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基本セット2012の内部情報 その2

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基本セット2012の内部情報 その2

Doug Beyer / Translated by Mayuko Wakatsuki

2011年7月27日


 2週間前、我々は基本セット2012から焼き立てのカードを一塊かじっていた。そして私は秘密の箱を開けてそれぞれについての話を君達に聞かせた。今日我々は、フレーバーに取り憑かれたM12デザイナーの視点から、今年の基本セットについてのレビューを完成させよう。

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 ソリンが剣を持っていることを知っていただろうか? 彼のオリジナルのプレインズウォーカー・カードのアートにそれを見ることができる。彼が腰から下げている華麗なロングソードだ。全くもって理にかなっているだろう? 彼は何千年とも知らぬ時を生きている吸血鬼だ。エルドラージが最初に覚醒し、ゼンディカーを脅かすのを見ていたほどに歳を経ている。彼は他の追随を許さない吸血鬼だ。それでも剣を持っている? 《ソリンの復讐》は前述の剣が、犠牲者、もしかしたら剣の持ち主その人の心臓へと突き立てられているのが描かれている。そして犠牲者の血液が剣を伝って流れ、ソリンの身体へと流れ込んでいる。

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 《ソリンの復讐》のアートはソリンの瞳を拡大するのに良い作品だ。多くの吸血鬼とは異なり、ソリンは明るい色の瞳孔と黒い強膜(強膜は瞳の外側、しばしば「白目」と呼ばれている部分を指す。だがソリンのそれは黒い)を持つ。アーティストにとっては見逃しやすい些細な事なので、ソリンが描かれる時は毎回、我々は届いたアートの「白目チェック」をする必要がある。「白目チェック」? ハードボイルド刑事ドラマみたいな響きだ。「白目チェックはどこだ? 彼のバッジを持ってきてやる、役立たずの白目チェックめ! この馬鹿野郎、白目チェックをしろ今すぐ!」他のニュースとして:白目チェック。

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 吸血鬼について語ろう。この貴族的な吸血鬼の将軍は、ヴァーズゴスとして知られる闇に包まれた地にて吸血鬼の奴隷達の軍団を指揮している。ヴァーズゴスは一つの地域であり、次元ではない。テューン王国やカロニアの未開の森といったような場所の一つで、多元宇宙の中の無限に存在する次元、そのまたどこかにあるものと思われる。基本セットに描かれている、これら遥か彼方の地は偶然にも同じ世界にあるのか、明らかになるのだろうか......それは、まだわからない。

 それまでは、私のアドバイスを聞いておくんだ。ヴァーズゴスの地で夜を過ごしてはいけない。馬は朝に休ませること。もし典型的な夕暮れに、君の血が君自身の血管内にとどまる価値を知っていて、またそれを楽しんでいるなら、ヴァーズゴスの国境を越えるまで留まらずに移動し続けるように。私が言えるのはそれだけだ。

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やっぱり岩だ。岩がいちばんに決まってる。

? ゴブリンの射手、リアホック(《岩崩れ》)


 ゴブリンは岩を愛している。猛烈に岩を愛している。岩は頭蓋骨をへこませる。岩は再生可能な資源だ。弓の矢がない? クロスボウの矢もない? 問題ない。岩は豊富にある。しゃがめば、武器が手に入る。簡単なことだ。岩以上にいいものがあるだろうか? 無いね。君はそう考える。だけどびっくりするなよ、岩に火をつける。そうだ。それを投石器に入れる。燃える岩を頭にぶつけてやる。頭蓋骨を砕いて顔面を燃やす。効果的だ。地面に血が流れ落ちる。オーガがそれを嗅ぎ、腹をすかせる。だが気をつけるように。火のついた岩は時々君自身に当たる。運命とは気まぐれな愛人だ。時々、火のついた岩は他のゴブリンにも当たる。面白いことじゃないか。だけどやりすぎないように。人間を狙うこと。頭蓋骨に当てること。戦いに勝つこと。岩は良いんじゃない、岩は最高なんだ。

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 ミノタウルスのクリーチャー・タイプは我が個人的改革の一部だ。それを「3/3地帯」と呼んでいる。

 クリエイティブ・チームにおいて、我々はパワー/タフネスでの区別、人間サイズのクリーチャーの最大値と、人間より大型サイズのクリーチャーの最小値とを定義する境界を整備することを試みた。その区別は2/3や3/2付近のどこかとされ、それより小さいクリーチャーは人間サイズ、3/3とそれ以上のクリーチャーは「巨人サイズ」とした。歴史的に、《丘巨人》や《ウォー・マンモス》のようなクリーチャーは、「3/3はとても大きいことを意味する」ということを示している古典的な例だ。

