(先週の特集記事でケン自身がイゼットとゴルガリのメカニズムのデザインについて多くのことを語っているので、ここではそのもっとも強調すべき所だけを触れることにしよう。詳細を知りたければ、当該記事を読んでくれたまえ)。

ケニス・ネーグル/Kenneth Nagle

ウェブ課題#1:
コモン・サイクル ― ソーサリー
分散

分散的静寂》(コモン)

{W}

ソーサリー

エンチャント1つを対象とし、それを破壊する。

分散{4}{W}(あなたがこのカードをプレイしたとき、もしこの分散コストも支払っていたなら、すべてのエンチャントを対象とする。)

分散的カビ》(コモン)

{G}

ソーサリー

アーティファクト1つを対象とし、それを破壊する。

分散{4}{G}(あなたがこのカードをプレイしたとき、もしこの分散コストも支払っていたなら、すべてのアーティファクトを対象とする。)

分散的突風》(コモン)

{R}

ソーサリー

クリーチャー1体またはプレイヤー1人を対象とする。分散的突風はそれに2点のダメージを与える。

分散{4}{R}(あなたがこのカードをプレイしたとき、もしこの分散コストも支払っていたなら、すべてのクリーチャーとプレイヤーを対象とする。)

分散的抜け道》(コモン)

{U}

ソーサリー

クリーチャー1体を対象とする。それはこのターンブロックされない。

分散{5}{U}(あなたがこのカードをプレイしたとき、もしこの分散コストも支払っていたなら、すべてのクリーチャーを対象とする。)

分散的蘇生》(コモン)

{B}

ソーサリー

あなたの墓地にあるクリーチャー・カード1枚を対象とし、それをあなたの手札に戻す。

分散{6}{B}(あなたがこのカードをプレイしたとき、もしこの分散コストも支払っていたなら、あなたの墓地にあるすべてのクリーチャー・カードを対象とする。)

 分散(あるいは放射、噴射)メカニズムは呪文1つを対象とし、それを狙いを付けたミサイルから面制圧の爆弾に変化させることができます。ソーサリーにはコンバット・トリックは不向きなので、リミテッドでキーになるカードに分散を持たせました。単純であれ、より単純であれ、そして......もっとも単純であれ。より高いレアリティではより鮮やかなもの(《巨大化》、《送還》、そして――《石の雨》)を使うことができます。

 

 この全容はグレート・デザイナー・サーチの記事(リンク先は英語)で確認してくれたまえ。

 ケンはこのメカニズムを分散と呼んでいた。このメカニズムはトーメントのカード《放射》を元にしている。

 首席審判員として、このメカニズムにつけた私のコメントはこうだった。

 あなたのコモン・サイクルは分散メカニズムを使っている。このメカニズムは採用できるレベルで優れたものだ。序盤には軽めに小さな効果を、後半にはより大きなコストで大きな効果を生み出すことができるという点で柔軟性に富んでいる。

 

 たしか最初のミーティングのときに(記憶が確かなら。もう一番最初に出てきたので間違いは無いと思う)ケンは分散をイゼットのメカニズムとして使えないかと提案してきた。私はグレート・デザイナー・サーチのころから覚えていたし、気に入ったことも覚えていた。ケンは非常に興奮していたので、我々はこのメカニズムを使って何枚かのカードを作った。このメカニズムはそのまま採用され、一度もその席を退くことはなかったのだ。

 ケンが自分の記事で語っているように、超過(このメカニズムの実際の名前)に関しての大問題はどのような効果をこれに載せるかということだった。一般論として、超過効果は有利なものにしたかったので、効果が出来ることを制限することになった。強化する効果は自分のものだけ、弱体化させる効果は相手のものだけを対象にできるようにしたのだ。これによって、超過を使ったときのほうが自分にとって不利になるようなことはなくなった。

 イゼットは呪文を中心としているので、前回のように、デッキにインスタントやソーサリーを入れたくなるような他のカードを入れるようにした。我々の目標は、旧ラヴニカとラヴニカへの回帰の両方からギルド・シンボルのすかしが入っているカードを全部取り上げたとき、それらのカードが巧く組み合わさって回るようにすることだった。それらのインスタントやソーサリーを強化するカードのおかげで、イゼットは一体化することができるのだ。

