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『ニューカペナの街角』の伝説たち

Miguel Lopez, Ari Zirulnik, Grace Fong
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2022年4月22日

 

 ニューカペナを彩るのは強き者、勤勉な者、堕落した者、勇敢な者。それぞれにこの街を形作る物語と運命がある。『ニューカペナの街角』の物語でその全てが語られているわけではないが、この街で出会う伝説たちの短い背景設定を紹介しよう。

新登場の伝説たち

トラブルメーカー、ジャクシス
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 ニューカペナを統べるのはデーモン、だがそれも長くはないだろうというのがカルダイヤの噂だ。

 ニューカペナの最深部にて、群衆の歓声がその名を称える。ボクシングのリングに輝くひとりのスター。トラブルメーカー、ジャクシス。彼女は最高の戦士であり、最高のボクサーだ。カペナ中央線のような右フック、削岩機のようなジャブ。不敗にして善良、さらには貴顕廊の暗殺者たちを退けたことで、人々は希望を抱き始めた。

 誰もがそれを見た。暗殺者たちは彼女を追い詰め、五対一で圧倒し、だがそして光が一閃したかと思うと彼女は燃え立つ影に取り囲まれていた――影、人々にはそう見えた。それは他の戦士たちだった。かつて彼女と戦った者たち、あるいは引退したか亡くなって久しい者たち。ジャクシスの隣に呼ばれた彼らは暗殺者たちを打ち負かし、見物人たちの歓声の中で追い払った。人々は言う――ジャクシスは最高なだけじゃない、祝福されているのだと。ニューカペナを統べるのはデーモンかもしれないが、ジャクシスのような戦士は人々に希望をもたらすのだ。

契約紡ぎ、ファルコ・スパーラ
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 ニューカペナの創設については謎に包まれている。時間、世代の経過、そして魔法が作り出す霧に覆い隠されているのだ。この街の始まりを明白に記憶している者はわずかだが、その特別な者たちの中でもまず名が挙がるのは斡旋屋の首領――契約紡ぎ、ファルコ・スパーラだ。

 ニューカペナの創設時に定命からデーモンへと昇ったファルコ・スパーラは、苛烈かつ厳格な心の持ち主である。ファルコはニューカペナ最高にしてプロの庇護者となるために斡旋屋を設立した。その約束と契約は束縛である――時に、文字通りの。署名した者には債務と引き換えに庇護を与え、後日支払いを請求する。さらなる庇護を必要とする者たちのため、ファルコは斡旋屋の構成員へと盾魔術を仕込んでいる。余裕があるなら、誰でも個人的ボディーガードや庇護者として斡旋屋を雇うことができるのだ。

 ファルコは高街の君主として、世界の頂点に座している。もう四つの一家も斡旋屋の庇護に頼っており、市民の多くや社会的エリートも同様である。だが「敵対するもの」が到来し、世界の頂点からの落下は長いものになるとファルコは悟ることになる。

 ファルコ・スパーラについてはこちらで読むことができる。

妖艶な泥棒、コルメラ
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 魅力を盗むことは叶わない。その者が魅力的であるかそうでないかは、一歩を踏み出して世界に対峙する時に伝わる。コルメラはそれを知っており、従ってその人生を満喫している。コルメラは妖艶であり、優雅であり、華麗である――彼女こそひとつの場面、高街の流行を動かす者であり、ザンダー卿から個人的に教えを受けた管理者でもある。

 専門家であるコルメラは高街にギャラリーを所有しており、その品揃えは少数かつ頻繁に入れ替わる。熱心な若き芸術家たちは――コルメラの仲間、そして認められたいと願ってやまない者たちは――最も前衛的で、最も型破りで、最も過激な作品をまず彼女へと持ち込む。コルメラのお気に入りになれば、ニューカペナじゅうの評判になるのだ。

 だが、それがコルメラの全てではない。何よりも貴顕廊の一員である彼女はザンダー卿が贔屓する収集代理人であり、最も厳重に守られた個人的収集品ですら、持ち主に何ら疑念を抱かれることなく「回収」できるのだ。彼女の獲物はザンダー卿との交渉や契約を避けたがる者たちであり、騙すのは簡単である。そういった非常に自惚れた、傲慢な、純真な者たちは考えてしまう。こんな蠱惑的な若き流行発信者が、同時に非凡な暗殺者などであるわけはないと……