 だが《丘巨人》や《ウォー・マンモス》はマジックの別の時代の者達だ。真に巨大なクリーチャー達(5/5や4/7、8/6やそれ以上)はごく僅かでその値はそれぞれかけ離れていた。最も巨大なクリーチャー達は恐ろしいほど圧倒的だったために、彼らの多くにはデメリットが与えられていた。今日、超巨大クリーチャー達はマジックにおいてよりありふれたものとなっている(個人的には素晴らしいことだと思う)。だがそれは創造的問題を生み出す。私にとって、より多数の巨大クリーチャーは、《丘巨人》の先例が疑わしいものになることを意味する。私は今も人間に3/3以上になってほしいとは思わない(伝説でない限り。そして間違いなく君達はいくつかの例外を見つけるだろう)。だが巨人達を3/3から始めることは、大型だが超巨大ではないクリーチャー達のために十分な余地を残しておくことにはならない。私にとって、巨人サイズのクリーチャー、人間サイズの足で君を踏み潰してしまうクリーチャー、それらは4/4かそれ以上の範囲であるべきだ。マジックの5/5達、8/8達、11/11達はそれらの首が痛くなるような大きさで知られている。3/3達は違う。

 それは我々に3/3地帯を残してくれている。何てエキサイティングなんだ、巨人サイズのクリーチャーと人間サイズのクリーチャーとの間の空白、我々が手に入れた3/3か3/4の周辺地帯。それは大型ヒューマノイドのための偉大な場所だ。大型でタフなことで知られるファンタジー種族、だが世界を闊歩する巨人達ではない。《ロクソドンの教主》。《連射のオーガ》。《ロウクスの戦修道士》。《棍棒のトロール》。

 そして《血まみれ角のミノタウルス》。このクリーチャーサイズの中央層はまだ何かしら自由なものだ。特に狂喜持ちクリーチャー達の様々なサイズによって趣旨は混乱していて、またマジックの歴史の中には豊富な反例が存在するからだ。だけど私はそれら大型だが巨大ではない者達のために、この中型、3/3的地帯を刻みつけるべく努力をした。《丘巨人》? 《峡谷のミノタウルス》に会ってきてよ。

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 全ての色にそれぞれ固有の強さがあるが、緑の主な強さとはまさに「強さ」だ。呪文を打ち消すことではない。下僕を腐らせる死の魔術ではない。それは大きくなることだ。私は基本セットプレイヤーに緑がいかに賢いかを見てもらいたい。ただしそれは私にとって、緑がいかに巨大になることに対して賢いかだ。緑の賢さは、巨大な怪物のようなクリーチャーを使役し、《超巨大化》を打ちこむことにあるべきだ。《狩人の眼識》はそういったスタイルのカードだ。それは緑の力強い巨大さをとらえ、とても美味しいカードとなった。君の怪物が大きいほど、多くのカードを。それこそが私の思うカードドロー呪文だ(プロのヒント:それを《崩れゆく巨像》に唱えるんだ。クリスマス用に作られたゴーレムを持っている気分になるだろうね)。

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 《肌変わり》は自然の魔術師、獣使いの一つの姿だ。彼の外見を変化させ、敬愛する森に生きるクリーチャーの一つになることができる。彼は野生の獣になることのできる野人の類だ。我々は様々なクリーチャー・タイプとパワー/タフネスの組み合わせをプレイし、これは喜ばしい選択範囲のように思えた。クリーチャー・タイプはフレーバーを伝える意味で重要だ。そして一枚のカードが複数のクリーチャー・タイプをそのテキストボックスに得ることができた時、とても喜ばしい物語を語ってくれる。

