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マジックフェスト・京都2019

観戦記事

第8回戦:藤田 剛史(大阪) vs. Petr Sochurek(チェコ) ~白熱の全勝対決、カンスペ vs デュレス~

伊藤 敦

藤田「久しぶりの1番テーブルだったから、そのまま1番テーブルが良かったなー。1番テーブルに座るの10年ぶり、いや15年ぶりくらいちゃう?」

 そう言いながらもフィーチャーマッチのアナウンスに応えて現れたのは藤田 剛史。言わずと知れた殿堂プレイヤーであり、BIG MAGIC 所属プロでもある関西の重鎮だ。

 一方そんな藤田の前に立ちはだかったのが、チェコのゴールド・レベルプロにしてHareruya Pros所属のペトル・ソフーレク/Petr Sochurek。プレイの上手さにも定評があるプレイヤーだが、日本人のプレイヤーにとってはそれ以上に、馴染み深いキャラクターの持ち主と言えるかもしれない。

ソフーレク「(ダイスの目の) 大きい方……先手で」

 なぜならそう、ソフーレクは日本語がペラペラなのである。

藤田「日本に住んでるんですか?」

ソフーレク「チェコに住んでます。チェコに行ったことある?」

藤田「あるある、プロツアー・プラハかな?」

ソフーレク「プラハは都会」

藤田「チェコって20年くらい前、マジックめっちゃ強かったよね」

 と、すっかり馴染んだ様子で会話する2人だが、これから始まるのはもともと1番テーブルの対戦だったことからもわかるように、互いに7勝0敗の全勝対決

 はたして無敗のまま最終ラウンドを迎えることができるのは、藤田か、それともソフーレクか。

 
藤田 剛史 vs. ペトル・ソフーレク
 
ゲーム1

 秒でキープしたソフーレクに対し、藤田は少し悩んでマリガン。《ラノワールのエルフ》に対して《プテラマンダー》を送り出すと、ソフーレクが《翡翠光のレインジャー》で《ラノワールのエルフ》を落としつつ《》を手札に加えた返しで、早くも2ターン目から執着的探訪をエンチャント。攻撃で手札を潤しつつ、さらに《》を立ててターンを返す。

 青単において最も強力なカードのひとつである《執着的探訪》は、放置すればするほど手札が充実していくため、ターンの経過がそのまま形勢の悪化を招くことにつながる。したがってソフーレクの立場からはもし除去を持っているとするならば、たとえ《潜水》や《呪文貫き》の匂いがしようとも、可能な限り早急な対処が求められる……はずなのだが、返すソフーレクのアクションは《翡翠光のレインジャー》と《ラノワールのエルフ》の4点アタックからセット《水没した地下墓地》でゴーといういかにも弱々しいもの。

 しかも藤田のターンのアップキープにも除去は飛んでこない。そしてこれを見た藤田は、ソフーレクの窮状を一瞬で看破し、フルタップで《大嵐のジンを送り出す!

 《喪心》がなかった以上、ソフーレクが除去をトップデッキしたとしても《執着的探訪》付きの《プテラマンダー》か、《大嵐のジン》のどちらかは残る。しかもソフーレクが何も引かなければ、一気に勝負の天秤が藤田の側に傾くという状況だ。

 果たしてこの状況でソフーレクの次なるアクションは、「X=3」の《ハイドロイド混成体》。対してフルタップのリスクを負ったターンを無事にしのいで勢いづいた藤田は、《大嵐のジン》の4点アタックから2体目の《大嵐のジン》を展開して畳みかける。

 すでに《ハイドロイド混成体》はブロッカーとしての用をほとんどなしておらず、ソフーレクの投了は間近かと思われた。

 だが。

 スゥルタイにはまだこのカードが入っていた。6マナから一撃必殺の最終》!これが通れば5/5の《ハイドロイド混成体》だけが残る盤面となり、ソフーレクの一発逆転が実現する。

 だが、もとより藤田が何も持っていないはずもない。対応して《大嵐のジン》のうちの1体を《潜水》で守った藤田は、続くターンに《》をセットして5/4飛行でアタックしてソフーレクのライフを残り8点まで追い詰めると、さらに3体目の《大嵐のジン》を送り出す!