欲深き者、エヴリン
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 ニューカペナにおいて、古きカペナを覚えている者は稀である。その遠い日々を過ごしていたのは、常夜会でも特に歳経たスフィンクスや、大いに浮かれる舞台座の中でもほんの数人の老いたロウクスだ。貴顕廊は長命の構成員を最も多数擁していることを誇っている――ザンダーから吸血の祝福を賜った者たちだ。しかし彼らのほとんども、ニューカペナの輝ける摩天楼が建てられた後に長命となった。真の古参は、消滅に瀕しているほど少ない。五つの一家の長たち、そして「欲深き者」エヴリンである。

 かつて彼女はザンダー卿を恋人と呼んだ――だがその年月と情熱は過ぎ去った。エヴリンはザンダーによって吸血鬼と化した最初のひとりであり、旧カペナの日々を、空ろとなる以前の世界の姿を今も覚えている。以来彼女は多くの人生を生きてきたが、その間ずっと古い世界のアーティファクトを収集し、無秩序なコレクションを維持管理してきた。途方もない知識を持つ彼女は、ザンダー卿の私的な書庫の閲覧許可を得ている唯一の人物である。

 エヴリンは礼儀正しく寛大であり、貴顕廊の若き構成員や―—彼女にとっては全員が若い――新入りには親切に接する。だからといって侮るべきではない。彼女は収集家かもしれないが、何よりも暗殺者であり、自分未満の命は安い命なのだ……

 エヴリンについてはこちらで読むことができる。

ジェトミアの情婦、ジニー・フェイ
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 メッツィオの孤児であったジニー・フェイは舞台座のスカウトによって見出され、腕の立つ戦士としてヴァントリオーネの用心棒を務めていた。そして刃を扱う才能がジェトミアの目にとまり、彼女はそのボディーガードへと昇進した。ジニーはジェトミアを慕い、老レオニンは彼女を実の娘のように見た。美しくも危険、そして華麗な人生への深い愛着をもって、ジニーは今や舞台座の推定相続人として生きている。ジェトミアの最も忠実かつ信頼される副官というだけでなく、ジニーは多くの時間を費やして舞台座が運営する多数の飼育場を取り仕切っている。そこでは熟練の調教師や世話人たちによって、珍しい都会の野生生物や外来種の超小型クリーチャーが育てられている。

 クレッシェンドおよび「敵対するもの」との抗争の間、ジニーは「敵対するもの」の手下から養父ジェトミアを守るため、エルズペスやビビアンと厄介で不快な同盟を一時的に結んだ。プレインズウォーカーたちからジアーダを取り戻す奮闘を阻止された今、ジニーは壊れた舞台座を再建し元の栄光を取り戻すことに集中している。

 ジニー・フェイについてはこちらで読むことができる。

策謀の予見者、ラフィーン
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 旧カペナのスフィンクスの数は決して多くない。縄張り意識と虚栄心が強いため、人々の喝采と恐怖を巡って競い合い、預言のような予測を作り上げて自分たちの神殿へと公衆を駆り立てるのだ。若い頃のラフィーンが知るスフィンクスは、手指の半分ほどの数だった。母親――飛べるようになった途端に巣立ちを強要した。好敵手――彼女からラフィーンへの預言は、ラフィーンから彼女へのそれと同じほどに誤っていた。恋人――その名も顔も、ラフィーンはもはや思い出せない。

 だがそして、「その時」が来た。誰も耳を傾けなかったラフィーンの預言――暗く陰鬱、輝く刃による死を語る――それは正しかったのだ。大悪魔に力を与えられたラフィーンだけが隆盛し、今やニューカペナの華麗な装飾芸術の中、彼女はスフィンクスの数少ない生き残りの一体となっている。宜しい、今の状況は気に入っている。この「一家」に尽くさせ、私の夢を与え、それをインクで書き取らせよう。私の預言にこの街の未来を決定させよう。またも終焉が迫ると告げたなら、少なくとも今回は耳を傾けてもらえるかもしれないのだ。見る夢はそればかりで……

 ラフィーンについてはこちらで読むことができる。

蒐集家、ザンダー卿
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 貴顕廊の首領であるザンダー卿は、同輩の中でも自分が最も重要であると考えるだろう――もしも同輩が彼の前に現れたなら。その時が来るまで、彼はニューカペナの歴史の自薦管理者として、その現在の指揮者として君臨する。貴顕廊が誇るギャラリーや博物館、図書館を通じて展示する歴史。凄腕かつ慎重な、貴顕廊の暗殺者たちを通じて指揮する現在。

