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戦略記事

市川ユウキの「プロツアー参戦記」

2019ミシックチャンピオンシップⅣ(バルセロナ) 前編

市川 ユウキ

 こんにちは! チーム『武蔵』の市川です!

 前回のミシックチャンピオンシップ・ロンドンを最後にミシックチャンピオンシップの権利を失った私ですが……

 不屈の精神で国内のミシックチャンピオンシップ予選を行脚し、なんと幸運にも予選最終週で優勝し、権利を獲得!

 普段はこういう喜びを表に出さないタイプなのですが、今回ばかりはロンドンのミシックチャンピオンシップでの敗北、各地で行われたミシックチャンピオンシップ予選で辛酸をなめていたことなどがフラッシュバックし、感情が全面に出てしまいました。正直とても恥ずかしい……。

 ともあれ、これでバルセロナのミシックチャンピオンシップ(以下「MCバルセロナ」)に出場できる!

 そしてありがたいことに前回が一応最終回ということでピリオドを打った連載ですが、今回も記事の依頼をマジック日本公式さんよりいただけましたので、こうして執筆の運びとなりました。ありがとうございます!

0.近況

 チーム『武蔵』は前回のロンドンでのミシックチャンピオンシップ終了時に8位以内に入っていなかったので、すでにチームシリーズから脱落しています。

 つまりMCバルセロナでどれだけチームメンバーが好成績を出したとしても、チームシリーズ上では何も起きないということになります。

 また、調整チーム『武蔵』はミシックチャンピオンシップの参加権利が途絶えるメンバーも続出し(私もそもそもその予定でした)、MCバルセロナのフォーマットであるモダンを解明するにはいささか人員が足りません。

kusemono.jpg

 それはチーム『曲者』も同じことで、両チームが協力関係になることは当然のことでしょう。

 これによりチーム『武蔵』、チーム『曲者』合同の日本最強の調整チームが誕生することに。

チーム『武蔵』勢
  • 山本 賢太郎(キャプテン)
  • 市川 ユウキ(ギリギリ権利を得たため参加)
  • 覚前 輝也
  • 八十岡 翔太
  • 行弘 賢
  • 原根 健太
  • 高尾 翔太
  • 宇都宮 巧(権利はないがバルセロナで行われる直前予選に参加予定)
  • 川崎 慧太(権利はないが飲みたいため参加)
チーム『曲者』勢
  • 中村 修平(キャプテン)
  • 井上 徹
  • 高橋 優太
  • 佐藤 レイ
  • 村栄 龍司
  • 井川 良彦
  • 松本 友樹
  • 木原 惇希
  • 細川 侑也

 以上18名の大所帯で調整が始まります。

1.禁止改訂

 前回のMCロンドンから『灯争大戦』、『モダンホライゾン』とモダン環境を大きく変化させるセットが登場し、とあるデッキがモダン環境を支配していました。

Tom Ross - 「ホガーク・ヴァイン」
グランプリ・ダラス/フォートワース2019 8位 / モダン (2019年6月29~30日)[MO] [ARENA]
1 《
3 《血の墓所
2 《草むした墓
4 《血染めのぬかるみ
4 《汚染された三角州
4 《黒割れの崖

-土地(18)-

4 《屍肉喰らい
4 《墓所這い
4 《傲慢な新生子
4 《縫い師への供給者
4 《恐血鬼
4 《復讐蔦
4 《甦る死滅都市、ホガーク

-クリーチャー(28)-
4 《信仰無き物あさり
1 《暗黒破
1 《稲妻の斧
4 《狂気の祭壇
4 《黄泉からの橋

-呪文(14)-
2 《鋳塊かじり
4 《自然の要求
3 《思考囲い
2 《致命的な一押し
4 《虚空の力線

-サイドボード(15)-
ChannelFireball より引用)

