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週刊デッキ構築劇場

第65回:高橋純也のデッキ構築劇場・スタンダードデッキ構築概論1

読み物

週刊デッキ構築劇場

2012.06.18

第65回:高橋純也のデッキ構築劇場・スタンダードデッキ構築概論1

演者紹介:高橋 純也

 2005年のグランプリ・松山にて、《狩猟の神》を重用した鮮烈なドラフトコンセプト「赤緑ラッシュ」を披露して一躍名を轟かせる。
 その『ほとばしる奔能(ラッシング・ラッシュ)』はリミテッドにとどまらず、グランプリ・京都2007で見るものを驚かせた「発掘」(スタンダード)、プロツアー・バレンシア2007で小池貴之をトップ8に導いた「アグロドメイン」(エクステンデッド)など、環境を問わず状況を分析し、既存のコンセプトの潜在能力を最大限に引き出す構築手腕を見せている。
 近年では、雑誌への寄稿などライティングでも存在感を発揮している、才覚あふれるプレイヤー・ライター。

目次

  1. 序文: アイデアとデッキ構築
  2. 背景: 現環境のおさらい
  3. アイデア1: ノンクリーチャーにある可能性
  4. アイデア2: 低コスト高スペッククリーチャー
  5. 実践編1: 試作品の失敗
  6. 実践編2: 改良品の停滞
  7. 実践編3: 完成品とこれから
  8. おわりに


1. 序文: アイデアとデッキ構築

 デッキを構築する過程で重要な要素は二つある。それが『アイデア』と『構築手法』だ。

 『アイデア』はデッキとカードの束に一線を画する要素で、カードをいくつかの方向性で引き合わせてデッキという形で象るためには欠かせない。

 『構築手法』は、コンセプトやアイデアを実際にデッキという形で表現するための方法論で、これがかけるとアイデアやコンセプトはあっても、ゲームの中でそれが機能することはないだろう。

 これらのどちらも欠かせない二つの要素をそれぞれ、僕なりの方法で選択・分析し、アイデアからデッキになるまでの過程を紹介するのが高橋 純也の『構築劇場』だ。

 初回に当たる今回は、青白Delverと赤緑Aggroが幅を利かせて停滞しているスタンダード環境を題材に、それら二つを正面突破するアイデアを模索し、実際に構築していく過程を紹介していく。


2. 背景: 現環境のおさらい

 現在のスタンダード環境はかなり支配的な局面を迎えている。環境の中心には青白Delverが鎮座して、その座を狙っている赤緑Aggroがその他のデッキへの牽制を欠かさない。これら二つのデッキの詳細な戦略については、週刊連載にある津村の記事を参考にしてほしい。

Luis Scott-Vargas
ワールド・マジック・カップ予選 アメリカ・オークランド / 優勝 (スタンダード)[MO] [ARENA]
8 《
4 《氷河の城砦
4 《金属海の沿岸
3 《魂の洞窟
2 《ムーアランドの憑依地
1 《平地

-土地(22)-

4 《秘密を掘り下げる者
4 《瞬唱の魔道士
4 《聖トラフトの霊
4 《修復の天使

-クリーチャー(16)-
3 《ギタクシア派の調査
2 《はらわた撃ち
4 《思案
2 《思考掃き
4 《蒸気の絡みつき
4 《マナ漏出
1 《四肢切断
2 《戦争と平和の剣

-呪文(22)-
2 《幻影の像
3 《刃砦の英雄
1 《精神的つまづき
3 《天界の粛清
1 《神への捧げ物
1 《四肢切断
2 《雲散霧消
2 《月の賢者タミヨウ

-サイドボード(15)-
kbr3 (1st Place)
Standard PTQ #3946063 on 06/10/2012[MO] [ARENA]
11 《
1 《
4 《銅線の地溝
4 《根縛りの岩山
4 《ケッシグの狼の地