セレズニア
 
アート:Christopher Moeller

 白は集団を好む。緑は集団を好む。これら2つを組み合わせれば、集団を何よりも重視するギルドのできあがりだ。セレズニアは、最強の力は人々の間の絆から生じるものだと理解している。集団は個の合計よりも強いのだ。連帯から力が生まれるのだ。

 これを踏まえて、セレズニアのメカニズムはクリーチャー中心のものとなった。セレズニアは味方を増やすことで成長するので、メカニズムはクリーチャーをたくさん持つことによる利益を生じさせるものか、あるいはより多くのクリーチャーを得させるものが必要になる。旧ラヴニカ・ブロックのセレズニアのメカニズム召集は両方を助けるものだった。クリーチャーを使ってより以上のクリーチャーを、あるいは一部の呪文を、より軽くするものだった。

 私は、より多くのクリーチャーを作り出す助けとなるメカニズムを見付けることに非常に興味があった。ミラディンの傷跡はほんの数ヶ月前に出来たところで、増殖が大成功を収めたのは明白だった。セレズニアのメカニズムについての初期のミーティングで、以下の会話があった(いつも通り多少脚色している)。

:トークンにだけ効く増殖というのはどうだろう?

ケン:どういう意味です?

:仮に繁殖と呼ぶこれを使ったら、戦場に出しているトークン各タイプのコピーを1つずつ得るんだ。

ケン:細かく説明していただけますか。

:ああ。ここに2体の1/1リス・トークンがいるとする。

ケン:リス・トークンを入れる予定はありませんよ。

:この例示は別の次元でやってるんだ。別次元、オデッセイ次元の話だ。

ケン:わかりました。

:2体の1/1リス・トークンと、3体の2/2熊・トークンと、1体の3/3象・トークンがいる。

ケン:熊と象ですか?

:オデッセイだからな。4/4ならビースト、6/6ならワームだ。

ケン:続けて下さい。

:繁殖すると、1/1のリス1体、2/2の熊1体、3/3の象1体を得るんだ。

ケン:判りました、試してみましょう。

 

 やってみた。プレイテストで、繁殖(仮称)には3つの問題があるとわかった。

  1. 強すぎる。
  2. ほんとに強すぎる。
  3. 奇妙なデッキ構築を推し進めることになる。可能な限りあらゆるタイプのトークンを入れたくなる。
 

 2回目のプレイテストのために、ちょっとした修正を加えることにした。各トークン・タイプごとに1つではなく、トークンを1つだけ選んでそのコピーを得るようにしたのだ。これによって両方の問題は解決できた。巧く動いて、繁殖(後に居住に改名された)はそれ以降そのまま保たれることになった。

 居住にはデザイン上1つの大問題があった。しかしそれについて触れる前に、ネット上で見た居住に関する問題を指摘しておこう。コピーは青の能力だ。なぜそれをセレズニアができるのか? セレズニアには青は含まれていないのに。この質問への答えは、マジックの表記においては、時折、誤解を招くような表記を用いる必要があることがある、ということだ。居住はルール上はコピーだが、これには非常に多くの制約が課せられている。コピーできるのはトークンだけである。これはただトークンがマジックのクリーチャーの中で多くを占めないというだけのことに基づいているのではなく、トークンのできることはそもそも限られているということに基づいている。

 まず最初に、トークンのほとんどはバニラ・クリーチャー(テキストを持たず、パワーとタフネスだけを持つクリーチャーのこと)である。それ以外のトークンも、マジック史上ごく一部の例外を除いて、フレンチ・バニラ(クリーチャー用のキーワードだけを持つクリーチャー)であり、そのほとんどはキーワード1つだけを持つ。しかもそのほとんどの持つキーワードは飛行である。つまり、緑や白は、ルール上はクリーチャーをコピーできるが、実際にやっていることはトークンを生成しているだけであり、これはまさに緑や白のやるべきことである。

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 さて、それではデザイン上の問題の話に戻ろう。こうして居住ができあがった。問題というのは? 居住は、「リースのピーナツバターカップ・メカニズム」とでも言うべきものである(米国外の諸君のために触れておくと、リースのピーナツバターカップはミルクチョコレートとピーナツバターを合わせたアメリカのキャンディである)。これを仕上げるためには、チョコレートとピーナツバターの両方が欲しくなる。居住の場合、居住を持つカードとトークンを出すカードの両方が必要になるのだ。

