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シーズン17

Doug Beyer / Translated by Mayuko Wakatsuki

2011年1月12日


 《稲妻》という名のカードは一つしかない。

 一枚のカードに一つの名前。それが規則だ。カード名は指紋のようなものだ―オラクルにおいて一枚のカードを他と区別するための最大の特徴だ。カードにシリアルナンバーはない(ああ、我々の多元宇宙とオラクルのデータベース、そしてGathererにおいてはそれぞれのカードに固有の番号が与えられている―しかしそれらの番号はルールにおいてカードを識別するためには使われていない)。《消去(ウルザズ・レガシーのじゃないやつ)》でさえ、括弧書きのおかげで厳密にはそれ固有の名前を持っている。


稲妻(アルファ版のじゃないやつ)

 つまり、全てのカード名が他と異なっているというのは極めて重要なことなんだ。

 はっきり言うが、マジックに終わりはない。君の手札に上限はない―私が言いたいのは、このゲームにおけるカード枚数の見込みに限りはないということだ。最近の計測では、現在一万一千種類以上のカード名が存在する。2011年の終わりには一万二千種類を超える。いずれは何十万種類に達し―何百万種類というそれぞれ別個のカード名が存在することになる。

 掴まれ。この部屋が......回ってる。机を......握れ......ちょっとだけだ。

 オーケー。いや、私は大丈夫だ。ありがとう。

 ただ一つのゲームに、何百何千もの固有の名前がついた要素。そもそもそんな事は可能なのか? 未だかつてそんなことを試みた人物はいるのか? 誰か止めなかったのか? わかっていると思うけれど念のために聞く。マジックというゲームが作られた時、それら別々のパーツに固有の名前をつけることが可能なんて考えられていたのだろうか?

 ああ、そうだとも―誰か私にあのメールを転送してくれないか? ぜひ見たいからだ。あのメールを知っているだろう。リチャード・ガーフィールドが決定的に示しているあのメールだ―17年以上前、1993年に―毎セット、毎年、そして延々と、むかつき(ところで《むかつき》はもうカード名になっているね)を感じるまでずっとカードを命名し続けると?

 そんなメールが本当にあったのかって? そんな顔をしたって、私を怖がらせるだけだ。私はびくびくしながらほくそ笑んでいる真似をしただけだ。

ネームとゲーム

 オーケー、深呼吸をしようダグ・ベイアー。吸って、吐いて。ああ、そんなメールは存在しないし、想像力の世界から湧き出し続けるクールなカード名が、永遠に輝き続けるゲームに会わせろと迫ってくるという保証もない。だけど誰かがこれについて示していたのは間違いない。多くのゲームに巨大な目録がある。それではゲーム製造業の残りの部分についてチェックしようか。

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 実際、全て固有の名前を持つ収集アイテムの膨大なリストを誇っているゲームはある。だけどそれはスケールの問題だ。そんな他のゲームのアイテム数は数百といったところだ。私は「ダース単位の」異なるモンスターや呪文の種類を高らかに誇っているゲームを見たことがある。一万一千種類とは全く違う。

 そんなゲームは私の抱える問題を解決してはくれない。少なくともマジックが要求するスケールでは。もし君のゲームが一つの対戦において20時間から40時間ほどプレイするようデザインされているのなら、君はクリーチャーやアイテムに対して20時間から40時間という時間だけを必要とすればいいし、そこに固有の名前を持つものは数百もあれば十分だろう(君がゲームの発送ごとにアーティスト達に全ての3Dモデルをレンダリングさせるなら、それ以上)。このように、起動時に全てのアイテムが既に組み込まれているようなゲームは我々の参考にならない。それらは映画のようなものだ―一度きりの娯楽だ。再びそのゲームをプレイするのは構わないが、新たな名前を君にもたらしてはくれない。それゆえに膨大な数の名前を必要とする私達を助けてはくれない。

 ゆえに我々は異なったモデルのゲームを探さなければならない。その内容が永遠に更新され続けるゲーム、映画よりもTVシリーズのようなゲームが必要だ。我々はいくつかの「シーズン」に渡って続いている娯楽作品を何年にもわたってチェックする必要がある。マジックのように。