-土地(24)-

4 《極楽鳥
4 《ラノワールのエルフ
4 《絡み根の霊
4 《国境地帯のレインジャー
4 《高原の狩りの達人
1 《最後のトロール、スラーン
3 《ウルフィーの銀心

-クリーチャー(24)-
4 《緑の太陽の頂点
4 《忌むべき者のかがり火
2 《饗宴と飢餓の剣
2 《戦争と平和の剣

-呪文(12)-
2 《最後のトロール、スラーン
2 《士気溢れる徴集兵
2 《古えの遺恨
2 《焼却
2 《押し潰す蔦
2 《饗宴と飢餓の剣
1 《戦争と平和の剣
2 《殴打頭蓋

-サイドボード(15)-


 両デッキ共に多くのバリエーションが存在するものの、それぞれの基本戦略は一貫している。

 青白Delverは《蒸気の絡みつき》や《思案》ら軽量呪文を鍵に、対戦相手を手数で圧倒することで最序盤から中盤にかけてのゲームを制すること。

 赤緑Aggroは、8枚のマナクリーチャーから緑の優秀なクリーチャーを連打し、そのシンプルな攻勢を《忌むべき者のかがり火》と《戦争と平和の剣》によって強引に押しこむこと。

 以上がそれぞれの簡単な基本戦略だ。このように色も構成も違うため、両者に戦略上の共通点は見当たらない。
 そしてこれらは多くのプレイヤーの研鑽の末に完成したレシピであり、それぞれの骨子は非常に強力で、生半可に弱点を探しても打ち崩すには至らないことが何よりも厄介だ。


対「青白Delver」

 たとえば青白Delverに着目すると、彼らの強さは「《蒸気の絡みつき》によるダメージレースの操作」と、「インスタントタイミングの行動手段が多く柔軟にゲームを進められる」という二点に集約されている。
 この二点から、《蒸気の絡みつき》の被害が大きな「マナコストの大きなクリーチャー」や、「ソーサリータイミングで行動する構築」は彼らと相対するには御法度であることがわかる。

 そこで《蒸気の絡みつき》に有効な「軽量クリーチャー」で構成し、青白Delverのインスタントタイミングでの行動に対応できるだけの「インスタントを採用」したと仮定しよう。
 このアプローチはどの色で行ったとしてもある程度の戦果を上げられることだろう。明らかな優位を作れなくとも、悪くない勝負はできるはずだ。

 ただ、そのデッキが赤緑Aggroに勝てるかというと、現実は非情なことに、おそらく真っ向から踏み潰されてしまうだろう。《蒸気の絡みつき》に有効な軽量クリーチャーは、《忌むべき者のかがり火》に焼き尽くされ、《ウルフィーの銀心》に踏み越えられる。頼みの綱のインスタントタイミングの干渉手段はある程度の効果は見せるだろうが、そんな付け焼刃では、青白Delverの柔軟性さえも脅かすほどの攻勢を捌くほどには至らないのだ。


対「赤緑Aggro」

 それでは逆に、赤緑Aggroを攻略するためにサイズに期待できる「重量クリーチャー」や、カードのスケールで負けないように「大量除去を採用した」とする。その場合は、先ほどの真逆の轍を踏むように、青白Delverに翻弄される羽目になる。重量クリーチャーは《蒸気の絡みつき》と《マナ漏出》の餌食となり、スケールを意識したソーサリーは柔軟性を損ない、対戦相手のエンド前の発声に苦しめられるに違いない。


 中途半端に二つを意識すると骨子がしっかりとしたどちらにも勝てず、どちらかに注力するともう片方の恰好のカモになってしまう。このジレンマこそが現在のスタンダード環境が支配的な戦場に変えている理由だ。
 青白Delverと赤緑Aggro。この両方を攻略できる手段は果たして存在するのだろうか。


3. アイデア1:ノンクリーチャーにある可能性

JB2002 (7th Place)
Standard PTQ #3946063 on 06/10/2012[MO] [ARENA]
8 《
6 《平地
4 《金属海の沿岸
4 《氷河の城砦
4 《幽霊街

