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週刊デッキ構築劇場

第77回:高橋純也のデッキ構築劇場・スタンダードデッキ構築概論3

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週刊デッキ構築劇場

2012.09.10

第77回:高橋純也のデッキ構築劇場・スタンダードデッキ構築概論3

演者紹介:高橋 純也

 2005年のグランプリ・松山にて、《狩猟の神》を重用した鮮烈なドラフトコンセプト「赤緑ラッシュ」を披露して一躍名を轟かせる。
 その『ほとばしる奔能(ラッシング・ラッシュ)』はリミテッドにとどまらず、グランプリ・京都2007で見るものを驚かせた「発掘」(スタンダード)、プロツアー・バレンシア2007で小池貴之をトップ8に導いた「アグロドメイン」(エクステンデッド)など、環境を問わず状況を分析し、既存のコンセプトの潜在能力を最大限に引き出す構築手腕を見せている。
 近年では、雑誌への寄稿などライティングでも存在感を発揮している、才覚あふれるプレイヤー・ライター。


~目次~

  1. 背景:環境終盤の混戦模様
  2. 出発点:オーソドックスな緑単感染
  3. 実践編1:オーソドックスからの変化
  4. 実践編2:激闘VS青白Delver&緑単感染
  5. 実践編3:サイドボードの調整と整理
  6. おわりに


1. 背景:環境終盤の混戦模様

 来月に新大型エキスパンションである『ラヴニカへの回帰』の発売を目前とした現在、スタンダード環境はローテーション前の総決算を迎えている。

 6つの独立エキスパンションに加えて2つの基本セットと最大限に広がったカードプールでの構築は、一見するとあらゆる可能性に満ち溢れたパラダイスに思えるかもしれない。だが、ゲームの勝率を追求するとなると、拡大されたカードプールがもたらす可能性以上に、これまで活躍してきた主要アーキタイプがもつ経験と蓄積による壁は分厚く高い。

 仮にデッキを評価する要素に"錬度"と"ポテンシャル"という二つがあったと仮定して、カードプールが広がったことによって生まれる魅力的な可能性やアイデアは高い"ポテンシャル"を持っているといえるのだが、これまで半年から一年以上もの間に洗練された青白Delver等の主要アーキタイプには経験に伴う"錬度"に加えて取捨選別されてきたことによる"ポテンシャル"も高い水準で維持されているのだから、それに匹敵するだけのクオリティを持たせることはとても難しいことが分かる。

 といったあらましで毎年の恒例行事のように強化・洗練された主要アーキタイプが今年も環境を埋め尽くしている。その顔ぶれは、

  • 青白Delver
  • ゾンビ系(赤黒・青黒殻)
  • 赤緑白殻

 の馴染みの三種が主だ。最低でも半月以上も揺るいでいない見飽きた常連達で、少しずつうつろう仮想敵に対して各々なりの変化はあったが、その大枠が変わったわけではなく、皆さんが簡単に思い描いた各アーキタイプ像に違わない内容を保っている。

 これらを囲うように交易所やケッシグ、エスパーコントロール、純鋼装備が虎視眈々と下克上の機会をうかがっているものの、その席次が大きく変化することはこれまでなかった。そして、"錬度"で劣る新興のアーキタイプの登場が望まれない以上、『ラヴニカへの回帰』の発売によるローテーションまでメタゲームは不動のものだと思われたが、ある一つのアーキタイプの台頭によって事態は急変した。

 それは緑単感染である。

Stjepan Su?i?
2012ワールド・マジック・カップ トップ8 / スタンダード[MO] [ARENA]
13 《
4 《戦の大聖堂
4 《墨蛾の生息地

-土地(21)-

4 《ぎらつかせのエルフ
4 《胆液爪のマイア
1 《荒廃のマンバ
1 《ヴィリジアンの堕落者

-クリーチャー(10)-
4 《はらわた撃ち
4 《変異原性の成長
3 《精神的つまづき
4 《怨恨
4 《使徒の祝福
4 《剛力化
4 《野生の抵抗
2 《緑の太陽の頂点

-呪文(29)-
1 《シルヴォクののけ者、メリーラ
3 《呪文滑り
1 《荒廃のマンバ
3 《ヴィリジアンの堕落者
1 《精神的つまづき
4 《四肢切断
2 《内にいる獣