 トークン・カードは単体でも役に立つので、トークンを出すカードを作れば、居住のことを意識していないプレイヤーもそれを使うことができる。逆に居住はというと、トークンなしでは何の役にも立たない。この問題への解決策はこうなった。

  1. トークン生成カードを居住カードよりも多くする。また、トークン・カードのレアリティを下げることでその「開封数」(レアリティを考慮に入れ、それだけの頻度でそのカードがブースターから出てくるかを示す開発部語)を高めた。
  2. 一般に、トークン生成カードをいつもよりも多く作った。
  3. 可能な限り、両方の効果を同じカードに入れるようにした。これによって、そのカード単体で居住の効果が成立するようになる。この種の居住カードは単体で成立するので、低いレアリティに寄せた。
  4. 居住だけを持つカードを高いレアリティに寄せ、他のことが起こらない状態で居住呪文を使おうと思わないようにそのコストを高めた。

 居住はデザインにもデベロップにも困難をもたらした。使い物になるような環境を作らなければならなかったのだ。必要以上の数のギルドが協力しなければ使い物にならないのはごめんだったが、セレズニアだけで成立するようにしてしまうと誰もが居住を使いたくなってしまうのだ。

 次のギルドに入る前に、ここで今日のプレビュー・カードを紹介しよう。このカードはセレズニアのカードなのだ。実際の所、セレズニアのギルド・リーダーを諸君にご紹介することになる。セレズニアの声、トロスターニ》だ。

 居住が増殖の影響を受けているので、複数回使える居住カードを作れないかということを試してみた。問題は、クリーチャーを出すことはカウンターを増やすことよりも(ああ、まあ、ほとんどの場合)影響が大きいということだった。最終的に、この魅力的なカードにたどり着くことができた。セレズニアのギルド・リーダーだ。

 楽しんでくれたまえ。トロスターニには、楽しいデザインの可能性がたっぷり詰まっている。

ゴルガリ
 
滑り頭》 アート:Greg Staples

 黒は死の価値を評価している。緑は生命の価値を評価している。ゴルガリはその両方を評価している。結局の所、それは大きな1つの輪にすぎないのだ。ゴルガリは、究極のリサイクル者だと言える。死は終わりではなく、それを使う新しい方法の始まりに過ぎないのだ。

 同様に、ゴルガリは墓地をリソースとして扱う。かつては、発掘メカニズムが存在していた。

 マジック史を知らない諸君のために言っておくと、発掘は旧ラヴニカ・ブロックにおいて最も強すぎるメカニズムの地位に君臨した。あまりにも強かったので、プレイできる全てのフォーマットに現れ、それまでのマジックのデッキとはまったく異なる姿を見せていた。ラヴニカへの回帰でのトリックは、墓地を使うものの墓地を悪用しないメカニズムの作成だった。

 ケンはこのメカニズムのデザインについて深く語った。このメカニズムが3番目になったのは、(プレイヤーが自分の死んだクリーチャーを何らかの価値として再利用するという)その大枠が初期に出てこなかったからではなく、実際にこのメカニズムを働くようにするために何が必要なのかを見極めるのにしばらく時間がかかったからである。

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 手早く言うと、事態はこんなように進行した。このメカニズムの最初のバージョンであった消化可能は、クリーチャーを追放できるようになっていた。そうしたなら、他のクリーチャーにその追放したクリーチャーのパワーとタフネスにそれぞれ等しいだけの強化と、そのクリーチャーが持っていた能力をそれぞれターン終了時まで与えるというものだった。最初のバージョンが弱かったのは、また別の発掘を作ってしまうのではないかという恐れのためだと思う。

 プレイテストの結果、一時的効果は強くないことが判ったので、永続するバージョンを作ることにした。一時的なパワー/タフネスの強化を与えるのではなく、+1/+1カウンターを置くことにした。これによって、全ての活用カード(最終的な名前だ)は正方形の特性を持つようになった。開発部語で、正方形の特性を持つとはパワーとタフネスの値が等しいということだ。