命名システム

 いくつかのゲームには、膨大な数の固有アイテムをランダムで生成し、なおかつそれぞれに固有の名前を与えられるような内容や製作システムが存在する。それらの多くは固有の名前を生成する命名法則を使用している―言語の「原子」と組み合わせ法則のシステムで、それらの原子からありとあらゆるアイテムの名前を構築する。そうしてできた名前は長く、集合的な言い回し(例えば、「フロストスイフトロングソード+20ゴルゴンスレイヤー」)や音節の結合になる傾向がある。これはデザインという立場で見れば魅力的な方法だ―十分に融通のきく命名法則があれば、その命名システムはゲームが必要とする名前を永遠に生成し続けられるだろう。異なる多くの要素を膨大に含むゲームであっても、それぞれに個別の名前を与えられる保証はあるだろう。

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そのような命名システムの作り方:

  1. ゲーム内に存在しうるありとあらゆる名前の個別単位を作る(私はそのゲームのアイテムは複数の「性質」を持っており、それらアイテムの特質をプレイヤーにわかりやすく示していると仮定する。例えば、ある武器が持つ性質は氷のダメージを与える能力で、その性質を「フロスト」と命名する)。
  2. それら名前の個別単位を組み合わせる法則を作る(要するに文法だ。例えば、全ての武器の修飾語を分類する。例えば「フロスト」といった単語は武器タイプの前に、アルファベット順に並べる。もしかしたら「《クリーチャータイプ》スレイヤー」は特別なケースだ―後に付けられる。何故ならその方が格好良く響くから)。
  3. そういった性質の全ての妥当な組み合わせによって、固有のアイテム名を作れているか確認する(もし良い命名システムを作れたなら、同じ性質を持つ二つのアイテムは同じ名前で終わるはずだ。全てのケースにおいて確認することだ―同じ性質を持つロングソードが二本、何故か違うアイテムとして存在することを望みはしないし、またそんな命名システムは全て失敗作だということになる)。

 もしそれが完成したなら、全ての存在しうるアイテム(もしくはクリーチャーや、そのように命名された何か)は自身を説明する固有の名前を持つことになるはずだ。

 問題は解決したかな?

 問題が解決していない感じにむずむずするのは何でだろう?

命名術

 問題はつまり、システム上で生成された名前は手仕事による命名には敵わないってことだ。「フロストスイフトロングソード+20ゴルゴンスレイヤー」を商人から買うとき、私はファンタジー世界がその暗黙の了解をはぎ取られて、ばつが悪そうに世界の下に基礎をなす物理学が露出してしまったような居心地の悪さを感じてしまう。まるで大叔母のブラ紐が服から見えていて、我々全員が礼儀正しく咳払いをして気付かないふりをするのに似ている。「いやあ、こいつはクールだぜ―皆見ろよこのフロストスイフトロングソード+20ゴルゴンスレイヤーを。すげえだろ。イヤッホォォォウ! そんな目で見るなよそこのお前!」

 まあそれはそれでいいのかもしれない。不器用な連なりは唯一無二の名前というものの対価。私はどんなものでも物事の規則を知るのが好きだ。そしてマジックには確かに少しそんな......えっと、アルゴリズム的な名前の共有が存在する。《レッサー・ガルガドン》と《大いなるガルガドン》、《変身》と《集団変身》。ラヴニカのギルドメイジと印鑑の10種類のサイクル。

 だけどそれは組み合わせシステムによる命名じゃない。マジックのカード名は、カードの全ての部分を明細に記すレシピから作られるなんてわけはない。ヴォーソス的な愛と配慮による手仕事で、呪文のフレーバー、舞台の雰囲気、そしてそのカードが何であるかを簡単に示し使用するための現実的な必要性が溶け合って作られる。名前殺し(リンク先は英語)のうんざりする繰り返しと印刷されて日の目を見ることを妨害するその他様々な規則を生き延びて、そして何千もの他のカード名との衝突を避けてきた。マジックのカード名には手間がかかっていて、だけどゲームにもたらしてくれる全ての効果と価値はその労力に見合うものだ。

 続けられるだろうか?