 前環境に存在していた《黄泉からの橋》と《復讐蔦》を軸にした墓地利用デッキに《甦る死滅都市、ホガーク》が加入し、一気に強化&改名された「ホガーク・ヴァイン」です。

 《甦る死滅都市、ホガーク》はこのデッキとの相性は抜群で、《縫い師への供給者》を2枚プレイした場合、初手7枚+通常ドロー1枚(先手の場合)、《縫い師への供給者》で墓地に送られた6枚の14枚のうちに《甦る死滅都市、ホガーク》があれば、2ターン目に8/8トランプルをプレイすることが可能です。

 その他、強力な「サクリ台」であり、クリーチャータイプがゾンビであるため《墓所這い》と相性の良い《屍肉喰らい》。

 サクり台兼、通常ダメージ以外での勝ち手段を供給してくれる《狂気の祭壇》。

 こちらも《甦る死滅都市、ホガーク》との相性は抜群で、《甦る死滅都市、ホガーク》を生け贄に捧げると自分のライブラリーを8枚墓地に送り込むことができますから、《黄泉からの橋》と組み合わせると大量に自分の墓地を肥やすことが可能で、その墓地リソースを活かしてそのターン中に相手のライブラリーをゼロにできます。

 《狂気の祭壇》はこういうクリーチャーベースのデッキの天敵である《罠の橋》などへの対抗手段として優れています。ダメージを与えなくても、相手のライブラリーをゼロにしてしまえば良いわけですからね。

 再現性が高く、爆発力もあり、多角的な攻めも可能なデッキがそのまま野放しになるわけがなく、MCバルセロナ前に行われた禁止改訂では《黄泉からの橋》が禁止に。

 監視ポストに座っていると言われている《信仰無き物あさり》なんかでも良いかなと考えていましたが、《信仰無き物あさり》は他のモダンデッキに与える影響も大きく、「ホガーク・ヴァイン」のみを弱体化させるには良い禁止に感じられました。

 《黄泉からの橋》《狂気の祭壇》《甦る死滅都市、ホガーク》の3枚で2ターン目に相手のライブラリーが0枚になるのはあまりにも不健全に見えましたからね。

 これによって「ホガーク・ヴァイン」は弱体化され、環境から退場する予定……でした。

2.環境推移

「青白コントロール」の大幅強化

 《廃墟の地》、《選択》、《精神を刻む者、ジェイス》解禁と、徐々にアップグレードされてきた「青白コントロール」ですが、『灯争大戦』『モダンホライゾン』と2つのセットを経て大幅に強化されました。

 『灯争大戦』から《覆いを割く者、ナーセット》、《時を解す者、テフェリー》と軽量のプレインズウォーカー2種が加入。これらはアドバンテージ獲得手段として優秀なだけでなく、常在型能力も強力です。

 「青白コントロール」は基本的にはコンボデッキを苦手としていますが、《覆いを割く者、ナーセット》で《グリセルブランド》のドローを止めたり、《時を解す者、テフェリー》で《睡蓮の花》の待機明けを止めたりと、さまざまなカードの抑止にもなります。

 また、《意志の力》のモダン版である《否定の力》の登場も「青白コントロール」の台頭に拍車をかけます。

 《否定の力》は《意志の力》と違って相手のターンにしか代替コストでプレイできない制約があるため、自分のスペルを通しに行くよりも、相手の脅威を打ち消すことに長けています。

 《否定の力》は打ち消した呪文を追放するため、《信仰無き物あさり》や《壌土からの生命》といった墓地に落としたくない呪文を追放することができ、メインデッキは圧倒的に相性が悪かった「発掘」デッキへの相性を改善することに。

「イゼット・フェニックス」の強化

 「イゼット・フェニックス」も、「青白コントロール」と比べると地味に感じてしまいますが、『モダンホライゾン』から《溶岩の投げ矢》、《炎のアリア》と着実な戦力を手に入れていました。

 《溶岩の投げ矢》はカード1枚で2枚の呪文カウントができ、《思考掃き》などとの相性の良さから、《はらわた撃ち》が入っていたスロットに入ってきました。これにより対「人間」のような手数が欲しいマッチアップで星を落としづらくなりました。

 《炎のアリア》は、盤面への干渉をしなくて良いマッチアップであれば墓地を経由しない《紅蓮術士の昇天》のようなカードで、特にサイドボード後に墓地対策を取ってきた相手に効果を発揮します。