-土地(26)-


-クリーチャー(0)-
2 《清純のタリスマン
2 《墓掘りの檻
4 《マナ漏出
2 《倦怠の宝珠
2 《漸増爆弾
3 《忘却の輪
4 《材料集め
4 《審判の日
4 《終末
1 《青の太陽の頂点
2 《ギデオン・ジュラ
2 《月の賢者タミヨウ
2 《解放された者、カーン

-呪文(34)-
2 《聖別されたスフィンクス
1 《大修道士、エリシュ・ノーン
2 《神への捧げ物
1 《天界の粛清
2 《漸増爆弾
2 《金輪際
1 《機を見た援軍
2 《決断の手綱
1 《白の太陽の頂点
1 《エルズペス・ティレル

-サイドボード(15)-

 最近だとこのデッキに両雄を攻略しうる可能性を感じた。青白Delverと赤緑Aggroの両方を強引に『クリーチャーデッキ』として括り、徹底的にクリーチャーを痛めつける構成にしている。また、何よりもクリーチャーを1枚も採用しないことで《蒸気の絡みつき》を筆頭とした除去呪文を完全な無駄なカードへと変えていることが素晴らしい。
 苦手な《ケッシグの狼の地》と《ムーアランドの憑依地》を克服するために最大限投入されている《幽霊街》からは製作者の強い意志を感じる。

 ただ、カードの取捨選択が不安定に見えることや、青白Delverの《マナ漏出》がガンとなる展開を避けられないことは問題点として残っている。青白Delver側も《はらわた撃ち》や《蒸気の絡みつき》が腐ってしまうことは明らかなビハインドだが、《マナ漏出》に弱い点は構造上の弱点であるため、サイドボード後に無駄を省いてシェイプアップした青白Delverには苦労させられた。

 このような細かい部分はともかくとしても、中核となる「ノンクリーチャー+ヘビーコントロール」というコンセプトは、流行の二つを退けるだけのポテンシャルを持っている。軸をずらすことで二つのデッキの強みを消しつつ、二つの共通点を攻めるべき弱点として突いているからだ。
 クリーチャー同士での位の争いを敢えて避けることで、相手が戦おうとしている土俵を外れて、自身が用意した戦場で迎え撃つ。奇襲性や意外性は高いものの、非常に堂々とした王道の攻略方法だと感動した。

 この「ノンクリーチャー+ヘビーコントロール」という戦略はとてもスマートで、なるほどと思わず手を打ちたくなるくらいの説得力があった。紹介したJB2002のものは青白の二色だったが、色を加えたり、その他の色を選んでみても重要なコンセプトさえ守れているならば成立するだろう。

 こうした賢い回答を見せられるとなんとも悔しいが、まだまだ様々な方法に可能性があるのだと安心したりもする。一見して閉塞されたようでも、意外と抜け穴は残っているものなのだと。

 そこで今回は、これまで抜け道の見えなかった、『青白Delverと赤緑Aggroの二つを正面突破するデッキ』の製作に取り掛かることにした。押して駄目なら引けばいいと土俵を変えた賢い戦略に未来があるのなら、押して駄目だったから頑張って押し続けてみる、という愚者の戦略の可能性の結末も知りたくなるものだ。


4. アイデア2: 低コスト高スペッククリーチャー

 押して駄目なら押し続けても駄目。これはあくまでも喩えだが道理だろう。駄目だと判断される方法論には、それが駄目なりの理由が存在している。そこを強引に無理を通すには、一般的に駄目だとされる理由を解決する必要があるに違いない。

 青白Delverと赤緑Aggroを同時に、正面から愚直に攻略することが難しいといわれている理由は、それぞれが正反対のアプローチを要求するからだ。その顕著な例としては、前節で紹介した《蒸気の絡みつき》をめぐるやり取りが適当だ。

