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プロツアー・パリ11

読み物

決勝: Paul Rietzl(アメリカ) vs. Ben Stark(アメリカ)

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by Tim Willoughby / translated by Yusuke Yoshikawa



 プロツアー・パリの決勝の席に着いて、友人でもある2人はともに笑顔だ。

 リーツェルは、にわかに信じがたいこの週末の、最後となるマッチに挑もうとしている。プロツアーで決勝に残っただけでは飽きたらず、同時にグランプリの2日目でもプレイを続け、24位でフィニッシュしたのだ。対戦相手のベン・スタークも最近は好調で、グランプリ・サーキットで好成績を残し続けてきている。

 リーツェルから見て、決勝のベン・スタークとのマッチアップは、ここまでトップ8で戦ってきた中では初めて、不利でないと感じられるものだ。彼はスイスラウンドにおいて、数々の白青「Caw-Go」デッキを向こうに回して戦ってきたが、それはトップ8に勝ち残れた要因のひとつでもある。妥当な引きさえすれば、この「ボロス」デッキは白青に刺さるカードでいっぱいなのだ。


「パリのアメリカ人」ベン・スタークとポール・リーツェル

 スタークにとっても、トップ8に入ってからの道のりこそリーツェルに比べて幾分楽ではあったものの、このマッチがタフなものになることは理解していた。彼は(彼自身はさておくとして)トップ8に残った全員がそうだと前置きしながら、「勝者に値する相手として、リーツェルと決勝で相見えることが一番うれしい」と言った。

Game 1

 リーツェルの滑り出しはやや不安定なものだった。ダブルマリガンである。それでも、第1ターンに《ステップのオオヤマネコ》から入り、序盤のビートダウンの脅威を見せつける。一方、スタークは第2ターンに《石鍛冶の神秘家》から《饗宴と飢餓の剣》を持ってくる立ち上がりだ。

 5枚の初手から始まっていることを考えると、リーツェルのドローはかなり有効なもののようだ。第2ターンにも2枚目の《ステップのオオヤマネコ》をキャスト、《乾燥台地》も置くがこれはすぐに起動しない。そして続くターン、スタークが《戦隊の鷹》をキャストするだけだったのを見越して攻撃し、このターンのフェッチランドと合わせて12点のダメージを叩き出す。スタークのライフはたったの6となった。リーツェルも鷹を持っていて、これは第1ゲームを奪い取るに十分なダメージになりそうだ。

 マッチに先立って、リーツェルは自分がやや有利だと認識した上で、「有無を言わせず瞬殺する」ゲームが1つは必要だ、と語っていた。それも、第1ゲームなら理想的だと。

 スタークは、この理想の流れになりつつある展開を止める最善の努力として、《戦隊の鷹》を1体キャストしつつ、《マナ漏出》を構える。

 しかしリーツェルは動じていないようだ。《湿地の干潟》をプレイして攻撃、スタークは生き残るためのブロックをせざるを得ない。《ステップのオオヤマネコ》のうち1体がブロックなし、鷹と鷹が相討ち、《石鍛冶の神秘家》は失われつつも、最後に能力で《饗宴と飢餓の剣》を残した。戦闘を終えで、リーツェルはさらなる鷹でプレッシャーをかけ続ける。

 スタークは今やライフ4だ。しかも、フェッチランドが未使用で残っているのだから、2体の《ステップのオオヤマネコ》のいずれかでも通せば致命的になることもわかっている。彼は鷹に剣を装備させ、その2体目を出した。

 《ぐらつく峰》からのリーツェルの攻撃によって、スタークはとうとうライフ1へ。リーツェルは少し考えて、2体の《板金鎧の土百足》をキャストした。もしスタークに《審判の日》があった場合は戦線の伸ばしすぎということになってしまうが、《板金鎧の土百足》を戦場に出しておくことで、たとえブロッカーを出されて土地を引かずとも、攻撃して勝利できると見込んだからだ。

 結局のところ、そこまでの考察は必要がなかった。スタークはカードを引くと、そのままカードを片付けて第2ゲームに向かった。

 「それが『有無を言わせぬ瞬殺』ってやつかい? しかも5枚から?」

 「そうだね。感激もんだ」

 「6枚でキープしときゃと良かったんだよ」 スタークが笑う。 「俺は、良くないハンドでもキープしてしまうような相手がいいなあ・・・」

 リーツェル 1, スターク 0

Game 2

 またしても第1ターンの《ステップのオオヤマネコ》からゲームが始まるが、今回はスタークが《失脚》を持っており、少々の間退場となった。これがリーツェルにはことのほか大きく、第2ターンに何もできず。一方のスタークは《定業》を連発する。