-サイドボード(15)-


 先日のワールド・マジック・カップ2012において好成績を収めたもの(リンク先は動きを解説した鍛冶友浩の記事)が上のレシピで、前環境からもややマイナーな立ち位置ながら存在は知られていたアーキタイプであった。

 この緑単感染が再び注目を集めるようになった理由はいくつかあり、そのうちの大きな一つが「《怨恨》の再録」だ。これは単純に強力なカードであると共に、トランプルという名の回避能力を手に入れたことが大きく貢献している。

 多くの強化呪文を擁している緑単感染ではあるが、これまでその攻撃を効率よく通す手段は限られており、飛行を持つ《墨蛾の生息地》か、プロテクションを《使徒の祝福》で与える程度しか存在しなかった。

 プレイヤー達は悩み、マナベースに負担をかけてでも《荒廃の工作員》を採用したり、最大限の効果を期待して《狩られる者の逆襲》に願ったり、チープな選択ではあるが手堅く《不自然な捕食》を散りばめてみたものの期待に沿う結果は得られなかった。その点から考えるに、この度の《怨恨》はどれほど待ち焦がれていたピースだったかは、近日の活躍を見るに想像するのは難くない。

 もう一点の再注目の要素は、「青白Delver以外に強い」ということだ。かつて緑単感染が作られた当時のメタゲームは青白Delver最盛期であり、それ以外のアーキタイプはこぞってDelverを仮想敵とし、それでも苦戦を強いられていた。その時代において青白Delverを苦手とする緑単感染は、まさに時代に逆行していたとしか言いようがなく、最大の仮想敵には勝てず、それらを取り巻く少数勢に対してエッジをもっている、というわけの分からない存在だったのだ。

 だが、今日においても青白Delverは隆盛を誇っているにも関わらず、緑単感染は日の目を浴びることとなった。それは《怨恨》の貢献ではなく、メタゲームのバランスの変容に鍵がある。かつては青白Delverがメタゲームを牽引しており、最大勢力であったが、現在のメタゲームは構成要素に大きな差異はなくともその存在数のバランスは大きく変化しているのだ。

 具体的には、青白Delverは数を減らし、その他の比率が大きく向上している。また、かつては『やりたいことをやる=強い』が成立するという傍若無人であったDelverも今では対応する構築を迫られており、周囲に対応する構築によってややムラが生まれる構成であることも珍しくはない。苦手なDelverは数を減らし、得意なアーキタイプが増加したとあれば注目されるのも当然だろう。

 主にこの二点において復活した緑単感染だが、青白Delverとのマッチアップはいまだに改善の兆しが見られない。《はらわた撃ち》、《蒸気の絡みつき》といった軽量インスタントはどれも感染側の行動を効率よく阻害し、防御手段を多く持たない感染は《聖トラフトの霊》と《秘密を掘り下げる者》に攻撃され続ける。

 どちらも同程度、あるいは感染のほうがやや鋭い剣を持っているものの、Delver側だけがそれを防ぐ盾を持っているのだから頭が痛くなるゲームになることは避けられない。上で紹介したレシピではやや工夫が凝らされているものの、これでも良くて五分五分といったところだろう。その他のアーキタイプに強いことは大きなメリットで、透けるほど見えている大きな問題点が埋まらないのは見ていてもどかしい。

 そこで、今回の構築劇場では緑単感染にフィーチャーし、Delverを克服することを目的に試行錯誤していく。


2. 出発点:オーソドックスな感染の分解

Stjepan Su?i?
2012ワールド・マジック・カップ トップ8 / スタンダード[MO] [ARENA]
13 《
4 《戦の大聖堂
4 《墨蛾の生息地

-土地(21)-

4 《ぎらつかせのエルフ
4 《胆液爪のマイア
1 《荒廃のマンバ
1 《ヴィリジアンの堕落者

-クリーチャー(10)-
4 《はらわた撃ち
4 《変異原性の成長
3 《精神的つまづき
4 《怨恨
4 《使徒の祝福
4 《剛力化
4 《野生の抵抗
2 《緑の太陽の頂点

-呪文(29)-
1 《シルヴォクののけ者、メリーラ
3 《呪文滑り
1 《荒廃のマンバ
3 《ヴィリジアンの堕落者
1 《精神的つまづき
4 《四肢切断
2 《内にいる獣

