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グランプリ・京都2018
決勝:チーム 四本/遠藤/タケイシ vs. チーム 山本/松原/高村
By 矢吹 哲也
(編集より:髙村 和貴選手のお名前は、正式には「髙」ですが、記事中では「高」の表記を使わせていただきます。)
トップ4プロフィールの「チーム結成の経緯」の欄を見ると、決勝へ進出した2チームのメンバーにはそれぞれ「十年来の友人と」や「友だち同士」といった文言が並んでいる。
彼らはみな、いわゆる「地元のマジック仲間」であり、これまでに競技の世界で目立った成績を残した者はごくわずかだ。
四本 悠葵、遠藤 亮太、タケイシ コウジによるチーム「SGP」は、彼らにとって望外の結果を「信じられない」と言い、山本 涼一、松原 雄介、高村 和貴によるチーム「カードショップリンクス」もまた「実感がない」と自身が立つ舞台の大きさに浮き足立つ。
カメラを向けられ、あれこれ書かされ、周りをギャラリーに囲まれ、ビデオカメラに追われ......すべてが慣れなかった。
だがその中でただひとつ、慣れ親しんだものがある。
これから始まるゲームだけは、場所がどこでも変わらないだろう。
今この場に、グランプリ決勝の舞台に、競技の世界の最前線を走る者はいない。
だが競技は、プロだけのものではない。
ここで戦う彼らもまた、少なくとも今この瞬間だけは立派な競技者だ。
第1ゲーム
遠藤 亮太 vs. 松原 雄介(モダン)
最初にゲームが大きく動いたのは、中央のモダン卓だった。
「親和」を操る松原は第1ターンから《オパールのモックス》、《信号の邪魔者》、《羽ばたき飛行機械》、《大霊堂のスカージ》と脅威を高速で展開し、続くターンには《頭蓋囲い》を加えて早くも強打を繰り出した。
一方「5色人間」の遠藤は《反射魔道士》で《大霊堂のスカージ》をバウンスしてしのぐが、空中から次々と押し寄せる機械の軍勢を止めることは能わず。瞬く間にライフを削り切られた。
遠藤 0-1 松原
四本 悠葵 vs. 山本 涼一(スタンダード)
「赤緑モンスター」の四本と「青黒ミッドレンジ」の山本によるスタンダード卓の戦いは、四本が4ターン目、5ターン目、6ターン目と続けて繰り出した《再燃するフェニックス》と《栄光をもたらすもの》が勝負を決定づけた。
山本は序盤にプレイした《歩行バリスタ》で「紛争」を達成し、《再燃するフェニックス》へ《致命的な一押し》を差し向ける。迎えたターンに2枚目の《歩行バリスタ》で残ったエレメンタル・トークンもなんとか除去したが、そのために費やしたリソースはあまりに大きい。いまだ残る《栄光をもたらすもの》に対して、小粒な地上クリーチャーのみでは反撃の糸口が見えてこなかった。
そこへ襲いかかる、2枚目の《栄光をもたらすもの》。
追い詰められた山本だが、この状況を変える手立てはない。それでも最後までプレイしようと《スカラベの神》を着地させてターンを返したところへ、四本は3枚目の《栄光をもたらすもの》で応えるのだった。
四本 1-0 山本
タケイシ コウジ vs. 高村 和貴(レガシー)
「4色レオヴォルド」のタケイシは、1ターン目《死儀礼のシャーマン》から2ターン目《トーラックへの賛歌》で高村の手札を攻めた。しかしここで捨てた2枚は、「スニーク・ショウ」を操る高村のコンボ始動を止めるものではなかった。
3ターン目にして早くも訪れたこのゲームの転機。
高村の《実物提示教育》にタケイシは《意志の力》。高村も《意志の力》で受けて立つと、タケイシはさらに2枚目の《意志の力》でこれを切って落とした!
