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開発秘話

Making Magic -マジック開発秘話-

変わりゆく次元

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Making Magic

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変わりゆく次元

Mark Rosewater / Tr. YONEMURA "Pao" Kaoru

2012年5月21日


 プレインチェイス2012プレビュー特集へようこそ。今回は、新しいプレインチェイス・セットに関する話をさせてもらう。このセットが仕上がるまでのことについてはマーク・ゴットリーブ/Mark Gottliebが彼の記事で語っているので、私は別の立場から話させてもらうことにする。マジックというゲームにはなぜこれほど多くの異なった世界が必要なのか、という話だ。もちろん、デザイン・チームの紹介はさせてもらうし、お待ちかねのプレビュー・カードもお見せするので心配なく。

完全に新しい世界

 それでは、一番初めの話から始めよう。ゲームを作るにあたって(ここで言うのはビデオゲームではなく非電源系ゲームのことだ)、ほとんどのゲーム制作者がすることは何か? 世界を1つ作ることだ。なぜなら、ゲームを作るにあたっては、そのゲームの舞台となる世界を作りたいと思うものだからだ。これまでにも、デザインに命を吹き込むためにフレイバーが鍵になるという話は何度もしてきた。フレイバーは、諸君がすることの方向性を定めてくれるのだ。


 《The Maelstrom》 アート:James Paick

 コミュニケーション学校(正確に言うなら、ボストン大学コミュニケーション学部)で、私はコミュニケーションについての重要なことを学んだ。人々は、自身の個人的な生活に関連づける方法を見つけるまで新しい情報のかけらを吸収しない。これが、報道番組において世界規模のイベントの話にローカルな人物の話題を入れる理由であり、雑誌において物語に写真を入れるときに「実在の」人物の絵を入れる理由であり、物書きが比喩を用いる理由である。

 ゲームのメカニズムはそれ単体では何の意味も持たないので、フレイバーが重要になる。ゲームを聴衆に受け入れられるようにするという中には、意味を持たせることが有用だ。共感させるようにすることで、人々は「ああ、それはわかる」と反応してくれるようになる。これが、ゲームに世界観が必要な理由である。つまり、プレイヤーとメカニズムを繋ぐ役割を果たすのだ。

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 ここで、ゲームの元祖と言うべきものに登場してもらおう。モノポリーだ。モノポリーは資源を獲得するゲームだ。ただシステム的を見れば、非常に味気ないものだ。これに意味を与えるために、ゲームデザイナーのチャールス・ダロウ/Charles Darrow(まあ、このゲームは数奇な歴史を辿っていて、ダロウはそれまでにあった同種のゲームから要素を借りているのだが)はプレイヤーが大富豪であるという決定をした。ただものを獲得するだけでなく、資産を買い集めるのだ。

 他のプレイヤーから金を取る理由は、レンタル料だ。家なりホテルなり、建物を建てることによって資産の価値を高めることが出来る。クリエイター的に見ると、これで共感性が得られたと言える。さらにこれを推し進めるために、ダロウはこのゲームの設定をより具体的なものにすることにした。アトランティック・シティでプレイされていたので、資産に実際の場所にちなんだ名前をつけた。


アトランティック・シティのボードウォーク(1923)

 モノポリーはその設定にアトランティック・シティを使った。クリエイティブ的な意味でのテーマを他のものにした派生品も作られたが、ゲームの本質は変わっていない。古典的なモノポリーをプレイするなら、アトランティック・シティが舞台となる。

 これはほとんどのゲームにおいて真である。ゲームがその舞台となる世界を作り上げたなら、その世界に根を張り、その世界で発展していくものだ。しばしば語ってきた通り、人々はなじみがあるものを望むので、ゲームには連続性が必要である(まとめてしまうと、人々がものごとを吸収するために関連づけることが必要なのは、新しい情報になじみを求めるからである)。人々は、知っているところに戻るのが好きだ。ゲームをプレイすることは、プレイヤーが価値を作り上げた世界に戻るということなのだ。

 さて、マジックはこの警句を投げ捨てているように思える。ほとんどの年において、我々は完全に新しい世界に旅立っている。マジックが他のゲームでよく用いられるこの技法に反しているように見えるのはなぜか。答えは、マジックは本質的に他のゲームとは違うもの――探究をその本質に持っているものだからである。

