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なかしゅー世界一周2012・第12回:ポーカーの世界にマジックを見る

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2012.06.14

なかしゅー世界一周2012・第12回:ポーカーの世界にマジックを見る

By 中村 修平


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 始まりがあれば、終わりがあります。

 ある意味当然とも言えます。気力、体力の限界から云々、なんて風景はそれこそお茶の間にいれば簡単に見ることができます。
 あ、久しぶりに日本で日本式居間でくつろぎながら日曜朝のニュース番組を見ていました。

 でも、場合によってはそんな贅沢は許されず、強制的に、となるかもしれません。また、ただ終わらせようというのであれば、全て放り出してしまう、というお手軽な終わらせ方もあるにはあります。


 プロツアー・アヴァシンの帰還で名目上の2012年シーズンが終わって、新たなシーズンの始まり、そこから2つのグランプリとさらに1週間が経過したところです。

 かつてのグランプリスケジュール、そして年間スケジュールであれば、シーズンの終わり、忙しい時期の終わりというものがはっきりと濃淡がついてました。
 夏の国別選手権シーズンと、冬の世界選手権後、次のシーズンの開始は1月からなのでその合間。グランプリがまとまって空白になる期間が、1ヶ月ほどですが年に2回はありました。

 ですが3~4ヶ月ごとに発表とスケジュールが小出しになってしまい、しかもグランプリ日程の間隔が詰まっている現在では、なかなか、終わりというものが見えづらい状況です。

 1~2ヶ月前から渡航予定を立てるのが常態となっている私にとっては、3分割された今のスケジュール発表だと、発表を早くしてくれないと予定が未定になってしまう、そういう期間がそれこそ残念ながら3~4ヶ月に1回の割合で来てしまうことになります。
 その上、今のこの期間は年間シーズンの谷間とも重なってしまい、正直言って当時の私からは、いや今の私でもお手上げ状態。

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 ということで、急遽何かが入ってしまう可能性を見ないことにし、2週間弱の休暇週間に割り当てていたのでした。
 ここのところオーバーワークだったのは自覚していましたし、この状態を放っておくとそれこそ最も深刻な事態になってしまうのは、自分でも想像に難くなかったのです。
 そしてそれは残念ながら予想通り、いや一部表面に出てしまったことを考えると、少し遅かったのかもしれません。

 とにかくも、私にしては何年かぶり、本当に久しぶりにマジック・オンラインも含めてマジックに全く触れない休暇を過ごすことしました。


ワールド・シリーズ・オブ・ポーカー観戦

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 まずはラスベガス1週間。

 これは、前回のラスベガスではグランプリの合間に来てしまいデッキの調整と両立できなかったことや、グランプリ・アナハイムの開催地であったロスアンゼルスから飛行機でわずか1時間、乗り継ぎを駆使すれば実質タダで行けてしまうことに加え、単にベン・スタークとのラスベガス行で味をしめたため。
 なんてのもありますが、それに加えてWSOP=ワールド・シリーズ・オブ・ポーカーを観戦するためでもありました。

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 WSOPとはマジックで言うところのプロツアーのようなものです。
 まあメインイベントというもっとも賞金が高いトーナメントだと桁が3つほど違うのですが、それ以外でも規模は桁違いです。

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 例えば開催日数。
 おおよそ1ヶ月という期間にメインイベントクラス、つまりプロツアーのような規模の大会を5回。
 さらにマジックに例えるとグランプリのようなものでしょうか、マジックのプロツアーと比べて桁が1つしか変わらないトーナメントを20回強。
 合計30本弱のトーナメントを、ほとんど毎日のように開催するというお化けイベントなのです。

 そんな大会に向けて、アメリカはもとより世界各地から強豪達がわんさかやって来ます。
 ですが問題は私にあり、マジックのことなら多少の心得がある私ですが、ポーカー業界についてはさっぱり。私が知ってるポーカープレイヤーといえば、マジック出身者を除くと本当に両手で数えられるほどです。