 7回呪文を唱えると28点入りますから、相手の土地から受けるダメージを考慮すれば、それで足りる計算になります。

 7回の呪文プレイは「イゼット・フェニックス」にはたやすいことで、《炎のアリア》を設置後おおよそ2ターン以内で相手のライフを削り切ってしまうでしょう。

「ジャンド」の強化

 『モダンホライゾン』の目玉カードである《レンと六番》。それがフィットしたのはミッドレンジの王、「ジャンド」デッキでした。

 《レンと六番》を使ってくれ!と言わんばかりに、『モダンホライゾン』には《育成泥炭地》などの通称キャノピーランド、《やせた原野》などのサイクリングランドが収録されています。これらにより《レンと六番》の[+1]を土地以外のリソースに変換することが可能です。

 《レンと六番》は《最後の望み、リリアナ》と非常に似た性質を持つカードだと考えています。

 ただ、《レンと六番》は[+1]でアドバンテージを獲得するのに対し、《最後の望み、リリアナ》は[-2]でそれをするので、《レンと六番》の方が堅実なカードといった印象です。

 また《レンと六番》は盤面への対応がダメージなので、クリーチャーへの干渉力では《最後の望み、リリアナ》と比べて一歩劣りますが、プレインズウォーカーへの牽制ができる点も見逃せません。《時を解す者、テフェリー》など、忠誠値が1で残るプレインズウォーカーも少なくありませんから、1点ダメージも軽視できません。

最高工匠卿、ウルザ》デッキの出現

 《レンと六番》と同じく『モダンホライゾン』で注目カードの《最高工匠卿、ウルザ》。《クラーク族の鉄工所》なき今、アーティファクト・コンボとしての立ち位置を担うことに。

 《最高工匠卿、ウルザ》は《飛行機械の鋳造所》《弱者の剣》と揃うと、

 の繰り返しで無限マナ(飛行機械・トークンからも{U}を出せるため)、無限ライフ、無限トークンとなり、ウルザの起動型能力で無限にライブラリーからカードをプレイすることが可能です。

 《イシュ・サーの背骨》がデッキに入っているのであれば、相手の盤面の土地を含むすべてのパーマネントを破壊することができ、反撃の隙を与えません。

 同じく『モダンホライゾン』収録の《ゴブリンの技師》が《弱者の剣》と相性が良く、墓地に送る誘発型能力は実質的に《弱者の剣》をサーチしていることになります。

 そのため青赤2色は確定で、《飛行機械の鋳造所》のためにプラスで黒か白を足している構築が一般的です。

3.デッキ評価

青白コントロール

評価……△

 「青白コントロール」の評価は実に「そこそこ」です。

 『灯争大戦』発売直後ならいざ知らず、現環境において《覆いを割く者、ナーセット》、《時を解す者、テフェリー》が劇的に効くマッチアップ自体が減っていました。

 《覆いを割く者、ナーセット》はまだマシで、特に《時を解す者、テフェリー》は大体ソーサリータイミングで相手のクリーチャーなどを手札に戻して1枚ドローするだけのカードとなり下がっていて、プレイに値しないなといった印象。

 全体除去の選定ですが、《否定の力》を使う関係上、青いカードであり代替コストで追放できるという点で《至高の評決》に軍配が上がります。《否定の力》を代替コストでプレイするようなマッチアップでは《至高の評決》は不要牌になりやすい点でも整合性があります。

 ただ、ミシックチャンピオンシップ直前にMagic Onlineで爆発的に増えた「ホガーク・ヴァイン」への対策を考えると、《至高の評決》では不十分で、墓地に送り込まない全体除去である《終末》を必要とします。

 ただ、《終末》は青いカードではないため《否定の力》の代替コストになれませんし、デッキの中核をなす《覆いを割く者、ナーセット》の[-2]能力と相性が悪く、環境的には《終末》を採用したいところだが、デッキ内で整合性が取れないといったチグハグな状態に。