 そして、続くターンにメインで《マーフォークのペテン師》が公開されると、ソフーレクは手札の4枚がすべて土地であることを公開し、さっさとカードを片付けたのだった。

藤田 1-0 ソフーレク

 

 スゥルタイ・ミッドレンジ。ソフーレクにこれほど似合うデッキもないだろう。環境で最強のミッドレンジデッキを、最も上手く扱う。それがソフーレクのスタイルだからだ。

 だが他方で、青単を駆る藤田はどうだろうか? バーンやスライ、ボロスなどアグロを使うことが多いという藤田のイメージからすると、あまり「らしくない」デッキ選択だと言えるかもしれない。

 しかしよく考えてみると、バーンとカウンターとは似ているところがある。相手の脅威を焼く/カウンターするかどうかについて正確な評価を下し、常にシビアなリソース管理を行うという点において、デッキの性質が共通しているからだ。

 本来であれば本体に飛ばすべき火力を切ってまで焼くべきクリーチャーはどれか。他の呪文は通すことになったとしても、決して通してはいけない呪文はどれなのか。バーンとカウンターの判断の基準は、実は驚くほど似ている。考え方はどちらも「死ななきゃ安い」だ。

 それゆえ、カウンター使いはほとんど例外なく、バーンデッキを使わせても上手いのである。

 ならば、その逆も言えるのではないか。

 そう、超一流のバーン使いである藤田は、カウンターデッキを使わせても超一流なのだ。

 
ゲーム2

 1ゲーム目よりも少し悩んでキープを宣言したソフーレクは、《湿った墓》アンタップインから強迫を打ち込む。

 公開された藤田の手札は、《セイレーンの嵐鎮め》《選択》《》《》《》……そして執着的探訪》が、2枚。思わず唇を鳴らすソフーレク。さすがに2枚のうちの1枚を落としにいく。

 藤田は《セイレーンの嵐鎮め》、返すソフーレクは《水没した地下墓地》セット、ゴー。藤田はまず《選択》を打って手札を整えつつ、《執着的探訪》は付けずに1点アタック。さらに戦闘後に《霧まといの川守り》を送り出す。

 返すターン、ソフーレクに3枚目のセットランドは……ない。そのまま力なくターンを返すしかない。

 これを見て藤田は満を持して《執着的探訪》を《霧まといの川守り》にエンチャントしてアタック。戦闘中の《喪心》に対しては《セイレーンの嵐鎮め》が身代わりとなり、付いたばかりの《執着的探訪》が早速、藤田に1枚ドローをもたらす。

 それでも、このターン藤田の残りマナは1マナ。すなわち、焦点はたった1つだった。

 潜水》もしくは《呪文貫き》を、持っているのか、いないのか。

 ソフーレクは意を決して、メインで2枚目の《喪心》を《霧まといの川守り》に打ち込む。

r8_sochurek.jpg

 そして、これが通る!

 安心した様子で、さらに引き込んでいた《繁殖池》をタップインで置いてターンを返すソフーレク。

 他方、せっかく作り上げた《執着的探訪》つきクリーチャーを失い、厳しくなった格好の藤田。《選択》を連打してから《プテラマンダー》を送り出すのだが、「順応」が発動するにはまだまだ時間がかかりそうだ。

 さらにソフーレクは《強迫》。苦笑しながら手札を公開した藤田の手の中には2枚残った《幻惑の旋律》が。片方を落とすと、ソフーレクは満を持してのクロールの銛撃ちで《プテラマンダー》を除去!

 藤田も《クロールの銛撃ち》を《幻惑の旋律》で奪いつつ《セイレーンの嵐鎮め》を展開するが、この時点で既に手札はゼロ枚。

 返すソフーレクが《人質取り》で、コントロールを奪われた《クロールの銛撃ち》を追放すると、青単の藤田にこの盤面を返す術はないように見える。

 それでも一応引き込んだ4枚目の《選択》でカードを下に送り、引いたドローを確認した藤田は……手短にこう宣言した。

藤田「投了(笑)」

藤田 1-1 ソフーレク

 