 青白Delverを打破するには《蒸気の絡みつき》や《マナ漏出》による被害を最小限にとどめる工夫が必要だが、そのためにマナコストの低いクリーチャーを採用すると赤緑Aggroの優秀なクリーチャー群と《忌むべき者のかがり火》に苦戦を強いられてしまう。そして、それぞれに対応した丁寧な回答を用意すると、こちらのデッキ自体のコンセプトがちぐはぐになって空中分解してしまうのだ。

 青白Delverと戦うには「マナコストの軽いクリーチャー」が必要で、赤緑Aggroを倒すためには「高パワー高タフネスのクリーチャー」が必要だということだ。なるほど、「低コスト高スペック」を要求されるのは厳しい。一昔前で言う《タルモゴイフ》が求められているということだが、そんな都合のいいクリーチャーがいるならもう既に多くのプレイヤー達に使われているに違いない。

 しかし、無理そうでも意外と抜け道が残されているのがMTGというゲームであるのは先に述べたとおりである。

 そう、「低コスト高スペック」なクリーチャーは存在するのだ。

 それが《グール樹》と《裂け木の恐怖》だ。

 ある条件さえ満たせば1マナ10/10、3マナ10/10というこの破格な生物達は、まさに「低コスト高スペック」を体現している。このコストなら《蒸気の絡みつき》を苦にせず、このサイズなら《ウルフィーの銀心》に押し負けることもない。

 ただし、2・3回横にするだけでゲームを終わらせうるほどの強力なクリーチャーたちが見慣れないことには理由がある。
 それは特定の条件をクリアする必要があるからだ。上の2枚はともに『墓地にクリーチャーを大量に送り込むこと』が条件であり、それが満たされるまでは想定している活躍は到底期待できない。この条件は、この2種類を使用するために「墓地にクリーチャーを送り込むカード」を要求し、より効率よく墓地をクリーチャーで満たすためにデッキの構造を大きく制限する。

 下にその条件を整理してみよう。

  • 墓地にクリーチャーを送り込むカードの採用
  • 早いターンから《グール樹》たちを使用するための大量のクリーチャー
  • 対戦相手の行動に干渉できるカードの採用

 この三つが主なる要素だろう。
 一つ目と二つ目は、彼らを最大限に利用するためには避けられない工夫だ。墓地にカードを落とす手段としては、《根囲い》《追跡者の本能》などが一般的だ。しかし、その際にあまりにも墓地にカードを落とす呪文を採用しすぎると、デッキ全体のクリーチャー数を保つことが叶わなくなってしまう。そのため、墓地に落とす手段もクリーチャーに頼ることが望ましく、《甲冑のスカーブ》や《金切り声のスカーブ》などが妥当かもしれない。

 三つ目はより困難な条件だ。これまでの二つの条件は、あくまでも自分のデッキが機能するための効率性をみるだけだが、三つ目はクリーチャー数などといった構築上の条件を保ちつつも対戦相手の攻め手を抑える工夫が求められる。つまり、クリーチャーでありながら攻撃を遅らせたり、墓地が肥えることがメリットになる防御手段が必要だということだ。

 そこでカードリストを眺めていると、とあるカードが三つ目の条件に合致することに気がついた。《骨までの齧りつき》だ。

 青白Delverも赤緑Aggroも共通してライフというリソースを攻めるデッキなので、墓地を肥やすことで効果が上がっていく《骨までの齧りつき》で10点以上も回復すると対戦相手の勝利を遠ざけることができる。

