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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

名前を結ぶ、結魂

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Making Magic

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名前を結ぶ、結魂

Mark Rosewater / Translated by YONEMURA "Pao" Kaoru

2012年5月14日


 ここ数週間、結魂のデザインについて話す話すと言い続けてきた。そして、その話すときというのはまさに今週だ。結魂は複雑なメカニズムだが、その完成に至る道のりもまた同様に複雑なものだった。今回のコラムでは、結魂のデザイン(そしてデベロップ)のために解決しなければならなかった数多の問題のうちいくつかについて見ていくことにしよう。

根本から新機軸ってわけじゃない

 アヴァシンの帰還のデザイン・リーダーを勤めたブライアン・ティンスマン/Brian Tinsmanは、難問に食らいつくのが大好きな男だ。失敗したと判断したことからすぐに手を引く者もいるが、ブライアンにとってはむしろ何とかしてそれを具現化させようというやる気を出させてくれる餌に過ぎない。ブライアンがドロー・トリガーから、奇跡をデザインするにあたってどのような英断をしたかということについてはしばらく前に語った。結魂も同じような道のりを辿ったのだ。

 見ての通り、新たなるファイレクシアでは永年の懸案であったデザイン上の問題、2体のクリーチャーが協力して戦うというフレイバーの再現を解決しようとした。アルファ版では、リチャード/Richardはバンド能力を作っていた。

 バンドと結魂はメカニズム的にはまったく異なる働きをするが、同じフレイバーをその根底に持っている。クリーチャー2体が協力して戦う、というアイデアは、何度も何度も浮かんできていたのだ。全てのデザイナーが可能なら形にしたいと感じるほどに、魅力的なフレイバーだったわけだ。新たなるファイレクシアでは、ケン・ネーグル/Ken Nagle率いるデザイン・チーム(デイブ・ガスキン/Dave Guskin、ジョー・ヒューバー/Joe Huber、マット・プレイス/Matt Place、それに私)はそれを作るために多大な時間を費やした。そして最終的に、いい解決策を見いだせなかったので方向性を転換することになり、最終的にはファイレクシア・マナにたどり着いたわけだ。

 ブライアンは新たなるファイレクシアのチームには入っていなかったが、取り組んだ問題には魅了されていた。誰が結魂というアイデアを最初に思いついたのかは覚えていないが、最初は「結合」と呼ばれていたそれにブライアンがすぐに飛びついたことは覚えている。結魂の背景にある考え方は非常に単純な者だ。このメカニズムを有するクリーチャーが戦場に出たとき、他の何かと組になっていない他のクリーチャーと組になることができる。最初の版では、結魂を持ったクリーチャーが戦場に出たときにだけ働くというものだった。その時その場で結合させなければならなかったのだ。


 《幽体の門護衛》 アート:Wayne England

 しかし、最初にこのカードを作った時の最大の問題は、組を作るタイミングの話ではなかった。デザインの初期においては、「組にする」ということが一体何を意味するのか、どうやって再現できるのかが焦点になったのだ。最初期のデザインははちゃめちゃなものだった。たとえば、組になった時にその相手に能力を与える結魂クリーチャーと、自分と相手の両方に能力を与える結魂クリーチャーの両方がいたのだ。

 混乱の一例として、こんなカードをお見せしよう。

〈結魂の天使〉
{2}{W}{W}
クリーチャー ― 天使
3/3
飛行
結魂
[このカード]と組になったクリーチャーは飛行を得る。


〈結魂の戦士〉
{2}{G}
クリーチャー ― 人間・戦士
2/2
トランプル
結魂
[このカード]は他のクリーチャーと組になったとき+2/+2の修整を受ける。


〈結魂の闘士〉
{2}{R}{R}
クリーチャー ― 人間・戦士
3/3
組である場合、[このカード]と、これと組になっているクリーチャーは+1/+1の修整を受けるとともに先制攻撃を得る。


 さて、この3種類のカードがそれぞれ組になったらどうなるか見てみよう。

 天使+戦士=3/3飛行 + 4/4飛行、トランプル

 戦士+闘士=5/5トランプル、先制攻撃 + 4/4先制攻撃

 天使+闘士=4/4飛行、先制攻撃 + 4/4飛行、先制攻撃

 私がこういった例を示すと、よく「なんだそんなの難しくないよ、簡単な計算じゃんか」という反応を受ける。しかし、そう答えてきた人たちが忘れているのは、普通、マジックのゲーム中には他にも多くのことを覚えておかなければならないということだ。何かの特性が現在どうなっているのかを計算するのに注意し続けるということは、予想以上に面倒なことだ。