-サイドボード(15)-

 再びこのリストに戻ってきた。ここでは構成されているパーツの役割を再確認し、マッチアップの相性に何がどれだけ関わっているのかを探っていく。

■クリーチャー

 この3種12枚はどのように構築しても緑単である以上は外れないパーツだと思われる。彼らは軽量な感染アタッカーで、彼らを中心としてデッキが構築されているといっても過言ではない。減らす理由があるとすれば、代替品との比較でそちらが環境的に勝った場合だけであろう。

 《緑の太陽の頂点》から呼び出されるこれら1枚ずつのパーツは、再生つきのアタッカー、アーティファクト対策として採用されている。《出産の殻》や《迫撃鞘》、《呪文滑り》、《刃の接合者》を対処できる《ヴィリジアンの堕落者》にはメインデッキではともかく、サイドボード後には大きな価値がある。《死の支配の呪い》で封殺されないタフネス2だという点も見逃せないポイントだ。

 だが、メインデッキやコンセプトからの視点だと、これらは必要不可欠というわけではない。

 これはクリーチャーではないが、役割としてはクリーチャーなのでこの項で取り扱う。主にX=1で《ぎらつかせのエルフ》をサーチしてくるが、状況に応じて上の2種や、サイドボードに潜む《シルヴォクののけ者、メリーラ》を呼んでこれることは心強い。メインストラテジーを強化しつつ、幅広い戦略を提供してくれるので外す手はないが、適正な枚数というものを見つけるのには苦労しそうな類のカードにも思えた。

 デッキ構築の際に誰もが常に直面する問題だが、「何故これはX枚なのか」という問いに答えられない選択は結果を問わずして悪だ。「好きだから4枚」でもいいので理由を見つけておくことが望ましい。そして、その理由に他人と共有できるだけの客観性があればより良い方向に進むはずだ。

 この点で言うと、今の僕には《緑の太陽の頂点》の適切だと思われる枚数は分からない。以下の試行で段々と理由を探っていくことにした。

■アクティブな呪文

 これらは3種12枚のアタッカーを強化するカード達だ。アタッカーを用意、強化する、勝つ。というプロセス以外は通らないため、絵合わせ的な感覚も含めてどれも最大限に採用して問題ないだろう。後述するが、《野生の抵抗》はリアクティブな呪文も強化に使えるようになるので、「アタッカー、アクティブ、リアクティブ」と三者三様のばらついたカードたちをまとめる接着剤としても働いている。

■リアクティブな呪文

 これらは対戦相手の防御を阻害する手段だ。あくまでも対応する類のカードであるため、これらの取捨選択については大きな変更があっても不思議ではない。《はらわた撃ち》は主に《極楽鳥》等のマナクリーチャー対策として効果的だ。

 一応《瞬唱の魔道士》や《秘密を掘り下げる者》も撃ち落せるものの、これがDelverとのマッチアップを大きく改善するようには思えなかった。《野生の抵抗》との相性(自身のクリーチャーに使用することで0マナで+3の修正を受けることができる)はあれども、本当に4枚も採用すべきかは疑問である。

 《精神的つまづき》は本当に様々なカードに対応できる。基本的には《はらわた撃ち》と《蒸気の絡みつき》を抱えるDelverに効果的だが、《悲劇的な過ち》や《火柱》、《極楽鳥》などにも対応できるためそう悪くないように思えた。

 これも枚数については不明だ。それも強力ではあるが、デッキ内の何ともシナジー及び関係を持っていないため、単純に強力な阻害手段としての役割しか以っていないためだ。その他のリアクティブな呪文の二種類は、《野生の抵抗》による強化呪文としての使用法が残されており、最悪手札に腐ることはない。ただ、《精神的つまづき》は強力である半面、非常に不安定な側面も持っている。

 《使徒の祝福》は攻防に渡って引っ張りだこの一枚だ。あるときは対戦相手の除去を弾けば、自身の攻撃をブロッカーをすり抜けて届かせることもできるからだ。さらに要求するのが無色マナだというのも素晴らしい。このデッキは何気なく21枚の内の8枚もが無色しか出ない土地であるため、緑マナの融通は意外と利かなかったりする。

