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グランプリ・北京2018

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「英雄譚」ゴールドレベル・プロ 井上徹の苦闘と飛躍

小山 和志
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 プロ・プレイヤー

 数多くのプレイヤーたちが目標とするステータスだが、ひとくちにプロ、と言ってもさまざまなレベルがある。

 名実ともにそう認知されるのは、プロツアーへ年間を通して参戦できるゴールド・レベル以上だろうか。単なるフロックでは到達できないゴールドの座−そのレベルへ到達するプレイヤーは世界のトッププレイヤー、「英雄」と言って差し支えない。

 その英雄たちの世界に、井上徹は足を踏み入れた。

 The Limits 2010優勝やグランプリ・北京2016でグランプリトップ8入賞という活躍を見せてきた井上は、長年の、数多くの競技イベント参加を経て、今シーズンついにプロツアーへ年間を通して参戦できるゴールド・レベルの座を手にした。

 昨シーズンのシルバー・レベルから、今シーズンと順調にステップアップを重ねているように見える井上のプレイヤーキャリア。だが、その道のりは10年以上の苦闘の連続だった。

 井上のこれまでの軌跡はどのようなものだったのだろうか――

Ⅰ プロツアーへの憧れ、そして最高峰の舞台へ――

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 井上がマジックを始めたのは中学生の頃だった。今も在住する九州・福岡で店舗イベントに参加し始めた彼は、高校生になるとすぐにトーナメントマジックへと身を投じることとなる。

井上「どうしてもプロツアーに出たかったんですよね。どうしても海外に行きたくって(笑)」

 マジックを始めた当初から井上の目標は一貫していた。マジック最高峰の舞台にして、トーナメントプレイヤーの憧れの舞台。そこに至るまでに何年も費やすプレイヤーもいれば、どんなに願っても出場すら叶わないプレイヤーもいる。きっかけは軽い気持ちだったかもしれないが、その厳しい道へ進むことを決めた井上は、今もチーム戦グランプリではチームを組むほどにかけがえのない戦友である高尾翔太や加茂里樹と出会い、ともに研鑽を積んでいくこととなる。

 そして、井上は競技イベントに出始めるとすぐに頭角を現し始めた。

 大澤拓也が優勝を果たしたプロツアー・プラハ2006

 井上は早くもプロツアーへの参加権利を手にし、意気揚々と挑んだ。

 結果は、わずか3勝での初日落ち――。

 初めてのプロツアーはほろ苦い記憶が刻まれた。

 それでも、かけがえのない友人と念願のプロツアー出場という経験を得た井上は、競技イベントへ一層熱意を向けて行くこととなる。

Ⅱ The Limits 2010優勝から休止、そして再起――

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 その後も年に1度ほどのペースでプロツアー権利を獲得していた井上だったが、「チェイン」=プロツアーへ継続参戦できる順位でのフィニッシュ、を果たすことができず単発での参加に終始する。トーナメントシーンでその名を目にするには初めてのプロツアー参戦から4年以上が経過していた。

 かつて、冬のリミテッド王者決定戦として存在したThe Limits。 2010年にこのタイトル戦へ参加した井上は、数々の強豪を打ち破って優勝を果たしたのだ。

 すでに福岡の強豪として認知されていた井上だったが、この優勝を気に彼の名前は一躍日本中に知れ渡ることとなり、さらなる飛躍を期待されるようになった――

 

――のだったが、彼の前に人生の一大イベントが立ち塞がった。

 就職

 生活環境の変化は全てを一変させる。仕事が落ち着くまでの1年半ほどの間、井上は完全にマジックから離れてしまうことになった。

 その井上を再び突き動かす原動力となったのは、高校時代に知り合った友人たちだった。

井上「僕がマジックを休止している間に高尾くんがグランプリ・静岡2014で準優勝して……それが本当に大きかったです。友達の活躍で完全に火がつきました」

 中断期間中もカバレージなどマジックの情報を得ていた井上は、高尾の活躍をきっかけに本格的にプレイヤーへ復帰することを決断する。

Ⅲ 初めてのプレミア・イベント入賞、そしてゴールドレベルへ――

 復帰後もしばらくはプロツアーへは年に一度ほどの参加ペースだった井上だったが、以前と違うことがあった。

 マジックを中断する原因となった仕事と、家庭だ。

井上「職場には『マジックの休みは取ります』と伝えていて、幸運にも理解をいただけている状況です。そして嫁さんには……負担をかけてばっかりですね(苦笑)。完全にマジックを自由にさせてもらっているので」

 職場の理解と、時にはカード整理を手伝ってくれたりお弁当を作ってくれるほどにサポートしてくれる妻。「学生の頃と違い余裕ができた」と語る井上は、かつてはできなかったアジアへのグランプリ遠征を積極的に行うようになり、その努力がついに花開く。

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 グランプリ・北京2016にて、自身初のグランプリ トップ8入賞――。

 予選最終戦、入賞を決めた瞬間、「長かった−!」と思わず叫ぶほどに追い求めていたグランプリプレイオフの舞台。競技イベントへ初めて参加してから実に10年以上の月日が経っていた。

 その後、憑き物が取れたかのように、以前は叶わなかったプロツアーでの「チェイン」も達成しシルバーレベル・プロとなると、翌シーズンには通年で安定した成績を残し、冒頭の通りゴールドレベル・プロというトップ・プロの仲間入りを果たした。

 今シーズンもここまで23点と順調にプロ・ポイントを獲得している井上。今シーズンの目標はゴールドレベルの維持ですか、と尋ねると少し困ったような表情をしてから更なる飛躍への決意をしっかりと前を見据えて断言した。

井上「もちろんそれ(ゴールドレベル維持)が目の前の課題ではあるんですけど…でも、今いいペースで来れているので、次のプロツアー『ドミナリア』で10点ほど獲得してプラチナ・プロを目指せるくらいに行きたいですね」

 浅はかな質問をした――即座にそう反省させられてしまった。競技プレイヤーの最高峰、プラチナレベル・プロ。10年以上も真剣に競技イベントへ取り組んできたプレイヤーがさらなる高みを目指さない理由などどこにもない。

 今、井上は飛躍の最中にいるのだ。このグランプリ・北京2018でも多くのプロ・ポイントを獲得すべく奮闘している。

 その先にあるのは誰もが憧れる最高峰のプロレベル。

 井上の「英雄譚」はまだ始まったばかり。きっとこのシーズンが終わる頃には新たな飛躍の物語が刻まれているはずだ。

 井上自身はもちろん、彼の周りには素晴らしい人々がいるのだから――

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グランプリ・京都2018でもチームを組んだ加茂里樹(写真左)、高尾翔太(写真右)と。
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