MAGIC STORY

ニューカペナの街角

EPISODE 10

サイドストーリー:野良猫のブルース

Rhiannon Rasmussen
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2022年4月5日

 

 キットは革の鞄を肩にかけ、ジャケットの下で光素の瓶が動くのを感じた。そもそも、何でこんなことになってしまったのだろう――小銭のために地下鉄で歌う、ただの大道芸人である自分が。

アート:Thomas Stoop

 確かに地下鉄は決して、ニューカペナで最もいい香りのする場所などではない。それでもその音楽は生計の手段をくれる。人々は列車から吐き出されては吸い込まれ、すり減った大理石の階段を昇り降りする。今朝のキットは南バッサマー駅でもひときわ音響の良い片隅を選び、手すりに寄りかかった。始める前に、数分間をかけて耳を澄ますのが常だった。場の雰囲気、足取りのテンポ、途切れ途切れに入ってくる人々の会話、列車が減速して止まる物憂げな轟きと、出発する振動音。ガタンゴトン、ガタンゴトン。

 垂木の上にはいつも鳩たちが列をなし、晴れやかな瞳をキットへと向けていた。誰もコインを投げてくれなくとも、鳩は熱心に聞き入ってくれる。彼女はハミングから始め、そして歌いだし、音の奔流に調和させた。昔の定番曲に、ニューカペナの生きざまのリズムを合わせて。

 彼女はしばらく歌い続けたが、立ち止まって聞き入る者もコインを投げる者もなかった。そのため彼女は鳩たちのお気に入り、「小さな巣の子守歌」に変えた。短い繋ぎを経てキットが歌い出すと、鳩たちは興奮したように翼を鳴らし、飛び立つようにキーを高く上げる様に喜んだ。当然、けれど誰も彼女を気にとめはしなかった。

 そして、まるで映画の一場面のように、小奇麗な装いの大男が彼女の目の前で脚を止めた。キットと同じレオニン、だが体格は三倍ほどもあり、宝石を散りばめた豪奢なコートをまとっていた。その生地を目にしただけで嫉妬を覚えるほどの。その男は考え込むように彼女を見つめ、二色の毛色の表情は読めなかった。うんざり? 感心? 退屈? 綺麗に磨かれた靴先でほんの少しリズムをとってるのは、気に入ってくれてるから? 心がはやり、一瞬キットは調子を乱し、驚いた鳥たちが一斉に飛び立つように焦りかけたがどうにか持ち直した。過去にはもっとひどい失敗をしたこともある。

 彼女は最後の一節へとメロディーを繋げ、豊かなビブラートとともに片手を空へと掲げて歌い終えた。「私たち、小さな我が家で暮らしましょう」

 鳩たちが鳴き声を上げた。

 大男は片手をポケットに入れた。チップがもらえるのかも、そうキットは思った。だが取り出したのは一枚の名刺であり、彼はキットとまっすぐに目を合わせてそれを差し出した。その視線は融けた琥珀のようで、ごくわずかな感情だけがそこにあった。

 その声は重々しい威厳を帯びていた。「君のような女の子にはチャンスが必要だと思ってね」

 そうですとも! 実際自分でもずっとそう思っていたんじゃないの?

 彼女は礼儀正しく喉を鳴らしてそれを受け取り、これが現金だったらと願った――華麗な文字で短く書かれた名前を一瞥するまでは。ジェトミア。

「ジェトミア……様!」 冷静さを失い、キットは驚きの叫びを上げた。

アート:Ryan Pancoast

「いかにも」 物憂げに、かつ柔らかく彼は言った。キットを馬鹿にする様子は一切なかった。舞台座の首領は誰の味方でもないが、多くの人々の生き方を変える。「小さな歌姫さん、今宵の『赤の部屋』の前座は君のものだ。私のためにちょっとした用事を済ませてくれればの話だが。どうかね?」

 ヴァントリオーネの赤の部屋――言われるまでもなく!

 こうして彼女はジェトミアに与えられた配達の鞄を抱きしめながら、生まれて初めてクラウドポンテ橋の列車に乗り込んだ。高街で待っている舞台座の工作員に、違法な光素を渡す。だが彼女は音がうるさく鳴らないよう、ジャケットに縫い付けた隠しポケットへそれらの瓶を映していた。もっと重要なことに、その鞄には薄紙に包まれた一着のドレスが入っている。初舞台の衣装が。

「歌姫にふさわしい見た目でなくてはね」、ジェトミアはそう言った。

 彼女は動揺を隠せないまま、冷たい絹に手を滑らせた。これまで触れた中でも一番高価な布。艶があって滑らかな手触り。それは成功の証。

 そして愛想の良い笑みを消し、ジェトミアは付け加えた。「アッパーブリッジ広場のヘルクラネウム菓子店だ。そこでヘンジーという人物を訪ねてほしい。ヴァントリオーネには七時までに。来なければ、別の歌手が君の代わりに歌うことになる」