■簡単なまとめ

 大きく分類して3種類のカードによってデッキは構成されており、《野生の抵抗》によってリアクティブな呪文の約70%もがアクティブな呪文としての利用も望めるように構築されていた。

 変更予定のポイントとしては、クリーチャー枠では1枚差しの2種類、リアクティブな呪文枠では《はらわた撃ち》と《精神的つまづき》が挙げられる。どれも一見するとバランスよく収まっているように見えるが、それが最適なのかといわれると首を捻らざるを得なかった。

 当初の目的である『Delverとのマッチアップの改善』という観点から言うと、クリーチャー2種はそこまで有効でなく、《精神的つまづき》は素晴らしいが、《はらわた撃ち》には疑問符がつく。

 そこで、これらの確認とサイドボードの兼ね合いへの理解を深めるためにも少々のゲームを行ってみることにした。


3. 実践編:オーソドックスからの変化

 まずいくつかのゲームを行ってみたところ、段々とデッキの問題点が浮かび上がってきた。

a) ゲームに勝利する際にリソースが余分にあることは稀

 これはもちろん緑単感染が非常に早いターン数でゲームを決めることが多いことも関係しているが、体感的にはバーンデッキのそれと似通ったものを感じた。手札にある呪文がそのまま対戦相手のライフの減少量(毒の値)と等しいことが多く、《怨恨》か追加のクリーチャーで攻撃できる機会がない限りは、ドローした呪文の数に勝敗が大きく左右されているように思えた。これはどのデッキにおいてもある程度同じことは言えるが、あくまでも想定しているターン数が少ない緑単感染では尚のこと、という意味である。

 つまり何が言いたいのかというと、手札に呪文が余ってしまってはいけないデッキなのだ。プレイする機会が無かった、あるいは余分に引いてしまった等の不具合は簡単に自滅という最期を呼んできてくれる。このことから再度《野生の抵抗》によるリアクティブな呪文のアクティブな利用という逃げ道の有用性に感心したのだが、思っている以上にこの事態は深刻だ。

 《使徒の祝福》はそもそも攻防一体であることから無縁の話だが、《はらわた撃ち》と《精神的つまづき》はデッキにおける問題点以外の何者でもなかったからだ。

 《野生の抵抗》を引かなければ阻害手段でしかない《はらわた撃ち》は、有用であるときには何よりも輝くが、そうでないときとのギャップが非常に大きな一枚だった。0マナ1点火力が有効なマッチアップは確かに多い。しかし、それでも全てを有効なタイミングで使いきれるかと問われればそうではないのが問題だ。

 大小問わずして言えば多くのカードにコストや能力がある以上リスクはつき物なのだが、ただ一枚のリソースも無駄にできない緑単感染では、不安定な《はらわた撃ち》を4枚採用することはリスキーな選択に思えた。

 《精神的つまづき》は典型的な手札に余るカードである。以上、で締めてもいいのだが、より詳しく言うと、環境に対象は溢れているがゲーム内で出会うかは別問題だということだ。上のカード紹介において《精神的つまづき》が弾くであろうカード名をつらつらと並べたが、それらがプレイされる段階で《精神的つまづき》を手札に持っており、それらがプレイされて始めてテーブルに叩きつけることができる。

 これはカウンターというタイミングカードならではの悩みだが、《精神的つまづき》には更なる問題点が付与している。それはゲームが遅れてこちらにマナがたった1マナでも余ってしまえば、《精神的つまづき》は、想定している対象を思い浮かべるにその他多くのカードの下位互換に成り下がってしまうからだ。

 《精神的つまづき》でしかできないことは、最序盤の攻防、あるいは先手後手の入れ替え等の時間的なアドバンテージにある。初手にあるときが最も強く、ゲームが進行するにつれて急激に価値を下げていくのだ。そして最底辺に達したとき、プレイヤーは手札に2枚の《精神的つまづき》を抱えてゲームに敗北する。

b) 《刃の接合者》の壁

 もうとにかく高タフネスのブロッカーはそれだけで嫌いなのだが、《刃の接合者》は名指しするほど緑単感染にとって致命的だった。《怨恨》がついた生物が止まってしまったり、突破しようとすれば強化呪文を1枚使用させられる。また、最後にプロテクションの力で突破しようにも、白ともう一色に加えてアーティファクトまで加わってしまうと如何ともし難いものがある。