 それでは簡単な設計図はこれくらいにして、形に起こして実際のゲームでの動きを確認してみた。


5. 実践編1:試作品の失敗

試作品 Ver.1[MO] [ARENA]
6 《
6 《
4 《銅線の地溝
4 《内陸の湾港
2 《ケッシグの狼の地

-土地(22)-

4 《極楽鳥
4 《骨塚のワーム
4 《幻影の像
4 《金切り声のスカーブ
4 《甲冑のスカーブ
4 《裂け木の恐怖
4 《グール樹

-クリーチャー(28)-
4 《追跡者の本能
3 《根囲い
3 《骨までの齧りつき

-呪文(10)-


 とりあえずの試作品といわんばかりの大雑把な構造だ。墓地に落とすカード、クリーチャー、《骨までの齧りつき》、土地だけでデッキを構築してみた。

 手始めに仮想的である青白Delverと赤緑Aggroに立ち向かってみたところ、三点ずつの長所と問題点が浮かび上がってきた。とりあえずは長所から触れていこう。


☆長所
  1. 形にはまってしまうと圧倒的に勝てるほどの決定力がある
  2. 骨までの齧りつき》は勝ち手段になりうる
  3. 墓地が対策されていないため、サイドボード後も安心して戦える

 設計図どおりにメリットが機能したことは素直に朗報だった。やはりクリーチャーのサイズは一つの決定力として有効で、ただ大きなクリーチャーが襲い掛かるだけで対戦相手は困ってしまうものだ。《破滅の刃》や《喉首狙い》が流行すればそう都合よくはいかなくなると思われるが、現状の仮想敵二つに対してはサイズによるプレッシャーは十分に効果的だった。

 予想以上の効果だったのが《骨までの齧りつき》だ。ゲームスピードが速いため、せいぜい10点程度を稼いで、2ターンほど生き延びられればいい位にしか期待していなかったものの、その長引いた数ターンで更に墓地を肥やして、2枚目かフラッシュバックにより20点あまりを得てしまうと大抵のデッキが手仕舞いとなってしまうことが分かった。少なくともメインボードでの戦いは、こちらが大型クリーチャーを並べて押し切るよりも、相手が削りきれないほどのライフを得ることでのギブアップが多かったくらいだった。

 墓地対策については、このデッキの勝ちやコンセプトを左右する重大な要素だが、流行の構成には《虚無の呪文爆弾》が採用されていることは少なかったようで、懸念していたサイド後の試合もそれほど苦にせず闘うことができたことには安心した。

 続いて問題点を見ていく。


☆問題点
  1. とにかく弱いカードが多い
  2. 墓地の肥えるスピードがやや遅い
  3. 飛行クリーチャーと装備品が辛い

 長所は予想通りだったものの、問題点に関してはやや期待を裏切られた。
 一つ目の弱いカードとは、デッキ内の他のカードの劣化だったり、単純に行う作業のスケールが小さかったりするカードのことだ。具体的には《根囲い》と《金切り声のスカーブ》がそれに当たった。

 どちらも墓地を肥やすためには欠かせない、コンセプトを支えるカードではあったものの、前者は中盤以降で無駄、後者は単純にカードの効果が小さいという問題を抱えていた。特に《根囲い》は予定では必須パーツで最高の役割を担ってくれると期待していただけに、実際に使ってみたところの弱さには愕然とした。

 二つ目の墓地の肥えるスピードだが、これは《骨塚のワーム》の有用性が大きく左右される。2マナのカードだが、1ターン目にカードが墓地に落ちないため、実際的には《裂け木の恐怖》を場に繰り出すターンにしかプレイできない。
 一応、2マナであることから小回りのきいた動きや展開をできるものの、2ターン目にプレイできないことは大きなストレスだった。また、《根囲い》《追跡者の本能》《甲冑のスカーブ》は、どれも4枚ずつしかカードが墓地に落ちないため、4ターン目には多くても8枚しか墓地にはカードがなく、デッキ内の割合を考えるに約4枚のクリーチャーしか墓地には落ちない。ぎりぎり《グール樹》をプレイできなくもない点は妥協を許せなくもないが、より早く墓地にカードを送り込める方法を見つける必要はひしひしと感じた。

