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戦略記事

岩SHOWの「デイリー・デッキ」

構築譚 その7:Buelherの「ユーロ・ブルー」

岩SHOW

 強いデッキは美しい。無駄を排除した整ったリストに感じるのは、まさしく機能美。あぁ、コイツは強者だな……そう思わさせてくれるリストとの出会いは、マジックの醍醐味のひとつだ(この醍醐味ってやつは星の数ほどあるが)。

 最近では意図的に同じような役割のカードを散らして採用させるという戦略が採られるようになったり、『ドミナリア』に見られるように強い伝説のカードが増えて、そこまで整いきったリストというものも見なくなってきた。が、かつては本当に60枚、サイド込みで75枚というスペースを美しく使ったリストがあったのだよ。

 今日紹介する青単、通称「ユーロ・ブルー」は本当に美しい! 皆にもぜひ見てほしいと思い、この『ドミナリア』発売とマジック25周年をお祝いするシリーズ「構築譚」にて取り上げさせていただこう。

Randy Buehler - 「ユーロ・ブルー」
世界選手権1998 スタンダード部門 6勝1敗 (1998年8月12~16日)[MO] [ARENA]
18 《
4 《流砂
4 《隠れ石
-土地(26)-

1 《虹のイフリート
-クリーチャー(1)-
4 《ミューズの囁き
4 《魔力の乱れ
4 《対抗呪文
4 《衝動
3 《マナ漏出
1 《記憶の欠落
3 《禁止
2 《雲散霧消
4 《放逐
4 《ネビニラルの円盤
-呪文(33)-
4 《シー・スプライト
4 《水流破
1 《丸砥石
2 《転覆
4 《不毛の大地
-サイドボード(15)-
 

 うっとりするようなリストだが、見ているだけじゃコラムとして終了してしまうので説明していこう。このデッキのように、打ち消し呪文を大量に採用し、対戦相手が何かしたらそれを打ち消すコントロールデッキをパーミッションと呼ぶ。対戦相手が「これは通りますか?」と許可(permission)を求めてくるからだ。

 マジックの歴史でもかなり古い時代から存在し、《対抗呪文》がスタンダードにあった時代にはパーミッションが環境にあり続けたものである。そんなパーミッションデッキの中でも、1998年ごろに活躍したものが「ユーロ・ブルー」である。ユーロはヨーロッパのことで、このタイプのデッキがヨーロッパ選手権1998にて優勝し、広まったことからこう呼ばれる。

 「ユーロ・ブルー」の特徴は打ち消し呪文の多さ。このリストでも実に21枚も採用されている。《魔力の乱れ》から始まり、1ターン目から相手の動きを簡単に許しはしない。自分のターンには土地を置いて「Go(エンドです)」と宣言するのみ。この動きから、この手のデッキは「ドロー・ゴー」とも呼ばれている。

 自ターンはドロー・ゴー、相手ターンに何かしてきたら打ち消す、何もしてこなかったらターン終了時に《ミューズの囁き》バイバックで1枚ドロー、そうやって淡々とゲームを進めていく。打ち消し漏らしたカードが戦場に出てしまった際には《ネビニラルの円盤》で一掃する。この時も極力、あわてず騒がす打ち消しを構え続けたい。

 こうして隙のないゲームを続けていって、マナにも手札にも余裕ができ、盤面にはお互いの土地だけという状況に持っていければ……いよいよ、勝ちに行く時間だ。対戦相手のターン終了時に《隠れ石》を起動し、クリーチャー化する。

 このカードは土地として戦場に出せるので、プレイすること自体に隙やリスクはない。安全な状態になればおもむろに3/3のクリーチャーとなって、これでコツコツと殴って勝利を目指す。対戦相手からすると「あぁ、《隠れ石》起動してきたってことはもうゲームエンドまで見えてるんだな……」という敗北を察するアクションである。

 《隠れ石》のみでも十分に勝利できるが、念のために5枚目のフィニッシャーとして《虹のイフリート》も採用されている。4マナ3/1飛行、もし除去されそうになったら能力でフェイズ・アウトさせてひらりと躱してやろう。

 このデッキを世界選手権1998で使用し、スタンダード部門で6勝1敗という好成績を収めたのはプロツアー殿堂顕彰者であり、各種トーナメントの実況でも有名なランディ・ビューラー/Randy Buehlerだ。ビューラーはこのトーナメントにおいて、自分のターンに土地をタップすることなく勝利したゲームもあったと語っていたそうな。

 ビューラーはトップ8入りこそ逃したもののこのトーナメントを12位で終え、これは赤単・白単・そして《適者生存》&《繰り返す悪夢》デッキを使わなかったプレイヤーの中での最高位である。

 当時はスリーブというものがなく、プレイヤーがプロツアーなどでのトーナメントで使用するカードは運営側が用意し、デッキも管理されていた。ビューラーに渡された彼のデッキボックスには、その名前のスペルが間違って「BUELHER」と書かれていたそうで、そのためこの青単デッキは「BuehlerのBuelherデッキ」とからかい半分に取り上げられていたこともある。歴史に名を残すデッキには、いろいろとエピソードがくっついてくるもんなんだな。

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