道具箱の道具

 もし新しいカードを現在のペースで発売していって、私が百歳まで生きたとしたら、マジックにはおおよそ六万種類の個別のカードが存在ことになるだろう。言っても安全だろうが、私が息を引き取る瞬間、最期までマジックのカード名が重複することを個人的に心配しているかもしれない。だから悪魔の声を黙らせるために、私はあと五万種類くらいのカード名を作り出せるって信じていられる必要があるんだ。何としても。

 希望はある。真実は我々の側にある。道具箱には道具が入っている。

 マジックには修飾語の伝統がある。リチャード・ガーフィールドはカード名の持続についての文書のようなものを記してはいなかったかもしれないが、彼と初期のクリエイター達はカード名の生成について基礎研究をしてくれていた。マジックの初期から多くのクリーチャーと呪文はその名前に修飾語を含んだパターンに従っていて、それら修飾語は多くの新たな名前に余地を残しておくだけでなく、フレーバーを確立してくれた。アルファ版で作られた一体の天使は、例えば、単純に「天使」とだけ命名することもできたが、そうではなく―《セラの天使》と命名された。その時命名されたのはただの一体の天使だったが、《セラの天使》はその後作られた多くの天使の中で、予言的に目立つ存在となった。そしてまた「セラ」という単語は、マジックの物語の中でとても大きな存在へと成長することになる。《スケイズ・ゾンビ》や《スクリブ・スプライト》といった地味なクリーチャーでさえ、その後の無数の名前のために修飾語の余地を残してある。カード命名のこのパターンをただ踏襲するだけで、我々は今後のカードに対して名前欄を開けておくことができる。

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 ファンタジー世界は広大だ。ファンタジーというジャンルは名前の使用において我々に潜在的な単語とコンセプトの深い井戸へのアクセスを与えてくれる。我々は時間を探求し―イメージや表現を求めて失われた民間伝承や古代の言語を探し出す。ファンタジー世界を口実に我々は現実世界の生物を様々気まぐれに組み合わせて魔法のビーストを作り、それに合った全く新たな名前を与える。そしてマジックはしばしば伝統的な西ヨーロッパをモチーフにしたファンタジー世界を飛び出してゆく;我々はアフリカ、日本、スカンジナビア、ルーマニア、中東、ネイティブアメリカンの文化を発想の源として選んできた。もし君がある舞台の発想元となった文化に潜り込んだなら、貴重な専門用語の数々を見つけ出すだろう。

 英語はもっと広大だ。oxforddictionaries.comには、「全20巻におよぶオックスフォード英語辞典第二版は現在使用されている171,476語全てと、既に使用されていない47,156語を収録しており、(中略)このことは少なくとも、語形変化を除いても25万語もの異なる単語が英語には存在しているということを示している。そして専門用語と方言はOEDではカバーしていない」とある。これは巨大な遊び場だ。今、その多くは我々にとってカード名やカード名の一部として使用するには向いていない(私は「冷蔵庫/refrigerator」という単語を使用できるようにはしたくないし、「smoothly/なめらかな、言葉巧みな」みたいな単語をどう扱うか途方に暮れる)。だが仕事のための単語基盤は巨大だ。私はこれら四万七千個の何か奇妙な時代遅れの言葉の大ファンで、それらの多くがマジックのカード名欄に新たな生を見つけることができる。歌のタイトルや本のタイトル、バンド名の奇妙な世界を見て―普通の辞書を使うだけでも、何千年という歴史の中でさえ新しい名前を作り出している。

 そして無限の次元世界こそが、最も広大なものだ。究極的には、多元宇宙そのものが我々の命名力の最大の源だ。新たな世界へと旅する時、我々はいつも新たな地、新たな種族、新たな文化、そして新たな世界の歴史を切り開く。ミラディンへの旅では、オーリオックのあれやグリッサのこれに触れた。ドミナリアに停車してラノワールやベナリア、ケルドといった単語に出会った。無限の次元世界には無限の固有名詞が満ちている。