石大工》 アート:Wesley Burt

 そして、特性の記憶に気を取られていると、その特性を忘れてしまいがちになる。つまり、何度も何度も計算しなければならなくなるわけだ。マジックには覚えておかなければならない変数が多いので、定数でない数字を覚えておくのは大変なことだ。

 さらに、新世界秩序の1つ(そして本当に良いデザインの条件)として、特に新世界秩序のターゲットであるコモンにおいて、何かをやるときは一貫したやり方でなければならない。あるメカニズムがカードごとに違う働きをするようだと、プレイヤーはそのカードが何をするのか、そのたびごとに確認しなければならなくなる。メカニズムの働きを統一すれば、プレイヤーはそのメカニズムを理解し、その法則を全てのカードに適用することができるようになる。つまり、3種類を試してはみたが、そのなかの1つに絞らなければならないということになる。

 閑話。1つだけを選ばなければならないのに、なぜ複数のデザインを試してみるのかだが、その理由は、一つには時間の節約というものがある。メカニズムAを試して、その後でメカニズムBを試して、さらにそれが終わってからメカニズムCを試して、とやっていては、1回のプレイテストで全てを試すのよりもずっと長い時間がかかってしまう。確かにそのそれぞれに集中するのは難しくなるが、どのメカニズムが有効かを手早く見つけることができるのだ。

大枠の話

 閑話休題。3種類の結魂メカニズムがある中で、何をしてきたのか、そしてそれぞれのメカニズムがどう働いたのかを見ていこう。

メカニズムA(天使)― 結魂クリーチャーはその組になったクリーチャーに能力を与える

 このメカニズムでは、他の結魂クリーチャーと組にならない限り結魂クリーチャー自身は強化されない。これなら記憶するのは比較的簡単だが、いろいろな面でそれが最大の弱点となった。このメカニズムでは、オーラのような働きをすることになる。ほとんどオーラだ。新しいメカニズムを作るのは、それまでにマジックになかったものを作り出すためなのだ。このメカニズムはエンチャント除去でなくクリーチャー除去によって強化を外せるところが違うが、全体としてほとんど同じだと言ってもいいだろう。

メカニズムB(戦士)― 結魂クリーチャーは組になった時に自分に能力を与える

 このメカニズムは記録は面倒だった上に、より大きな問題を抱えていた。結魂は、善き者が協力して悪しき者を打ち倒すことを再現するためのものなのに、自分自身だけが強化されるのではそのイメージに合わない。利他的でなく利己的に見えてしまうのだ。


 《霊の罠師》 アート:Anthony Palumbo
メカニズムC(闘士)― 結魂クリーチャーはそれ自身と、それと組になったクリーチャーの両方に能力を与える

 このメカニズムには長所が2つあった。フレイバーは問題ない。両方のクリーチャーはこの協力によって強化される。そしてこのバージョンは記憶するのも簡単で(スリヴァーのような感じで)、ゲームのプレイ感覚も独特のものがあった。

 全ての問題を勘案して、チームはメカニズムCが必要だと判断した。しかし、もちろん次の問題が待ち受けていた。

次なる問題

 我々は問題を解決したと思った。結魂は、それ自身と、それと組になったクリーチャーに能力を与えることになった。ということはつまり、通常はその能力を持たないクリーチャーがその能力を持つということになる。たとえば、組になったときに警戒を与える結魂クリーチャーがいたとして、それは結魂しない限り警戒を持たないのだ。これは一見するとたいしたことのない話に聞こえるかもしれないが、実際はいくつかの問題を引き起こした。

 まず1つめは、イメージの問題だ。結魂クリーチャーが組になるまで強化されないとなると、元となる状態はいかにも弱くなる。たとえば、《ドルイドの使い魔》を見てもらおう。