世界を見ること

 マジックは変わり続けるゲームである。それはなぜか? それは、探究という行為に関していえば、プレイヤーを常時探究するようにしつづけるための唯一の手段だからである。メカニズム的には、中心となるメカニズムを変え続けることでそれを実現している。昨年は感染と金属術がゲームの中心となっていた。このブロックの前半では両面カードや部族の相互作用、墓地の働きが中心だった。アヴァシンの帰還では、奇跡と結魂が中心となっている。


 《Panopticon》 アート:John Avon

 メカニズムを変えることは、世界が同じではうまく行かない。同じ世界の中でも小さな変化はあるものだが、根本的なところでは、メカニズムを世界のクリエイティブ的なものと組み合わせようと思い、そしてメカニズムを常時改革し続けようと思うのなら、改めて始めることができなければならないのだ。

 世界を毎年変えなければならない理由は、ゲームが毎年変わるからである。しかし、ここにより複雑な問題が存在する。メカニズムが世界を作るだけでなく、世界がメカニズムを作ることもあるのだ。

80枚以上のカードの世界で

 これに関する最高の例が、ゼンディカーだろう。ゼンディカー・ブロックは、メカニズム的に土地で何をできるかを私が探究したかったことから始まった。普通のブロックに比べて、土地に比重を置いたブロックを作ったならどうなるだろう。私自身、土地関連のメカニズムにはまだ未踏と言えるデザイン空間がある、ということしかわかっていなかったのだ。


Minamo》 アート:Charles Urbach

 デザイン・チームは土地の可能性を探究し始めた。やがて上陸にたどり着き、そしてキッカーを再利用することが決まった。この時点で、私はクリエイティブ・チームに出向き、「メカニズム的にはこんな感じだ。これがやりたいことなんだ。どういう世界観ならこれにふさわしいかな?」と言ったのだ。

 その結果、クリエイティブ・チームは冒険世界という発想にたどり着いた。世界は波乱に満ちており、多元宇宙のそこかしこから興味を持ったプレインズウォーカーが集まってきてこの世界の中の宝物を探すのだ。冒険世界というこの次元の設定はデザインに活かされ、罠や同盟者、探索といったものが生まれた。世界の設定から、新しいメカニズムが発見されたわけである。

世界の強化

 プレインチェイスのデザインについて、旧プレインチェイスの発売時に語った(リンク先は英語:翻訳予定)ことがある。プレインチェイスの元になったアイデアは、俗に「エンチャント・ワールド・トーナメント」と呼んでいたものの焼き直しである。ゲーム中に、すべてのマッチに影響するエンチャントのような効果が加えられることでトーナメント全体の環境が変わるというものだ。


夜まといのヴェラ》 アート:Allen Williams

 このコンセプトは、1994年に作られたエキスパンション、レジェンズから名前とともに借用されたものだ。1994年と言えば、マジックができた翌年である。今はワールド・エンチャントと呼ばれているエンチャント(ワールド)は、魔法の決闘のあいだに決闘の場所が変わるという発想から生まれたものだった。プレインズウォーカーが新たな次元に行けば、ゲームにメカニズム的な影響もあるはずである。

 この発想自体は非常にイメージしやすいものだ。次元と次元の間を渡り歩けるようにすることの魅力としては、魔法の決闘に影響を及ぼす新しくて特別なことが現れるということがある。新しい世界には新しいクリーチャーやアーティファクトがあるだけでなく、魔法そのものも新しいものなのだ。プレインズウォーカーが多元宇宙を旅するのは、そうすることによってそれまでやったことのない何かをする方法を知ることができるからなのである。

そして戻れる旅へ

 もし毎年新しい世界に行かなければならないとしたら、なぜ昨年はミラディンに戻り、そしてこの秋にはラヴニカに戻るのか? その答えは、マジックにおいても伝統的なゲームと同じようにゲーム内世界での価値を確立したいからである。そのための彭彭として、我々は各年を新しい世界の実験場として使うことにした。プレイヤーがある世界を気に入ったのなら、将来、その世界を使ったブロックを再度作ることができるように保存しておくことができるのだ。

時間のひずみ》 アート:RK Post

 ポイントは、新しい世界の新規性と、古い世界のなじみ深さのバランスを取ることだ。プレインチェイスは、多元宇宙の考え方を活用した商品である。今まで舞台になった次元、これから舞台になるかもしれない次元の両方が入っている。

 そして、これこそがプレインズウォーカーだと言える商品である。通常のエキスパート・エキスパンションはそれぞれの世界を定義してくれるが、世界と世界の差異を明確にしてくれることはない。プレインチェイスは、ゲームの根幹である(次元と次元の間を行き来するという)メカニズムを強く取り上げたものなのだ。

