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何故ミラディン人達は耐えるのか
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何故ミラディン人達は耐えるのか
Doug Beyer / Translated by Mayuko Wakatsuki
2011年2月23日
善玉について論じるというのは奇妙なものだ。
理由の一部は、ファイレクシアは明らかに素晴らしいってことだ。マジックにおける最上級の悪役の一つで、その比類なき冷酷さや屍と技術の融合した観念形態で多くの次元を脅かし、マジックの初期からストーリーラインの大黒柱を担っている。ファイレクシアの外観様式は、マジックの最も幻想的なアーティスト達によって何百枚ものカードと10年以上の時をかけて発展してきた。そしてその音素と哲学は、何千ページにも及ぶ小説と夥しい量のフレーバーテキストによって磨かれてきた。ファイレクシアには歴史とスタイル、そしてワルの魅力があり、それに反論することはマジックが持つアイデンティティーの多くに反論することに等しい。
《ファイレクシアの槽母》 イラストレーション:Stephan Martiniere |
だけどきまりが悪いことに、善玉を支持するのは同語反復のようなものだ。善玉は定義によって善玉だからだ。今週、何人かのファイレクシア贔屓達が他の記事で語っているかもしれないが、ファイレクシアは明らかにこの物語での悪役だ。いわゆる双方とも道徳的にグレーな、卓越した残虐さを持つ敵対関係にあり、どちらが本当に間違っているのか判断するのは困難だというものではない。そうではない。ファイレクシアは悪役の旗印を高らかに掲げて振っているのだ。ファイレクシアは半宗教的教義のもと、隷属と虐殺によって動いている、そしてそれが君にとって彼らの悪口を言うのに十分でないなら、ファイレクシアはまた見る者を不安にさせ怖れさせる。ファイレクシアは悪という存在の入り口に明滅するネオンサインであり、そのようにデザインされている。
だから、「やあ、私はこっち、善玉の味方につくよ!」と宣言することは、立場を良くすることには繋がらない。ファイレクシアでなくミラディンを選ぶことは、破傷風を克服したコナン・オブライエン(訳注:アメリカの有名なコメディアンにして司会者)を支持するようなものだ。それが明らかな時は、理由一覧を作るのは少々馬鹿げているように感じる。率直に言ってもっと面白いポジションは逆側で、殺人アンデッドロイド(アンデッド+アンドロイド)から文明をいかにして防衛するかということを考える仕事のある場所だ(ところでバンド名として使う権利はあるかな、これ)。
だから言おう、ミラディン人達の物語と挑戦には何か深遠なる高貴なもの、賞賛に値する純粋な、特別なものがあると。それが彼らを善玉に値する存在にしているのだと私そう考えている。ミラディン人達はワルより悪いファイレクシア人達とただ戦いを履行しているのではなく、戦う資格があるのだと私は考えている。今日、私は悪役であるファイレクシアの敗北の可能性を探るのではなく、比較して言えば予想外のミラディン人達が勝利に値するのかということを見ていこうと思う。
私には究極の理由がきちんとある、ミラディン人達が私にとって一番である理由が。それは彼らに皮膚があるからじゃない。だけど最初に言っておこう。ミラディン人とは何かということを理解するには、この次元の歴史をざっと復習する必要があると。
土着の難民達
ミラディン人達の故郷は人工的に作られた次元で、創造主カーンがかつてアージェンタムと名付けた金属の世界だ。アージェンタムは銀のゴーレムの夢見た世界だった。ほとんど均一の、数学的に完全な球体だ。だがそこにはほとんど生命は存在しなかった。ミラディン人のような住人はまだいなかった。
後に、管理人を任されたメムナークは少々デザイン狂と化し、カーンの次元を全面的に改装した。アージェンタムはミラディンとなった。切り替わった瞬間はいつなのかを言わせてもらえばメムナークがそう命名した時ではなく、彼が魂の檻を使用して他の次元から生物を運んできた時だろう。彼は世界にエルフ、ゴブリン、レオニン、ヴィダルケン、ロクソドン、人間、他様々な生物を居住させ、次元を大規模な、金属製の生物飼育施設に変えた。これこそが新しい世界。我々がミラディンとして知る世界の誕生だ。