 ほとんどのプレイヤーは、{1}{G}なら熊(2/2のクリーチャー)が得られるということを知っている。時には、おまけがついていることもある。ところが《ドルイドの使い魔》は、{3}{G}だ。一見すると、これはあまりに弱く見える。結魂がどう働くのかを理解するまでというだけではなく、結魂クリーチャー同士が組になったときにどうなるかを理解し、《ドルイドの使い魔》同士が組になったら両方とも6/6クリーチャーになるということを理解するまではそうだろう(――一応、気付いていない諸君のために説明しておこう。《ドルイドの使い魔》はそれぞれ+2/+2を与えるので、両方が与えればそれぞれのクリーチャーに+4/+4が与えられることになる)。

 2つめの問題は、「天使問題」と私が呼んでいるものだ。天使は空を飛ぶものだというのはこのセットの大前提である。しかし絆魂クリーチャーは組になるまでその能力を得ない。つまり、結魂持ちの天使はこの2つのルールの板挟みになるので存在できないことになる。善なるものを統合して戦うはずの天使のセットで、天使に絆魂をつけられないというのは大問題だ。


 《歓喜の天使》 アート:Terese Nielsen

 クリーチャーが複数の能力を持っている場合に、そのうちの1つだけを与えるというメカニズムを作ってみた(〈結魂の天使〉は普段から飛んでいて、組になったときに警戒を与えるのだ)が、これもうまく行かなかった。せっかくの結魂クリーチャーの単純さが、どの能力を与えてどの能力を与えないのかを覚えなければならなくなったことで台無しになってしまったのだ。

 最終的には、一見して強さが分かるようにする、というのは諦めることになった。マジックのセットでは多かれ少なかれあることだ。我々は、結魂の働きを説明するためのコラムを書くことを決めた。また、メカニズムを簡単なものにするため、〈結魂の天使〉を作ることも諦めた。このメカニズムはただでさえ多少難しい(のちにデベロップの手でさらに複雑になった)ので、天使を諦めることでこれ以上複雑にならないようにしたのだ。これは仕方がないことだった。

緑を見よう

 カードの働きに関する問題を最終的に解決した(と我々は思った)ので、我々は次の問題に取り組むことにした。色の独自性を作り出すために、結魂をどう使うかである。セットにおけるメカニズムの働きの1つに、色の役割を明確化させるというものがある。色ごとに異なる理念ややり方があるということが、マジックを楽しいものにしているものの1つなのだ。それによって、色ごとにそのセットの異なる一面を見ることができるため、プレイヤーは探究しできるようになる。


 《戦墓の随員》 アート:Ryan Pancoast

 この目的のために、たとえばあるメカニズムを1色だけに持たせるようにすることもある。あるいは、フレイバー的に複数の色に必要なこともある。その場合、どの色がそのメカニズムを得るかではなく、その色がそのメカニズムをどのように使うかということが定義になってくる。

 ある特定の色にメカニズムを集約するためにデザインが使う道具がいくつか存在する。

特定の色で開封数を上げる

 トレーディング・カードゲームのデザインに関して早いうちに学ぶことは、開発部が「開封数」と呼んでいるものの重要性である。これは、あるテーマを見せる割合をどの程度にするかということを示している(ブースターパックを開いた時に巡り会う確率のことだ)。開封数に大きく影響を及ぼすものを2つ挙げるなら、数と稀少度ということになる。

 開封数を挙げたければ、そのセットに入れるその種類のカードを増やすか、あるいはより多くをコモンにすることになる。しばしば、その両方が行われる。結魂に関して言えば、最も多くして開封数を高めるべき色は緑で、2番手が青になる。つまり、緑(と青)により多くの結魂カードをより低い稀少度にいれるべきだということになる。

特定の色でパワーレベルを上げる

 ある色とあるメカニズムをプレイヤーが関係づけるようにするためのもう一つの方法が、パワーレベルの調整である。プレイヤーは、実際に使ったカードのことをよく覚えるものだ。そのメカニズムの最強のカードがある色に存在すれば、プレイヤーはその色をそのメカニズムと関連づけて見るようになる。アヴァシンの帰還においては、結魂のパワーレベルの1位は緑、2位は青とした。そのための方法は単純で、このメカニズム最強と思えるカードを第1色に入れてやれば良いのだ。