 彼女はジェトミアから与えられた切符を使い――自前ではとても買えない切符だ――北バッサマー駅で三等列車に乗り換え、輝かしい高街へと向かっていた。列車はクラウドポンテ橋沿いの最下層から上ってメッツィオの喧騒を足元に、そして天を垣間見せるように頭上で待つきらめきの高街を目指していった。

 後部車両へと繋がる扉の上に設置された時計を確認し、キットは満足の笑みを浮かべた。高街に配達をして、準備のためにメッツィオへ戻る時間は十分にある。曲がったピンと捨てられた靴紐で繋げたぼろ布をまとう、汚れて不潔な野良猫のような格好は今日で最後。緑と金の輝くドレスを纏い、誰もが憧れを向ける、夢見たスターになるのだ。

 このごみ溜めのような熱いカルダイヤを抜け出す日をずっと夢見てきた。ここの街路は昼も夜も、くすぶるランタンに照らされている。よどんだ工場地帯の底に、太陽の光は決して差し込まない。

 ジェトミアの言う通りだった。必要なのはチャンスであり、あの大男はそれを差し出してくれたのだ。舞台座はそうやって機能している。一家の中にひとたび入れば、もう一員なのだ。

 揺れては押し合う満員列車、その先頭近くにキットは立っていた。白い瞳の吸血鬼、取り澄ました表情のエルフ。いやらしい目つきのデビルが、堅苦しく仕立ての良い制服をまとうレオニンの召使を三人引き連れている。と思えば富裕層に混じって、何かの肉体労働に向かう汗臭いオーガの一団も。高街で仕事を持つ労働者は清潔で小奇麗な格好を求められるはずだが、そうであってもここは混み合う三等列車なのだ。さまざまな身体が発する刺激臭はキットの毛皮を突き刺すようだった。座席がひとつだけ空いていたが、ぬめった液体の染みが残されているため誰も座っていなかった。青みがかったその色から、犯人はきっとセファリッドだろう。

 舞台座の構成員は貨物と線路を共有する三等列車を使うことはない。「一家」はひとつ上の線路を走る二等列車に座るか、一家の中でも名のある者は豪奢な一等列車を使う。それは太った黄金のムカデのような形をして、クラウドポンテ橋の優雅な展望台と並行に走っている。

 いつかあの一等列車に乗るのだ。きらめく街の地平線を眺めて、透き通った窓ガラスに映った自分自身の姿へとほんの少しだけ牙を見せて微笑んで、見渡す限りの空が自分のものになる。そのためには、成功しなければならない。

 どの曲を選ぼう? 四曲、ジェトミアはそう言っていた。自分にとっては幸運の数字。一曲目は軽快で生意気な「ウィグル・ウォグルで弾けて」に乗って舞台に上がって、このドレスと少ししっとりした「夢でも幻でもなく」で観客の目を惹き付ける。皆の興味をくすぐる魅力的な選曲だ。

 そうしたら次は有名かつ色気のある歌でレパートリーの広さを見せつけよう。「小さな巣の子守歌」は今夜の三曲目としては完璧な甘い恋歌、けれど少々湿っぽくて、それに汚れた靴を履いたりゴミ箱で夕食を漁ったりしたことのないような人々にとってはちょっと安っぽい。ならば「私の天使になって」がいいだろう。こちらも鳩たちのお気に入りだ。

 そして四曲目、いつまでも印象に残るのは本物の、誰もが息をのむ――

 大きく車体を揺らし、列車が急ブレーキをかけた。騒音とともにがたつき、止まり、そして空気が抜ける音を立てた。周囲の乗客も彼女と同様に沈黙し、誰もが息をのんだ。だが列車はそのまま動かず、そして車内放送もなく、群衆の中に不安の呟きが広がっていった。ある大胆なロウクスが扉を叩いたが、それは当然開かなかった。列車は駅と駅の中間に停まっていた――線路と柵の下は街の底のカルダイヤまで何もない。列車はメッツィオの中層に取り残されていた。色ガラスの窓の外ではメッツィオの桁や屋根の上の明かりが、そして煙るカルダイヤからはるばる高街までを支える巨大な柱の列が夕闇に映えていた。線路の近くでは、木の枝や糸でできたどこにでもある鳩の巣が光素の色合いを帯びて輝いていた。

 メッツィオの各層にあいた幾つもの穴や隙間から、カルダイヤの鈍く赤い光がそこかしこに見えた。底までは遠い。キットに戻る気はなかった。このチャンスをものにしてのし上がるのだから。夢見ていたスターになるのだから。

 だが三等列車は途中停止したままで、彼女は他の乗客とともに立ち往生していた。整備士はいつ来るのだろう? 近くの窓から保全用の細い通路がわずかに見えたが、そこに動きはなかった。誰も自分たちを確認しに来てはいない。隣の線路を走る列車に乗り換えられるのだろうか? 非常用通路を通ってバッサマー駅へ戻り、別の列車に乗れるのだろうか? その場合、時間はどのくらいかかるのだろう?