 ザンダー卿は三つの賜物を背負わされている。永遠に等しい生命を与えた吸血鬼性。力を与えたデーモンの祝福。そして今やその称号に意味などなく、その重さも感じられない王冠。これらをもって、ザンダー卿はニューカペナの蒐集家にして管理者という地位を保持している。管理の仕事は厳しい。昔の人生――この街が築かれる前、騎士や君主や怪物たちの時代を否応にも、日々を経るごとに強く思い出させるのだ。彼はかつて、ひとりの芸術家でもあった。街を挙げた新年の祝祭であるクレッシェンドが近づく中、ザンダー卿はこの街に響き渡る素晴らしい作品を今一度作り上げようと画策している。

 ザンダーについてはこちらで読むことができる。

焼却するもの、ジアトラ
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 他のドラゴンたちは、彼女をさまざまな名で呼んだ。愚者、ドラゴンの面汚し、度を逸した強欲。土建組の首領であるジアトラがそれを同胞から耳にしたのは、大悪魔との契約に最初に同意した時だった。けれど他のドラゴンは今どこにいる? 旧カペナの偉大なるドラゴンたち、その正義も雄姿も純粋さも、今や塵と化した。ドラゴン族の強大な守護者たちは骨と牙だけになり、磨き上げられて旧カペナ博物館の展示物として輝いている。一方でジアトラは、カルダイヤを統べている。

 今や、ジアトラこそが力なのだ。ジアトラこそが富なのだ。「焼却するもの」の名で知られる、カルダイヤの労働者とニューカペナの技術者の頂点に立つ存在。大悪魔とそれに騙された天使は街の古い基礎を沈めて巨大な梁をかけたかもしれない。だが足場からこの街を築いたのはジアトラとその労働者たちなのだ。五つの一家、その最大の宝物の上に座すのもまたジアトラである。ニューカペナ最大の光素の貯蔵庫は土建組の支配下にある。この貴重な資源は需要の増加に伴って減少しつつあり、光素の流れを支配することはこの街の運命を握ることに広しい。この独占状態を変えようとするなら、それは抗争の勃発を意味するだろう。

希望の源、ジアーダ
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 メッツィオ下層の孤児院で育った少女ジアーダは、舞台座最大の秘密であり、ニューカペナ最大の希望であり、他の一家にとっては最も危険な脅威である。舞台座のスカウトによって見出されたジアーダは、直ちにジニーのお気に入りにして――彼女は妹を欲しがっていた――ジェトミアの最大の宝物となった。ジアーダは特別だった。彼女は歌の才能に恵まれ、舞台座の子役や名士や若手スターとよく馴染んだ。その一方で、ジアーダはニューカペナでも前例のない才能を持っていた。触れて願うだけで、悪臭漂う街の下水ですら純粋な光素へと変化させるのだ。舞台座は慌てて彼女の存在を秘密にしようとしたが、光素への欲がその用心を上回った。光素を気前よく振舞うことで既に有名であった彼らのパーティーは、次第に度を過ぎたものになっていった。

 光素が次第に不足し、他の一家が必死になる中、舞台座は影響を受けずにいた。ジアーダがいれば、舞台座は我慢する必要などないのだ。ジアーダがいれば、この街の力関係は一新される。ジアーダは家族だけを求めていた。彼女自身には何の落ち度もない――その力は彼女にとっては呪いのようなものだ――だが今や、五つの一家がジアーダを求めている。

 ジアーダについてはこちらで読むことができる。

雑集家、ラグレーラ
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 「雑集家」ラグレーラは斡旋屋でも最も恐れられ、最も敬われる執行人のひとりである。ファルコが個人的に使役する契約魔道士として、ラグレーラは自身が監督する契約について幾つかの許可を得ている。斡旋屋はその経費として、あらゆる売買の「総額から少々」を取っても良いとされており、当然ラグレーラは自分の顧客からそれを受け取っている。