だがそこにはまだミラディン人はいない。ミラディンに新たな住人はいたが、彼ら次元難民達はこの世界の一部ではなかった。この次元で存在していくにあたって身体組織に金属を混入させられながら、それでも彼らはかつて生きていた世界との先祖伝来の繋がりを失ってはいなかった。彼らは借りて来させられたのであって、この世界で生まれたのではない。そして魂の檻が再び作動した時、メムナークが打ち負かされた時、大消失が彼らを連れ去った。故郷である世界へと帰還し、属していた金属次元との繋がりは途切れた。
《刃砦の英雄》 イラストレーション:Austin Hsu |
だがミラディンから生命が消え去ったわけではなかった。若い世代の帰属意識は彼らが生きている金属世界にあったゆえに、彼らは留まった。彼らはミラディンの一部分であり、他に帰る故郷などない。メムナークの何気ない生命配置転換計画と過酷な人口統制にもかかわらず、事実彼らは真に生命満ちる世界を構築していた。その世界に属する正しき存在と真の生態系を持つ次元。他の世界からの難民達は、時と世代をかけて土着となった。彼らはミラディン人、人工世界生まれの居住者となった。
大消失は帰属意識への究極の試験だった。もし今日のミラディンに生きる種族でも、帰属意識を持たぬ者は世界から既に姿を消しているはずだった。今やミラディンには真のミラディン人がいる。彼らのルーツは無数の次元に散らばりながらも、この次元の土着民であり世話役となった。彼らにはその太陽の下に生き、繁栄する正当な権利がある。
だけど、私が彼らの味方につく理由はそれじゃない。
最も純粋な理由
ミラディン人達はうわべだけの終焉にあるのではない。彼らは何か独裁者の教義のためや、もしくは彼らの棺を黄金で埋めるため、もしくは油の価格を下げるために戦っているのではない。事実、油は本気で彼らが最も求めそうにないものだ。彼らは凝った主義主張を正当化するためや、愛する信条を誰か他人へと押し付けるために戦うのではない。彼らはただ自身の生のために戦う。
ミラディンの傷跡では、ファイレクシア人達は滴りのように姿を垣間見せていただけだったが、ミラディン包囲戦では殺意に溢れてやって来た。ファイレクシア人達は世界全体の脅威ではないなどという子供っぽい自己欺瞞の時は終わった。ミラディン人への脅威は致命的なまでに恐ろしいもので、今や彼らはそれを知っている。ミラディンに帰化した人々について言いたいだけなのかって? 無数の世界から空を超えて召還され、ミラディンに真の故郷として繁栄し確立したその比類なき文明? それが全て消え去るかもしれない。ミラディン人が築いてきた全ては、数週間のうちにばらばらにされ拭い去られてしまう。
それが、私がミラディン人側につく理由の一部だ。ミラディン人達は誇りのためにでも、戦利品に名前を刻むためにでも、下層階級に課せられた何か専横的な、一時的な法を正すためにでもない。彼らは全て究極の理由のために戦っている。
生き残るためだ。
だがそれよりも、私はファイレクシア人につかないであろう理由が一つだけある。
銀の裏付け
ミラディン人達には一つ奥の手がある。秘密のアドバンテージがある。全てを彼らの側に傾けてしまえるような。
アージェンタムの創造主はここにいるのだ。
元プレインズウォーカーのカーンは、ファイレクシアの核の中に飲み込まれている。かつて神にも近い存在であったミラディンの創造主。彼はトレイリアの時の裂け目を塞ぐためにプレインズウォーカーの灯を捧げ、その後彼自身の創造した次元に巻き込まれた。ファイレクシア人達はただちに次元の権利を主張し、陽光の届かない小部屋に彼を隠した。来る日も来る日も彼らはカーンの心にファイレクシアの法を、暗黒の閃きの中で彼こそが真の新たな機械の父祖であると囁きかけている。だがまだ希望はある。カーンはまだ完全に堕落させられたわけではない。もし彼が早いうちに回復するか自由になるならば、彼はミラディン人のために戦うだろう。忘れないでいてほしい、カーンはヨーグモスを滅ぼした爆心地にいたのだということを。彼はミラディン人の現在の世代に慣れていないかもしれないが、彼らは彼の創造した世界の一部であり彼の庇護を受けるに値する者達であると理解するだろう。そしてカーンは彼らのために戦うだろう。もしもカーンがただ解放されただけだとしたら、ミラディン人達の大いなる兵器となるかもしれない。
《堕落した良心》 イラストレーション:Jason Chan |
私に言わせてもらえば、ファイレクシア人と法務官達はミラディン人達をただ試すためにここにいる。彼らが意味するものは終焉だ。彼らはカーンを堕落させるための存在であり、ミラディン人達を、蘇ってきたファイレクシアを打ち負かすための存在にする触媒以外の何物でもない。ファイレクシア人達の真の物語はここにはない。彼らは英雄を立ち上がらせる只の引き立て役だ。ミラディン生まれの子供達が勇気を得て勝利するための、ただ打ち負かされるいじめっ子だ。