 キットは車両前方の時計を確認した。チクタク、チクタク。チクタク……ざわつく中でも、秒針が終わりの時を刻む音が聞こえた。その緩く小さなひとつひとつが、皮膚を切り裂くように。せっかくの大きなチャンスが。

 そんな。諦めるわけにはいかない。牙をひらめかせて肩を強引に押し込み、あのデビルの脇を無理矢理通り、彼女は窓のひとつに近づいていった。それを開けられたなら、這い出て整備用の通路に上れる。もっと長い距離をみじめに歩いたこともあるのだ。

「止めろ、野良猫!」 デビルが顔をしかめた。

 三人の召使は揃って牙をむき出しにし、だがキットは肩を回して毛皮を逆立てて見せた。もっと固い肉をこの鉤爪で切り裂いたこともある。三人は耳を畳んだ。

 デビルは彼女を肘で突いた。「引っ込んでろと言ったんだ!」

 その攻撃は彼女の肋骨ではなく鞄をとらえた。その圧力が中の高価なドレスにかかり、包み紙が潰れる音がした。

「邪魔しないでよ」 キットは威嚇の声を上げた。

 デビルの目つきはその虚勢ほど好戦的ではなかった。驚いた声とともに後ずさる様子から、角と醜悪な顔で十分に威圧できると考えたのだろう。そうはいかないのよ! 光素の瓶をジャケットに移しておいたのが功を奏した。だが相手は離れたとしても辺りはざわつき、多くの視線が向けられていた。

 その瞬間、鈍い爆発音が車両を揺らした。

 誰もが会話を止め、そして一斉にざわめきが弾けた。今のは何? 衝突? 火事? けれど自分にそんな時間はない!

 先程よりも鋭く大きな爆発音が続き、列車全体を震わせた。耳をつんざく轟音、そしてまるで世界最大のパイプオルガンが鳴らされたような突風が続き、窓に砂を叩きつけた。近くの桁で羽根を休めていた鳩たちは一斉に飛び立った。

 驚いたのは鳥たちだけではなかった。その爆発音に最も近い、最後部車両の乗客たちが狼狽とともに押し合いながら殺到した。既に混み合っていた車内で牙が鼻面に、角が顎にぶつかった。捕まるような手すりもなく、壁に身体を押し付けることもできず、キットは人の波に巻き込まれた。スーツをまとうオーガがよろめき、彼女は転ばずにいるのが精一杯だった。破滅が迫るかのように、閉じた扉の先で鉄の足音が響いた。前方車両に続く扉が悲鳴を上げ、太く長いレンチを握った逞しい腕がそれを開いた。

 土建組の帽子をかぶった巨体のヴィーアシーノがその扉をくぐり、怯える乗客の前で脚を止めた。その視線は内なる炎に燃え、鱗の鼻面は文字通りに炎を上げていた。あのデビルは虚勢を捨て、召使たちの背後に縮こまった。

「年増女!」 デビルが呟いた。相手が無礼なあだ名を耳にして立腹しないよう、召使のひとりがそれを黙らせた。

アート:Andreas Zafiratos

 ゆっくりとして慎重な、炎のちらつく言葉をヴィーアシーノは発した。大きなレンチを掌に叩きつける音が時折それを遮った。

「今日ここで壊されたくなかったらよく聞きな。この列車の前後で線路をはがせって命令がうちの部下に出てる。だからこの列車は遅れるよ。知っての通り、うちは一番洗練された方法だけを工事に使う」

 また別の爆発音が聞こえた。ダイナマイト。高街のお偉方は、自分たちの荷物や下僕が時間通りに来なかったら怒り狂うだろう。土建組は何のためにここまでするのだろう?

 ヴィーアシーノがひときわ勢いよくレンチを掌に叩き付けた。全員の視線がその音に釘付けになった。

「さて、どこかの幸運な奉仕家が手伝ってくれれば、少し速く終わらせることはできる」 再びレンチの音、だが名乗り出る者はいなかった。「そいつが何者か、何をしてるかはわかってる。だから簡単に逃げられるとは思わないことだね」 ヴィーアシーノが次の言葉を吠え、怯えた乗客へとレンチを突きつけるたびに、緑色の炎が宙に揺れた。オーガですら怯え切っていた。「よくわかっただろう、土建組の邪魔をするんじゃないよ」

 土建組の邪魔をするんじゃない、全員にそう思い知らせるように! キットは鼻面に皺を寄せたままでいた。人探しをやっている暇はない。誰かが土建組に借金を返さないのだとしても自分の問題ではないし、それが誰なのかを知りたいとも思わない。彼女は舌打ちをし、他の乗客の足の間に片足を差し込み、炎を吐くそのヴィーアシーノから半歩離れた。相手は巨大で厚かましくて大胆な中年、見るからに危険だった。可能な限り離れて、この厄介事に立ち往生するのではなくどうにか脱出する方法を見つけ出す。