 ラグレーラの恐るべき名声と二つ名は、その金の使い道の噂から来ている。彼女は珍しい魚を収集しては、ペントハウスにある巨大な水槽に飼っているのだ。そしてその水槽の中には、金と銀の彫像の庭園が広がっている。かつて彼女の契約を破った人々の、痛ましい表情をとらえた実物大の彫像だ。貴顕廊ですら称賛する出来であり、だが真実を知るはラグレーラだけである。それらの彫像は契約を破った本人たちであり、融けた金属を塗られて魚の水槽に沈められ、そこで永遠を過ごしているのだ。

 ラグレーラについてはこちらで読むことができる。

舞台座一家の料理人、ロッコ
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 ヴァントリオーネは舞台座最大のイベント会場であり、娯楽場であり、ダンスフロアでもある。社交的なロッコはその料理長を務めている。彼はヴァントリオーネの多数の厨房を仕切っているだけでなく、その手は舞台座が所有する多くのクラブやレストラン、食堂、もぐり酒場にも及んでおり、高街のエリート向けの味を作り出している。その食の帝国はニューカペナのあらゆる階層に広がっている。

 その運営管理の手際は、厨房での巧みな技に匹敵する。彼らが手がける全ての皿がバランスの極地であり、幾つもの異なる風味と舌触りが合わさって、最もありふれた食材ですら驚きを作り上げる。ニューカペナに光素が導入されると、ロッコの料理は新たな高みへと昇った。こんなにも霊感に溢れるロッコは見たことがない、副料理長たちはそう言っている。

 ロッコについてはこちらで読むことができる。

路上の師、リガ
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 斡旋屋は、高街の上流階級を顧客としていても、共同体の力や街路の知識を決して侮ってはいない。彼らいわく、見上げることは憧れること。彼らの中でも最高の執行人や契約魔道士には、カルダイヤとメッツィオから這い上がってきた者たちがいる。彼らは自らの力で一家の一員となり、斡旋屋の中でも上昇志向を持ち続けている、

 リガもそういった出自を持つひとりである。メッツィオの浮浪児であったリガには、ニューカペナの天使とともに働くという夢があった。斡旋屋に入るのはそれに次ぐ夢であり、そのため彼は斡旋屋の新人勧誘員の目にとまるべく奮闘した。若いうちに、リガは自身のネットワークを築いた。噂好き、スリ、靴磨き、運び屋、使い走りといった人々を配置して斡旋屋の力となり、メッツィオに情報を行き渡らせ、流行を追わせ、養い、賄賂を渡した。それは成功し、彼は素早くメッツィオの斡旋屋に採用された。高街の綺麗な部署に昇った今でも、リガはかつての意欲を失っていない。斡旋屋の立派な一員となっても、リガは自らの出身を決して忘れてはいないのだ。彼は無償でメッツィオに奉仕し、過去の自分を思い起こさせる子どもたちを特に気にかけて支えている。

 リガについてはこちらで読むことができる。

ドラゴンの打擲、オーグニス
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 ドラゴンであっても助手は必要となる。この巨大トカゲが金を数えている間、仕事が円滑に進み光素が流れ続けることを誰かが確かめねばならないのだ。オーグニスはジアトラの副官であり、ジアトラ自身の姿を映し出すヴィーアシーノである――あの老いたデーモンにしてドラゴンよりは小さいながらも、その虚栄心を満たしている。前線の暴れ者であるオーグニスはカルダイヤのあらゆる光素の取引を監督しており、また彼女は土建組の奇襲作戦を背後で指揮する熟練の戦略家でもある。

 率先して前に出る彼女は、一家のエリートでも低い地位に見えるかもしれない。だが土建組にとって、前線に居続けることは力と結束の証なのだ。破壊と戦いはきつい仕事であり、その生涯はしばしば短いものとなる。だがオーグニスはジアトラが傍においた最初のヴィーアシーノのひとりであり、誰もが羨むジアトラの緑の炎を与えられた数少ない生き残りであり、今も仲間と肩を並べて立ち、敵をぶちのめしてはコインを数え続けている。

宴の結節点、ジェトミア
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 ニューカペナの司会者は、ただ温かな心と高価なスーツだけではない――彼はニューカペナの心が姿を成したものであり、疲れを知らぬデーモンであり、エリートですら太陽の周りを巡るように付き従う。ジェトミアがいなければ、街は生きてはいられないだろう。そのコインが、承認が、光素がなければ、ニューカペナは虚ろな世界に立つただの塔でしかない。ただ生き延びるだけでなく人生を楽しむ、ジェトミアはそれを早くに学んだ。自分が表現するニューカペナを人々に楽しませる、今やそれが彼のライフワークとなっている。