今週のお手紙
親愛なるダグ・ベイアーへ、
ご存じかとは思いますが、全ての物語には英雄と悪役が必要です。最近我々はボーラスの陰謀から引き続いてエルドラージ、ファイレクシアと対面しました。これは様々な悪役達を堅実に含んでいますが、私は英雄達について不思議に思っています。我々が最後にガラクを見た時、彼はゾンビに囲まれていました。同様に堕落させられたカーン、膿漿をかけられたエルズペス。ニッサはエルフ達に集中していて、コスやチャンドラといった赤のプレインズウォーカー達は本当に長いこと英雄の役割を担ってきていません。残っているのはアジャニ、ギデオン、ヴェンセール、おそらくジェイスも。それは(今のところ)、立ちはだかる軍勢を抑えることのできるような存在ではありません。
マジックプレイヤーの一般的統計は若い男性に偏っていて、彼らは多少悪いものを好む傾向があること、多くがコミックを好んで読むことを私は知っています。全ての悪を解決する真の英雄を出してくれれば問題ないのですが、ですが私にはその点が見えないのです。モリアーティにはホームズが、ヴェノムにはスパイダーマンが必要なのです(最後の対比はファイレクシア人によくフィットしますよね)。ゆえに私は心から不思議に思っているのですが、我々は真の英雄として設定された一人の、もしくはそれ以上のプレインズウォーカー達に会うことはできるのでしょうか。
敬具
George Z.
その類の質問に答えるには今がまさにちょうどいい時だ。英雄達にとって物事は悪化し、そして今週我々はウェブサイトでどちらの側につくかを選んでいる。George、私は答えよう。勝算はいつも悪役側にあるように見えるものだ。それはマジックに格別な特徴ではなくて、一般的なファンタジーや物語で普通に見られるものだ。ファンタジーの物語は圧倒的な優劣の差と盛り上がる緊張感、壮大な規模の戦争を扱う。君が叙事詩的スケールの物語を生成したいと思うなら、片方の勢力を他と比べてとてつもなく強大なものにすればいい。そして英雄を設定したなら、君は圧倒的勢力側に悪役を配置する。そうすれば緊張感はこれ以上ないほどに高まる。間違いなく英雄達はいつの世も勝利を収めるが、彼らはそれを本の最後の数ページや映画の最後の数分だけでどうにかやり遂げる。残りの時間は、彼ら勇猛な英雄達が壁を背にして物事が加速度的に絶望的になってゆくのを見ている。まさしく状況は絶望的だ。だけどそら、第二幕だ!
ウェブコミック「Scarred」Part 3より 作画:Steve Prescott |
君は正しい、だが正直に言うと、マジックの名簿中で雄々しい英雄のプレインズウォーカー達の欄はとても短い。ギデオンとアジャニは確実に善玉だが、エルズペスについてはまだ数に入れないでおこう。チャンドラは気が短く彼女の権威嫌いは長い間にわたるが、彼女の心は確固として正しい場所にあると私は考えている。同様にコスとヴェンセールは、いくつかの弱点はあるが善い男達だ。そしてジェイスは常にどちらの道をも行く可能性があるだろう。彼は自身のために大いなる力を集めるか、悪へと大きな一撃を食らわすか。あるいはその両方かもしれない。
英雄名簿は長くはなくて、望みのあるものではないかもしれない。だけどそれは、何故なら先述したように悪役には英雄達に対して故意に勝算が積み重ねられているからだ。悪役達は一見壮大であるゆえに、常にその作品は英雄達のために作られている。マジックは常にとても入り組んでいて、英雄達の戦いは内的と外的の両方に及び、そして勝利は決して簡単なものではない。そう私は考え、望んでいる。我々が作り出した強大な敵へと打撃を与えるのは、《ギデオン・ジュラ》のような疑いない英雄の領分でなければならい。だが善玉はまたより風変わりになものになったり微妙な方向を進むこともある。ヴェールの呪いを受けた自然主義者ガラクのように、もしくはエスパーからやって来たかつての求道者の利己的陰謀のように。
マジックは5つの色からなる。それは常に一人の探偵や一人のスーパーヒーローを中心とするものではない。そして物語の中で美徳の震央を発見するのは、移動する標的を殴るようなものだ。君が述べていたそれらゴリアテ型悪役は時折英雄よりも注目される。だが善玉達はその外で、石投げ紐に石を込めているんだ(訳注:ゴリアテは旧約聖書に登場する巨人兵士。ダビデが石投げ紐から放った石によって斃された)。
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