 3マナプレインズウォーカーをプレイしただけでイージーウィンがある、《至高の評決》を《否定の力》の代替コストにできるなどの部分を気に入っていたので、ある程度「青白コントロール」はプレイしましたが、それらに赤信号が点いてしまった以上、使用は断念するのが賢明でしょう。

イゼット・フェニックス

評価……△

 一方、『モダンホライゾン』で強化されたデッキの1つである「イゼット・フェニックス」の感想は「使いたくはない」です。

 「青白コントロール」の項では3マナのプレインズウォーカー2種が環境的にあまり強くないと述べましたが、こと「イゼット・フェニックス」は別です。

 《覆いを割く者、ナーセット》で各種ドロー呪文を止められてしまいますし、《時を解す者、テフェリー》で《約束の終焉》がプレイできなくなってしまいます。これらは前スタンダード環境と全く一緒ですね。

 『モダンホライゾン』で加入した新カード《炎のアリア》も、環境初期は劇的に働いていましたが、環境が熟知されていくにつれて、《時を解す者、テフェリー》をしっかり合わせられたり、《天界の粛清》がサイドボードに多くなっていたりと、対策もしっかり取られるようになってきました。

 その他、環境のトップ3にいるだろうと考えていた「エルドラージ・トロン」の《虚空の杯》X=1でフリールーズしてしまったりと、環境上位と思われる「青白コントロール」「エルドラージ・トロン」などへの相性の悪さが浮き彫りになってきました。

 まだ私が「イゼット・フェニックス」の達人であれば別の話ですが、調整中にほとんどプレイしていなかった関係から、これらの不利マッチアップをプレイで覆すことはなく、ただただ相性通りの結果に終わるだろうなと考えたら、これを使うことにはならないでしょう。

ジャンド

評価……×

 《レンと六番》が加入し大幅強化。また各地のトーナメントで結果を残していた「ジャンド」ですが、私の感触は「とても悪い」です。

 最も看過できない問題は、《闇の腹心》の採用のしづらさ。

 自分たちが採用している《レンと六番》によって、「ジャンド」を代表するクリーチャーの一角であった《闇の腹心》はデッキから追いやられ、採用枚数も0~2枚程度と抑えめに。

 そのため対コントロールや、対コンボデッキで黄金ムーブであった《思考囲い》などの手札破壊から《闇の腹心》ができなくなってしまいました。

 対コントロールではその部分が《レンと六番》でも決して悪くはないのですが、対コンボでは見るも無残。キルターン+妨害手段が求められる対コンボにおいて《レンと六番》は悠長過ぎます。

 そのため、対コンボにおいて有効的な展開が手札破壊からの《タルモゴイフ》しかなく、またそれも《闇の腹心》と比べると寂しい動きです。

 総合すると、《レンと六番》で得たものより失ったもの(《闇の腹心》)の方が大きいといった印象で、ダウングレードしていると考えるならこのデッキをプレイする理由はないでしょう。

最高工匠卿、ウルザ》デッキ

評価……?

 『モダンホライゾン』の発売により出現した《最高工匠卿、ウルザ》デッキですが、端的に言えばこのデッキを調整するには時間が足りませんでした。

 メインは高い勝率を誇りますが、問題はサイドボード後。

 《石のような静寂》のようなアーティファクト対策はもちろんのこと、《虚空の力線》のような墓地対策も効いてしまう有様で、サイドボード後はコテンパンにされます。

 サイドボード後はアーティファクト対策、墓地対策が効きづらいカード群で戦うことになりますが、ドローできなかった場合、対処された場合は窮地に立たされます。

 メイン、サイドボード後を合わせて常に強い《最高工匠卿、ウルザ》はぜひ引きたいカードですが、相手の除去を加味して2枚までならともかく、3枚以上引いてしまうとさすがにデッキの動きが悪くなります。

 かといって絶対に1枚目はドローしたいので4枚採用せざるを得ず……といったように、《最高工匠卿、ウルザ》に依存したデッキでありながらも《最高工匠卿、ウルザ》を多重に引きたくない、などのチグハグさが目立ちます。

