READING

読み物

翻訳記事その他

攻撃性の公共展示

読み物

翻訳記事

authorpic_dougbeyer.jpg

攻撃性の公共展示

Doug Beyer / Translated by Mayuko Wakatsuki

2011年2月9日


 ミラディン次元は戦争の只中にあり、いたるところで力強い鬨の声が戦士達の口から発せられている。ゴブリンはお気に入りの武器(的なもの)を選び、錆びた鉄の巣穴から叫びを上げてファイレクシアの軍勢へと突っ込んでゆく。巨人はゴブリンの身体ほどもある斧を振りかぶり、共に闘う戦士達からの鼓舞に力を吹き込まれ、うなり声とともにファイレクシアの総督を二つの汚れた欠片にする。調和者隊の聖騎士はこの戦争で命を落とした妹の名を戦場全体に響くほど高らかに叫び、奮起の呼び声とする。そのこだまは彼等の足元を流れる血へと意味を与える。

stf129_rally.jpg

 挑戦、友情、鼓舞。これらはミラディン人をファイレクシアの冷酷なウイルスと隔てているものであり、彼等はそれら全てを戦士達の喊声で表現している。今日は「喊声」というメカニズムを背景設定的側面から見てみよう。ミラディン人のそれぞれの種族と文化にそれぞれ特有の発声スタイルがあり、また彼等の伝統や性質、戦争に対しての心構えが現れている。

 喊声週間へようこそ!

赤の太陽の叫び:ゴブリン

 ミラディンのゴブリン達は文字通り特別な視覚を持つ。彼等は光スペクトルの赤外線領域を見ることができる。ゴブリン達にとって、赤の太陽は空を統べるものだ。ゆえに彼等は恭しく「空の暴君」と呼び、その恐ろしいほどの輝きを讃えている。彼等は空の暴君は世界を鋳造した巨大な槌であり、世界の表面に住む者達は只の火花でしかないと信じている。


ゴブリンの戦煽り》 アート:Chippy

 ゴブリンにとって、戦争に向かうことは呼吸をするくらい自然なことであり、呼吸をするのは叫ぶくらい自然なことだ。ゴブリンの鬨の声は他の種族には野蛮で支離滅裂に聞こえるかもしれないが、通常彼等は赤の大空洞を取り巻く大焼炉カルドーサ、そして赤の太陽への強い思いを表現している。彼等は「空の暴君がお前の内臓を金屑にしてくださるぞ!」や「おいら達の剣はカルドーサの炉火の熱い舌だぞ!」などと叫ぶ。ゴブリンの言葉ではこれらの感情はほんの数語の早口のおしゃべりで表現され、彼等は群れをなして錆びた鉄屑、何かの残骸の塊を振り回しながら我先にと突進する。

 時折、ゴブリンの兵器類は彼等の鬨の声の中で奇妙な旋律を「歌って」いるように響くことがある。シャーマンの中には、ゴブリン達が実践している再生のプロセス―死んだゴブリンから新たな金属製品を鋳造する、文字通りの金属リサイクル―が、過去のゴブリンの戦士の魂に今一度、怒りの声を上げる機会を与えているのだと信じている者もいる。

斃された者の名:オーリオック

 オーリオックの者達は伝統的に鬨の声に名前を使う。オーリオックは廃品回収者や兵士達による固い結束の共同社会を成しており、家族や慣習の結びつきでまとまっている。オーリオックが最も感情を害するのは突然の死だ。斃れた仲間の名が叫ばれたなら、熟達の騎士や戦場での指揮官への心からの忠誠が大いに呼び起こされる。


刃砦の英雄》 アート:Austin Hsu

 中央集権の政治体制の代わりに、オーリオックの者達は小さな共同体で自治制をしいており、それら全てが調和者隊によって守られている。調和者隊は移動する兵士や調停者の一団で、剃刀平原にて法を執行している。戦時には調和者隊は貴重な騎兵隊や精鋭部隊となり、彼等はオーリオックの伝統のもとに広大な戦場へと名前を叫び、戦いの中で仲間を鼓舞する。