「さあ!」 その土建組が吠え、鋭い目で群衆を眺めた。明らかに何かを探しているかのように。その血走った視線があの三人の召使で止まった。「昔馴染みのヘンジーってのが私らから借りてるものがある。あいつは認めたくはないだろうけどわかってるんだよ」

 ヘンジー? その名前に、嫌な毛玉が喉に詰まったようだった。ヘンジー。キットは両腕に力を込め、ジャケットと鞄をきつく抱きしめた。

 またもレンチが掌に叩き付けられた。ヴィーアシーノの近くに立つ乗客全員がひるみ、だが逃げる場所はなかった。二人目のヴィーアシーノが仕切り扉のところに現れた。そう大きくない体格からして男性で、一本の槌を握り締めていた。

 最初のヴィーアシーノが、白く太く尖った牙をむき出しにした。「さてと、よく聞きな。昔馴染みのヘンジーってのがうちらの商品を横取りしてレオニンの娘っ子に運び屋をさせてるらしい。聞いたかい、子猫ちゃん? 名乗り出てその荷物を渡してくれれば、すぐにでも列車を通してやるよ。泥遊びパーティーが終わってご機嫌な豚みたいにね。どうするんだい? 金目当ての仕事についてどうこう言う気はないけど、あんたが持ってていいやつじゃない。賢明な判断をしな、そうすればこれ以上困ることも何もないよ」

 狭苦しい車両の中、乗客たちはレオニンの召使三人へと顔を向けた。一方のキットは肩を縮めて目立たないように努めた。彼女はそのデビルから何とか離れ、今は背中を向けて立つ吸血鬼の乗客と、窓を背にして席に座るどこかの店主らしき人間の膝の間に挟まっていた。誰もがヴィーアシーノか召使たちを見つめていたが、キットの隣の吸血鬼は鼻を鳴らしていた。彼女がまとうカルダイヤの灰の匂いを嗅ぎつけたかのように。

 古いジャケットに縫い付けられた隠しポケットの中、光素の瓶が動いた。部屋代を稼ぐためにここに物を隠して違法な物品を運んだことは過去にもある。進み出て謝り、瓶を渡し、さっさと逃げ出すのはとても簡単だろう。

 土建組がそれを許すなら。その保証はきっとない。更にその後、舞台座に説明しなければならない。ジェトミア本人に、かもしれない。彼の琥珀色の瞳と悠然とした姿を思い出すに、この頼み事は真っ当なものではないとわかったはずだ。一家の首領を失望させることは死を意味する。そして命までは取られなかったとしても、出世への道も危機に瀕していた。

 肉体にナイフを押し当てられたのではなくとも、スポットライトを浴びて歌うというチャンスは終わってしまう。そしてどうなる? 落ちぶれる。確かに、地下鉄の駅で鳩に向かって歌い続け、少しのコインを投げてもらうことはできる。けれどそこに、どんな誇らしい人生があるというのだろう? ともかく。考えてもみよう。自分にはここを切り抜けるための能力が十分にある――あの図体のでっかいヴィーアシーノと同僚を出し抜くのは、利口な舞台座とジェトミアの期待を裏切るよりもたやすい。

 尖塔から尖塔へと飛び回る高街の配達人のように、音楽家は素早くなければならない。キットは直ちに心を決めた。

「なあおい、君はレオニンだろう」 吸血鬼が囁いた。その怠けた思考が長い時間をかけてようやくキットの存在を認めたかのように。

 腰を大きくひねり、彼女はその吸血鬼を脇に押しやって二人組のオーガにぶつけ、そして席に座る店主の足を踏みつけた。その人間は痛みに悲鳴を上げて身体を曲げ、そこでキットは相手の両肩を掴んで強く引き、座席から立ち上がらせて先程の吸血鬼へと頭突きをさせ、吸血鬼はその勢いで再びオーガに激突した。脅迫するヴィーアシーノの存在を忘れ、オーガは怒りの罵詈雑言を吸血鬼へと浴びせた。新たに巻き起こった喧嘩から離れようと、人々は押し合いながら叫んだ。

 キットは座席に跳び上がり、全力を肩にかけ、窓を押し開いた。

「逃げるぞ!」 低い声が轟いた。

 指をさしてくる相手を確認している時間はない。キットは窓から飛び降りた。厄介な状況からこうして無理矢理逃げ出すという経験は豊富にあった。音もなく通路に着地すると、彼女は辺りを見回して逃げ道を見積もった。バッサマー駅へと引き返したなら追跡者が待っているだろう。だが上を見ると、少し先を走る列車に作業員が群がっていた。熱心な土建組はきらめく列車の外層を文字通りに剥ぎ取っていた、蟻が甲虫の外骨格をそうするように。土建組は本気でこの光素を欲しており、自分はその無謀な作戦の最中にはまってしまったということになる。いいじゃないの! あんたたちが群がろうと沈もうと、この猫は今日溺れるわけにはいかないのよ。