 三つ目はとにかく致命的だった。先手の《秘密を掘り下げる者》が即座にフリップしてしまうと何点殴られるか分かったものではないのだ。また、《骨までの齧りつき》までたどり着けば勝ってしまうのだが、飛行のクロックを抑えることはできないため、赤緑Aggroとのゲームとは違い、耐え切るというよりも《骨までの齧りつき》でのライフを費やしてレースを差しきるような状況に良く追い込まれた。除去かブロッカーか、何かしらの飛行対策は確実に必要だった。


☆解決案

 これらの方策を踏まえて、Ver2の製作に乗り出した。


6. 実践編2:改良品の停滞

改良版 Ver.2[MO] [ARENA]
7 《
5 《
4 《銅線の地溝
4 《内陸の湾港
2 《ケッシグの狼の地

-土地(22)-

4 《極楽鳥
4 《骨塚のワーム
4 《幻影の像
4 《甲冑のスカーブ
4 《裂け木の恐怖
3 《絡み線の壁
4 《グール樹

-クリーチャー(27)-
4 《夢のよじれ
4 《追跡者の本能
3 《骨までの齧りつき

-呪文(11)-

 改良点をアピールすると、まずは《夢のよじれ》の採用が大きな改善だ。1ターン目にプレイできれば、2ターン目に《骨塚のワーム》をキャストできる可能性があるほか、2ターン目フラッシュバックから3ターン目に何かで4枚以上落とすことで、4ターン目の《グール樹》や《裂け木の恐怖》をより安定して繰り出すことができるようになった。
 また、《夢のよじれ》で新しく《夢のよじれ》が墓地に落ちることがある。《根囲い》や《金切り声のスカーブ》では中盤以降に墓地を加速して増やす手段としては不適だったが、《夢のよじれ》は見事に《骨までの齧りつき》を掘り当て、《追跡者の本能》からのフィニッシャーへのアクセスを強化してくれる。このカードの採用こそが最もデッキを強化したポイントだろう。

 次に《絡み線の壁》の採用に関してだ。これは、Ver.1での答え合わせの際に、「中長期戦にまで対戦相手を引きずりこんでしまえば簡単に勝利できる」と気づいたことがきっかけだ。耐えて《骨までの齧りつき》を撃って、大きなクリーチャーを並べてしまえば対戦相手の投了宣言はそう遠い出来事ではない。つまり、序盤を担うするカードはライフを維持するか、墓地を肥やすカードに限定することが望ましい。
 そこで、飛行と装備品に対抗できる手段、および、赤緑Aggroの攻勢を受け止めるだけの懐を持ったカードを探してたどり着いたのが《絡み線の壁》だった。
 タフネスが6もあり、《戦争と平和の剣》を手に取った《修復の天使》も受け止められるため、僅かな鼻先の差でレースする青白Delverにとっては厄介な2マナ域に違いない。

 最後の不採用についてはやや強引な節があったことは認める。Ver.1の時点でたしかに弱いと断じたカードではあったが、コンセプトを強く意識した効果をもっていたため、初手にあって確かに安心できる類のカードなのだ。特に《金切り声のスカーブ》は若干枚数でいいから採用の余地は残されていたはずだが、調整の過程であったため、大雑把に切り捨ててみた。《根囲い》に関しては何の言い訳もない。このデッキには全くいらないカードだった。

 この変更で十数試合試してみたところ、仮想敵である二つには戦えることが分かったものの、その他のデッキにはやや不満が残る点が見つかった。

 ひとつはゾンビの《ファイレクシアの抹消者》である。メイン戦は適当に長引かせて《骨までの齧りつき》を撃ってトランプルクリーチャーで攻撃すると勝ててしまうのだが、サイドボード後が厄介だった。彼らの搭載する《ファイレクシアの抹消者》がどうしようもなかったのだ。
 膠着を防ぐために《冒涜の行動》を採用していたものの、《ファイレクシアの抹消者》の影響で逆に自分が負ける場になってしまう。コピーしてみたり《ケッシグの檻破り》で攻撃してみたりしたが、最高の回答とはいいづらい結果しかでなかった。