 果たしてそれが良かったことなのか、それとも悪かったことなのか、同じくラスベガスに遊びに来ていて、ポーカー好きなA.J.サッチャーが会場でまるで思春期到来中の乙女のようにモジモジしているのを見て、
「あの人って有名な人なの? サインが欲しいならもらってこようか?」
 なんてことを平気でぬかす始末。

 後で教えてもらったところによると、その人はフィル・ヘルミュースJr。
 マジック界でたとえてもらうと、5人が5人とも「ブッディ/フィンケルレベルのプレイヤーだ」というではありませんか。
 獲得総賞金は余裕の10億円レベル。だ、そうです。
 いやあ、無知とは恐ろしいものですね。

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 そんなポーカー界のプレミアイベント。ただし参加費の方も桁違いです。
 グランプリレベルのトーナメントでも1000ドル。メインイベントともなると参加費は1万ドルオーバーにもなるのです。
 その参加費から賞金額が決定されるというのもポーカーのトーナメントの特徴。
 基本的に再分配、主催者が一定の取り分を取った残りの金額がそのまま上位に分配されるのです。
 当座はマネーフィニッシュを目指して、がほとんどの参加者が目指すところでしょう。
 なにせこのクラスの大会にもなると、賞金をもらうためには最低でも翌日、昼から始まって深夜まで延々とポーカーに明け暮れなければなりません。
 少しでもゲームスピードを上げるために1時間に1度、強制的にレートが上がるのに、優勝者が決まるまでにはそれでも3日もかかるのです。


 そんな地獄のような大会ですが毎年、日本人も合計で30人ほどが参加するそうです。
 私はグランプリ・アナハイムが本番で、ここラスベガスには休暇で来ているのですが、かくいう今回の旅の同行者、『監督』こと田中久也はこのWSOPに参加するのが目的、本番はこっちなのです。

 見知った顔や、門外漢の私でも名前だけ聞いたことのあるプレイヤー、かつてはマジックの強豪としてならしたプレイヤーも多数参加しています。

 私と同じくチャネルファイアーボール所属で、つい先日のアナハイムではトップ4入賞を果たしたポーカーセレブのイーフロウことエリック・フローレッシュもヘッズアップトーナメント=2人対戦のシングルエリミネーション方式の大会にエントリーしています。
 私が見ていたゲームにも勝利して2日目へ進出、賞金を確定させたみたいです。

 もっと凄かったのは、その横でやっていたデイヴィッド・ウィリアムズ。

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 ヘッズアップトーナメントでは振るわない成績だったようですが、次に参加したセブンスタッドポーカーの大会では大爆発、トーナメント道中でオール・イン勝負に勝ち続け完全に人食い虎状態。圧倒的リードを築いたまま決勝テーブルに進出。
 新たなブレスレット(優勝トロフィーのようなものです)はもう秒読みか、というところまで行ってたのですが...
 超アグレッシブプレイヤーは勝つ時も早いですが、負けるときも早いもの、
 ちょっと私がサイドイベントで遊んでいる間に逆襲されて、4位で終了してしまっていました。

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 別に参加はしなくとも、このお祭りを見に来ているマジックプレイヤーもかなりいて、彼らと近況について話を交えたり、大会の解説をしてもらったり。

 興味深いのは、規模の違いこそありますが、驚くほどマジックの大会と運営のシステムが似ている点ですね。
 イベントの進行方式という点で、ジャッジとスタッフをディーラーと運営に置き換えれば、両者の違いはほとんど無いに等しいように思えます。

 その他にも例えば会場のセットなどはそのままプロツアーと言われても信じてしまいそうですし、本イベント以外にも実際にその場でお金を賭けるだけのサイドイベント、リングゲームのテーブルが組まれているゾーンがあります。
 プレイヤーのコールなども、マジックとポーカーという冠は違いますが全く同じです。

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 何よりもフィーチャーマッチとも言える決勝テーブルに至っては、そのままプロツアーのフィーチャーテーブルを豪華にしたもの。