 また、《最高工匠卿、ウルザ》のために青は確定なのですが、《ゴブリンの技師》はサイドボード後墓地対策がプレイされている状況でドローしてしまうと完全に腐ってしまう、そのためサイドボード後減らしやすい関係上赤は不要の可能性も出てきて、デッキ構築がカラーから始まる始末。

 新しいデッキなので可能性は感じますが、不満点を洗い出してからのゼロベースでの構築となり、それをするにしては時間が足らないなと考えていたらタイムアップ。

エルドラージ・トロン

評価……△

 《黄泉からの橋》が禁止になって以降、結果を残したデッキの1つである「エルドラージ・トロン」。

 《大いなる創造者、カーン》の加入により、筋肉ビートダウン一辺倒であったゲームプランに柔軟性が足されました。

 今まで各エルドラージでビシバシ攻撃していたと思ったら、ライフレースに勝てないとみるやいなや《罠の橋》をサーチしてきたり、《マイコシンスの格子》を持ってきて急にゲームを終わらせに掛かってきたりします。

 その他、サイドボードから《トーモッドの墓所》や《真髄の針》をサーチしてきたり、さまざまな局面に対応できる《大いなる創造者、カーン》は「エルドラージ・トロン」に非常にフィットしたカードです。

 ただ、《大いなる創造者、カーン》のサーチ先を用意する必要があるため、サイドボード不足は深刻です。

 4枚入っている《虚空の力線》、2~3枚程度入っている《次元の歪曲》などの除去呪文以外は、実質的にサイドカードとして用意されていません。

 ミラーマッチが最も惨憺たる有り様で、お互いにメインデッキには《虚空の杯》や《全ては塵》などの完全不要牌を有しているにも関わらず、サイドボードにそれらと替えれるカードを用意できていないため、それらをしょうがなく残して引かないことに賭けるか、《真髄の針》などのおおよそ効果的ではないけれど《虚空の杯》などの完全不要牌よりマシと考えて入れ替えるかなど、まぁまぁとても酷い状態で、目の前にあるものを投げつけているだけのガキのケンカに近しいものを感じます。

4.《甦る死滅都市、ホガーク》との出会い

 チーム『武蔵』では恒例の八十岡さん邸でのドラフト合宿。

 今回はミシックチャンピオンシップの2週間前に行われたのですが、チーム『曲者』合宿と日程的に被っていなかったこと、『武蔵』だけではドラフトメンツが足りなかった経緯から、『曲者』さんから希望者を募ってドラフト合宿に参加してもらうことに。

 基本的にドラフトに重点を置いた合宿なので、構築の練習はしなかったのですが、井川良彦さんが一人回し用に持ってきた《面晶体のカニ》入りの「ホガーク・ヴァイン」の動きが凄く、チームの注目の的に。

Top-8-Yoshihiko-Ikawa.jpg

 井川さんは《黄泉からの橋》が禁止になる以前のモダングランプリであるグランプリ・ダラス/フォートワース2019に「ホガーク・ヴァイン」で出場しており、「ホガーク・ヴァイン」のポテンシャルをチーム内で最も理解していました。

「《黄泉からの橋》禁止だけでは《甦る死滅都市、ホガーク》は死なない!」

 とは本人の弁で、一人回しで動いている様を見ると、2ターン目に《甦る死滅都市、ホガーク》はかなりの確率で出ますし、それに《復讐蔦》が付いてくるなんてよくある光景。

 2ターン目《復讐蔦》だけなら渋周りに感じてしまうほどで、それがブン周りに含まれていた前環境の「ブリッジ・ヴァイン」とは何だったのかと感じてしまうほどでした。

 この感想は他のチームメンバーも同じだったようで、この週を境に、チーム内で急激に「ホガーク・ヴァイン」の調整が進みます。

 Magic Onlineでの勝率も高く、リアルで行われた調整会でも感触が上々で、今大会で最もデッキパワーが高いと確信。

 チームメンバーのほとんどのプレイヤーが使用に至り、ミシックチャンピオンシップが行われるバルセロナに向かう3日前、合同チームでの議論ではざっくりとこのようなリストに仕上がっていました。