 最近、調和者隊はオーリオックの歴史の中で嫌われている者達、悪徒の名をあえて叫び、ファイレクシアとの戦いに必須の憎しみを呼び起こそうとしている。ミラディン人達がいっそうファイレクシア人幹部の名前を知るにつれ、彼等ファイレクシア人の名もまた憎しみとともに戦場で叫ばれている。心を強く持ち覚悟を固めるために。

一息の手柄:オーガと巨人

 ミラディンのオーガ達はアーティファクトを粉砕するのが大好きだ。言語的には、彼等の戦鬨は渇望の唸り声以上のものではないが、その影響は只の音波以上のものとなる。オーガの発声は何種類かの金属に反響を起こさせ、微小サイズの割れ目を作り出してその構造を弱める。そして彼等の鋭い金属の牙がアーティファクトを粉々の破片にしてしまう。ミラディン軍の将軍達は誤爆を防ぐため、オーガ達とマイアやゴーレムやその他金属を多く含むミラディン人を引き離しておくことを学んだ。それでもファイレクシアの構築物に対するオーガの有用さは本当に素晴らしいものだ。


カルドーサの首謀者》 アート:Greg Staples

 ミラディンにおいて巨人は稀な存在だが、彼等はミノタウルスに似た大きな角で容易に判別でき、ミラディンの他のどの人型生物よりも大柄なその体格に見合った膨大な肺活量を誇っている。彼等の爆発的な発声は通常、彼等の縄張りに侵入した不運な旅行者を驚かせ、混乱させるために使用される。だが戦争が始まって以来、ミラディン人達は部隊を刺激し鼓舞するために巨人の声を利用している。特にゴブリン達は巨人の爆発的発声に扇動され興奮するらしく、方向磁場のように争いへと向かってゆく。

道を切り開く者の鳴き声:ロクソドン

 象人ロクソドンは戦車のように強靭で、機械のように疲れ知らずで、岩のように頑固だ。彼等は絶対的な自信に満ちていて、彼等の生において起こる出来事のほとんど全てを、彼等の勇気を証明する挑戦の機会であると積極的にとらえている。ファイレクシア戦争の暴虐は彼等のその信念を試したが、ロクソドン達はミラディン人の重要な仲間であり続けた。ロクソドンの鳴き声は他の次元に生息している知的生物ではない象のそれによく似ており、その声は広大な剃刀平原を響き渡って他のロクソドンへの合図や意思疎通に使用される。敵に遭遇したなら、ロクソドンの鳴き声の意味はしばしば直接的な、遠慮のない挑戦的な意味に通訳され、それは驚くほどに丁重な表現となる。「私は断固としてその強大な力には同意いたしかねます」「私は要求せねばなりません、貴方達全員今すぐにここを明け渡していただけるように」「今すぐ降伏して下さい。さもなくば私はあなた方を殺め、跡形もなく踏み潰させていただきます」


ロクソドンの非正規兵》 アート:Matt Stewart

心の炎の詠唱:ヴァルショク

 ヴァルショクの6つの鍛冶部族は職人の技術と鋳造魔法をそれぞれの専門分野に特化している。長きに渡って彼等は合金のように強い絆と、分業のシステムによって結ばれていた。大消失が鍛冶部族の間に混乱を振り撒き、相互の伝統的信頼関係を揺るがしたが、若き指導者コスの登場とファイレクシアとの戦争がヴァルショクの人々に再び共通性を思い出させた。