 構築段階では《ヴィリジアンの堕落者》の有無はやや疑問の範囲だったが、今では自信を持って最低1枚はメインデッキに採用するべきだと言える。あるいは《修復の天使》や《高原の狩りの達人》への対策も兼ねて《四肢切断》もメインデッキから最低限必要かもしれない。

 サイドボード後には《シルヴォクののけ者、メリーラ》、《呪文滑り》への解答と同系対策で多くの《四肢切断》は採用するが、メインデッキから1~2枚であれば幸いメタゲームにクリーチャーデッキが多いこともあって無駄なく効果的に使えるかもしれない。

c) 《野生の抵抗》が期待はずれ

 こう書くと弱く聞こえてしまうかもしれないが、最初に弁解すると、このカードは非常に強力でメインデッキから4枚丸ごと抜くことはないと断言できる。ただ、余りに重く、2枚目が確実に不要な一枚となってしまうのだ。一つ目の問題点で挙げた余分なリソースの中に《野生の抵抗》の2枚目が含まれることは僕には盲点だった。

 確実に必要で強力なアーキタイプの中心が敗北の要因になるとは想定していなかったからだ。重ねてプレイするともちろん効果も倍となるのだが、それに費やすマナとカードと比較して、得られる効果の増加は微々たる物、むしろマイナス計上だろう。かといって枚数を減らすべきかと問われれば頭を悩ませてしまう。

 なぜならば現状のデッキの構成は、ばらばらな3種のカード群を《野生の抵抗》1枚が統率している状態だからだ。《野生の抵抗》への依存を減らすことは、《はらわた撃ち》や《使徒の祝福》の効果を下げ、最悪デッキの空中分解にも達してしまうだろう。減らす選択肢を取るとすれば、《はらわた撃ち》等のリアクティブの呪文を選別し、現状のような《野生の抵抗》への依存度を下げた後にするべきだろう。

■試作品1号
試作品1号[MO] [ARENA]
13 《
4 《戦の大聖堂
4 《墨蛾の生息地

-土地(21)-

4 《ぎらつかせのエルフ
4 《胆液爪のマイア
1 《ヴィリジアンの堕落者
1 《荒廃のマンバ

-クリーチャー(10)-
4 《野生の抵抗
4 《変異原性の成長
4 《怨恨
4 《剛力化
4 《使徒の祝福
3 《レインジャーの悪知恵
3 《はらわた撃ち
2 《緑の太陽の頂点
1 《四肢切断

-呪文(29)-

 以上が整理した後のメインデッキだ。簡単に言うと、《精神的つまづき》を抜いて《レインジャーの悪知恵》を入れた。これは《精神的つまづき》が不安定だったことを鑑みて、同様の役割を持つ手札に余らないカードを採用することにしたからだ。マナがかかるという一点が致命的かつ決定的な違いだが、それ以上にメインデッキにおいては一切の無駄を省く姿勢を目指すべきだと感じたのだ。

 《精神的つまづき》はサイドボードからでいい。このときは少なくともそう思っていた。


4. 実践編2:激闘・青白Delver vs 緑単感染

 無駄を省くことでスリムになった緑単感染はこれまでの敗北ルートを回避するゲームも見え始め、順調な調整が進むかと考えていたが、対青白Delverの勝率も同様に順調な右肩下がりを見せていた。とにかく対戦相手の対応策が軽いのだ。まあ、0マナと1マナなので見るからに軽いことは理解していたが、一方的に相手がレースをずらすタイミングを決められるため、その軽快さは想像以上だった。

 その他もろもろには元から有利であり、取りこぼしがなくなったことは確実な収穫だった。ただ、それでも青白Delverに勝てない現状は打破しなければならない。不安定なカードを省くことでデッキ自体の健全性というか効率性は向上したものの、それでもゲームに勝てなければ余り意味はない。どれだけ不安定を呼び込んで厳しいマッチアップを改善するのかがここからの調整に求められている要素だろう。

 それには、抜いたばかりで非常に馬鹿らしいのだが、結論から言うと、おそらく《精神的つまづき》を再びデッキに組み戻すことが必要だと思われた。複数枚引くと機能不全を起こすが、そのリスクを抱えることで改善されるマッチアップがあるのならばやむを得まいといったところだ。それでも何とか《精神的つまづき》を再び加えることを渋って他の方法を探していたところ、次なる問題点が浮かび上がってきたのだ。

