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戦略記事

Beyond the Basics -上級者への道-

満足いく部族のために

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満足いく部族のために

Gavin Verhey / Tr. Yuusuke "kuin" Miwa / TSV testing

2016年7月7日


 自分の好きなクリーチャー・タイプを選ぼう――部族デッキを使う時だ!

 マジック用語で言う「部族」という言葉を聞いたことがないかな? それは基本的にクリーチャー・タイプのことを言う――または今回の場合のように、特定のクリーチャー・タイプを中心に組んだデッキのことを指す。例えば、ゴブリン部族デッキだとか、ビースト部族デッキ、といった感じだ。そしてイニストラードにおいては、間違いなく5つの部族が大きく取り上げられている。人間、スピリット、ゾンビ、吸血鬼、そして狼(男)だ!

 しかし、部族デッキはどのように組めばいいんだろうか? うまく組むコツは? 実際にプレイするときの秘訣とは? 今日はそれを題材にやっていこう!(さらには、途中で『異界月』のプレビュー・カードもお披露目できるんじゃないかな。)

 マジックの生みの親、リチャード・ガーフィールド/Richard Garfieldは最初に『Limited Edition(Alpha版)』を作った。そのときからすでに《ゴブリンの王》のようなカードが印刷されていた。つまり、クリーチャー・タイプに注目して構築するデッキは、マジックの黎明期から存在していたことになる。それが今や、セットの中心的テーマという立場を得るほどに広まってきたのだ!

 しかし、部族デッキを組んで使うときに、いくつか気をつけなければならないことがある。

十分な支援を確保する

 さて、何か部族デッキを組むための案を思いついたとしよう。いいね! それを組み始める前に、まず行わなければならないことがある。デッキを機能させるほどの部族への支援が、実際に存在するかどうか確かめることだ――あるいは、もし足りなければ、その支援をどう最大限に活かすかを考えなければならない。

 例えば、モダンで射手の部族デッキを組むとしよう。最初に射手のロード(訳注:特定の部族全体を強化するクリーチャーの通称)として《巨弓の大御所》を選んで......それから、ええと......うん、射手のロードはこれだけだ。

 マジックのこれまでの歴史では、極めて強力、かつ、頻繁に用いられた射手はいない。この点が、状況をより難しくしている。出来上がるのは、1種類のロードと二流のクリーチャーを集めた束だ――これでは望む結果は得られないだろう。

 (多少の例外については後述するが)基本的に、部族デッキを成立させるためには、クリーチャーをふんだんに取り入れ、さらにそのクリーチャー・タイプを持っていることに意味があるカードを採用する必要がある。単体で見たときに弱いクリーチャーは、それでもいいから使いたい、というほどの部族の恩恵が得られなければならない。逆も真なり。クリーチャーが単体で優秀ならば、部族の恩恵が低くても採用しやすい。(そして、もちろん、部族の恩恵が極めて効果的で、「なおかつ」単体でも極めて優秀なら、最高だ!)

 普通に使われる水準のクリーチャーよりちょっとだけ弱いクリーチャーを、何枚か入れる必要に迫られることもあるだろう。しかし、水準以下のクリーチャーだけでデッキを満たしたくないのは確かだ。

 《巨弓の大御所》をなんとか見つけ出したように、《順応する自動機械》や《旗印》のようなカードを引っ張り出して、射手部族デッキの隙間を埋めることは可能だ。しかし、そこまでするなら、もうどの部族を選んでいても同じようなものだろう。それらが部族を少々手助けしてはくれるが、そもそも選んだ部族そのものが同族を強化しようとしていない。楽しむためにそれらを用いて手軽な射手デッキを組むのはもちろんかまわないが、支援が少なすぎるため、競争力は発揮できないだろう。

 『イニストラードを覆う影』が使える今のスタンダード・フォーマットに存在する、射手より有力な部族、人間に視点を移そう。

 人間部族デッキは、今のスタンダードで驚くほどの成功を収めている。理由はいくつかあるが(後で何点か取り上げよう)、最大の理由は、単体で強力なカードが大量に存在し、さらに部族の恩恵も素晴らしいからだ。人間の多くは、そいつを出すだけで強い。

 《薄暮見の徴募兵》、《反射魔道士》、《不屈の追跡者》。これらはすべて、単体で有用なカードだ。これらほどではないが、例えば1マナ2/1を取っても《ドラゴンを狩る者》、《探検隊の特使》などがずらりと並ぶし、能力も多様だ。使っていてむなしくなるようなカードはいっさい無い。