 残る逃げ道は? 跳んでも橋の上層には届かず、それに自分は空を飛べない。ならば沢山の鳩が巣を作って熱心に見つめてくる、メッツィオの屋根や桁や配管の上。通路の先端から10フィート先、15フィートほど下の屋上が庭園になっている。ぎりぎり届く位置。そこから先は跳んで桁のどれかに掴まって、商人ギルド会館の細い屋根沿いに走って、気取った彫像のどれかを滑り降りて、メッツィオの街中に入ればいい。

 二十歩ほど先で、列車の扉が軋んで開いた。あの巨体のヴィーアシーノが通路に降り、その振動が骨身に染みるのを感じた。燃える視線がキットに定められた。「どこへ行くつもりだい、お嬢ちゃん? 簡単な道か、大変な道か」

 大道芸人は野次を無視すべき時を心得ている。一歩また一歩とそのヴィーアシーノからゆっくり離れつつ、キットは「私の翼になって」の歌い出しを口にした。鳩たちが注目し、何百という黒い瞳が彼女へと向けられた。彼女にとって鳥たちは最初の観客であり、このニューカペナには人々が思うよりもずっと沢山の鳩がいる。鳩たちはメロディーを切望し、キットは見守ってもらう。困り事が来る前に警告してもらう。鳩たちは馬鹿などではない。この街の頂点から底まで、天使たちはその力を至る所に残していった。そして最も地味で最もありふれた住人はいつも見逃されている。鳥たちですら、光素の神秘的な力に触れているのだ。

 彼女は跳んだ。身体を縮めて速度を保ち、そして力を抜いて屋根へと静かに着地し、問題なく立った。だが一息すらつかないうちにその屋根が大きく震えた。あのヴィーアシーノ、そして小柄なもうふたりが続いた。あの図体でこんなに素早いなんて!

 キットは屋根の端へと駆けた。ダイナマイトの火花が梁に散り、怯えて怒れる鳩たちが飛び立った。巣はばらばらに砕け、破片が火花と光素の光をひらめかせながら落下した。キットが見つめる先に、作りかけの屋根を足場が取り囲んでいた。飛び移れる距離。三人のヴィーアシーノは並んで背後に迫っており、迂回して階段を目指せそうにはない。選択肢はなく、キットは柵を乗り越えて再び跳んだ。長い落下。風が耳でうなり、毛皮を叩いた。彼女は身を屈めて足場に着地し、転がって受け身をとると衝撃を和らげながら立ち上がった。

 三人のヴィーアシーノが後に続き、足場が震えた。キットはその端へと急いだが、今度は桁も尖り屋根も、ギルド会館の屋根に続く道もなかった。メッツィオの建物の隙間と、その底の鈍く赤い輝きだけ。猫はどんな時でも足から着地するとは言う、けれどこの猫は空を飛べない。この高さから飛び降りたなら、死ぬだろう。

 背後で、レンチが掌に叩きつけられる音が響いた。

 キットは振り返り、安全柵に背中を押し付け、鞄を胸に抱え込んだ。

 巨体の土建組は笑みを見せ、その鼻面を取り囲む緑色の炎が危険に揺れた。「子猫ちゃん、このオーグニス婆を出し抜けると思ったかい。私みたいな技術者はありとあらゆるトリックを想定してるんだよ。罠にかかったのがわかるかい? 荷物を渡しな。悪いようにはしないよ、けどこれが最後のチャンスだ。何せ今日は予定が詰まっていてね」

 キットにとっても、それは最後のチャンスだった。カルダイヤに戻る気はない。今日は。金輪際。オーグニスたちは技術者かもしれないが、自分だって相当に危険な落下を何度も生き延びてきたのだ。

「長ったらしい話はやめてくれる?」 キットはオーグニスの燃え立つ視線を受け止めた。「自分で自分の卵を料理しないようにね」 彼女は息を吸い、驚いた三人の表情めがけて最初の旋律を歌うと、ためらわずに次の節へと続けた。そして舞台座のステージで身体を翻すように、ヴィーアシーノの炎から身体を引き離した。「私の天使になって、その愛で空の上まで連れていって……」

 足場の端に立ち、メッツィオと古びたカルダイヤが遥か眼下に広がった。キットは歌を中断し、鞄を掴んだ手を柵の先へと伸ばした。こんなことをするのはとても心が痛む、けれどこうするしかなかった。彼女は厳しい表情でオーグニスの視線を受け止めた。「これが欲しいんでしょ? 取りに行きなさいよ」