 それは緑単感染同士のマッチアップにおいて《精神的つまづき》の有無が大きく影響するという点だ。何よりも先手後手が重要なマッチアップで尚且つキーカードである《ぎらつかせのエルフ》や《怨恨》がカウンターされるとあればそれはもうとてつもないロスになる。果たして何枚がいいのかはともかく、「メインデッキに入っていない」というだけで不利であることは理解できた。

■試作品2号
試作品2号[MO] [ARENA]
13 《
4 《戦の大聖堂
4 《墨蛾の生息地

-土地(21)-

4 《ぎらつかせのエルフ
4 《胆液爪のマイア
1 《ヴィリジアンの堕落者

-クリーチャー(9)-
4 《野生の抵抗
4 《変異原性の成長
4 《怨恨
4 《剛力化
4 《使徒の祝福
3 《レインジャーの悪知恵
3 《はらわた撃ち
2 《緑の太陽の頂点
2 《精神的つまづき

-呪文(30)-

 どうにもよく分からない存在だった《荒廃のマンバ》に別れを告げ、最も役割が小さな《四肢切断》も排除した。

 どこか振り出しに戻ったような感覚があるが、そもそも《刃の接合者》のための《四肢切断》で、《刃の接合者》が緑赤白殻という有利なマッチアップにおいて採用されている以上、最初の段階で問題点に取り上げたことがミスだったに違いない。確かに《刃の接合者》は厳しいが、それ以上に厳しい状況に直面しているのだから背に腹は代えられない。

 これで若干青白Delverと緑単感染のメインデッキ戦はよくなった感触を得た。だが、《精神的つまづき》を大量にメインデッキから仕込むことにはいまだに抵抗があり、それとは違う手段でより高い勝率を目指す必要が出てきたことは悲報だった。《レインジャーの悪知恵》を増加したり、《精神的つまづき》を増やしては嫌になったりしながら試行錯誤していたところ、友人の井川から貴重な意見を頂いた。

 彼はスタンダード環境では青白Delverを好んでいて、オンライン上で緑単感染とのマッチアップは相当数こなしている。そこで勝率と感染がプレイする最も厳しいカードを聞いてみたところ、勝率は予想通りの体感値を告げられたが、最も厳しいカードは想像とは違った。質問した時点で《精神的つまづき》という答えを予想していたのだが、彼によると《呪文滑り》こそがもっともタフな一枚だという。

 お約束のように毎回3枚をサイドインしていたが、メインデッキに始めから入れてしまおうという考えは不思議となかった。聞いた後ではなんで試さなかったのかが逆に不思議に思えたが、きっと気づきとはそういうものなのだろう。

■試作品3号
試作品3号[MO] [ARENA]
13 《
4 《戦の大聖堂
4 《墨蛾の生息地

-土地(21)-

4 《ぎらつかせのエルフ
4 《胆液爪のマイア
2 《呪文滑り
1 《ヴィリジアンの堕落者

-クリーチャー(11)-
3 《野生の抵抗
4 《変異原性の成長
4 《怨恨
4 《剛力化
4 《使徒の祝福
3 《レインジャーの悪知恵
2 《はらわた撃ち
2 《緑の太陽の頂点
2 《精神的つまづき

-呪文(28)-


 結果的に《呪文滑り》は悪くないカードだった。《迫撃鞘》の砲身をずらし、緑単感染同士では八面六臂の活躍を見せる。そして、青白Delverにもやはり強力な一枚だったのだ。

 また、ゲームをプレイして初めて気がついたのだが、《呪文滑り》を出すことで対戦相手の行動はかなり二極化する傾向があった。

 要するに《呪文滑り》1枚で止められてしまう程度の妨害しかない場合は破れかぶれに大胆なプレイをしてくるのだ。その逆も然りで、《呪文滑り》を計算に入れた複数回の行動を取るために過剰にマナを立たせたりと、前者の場合には通常は仕掛けられない場面から決着したり、後者ではこちらが《レインジャーの悪知恵》か《使徒の祝福》を引き込むまでの猶予をもらえたりもした。