藤田「ハンデス強いなぁ……」

 この藤田のボヤキに対して、その意味内容を解するソフーレクは微笑で応じる。「何を当たり前のことを言っているんだ」と言わんばかりに。

 そう、当たり前だ。当たり前のことを淡々とやれるのが、ソフーレクの強さでもある。《強迫》を打ち込む。《クロールの銛撃ち》を出す。そして藤田のクリーチャーを、根こそぎ除去しきる。それこそが勝利への道筋だと知っている。

 一方、3本目は先手だというのにサイドボードで悩む藤田の表情は優れない。《強迫》と《クロールの銛撃ち》がフル搭載されている気配がある以上、どう見繕ってもサイド後は厳しい戦いを強いられてしまう。

 それでも、勝ち筋があるとすれば……藤田はええいままよとサイドボードを終えた己のデッキをソフーレクに差し出し、3ゲーム目に臨む。

 
ゲーム3

 藤田の7枚キープに対して、ソフーレクはマリガン。そして占術を……全力で、悩む。

 これがこのゲームの行く末を左右する最も重要な決断になりうると、そう見越しているかのように。

r8_mulligan.jpg

 手札の6枚を伏せ、顔を覆いながら考える。上か。下か。

 下だ。

 ついにゲームが始まる。藤田が《セイレーンの嵐鎮め》からの立ち上がりに対し、返しでソフーレクは《湿った墓》アンタップインから強迫

 公開された手札は、《》《大嵐のジン》《排斥する魔道士》《魔術師の反駁》《幻惑の旋律》。ここから《魔術師の反駁》が落とされる。そう、次のターンには対抗呪文となって構えられていたはずの《魔術師の反駁》が。

藤田「デュレスいややなー……」

 そんな藤田の言葉に呼応するように、《》セット1点アタックのみでターンが返されたソフーレクが続けて送り出したのは、クロールの銛撃ち》!

 藤田が引き込んでいた《マーフォークのペテン師》では、このどうやっても誘発してしまう格闘能力を返せない。《セイレーンの嵐鎮め》が、空しく墓地に落ちる。

藤田「デュレス強いなー……デュレスなければなー」

 やむなくエンド前に召喚するしかない。だが、ここで藤田の土地は2枚で詰まってしまう。

 返すソフーレクは《繁殖池》をタップインしつつ《ラノワールのエルフ》を召喚。《幻惑の旋律》が見えている以上リスクはあるが、逆にリターンも大きい。そう見込んでのプレイだ。

 対して藤田は、なおも3枚目の土地が引けない。続く《強迫》は今度こそ《魔術師の反駁》で弾くものの、なおも返しのターンでも土地を引けず、《プテラマンダー》を送り出すことしかできない。

 そしてそんな藤田を尻目に、ついにソフーレクはハイドロイド混成体》を「X=4」で召喚する。

 返す藤田のターン。メインで《選択》を打ってようやく3枚目の土地にたどり着いたものの、あまりにも遅い。

 それでも、まだソフーレクの手札がすべて土地なら、あるいは。

 そう信じる藤田の願いが届いたか、ソフーレクは《ハイドロイド混成体》で攻撃するも、土地をセットするのみで動かない。

 まだ、まだ土地を引いていてくれ。祈りながら藤田は、フルタップで《大嵐のジン》を送り出す。

 だがそんな願いも空しく、ソフーレクは「X=6」の《ハイドロイド混成体》をプレイする。

 それでもまだ、返しで藤田が《》を引けば。「X=2」の《幻惑の旋律》で6/6の《ハイドロイド混成体》を奪って形勢逆転も見えるはずだった。

r8_fujita.jpg

 そしてドローした藤田は……静かに、頭を抱える。4枚目の土地は、見えない。

 2枚目の《大嵐のジン》を送り出すが、4/4と6/6の飛行に対し、3/4飛行が2体並んでいるだけという状況。しかも藤田の残りライフは6しかない。《ハイドロイド混成体》の3枚ドローと通常ドローでソフーレクがおよそどんな呪文を引き込んでいたとしても損を強いられ、そしてその瞬間に敗北が確定するであろうシチュエーション。

 なぜなら、これはサイド後の戦いだからだ。ソフーレクのデッキには、藤田のデッキに対して効果的なカードしか入っていない。

 そしてソフーレクは、迷わず《ハイドロイド混成体》2体を攻撃に向かわせる。

藤田「アタックしたってことは負けてるよね。除去あるよね」

 そう言いつつ藤田は半ば覚悟の上で選択肢のないダブルブロックを決断する。その結果……ソフーレクは、そのまま戦闘を解決する。……解決?