 もう一つ、緑を印象づけるために、結魂メカニズムの最良でありうる部分を緑だけに限ることにした。パワーやタフネスを強化するという効果のことだ。この効果が強い理由は、ほとんどの能力が重複しても意味がない中で、これだけは違うというところにある。仮に結魂クリーチャーが警戒を与えるとして、そのクリーチャーが同名の別のクリーチャーと組になってもそれほど強化されない。なぜなら、警戒を2つ持っても意味がないからだ。パワーやタフネスはそうではない。同名のクリーチャーと組になっても、充分に実力を発揮できるのだ。

特定の色でシナジーを増やす

 最後の仕掛けは、そのメカニズムと組み合わせると有効になるものを第1色に入れるということだ。これは、場合によっては巧く働く普通の部分を探すことでもあるし、また場合によっては通常は弱いけれどもそのメカニズムと組み合わせると爆発的に強化されるようなカードをデザインするということもある。これによって、結魂デッキをドラフトするプレイヤーは、他の誰も欲しがらない中でそれらのカードを集めることができるようになる。《花咲くもつれ樹》はその好例だ。

 こうして、緑を結魂の色に仕上げたわけだ。緑を選んだ理由? アヴァシンの帰還のプレビュー期間中にも語ったとおり、このセットは全てが白寄りである。従って、デザイン・チームは可能な限り要素を他の色に散らしたかったのだ。

 結魂は協力と団結そのものだ。そして、マジックの世界において個人よりも全体を重視する色は白と緑の2色である(個人を最優先する黒の敵対色2色である)。白を使えないのであれば、当然緑を選ぶことになる。また、結魂の最強の部分であるパワー/タフネスの強化は元々緑のものでもあるのだ。

 ここでもう一つ閑話。初期のプレイテストでは、全部の色にパワー/タフネス強化が入っていた。しかし、それは大量に入れるにはあまりにも強かったので1色の数枚のカードにまで減らしたのだ。

来し方行く末

 デザインの話に限るなら、話はここまでとなる。結魂の働きを決めた。結魂を集める色を決めた。カードは巧く働き、ファイルを提出した。この時点では、結魂クリーチャーはそれが戦場に出たときにしか組にならなかった。さて、どうなった?


 《ベラドンナの行商人》 アート:John Stanko

 デベロップのプレイテストで、デベロップ・チームの多くのメンバーが結魂に不満を言った。結魂クリーチャーを唱えたときに組にしなければならないのは、「いやな気分」になった。まず、結魂クリーチャーを軽くできないことになる。なぜなら、序盤に引いてもまともに組にできないからだ。ゲームの後半においても、組にするべきプレイヤーを先に出さなければならず、結魂クリーチャーをなかなか出せないということにもなった。

 さらに悪いことは、結魂クリーチャーと組になったクリーチャーが除去されると、結魂クリーチャーはただの弱いバニラ・クリーチャーになってしまうということだった(「バニラ・クリーチャー」とは、開発部用語で他の能力を持たないクリーチャーのことを指す)。新しい結魂クリーチャーを唱えることができて、戦場に残された結魂クリーチャーと組にすることができることもあるが、そんなことはそうそうない話で、パワーレベルの問題を解決するには至らなかった。

 デザインがその変更をしなかった理由として、デザインは物事をシンプルにしようという傾向がある――が、今回の理由はそれではない。なぜ他のクリーチャーが戦場に出たときにも組にできるようにしなかったかというと、その問題に気付いていなかったからである。デザイン段階のプレイテストではカードは問題なく働いていたので(デザインのプレイテストではとにかくあらゆるカードのテストが出来るようバランスはより不安定なものなので、ときおりこうして要素を見落とすこともある)、改良しようと思わなかったのだ。アヴァシンの帰還のデベロップ・リーダーであるデイブ・ハンフリー/Dave Humpherysの最初の反応が「イカしてる風に思うよ」だったのを覚えている。

結魂そして

 これが、デザインのプレイテストから完成に至る結魂の道筋である。諸君がこのメカニズムのできあがるまでの過程を楽しんでくれたなら幸いだ。いつもの通り、私は諸君からの反応を待ちわびている。結魂というメカニズムについての思いを、ツイッターやTumblr、Google+などで伝えて欲しい。

 それではまた次回、次元を渡るときにお会いしよう。

 その日まで、あなたがあなたの助けとなるものの価値を学べますように。

アヴァシンの帰還 好評発売中!

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