 +1/+1カウンターを使った最初のバージョンは、そのクリーチャーの能力も永続的に与えていたが、同じ問題を持つことが明らかになった。

  1. +1/+1カウンターは覚えておくべきものを覚えておく助けになる。カウンターが3つなら、そのクリーチャーは+3/+3を得ている。他の情報、たとえばそのクリーチャーが接死を持っているとか飛行を持っているとかをそれらのカウンターに結びつけることは精神的負荷になる。
  2. ルールの問題に伴う複雑さの問題から、活用持ちのカードに他の能力を持たせるのが難しい。
  3. パワーレベルの上昇からカードのコストは悪くなり、これに活用能力そのものが持つ実際よりずっと弱く見えるという問題も重なる。

 議論を重ねて、我々は能力を活用キーワードの範疇外にした。私がこういうことを言う場合、「ああ、なんでそんなことをしたんですか? 問題ないでしょう!」というようなお手紙をもらうものだ。私の答えはいつも同じで、ゲーム・デザインの目標はあてはまるもの全てを入れることではなく、あてはまらなければならないものだけを入れることなのだ、というものだ。能力を含むバージョンの活用は文字数が多く、ルール問題も多く、混乱を招きやすく、把握しにくく、今並べたような欠点を埋めるほどのプレイ価値はない。単純な方のバージョンのほうがよいメカニズムなのだ。だから、そっちが選ばれたわけだ。

 上の3つのメカニズムは、デザイン・ファイルで手渡されたものだ。これからあとの2つはデヴァインの間に作られた(デヴァインとは、デザインとデベロップの間の期間のことである。大型セットでは2ヶ月準備されており、デザインがファイルをコントロールするが、デベロップはそのファイルをデベロップできるようにするためにコメントを付けることができる)。

ラクドス

 
アート:Kev Walker

 黒は自分が好きだ。赤はやりたいことをやるのが好きだ。どちらも、そのためにしなければならないことをするのには問題ない。これらを組み合わせると、非常に快楽主義の危険な集団ができあがる。楽しい時間の過ごし方だけは確実に知っている連中だ。

 ディセンション時代のラクドスのメカニズムは、暴勇。

 暴勇はラクドスの全力投球を示していたが、それがギルドの性質を表しているとは言えなかった。このギルドの快楽主義という面よりも、手加減無しという面を誇張してしまっていた。そこで今回は、「貴様の痛みが俺の喜び」という部分を強調したメカニズムを探すことにした。

 最初に作ったメカニズムは、痛み投げというものだった。その中身については(名前で想像してもらうのは自由だが)説明できない。なぜなら、ギルドのキーワードではなくなったが、このセット内で実際に使われているからだ。ラクドスのギルド・リーダーであるラクドス(そう、このギルドの名前はリーダーの悪魔から取られているのだ)を見たら、痛み投げが何だったのかわかることだろう。

 痛み投げが諦められたのは、......ギルド門侵犯のせいである。え? ケンとその仲間が最初の5つのギルドに一生懸命生命を吹き込んでいるのに並行して、私とその仲間は(そう、私は両方のチームに所属していた)2組目となる5つのギルドを作るのに忙しかった。一時期、ギルド門侵犯の5つのギルドのキーワード全てがクリーチャー主軸の物になっていて、そのほとんどがクリーチャーの戦闘に大きな影響を与えるものだった。

 クリーチャー中心のメカニズムを減らす必要があった(どうやって変更したかについては、ギルド門侵犯のプレビューでお聞かせすることになる)。同時に、アーロン・フォーサイス/Aaron Forsythe(開発部のマジック・ディレクター)はラヴニカへの回帰のギルドを見て、どれもクリーチャー戦闘に関わるキーワードを持っていないということを指摘してきた。イゼットは呪文メカニズム、セレズニアはクリーチャー生成。ゴルガリは墓地メカニズムで、どれも戦闘中には働かない。アーロンはラヴニカへの回帰のギルドのうち1つは戦闘用メカニズムを持つべきだと指示したのだった。

 ラクドスは明確に本命だった。単にラヴニカへの回帰のギルドの中で最も戦闘が好きそうだからというだけではなく、痛み投げは導入するには難のあるメカニズムだと言うことが判ってきていたからである。居住と同じように、痛み投げはその実用化のために大量のカードが必要になるが、居住のような隠れた優位性があるようには思えなかった。デザイン・チームの中に、数枚のカードだけに与えてキーワードでなくしたらどうかと尋ねてきた。新しい戦闘用メカニズムを作ることは、まさに一石二鳥だったのだ。