「次元の、次元の」

 今日のコラムの本題は、諸君に一歩引いたところからマジックに多元宇宙が存在する理由と、毎年訪れる次元を変えるという選択をした理由を理解してもらうことにあった。実際、マジック全体を広く見渡せば、次元と次元の間を移動する能力はプレインズウォーカーたる本質であることが分かるだろう。その能力を持っている者が、そして持っている者だけが、プレインズウォーカーなのである。


暁まといのクロンド》 アート:Zoltan Boros

 私は、我々が毎年やっている仕事を非常に誇りに思っている。その中でももっとも誇れることは、毎年毎年フレイバー的にも、そしてそこから導かれるメカニズム的にも魅力的な世界を作り続けているということだ。プレインチェイス2012を見て、その苦労の一端でもわかってもらえれば幸いである。

チームの「私」たち

 まとめに入る前に、2つやっておかなければならないことがある。1つめがこのセットのデザイン・チームの紹介で、それから、このセットそのものの(うん、そのうちの2枚の)紹介だ。それでは早速、これがプレインチェイス2012の立役者だ。

マーク・グローバス/Mark Globus (リーダー)
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 現在、マジックのデザイナーの一軍には、ケン・ネーグル/Ken Nagle、イーサン・フライシャー/Ethan Fleisher、ショーン・メイン/Shawn Mainと3人のグレート・デザイナー・サーチ出身者がいる。しかし、デザインのリーダーはグレート・デザイナー・サーチ出身者だけが務めるものではない。アレクシス・ヤンソン/Alexis Jansonは来年のSinkerset(ラヴニカへの回帰・ブロックの最終セット)でデザイン・リーダーを務める。そして、このプレインチェイス2012はマーク・グローバスがリーダーを務める2つめのセットとなる(1つめは基本セット2012だ)。

 普段は、マークはマジック開発部の上級プロデューサーとして(スケジュール、工程、人事など)全体の状況を監督する立場にあり、彼のおかげで開発部はマジックを作ることができている。私とマークとのミーティングのほとんどは、〆切やリソースの話ばかりだ。しかし、マークは、非常にすばらしいマジックのデザイナーとしての顔を持っているのだ。彼を私のデザイン・チームの一員にするのは楽しかったし、彼自身のデザイン・チームを組織するのを見るのも楽しいものである。

 プレインチェイス2012は、プレインチェイスの好評を受けて作られたものだ。つまり、マークとそのチームは、最初のセットの後継であると感じさせる何かを提供すると同時に、このセットならではのものを提供しなければならない。これから公開されていく通り、マークと彼のチームはこの挑戦を成し遂げたのだ。

ケリー・ディグス/Kelly Digges
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 長い間、ケリーはDailyMTG.comの編集長を務めていた。彼と話し合うことはよくあったが、それは私のコラムの話であったり、何をプレビューするべきかという戦略の話であったり、次の特集テーマは何にするかという話だったりした。ハリウッドでのジョークに、この街に住むあらゆる人は監督になりたがる、というものがあるが、ケリーは逆にマジックのカードを作りたかったのだ。

 彼はその技術を活かし、開発部で特異な地位を築き上げた。半分編集者で、半分デベロッパーなのだ。ケリーの名前を探すなら、多くの派生商品(デュエルデッキなど)に見られるだろう。しかし、開発部にいるということは、デザイン・チームやデベロップ・チームに参加するということでもあるのだ。

 ケリーはワールドウェイクやアーチエネミーでデザイン・チームに参加していた。そして、プレインチェイスの続編を作ると聞いて喜び勇んで舞い戻ってきたのだ。ケリーは非常にカジュアルなプレイヤー感覚を持ち合わせており、カジュアル向けの商品には強力な戦力となる。彼がプレインチェイス2012に適任だったと、諸君もわかることだろう。

デイブ・ガスキン/Dave Guskin
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 社内の他部署からの人材を開発部に招くという取り組みによって、デイブ・ガスキンが招かれることになった。彼はオンライン・メディアのプログラマーとしてキャリアを始めた。たとえば、DailyMTG.comのいろいろな技術は彼の手によるものだ。

 現在では、デイブはマジック開発部デジタル・チームの一員として、デジタル的な多くのマジック関連商品の監督にあたっている。非常に忙しい中で、デイブはデザイン・チームやデベロップ・チームに参加する時間を探しているのだ。