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 だから食らいやがれ、悪魔め。

味わいのシーズン

 そう、《稲妻》は既に使われた。一万一千種類の他のカード名―はもう使われた。そして我々はTVの長寿番組により近いゲームをしている;今はシーズン17ってところだ。我々は今の時点で、ただ一語の他動詞だけで作られたカード名の備蓄については気をつける必要があるかもしれない。ほら。

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 だけど埋めるべき余白はまだ膨大にある。実際のところ我々はやっと表面を削っただけなんだ。デザイナー達は新たなカードを作り続け、その時には新たな名前もまた登場するからね。

今週のお手紙

 今週は短いのを2通。公式記事Savor the Flavorから浮かび上がった飛行船だ。

親愛なるダグ・ベイアーへ、

 「メールが繋ぐもの」を読ませて頂きました。

 象徴的な呪文(例えば《審判の日》)にフレーバーテキストを記さないという貴方の意見に同意します。それで私は考えたのですが、フォントサイズ72の文字を使ってテキストボックスを埋めるというのはどうでしょうか(・0・)

--Scott

 なるほど! それじゃあこれを君に捧げるよ、Scott。

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 Dzulaiは象徴的クリーチャーについて鋭い質問を送ってきてくれた。

親愛なるダグ・ベイアーへ、

 マジックが始まった時から天使は白の、ドラゴンは赤の、そしてデーモンは黒の象徴的クリーチャーでした。吸血鬼もまた、部族タイプに降格するまでは黒の象徴的クリーチャーでした。

 最近ではスフィンクスが青にいます。とはいえ、以前は多相の戦士がローウィン以前の青の象徴的クリーチャーだったと思っています。

 ですが緑には、私が観察したところ、その色の象徴的として前面に出ているクリーチャータイプが存在しないように思えます。緑に列するクリーチャーの中では、私が考えるに最も象徴的なクリーチャーの候補はワームではないでしょうか。ですが問題は、彼等は全てのレアリティに渡ってなれなれしく存在しているということです。

 従って、私はワームを緑の象徴的クリーチャータイプに据え、そしてレアと神話レアに限るべきであると提案します。つまらない意見ですが。(・▽・)

 それでは。

フィリピン・セブより

dzulai

 我々はこの緑に対する厳密な問題について内部で話し合いを続けてきた。そして本当にワーム(とワームの低いレアリティから引き起こされる制限)をその可能性のある回答として奨励することを討論してきた。しばらくの間我々はハイドラを緑の「レアの象徴」としてきたが、ハイドラにはメカニズム的制限があるので我々が望むような融通がきかない(多くのハイドラはマナコストにXを含み、変化可能なサイズの表現として+1/+1カウンターを使用する。これは味があるが、全てのセットで使用できる便利なものではない。対照的に、天使/スフィンクス/デーモン/ドラゴンは全て飛行しているが、その他の点においては様々な範囲にわたる能力を持っており、容易に舞台やメカニズムに組み入れることができる)。

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 ワームは有力な候補者だし、私は個人的にワームが大好きだ(ふふふ)。しかし、マジックのコモンとアンコモンのワームには、高レアリティのカードだけに与えられるような、「売り」となる強いパターンを与えるべきなのかもしれない。恐らくそれが一番良いプランなのかもしれないが、私にはわからない。代わりとなる他のクリーチャータイプがあるかもしれないが、完璧な解決策はない。私はベイロスが好きだが、彼等は今のところビーストであって、そのタイプには広い範囲にわたる多くの風変わりなクリーチャーが含まれているおかげでベイロス特有の格好良さが鈍ってしまっている。全く新しいクリーチャータイプ、例えばビヒモスや巨人といったものがそうなるかもしれないが、既に他のカード上にて用語として使われていて(そして全て緑色というわけでもない)ワームや他のタイプほどの歴史的な重みを持っていない。この問題は考慮し続けるに値する未解決問題としよう。親愛なる読者の皆、どう考えるかい?

 次回予告;ミラディン包囲戦プレビューが始まり、私はインターネットをぶらつくよ。

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