 もちろん全てのプレイヤーがそうであると断言するわけではないが、自分が逆の立場であったとして、サイドボードではともかく、メインデッキにおいては想定していなかった《呪文滑り》を捌くことは難しく、それが叶わない場合には都合のいい展開に身を委ねてしまう他ないと考えるだろう。その逆においては違う選択を取るケースが多いだろうが、そのように過剰に警戒してしまうプレイヤーの心理も理解できる。

 見えている対抗手段であるという点がこのように作用するとは考えていなかったため、ゲーム展開がこちらにとって複雑化しないことは思わぬ贈り物だった。


5. 実践編3:サイドボードと整理

 こうしてメインデッキは比較的スムースに出来上がったものの、サイドボードはバランスが難しくかなり難航した。

 これは出発点のレシピにおけるサイドボードだが、メインデッキとのバランスを含めて本当に素晴らしい内容になっている。メインもサイドも1枚たりとも変更せずとも十分な結果を期待できるくらいには強固で、ある種一つの完成形だとさえ思える。
 ただ、このサイドボードはピーキーなメインデッキをサイドボード後に矯正するという仕組みであるため、僕が構築してきたメインデッキには余りマッチしないだろうことは分かっているため、一つ一つ取捨選択していくこととした。

 これは同系戦を簡単にしてくれる1枚で、《緑の太陽の頂点》を採用している理由でもある。有効な範囲は狭いものの、必要不可欠だといっていいと思われる。

 《ギデオン・ジュラ》や《死の支配の呪い》といった致命的なパーマネントに触れる優れものだ。狭くも広くも使うことのできるカードで解釈は難しいが、主にコントロール対策という漠然さで採用されている。僕はメタゲームのなかでコントロールは低く見積もっているため、これを今回採用することはない。

 ネット上で見つけた日本人のデッキから参考にさせてもらった。《黒の太陽の頂点》や《迫撃鞘》、《死の支配の呪い》や《煙霧吐き》までケアできる。

 特にX=1の《黒の太陽の頂点》は最近頻繁に遭遇するため(X=1以上の数字を対戦相手は選択しない)、何かしらの対応を考えていたものの、このカードは一つの明確な回答だといえる。やや黒系対策寄りのカードではあるものの、申し分ない働きは見せてくれる。

 これは攻撃せずとも勝利する手段である。メインデッキは攻撃を通さないと勝てないため、《刃の接合者》や《未練ある魂》で盤面を固めるデッキにはやや苦労することがあったが、それらに対してこの装備品はあまりにも簡単なゲームを演出してくれる。

 これまでも説明したが、あらゆるブロッカーと、《シルヴォクののけ者、メリーラ》、《呪文滑り》を倒すための一枚だ。おそらく3枚以下になることはなく、4枚でない理由はほかのファイレクシア・マナのカードとの兼ね合いでライフがもたないからだ。

 こうして出来上がったのが以下の15枚である。

 やや見た目が悪いことが欠点だが、それ以外は申し分のない15枚だ。


6. おわりに

完成品[MO] [ARENA]
13 《
4 《戦の大聖堂
4 《墨蛾の生息地

-土地(21)-

4 《ぎらつかせのエルフ
4 《胆液爪のマイア
2 《呪文滑り
1 《ヴィリジアンの堕落者

-クリーチャー(11)-
3 《野生の抵抗
4 《変異原性の成長
4 《怨恨
4 《剛力化
4 《使徒の祝福
3 《レインジャーの悪知恵
2 《はらわた撃ち
2 《緑の太陽の頂点
2 《精神的つまづき

-呪文(28)-
2 《精神的つまづき
1 《はらわた撃ち
2 《吠え群れの飢え
3 《活線の鞭
1 《呪文滑り
1 《シルヴォクののけ者、メリーラ
3 《四肢切断
2 《ヴィリジアンの堕落者

-サイドボード(15)-


 今回は旬なデッキを題材としてみたがいかがだっただろうか。突飛なアイデアはなかったが、あえてバランスを崩すことで勝率を追求するという点は僕にとっては盲点だった。何を目的にどうやってどうする。こうした簡単な道筋を通って構築は進められるが、出発点である目的の発見こそが構築の作業で最も難しい部分なのかもしれない。

 残された期間は短いが、非常に面白く痛快なアーキタイプなので、お試しあれ。

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