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 M12のデザイン・リーダー、マーク・グローバス/Mark Globus はこのセットのための「カードの組み合わせ用法」を探していた。ファンタジーの物語と繋がっている、何か複数の要素が一枚以上のカードに分かれているというものだ。この意味では《白騎士》と《黒騎士》のクラシックな「善の騎士VS悪の騎士」という様式はカードの組み合わせ用法だ。彼らは絶対的な敵同士で、その叙事詩的な決闘は実際には決して叶わないにもかかわらず、この正反対に繋がる馴染み深い彼らの雰囲気は永遠に忘れられない。M12の《グリフィンの乗り手》はこのもう一つのアイデアで、二つの要素(乗騎と乗り手)はフレーバーとメカニズムの両方で繋がっている。帝国アーティファクトはこれと同じ傾向を踏襲していて、アーティファクト一式が三枚のカードにまたがっている。これら権力の象徴が君に独裁的な能力を与えてくれるというのは実にフレーバーに満ちている。だけど君が3つ全てを揃え、帝国の全権力を手に入れたなら、もっと多くのフレーバーを感じさえするだろう。

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 これはいくつものセットに提出されてきたカードだ。私はこれがM12に居場所を見つけてくれて幸せだ。これは全てのクリーチャー・タイプ、戦いを導いてくれるクリーチャーがいなかったタイプに「ロード」を与えてくれる。私は、この万能戦士のおかげで君達が愛する部族のデッキを組めたと聞いて興奮している。我々はアーティストIgor Kierylukへと、継ぎ目や連結された部品の見える人型構築物を描いてくれと頼んだ。そしてそれは金属製の外板を組み直して別の姿をとり、何か別の種族やクリーチャー・タイプのリーダーとなれることが推測できるようにと。その目、鼻、そして口は全て別々に動くパーツから成っている。私はそれをただ掘り下げた。それは魔法的に動かされている軍事目的構築物のMr.ポテトヘッド(訳注:ハスブロ社、日本ではタカラトミーが発売しているジャガイモの顔をした人形)だ。※誰も言ったことのない文

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 私はいつも求めてきた、その中を探った時はいつでもランダムな小道具を手に入れる「手品師のバッグ」のようなカードを。だけど興味深いことに、マジックのルールはランダム的な結果を生み出すことのできる方法を、ほんの少しの貴重なものしか提供してくれない。ルールでは《ゴブリンの爆発投げ》のようにプレイヤーにコインを投げることを許可している。いくつかのカードはダイスを振らせるが、それは銀枠の「アン」セットに限定されている。この点において我々は実際にどんなダイスロールも要求していない、トーナメントで使用可能であるどんなカードにおいても(とはいえ多くの人々が20面体や他のダイスを、ライフ計算、先攻後攻の決定、カウンターの計算といった全てダイスでなくとも可能なことに使用している)。

 だが結果をランダムなものにするにはもう一つの方法がある。そしてそれはマジックのようなカードゲームに組み込まれている。君の目の前そこに置かれている、シャッフルされたカードから成るデッキを使う。ライブラリトップをめくり、それについて何か特質を使用し(この場合、カードタイプ)、そして君は驚くべき結果を作り出すことができる。《ドルイドの物入れ》は、《隠れ潜む捕食者》や《魔術師の金庫》よりも《とぐろ巻きの巫女》や《占いの達人》の系譜としてデザインされた。それらは常に何かプラスとなる結果を生成してくれる、だが君が得る報酬は驚きだ。もちろん、何らかの賢いデッキ構築やライブラリトップのカードを操作する効果を使えば、君は《ドルイドの物入れ》から取り出すものをコントロールし、望むものを正確に得ることができる。そうでなくても、それに手を突っ込んで得たものを見るのはただ楽しい。


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 ただマナを供給してくれる役割を越えて、ちょっとした面白い有用な芸当をしてくれる、そんな基本でない土地があるセットが好きだ。加えて土地には途方もないフレーバーがある。我々は毎回の基本セットごとに両手に一杯の新たな土地を、ショーケースに陳列する価値のある、ファンタジーの響きを逸脱していない場所を容易にデザインすることができる。なので我々はいくつかの新たな土地をデザインしようとした。開発部はスタンダードのためにM10の《氷河の城砦》サイクルを留めておくのは重要だと考え、我々は《埋没した廃墟》を加える余地しかなかった。《埋没した廃墟》は考古学の発掘現場で、その財宝を露わにするべく少しだけ発掘されている。それはゼンディカーのフレーバーとミラディン独自のアーティファクト過積載メカニズムとの橋渡しのようだ。

今週のお便り

親愛なるダグ・ベイアーへ

 クリエイティブ・チームはどのように仕事をしているのでしょうか、そして貴方はカードデザイン過程においてどれほどの影響力を持っているのでしょうか?

 新セットのそれぞれのカードに関わり、クリエイティブの不備を発見するのでしょうか。それとも貴方は完全に無関係であり、実際のカードと、アート説明を描いてカード名をつけるだけなのでしょうか? メカニズムがどのように働くかについてデザインチームと戦うのでしょうか、もしくは戦わないのでしょうか?