 手を広げ、彼女は鞄を手放した。オーグニスは唖然とし、信じられないものを見たという驚きに大きく鼻を鳴らした。だがキットは土建組たちが間抜け顔から立ち直るのを待ちはしなかった。彼女は柵の上に立ち、一瞬だけその上でバランスを取った。何故なら再び歌いだす中、それが精一杯だったから。

「私の天使になって――」

 口ずさむと同時に、キットは両腕を広げた。

 歌いながら、彼女は広大な空間へと飛び込んだ。

 そして鳩たちが羽ばたいた。集まり、ひとつに固まり、巨大な灰色の雲を作り上げた。それらは何百枚ものきらめく翼でキットを受け止め、そのまま彼女を運んで上昇し、高街の最下部を目指した。そこは小さな駐車場であり、案内係の吸血鬼が小奇麗な車の群れを見下ろす椅子で居眠りをしていた。

 鳥たちのやかましい鳴き声にその吸血鬼ははっと目を覚まし、眠い目をこすった。キットは固い地面に転げ、感謝を告げながら辺りを見渡した。鳩たちは空へ飛び立ち、散っていった。

 彼女は柵を掴み、見下ろした。ここまで高い場所に来るのは初めてだった。あの鞄を探しにメッツィオへ、あるいはカルダイヤへ引き返す時間はあるだろうか、一瞬彼女はそう考えた。あの綺麗な、高級なドレスを。

 いや、間一髪で助かっただけでも良かったのだ。探していたものを見つけた時のヴィーアシーノたちの顔を見られないのは残念だが。

 けたたましい音を六度鳴らし、近くの時計が時間を告げた。

 あと一時間しか残されていない。ヘンジーを見つけて光素を渡して、貪欲な土建組に見つかることなくメッツィオへと引き返さなければ。

「え?」 案内係の吸血鬼は、明らかにここしばらく光素も血液も十分に摂取していないようだった。「待ちたまえ、そこの悪党!」

「お喋りしてる時間はないの!」 キットは叫び、駐車場の出口へと駆けた。

 あの鞄と一緒に、ジェトミアは高街の地図をくれていた。それは親切だと言えた。煮えたぎる鍋の中に放り込まれはしたが――自分を試すためか、それとも部下を犠牲にしたくないからか、それはわからない。いいだろう! 自分が何でできているかを見せてやろう。

 広い大通りを薄汚い野良猫が駆ける様を、高街の小奇麗な人々や真面目な顔の召使たちは二度見した。洒落た店頭、豪奢なドレスや均整のとれた脚、優雅な建物、壮大な広場。太陽の光が、この街という屑山の頂点で生きられるだけの富を得た人々だけに触れる。だがそれを眺め、驚き、目を見張るだけの時間はなかった。それは後でいい。自分自身がこの頂点を飾る宝石になってから。

 ステンドグラスと甲虫の殻でできた砂糖菓子店は、クロスポンテ・ブリッジ駅から二区画先にある。メッツィオから来た人々が長い仕事の前に可愛らしい棒キャンディーや光素入りキャンディーを買う、そして高街でも冒険好きな人々が、カルダイヤの働きづめの母親が赤ん坊の空腹を和らげるために使うようなほろ苦いハッカ飴を試す場所。

 彼女が店に滑り込むと、ひとりの客がタフィーの棚を眺めていた。カウンターには背の低いデビルがひとり座していた。角に似合うように髪を整髪料で撫でつけ、鼻は何度も折れては治療した跡があり、右目には宝石商人の片眼鏡をはめていた。ペパーミントホイップを人の姿にしたような身なり。

アート:Johannes Voss

「ヘンジーって人に会いに来たんだけど」キットは声をかけた。

 店主は彼女を頭から爪先まで眺め、だが客が店を出て扉のベルが鳴るまで待つとそっけなく言った。「仔猫ちゃん、鞄は無くしたのか?」

「お望みのものはここに」 見せびらかすように、一本また一本と彼女は光素の瓶を置き、大声で数え、一歩下がって待った。

「言葉もないよ」 ヘンジーは首をかしげ、その痩せた顔に尊敬の念を浮かべた。

「私がやれるって思ってなかったでしょ?」 キットは牙の先をひらめかせた。「切符買ってくれない?」

 彼はもう一瞬だけキットを見つめ、そして頷くとスーツのポケットから印刷された厚紙を取り出し、カウンターの上を滑らせた。

 キットはそれを素早く取り上げた。「せっかく来たからにはここの風を堪能して行きたいんだけど、舞台に上がる予定があって」

「美しい緑色のドレスをまとって。私の覚え違いがなければ」 手ぶらの彼女を、ヘンジーは興味深そうに見つめた。

 駅へと駆けながら、その言葉については考えなかった――考えられなかった。頭上では鳩たちが斥候のように舞い、土建組の姿はないかと彼女は目を光らせた。

 駅に着くと、帽子をかぶって苦い顔をしたヴィーアシーノがふたり――先ほどの三人ではない――正面口で待ち伏せをしていた。まるで迷惑な慈善家が彼らの足元に餌を撒いたかのように、鳩の群れがやかましく鳴きながら降下した。ふたりは腕を振り回して顔を守り、嵐のように罵り声を上げた。キットはその隙にうつむいて通り抜け、発射直前の列車へと駆け込んだ。車輪が生きのいい音を鳴らし、そのリズムはキットの興奮を和らげた。