 人間を支援するカードのほうも見てみよう。《サリアの副官》は味方を全てパンプアップ(訳注:クリーチャーのパワーやタフネスを上昇させる効果)して、自身も後から大きくなる! 人間を中心にデッキを組んだ上でこれを入れれば極めて強力だ、ということは誰にでもわかる。序盤に引いても後半に引いても、役に立つんだからね。

 《優雅な鷺の勇者》も同じだ。

 おっと、《優雅な鷺の勇者》は何者か、だって? そうか、説明を正しく伝えるには、知っておいてもらわないとね。

 鷺の優雅さを目の当たりにせよ。

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 4マナ3/3で瞬速と絆魂を持ったクリーチャーなのだから、単体だといまいち、だなんてことはまったくないよね。長期戦で引いたときでも、文句はないだろう。

 しかし戦場に人間が大勢並んでいたら? 滅茶苦茶だ!

 味方全員をパンプアップするだけでなく、絆魂も与えることで、そこまでに食らっていたであろうダメージを回復することができる。

 単体でも優秀で、戦場に他の人間がいればとんでもなく強力――これは部族デッキを組むときに入れたいカードの好例だ。これからのスタンダードで、この《優雅な鷺の勇者》はとてもよく見かけることになるんじゃないかな。

部族を最大限に活かす

 例外については後で述べるが、基本的に、部族を強化するカードを大量に採用するつもりなら、デッキの強くなる部分......部族クリーチャーを最大限投入する必要がある!

 例えば、部族デッキを構築する際に見かける最も基本的な誤りは、単純に部族クリーチャーが足りないことだ! 速攻やミッドレンジの部族デッキを組んだのに、クリーチャーが16体しかいないとすれば、「そもそも、これらの部族強化カードは入れる意味があるのか?」と自問しなければならない。例えば、戦場に並べるためのクリーチャーがいつも不足するようであれば、部族強化の効果を最大限には発揮できていない、ということになる。

 部族デッキのクリーチャーのほとんどは、その部族のクリーチャーにしたいところだ。基本的には最低でも22体、理想としては25体から30体は欲しい。さらにマナ・カーブ(訳注:マナ域ごとの枚数をグラフにすることで見える曲線)も良い状態にするため、重いクリーチャーよりは軽いクリーチャーを増やしたい。戦場に素早くクリーチャーを展開できるようにするためだ。

 ああ、つまりたいていの場合、通常のデッキよりも除去呪文やコンバット・トリック(訳注:非公開領域からクリーチャー戦を支援する呪文や能力)の枚数が減ることになるわけだが――それでかまわない! 部族を強化するカードを使う場合、相乗効果で他のカードを大幅に強化することがまず前提なんだ。(さらに、《優雅な鷺の勇者》がクリーチャーでありながらコンバット・トリックとしても役立つように、そういう効果が部族の恩恵として部族クリーチャーに内臓されていることもある。)

 他にも、その効果を最大限に発揮するため、同じクリーチャー・タイプ持ちをデッキに増やしておきたくなる類のカードがある。例えば、古いところで言えば《ゴブリンの首謀者》のようなカードだ。

 《ゴブリンの首謀者》を唱えるなら、できるだけゴブリンがめくれるようにしておきたい。ゴブリン以外のカードを全てデッキの一番下に送ってしまうという、重要なタイプ検査が行われるからだ。ゴブリン以外のカードが公開されるたびに、実質無料で手に入るはずだったカードを失っていることになる!

 古い例だけでなく、より現代的な事例で語るべく、『異界月』で新登場するカード、《勇敢な先導》を見てみよう!

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 同例とはいいつつ、《ゴブリンの首謀者》とは違い、公開したカードのうち手札に加えられるのは人間1枚だけ、というのは覚えておくべき重要な差異だ。ともあれ、これを使う場合は、常に人間が公開されるようにデッキを構築したい。状況ごとに有利なカードを選べるように、選択肢となる人間をいろいろと入れることができれば理想的だ。

 十分な数の人間が戦場に並んでいるだけでは不十分だ――《勇敢な先導》が一貫して人間を見つけるために、十分な数の人間をデッキの中にも用意しよう!(人間・トークンを生み出すインスタント、ソーサリー、それにエンチャントが数に入らないことを忘れないように。)