 「おおっと、良いカードだぜ!」 リーツェルは叫びながら《ステップのオオヤマネコ》を再度ドロー。これと《戦隊の鷹》を続けてキャストし、鷹をもう3枚持ってきた。

 だが、またしてもオオヤマネコ失脚。リーツェルは残された鷹で攻撃して、さらに2枚を追加でキャストした。彼はすでに全部の鷹を手札に持っていたので、ライブラリを探すかどうか悩む必要も、愛しのオオヤマネコをシャッフルで彼方に消し飛ばしてしまう心配もない。


ポール・リーツェルの一番長い日。彼は思い描くエンディングを迎えられるだろうか?

 スタークは《戦隊の鷹》を持っていた。だが2枚の《失脚》を見るに、こちらはビートダウンではなさそうだ。リーツェルは《石鍛冶の神秘家》をキャストして《冒険者の装具》を調達、すぐさまキャスト、鷹に装備から《進化する未開地》と流れるように展開して攻撃。これは土地が3枚で止まっているスタークにチャンプブロックをさせるのに十分で、なおも土地が引けないスタークは鷹のお代わりを出してターンを返すだけ。どんどん状況が不利になっていく。

 リーツェルは《乾燥台地》をプレイ、《冒険者の装具》の上陸能力を解決すると、隣の鷹に装備を移動した。こうすることで、1体しかブロッカーのいないスタークに対して、クリーチャー全部が脅威になるのだ。そしてさらに《冒険者の装具》を移動してから攻撃。有事に備えてフェッチランドを1枚残しておく。この攻撃でスタークのライフは12になった。

 フェッチランドは直接的にはスタークのライフ維持の手助けにはなってくれない。だが、ここで引けば勝つ確率は間違いなく上がる。そう、つまりは起動から《審判の日》だ。

 「まだまだ、ここからカード・アドバンテージの取り合い勝負だな」 スタークは言う。《戦隊の鷹》と《石鍛冶の神秘家》が実に優れたカード・アドバンテージ供給源であることを踏まえて、だ。

 リーツェルは《ステップのオオヤマネコ》と《戦隊の鷹》をキャストし、鷹に《冒険者の装具》をつけ、さらにもう1枚のフェッチランドを置いた。これで都合2枚のフェッチランドがスタンバイしたことになる。スタークは《神への捧げ物》で《冒険者の装具》を除去すると、こちらも《戦隊の鷹》を続けた。

 だがこの鷹も、フェッチランドの脅威の前に《ステップのオオヤマネコ》をチャンプブロックせざるを得ない。リーツェルは《板金鎧の土百足》を続け、スタークに《審判の日》を強いる。

 だがスタークもジリジリと持ち直し始めた。まずは鷹おかわりと《漸増爆弾》、続いて《ギデオン・ジュラ》をキャストし、すぐに「攻撃強制」能力で忠誠度を増やす。

 リーツェルは《トゲ撃ちの古老》をキャストし、《》を置いてターンを返した。この小さなゴブリンは、リーツェルが今や9マナを使える状況にあっていい仕事をすると思われたが、スタークの《漸増爆弾》が1で爆発する。散り際に《戦隊の鷹》を撃ち落とすだけとなった。

 そしてスタークの《ギデオン・ジュラ》はパワーアップを続け、ついに《悪斬の天使》がキャストされるが、これはすぐに《未達への旅》で対処。リーツェルは《石鍛冶の神秘家》で《冒険者の装具》を持ってきた。

 スタークの次の一手は《精神を刻む者、ジェイス》。これが《渦まく知識》をスタークに与え、《ギデオン・ジュラ》はさらなる強化で12の忠誠度を持つに至る。《石鍛冶の神秘家》が《冒険者の装具》から3つのフェッチランド起動で7点のダメージを与えるが、このギデオンにはまだ5個のカウンターが残された。リーツェルは《稲妻》と《電弧の痕跡》でギデオンを始末するものの、手札は空になってしまった。

 スタークはジェイスの+2能力でリーツェルのデッキを封じつつ、もう1枚の《ギデオン・ジュラ》をキャストした。ジェイスの+2能力「消術」は数度使われたにすぎなかったが、ギデオンが攻撃してくるに至って、リーツェルはカードを片付けた。