 ジェトミアはニューカペナの五つの一家のひとつ、舞台座の創設者にして首領である。遠い昔、彼はレオニンから成るドルイドの教団を率いていた。旧カペナにおいて彼らは儀式や祭礼を執り行い、自然世界を崇拝していた――その恵みを、美を。全てがあってこそ巡る、そして全てのものの中で巡るサイクルを。生、死、再生、そして生命は永遠に続く。ジェトミアの教団はその精神を持ち続け、やがて彼らは舞台座となった。ニューカペナへの最初の移住よりも前のことである。彼と仲間たちは初期の移住者たちを楽しませ、高揚させ、その対価として食事と暖を得た。当初とその姿はかけ離れてしまったが、この結びつきは本質的に今も同じままであり続けている。ジェトミアは光素を流し、音楽を奏で、舞踏場は盛り上がる。だからこそニューカペナは彼を愛しているのだ。

 ジェトミアについてはこちらで読むことができる。

繊細な筆、パルネス
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 吸血鬼の肖像を描けるほどの腕と胆力は得難いもので、それは危険な仕事へと繋がる。何せ彼らは鏡に映らないのだ。そのため君が描く姿こそ、君が彼らを見る姿に他ならない。危険は多く、だが見返りも多い。とはいえどんな危険を冒す吸血鬼であっても、酷評を怖れて自らの肖像画を決して完成させない者もいる。

 パルネスは最高の画家のひとりであり、吸血鬼の肖像画を専門としている。必要なのは彼らがどう見えるかではなく、どう見られたいかなのだ。彼女の筆は繊細――そして少々の常夜会の魔法で(とある友人からの贈り物だ)、主題の最も確かな自己イメージを把握する。滑らかな肌の質感、牙の長さ、はっとする魅力――パルネスに肖像画を依頼した吸血鬼は皆、これまでになく明白でより美しい(あるいは恐ろしい)自らの姿を見る。そしてそのため、吸血鬼たちはパルネスへと常に満額を支払い、遠くない未来の予約を入れる。

動物学者、ベニー・ブラックス
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 ニューカペナの一躍著名な動物学者となる以前、ベニーは常に薄暗いメッツィオの屋根の上で鳩を飼う子供だった。遥か上空の高街の下、鉄と潤滑油に取り囲まれ、ベニー少年は緑あふれる生き生きとした世界を夢見ていた。彼の鳥小屋は簡素なもので、予算の限られた愛好家の目で管理されていた。だが彼が飼う物珍しい鳥たちが、彼に脱出の手段をくれた。小規模な展示会と取引を通じてベニーは正式な品評会への参加権を得ると、そこで彼の比類なき鳥たちは高街の商人や管理人たちの目にとまった。その中には他でもない流行の仕掛け人、ジェトミアの養女ジニー・フェイもいた。ジニーのペンとそれに続く鮮やかな評判とともに、ベニーと彼の鳥たちは昇りつめた。

 ベニーは正式に舞台座に入ったわけではないが、珍しくも美しいクリーチャーが求められた際にはまず彼が頼りにされる。もはや都会の鳥だけを専門にするのではなく、ベニーはあらゆる類の珍しく高価なペットにも手を伸ばしている。掌に乗るほど小さな哺乳類、古の爬虫類、遥か彼方の海の魚――ベニーはその全てを世話している、例えロッコの厨房に行くのがその運命だとしても。

編集長、デンリー・クリン
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 天使が姿を消して以来、ニューカペナに神聖なものなど存在しない。インクと紙面を動かすのであれば、現実であろうと空想であろうと、触ってはいけないものなどない。新聞記者にとって問題なのはニュースなのだ。全てをありのままに明かし、人々の目を惹き、だからこそ彼の新聞は最初にニュースを届けるのだ。カルダイヤとメッツィオの労働者向けには、賃金関係やボクシングの試合結果、橋梁建設の公示。高街の名士や遊び人向けには社会面やゴシップ記事、そして株価情報。五つの一家向けには死亡記事、求人や求職、あるいは犯罪記事、ニューカペナの大手新聞は、五つの一家が光素を巡って争うように読者を巡って争っている。