 部族デッキを組むなら、活用しようとしている部族カードの利点を最大限に発揮させることだ。

例外の判断

 部族デッキを組む場合、基本的には、部族ではないクリーチャーはできるだけ入れたくない。部族カードが部族クリーチャーに与える恩恵を、受けられないからだ。

 しかしながら、例外もある。

 2008年にハリウッドで行われたプロツアーの優勝者、チャールズ・ジンディ/Charles Gindyが使った黒緑エルフ・デッキのことをいつも思い出すよ――そのデッキの中心的存在といえば? 4枚の《タルモゴイフ》だ。

 そう、《タルモゴイフ》はどう考えてもエルフじゃない。とはいえ、その強力さは十分に採用の価値があった。

 基本的には、部族と関係ないタイプのカードが部族デッキに入る場合、この2つのうちどちらかが理由となる。

  • それは単体で見て、強化した部族クリーチャーと比べても強力なクリーチャーか?(《タルモゴイフ》はこの事例にあたる。)
  • それをクリーチャーでない呪文として数えても、デッキにまだ部族カードを活かすのに十分な数の部族クリーチャーが存在するか?

 2つ目で言いたいのは、それらのカードをデッキに収めた結果、部族クリーチャーが足りなくなって、もう部族デッキをやめたほうが強いという状態にしてはいけない、ということだ。《タルモゴイフ》を足したその後に、「《包囲サイ》も入れたいかも、あとこれも......」と一歩踏み外すだけで、突然坂を滑り落ちた時のように、あっという間にエルフ・デッキではなくなってしまうだろう。

強みを活かすプレイ

 さて、部族デッキを組んで対戦の場についた。対戦中は何を心がけるべきだろうか?

 そう、部族デッキの鍵は、数多くの部族クリーチャーを展開して、部族の恩恵を引き出すことだ。その恩恵を最大限に引き出せるように、プレイしなければならない。

 どうすればいいか、単純な状況を例として取り上げてみよう。

 エルフ部族デッキを使って、緑のミッドレンジ・デッキと対戦している状況を思い浮かべてくれ。対戦相手は2ターン目に《ルーン爪の熊》を出してきた。こちらは2ターン目に《シーリアのエルフ》を出す。次のターン、相手は《ルーン爪の熊》でアタックしてきた。ブロックして相打ちを取ろうか?

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 部族デッキの場合、通常はここでブロックしてはいけない。

 なぜかって? そうだな、こちらのデッキはじっくり戦線を構築することで恩恵を受けていくデッキだ。そして、お互いのクリーチャーは一見同等に思えるが、こちらのクリーチャーには、エルフであることが大きく影響するという「能力」がある! もし次のターンに《エルフの大ドルイド》を出すつもりなら、《シーリアのエルフ》は絶対に残したほうがいいだろう。

 ああ、もちろん、この状況は、本質を伝えるために簡略化しきったものだ。何が正しいかは、相手のデッキ、手札、そして選んだ部族に左右されやすい。(例えば超速攻デッキ相手なら、ブロックしたほうがいいだろう。3ターン目に手札の《グール起こし》をプレイするつもりなら、《歩く死骸》で相打ちを取るべきだ。《ゴブリンの首謀者》のようなカードが大量にある部族なら、1対1交換はむしろ歓迎なんじゃないかな。)とはいえ、思考のとっかかりとしては良い開始位置だ。

 別の面として、クリーチャーが多いということは、非クリーチャー呪文が通常より少なくなり、さらに全体除去のような効果からの復帰力が潜在的に低くなると考えられる。手札を増やしにくいので、除去呪文を使う場合は、確実に安全な状況を作り出すために、適切な対象を注意深く判断した上で利用しなければならない。(もちろん、適切かどうかはデッキによって異なる。)

 自分が部族デッキをプレイしているということを自覚し続け、部族デッキに適したプレイをするよう心がけよう。

大きな例外

 例外については後で取り扱う、と述べたのを覚えているかな? いよいよその時だ!