5.メインデッキ

チーム『武蔵』&『曲者』 - 「ホガーク・ヴァイン」
モダン (2019年7月)[MO] [ARENA]
1 《
2 《草むした墓
1 《血の墓所
1 《湿った墓
1 《蒸気孔
4 《血染めのぬかるみ
4 《汚染された三角州
2 《宝石鉱山
2 《マナの合流点
1 土地

-土地(19)-

4 《屍肉喰らい
4 《墓所這い
4 《面晶体のカニ
4 《縫い師への供給者
2 《墓所破り
4 《恐血鬼
4 《サテュロスの道探し
4 《復讐蔦
4 《甦る死滅都市、ホガーク

-クリーチャー(34)-
4 《信仰無き物あさり
3 除去

-呪文(7)-
クリーチャー

 「ブリッジ・ヴァイン」の時は捨てたいカードが《黄泉からの橋》《復讐蔦》と複数ありましたが、《黄泉からの橋》が禁止になった今、捨てたいカードは《復讐蔦》のみに減っており、それだけなら《信仰無き物あさり》だけで賄えるため不採用に。

 《恐血鬼》も捨てたいカードの1つではありますが、《恐血鬼》のディスカードでは《傲慢な新生子》で失われるアドバンテージとバリューが釣り合いません。

 《傲慢な新生子》の替わりに《墓所破り》を採用。

 《墓所破り》の起動型能力2種はほとんど使用することはありません。稀にドローの方だけ使いますが、勝利貢献度はほぼ皆無でしょう。

 このスロットは、1マナの黒か緑のクリーチャーで、ゾンビであることが重要です。

 《復讐蔦》を2ターン目に墓地から戦場に戻すためには1マナのクリーチャーが2枚以上手札にあることが求められますし、それは《甦る死滅都市、ホガーク》においても同様です。

 ゾンビであることによって、墓地に落ちた《墓所這い》を戦場に呼び戻すことも可能です。

 「ホガーク・ヴァイン」はメインデッキが圧倒的な勝率を誇り、逆にサイドボード後には基本的に勝率が下がるデッキです。

 そのため、「1マナクリーチャーを2枚引けなくて《復讐蔦》、《甦る死滅都市、ホガーク》を戻せなかった」や「ゾンビを引けなくて《墓所這い》を戻せなかった」などのデッキが回らないことによるメインデッキの敗北を極力減らすために《墓所破り》が入っています。

 デッキに入れてからというもの本当に起動型能力を起動しないため、これなら同じゾンビで1マナクリーチャーの《滑り頭》でも良いのではないかとも考えましたが、対「青白コントロール」などのロングゲームが想定されるマッチアップでは《墓所破り》の起動型能力が光る場面もあったため、《墓所破り》を採用しました。

 《サテュロスの道探し》はジャンド型の「ホガーク・ヴァイン」で採用されはじめていたカードで、私たちが調整していた「カニ・ホガーク」にも採用されることに。

 《サテュロスの道探し》は2マナと重く、初速に寄与しづらい点もあるものの、1ターン目に1マナの黒いクリーチャーをプレイしていたら、おおよそ2ターン目《甦る死滅都市、ホガーク》には貢献してくれますし、土地を手札に加える能力はサイドボード後の《復讐蔦》を通常プレイするような長期戦になった時に重宝します。

 上陸によって墓地を肥やす《面晶体のカニ》との相性の良さは言わずもがなですね。

 空いている呪文のスロットには除去を入れることで大方決まりました。

 MCバルセロナは前回のMCロンドンに続いてデッキリストが公開制であるため、ある程度メインに除去を採用していないと「イゼット・フェニックス」が《氷の中の存在》にオールインするプランなどにリスクが発生しないですし、対「人間」での《翻弄する魔導士》の指定にも裏目が起きず、そのタイミングで最も脅威な呪文を指定されることになります。

 除去の選定ですが、基本的には《致命的な一押し》が最も優れていると判断。黒マナからプレイできることによって、対アグロでのライフ損失を抑えることができますし、《氷の中の存在》から変身した《目覚めた恐怖》や、やたら大きくなってしまった《タルモゴイフ》など、課題となりそうなクリーチャーたちを軒並み対処できます。