 もう一点はコントロールへの脆弱性だ。巨大なクリーチャーと《骨までの齧りつき》くらいしか勝利手段がないため、とにかく順番に対処されていくと手も足もでなかった。火力やサイズ比べには強すぎるほどの構造なのだが、サイズを無視した除去やライフを無視した勝利手段を目指されるととにかく弱い。メインボードの構造が偏っているため、サイドボードから大きな改変もしにくい。この弱点は構造上の致命的な問題点だった。

 一応の解決策として、サイドボードから《内にいる獣》を採用すると悪くないことが分かった。ゾンビの《ファイレクシアの抹消者》を簡単に処理し、コントロールのプレインズウォーカーを適当にビーストに変えてしまえばグッとゲームが楽になった。それでもコントロールとのマッチアップには難を抱えていたが、そう悪くないデッキに仕上がったといえる。

 この後にVer.2を友人達に見てもらったところ、長島 誠(山梨)から「《霊気の達人》はどうか」というアドバイスをもらえた。

 たしかにデッキ内のクリーチャー数を減らすことなく対戦相手に干渉できるカードだったので喜んで加えてみたものの、当初の4枚では確実に多く、適切な枚数を探すうちに気持ち程度の2枚に落ち着いた。《幻影の像》のコピー対象にもなれるので、適度にゲームに影響する程度の枚数でも十分に機能したためだ。
 ただ、特に2枚である根拠も無いので、今後触っていく途中で枚数の増減は確実にあるだろうという予感もある。

 このあとサイドボードを取捨選択し、とりあえずの完成形が出来上がった。デッキ名は友人の清水 直樹(大阪)による命名だ。彼らしさが滲み出ていてかっこいい(お世辞)。


7. 実践編3: 完成品とこれから
東京グールツリー[MO] [ARENA]
7 《
5 《
4 《銅線の地溝
4 《内陸の湾港
2 《ケッシグの狼の地

-土地(22)-

4 《極楽鳥
4 《骨塚のワーム
3 《幻影の像
3 《絡み線の壁
4 《甲冑のスカーブ
4 《裂け木の恐怖
2 《霊気の達人
4 《グール樹

-クリーチャー(28)-
4 《夢のよじれ
3 《追跡者の本能
3 《骨までの齧りつき

-呪文(10)-
2 《ケッシグの檻破り
2 《精神的つまづき
2 《古えの遺恨
2 《垂直落下
2 《内にいる獣
1 《獰猛さの勝利
3 《冒涜の行動
1 《情け知らずのガラク

-サイドボード(15)-


 サイドボードのカードが散り散りになっているのには理由がある。デッキの構造上、相手のデッキが苦手であろうとも、多くの枚数の交換してしまうとこちらのデッキが機能不全に陥ってしまうのだ。そのため、どのマッチアップでも5枚前後のカードを入れ替える作業が主になる。

 サイドアウトする内容も、デッキ全体のバランスを崩さないように、色々な部分を満遍なく削っていくことをお勧めする。何かを全部抜いてしまうと途端にばらばらになってしまうほどの繊細なバランスの上で構築されていることを忘れずに、ジェンガの積み木を引き抜く慎重さで行う細かいインアウトがベストだろう。


8. おわりに

 ここまでが僕の一回目のデッキ構築劇場だ。実践編における構築の中で、変更に納得のいかない点や、自分だったらこう作るといった代案が思いついた方も多いことだろう。また、本当にこのデッキがスタンダードに存在するデッキたちと比肩できるかが疑問な方も少なくないはずだ。

 そういった方は是非ともデッキを手に取り色々と試してみて欲しい。ここまでつらつらと書いてきた内容は、あくまでも一つのアイデアを、僕なりの手法でデッキという形に表現したに過ぎないからだ。アイデアや出発点は同じでも、できあがるデッキは十人十色であることがデッキ構築の面白みであり、自分でアイデアを形にする楽しみだと思う。

 それでは、また別の機会にでも。

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