 軽量クリーチャーを満載するという前述の戦略は、ほとんど小型部族のためのものだ。そして、マジックで部族の支援を受けているクリーチャー・タイプのほとんどは小型部族だ。『イニストラードを覆う影』ブロックの5大種族もね。

 しかし、大多数はそうだが、全ての部族がそうというわけではない。

 例えば、ドラゴンだ。

 ドラゴンの戦い方は全く異なる。これは「大型部族」だ。通常、ドラゴンは単体で戦況に大きな影響を与えられるので、デッキに大量投入する必要はない。ドラゴン・デッキにドラゴンを25体も入れるのはやりすぎだろう。(しかも序盤に何もできなくなる。)

 代わりに、まずは重いカードが活躍できるように、軸を定めるようにしよう。例えば、ランプ(訳注:マナを伸ばす行動)やコントロールをデッキの軸にするなどだ。この2つの戦略は、どちらも重い呪文を唱えられる状況に到達しやすい。

 その上で、入れすぎることなく、なおかつ相互作用は発生するよう、部族カードを適切な量だけ採用したい。この部族はそれぞれが単体で大きな影響を及ぼすので、大量に並べる必要はない――しかし2体目を展開した場合、良い結果になりやすい。機能させるために同タイプのカードを大量に必要とする小型部族とは異なり、単に《世界を溶かすもの、アタルカ》に続けて《漂う死、シルムガル》を並べるだけで、ゲームを手中に収めることも多い。

 加えて、ドラゴンの場合は、デッキにドラゴンを採用することにより恩恵を受ける軽量呪文まで存在する。

 ドラゴン・デッキは、長期戦でドラゴンを使用するための支援、そして充分な数のドラゴンを採用するための支援、そのどちらも存在する大型部族デッキの1つだ。とはいえ、気をつけなければならないのは、先ほど述べたようにドラゴンは1体出せば十分だということだ――小型部族とは違い、役立たせるために大量に展開する必要はない!

 今まで大型部族はそれほど多く取り上げられてきてはいないが、大型部族でデッキを組む場合は、その部族ごとのカードと支援を考慮したうえで独自の構築を考えていく必要があるだろう。

部族の知恵

 あなたがゴブリン、ツリーフォーク、ゾンビ、あるいは、そう、射手のデッキを組むときに、今回の記事を読むことでデッキ構築の過程が楽になったなら、嬉しいね! どんな部族が好きであっても(いけっ、ウィザード!)、部族デッキを使うのは楽しいぞ。

 そして、新しい人間デッキはどうなるだろう? もちろん、活躍を期待しているよ。最新のバント人間デッキを考えてみた。

ガヴィン・ヴァーヘイの「鷺人間デッキ」
スタンダード[MO] [ARENA]
2 《
5 《平地
1 《
1 《荒地
2 《梢の眺望
4 《要塞化した村
4 《ヤヴィマヤの沿岸
2 《大草原の川
4 《進化する未開地

-土地(25)-

4 《スレイベンの検査官
4 《サリアの副官
3 《薄暮見の徴募兵
2 《ラムホルトの平和主義者
4 《反射魔道士
3 《変位エルドラージ
3 《不屈の追跡者
3 《優雅な鷺の勇者
1 《勇敢な先導

-クリーチャー(27)-
4 《ドロモカの命令
4 《集合した中隊

-呪文(8)-

 《優雅な鷺の勇者》があることで、4マナ出せる状態はこれまで以上に恐ろしいことになる。《集合した中隊》に加えて、《優雅な鷺の勇者》を構えられている可能性を警戒しなければならないからだ。《優雅な鷺の勇者》と《変位エルドラージ》の組み合わせはとりわけ危険だ――さらに《勇敢な先導》をちらつき効果(訳注:パーマネントをいったん追放し、再び戦場に出す効果)で何度も出されてカード・アドバンテージを取られては対処不能だろう。《ラムホルトの平和主義者》の枚数を増やすかどうかも検討すべきだ。

 これをとっかかりに、さらに改良できないか使って試してみよう!

 みんながどんな部族を使いたいか聞きたいし、なんなら部族と関係ない話でもかまわない。何らかの考え、疑問、ゲーム中の状況、今後の記事のお題についての提案など、何でもいいので思うところがあれば声を掛けてくれ!

 どこに伝えればいいかって? ああ、TwitterTumblrにいつでも連絡してくれてかまわない。それらが一番受け取りやすいが、メールでも大丈夫だ。beyondbasicsmagic@gmail.com宛てに送ってくれ。

 また来週戻ってくるよ。それまで『異界月』を堪能してくれ――あなたの部族向けのカードが登場するかもしれないぞ。

 また会おう。

Gavin / @GavinVerhey / GavInsight / beyondbasicsmagic@gmail.com

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