 デンリー・クリンは陰気な新聞記者の組合に生まれ、ニュースというものを心得ている。カペナ・ヘラルド紙の編集長という地位に昇りつめるまでには、血を流さないながらもまさしく残忍と言える過程があった。彼の心の内では、ニューカペナで相争う新聞は――カルダイヤ・ユニオン・ポスト、メッツィオ・スタータイムス、高街天頂新聞、ニューカペナ・ヴァンガード、そして彼のカペナ・ヘラルド――街の「六番目の一家」なのだ。彼らには執行人も腕力係もいないが、犯罪記者やゴシップライター、写真家たちがいる。彼らが死体を積み上げることはないかもしれないが、それを行った者に光を当てる――犯人がその記事も同じく殺すために金を払いたいと願わない限りは。

 デンリー・クリンについてはこちらで読むことができる。

魂の養育者、ベス
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 食物は魂を養う。食物がなければ生きられないのは言うまでもないが、食物が粗悪ならば本当に生きているとは言えない。高街で小奇麗な暮らしを営む人々は泡立てた酒や繊細な肉の切り身、散りばめた若芽野菜、好みの部位を楽しむかもしれない。けれど下層の人々も食事をするのは同じだ。味覚を興奮させるだけでなく、身体を動かし、身体と魂を養う燃料を必要としている。ベスはこの街の最高の――あるいは最悪の――秘密だ。料理の腕前は高街の白ずくめの料理人に匹敵し、物流を扱わせたなら五つの一家の最も経験ある密輸人ですら恥じ入る。その熟達の技術をもって彼女は寄付を募り、高価なレストラン(だが料理は良くない)がテーブルから締め出す人々のために働いている。

 ベスはかつてロッコの下で料理人をしていたが、自分自身のキッチンを持つために辞め、その腕を振るうために自分が育った下層の街路へと戻った。上層の人々は料理の技に感心を持たず、ただ適切な場所で適切な人々に見られることだけを気にする。食物とは楽しむためのもの、愛でるためのもの。ベスにとって、料理とは決して人々を感動させるためのものではない――人々を養うためのものだ。自分が作る料理がこの街でも最高のひとつに入るのはたまたまであり、だがその評判は人々のために料理するという自分の志の正当性の裏付けをくれる――彼女はそう考えている。

塵の活用者、オスカー
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 関わる者全てが死なない限り、秘密は秘密ではいられない。それは誰も認めたくない事実だ。黙り続け、文書を切り刻み、ダストシュートやネズミが徘徊する下水に投げ捨てたなら、痕跡を隠すには十分だと思っている。そうではない。全くもってそうではない。

 建物の警備がいかに厳重であろうと、それが保持する秘密を得る方法が常にふたつある。配管を通るか、ごみを通じてか。常夜会の他の工作員は清潔を保ちたがる一方、「塵の活用者」オスカーはその情報の出所へと直行する。常夜会の調査員の中でも、彼は孤独を好んでいる。汚れて悪臭を放つ彼は、下水のあらゆるネズミと街じゅうのごみが捨てられる場所を知っている。その魔法は街の害獣を魅了し、誰もが目をそむけるそれらを泥棒やスパイの軍勢へと変え、あらゆる「捨てられた」文書を拾い上げては持ち帰らせて復元するのだ。他の一家が上手く隠したと思う秘密も、しばしばオスカーの汚れ仕事によって下水から這い上がり、彼らを悩ませる。

 オスカーについてはこちらで読むことができる。

粉砕者、ペリー
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 ペリーも最初から、スーツをまとう斡旋屋の工作員だったわけではない。歳のわりに大柄な子供だった彼は、ヴェールにある時計屋の使い走りをしていた。だが時計屋の年老いた職人は幸運に見放されており、家賃の支払いすら間に合ったことはなかった。ペリーは友の力になると約束し、魅惑的な賞金の一部を目当てにボクシングのリングに立った。そして彼は大きな拳で殴るのが上手と判明した。本当に上手だった。「粉砕者」という輝かしい二つ名を得た彼だったが、金のために暴力を振るうのは決していい気分ではなかった。

 だがある時、全てが変わった。ふたりがコーヒーとともに新しい時計について話し合っていた時、近くで強盗事件が発生した。そしてふたりが座すカフェのテーブルへと、逃走車が向かってきたのだ! かつてないほど大胆に、ペリーはその車へと体当たりをして歩道へと逸らした。彼は老人の命を救ったが、その時計は助からなかった。損害の査定に訪れた斡旋屋はペリーの英雄的行動を気に入り、大きな鎚を振るうという新たな仕事を提示した。これからは善の側のために。それだけでなく、彼らはその壊れた車から彼のために見事な鎧を作り上げた。だがペリーは今もあの壊れた時計を持ち続けている。大切な思い出の証、とはいえ彼はそれを認めはしないだろうが。