 《傲慢な新生子》を採用していない関係から、ディスカード手段を増やしたい人は《稲妻の斧》も検討していて、この辺りは好みが分かれそうなところ。

 私的には《稲妻の斧》で《復讐蔦》を捨てられてゲームに貢献することがかなりのレアケースでほぼ起こらず、逆に《致命的な一押し》は《》からプレイできるため土地ダメージを受けづらかったり、土地のサーチの仕方で裏目が発生しないため、《致命的な一押し》にしようと考えていました。

マナ・ベース

 黒ベースの4色デッキで《蒸気孔》を採用することは多大なリスクを伴います。

 初手にこれだけではキープしづらいですし、《墓所這い》などが良い例ですが、基本的に{B}のみで複数回行動を取ることが多いこのデッキでは、よく足を引っ張ります。

 そのため、基本的には不要な土地なのですが、《信仰無き物あさり》《面晶体のカニ》と動き出す初手が来た時は別です。

 1ターン目に《信仰無き物あさり》をプレイし、墓地に《復讐蔦》や《恐血鬼》などのカードを落とし、次のターンに《面晶体のカニ》をプレイ→フェッチランドを置いて上陸2回……といったような展開をするには《蒸気孔》は必要不可欠です。

 これ以外の展開では要らない土地ではあるのですが、こういう初手はよく来るパターンの1つで、このような手札が受からないマナベースは看過できない。という結論になり《蒸気孔》採用することに。

 《蒸気孔》を採用しつつ、《》と黒絡みのギルドランドをサーチして来られるのは《汚染された三角州》と《血染めのぬかるみ》のみですので、それらにフェッチランドは確定。

 4色デッキでありながら土地の枚数が19枚程度と、土地の総数を絞らなければいけない関係から、5色土地の採用は必須です。

 4枚スロットを割くことにし、その配分を様々検討しましたが、《宝石鉱山》と《マナの合流点》を2枚で散らすことにしました。

 どちらも2枚以上初手にあると動きづらく、1枚程度なら許容できるといった感想で、であるならばリスクを分散させるのは当然です。

 最初はこんなにフェッチランドとギルドランドがあるデッキでさらにライフを失う《マナの合流点》を入れることに否定的でしたが、初手に土地が《マナの合流点》と《汚染された三角州》といったような組み合わせだと《汚染された三角州》から《》をサーチしてくることができ、《汚染された三角州》と《血染めのぬかるみ》から各ギルドランドをショックインする6点より、トータルでダメージを受けないことが多く、意外とデッキに優しいことがわかり、《マナの合流点》が好きになりました。

 残り1枚の土地枠は《血の墓所》か《》で、どちらにもメリット、デメリットがあります。

 《血の墓所》を採用するとデッキ内に入っている赤マナ源が3つに増え、ライブラリーを削る過程でデッキ内の赤マナ源が全部墓地に落ちてしまう色マナ事故を防げます。

 また、デッキ内に赤マナ源が残っていてもそれが《蒸気孔》だと、デッキの動きを妨げてしまう要因にもなり得ますから、そこを加味して《血の墓所》を2枚採用することも頷けます。

 逆に《》を2枚採用すると、対「人間」や対「赤単フェニックス」などの、ライフを攻めてくるアグロデッキへの耐性が上がります。

 5色土地、《》、《》のように土地ダメージを極力抑えることができ、またライブラリーを削る過程で《》が落ちてしまっても、フェッチランドからギルドランドをショックインせざるを得ない状況を防ぐことができます。

 また、対「青白コントロール」では《流刑への道》《廃墟の地》などの基本土地を参照するカードを複数枚プレイされることが多く、《》が2枚入っていると「青白コントロール」にもマナベース面で耐性が付きます

 私的には、総合すると赤マナ事故はあり得るリスクではありますが、練習段階であまり起こらなかったですし、「青白コントロール」のようなロングゲームが想定されるマッチアップではデッキ内に入っている基本土地の枚数が間違いなく影響すると考え、《》を2枚採用することにしました。

