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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

ミラクルグロウ(スタンダード)

岩SHOW

 前回紹介させてもらった「イゼット・スペル」。その特徴の1つとして、《選択》《突破》と1マナのドロー呪文を計8枚も採用していることを取り上げた。

 これらのカードのおかげで、土地の枚数が20枚という少なめの構成でありながら、ゲーム序盤に必要な2~3枚の土地は引き込むことができる。そして中盤以降に不要な土地は、そもそも総数を減らしていることで引く可能性が低くなる。ドロー呪文を引き込めば、それだけ欲しいカードにたどり着ける可能性が高まる。これは理にかなった構築であり、特に数字や確率を意識してマジックをプレイしている者にとっては何とも好ましいものなのではないだろうか。

 実は、この「ドロー呪文を採用した分だけ土地の枚数を減らす」という考え方は、マジックの歴史においてもかなり古い時代に提唱されたものである。プロツアー殿堂顕彰者であるアラン・カマー/Alan Comerは「ゼロックス」と呼ばれる理論を生み出した。ザックリ説明すると、1~2マナのドローやドローがついた呪文を2枚採用すれば、デッキ内の土地は1枚減らしても良いという構築理論だ。

 このゼロックスは夢のような話に聞こえるかもしれないが、注意点もある。ゼロックスを成立させるために大量に採用したドロー呪文、ただこれを唱えるだけでは言うまでもなくゲームに勝てない。何か別で勝ち手段を、ドロー呪文と相性の良いものを採用することで、ようやくデッキとして成立するのだ。

 だからこの構築理論を当てはめるデッキはかなり選ばれるということ。前回のデッキで言えば《スプライトのドラゴン》《謎変化》《嵐翼の精体》がその相性の良いカードにあたるわけだ。

 過去、ゼロックス理論を体現したデッキと言えば……最も強烈なインパクトを放ったのは「ミラクルグロウ」であろう。

Mike Long - 「ミラクルグロウ」
グランプリ・仙台2001 3位 / エクステンデッド (2001年12月15~16日)[MO] [ARENA]
6 《
4 《Tropical Island
-土地(10)-

4 《クウィリーオンのドライアド
4 《熊人間
4 《野生の雑種犬
2 《波止場の用心棒
-クリーチャー(14)-
2 《選択
4 《渦まく知識
4 《手練
4 《好奇心
4 《目くらまし
4 《土地譲渡
4 《冬の宝珠
2 《撃退
4 《意志の力
4 《噴出
-呪文(36)-
2 《ファイレクシアの炉
2 《水流破
1 《無効
4 《寒け
4 《レガシーの魅惑
2 《水没
-サイドボード(15)-
 

 このデッキはかつて存在したフォーマット・エクステンデッドにて活躍したもの。デッキ内の土地総数、なんとたったの10枚! 1マナでただのドローではなく、複数枚を見られる呪文をギッシリ計10枚。そして《土地譲渡》、土地が手札になければ0マナで唱えられるこの土地サーチで《Tropical Island》を持ってくる。

 これらのドロー&土地サーチ手段と、《意志の力》《目くらまし》などのマナを支払わずに唱えられる呪文、そして先にも触れたこれらと相性の良い勝ち手段。これらが揃ったことでこの異形にも見えるリストが成り立った。

 その勝ち手段、フィニッシャーの枠とは……《クウィリーオンのドライアド》!

 緑以外の呪文を唱えると、+1/+1カウンターが置かれる。デッキ名「ミラクルグロウ」とはこのドライアドが奇跡のようにみるみるうちに成長するという意味合い。

 1ターン目にドロー呪文で土地を引き込み、2ターン目にこれを展開。返しの相手のターンのアクションは《目くらまし》で弾き、自分のターンにドロー呪文、さらに《好奇心》を貼り付けて、4/4まで育てて攻撃。返しで除去を撃たれたら《噴出》から2枚ドローして《意志の力》で……みたいな動きで相手を圧倒するわけだ。

 これに同じくドロー呪文を連打して墓地が溜まれば成長する《熊人間》などの軽量クリーチャーも動員し、《冬の宝珠》で足止めしている間に殴り切る! なんともすごいデッキだ。その衝撃的なリストは、当時雑誌で見たプレイヤーたちの注目の的となった。

 このグロウの主役である《クウィリーオンのドライアド》は現行スタンダードにもいる。

 ということは……ゼロックス理論を踏襲したグロウの最新モデル、作れるんじゃないか? もちろん、《土地譲渡》《意志の力》のようなカードはないのでそこまで極端に土地の枚数を削れるわけではないが、クウィリーオンを育てるデッキに挑戦するのは楽しそうだ。

 Twitterで見かけた、現代の「ミラクルグロウ」に挑んだリストを紹介しよう。前回の「イゼット・スペル」とも見比べて、重なる部分と異なる部分を楽しんでもらえたらと思う。

Kenneth R Diaz - 「ティムール・ミラクルグロウ」
スタンダード(BO1) (2020年8月17日)[MO] [ARENA]
4 《
3 《
1 《
4 《繁殖池
3 《蒸気孔
3 《踏み鳴らされる地
1 《ケトリアのトライオーム
1 《寓話の小道
-土地(20)-

4 《クウィリーオンのドライアド
4 《スプライトのドラゴン
2 《厚かましい借り手
3 《嵐翼の精体
-クリーチャー(13)-
4 《開門
4 《選択
4 《ショック
2 《唱え損ね
2 《レインジャーの悪知恵
4 《大慌ての棚卸し
4 《謎変化
3 《王家の跡継ぎ
-呪文(27)-
Kenneth R Diaz氏のTwitter より引用)
 

 《選択》とともに採用しているのは、《土地譲渡》同様手札に土地を持ってくることで色事故を回避する《開門》。

 純然たる緑の呪文なのでクウィリーオンのサイズアップはできないが、《》なり《》なり欲しい色に確実にアクセスできる1マナ呪文で、中盤以降もスプライトや《嵐翼の精体》《謎変化》を誘発させて最低限の仕事をしてくれる。

 《意志の力》《目くらまし》などの代わりを務めるのは《唱え損ね》《レインジャーの悪知恵》。

 これらでしっかりと除去を弾いて、グロウさせたクリーチャーで殴り切ろう。

 《大慌ての棚卸し》で複数枚ドローできるようになれば物量で押すことだってできるだろう。

 最後は各種クリーチャーに《王家の跡継ぎ》でトランプルを付けて終わり、というところだろうか。

 リスト自体はまだまだ未完成に見える部分もあるが、伸びしろを感じる。《突破》も採用してよりダメージを通しやすくしつつさらに土地を削る。育てたクリーチャーを《投げ飛ばし》してフィニッシュする。パッと見ただけでもこれらのアイディアが浮かんでくる。

 誰かがチャレンジしたデッキリストは、託されたバトンのようなものだ。次は君の感性で、この時代の「ミラクルグロウ」を完全体へと仕上げてやってほしいね。過去を現在に再現する、これもまたデッキ構築の楽しみ方なのだ。

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