 ペリーについてはこちらで読むことができる。

常夜会一家の目、カミーズ
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 カミーズはこの街の出来事を何一つ見逃しはしない。彼女はすべての市民を把握しており、一方で市民は彼女の名すら知らない。彼女はジャーナリストを目指していたが、最も金のある顧客に命令されたなら、どんな新聞もでたらめの記事を載せると悟った。学者肌のカミーズは直接取材に赴くことはなかった。その輝く青い瞳は、取材対象からいつも好奇の目を向けられる。カミーズはその視線にすっかりうんざりしてしまっていた。

 そのためカミーズは、詮索の目の外で仕事ができる常夜会と契約した。そして最初に受けた仕事で彼女はスパイを用いて腐敗した政治家を脅し、失職へと追い込んだ。その後すぐ、彼女は組織の階級を昇っていった。壁越しに物を見る呪文を創案した後は特に早かった。今やカミーズは常夜会のネットワーク全体を動かし、下水から摩天楼までの情報を収集している。ある意味、彼女は今もジャーナリストなのかもしれない。あらゆる新聞の記事は彼女からもたらされるのだから。

 カミーズについてはこちらで読むことができる。

画家、アンヘロ
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 アンヘロは歴史家にして実業家である。貴顕廊やその博物館との取引や契約は、全て彼を経由して行われる。自分がその職を得た経緯を彼は語らないが、その小さな知識は一家が隠す最悪の秘密だ。彼は街が築かれる以前からザンダー卿の右腕であり、今もそうである。その二つ名に騙されてはいけない。彼は博物館の裕福な管理者を兼業しているだけなのだ。何世紀にも渡ってザンダー卿から直接訓練を受けてきたアンヘロは、この街でも最高の暗殺者のひとりである。

 例え殺しの方が遥かに儲けが良くとも、ギャラリーで過ごしたすべての時間を思うに、彼は芸術家になるべきなのかもしれない。この男はそこかしこに少々の創造性を花開かせる誘惑に抗えない。彼にとっては、ダガーも絵筆も同じものなのだ。アンヘロは暗殺現場に犠牲者の屍を見事に配置することにこだわっている。見物人が、代わりに自分がその作品になりたいと願うような。彼はそれを芸術と、少々の「隠されたスペクタクル」と呼ぶ。アンヘロはただ、ボスあるいは最愛の娘に感心して欲しいだけなのかもしれない。並の市民が見たなら全くもって不必要、だが吸血鬼とは時にそういうものなのだ。

 アンヘロについてはこちらで読むことができる。

殺戮の歌姫、キット・カント
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 街の住人の大半は、本当にお気に入りの歌い手をひとり挙げろと言われても教えてはくれない。だがキット・カントこそが耳を傾けるに値する唯一の歌姫であるという舞台座の返答は本気のものだ。意外なことに、地下鉄の階段で元気なジャズを歌って日銭を稼いでいたこの猫の鳴き声を聞いたのは、ジェトミアその人だった。その彼女が今や、舞台座の主役としてステージの中央に毎夜立っている。あらゆる子どもたちの瞳に希望の光を与える、無一文から大金持ちへの本当に贅沢な成功物語だ。彼女が成し遂げたように、日の光ほども眩しい憧れの目を誰かから向けられたい。誰もがそう願っている。

 この街のあらゆるスポットライトがキットに向けられ、彼女はその中でひときわ輝きを放っている。きらめくスパンコールは飾りかもしれないし、魔法もしれない。キットは舞台座に伝わるドルイドの詩歌に強い関心を抱いており、それを歌詞のように口ずさむ。耳にしたなら、真に至福の時を感じさせてくれる歌だ。カーテンが閉じる前に、ステージに薔薇を捧げるのを忘れないこと。彼女を怒らせたなら、この猫には爪があると思い知らされるだろう! 彼女が持つあのマイクは厄介な呪文を放つこともでき、それを受けた相手は泣きわめく。それとも、ストリートミュージシャン風に用いて顔面を直接殴るかもしれない。ニャー!