 戦闘後の《強迫》で《幻惑の旋律》を奪い去られ、《マーフォークの枝渡り》を戦線に追加されるも、藤田の脳裏にはある仮説が見え始めていた。

 ……もしや、本当に何も引いていない?(・・・・・・・・・・・・・・・・)

 それならば、まだチャンスはある。

 しかも、ここでようやく4枚目の《》を引いた。ここにきて《プテラマンダー》の「順応」も見えてきている。ソフーレクの引きはおそらく芳しくない。何か(・・)を引かれる前に、攻めに転じることができれば。

 だが、藤田のライフも目下残り2点しかない。もはや《マーフォークの枝渡り》が小突いただけでも死ねる状況。やむなくブロッカーも兼ねて《排斥する魔道士》を召喚するが、ETB能力持ちばかりで戻しても害がないのが《ラノワールのエルフ》くらいしかいない。

 一方ソフーレクはさらに《マーフォークの枝渡り》を追加しつつ、《ラノワールのエルフ》も出し直してゴー。決定打は引いていないとはいえ、「探検」が着々とソフーレクのドローを有効札へと近づけ、藤田のタイムリミットを削ってきている。

 だが盤面にパワー2が追加された以上、このターンも藤田はブロッカーを呼ぶしかない。2体目の《排斥する魔道士》で、《ラノワールのエルフ》を再び手札に戻す藤田。

 そして返すターン。3体目の《マーフォークの枝渡り》が「探検」で公開したカードは……。

ソフーレク「強い(笑)」

3枚目の、《ハイドロイド混成体》だった。

藤田「うわー……ランドしかなかったんやなー……チャンスやったんに……」

 さすがにここであがくほど藤田も往生際が悪くはないか。

 ついにソフーレクが長かった戦いに決着を付けるべく、すべてのマナをタップしようとする。

藤田「手札2枚!カウンターあるかもよ!(笑)」

ソフーレク「カウンターないの、知ってる」

 往生際が悪かった。もちろんソフーレクは迷う素振りも見せずに「X=10」でプレイ。寸詰まっていた手札に、慈雨のごとく大量のドローがもたらされる。

 やがて返す藤田のターン。《選択》でライブラリートップを確認する間に、ソフーレクがお茶目な笑顔で手札のうちの4枚、《喪心》《喪心》《暗殺者の戦利品》《暗殺者の戦利品》を公開した。

藤田「……いや、まだわからないんで!」

 だが、そう言いながら手札の公開を遮った右手は。

 一瞬の逡巡ののちに、勝者を称える握手へと形を変えたのだった。

藤田 1-2 ソフーレク

 

藤田「強いなー。プロツアーでも負けたもんなー」

ソフーレク「《排斥する魔道士》は、あまり強くないと思います」

 対戦が終わった後、互いのサイドインアウトを見ながら2人は検討を始める。

藤田「やっぱデュレスやねー。《クロールの銛撃ち》あってもカウンターできると思ってたから」

ソフーレク「(《クロールの銛撃ち》を指差しながら) ドローで引いた(笑)」

 藤田の《対抗呪文》こと《魔術師の反駁》のガードを突き破ったのは、ソフーレクが繰り出した1ターン目の《強迫》だった。

 史上何度も繰り返されてきた、手札破壊とカウンターとの攻防。環境は全く違うはずなのに、ミームとして受け継がれたその関係性は、文脈とは全く無関係に、なぜか2006年のプラハを幻視させた。

 そして。

藤田「また決勝でリベンジするんで!」

 3本目に土地2枚で詰まったことへの不平を露わにするでもなく、笑顔でチェコから来た青年と新たな関係性を築き上げる姿に、藤田剛史という男がなぜ殿堂に選ばれたのかというその一端を改めて垣間見たのだった。

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RESULTS

対戦結果 順位
15 15
14 14
13 13
12 12
11 11
10 10
9 9
8 8
7 7
6 6
5 5
4 4
3 3
2 2
1 1

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