6.サイドボード

 メインデッキは圧倒的な勝率を誇る「ホガーク・ヴァイン」ですが、サイドボード後は墓地対策を投入され、苦戦が強いられます。

 課題はサイドボード後なのです。

帰化》系枠 4~6

 対戦相手は墓地対策を《墓掘りの檻》や《虚空の力線》などのパーマネントに委ねているケースが多く、それらに対しては《帰化》系の呪文を合わせなければ敗北必至なので、4~6枚程度のスロットが必要です。

 問題としては、その《帰化》系の最善が各マッチアップで違うことです。

 同型では対戦相手の《虚空の力線》を1マナと軽く対処できる《自然の要求》が最も優れていますが、「エルドラージ・トロン」の《虚空の杯》に対処できないため裏目が発生します。

 一方、《活性の力》は「エルドラージ・トロン」の《虚空の力線》から《虚空の杯》X=1の動きへの完璧な回答であり、テンポロスもありません。

 ですが、ミラーマッチで《虚空の力線》を対処するにはアドバンテージの損失が気になります。また、お互いに《虚空の力線》か《帰化》系のスペルを探しに行くことになりますから、マリガンを重ねる展開が多く、そうなった場合に他の緑のカードを必要とする《活性の力》がプレイできるかは疑問符が付きます。

 《暗殺者の戦利品》はこれらの問題をクリアしてはいますが、ミラーマッチでは2マナと重く、「エルドラージ・トロン」などのデッキに土地を与えてしまうことは大きなマイナスで、汎用性が高い分プレイした時のバリューも低いのが欠点です。

墓地対策枠 4枚

 墓地対策は《虚空の力線》が一般的です。ミラーマッチで最も信頼性があり、片方が《虚空の力線》をコントロールしていればそれだけでゲームが決まってしまいます。

 一方、ミラーマッチの「《虚空の力線》あった方が勝ち、お互いにあったらさらに《帰化》系を持っている方が勝ち」という不毛なサイドボード後を嫌ったチームメンバーの行弘さんは、デッキリスト公開を逆手に取って「見せ《虚空の力線》」を1枚サイドに取りサイドインせず、《外科的摘出》を3枚投入することによって相手の《帰化》系呪文を腐らせるプランを考案していました。

思考囲い》 2~4枚

 主に自分よりキルターンの早いコンボデッキ、「ネオブランド」や「グリセルシュート」などに対しての干渉手段としての採用。

 汎用性の高いカードなので対「青白コントロール」などにもサイドインしやすく、ただ間違いなくデッキの動きを阻害する呪文でもあるので採用枚数が難しいスロットでもあります。

フリースロット 2~4枚

 対「人間」で劇的、意外とミラーマッチでもいぶし銀な働きをする《疫病を仕組むもの》だったり、

 対「バーン」での先手ゲーを緩和する、対「ドルイド・コンボ」では劇的な《集団的蛮行》だったり、

 アーティファクトが多いときも安心!な《悪ふざけ》だったり、

 はたまた非常に堅実な4枚目の1マナ除去だったりと、サイドに採用したいカードは山ほどあります。

7.《遥かなる旅路

 メインデッキはある程度固まり、逆にサイドボードだけ未だ議論の渦中にある状態でバルセロナへの出発の日を迎えます。

 これは各々の考えているサイドボードプラン、ゲームプランが異なっているために発生していると予測され、これらを現地で集まってすり合わせる時間が必要です。

 幸い、私たちが出発したのは水曜日。

 到着もあちらの水曜日ですから、木曜日の丸一日をそれらのすり合わせに使うことができます。

 ミシックチャンピオンシップの直前週は構築ばかりにかまけていたこともあり、現地に着いたらドラフトも最低2回はしたいところ。

 今回は良い準備ができたし、満足が行くところまであと一歩!

 これは……これは今回のミシックチャンピオンシップ、期待が持てそうです!


 といったところで前編は終了!

 後編はとある移動の話から、ドラフト雑感を踏まえてのトーナメントレポートとなります!

 お楽しみに!

市川

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