オキシド峠の英雄》 アート:Eric Deschamps

 ヴァルショクの人々の心は鉄のようにどっしりとしていて、カルドーサの奈落のように深い。ヴァルショクのシャーマンの儀式は大地を激動させるような熱情を呼び起こす。そして戦いの中ヴァルショクの戦士は怒りそのものの体現となる。ヴァルショクの人々の胸にはその強い感情の具現たる炎が脈動しており、時折彼等の体温は他の素材を溶融したり発火させたりする程に急上昇する。ヴァルショクの戦士達は心の炎を秘術の叫びや詠唱やルーンの歌とともに放ち、彼等の誇る職人仕事と大消失以前のヴァルショクの歴史ある戦績を呼び起こす。これらの詠唱は寓意が沁み込んでおり、特殊な用語法と鋳造の形象を使用してヴァルショク人の胸に燃える強い熱情を象徴している。

信号のノイズ:アーティファクト・クリーチャー達

 ミラディン軍の最も奇妙で多彩な分隊の一つはアーティファクト・クリーチャー達だ。ミラディン人は構築物やゴーレムやマイア、その他奇妙な人工物を募り、ファイレクシアの脅威を理解するのに皮膚は必要ないということを証明している。それら人工戦士の多くはわずかに知能を持つだけだが、彼等は本能のもとに、もしくは故郷である世界への義務やそれぞれの指揮官の命令に従って戦う。他のアーティファクト・クリーチャー達は多かれ少なかれ自発的に戦いへと加わり、彼等自身の言葉なき計算によって有用に動いている。興味深いことにミラディン人の非正規兵達は、彼等自身の動機で戦いに加わったそれら自動人形の価値をより高くみなす傾向にある。より知的なゴーレムやマイアの方が彼等の「心」を変えることができ、義務に縛られた構築物達はファイレクシアによってより簡単に「再プログラムされる」と考えられているにもかかわらず。


信号の邪魔者》 アート:Mark Zug

 アーティファクト・クリーチャー達が戦場で発する音声は多種多様だ。例として《信号の邪魔者》は、絡み森と剃刀平原の背の高い剃刀草地帯で見られる生きたアーティファクトだ。かつては役立たずと思われていたが、これら機械仕掛けの邪魔者達は今やミラディン人にとって極めて有用な存在と考えられている。彼等の鳴き声や羽音は、敵の所在や軍勢の移動について信頼のおける探知機となっている。昆虫に似た機械が発するノイズがミラディン軍の大規模攻撃の開始を合図することは、今やありふれたものとなった。

喊声の色

 メカニズム的な話をすると、ミラディン包囲戦においてファイレクシアは他の色への侵入を開始したにもかかわらず、白と赤は対ファイレクシアの最も堅固な反抗勢力として立ちはだかり続けている。すなわち、白と赤は我々が大胆で果敢なミラディン勢力のメカニズム「喊声」を発見した色だ。ファイレクシアが更に多くの感染クリーチャー、更に多くの増殖効果を得る中、そして新たな生体武器が最新セットで悪さをする中、ミラディン軍はファイレクシアの急所に蹴りを入れるという共通の目的に向かい、その心持ちを明らかにした。全くもって価値ある大義だ。

stf129_wR.jpg

 白と赤における喊声の立ち位置は、ファイレクシアへの挑戦という課題の糸口だ。ファイレクシアにおいては強さと強さ、もしくは野望と野望の調和に何の問題もない。敵よりも狡猾に、よりひねくれて、より残忍に。しかしながら問題はある、理解されてさえいる―反抗勢力の存在だ。ファイレクシアはその敵が独立性の伝統と強く誓った個人的信念とを組み合わせた時、そそのかし、揺さぶり、堕落させることのできる脆弱な心と体を見つけるのが困難になった。そのような果敢なクリーチャーとやり合う際のファイレクシアの最良の戦略は、単純に彼等を全て虐殺してしまうことだが、喊声メカニズムは彼等が共に立ち上がった時にどれほど強力な攻撃を仕掛けてくるかを示している。もしも白と赤に列するミラディンの文化が、ファイレクシアのねじれた幻想や完成にそそのかされずにいられたなら、そして彼等が戦場で倒れることがなければ、ミラディン人達は道を見つけられるかもしれない......