思わず「マジかー!」と声を漏らす高村だが、続くターンにドロー呪文を使い、再びのコンボ挑戦の機会を狙う。しかしその間にタケイシの《死儀礼のシャーマン》は着々と高村のライフを削り、盤面へ追加された《瞬唱の魔道士》も高村の残り時間を大いに奪った。
ついぞ高村へチャンスは与えられず、これにて第1ゲームは決着した。
タケイシ 1-0 高村
タケイシ コウジ |
第1ゲームを終えた時点では、チーム「SGP」がゲームひとつ分リードする形になった。第2ゲームではレガシー卓が放送待ちの待機となり、タケイシと高村の両者はスタンダード卓とモダン卓の戦いを見守る。
そしてそのふたつの戦いは、この試合を大きく動かすものとなった。
第2ゲーム
遠藤 亮太 vs. 松原 雄介(モダン)その1
先手の遠藤が1ターン目《貴族の教主》から2ターン目《カマキリの乗り手》と快調な展開を見せたが、松原が3ターン目に繰り出した《血染めの月》が、遠藤の動きを支配的なまでに鈍らせた。基本でない土地が立ち並んでいた遠藤の盤面は、いまや《山》。赤マナ以外の供給源は《貴族の教主》のみとなった。
それでも遠藤の盤面には《カマキリの乗り手》があり、「賛美」の支援を受けて4点のダメージを刻んでいく。しかしそれも、松原の《光り物集めの鶴》が《頭蓋囲い》を装備するまでのことだった。
攻撃に出られなくなった遠藤に対し、松原は2枚目の《頭蓋囲い》を盤面へ加え、攻勢に出た。一挙12点もの手痛いダメージを受けた遠藤だが、《霊気の薬瓶》から《帆凧の掠め盗り》を繰り出し松原の手札を確認すると、《四肢切断》でブロッカーを排除し反撃。互いのライフが残り4点で並んだ。
ここから最終局面へ向かおうかというそのとき、「勝ったー!」と声が届いた。
それは、隣のスタンダード卓の試合が決着したことを意味していた――
四本 悠葵 vs. 山本 涼一(スタンダード)
四本が《マーフォークの枝渡り》でゲームを始めると、山本はそこへ《致命的な一押し》を撃ち込み、迎えたターンに《機知の勇者》を展開。
四本は《地揺すりのケンラ》で先制ダメージを与えたものの、続く《再燃するフェニックス》は《至高の意志》で防がれ、この隙に山本は《死の権威、リリアナ》を着地させた。
山本 涼一 |
[-3]能力で戦場に戻したのは、先ほどの《機知の勇者》で墓地へ送っていた《スカラベの神》! 山本はこの1ターンで一気に盤面を築き上げる。四本は《捲土 // 重来》で《スカラベの神》を対処したものの、山本の盤面には《死の権威、リリアナ》が残り、ゾンビを生み出していく。
しかしこの窮地を救ったのは、やはり《栄光をもたらすもの》だった。
このとき山本の手札にあったのは《渇望の時》のみ。《死の権威、リリアナ》を1ターン盤面に残すことはできたものの、続く攻撃で退場することになった。
残るゾンビ2体でダメージレースを挑む山本だが、四本は2体目の《栄光をもたらすもの》を繰り出し、優位を固めた。続けて加えた《地揺すりのケンラ》を前に山本はトップデッキした《奔流の機械巨人》を送り出すが、ここで《地揺すりのケンラ》を墓地へ落としても次のターンに「永遠」で戻り、さらに苦しい状況になる。山本の選択は、《渇望の時》でダメージを軽減することだった。四本の残りライフは18点。そして山本にも9点のダメージ源がある。
しかし《奔流の機械巨人》は《削剥》で破壊され、そのプランは脆くも崩れ去った。ゾンビの反撃で四本のライフを残り8点まで減らしたものの、《栄光をもたらすもの》の攻撃は苛烈だった。
《機知の勇者》で解答を探した山本は、そのままターン・エンド。
四本の全軍攻撃の号令を聞くと、笑顔で右手を差し出すのだった。
四本 2-0 山本
遠藤 亮太 vs. 松原 雄介(モダン)その2
四本が上げた声に遠藤と松原は少しだけ視線を送ったが、すぐに自分たちのゲームへと集中した。この時点で両者のライフは残り4点。遠藤の盤面には《貴族の教主》、《カマキリの乗り手》、《帆凧の掠め盗り》が残り、松原には《光り物集めの鶴》と《信号の邪魔者》、そして《頭蓋囲い》が2枚ある。決着は間近だ。