 確かに、あのドレスは無くしてしまった。けれど成功するための声と演技はある。それに、そもそもジェトミアの目に留まったのはドレスじゃない。それでも内なる声が囁いた、そんな格好で高級なパーティーには立てない。黙りなさい、成功のために必要なものはもう持っているのだから。

 ジャケットをはためかせてキットはメッツィオ駅から駆け、仕事帰りの人々でごった返す街路を縫うように、時には強引に抜けていった。飲食店は豊かな香りを流して人々を夕食に招いていた。当世風のバーでは、明らかに飲み過ぎた事務員と弁護士が談笑していた。キットは時計を持っておらず、時間を確認する術も、広場の時計塔へと迂回する余裕もなかった。彼女はただ駆け、息を切らしてヴァントリオーネの楽屋口へとたどり着いたその瞬間、扉が開いた。舞台座の制服をまとう世話係が無表情で踏み出した。

アート:Bud Cook

「貴女がその歌手で?」 その男は怪訝な視線で彼女を上から下まで眺めた。「思っていたのと違いますが、まだ間に合いますよ。ショーまではあと六分」

 六分! キットは精一杯の生意気な笑みをその男に向けた。友好的な人物に思え、あるいは少なくとも扉から締め出しはしなかったのだから。「指揮者さんに伝言頼める? 曲目なんだけど」

「大丈夫ですよ、猫さん」

「キット。よければそう呼んで」 彼女は威厳を込めて告げた。「キット・カント」 この先もここで歌い続けるつもりなのだから。

 楽屋裏の通路へ入ると、深紅のドレスをまとったエルフの美女が滑り出た。彼女もまたキットをまじまじと見つめ、その完璧な容貌に嘲りの皺を寄せた。

「ジェトミアが言っていたような娘とは違うわね。私の舞台には一定の基準があるの。赤の部屋に相応しい格好をしてるって聞いたけれど、ドレスは?」

 キットは肩を怒らせ、自信あふれるように耳を動かしてみせた。「私はこれでいいんです。ここの人たちにも絶対に喜んでもらえます。控室はどこですか? それと、どうお呼びすればいいですか?」

 赤ドレスのエルフは静かに、そして冷たく顔をしかめた。「自己紹介は後で。それにしても遅かったわね」

「ちょっとまずいことがありまして。でも解決しました」

「本当に? ジェトミアも私も、貴女がここにたどり着く方に賭けていたのだから。こっちよ」

 そのエルフは通路を先導していった。不意の大きな笑い声と興奮した会話が建物の前方から轟いた。沢山の客が、ショーが始まる時を待っている。

「開始まで五分、それから紹介に二分。その時間で歌う準備を全部済ませるのよ」 恩着せがましく片眉を上げてそのエルフは言った。赤の部屋の舞台にキットが本当に似つかわしいのか、それを疑っているのは間違いない。黒髪に結び付けられた小さなベルが心地よく鳴り、キットは短い鼻歌を合わせた。エルフは驚いて肩越しに振り返り、そして扉を閉めた。

 控室は前座には十分すぎるほどに豪華だった。ソファーに化粧台と鏡、そして身支度のための仕切り。小さいながら、カルダイヤの放棄された倉庫の一室に詰め込まれた彼女の自室よりも遥かに豪華だった。大きな姿見の両脇に眩しい光が燃え、彼女の映し身を見つめ返した。汚れて汗にまみれ、ジャケットの裾はいつのまにか裂けていた。両肘の継ぎあてと毛皮に引っかかった鳥の羽根は今更言うまでもない。だが零れたミルクを嘆いても仕方ない。クロスポンテ橋を下りながら、彼女は残されたひとつに賭けると決めていた。自分らしく、そしてそれを歌う。

 急ぎの発声練習で喉を温めながら、彼女はジャケットを脱ぎ捨てると古い港湾労働者のシャツのボタンを二つ外し、羽根を払い落し、全体を正すと顔の汚れを仰々しく塗り直した。まるで野良猫の役を演じる女優のように。そして少し考えると、一番見栄えのいい羽根を拾い上げてボタンの穴に差した。それはかすかな光素の輝きを帯びていた。

 扉がノックされてわずかに開いた。あの赤いドレスの歌い手が覗き込み、自宅の玄関先に捨てられたごみを片付けなければならない怒り狂った人物そのものの口調で告げた。「出番よ、カントさん」