今週のお手紙

 今日はJustinから、ホモ・サピエンスの色的属性についての質問だ。

ダグ・ベイアー様へ

 私はこのごろずっと、マジックの様々なクリーチャー・タイプについて考えています。それぞれのクリーチャー・タイプは通常全体の中で単一の色に属していて、時折他の色にはみ出しています。例を挙げますと、マーフォークはほとんどが青に属していますし、ゴブリンはほとんどいつでも赤にフィットしています。

 ですが人間は、私が理解しているそのような色分けが無く、全ての色にだいたい公平に散らばっています。世間の目を考えてミラディンを例にとってみます。ミラディンにはそれぞれの色に別個の人間種族がいますが(シルヴォク、オーリオック等)、ヴィダルケンは青に、エルフは緑にしか属していません。

 これは故意にそう設定しているのでしょうか? あなた方は人間というものについて明文化しているのでしょうか? 我々、とても団結からは程遠い人間という種族への批判なのでしょうか、もしくは多様性を尊重している我々人間を評価しているのでしょうか?

 疑問に思っているんです!

Justin

CA

 質問をありがとう、Justin。人間種族は全ての色にあまねく登場しているというのは正しい(もしくは一つの色に存在しない場合は、全ての色に存在しない。ローウィン次元のように)。人間は非常に幅広い様々な価値、哲学、信条といったものを、他のどんな種族よりも取り入れることができる。よって、ある世界に人間が存在したならば、通常は5色のマナのどれにでも属することができる。彼等は霊的神秘について熟考することも、山の頂きから稲妻を放つこともできる。深い密林でトロールの足跡を追うことも、死霊術のために腐りかけの死体を発掘することもできる。人間はその柔軟性によって定義されると私は主張しよう。

 舞台裏の目線で説明すると、人間種族が広く行き渡っていることと多様性はゲームに良いものを与えてくれる。まず、マジックの全ての色に人間種族を置くことができる。それは非常に多種多様なプレイヤーに全ての色の見た目と雰囲気をアピールする助けになってくれる。我々の市場調査部門は、我々の顧客には非常に様々な人々がいることを示している。カードイラストに様々な人々を描くことは、プレイヤー達に一体感を抱かせ親しみを与える。我々の、すごく大雑把で常に規定されているわけではない不文律がある。人間という種族はいかなる色においても多数を占めるクリーチャーなので、人間というサブタイプはあまりに多岐に渡らせるべきではない。もし全5色にわたって追加する場合、彼等はおそらくそのセットにおける他のどんな種族よりも数的に上回る。

 二番目に、人間達は全ての色の比較において重要な役割を果たす。わかるだろう、どれだけゴブリンが長身で、頑健で、魔法に傾倒していたとしても、人間と比較して、例を挙げると、君はそれを同じような環境に住んでおり、同じような色的価値を持っている、赤に列する人間と並べて参照する。グリフィンや翼竜やレオニンが与えられたセッティングの中で果たす役割を、白に列する人間達が彼等に騎乗したり狩ったり同盟を組んだりするものと君は見る。我々は人間以外の種族をよりエキゾチックにすることができるし、一部 何故ならそれは 人間達のとても多くの実例がある 隣に並ぶ 君が類似点や相違点を見ることができる、そして我々はそういったことが好きだ。質問をありがとう!

次回予告:あのアーティストと一緒にミルクとクッキーをいただきます!

 来週、私はSavor the Flavorの記事を一時的に我が同僚、マジックのコンセプト・アートを率いるRichard Whittersにお願いしようと思う。Richardは連載記事「Taste the Magic」からこよなく愛された「Milk and Cookies」(リンク先は英語)コーナー、マジックのアーティストにアートについてのあらゆる事を定期的にインタビューする記事を持ってきてくれる予定だ。Richardの「ミルクとクッキー」の最初のゲストは、数ヶ月前ウィザーズ・オブ・ザ・コースト社に戻ってきた「ミルクとクッキー」創設者であるMatt Cavottaその人だ。

  • この記事をシェアする

RANKING

NEWEST

CATEGORY

BACK NUMBER

サイト内検索