ターンを迎えた松原は《頭蓋囲い》を2体のクリーチャーへ装備して攻撃。どちらも致死量のダメージであり、遠藤は両方ともブロックせざるを得ない。《帆凧の掠め盗り》が戦場を離れたことで《ギラプールの霊気格子》が松原のもとへ戻り、彼はこれを展開してついに遠藤が持つ唯一の色マナ源である《貴族の教主》を除去することに成功した。
その後松原は、2枚目の《光り物集めの鶴》と《信号の邪魔者》を展開。《反射魔道士》と《人質取り》で喰らいつく遠藤だが、《ギラプールの霊気格子》によるダメージを防ぐ手立てはなかった。
遠藤 0-2 松原
こうして、この2試合を見届けたレガシー卓の両者――タケイシと高村に、すべてが託された。
両チームとも、個々人で見たときの予選ラウンドの勝敗は決して良くはなかった。「個人戦グランプリだったら初日落ちか、少なくとも決勝ラウンドまでは進めていませんでした」と、どちらのチームにトップ4入賞の決め手を聞いても、返ってくる答えは「仲間のおかげ」だった。
試合を終えたスタンダード卓とモダン卓の4人は、残るふたりの決戦を見守る。これまで何度も、この場面に遭遇してきた。そのたびに、最後に残ったひとりはチームに勝利をもたらしてくれた。
だから4人は信じて待つ。最後の戦いに挑むチームメイトが拳を突き上げるその瞬間を。
タケイシ コウジ vs. 高村 和貴(レガシー)
最初の2ターンは両者とも土地を置き、続けて互いにドロー呪文で体勢を整えた。片方がコンボ・デッキである以上、勝負が決まるのは一瞬だ。張り詰めた空気の中、先に仕掛けたのはタケイシの方だった。
《瞬唱の魔道士》でクロックを確保すると、続けて《ヴェンディリオン三人衆》も追加。高村はこれに対応して《渦まく知識》を放ち、《引き裂かれし永劫、エムラクール》(2枚あるうちの1枚)と《実物提示教育》をライブラリーへ戻す。
公開された手札には《意志の力》の姿が3枚。「完璧じゃん」とタケイシは苦笑し、高村の手札をそのまま残した。タケイシが迎えたターンに《トレストの使者、レオヴォルド》を繰り出しターンを返すと、高村は動き出した。
高村が示した《実物提示教育》をタケイシは通し、《引き裂かれし永劫、エムラクール》が戦場へ降臨。すぐに《悪魔の布告》を唱えたが、これは当然《意志の力》で弾かれる。
タケイシは2体目の《瞬唱の魔道士》をプレイするも、ここにも《意志の力》。《引き裂かれし永劫、エムラクール》を退けることは叶わず、勝負は最終ゲームまでもつれ込んだ。
タケイシ 1-1 高村
第3ゲーム
タケイシはのちに、「少なくとも2ゲーム目は正確にプレイできれば勝てた」と振り返る。大舞台で極限の緊張の中、プレイにごくわずかな歪みが出て、つけられたはずの決着をつけられなかった、という事例はプロの世界でも見受けられるものであり、これもまた競技の妙味と言えるだろう。
もしかしたら、この第3ゲームはなかったのかもしれない。だがタケイシと高村の両者はすべてが懸かった決着の一戦へ赴く。それが事実だ。
タケイシ コウジ vs. 高村 和貴(レガシー)
高村が初動からドロー呪文を連打するのに対し、タケイシの初動は3ターン目の《死儀礼のシャーマン》。高村は、迎えた3ターン目から攻勢をしかける。
続けて2枚目の《実物提示教育》。これには《狼狽の嵐》が当てられた。
そして《騙し討ち》。タケイシは《意志の力》を放つが、高村も満を持して《意志の力》を切った。
着地した《騙し討ち》を高村が起動して《グリセルブランド》が現れると、次の弾が補充される。タケイシは《思考囲い》で《引き裂かれし永劫、エムラクール》を払い落とすなど奮闘したが、2体目の《グリセルブランド》が再び《引き裂かれし永劫、エムラクール》を呼び寄せ、2日間、全16回戦にわたる激戦に幕を下ろしたのだった。
チーム四本/遠藤/タケイシ 1-2 チーム山本/松原/高村
「ありがとうございましたー!」
高村の声がひときわ大きく響き、チーム「カードショップリンクス」のメンバーはハイタッチを交わした。大舞台での勝利の大きな喜びは、ここでしか味わえない特別なものだろう。
競技は、プロだけのものではない。
誰でも等しく「熱く」なれるからこそ、マジックは多くのファンを集めるのだ。
山本 涼一、松原 雄介、高村 和貴、グランプリ・京都2018優勝おめでとう!
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