 キットはそのエルフに続いて舞台袖に向かった。かすかな羽音が耳にとまった。見上げると、鳩が――とても沢山の鳩たちが――暗闇の中の垂木に集まっていた。どうやって入ったの? そう。 きっと自分と同じ方法だ。飛んで、一か八かの賭けで。

「お待たせ致しました」 司会者の声だけが聞こえた。「それではお聞き下さい。キット・カント!」

 「ウィグル・ウォグルで弾けて」の前奏が始まる中、キットは最上のストリートの心意気をまとった。明かりは落とされていたが、彼女は猫の視力で暗闇を見通し、観客の中に土建組が、あのヴィーアシーノがいないかと探した。あの燃え上がる両目! それはキットの想像力の賜物なのか、それとも舞台の上で身体を揺らす歌姫の正体に気付いたオーグニスの両目が怒りに燃えているのだろうか?

 ウィグル・ウォグル・ブーン!

 ウィグル・ウォグル・ブーン!

 捕まえたと思ったでしょ?

 ウィグル・ウォグル・ブーン!

 「ブーン!」を決めるたび、キットは生意気に腰を揺らしてみせた。舞台座のドルイドたちが熱い視線を向けた。結局のところ、舞台座と土建組の間に嫌悪などないのだ! 一曲目が終わる頃には舞台座は大笑いし、土建組は顔をしかめていた。鳩たちですら鳴き声を上げ、演奏が「私の天使になって」へ移行すると誇らしげに羽毛を膨らませ、その後は満足とともに「小さな巣の子守歌」を待った。

 最後の曲については、高街からメッツィオへ下る電車の中、六回も歌詞を変えていた。そして決まったのは、舞台座への献身を示すと同時に強烈に印象付けるもの。それは賭けだった。もし負けたなら先の契約はできずにここを去る。自分は賢いけれど、土建組に追われたなら長くはもたないだろう。そう、その賭けに勝たない限りは……勝たない限りは。

 楽団はキットが要求した通り、アップテンポのひねりを加えて定番曲へと移った。ぶっつけ本番ではあるが歌詞の変更は頭に入っており、この曲は土建組の観客全員に向けたものだった――特に、オーグニスに。

 ひとつひとつと瓶を詰め、高街に逃げてやるのさ。年増女に別れを告げて。声は感傷的に、歩きぶりは大げさなほどにストリートっぽく。目つきは生意気かつ確固として。列車で見たあのデビルの倍も威張って、何よりも男っぽく。彼女はスポットライトの中央へと身をのり出して見つめた。舞台を越えて、観客を越えて、特別席のジェトミアすら越えて、今一度オーグニスの怒り狂う視線を。キットは頭をのけぞらせ、胸を突き出して羽根を見せつけ、出る限りのしわがれ声のその歌をヴィーアシーノめがけてぶつけ、一節ごとに意地悪で勝ち誇った笑みを挟んだ。あの図々しい技術者が線路を歩く時の、レンチを叩きつける音のように。

 夢を叶える時が来たのさ、だから別れよう年増女よ、さよならだ!

 ドラムの連打とともに最後のクレッシェンドに至る、完璧な音程。息を止め、そして余韻の中で音が静まってゆく。頭上では鳩たちが興奮にさえずり、だがその音は不意に轟いた拍手喝采と口笛にかき消された。

 キットはお辞儀をし、だが疲れと安堵に震えながら立ち去ろうとしたその時、舞台袖のカーテンが揺れた。大きな人影がスポットライトの下へとしなやかに踏み出した。ジェトミアが舞台に上がり、片手を挙げた――すると辺りは水を打ったように静まりかえった。

「何と素晴らしい、魂のこもった歌声だろうか! いかがでしたかね、皆様?」 途切れない歓声と熱狂が劇場に弾け、ジェトミアが再び手を挙げると静まった。彼は視線を舞台のすぐ脇に立つエルフに向け、舞台マネージャーへと無言で頷き、そして再び観客に向き直った。「明日の夜また、ここに立ってもらおうではないか。もっと派手に宣伝をして、曲も増やしてね」

 彼はキットへとひとつ頷き、楽長へと告げた。「アンコールをいいかな。『小さな巣の子守歌』を」 そして舞台から去っていった。

 しばし、彼女は言葉を失っていた。息ができなかった。いや、ジェトミアの言葉はしっかり聞こえた。彼からの試練を見事に通過してのけたのだ。

 舞台座に入るのだ。もう野良猫なんかじゃない。今やキット・カント様はこの街でも一番贅沢な劇場に君臨する最高の歌姫なのだ。どこまでも昇りつめてやる!

 頭上で、鳩たちが鳴き声をあげた。

アート:Fariba Kamseh

(Tr. Mayuko Wakatsuki / TSV Yohei Mori)

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