 マジックの要素にはポーカーに源流を発するものがある、近似する点が多いとよく言われますが、そうしたルーツがここにあるかと思うと本当に面白いです。

 こういう瞬間、マジックが「借りてきた大元」に出くわすというのはわりかしあることです。
 例えばかつてあったレーティングシステムはチェスからですし、マリガンはゴルフ用語です。よくデッキの強弱を表現する時に使われるTier○というのはテニスから。グランプリはおそらくF1を参考にしたと節もあります。
 ああ、かつてあった『アンティ』というのは完全にポーカー用語ですね。

 それを脇に置いても、こうしてポーカーをプレイしていると、『スタック』、『キッカー』といった、どこかで聞いたことあるような単語に遭遇して、少々挙動不審になりますね。

 もっと細かい、つい最近あったことだと、アメリカのマジックプレイヤーとのポーカー話中に飛び出した、
『ガットショットストレートドロー』
 なんてのもかなり危なかったです。

 会話の最中にいきなりガットショット=《はらわた撃ち》のイラストを思い出して吹き出しそうになりました。

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 ホテルの無料ショーや、向こう式だと『バフェ』というバイキング形式のご飯、そしてポーカー、ポーカー、ポーカー。
 トーナメントに参戦している監督は監督、私は私でこの覚えたてのゲームを楽しんだ1週間でした。
 収支の方はマイナスでは無かったというのに留めおくことにしましょう。
 同行者のベン・シュワルツとAJ、特にAJは本人の予想以上にバカ勝ちしてしまって、慌てて『****ドル稼いだら、今から横浜行きのチケットを取る』という宣言を撤回する羽目になっていましたが、私の方は残念ながらそんなことが言えるほどにはなりませんでした。

 ちょっと残念だったのは、私たちの滞在最終日近くにベガス到着のナシフや翌週水曜日のキブラーに会えなかったことですね。あっという間の1週間。
 初めてアメリカで1週間単位のオーバースティ、2年ぶりに国際免許を取りなおしてレンタカーを借りてみたりしたのですが、この感触なら次に繋がりそうです。

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つかの間の帰国

 次はワールド・マジック・カップ後なんかありかもしれないなと思いつつ、日本に帰国して一足先に日本に来ているベンさんと合流、休暇終了まではあと5日です。

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 そういえばベン・シュワルツさんについて説明が遅れましたが、5月で大学を卒業して7月の就職まで、卒業旅行でアナハイムーラスベガスー日本ーマニラーカンボジアー横浜という1ヶ月の旅を共にする相棒となります。
 バルセロナでその話を聞いて、一緒に予定を立てたのがもう1ヶ月も前になるのも感慨深いですが、こうして地球の反対側で再び合流できたというのにも感じ入ってしまいます。

 とは言っても2、3日を久しぶりの我が家でだらだらしたのと、日本に帰ってきた途端、禁マジックの誓いを破って早速マジック・オンラインに手を伸ばしてしまったのと、近所でこのほど完成したばかりのスカイツリーを麓まで冷やかした以外はまた微妙に別行動。
 ベンさんの方は留学先だった関西と宮島に向かい、私は私で兼ねてから丸投げしていた小宮山さん企画の温泉巡りの旅へ栃木まで。

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 再びマジック成分ゼロ、秘湯と美味しい和食なんていうのは、このところ日本を離れて、シャワーオンリーで風呂に入れず、醤油味に飢えきっていた私にとっては至高の組み合わせです。

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 ラスベガスでチョコレートソース入りの熱いブラウニーとバニラアイスクリームがインフィニットコンボだなんて言ってた気がしますが、それはそれとして、です。
 温泉と薄味最高。

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 体重計が怖いという点を除けば、完璧とも言える休暇を味わいつくしました。


 さて、だいぶリフレッシュできたと思うのですが、結果はそれについてきてくれるでしょうか。
 今週からはグランプリ・マニラ、グランプリ・横浜、そしてワールド・マジック・カップ予選と3連戦が始まります。
 合間にカンボジアに行ったり、ちょっと贅沢をしてみたりと、趣向を変えてみたりしているのですが、果たしてどうなることやら。

 終わり方という意味では完全に行く先を見失っている感があるこの記事と私ですが、まだもう少し続くようです。

 それではまた次回、世界のどこかでお会いしましょう。

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