答えて頂ければ嬉しく思います。

-- Isak W.


 どういたしまして、Isak。この質問は巨大で、カード製作過程におけるクリエイティブ・チームの役割についてを語ろうとすると、私は多くの記事を費やすことができるだろう。だけど要点を語らせてくれ。

 答えはこうだ。「その時による」。ほとんどのセットのために、クリエイティブ・チームはカード製作過程の多くの段階に首をつっこむ。我々は新たなブロックのためのアイデアが立ち上げられたばかりの頃、カードがデザインされるずっと前から首を突っ込む。首席デザイナーは我々と計画を話し合い、アイデアのそれぞれについて頷いたり首を振ったりして、それら舞台やストーリーのアイデアがカードデザインを導くことができるかどうかを検討する。我々はまたカードが大部分デザインされプレイテストされている時にも首を突っ込んで、そしてああ、コンセプト作成(リンク先は英語)の間にカードイラストを描いてもらうためにアートについての説明をひねり出す。だけど我々がカードのデザインの中に歩み入る時がある。特にM12のようなセットには。以下に示すのが、我々がカード毎の決定に首を突っ込むシナリオのいくつかだ。

  • トップダウンのカード。確かなフレーバーを持って作られたカード、墓地から蘇るフェニックス・クリーチャーや蛙に変えてしまう呪文といったものは、デザイナーによって意図されたフレーバーをその通りに表現するためにクリエイティブ・チームの団結を必要とする。時折我々は、もしそのカードが持つフレーバーが何らかの理由でそぐわないと感じるならば、そのカードデザインを没にする。例として挙げるが、ある人物がミラディンの傷跡ブロックにおいてとても説得力のある「シャベル」アーティファクトをデザインした。だが実のところミラディンには「土」というものが存在しない。よってシャベルはその次元にふさわしくない。デザインはメカニズム的にとても良いものだったが、クリエイティブ的には問題があった。もしかしたら金属の地殻ではなく本物の土を持つ次元を訪れる時にデザインされ、再会するかもしれない。M12や最近の基本セットにはトップダウンのカードがぱんぱんに詰まっている。それこそが、我々がいつもクリエイティブ・チームの代表を務めていて(私のように)、それらデザインチームに座ってカードデザインを監督するのを手伝う理由だ。
  • 部族メカニズム。クリーチャー・タイプはフレーバーとメカニズムの両方へと決定的に影響を及ぼす。実際のところほとんどの場合、我々が仕事を終えた時にクリーチャーが何のクリーチャー・タイプを得て完成するかは、デザインチームや開発チームは気にしていない。《呪詛の寄生虫》はそれが昆虫でもホラーでも同じ働きをしているだろう、もしくは奇妙なゴブリン・シャーマンの一種であっても。だが時々、カードのアイデアにおいてもしくはカードの部族的相互作用において、サブタイプが重要となる。時々、デザインチームや開発チームはあるクリーチャーがエルフであることを求める。そうだ、エルフデッキやエルフ関係のカードと相互作用を起こせるように。だがもしそのクリーチャー・タイプが何らかの理由で問題を起こすようであれば元に戻るだろう。もしかしたらそのクリーチャーはその種族の通常のパワー/タフネスの範囲を逸脱しているのかもしれない。もしくはその種族が持つべきでない能力を持っているのかもしれない(飛行を持つ4/4のクリーチャーは、エルフにするはとてつもなく奇妙だ)。ほとんどの場合において、様々なクリーチャー・タイプについての略式ルールはデザイナー達にはよく知られている(トロールは再生する、ドレイクは飛ぶ、ドライアドは土地渡りを持つ、等々)が、思わぬ失敗は起こりうる。そしてその時、我々はフレーバー警察となる。
  • プレインズウォーカーと伝説。プレインズウォーカー・カードと伝説のクリーチャー達は、そのキャラクターに合うようにデザインされる。彼らの能力とコストが確実にそのキャラクターに与えられる物語と合うように、デザイナーはクリエイティブ・チームと密接に連携する。プレインズウォーカー・カードのデザインが、我々が思い描く彼らの個性と合わない時は、断言しよう、我々はデザイナー達の間に踏み入って一緒に仕事をする。適したデザインを得るために。

 Isak、質問をありがとう。来週また会おう。


基本セット2012
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