 デイブをどのチームに入れても有用なのは、彼が私の知っている中で最も几帳面な人間だからである。彼に何らかの仕事を割り当てると、彼は調査する。彼はいつでも準備万端だ。デイブは情熱を持ってあらゆる問題に取り組み、そしてやり遂げるのだ。プレインチェイス2012が彼の関与をもって成功したことは驚くに値しないことだろう。

ライアン・ミラー/Ryan Miller
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 これまであまり語ってこなかった、ちょっとした秘密が存在する。ウィザーズ・オブ・ザ・コーストは、マジック以外のゲームも制作しているのだ(シー、内緒だよ)。ほとんどの人は他の「ちょっとしたゲーム」、ダンジョンズ&ドラゴンズのことを聞いたことがあるだろうし、もしかしたらデュエル・マスターズのことも知っているかも知れない。何年も前、日本発の子供向けのトレーディング・カードゲームに手を付けようと、我々の手によるものを作ったのだ(マイク・エリオット/Mike Elliott、チャーリー・カティノ/Charlie Catino、タイラー・ビールマン/Tyler Bielman、アンドリュー・フィンチ/Andrew Finch、それに私がデザイン・チームにいた)。

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 このデュエル・マスターズは時を経て、アメリカ版のKaijudoというゲームになった。これを取り上げたのは、ライアンは普段デュエル・マスターズならびにKaijudoの主席デザイナーを務めているからである(そう、マジックでいう私の役割を彼が果たしているわけだ)。

 ライアンはグレートなデザイナー(グレート・デザイナー・サーチとは関係ない)で、マジックのデザインに完全に異なる感覚を運んできてくれた。両面カードは最初デュエル・マスターズで使われたもので、後にマジックに導入された。マジック以外のトレーディング・カードゲームをデザインした人間をマジックのデザイン・チームに入れることで、また違う雰囲気が得られる。ライアンの存在はプレインチェイス2012に多大な影響を及ぼしたのだ。

感動をちらり

 あと残っているのは、プレビューだけだ。プレインチェイスには2種類のサイズのカードが存在するので、それぞれ1枚ずつ紹介することにしよう。

 まずは次元カードだ。これは、諸君がよく知っている次元――そう、ラヴニカからのものである。それではお目にかけよう、これが《セレズニアの屋根庭》だ。

 諸君の多くは、このメカニズムを覚えていることだろう。これは、私が最も楽しいカードとして挙げたカード(当時の記事その1その2(ともにリンク先は英語))で、そしてラヴニカ・ブロックの最高のデザインだとして取り上げたカードだ。そう、この次元は《倍増の季節》なのだ。一位なのだから取り上げられて当然である。では、《倍増の季節》の次元で何ができるのか? 《倍増の季節》と同様、いろんなことができるのだ。

 プレインチェイス2012でできることの一例を挙げれば、こんなものがある。

 初心者のために添えておこう、プレインチェイス2012には、既存のメカニズム(この場合貪食)を使った新カードが入っている(プレインチェイス2012に入っているものについてもっと知りたい向きは、マーク・ゴットリーブの特別記事を読んでみるといい)。さて、それでは諸君の質問にお答えしよう、「このカードは何をするのか?」


強欲なるスロモック》 アート:Terese Nielsen

 何が起こるのかを順を追って説明しよう。《強欲なるスロモック》が戦場に出ると、そのコントローラーは自分のコントロールするクリーチャーを好きな数だけ生け贄に捧げることができる。クリーチャーを1体だけ生け贄に捧げたなら、+1/+1カウンターを1個《強欲なるスロモック》の上に置く。2体生け贄に捧げたなら、+1/+1カウンターは4個。3体生け贄に捧げたなら、9個。4体生け贄に捧げたなら、16個。生け贄に捧げた数の二乗に等しい数の+1/+1カウンターを得ることになる。

 これと《セレズニアの屋根庭》を組み合わせると、もう状況はむちゃくちゃだ。「Xの二乗」に代わって、「Xの二乗かける2」のカウンターを得ることになる。何らかの方法でトークンを出せば、《強欲なるスロモック》の餌も増えて数は天井知らずに増えることになる。

 プレインチェイス2012の面白いことはこれだけではない。DailyMTG.comでのプレビュー特集をお見逃しなく、だ。

 来週は戦没将兵記念日で休みなので、新しい記事は掲載されない(編訳注:英語版と同じく、2009年のプレインチェイスの記事をお届けする予定です)。それでは、再来週にお会いしよう。

 その日まで、旅があなたとともにありますように。

プレインチェイス2012 6月1日発売
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