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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

構築譚 その8:ティンカー、あるいはスーサイド・ブラウン

岩SHOW

 これが掲載されるのは、もうプロツアーが終わって余韻冷めやらぬころだとは思うが、毎度おなじみでそれより先にこの記事を書かなきゃならない。なので、久しぶりに過去のデッキを紹介する構築譚シリーズの出番ってわけだ。

 プロツアーといえば、僕はいつもトーナメント開始前に気になることがある。それは「フィンケルは今回、調子が良いだろうか」ということ。フィンケルとは他でもない、マジックの歴史上最もプロツアーで活躍した殿堂顕彰者ジョン・フィンケル/Jon Finkelだ。何をもってして最もプロツアーで活躍した人物と断言するのかというと、決勝ラウンド進出回数が断トツの16回!これに勝る実績はないだろう。

 フィンケルのこの16回という数字は、いわゆる全盛期に荒稼ぎしたというわけではない。彼は長い期間、コンスタントに勝ち続けている。20代だろうと30代だろうと、もうすぐ迎える40代だろうと関係ない。どの時代でも高い実力を保持し続ける、ゆえにフィンケル閣下、フィンケルトロン/Finkeltronなどと呼ばれるのだ。大多数のマジックファンと同じく僕もフィンケルのファンで、毎回プロツアーが来るたびに「今回また記録を伸ばしちゃうかもよ……」なんてワクワクしちゃうのだ。

 そんなフィンケル閣下のことを知ったのは、多くの同世代のプレイヤーと同じ中学生の時。当時、マジック専門誌がようやく流通しだした頃。1パック買うのをグッとこらえて、そのお金で雑誌を買って情報を得たものである。そして世界選手権2000が特集された号にて、同トーナメントの優勝者、すなわち世界王者となったジョン・フィンケルの存在を知ったのであった。

 まず、名前がカッコイイ。ジョン・フィンケルなんて、まさしくマジックが強いプレイヤーって感じの名前で、説得力が凄まじい。つい口に出して言いたくなるから、皆がフィンケルフィンケル連呼する。プロプレイヤー=フィンケルの図式の完成だ。フィンケルのクールなイメージを支えたのは、彼が使用したデッキによるところも少なからずあるだろう。それは僕らのような少年が想像したこともないような、暴君のようなデッキだった。

Jon Finkel - 「ティンカー(スーサイド・ブラウン)」
世界選手権2000 優勝 / スタンダード (2000年8月2~6日)[MO] [ARENA]
9 《
4 《水晶鉱脈
4 《リシャーダの港
4 《サプラーツォの岩礁
-土地(21)-

4 《金属細工師
4 《マスティコア
1 《ファイレクシアの巨像
-クリーチャー(9)-
4 《渦まく知識
4 《通電式キー
4 《厳かなモノリス
4 《からみつく鉄線
4 《修繕
4 《ファイレクシアの処理装置
4 《スランの発電機
1 《崩れゆく聖域
1 《ミシュラのらせん
-呪文(30)-
4 《無効
4 《寒け
4 《誤算
2 《水位の上昇
1 《ミシュラのらせん
-サイドボード(15)-
 

 キーカードの《修繕》の英名より「ティンカー」と呼ばれる、青単のアーティファクトデッキのバリエーションの1つだ。

 《修繕》は現在レガシーで禁止、ヴィンテージでも制限されているレベルのとんでもない呪文。これを使ってマナ・コストを踏み倒して巨大なアーティファクト・クリーチャーで圧殺したり、状況に応じたアーティファクトをサーチして優位に立つ戦法を用いるデッキだ。どんな時代でも、コストを無視する類のカードはヤバい。このデッキもそれを教えてくれる。

 《修繕》か、あるいは《厳かなモノリス》《スランの発電機》《金属細工師》を《通電式キー》でアンタップして大量のマナを出して、巨大なアーティファクトに繋げるのが勝ちパターン。《ファイレクシアの巨像》をキーで起こして運用するのも良いが、ベストは《ファイレクシアの処理装置》。

 これにゴリゴリッとライフを支払って、無茶苦茶デカいミニオン・トークンを生成して盤面を制圧してやるのが手っ取り早い。

 ただ、ライフを大量に支払うのはリスクを伴う行為である。一桁までライフを減らしてしまって、それであっさり撃ち負けては元も子もない。そこでこのデッキでは《崩れゆく聖域》を採用。

 ダメージレースとなりそうな相手にはこれを戦場に出し、ライブラリーをライフの代わりとするのだ。これで安心して19点までライフを支払うことができ、サイズの差の勝利を収めることが可能となる。

 リスクを冒しつつ《ファイレクシアの処理装置》に大量にライフを支払う、あるいは《崩れゆく聖域》でライブラリーが文字通り崩れていく、その自滅的な様から「ティンカー」デッキの中でもこのタイプを特に「スーサイド・ブラウン」と呼ぶ。ブラウンはアーティファクトのこと、かつてはアーティファクトの枠が茶色だったため、アーティファクトを用いるデッキは茶単などとも呼ばれたものである。

 派手なムーブもあるが、《マスティコア》で相手のクリーチャーを潰したり《からみつく鉄線》で相手の展開を阻害したりとコントロール要素も強く持っているのがデッキのセールスポイント。これらの動きも《金属細工師》というぶっ壊れカードがいたおかげで随分と簡単にできる。世界選手権優勝、大いに納得のモンスターマシン満載デッキだ!

 で、プロツアー本番はどうなったんだろうか……見逃したって? 大丈夫、テキストカバレージがあるし、配信のアーカイブもあるよ! この「スーサイド・ブラウン」が活躍した18年前の世界選手権もそうだが、マジックの良いところはその歴史が遺されているところだね。興味を持った人は、これを機にプロツアー『ドミナリア』以外にも過去のカバレージを調べてみてはどうかな?

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