 リーツェル 1, スターク 1

Game 3

 今回のリーツェルは7枚をキープし、今回も第1ターンの《ステップのオオヤマネコ》を持っていた。さらに《ゴブリンの先達》とフェッチランドが続いてきたことで、第2ターンにして6点を与える。

 スタークは第2ターンの《戦隊の鷹》から入るが、リーツェルがさらなるフェッチランドと2枚目の《ゴブリンの先達》をプレイしてきたことで、これはすぐにチャンプブロックの任務についた。

 スタークは鷹おかわりと《シルヴォクの生命杖》をキャストする。しかしこれを装備する暇もなく、《ぐらつく峰》を受けてまたもチャンプブロック。リーツェルの攻撃でライフはすでに4だ。

 だが《審判の日》が戦線を一掃し、代わりに出てきた《板金鎧の土百足》は《精神を刻む者、ジェイス》でバウンスする。リーツェルは静かにうなずき、《板金鎧の土百足》を再キャスト、さらに《戦隊の鷹》を並べた。


ベン・スタークは長いブランクを経てコツコツと研鑽を積み、そしてこの場にたどり着いた

 スタークはいつの間にか主導権を取り戻しつつあった。ジェイスの《渦まく知識》能力を使い、続いては《ギデオン・ジュラ》をキャスト、攻撃強制能力を使う。リーツェルはそのとおりに従ったが、その前に《肉体と精神の剣》を出して装備させることを忘れなかった。これでギデオンの忠誠度を1まで下げたことで、-2の《暗殺》能力は使えなくなった。

 さて、ジェイスの「消術」でリーツェルのカードを見て、スタークは少し考える。結局は底に送ることにして、スタークの手札からは次なる《審判の日》、そして《饗宴と飢餓の剣》とつなげた。リーツェルの反撃は《戦隊の鷹》からで、これで先ほどスタークに底に送られたカードを混ぜ戻すことができる。その鷹に《肉体と精神の剣》を持たせ、もう1枚の鷹をキャストした。

 スタークもまた《戦隊の鷹》を持っていて、こちらも1体をキャストして、《饗宴と飢餓の剣》《シルヴォクの生命杖》を持たせる。さらにギデオンの忠誠度を増やし、《漸増爆弾》をキャストした。相変わらずライフは4しかないが、事ここに至ってはそれほど問題ではなさそうだ。リーツェルは言われたとおりに攻撃させられ、鷹はスタークのライフ3点と交換になった。これでかなり安全圏のライフ7、ギデオンも忠誠度4で生き残っている。

 スタークは新たな鷹をキャストするが、これに装備をつけようとしたところでリーツェルの《稲妻》がそれを除去し、阻止した。対してスタークも《失脚》でリーツェルの唯一のクリーチャーである《戦隊の鷹》を押し戻し、戦線をより強固にする。

 そして攻撃の時間だ。クリーチャー化したギデオンが装備品をまとい始めると、リーツェルは自分のカードをまとめ始めた。

 リーツェル 1, スターク 2

 「《審判の日》がなければ、というところで、いつもやられている気がするなあ・・・」 リーツェルは言った。選択によっては第3ゲームがたどっていたであろう、別の展開を模索しながら。

 「そっちは完璧にプレイしたと、オレは思ってるよ」 プロツアーの栄光まであと1ゲームに迫ったスタークは、そう応えた。

Game 4

 リーツェルはこのゲームにすべてが懸かる。彼の流儀ではいつもそうであるように、まずはマリガンの決定から入り、最終的に7枚をライブラリに戻すことを選んだ。次の6枚も、冴えないものだった。5枚を見て、うなずいてキープを宣言したものの、どこか不安げである。

 第4ゲームには、第1ターンの《ステップのオオヤマネコ》はなかったが、代わりに《ゴブリンの先達》が正当なる後継者として現れ、速攻で2点のダメージを与えた。


重圧がポール・リーツェルにのしかかる。

 「いま、手札は3枚ってことでいいかい?」 スタークが聞く。

 「そうだよ」 リーツェルの返事。 「うんざりなもんさ」

 「すまんね」 スタークは応え、《ゴブリンの先達》に《失脚》を放った。

 この《ゴブリンの先達》が戻ってくることはなかった。《肉体と精神の剣》を持ってくる《石鍛冶の神秘家》によって、シャッフルされてしまったからだ。第2ターン、スタークは《戦隊の鷹》という名の身代わりを立てた。《石鍛冶の神秘家》が剣を持ってやってくると、すぐにチャンプブロックに回った。