 キット・カントについてはこちらで読むことができる。

道具箱、ヘンジー・トーリ
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 彼をヘンジーと呼ぶのはその母親だけだ。けれど「道具箱」その人を雇いたいなら、物品を用意する必要がある。このずる賢い軽業師は君の小さな心が思い描くものは何でも手に入れられるが、分け前を要求してくるだろう。そしてこういったサービスは安くはない。婚約者に特製のウェディングドレスを入手して欲しいと頼まれた彼は、報酬として婚約指輪を取り上げた。その後のふたりは長続きしなかったようだが、金があるならば愛は必要だろうか?

 彼は土建組の一員であり、建材を調達しているという。だが噂によれば彼は密かに金を溜め込んでおり、その手際はあまりに上手いためジアトラですら把握していない。行方不明になった武器はそこに持ち込まれているに違いない。彼がそれを用いて何を企んでいるのかは知るよしもない。その全ての上に座し、高街の王のように眺め、光素の輝きに浸りたいだけなのかもしれない。彼は光り輝くものが好きで、常にシャンデリアのように宝石で飾り立てている。けれどその指輪が並ぶ拳で殴られたなら、視界には何日も火花が散ることになるだろう。

再登場の伝説

異端の法務官、ウラブラスク
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 新ファイレクシアに変革の時が迫る。赤き焼炉で鍛えられた自由は、革命を点火する炎となる。それは、少なくとも、ウラブラスクの密かな希望だ。それまでは自らの役割をこなさねばならない。反逆の法務官はニューカペナのカルダイヤの奥底に身を潜め、この次元への旅によって負った傷からの回復の途中にある。ウラブラスクにとっては心地良い場所かもしれない。ここで世界は溶鉱炉、ボイラー、蒸気パイプ、鋳造所の迷宮を成している。新ファイレクシアにおける彼の領土の粗雑な鏡映し。だがよく似ており、次なる動きを計画しつつ力を蓄えられる。

 炎と油の中の幻視――預言のような夢が彼をこの摩天楼の街へと導いた。会わなければならない者がいる。重要な者が。未来の姿を知らせねばならない者が……

 ウラブラスクについてはこちらで読むことができる。

プレインズウォーカー

華やいだエルズペス
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 エルズペスは安らぎを求めている。彼女はその人生のほとんどを、幼少期にファイレクシア人に幽閉された記憶に苛まれて過ごしてきた。「プレインズウォーカーの灯」が点り逃げ出したものの、彼女は自分を捕えた者たちを決して忘れてはいない。その記憶は今も眠りを妨げるのだ。安心を得て、過去からの逃亡を止められる場所をずっと探しながらも、心の奥底で彼女は知っている。その悪魔と直接対峙し、彼らが二度と多元宇宙を苛むことがないと確かめるまで、決して安らぎは得られないのだと。

 エルズペスについてはこちらで読むことができる。

狩りに出るビビアン
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 ビビアンは故郷の教訓を称え、実行に移したいと願っている。彼女の今や亡き故郷スカラでは、進歩の代弁者と自然の守護者とが調和を見失った。その過ちが多元宇宙のどこかで繰り返されないよう、ビビアンは精力的に活動している。彼女は自然の保護者かつ鋭敏な観察者として、自然世界からの教えを共有することで健全な文明を育む。彼女自身が自然へと抱く驚異と尊敬を他者の内に育てることによって、多元宇宙の美しき多様性を守り、失った故郷の記憶を称える――ビビアンはそう願っている。

 ビビアンについてはこちらで読むことができる。

敵対するもの、オブ・ニクシリス
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 オブ・ニクシリスが求めるのは支配である。デーモンと化す以前、彼は征服欲に取りつかれた人間の将軍であった。力を追い求める中、彼は古の魔法のアーティファクトである「鎖のヴェール」によって現在の姿へと変質した。当初はその呪いを祓おうとしたが、やがて新たな姿とそれが与える力を受け入れた。オブ・ニクシリスは他を征服することを楽しみ、取るに足らない下僕を集め、かつての敵の抜け殻を溜めては自らに隷属させる。強き者、気高き者を打倒し、あるいは堕落させて支配下に置くというのは彼がとりわけ楽しむ挑戦だ。彼は長い生涯の間に多くの世界に支配を確立してきたが、すぐに飽きては新たな征服の必要性に駆り立てられている。

 オブ・ニクシリスについてはこちらで読むことができる。

(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)

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