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 解鎖メカニズム(最終的な名前だ)は、アーロンがただやれと言うだけでは足りないと判断したことから生まれた。彼はラクドスのためにいくつかのクリーチャー戦闘用のメカニズムをデザインした。その中の1つを私は気に入った。非常にシンプルだったのだ。この能力を持ったクリーチャーは+1/+1カウンターを1個持った状態で戦場に出ることができる。そうした場合、そのクリーチャーは「このクリーチャーは毎ターン可能なら攻撃する」を得る。

 これに、少しの変更を提案した。クリーチャーは攻撃的か防御的かを選べるというのは気に入ったが、攻撃強制は悪感情をもたらす可能性がある。加えて、このクリーチャーを戦場に出したターンには(速攻がないと仮定したら)ブロックすることができてしまう。これも望ましくない。そこで、攻撃強制から「これではブロックできない」に変更することを提案した。この2つはどちらも防御できないというイメージをもたらすが、悪印象をもたらすことは減る。

 チームは私の推薦を受け入れ、解鎖は後に印刷されるものに仕上がったのだった。

アゾリウス
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 白は秩序を好む。青は知識を好む。これらを合わせると、官僚機構を最大の武器にする超保守的なギルドのできあがりである。法を支配し理解すれば、世界は望むままにできるだろう。

 ギルドのセットではいつも、ふさわしいメカニズムを見付けるのに苦労する、問題児なギルドが1つ存在する(何の因果か新旧同じギルドだ)。ラヴニカへの回帰では、問題児なのはアゾリウスだった。ディセンション当時、コントロール・デッキは非常に強かったので、ディセンションのデザイン・チームはアゾリウスのコントロール性を弱めるよう頼まれた。しかし上で述べたとおり、それこそがアゾリウスだ。結局、アゾリウスに飛行クリーチャーを割り当てたが、それはアゾリウスを誤解させるものだった。

 ディセンションでのメカニズムは、予見だった。

 強さと運用上の理由から、予見は評価されることもなく、アゾリウスが光を浴びることはなかった。

 ラヴニカへの回帰に至って、ケンはアゾリウスを正しくするという任務に取り組んだ。同じような制限はなかったので、アゾリウスのコントロール性を表に出すことができた。

 最初に狙ったメカニズム空間には2つの問題があった。1つめは、他のギルドのやっていることと組み合わせるとうまく行かないということ。2つめは、「Friends」ブロックでやろうとしていることに踏み込んでしまうということだった(これから1年後、来年の秋セットのプレビューでお話しすることになる)。

 様々なメカニズムを試したが、どれもピンと来なかった。あまりに印象に残らないものだったので、どんなメカニズムを試したかすら覚えていない。

 デザイン中にすべきことの1つに、セット内の何かが問題だと判ったらサブ・チームを作るというものがある。そのチームは大抵2人から4人で編成され、1週間か2週間その問題に集中するのだ。アゾリウスはそれに値する問題だったので、サブ・チームが結成された。

 サブ・チームのリーダーはマーク・グローバス/Mark Globusで、ケンとデベロッパーのデイブ・ハンフリー/Dave Humpherys、ビリー・モレノ/Billy Morenoが参加した。多くのミーティングを経て、サブ・チームは留置メカニズムにたどり着いた(おそらく作成者はマーク・グローバスだろうと思う)。当時の懸念事項は、留置は魅力的に見えないということだった。使ってみると巧く働き、非常にアゾリウスらしいものだが、不安はあった。

 私の返事は、ギルドのメカニズムというものは巧く働き、そのギルドの性質にふさわしく、そしてそのギルドを好きなプレイヤーにアピールできるものであることが仕事だというものだった。そう、留置は万人向けではないが、私はこれがアゾリウスのプレイヤーに気に入られると確信していた。デザイン・チームはそれに同意し、留置がセットに加えられることになったのだった。

眠らない都

 これで今日の話は終わりだ。このセットのデザインについてはまだまだ語るべきことがあるので、来週は「その3」をお送りすることになる。来週、ラヴニカへの回帰のデザインの別のいくつもの面についてお話しするときにお会いしよう。

 その日まで、あなたがあなたの個性にあったギルドを見付けられますように

ラヴニカへの回帰

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