 スタークが順調に土地を4枚に伸ばす一方、リーツェルは2枚で止まったままだった。彼の攻勢は弱く、スタークが繰り出す1/1飛行の波を突破することができない。リーツェルが自らの《戦隊の鷹》を引き、キャストしはじめるが、やはり土地欠乏で迫力不足。スタークは《審判の日》を示し、さらにゲームの展開を遅らせる。

 ここでリーツェルはようやく土地を引き、速攻の《ゴブリンの先達》によって《肉体と精神の剣》の一撃を与えることができた。10枚のカードが《石臼》され、その中には《精神を刻む者、ジェイス》や《饗宴と飢餓の剣》が含まれていてリーツェルは満足気だった。一方スタークは慌てず騒がず、《定業》ともう1枚の鷹を出して終了とする。

 《神への捧げ物》がキャストされ、リーツェルの《肉体と精神の剣》による一撃はただの一度で終わることとなった。攻撃でスタークのライフは13となる。続くターンの攻撃に対しては《天界の列柱》で狼トークンを迎え撃つが、これは《稲妻》との合わせ技で除去された。この間、2枚ずつの鷹が相討ちしていた。

 スタークは《精神を刻む者、ジェイス》をキャストし、《渦まく知識》能力を使ってから、《戦隊の鷹》でライブラリをシャッフルし直すとともに、このプレインズウォーカーの守りに就かせる。

 リーツェルは全軍をジェイスに向かわせるが、鷹が相討ちとなり、ジェイスは忠誠度1で踏みとどまった。戦闘後に《ステップのオオヤマネコ》をプレイしてターンを返す。

 2度目の《渦まく知識》から《審判の日》そして《石鍛冶の神秘家》と流れるようにプレイ。この効果でまたもライブラリをシャッフルし手札の質を向上させると同時に、《シルヴォクの生命杖》を持ってくる。ちっぽけに見えて、これはスタークにとって大事なものだ。

 ふたりともが、もうゲームが長く続かないことをわかっていた。もちろん、勝つのがどちらであろうか、も。

 リーツェルはどうにかする手段も、もう持ち合わせていないように見えた。

 彼はフィーチャーマッチ・アリーナに集まる観衆に目を向け、スタークの友人たちの一団を見た。

 「こいつは悪い報せだなあ」 リーツェルは言った。

 再びテーブルに目を戻すと、スタークが《ギデオン・ジュラ》をキャストするところだった。「悪い報せだよ・・・」 テーブルの反対側の、強大な陣営を見渡しながら、再び、つぶやく。

 スタークはすべてに対する回答を持っていた。《審判の日》が、リーツェルの《ステップのオオヤマネコ》と《戦隊の鷹》を押し流す。

 スタークがジェイスの《渦まく知識》を解決し終えると、リーツェルは笑った。

 「引き分けにしよう」 映画『ボビー・フィッシャーを探して』を引用して、彼は持ちかけた。「あと13手かかるよ。彼はまだわかってないさ」


いいデッキと、いい笑顔が、あなたに成功をもたらす。

 どう考えても、このゲームがあと13ターンも続くわけはなかった。スタークは《悪斬の天使》をキャストした。リーツェルはこれに対して《反逆の印》を使い、《ギデオン・ジュラ》を傷つけることもできたのだが、《未達への旅》を使った。彼の手つきはまだちょっと雑だった。

 ジェイスが「消術」を使い始め、リーツェルはすべてが終わったと悟った。彼は、スタークがライブラリの上に残したままにしたカードを引いてみる必要すらなかった。

 スタークが2枚目の《悪斬の天使》をキャストしたところで、リーツェルは握手を求めた。

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 ベン・スタークが3勝1敗のスコアでポール・リーツェルをやぶり、プロツアー・パリ・チャンピオンに輝いた!


 「14歳のときから、この瞬間を夢見てきたんだ」 スタークが、成し遂げた事実に、突然感極まったように言った。

 「おめでとう」 リーツェルが言う。 「おまえは、チャンピオンに相応しいよ」

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RESULTS

対戦結果 順位
16 16
15 15
14 14
13 13
12 12
11 11
10 10
9 9
8 8
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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